2011年2月15日 10時40分 更新:2月15日 12時40分
【シビンエルコム(エジプト北部)鵜塚健】ムバラク前大統領への非難がエジプト全土を覆う中、同氏の出身地では評価が真っ二つに割れている。独裁政権下での民衆抑圧や巨額の私財蓄積ばかりが注目されるが、地元には30年間にわたりイスラエルとの紛争を防いだ「功績」を評価すべきだとの声も強い。
首都カイロから北へ70キロ、ナイル・デルタの都市シビンエルコム(人口約50万人)。ジャガイモ畑が広がる農村だ。ムバラク氏が高校生まで育ったというカフルモセルハ地区を訪ねると、支持の声が相次いだ。人柄は素晴らしく、幼少のころからイスラム教の聖典コーランを完璧に記憶していたという「伝説」も残る。
「30年間も米国やイスラエルから守ってくれた功績は大きい」。ムバラク氏の親類に当たる衣料品店経営、ガミル・ムバラクさん(53)は、第4次中東戦争(73年)以来の「平和」に果たした前大統領の役割を強調する。自動車修理工のエザト・カワルさん(44)も「外国の“犬”が入るのを防いでくれた。彼は素晴らしい父親だ」と絶賛。カイロでの反大統領デモは「イラン人やシリア人などがたきつけたものだ」と話した。
別の親類のアフマド・ムバラクさん(23)は「周囲の役人が無能だっただけで、前大統領に責任はない。デモの規模が100万人だったとしても、8000万人以上の全人口からみれば一部だ」と語った。取材中、「お前たちが悪い情報ばかり流すから前大統領は追放されたんだ」と息巻く男性も現れた。外国メディアへの不信が強く、前日に訪れた米CNNテレビの記者は住民に殴られたという。
一方、同地区にも、もちろんムバラク前政権への不満はある。薬局店主のムハマド・ファイクさん(67)は「失業の増加やわいろの横行は目に余る。そんな社会にした責任は前大統領にある」と指摘。「今は大学を卒業しても月給100エジプトポンド(1600円)で働かざるをえない若者がいる。以前はこんな社会ではなかった」と憤る。青果店主のヘーリト・サードさん(48)も「税金は上がる一方だ。ムバラクは最後の10年間、国民から気持ちが離れてしまった」と嘆いた。
ムバラク支持派、反対派の双方に一致するのは今後の行方への不安だ。カイロでデモに参加した若者らは一様に期待感にあふれていたが、ここでは「ムバラク氏に変わる指導者はいない。今後は混乱期が続くのでは」との声が目立った。