2011年2月12日 1時17分 更新:2月12日 11時40分
【カイロ伊藤智永】エジプトのスレイマン副大統領は11日夜(日本時間12日未明)、国営テレビで声明を発表し、ムバラク大統領(82)が大統領職を辞任し、全権限を軍に移譲したと明らかにした。これに先立ち、ムバラク氏は同日午後、家族とともに首都カイロの大統領宮殿を離れ、同国東部の保養地シャルムエルシェイクに移った。ムバラク氏は10日深夜に国営テレビで演説し、即時辞任を拒否する考えを示していたが、これに反発して激化した反政府デモの圧力に抗しきれず、30年に及んだ長期強権体制は崩壊した。
チュニジアの市民蜂起に触発されて、1月25日にエジプトで反政府デモが始まってから18日目。中東での民主化を求める波が、「盟主」エジプトにも政権崩壊を引き起こした影響は大きく、他の長期独裁の国々に波及する可能性がある。
ムバラク氏は10日夜の国営テレビでの演説で、反政府デモが求める即時退陣を拒否し、9月の次期大統領選で平和的な権力移行を実現するまで大統領職にとどまると表明。この時点では、スレイマン副大統領に権限を移譲するとしていた。
しかし、任期は全うしたいと粘るムバラク氏に、反政府派市民は怒りを増幅。11日の金曜礼拝後のデモでは即時退陣要求が激しさを増し、AFP通信によると、全土で100万人以上が参加。オバマ米大統領も声明で、即時辞任拒否に不満を表明するなど、国内外から追い詰められた。
ムバラク氏辞任の発表を受けて、カイロなど各都市には「勝利」を祝う市民が数十万人も繰り出し、花火を打ち上げたり、革命歌を合唱するなど、深夜まで喜びを爆発させた。近郊から、着飾った家族連れの車が、都市中心部の広場を目指す光景も見られた。
ムバラク氏から全権を移譲された軍最高評議会(議長・タンタウィ国防相)は11日夜、「国民が求める政府に取って代わるつもりはない」との声明を発表し、軍の統治が暫定的なものであることを強調した。辞任前の11日午前に発表した声明では「自由で公正な大統領選挙を実施するために必要な法律改正」や、「現在の状態が終わること」を条件に30年前に発令されたままの非常事態令の解除を約束しており、民政移管へ向けた作業を加速する見通しだ。
一方、スイス外務省報道官は同日、ムバラク氏の所有とみられる資産を今後3年間にわたって凍結することを明らかにした。