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[26917] 【習作】魔術師と黒鷹(仮題)【オリジナル・ファンタジー・近未来?】
Name: 茶畑◆df009643 ID:50641163
Date: 2011/04/02 21:16
タイトルにありますように習作です。
批評など頂けると、ありがたいです。


・四月二日、000魔術師をup



[26917] 000 魔術師
Name: 茶畑◆df009643 ID:50641163
Date: 2011/04/02 20:17
「くそッ! 化け物め!」

 盗賊団の頭領である男は叩きつけるようにそう言うと、傷だらけの身体で、地下にある部屋からほうほうの体で逃げ出す。
 青年――ディノ・カーチスは眉一つ変えず、機械的に男を追う。切れ長の目が逃げ出した男の姿を捉える。
 魔力が薄い地下で自分に勝てないのなら、地上に逃げてもそれは変わらない。むしろ地上の方がディノにとってはやりやすい。
 伏兵や援軍の可能性もほとんど無く、もう終わったようなものだった。だが、こんなときにこそ予想外の出来事が起こりやすいことを、ディノは経験上知っている。だから、最後まで気を抜かない。
 黒いローブをはためかせながら、青年はぼそぼそと誰にも聞き取れない声量で呟く。魔術師にしか見えない術式が構築されていく。複雑な紋様、そして最後にそれを正円で囲むと、それは男に向かって飛んでいく。

「ぐあっ」

 短い悲鳴。男の身体が急に硬直し、ゆっくりと倒れる。金縛りの魔術に掛けられた男は、言葉を発することすら許されずに地に伏している。
 ディノは鞄から縄を取り出し、慣れた手つきで男を縛っていく。金縛りというと全身が凝固するのだと勘違いされることがあるが、脳からの命令をシャットアウトするだけなので、対象がガチガチになることは無い。
 青年は縄で縛られた男を引きずりながら、じめじめとした地下道を通る。こんな薄気味悪いところで暮らしたくないなという考えが薄ぼんやりと頭を過ぎる。
 隊商を襲う盗賊の討伐。本来ならもっと仕事が無い奴らにやらせるべきなのだろうが、どういうわけか自分に白羽の矢がたったのだ。これは完全に根拠の無い推測だが、お偉方は次の襲撃日をある程度予測しているのではないだろうか。それなら自分に依頼が来たのも頷けなくは無い。
 術が解けて思いつくままに罵詈雑言を並び立てる男をずるずると引きずっていくと、段々と風が新鮮なものになっていき、視界も開けてきた。地下道の入り口――教会の講壇を退けた所にある――の辺りで待っていた動きやすい服装に鉄製の胸当てをした二人の男に、捕らえた男を渡す。

「や、相変わらずいい仕事してるね」
「なんだ、もう来てたのか」

 知っていればわざわざ追いかけなかったのに、とディノはぼやいた。鉄製の胸当てをした男の片方が、人のいい笑みを浮かべる。

「まあまあ、いいじゃないか」
「魔力と体力の無駄遣いは嫌いなもので」

 ディノはむき出しになっている地面に杖で絵を描きながら言った。デフォルメされた猫を描いているようだが、絵心が全く無いのか全然似ていない。

「何だこれ……ネズミか?」
「…………猫」
「そりゃ失礼」

 浅黒い肌に茶髪の男が、からからと笑いながら謝罪する。ディノも何度も言われたことなので怒る気も無い。というか、元々怒らないのだが。
 転がっていた石ころを、杖で弾き飛ばす。勢い良く飛んだそれは、捕らわれている男の頭に当たり、軽い音をたてた。男は不平を言うが、ディノは全く意に介さずそっぽを向いた。

「こいつの移送、任せていい?」ディノは縛られている男の顔を見ずに言った。
「はい、お任せください」

 ディノの問いに答えたのは、胸当てをした男達の片方、ややくすんだ金髪が特徴の男だった。相方であろう男とは違い、生真面目さを覚えさせる。

「俺はもう一度潜るから、後の手続きも任せた」
「……何か、あるんですね」生真面目そうな男が言った。

 ディノは小さく頷き、隠し部屋がある可能性を示唆する。二人ともそれに興味を示したが、それを無視し翻って地下道に戻っていく。
 二十人程度の盗賊団。彼らを蹂躙し、凄惨な状況を作った男は、それを気にするふうも無くゆっくりと歩いている。
 複雑に入り組んだ地下道を、迷うことなく歩いていくと、一つだけ木で作られた扉を見つける。頭領の部屋だった場所だ。扉は開けっ放しで、湿り気を帯びた風が吹くたびにきいきいと甲高い音を上げる。ディノは部屋に入ると扉を閉めた。
 頭領の部屋は一人部屋とは思えないほどに広かった。戦闘の傷跡を残す部屋をひとしきり眺め、食器棚を見つける。食器の大半は木製だが銀製のものも混じっている。隊商から強奪したものだろう。持ち帰って売りさばけば金になるだろうが、そこまで金には困っていないのでやらない。

「……せいっ!」

 力の限り食器棚を押す。思った以上に重い。ここのところ研究に没頭して基礎体力を磨くことを忘れていたからだろうか、以前より少しだけ力が落ちている。だが、ゆっくりと、しかし確実に棚は動き、そしてそれは現れた。
 金属製の扉。鉄扉のようにも見えるが、実際はそれ以上に堅い。扉を見ると、入力画面がある。それを起動させると、前時代の文字で『暗号を入力してください』と表示される。
 しばらく考えて、色々な単語を入力するが、すべて突っぱねられる。前時代の軍事・兵器・隠語など様々な思惟が過ぎり、それを入力していくが、それも駄目だった。

「黒鷹――」

 急に脳裏を掠めた言葉を打ち込む。今朝方読んだ記録媒体に黒鷹について書かれてあったので、何となく打ち込んでみたのだ。
 結果、扉は開いた。スライドして、真っ先に見えたのは台座のようなものだ。少しだけ警戒をして中に入る。
 空気がじめじめとしたものから、清冽なものに変わる。扉も、空調も生きている。電気が生きている。
 台座のようなものからは何本も太い管が延びていて、生物の血管を思わせる。それはディノに生物の中に入り込んだような錯覚を与えた。
 警備兵が居ないか警戒を払いつつ、進む。機能が生きている場所では、機械で作られた兵士がいることがある。戦うことになれば、確実にこちらが不利になるため、それが居ないことを祈りながら探索していた。
 台座までたどり着くと、それがカプセルの形を成していることが分かった。透明なガラスのような、しかしそれよりも堅固な物質で作られたものを見る。
 中に入っていたのは真紅の髪が特徴的な少女だった。年の頃は16、7だろうか。赤いツナギのようなボディラインが出る服を着ていたが、若干切れている場所もある。胸元には鷹が黒く刺繍されている。当たりだ、とディノは瞬間的に思った。
 身体の時を止めて生きながらえる装置、というのは資料で読んだことがある。カプセルの中に入っている少女は、それだ。
 ディノは興奮のあまりに警戒を解いてしまう。そして、後悔することになる。

「あが」

 自分の身体に穴が開いた。そのまま地面に倒れそうになるが、それをディノはよしとせず、台座に手を着き、そして半回転する。

「集え! 集え! 分解しろ! 構築しろ!」

 ディノは焦りを浮かべながら叫んだ。集積された魔力は身体に入り込んだ異物を分解し、そして肉体を健全な状態へと構築する。その間に対象に当たれば爆発するスローイングダガーを投げたが、全く効果は無く、爆煙で少し視界が悪くなった程度だ。
 致命傷ではあったが即死ではないため出来る荒業だ。死にたくないという思いが、一瞬でそうさせたわけだが、考える時間があったらこのような手はとらなかっただろう。戦闘が継続できる程度の魔力を必ず残していたはずだ。
 物陰に隠れ、相手を窺う。ディノの二倍はあろうかという上背に、機械の身体、そして内蔵された銃器。一般的な機械兵士だ。そもそも機械兵士は一般的ではない、という話はこの際置いておく。
 カプセルにも弾は当たったが、傷一つ無い。未知の材質が少しだけうらやましくなった。
 スローイングナイフを懐から取り出し、様子を見る。魔力が身体に無い状態では力も上手く出ない。状況は、かなり悪い。
 いくら大人数の盗賊を蹂躙できるからといって、危機が無い訳ではない。危機はというものはいつも隣で鎌首もたげているものなのだ。自分達がそれを忘れているだけで。
 立ち上がろうとして、しかし身体が上手く動かずに、カプセルに背中をぶつける。
 これは不味いかもしれない。そう思って、しかし次の瞬間驚愕することになる。
 カプセルが内部の空気を一気に排出して、カプセルが開く。中に居た少女がすっくと立ち上がると、肩甲骨辺りまで伸ばしている髪が、炎のように揺らめいた。
 息を呑んだのは、少女の美しさのためか、気迫のためかは分からない。
 少女は自然体のまま機械兵士に向き合う。悠然と振舞うその態度は、王者を思わせた。
 機械兵士は彼女に標準を合わせる。ディノに焦りの色が見える。
 隠れろ、と叫ぼうとしたときだった時に銃弾は放たれた。銃口から射出される弾丸を、少女は紙一重で避け、ディノの意識の間隙を縫って機械兵士との間合いを一気に詰め始めた。少女を追って放たれる弾丸は彼女にかすりもしない。機械兵士の懐に飛び込むと、しゃがみこんで力を溜めるような動作をする。

「――シッ!」

 鋭い声と共に、右手を振り上げ、少女は跳んだ。少女の速さに兵士はついてこれず、無防備な状態で彼女の一撃をもらうことになる。右腕は兵士の頭脳部分を根こそぎ持っていった。
 機械兵士の弱点は命令を発信する頭脳部分だ。そこを狙うのはセオリー通りだが、方法が尋常じゃない。銃撃をかいくぐって狙うなんて、並の人間では出来ない。
 ディノは警戒を解かずに、台座の隣から少女を見る。華奢な体つきで、機械兵士を圧倒するほどの筋力は持ち合わせていないように見える。
 少女は視線に気付いたのか、振り返って困ったようにこちらを見ると、

「ここって、どこ?」

 と、場違いな言葉を放ったのだ。









                     ◆












「アデルミラ・エスネロス」

 少女――アデルミラの名前に引っかかりを覚えたので、ディノは家に帰って調べ物をしていた。
 石造りの共同住宅の角部屋にディノの部屋はある。家賃は他の部屋より高かったが、そこまで気にするほどではなかった。
 アデルミラに紅茶を出し、自分は情報端末を漁る。あの部屋の暗号が黒鷹なので、自然と読むものは限られている。
 アウザラット部隊――別称黒鷹部隊。尋常ならざる力を以って反抗勢力に粛清をもたらす。まだ、魔力が地上には無かった時代なので、その力というのは体術のことだろう。

「何これ、美味しい!」

 機械兵士を軽々と屠り、そして今は紅茶に目を輝かせている彼女は、十中八九アウザラット部隊に属していたのだろう。ボディラインが出るツナギのようなものは戦時、アウザラット隊にしか配給されないものだからだ。ちなみに今は、彼女にはその上からローブを着てもらっている。
 ディノは軽くため息を吐くと、アデルミラを一瞥する。

「そんなに、美味いか?」
「配給される経口補給液より何万倍も美味しいです!」
「逆にそっちを飲んでみたくなるな……」

 何気なく言うと、アデルミラはぶんぶんと首を横に振り否定する。彼女は身振り手振りで経口補給液について、慄きながら語り始める。

「ぬるくて、変にしょっぱくて、すこしデロデロとした何かが入っていて、味付けが甘かったり辛かったり……。これで饐えた匂いなんかしていたら死んでも飲みませんでしたよ」
「そこまで言うと俄然興味がでてくるな」
「いや、やめた方がいいですよ。興味本位で飲んだ人って全員撃沈してますから」

 それでも気になるものは気になったが、その経口補給液というのも前時代のものだ。もう手に入らないだろう。
 後ろ髪を引かれながらも、ディノは情報端末を目ざとくチェックしていくが、有力なものは見つからない。

「で、本当に何も覚えていないのか?」
「何も覚えていませんね。戦闘服を着ているので何か起こっていたとは思うんですけど」

 アデルミラは形の良い眉を顰め、思案顔になる。

「そもそも、ここが500年後の未来だってことが未だに信じられないんですよね」


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