2011年2月13日 1時3分 更新:2月13日 9時32分
【カイロ伊藤智永】ムバラク前大統領の約30年に及ぶ独裁体制が崩壊したエジプトで、全権限を移譲された軍の最高評議会(議長・タンタウィ国防相)は12日、国営テレビを通じ、選挙による新政府樹立までシャフィク首相の現内閣が暫定内閣として国政に当たるとする声明を発表した。ムバラク前大統領が先月31日に発足させたシャフィク内閣は総辞職させられるとの見方もあったが、政府の基本的な枠組みを維持することで、観光や経済に打撃を与えた社会混乱からの回復を急ぐ姿勢を示したものだ。
声明はまた、隣国イスラエルとの平和条約(79年)を含む「すべての国際的な条約を順守する」とした。米国やイスラエルでは、中東和平で重要な仲介役を担ってきたエジプトが政権崩壊で平和条約を維持するのか懸念が高まっていた。声明は外交的な基本姿勢に変化はないとのメッセージを送ることで、国際社会の不安に応えた形だ。
声明は▽新政権の発足まで現内閣を維持する▽過去に締結した地域的、国際的な条約を順守する▽軍は選挙で選ばれた新政権への平和的な権力移譲を望む▽軍はこれまでの発表事項は守る▽国民に警察との協力を呼び掛ける▽国民及び企業に業務再開と経済再建への貢献を呼びかける--の6項目。
今後、選挙による新政権発足までシャフィク内閣が実務を行う。軍最高評議会は、これまでの声明で、全権掌握は暫定的な措置としており後見役に徹するとの姿勢を示したと言える。新政府樹立までの具体的な道筋などは依然として不透明だ。
AP通信によると、軍最高評議会は、前・現政権関係者の無許可での海外渡航を禁止する措置をとった。汚職などの責任追及に備えた措置とみられる。
国軍は12日、首都カイロ中心部で反政府デモが続いたタハリール広場で、バリケードの撤去を開始。国営放送によると、午後8時~午前6時だった夜間外出禁止令が午前0~6時に短縮されるなど正常化に向けた動きも始まった。事実上の最大野党である穏健派イスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」の報道官は、AFP通信に対し、軍による権限掌握を歓迎した。
ただ、ロイター通信によると、反政府デモを呼びかけた中心グループは、非常事態令の停止▽現政権の閣僚の総辞職▽文民も参加した暫定的な大統領評議会の設置--などを求め、要求が受け入れられるまでタハリール広場にとどまると主張しており、すぐに秩序回復につながるかは不透明な側面もある。
国防や安全保障問題で最も重要な事項をまとめる会で、最高司令官役で議長の大統領をはじめ、国防相、参謀総長、各軍の司令官らで構成。ムバラク氏が大統領を辞任したことで、タンタウィ国防相がトップの議長となった。大統領の全権を移譲された会は今後、非常事態令の解除を含む諸策を協議するものとみられる。