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[26447] <習作>Fate×IS
Name: ドレイク◆f359215f ID:7d75b67c
Date: 2011/04/02 23:21
かなり好評をいただきましたので、書き続けることにしました。これからもご指摘・ご感想を頂ければ嬉しいです。

 このSSには以下の要素があります。クロスオーバー・TS、これらが苦手な方はバックしてください。

3/30第九話を大幅加筆・修正 



[26447] 第一話
Name: ドレイク◆f359215f ID:9e6f3747
Date: 2011/03/13 17:09
 

 懐かしい夢を見た。偽善と知り、滅びの道と知り、それでもなお綺麗なものがあると信じ、正義の味方として突き進んだ。
 その果てにあった、当然の帰結。魔術の師でもある最愛の女性との別れ、熱狂と怨嗟の声に満ちた処刑場、振り下ろされる断罪の刃。途切れ、奈落へと落ち往く意識、二度と目覚めぬ眠りであった、筈だった。
 夢の内容は自身の死に際、死んだのであれば次などない、終わるから死なのだ。夢でしかありえぬ筈の事象は、かつて自分が歩んだ道だ。なのにそれを夢として見れる、その異常さ、どうやら自分はつくづく出鱈目なことに縁があるらしい。
 そんな事を思いつつ、―彼―ではなく、―彼女―は布団から出る。赤い髪を伸ばした少女―少女というには不釣り合いな落ち着いた雰囲気がある―は着替えを済ませ、朝食の準備を手伝うために台所に向かった。

 台所では母親が朝食の準備をし、父親が新聞を読みながら食卓に着く、ありふれた、だがかつては経験したことのない普通の家庭、それを見ながら、自身が二度目の人生を生きていることを実感する。
 この二度目の人生をどう生きるか、それはまだ定まっていない。かつてのように正義の味方として生きる、それも考えた。だが、両親は前世―衛宮士郎―のことなど知らぬし、今の自分は結果的にとはいえ、この体を奪って生きているようなものだ。だから、早死にする生き方はしたくない。先のことはまたいずれ決めるとしよう。そう考えていると、テレビではあるものを映していた。
 
 まるで、漫画やアニメに出てきそうな機械を身に纏った女性が、華麗に空を舞う。現実味ののない光景は、れっきとした現実だ。
 
 IS<インフィニット・ストラトス>、もとは宇宙開発用に作られたそれは、ある事件で一躍脚光を浴び、今では世界各国の軍事の中枢を担う兵器だ。また、女性にしか扱えず、女尊男卑という考えを広めたきっかけでもある。

 この時はまだ、自分がISにかかわるとは欠片も思っていなかった。



 数ヵ月後、オレはドイツにいた。第二回IS世界大会『モンド・グロッソ』の観戦ツアーを両親がテレビの懸賞で当てたからだ。
 各国の最新鋭機体によるど派手なバトルはかなりの見ごたえだった。それだけで済めばいうことなしだったんだが、あいにくとオレは出鱈目なことと同じくらい、厄介事にも好かれる性質らしい。
 
 目の前で現在進行形の誘拐現場に遭遇し、つい口癖が出た。

「なんでさ……」

 気持ちを切り替えたオレは、魔術で視力を強化して、誘拐犯の追跡を開始した。



 織斑一夏は、混乱の真っ只中にあった。IS世界大会に出場する姉とともにドイツに来てみれば、謎の組織に誘拐され、不安と恐怖に押しつぶされそうになっていると、いきなり誰かが突入し、あっという間に犯人たちが制圧されたのだ。
 その誰かが、名実ともに世界最強である姉の織斑千冬、とかだったら自身の無事を喜べるんだが、あいにくと姉さんではなく、赤い髪をした俺と同い年くらいの女の子。
 
 一言だけ言わせてくれ、誰だよこの子!!

 彼女はそんな俺の思いなどつゆ知らず、いたって落ち着いた様子で
「大丈夫か、君」
なんて言いながら、オレの拘束を解いてくれた。話を聞いてみると、彼女は俺が誘拐される現場を目撃して助けに来てくれたらしい。いや、普通そこって警察とかに連絡するんじゃねえの、って思ったが助けてくれた恩人なので、そのことには突っ込まなかった。ここで俺は、この女の子の名前を知らなないことに気づいた。

「ん、オレの名前?、衛宮志保っていうんだ、好きに呼んでくれて構わないぞ」
「えっと、じゃあ志保って呼ぶよ、オレは織斑一夏、一夏でいいぜ」

 そんな感じで、安心しきっていた時だ。

「おいおいおいおい、なあに助かった気でいるんだよ、このくそ餓鬼ども」

 そこには、八本の装甲脚を背部から生やしたタイプのパワードスーツ―IS―を身に纏った女性がいた。俺はこの時、無事に帰ることをあきらめた。ISという世界最強の戦力に対抗できるものは今、この場にはない。だけど―

「ああ、二人揃って帰るつもりだが」

―なんて、志保は言い放った。

「無茶だろ志保!!、どうやってISに勝つつもりだよ、魔法でも使えるって言うのかよ!!」

 あまりにも気負いなく、ISに立ち向かおうとする志保に、オレは制止の言葉を放つ。だが、それを聞いた志保は、はにかんだような笑みを浮かべ

「ああ、そうさ、俺は魔法使いなのさ」

 そう言ったんだ、当然、敵の女性は激昂し、怒声とともに襲いかかる。

「やれるもんならやって見せろや、くそ餓鬼ィィィィッ」
「言っただろう、二人揃って帰る、とな」

 対する志保も、その手に白と黒の双剣を顕現させ、応戦の構えをとる。

―ここに、IS対生身の人間という、ありえぬはずの戦いの幕が、切って落とされた―

 
  



[26447] 第二話
Name: ドレイク◆f359215f ID:52f0f169
Date: 2011/03/20 08:20
 結構、好評だったので続きを書いてみました

 <第二話>

 ドイツのとある廃工場で、戦いの幕が上がる。

 本来成立すらしない、生身の人間とISの戦い、初手は当然ISがとった。ISと人間のスペック差を考慮すれば当たり前のことだ。ISは8本の装甲脚を用い、文字道理手数の多さを生かした接近戦を仕掛ける。
 一夏とISの使い手の脳裏には、志保が装甲脚に貫かれ、無残な屍をさらす光景が映っていた。

 だが、その程度の窮地、乗り越えられずして何が―正義の味方―だ。

 直後、志保の背後から放たれる何か、正体は多種多様な計8本の刀剣。それがライフル弾もかくや、という弾速を持って、ISの装甲脚と真っ向からぶつかる。
 ISという最新鋭技術を、いっそ古めかしいとさえいえるような刀剣を用い迎撃する。その光景の異質さに一夏は声を亡くし、ISのの使い手は、声を張り上げ叫ぶ。

「なんだそりゃあ、何をしやがったこの餓鬼ィィッ」
「言っただろう、―魔法使い―だと」

 対する志保は、剣弾とぶつかり合い、体勢を崩したISへと斬りかかる。だがISは、体勢を崩しつつもその場で急速旋回、勢いに任せて装甲脚を振り回し迎撃する。そのまま装甲脚から砲撃を放つ。

 ―勝った、ISの使い手はそう確信した。先ほどの一撃とは違い、今度は弾丸、あの妙な技で迎撃はできまい。その確信も

 ―光とともに顕現した巨大な斧剣で、必殺の弾丸を防いだ姿で、あっけなく打ち砕かれた―

  ことここに至り、ISの使い手は、相手が魔法と呼んでも差し支えないような、尋常ならざる何かを持っていると認識した。

「おい、餓鬼、済まねえな、てめえを侮ってた。ここからは全力で行く、だからきかせろ、てめえは何者で、何のために織斑一夏を助ける」 
「人にものを尋ねる前に、まず、自分の名前ぐらい明かしたらどうだ」
「ああ、そいつは済まねえな。私の名前はオータム、亡国機業のエージェントだよ。さあ次はてめえの番だぜ」
「フッ、そうだなしいて言うなら、通りすがりの正義の味方だよ」
「クククッ、じゃあ何か、この状況は偶然の結果かよ。つまりてめえは全くの無関係だって訳か」
「納得したか?」
「ああ、もういいさ。じゃあ死ねよ」

 そして、ふたたびはじまる戦闘。剣群が乱れ舞い、銃火が走り、鋼と鋼が激突する。
 
 過去を積み重ねた重みを揮う志保と、先へ進む未来の鋭さを纏うオータム、二人の激突は正しく、新しき伝説というべきものだった。

 だが、ISのシールドでほぼ無傷のオータムに対し、致命傷こそないものの傷だらけの志保、二人の姿はこの戦いの結末を暗示しているかのようだった。

「粘るじゃねえか、正義の味方。こっちはあまり時間をかけられないんでな、次で決めるぜ」

 宣言とともに、オータムの背後から現れるミサイル、同時に放つビームワイヤー。人ひとりを殺すには過剰なそれを志保は、双剣の投擲でミサイルを撃ち落とし、斧剣の盾でビームワイヤーを防ぎきった。
 志保の視界を爆炎が塞ぐ中、オータムの声が響く。

「てめえなら、その程度防ぐと思ってたよっ!」
「なにっ」

 爆炎を貫き現れるのは、装甲脚が2本、パージしたそれをオータムは、残った装甲脚で投擲したのだ。あまりにも予想外の攻撃に反応が一瞬遅れ、廃工場の壁に志保は叩きつけられた。

「グッ、ガハァッッ」

 苦悶の声を上げながら、志保は内心で自身の迂闊さを呪った。久方ぶりの戦場で勘が鈍ったか、そう思いつつ現状を確認する。壁に叩きつけられる直前に、構成を脆くした投影物を作って、クッション代わりにして致命傷は避けたが、まともに戦闘を行えるほどではない。

 普通ならここで終わる、だが、オータムは勝利を確信しきっている、そこにオレの勝機がある。オレは体に走る激痛を無視し、魔術回路を全力で稼働させた。


 これで終わった、粉塵が舞い散る中、オータムはそう確信した。そして踵を返そうとしたとき、背筋に悪寒が走った。視界が開ける、そこには、黒塗りの弓に、禍々しい気配を持つ捻じれた剣をつがえた、奴の姿があった。アレはマズイ―本能の命じるままに、回避行動をとる中、奴の声が響く。

「偽・螺旋剣<カラドボルグ>」

 ケルト神話にその名を残す、<堅き稲妻>の名を持つ剣は、その名のとうりの轟音を轟かせ、廃工場の壁を貫き、彼方へと消え去った。轟音が去った後には、満身創痍の志保と、機能停止寸前のISを身に纏ったオータムだけが残された。

 オータムはその最中、味方からの通信でタイムリミットが来たと知る。アレがここに来る以上、一刻も早くこの場から離脱しないとまずい。

「チッ、引き分けか、命拾いしたな正義の味方」
「どうする、まだ続けるか」
「いや、このままじゃあ両方共倒れだ、それに目的ももう果たした」
「成程、ブリュンヒルデがここに来る、というわけか。決勝戦を棄権して」
「なんだ、気づいてやがったのか」

 そしてオータムは、もうここには用がないと言わんばかりに、この場から去った。最後に―

「じゃあな正義の味方、てめえは殺す、いつか殺す、必ず殺す。それまでくたばるんじゃねえぞ」

 ―と言い残して。


 それを見送った、志保と一夏は、たがいに顔を見合わせて、笑顔を交わす。

「すっげえな志保!、志保って本物の魔法使いなのか!」
「ああ、そうさ。ところで、けがはないか一夏」
「おかげで傷一つないさ、志保のほうこそ大丈夫か?」
「なんとか、許容範囲内さ。そろそろ、オレもこの場から去らないとな」
「えっ、どうして」

 すると志保は苦笑して

「オレが魔法を使えることを、あまり広めたくないんだよ。だから、今日の一件は、俺と一夏の秘密にしておいてくれ」
「わかったよ、誰にも話さないって約束する」
「ありがと、一夏」

 そして志保も―

「じゃあ一夏、さよならだ、縁があったらまたいつか会おう」

 ―といって、夕焼けの中、去って行った。


「さよなら、志保」

 俺は志保の後姿を見送りながら、さっきの光景を思い返し

「カッコよかったな、志保。俺もいつかあんな風に、誰かを守れるくらい強くなりたいな」

 じゃあまず、これからは剣道の練習を、もっと頑張るとするか。俺はこっちにやってくる千冬姉さんを見ながら、そんなことを決意するのだった。

 ―こうして、ありえぬははずの出会いと、事象と、結果に彩られた騒乱の一日は、少年の心に輝きを残しつつ、幕を閉じたのだった― 



[26447] 第三話
Name: ドレイク◆f359215f ID:7d75b67c
Date: 2011/03/13 17:08
 
 <第三話>

 織斑一夏は、日課である早朝のジョギングを行っていた。ドイツでの誘拐事件から数年過ぎ、一夏は中学三年生、進路に頭を悩ます時期になった。
 あの誘拐事件の後、千冬姉さんを含めいろいろな人たちから話を聞かれた。もし俺を助けたのが姉さんだったら、<ブリュンヒルデ>がたった一人の弟を救うために、『モンド・グロッソ』の決勝戦すら棄権して誘拐犯たちをやっつけた。
 なんて、いかにもな美談で終わったんだが、あいにくと姉さんが俺の監禁場所にたどり着いた時には既にオレは、何者かによって―当然、志保のことだ―助け出され、監禁場所の廃工場は何者かによる大規模な戦闘の跡があった。
 おまけに、ISのコア―コアには独自のネットワークによって常時リンクしている―のログを調べると、当時、あの場所には一機のISがいたことを示していた。問題は、このISが、織斑千冬・ドイツ軍のいずれのISとも交戦していないにもかかわらず、あの場所で交戦していたことだ。後の現場検証で、残骸の中からISの装甲材の一部や、専用のミサイルの破片、挙句の果てにISの装甲脚まで発見されたからだ。この装甲脚から、あの現場にいたISは、強奪されたアメリカの第二世代型IS<アラクネ>と判明した。

 だが、その<アラクネ>と交戦していた筈のISの存在がどうしても掴めなかったのだ。コアのネットワークにも情報はなく、現場周辺での目撃情報もなし。ならば、最初から二機目のISなどいなかったのではないか。そう仮定しても、今度はどうやったらISとISもなしに戦えるというのだ。現場には<アラクネ>の痕跡以外に、多種多様な刀剣による、斬撃痕・刺突痕、さらには大規模なエネルギーを秘めた回転体をぶつけたと思われる壁の大穴まであり、すべてを知るであろう少年も黙して何も語らず、ドイツの調査関係者はそろって頭を抱えたらしい。ちなみに、現場に倒れ伏してた誘拐犯たちの証言は、そろいもそろって「何が何だかわからないうちに気を失った」だそうだ。

 ―通りすがりの少女が、俺を助けるために誘拐犯をたたきのめし、魔法を使ってISと戦い引き分けに持ち込んだ―

 なんて、だれが予想できるんだか、事実を言ったって子供の戯言で片づけられるしな。千冬姉さんによると、この正体不明の何者か、つまりは志保に唯一判明している事実、多種多様な刀剣を使うことを指して、正体不明の剣<アンノウンソード>なんて呼ばれているらしい。

 まあ、そんな感じで俺の周りはしばらくごたごたしていた。けどそんなことより、志保みたいに誰かを守れるぐらい強くなりたい、そう強く思ったんだ。
 
 それからというもの、日頃から通っていいた剣術道場の練習にも、これまで以上に力を入れ、練習量も増やしていった。道場の師範代からは
「ただ惰性で剣を揮うのではなく、前を見つめ先へ進もうと剣を揮っている。いい傾向だ」
 なんて言われた。俺としては、単に志保がかっこよくて、自分もそんな風になってみたい。そう思っているだけだから、ものすごく照れくさかった。

 ―このまま、でかい事件があったとはいえ、日常が続いて行くんだろうなと思っていたんだ。この時の俺は―



 ―数ヵ月後、とある高校の入学初日

 ―どうしてこうなった、もはや俺の心中はそれ一色だった。マジで周囲すべてから突き刺さる視線、オレ以外の男子ゼロなこの状況、もう一度言わせてくれ、どうしてこうなった!!

 ここは<IS学園>、ISの操縦者を育成するための学校で、周知の通りISは“女性にしか動かせない、
つまりは女子高なのだ。原因は俺が高校の受験会場に行って、試験管の指示通りの場所に行くとそこにISがあったんだ。
 まあ、そんなものがあれば誰だって興味本位で触るくらいはする。そうしたらいきなり頭の中にISのデータが流れ込み、気付けばISを装着していた。そのあとはいきなりの試験官とのバトル、正確にいえば突っ込んできた試験管をよけたら壁に激突して自滅した、そんでもってIS学園入学おめでとうというわけだ、冗談じゃない。

 おまけに厄介事というのは連続で起きるみたいで、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットとの決闘まで決まってしまったのだ。原因はセシリアって言う女の子はプライドが高くて言う事にいちいち棘があるんだ、それについ俺が言い返してしまい、後はもう見事なまでに売り言葉に買い言葉、あれよあれよという間にISでの決闘まで決まったのだ。
 当然、俺はISに関してはど素人。だから俺はこの学園で再開した幼馴染、篠ノ之箒を頼った。

「頼むっ、箒。俺にISの操縦方法を教えてくれっ」
「まったく、安い挑発に乗るからそういう目にあう。だ、だがまあ、お前がどうしてもというなら、教えてやらんこともないぞ」
「ああ、今の俺は箒しか頼れないんだ」
「そっ、そこまで言うなら仕方がないな」

 なんか、えらく顔を赤くする箒、熱でもあるのか? と、そこで俺は重要なことに気づく。肝心要の自分が乗るISの情報を全く知らないのだ、急いで俺が千冬姉さんにこのこと、特に武装について聞くと、とんでもない答えが返ってくる

 ―武装が近接戦用ブレード一本ってどういうことだよ、俗に言うブレオンってやつかよ!!ー

 まあ、嘆いていてもはじまらないし、箒との相談の結果、回避機動の理論の習熟とイメージトレーニングを重点的に行うことになった。後はひたすらに剣を揮い、やる気を高めていった、これには箒も全国大会優勝の腕前を持って手伝ってくれた。

「それにしても、見違えるほどに強くなったな、一夏」
「そうなのか?、箒。自分じゃあんまり実感わかないんだよな」
「ああ、剣に迷いがなくなった感じだ」

 そんなに違って見えるものなのか、確かに昔はただなんとなくで剣を揮ってたように思う。

「道場の師範代にも言われたよ、惰性ではなく前を見据え、剣を揮ってるってね」
「何か、目標でもできたのか?」

 それはあんまり言いたくねえなあ、子供じみた理由だし。



「恥ずかしいんであんまり言いたくないんだけどさ、憧れの人がいるんだ」

 照れながら一夏はそんなことを言う、私は一夏がそこまで言う人のことが気になった。

「どんな人なんだ、その憧れの人というのは」
「どんな人か……、そうだな一言で言うと正義の味方だな。俺はその人に助けられ、その人がかっこよくて、だから、追い付きたい。そう、思ったんだ」
「そうか、私は立派な理由だと思うぞ」

 ―理由を語る一夏の横顔は、今までより一番かっこよくて、私は不覚にも目を奪われたのだった―
 


 それでも無情に時間は過ぎ去っていくもので、あっという間に決闘当日。
 
 俺は千冬姉さんに呼ばれアリーナの入口に来ていた、そう、俺のISは当日になってようやく来たのである。ぶっつけ本番にもほどがある。

「来たな一夏、これがお前のIS<白式>だ。時間がないからフォーマットとフィッティングは実戦でやれ」

 そこには<白>があった、装甲を開放し主を待ちわびるその機体を見て、俺は直感的に理解する。

 ―これは俺のIS,俺のための力、俺の剣なのだと―

 そして俺は、<白式>を纏い、戦いの場所へと向かうのだった。

 



[26447] 第四話
Name: ドレイク◆f359215f ID:7d75b67c
Date: 2011/03/15 21:30
<第四話>

 長い金髪をたなびかせ、青い第三世代型IS<ブルー・ティアーズ>を身に纏った少女、セシリア・オルコットはIS学園のアリーナで決闘相手である織斑一夏の登場を待ちわびていた。
 世界初の男性のIS操縦者、最初はどれほどの逸材かと期待していましたが、ふたを開ければ全くの素人、ならば、イギリス代表候補生たるこの私がISのことについて教えて差し上げようと思いましたのに、それをあの男は私の行為をむげにした挙句、祖国を侮辱する始末。 こうなればあたしの手であの男の増長を戒めねばなりませんわね――
 
 などと、織斑一夏がきいたら―お前が言うな―とか言いそうなことを考えつつ気炎を上げる。すさまじいまでの自身の棚上げっぷりだった。


そして現れる織斑一夏、このまま戦えば結果はわかりきっている、ならば、最後の慈悲を与えてやるべきだろう、そう考えたセシリアは彼女にとっての慈悲、一夏にとっての大きなお世話を与えるのだった。

「よく逃げずに来ましたわね、その意気に免じ最後のチャンスを差し上げますわ」
「チャンスだって?」
「ええ、このまま戦ってもあなたが無残な姿をさらすだけ。ここであなたが自身の非を認め謝罪するならば、許してあげないこともなくってよ」

 あの男は自分の発言で引くに引けなくなっただけ、引く機会さえあれば引きさがるだろう。セシリアはそう考えていたが、それに対する一夏の答えは――


「断る、俺にだって意地はある、抗いもせずに終わらせたくない。それにここはアリーナ、決闘場だろう、だったら力でもってねじ伏せてみろセシリア・オルコット、俺はそう簡単にやられねえぞ」


 ――明確な宣戦布告だった。


「よく言いました、ならばこの私セシリア・オルコットと<ブルー・ティアーズ>の奏でる円舞曲で無様に踊りなさい!!」


 ――それと同時に放たれるレーザーライフル、その閃光が戦いの開幕を告げた――


 

 放たれるレーザーをギリギリでよける一夏、砲口を向けられると同時に回避機動に移ったのが功を奏したらしい、それを示すかのように肩部の装甲にはレーザーの焦げ跡が付いていた。回避を見てとったセシリアはISの一部を四つ切り離す、おそらくあれはアニメやマンガでよく見るような遠隔攻撃兵器だ。それとレーザーによる中・遠距離戦がセシリアの戦い方なのだろう。
 脳内で相手の戦術を推測しつつ、一夏はひたすらに回避機動をとっていた。ただでさえ射程の面で不利な相手、おまけにこちらはまだ機体が万全じゃない、フィッティングが終わるまでは回避に専念する、それが一夏の当面の方針だった。
 <白式>が乱れ飛ぶ、その機動に洗練さはなくいっそ滅茶苦茶とさえいえた。一夏はあえて出鱈目に飛ぶ、相手は射撃戦主体、直線的な機動はハチの巣にされるだけ、だが複雑な機動をとろうにも問題が発生した、搭乗時間の短さだ。
 ISの操縦は基本的に搭乗者のイメージに基づいて行われる、だが当然現実とイメージには少なからず齟齬が存在する。ISの操縦に習熟するというのは、この齟齬を無くすということなのだ。ISの強さは搭乗時間によって大きな差が出る理由がこれだ、搭乗時間が多ければ多いほど齟齬が少ないスムーズな機動が可能なのだ。今の織斑一夏にそれは望めない、だから、あえて出鱈目な、セオリーを外した機動で飛ぶ。
 いくら慣性制御によって飛ぶISといえども機動限界がある、あまりにも出鱈目な機動は搭乗者の体に大きな負担をかける。一夏はセシリア、いや、男が女に唯一勝る身体の頑健さを持って行う機動でセシリアの猛攻をしのいでいた。

 

 ――急上昇、急降下、急旋回を目まぐるしく繰り返し、セオリーなど知ったことかと言わんばかりの出鱈目機動にセシリアは手を焼いていた。一見すると<白式>の装甲は傷だらけだが、その実はほとんどがかすり傷、シールドエネルギーは削られているものの機体性能に陰りはみられない。
 
 ――それは、代表候補生である自分が素人一人倒せないでいるということ、そんな事実は認められない、この一撃で決着をつける――

 そして<ブルー・ティアーズ>から、今までその存在が隠されていたミサイルが発射された。蛇のごとき白煙を伸ばしながら襲いかかるミサイルを<白式>は、変わらず出鱈目な機動でよけようとしたが、ミサイルが<白式>に接近した時、閃光が走った。

 閃光が襲ったのは<白式>ではなくミサイル、至近距離でのミサイルの爆発に<白式>はバランスを崩し致命的な隙を見せる。レーザーライフルから再び閃光が走り、セシリアは勝利を、観客は一夏の敗北を確信した。



 その確信は次の瞬間に砕かれた、光に包まれた<白式>がこれまでとは段違いのスピードでもってセシリアの必殺の一撃をかわしたのだ。光が消えるとそこには、傷だらけの装甲ではなく洗練されたデザインの純白のISがあった。それが指し示す答えは一つ。

「ま、まさか……一次移行<ファースト・シフト>!? あなたまさか今まで初期設定で戦っていたというの!!」

 驚愕するセシリア、だがあることに気付き再びその顔に勝利の確信の笑みを浮かべる。

「ですが…、先ほどからの無茶な機動にこれまで蓄積されたダメージ、そろそろシールドエネルギーが尽きる頃ではなくて?、私の見立てではあと数回の攻撃が限度かしら」



 図星をさされ苦虫をかみつぶしたような顔をする一夏、このまま<白式>が回避行動をとり続けてもじり貧、一か八かの突撃を仕掛けてもそれこそ相手のレーザーライフルの餌食になるだけ。確かに八方塞の状況、だけど

 ――俺の憧れは、この程度の窮地で屈するような人じゃない、諦めてたまるものか――

 この状況を打破するために思考をめぐらす、そして見つける起死回生の手段。近接特化ブレード<雪片弐型>、千冬姉さんが使っていたものと同じ名を冠する刀、それのスペックを確認した一夏は最後の賭けに出た。



 まっすぐにこちらに突撃する<白式>を破れかぶれの特攻と判断したセシリアは、とどめのレーザーライフルを放つ。<白式>を襲う閃光、そして

 ――閃光が真っ二つに切り裂かれる――

 あろうことか<白式>はレーザーをブレードで切り裂きつつ、―正確にはレーザーの射線上にブレードを置いた―突撃してくる。もはや状況は逆転した、閃光もろとも<ブルー・ティアーズ>は切り裂かれるだろう。迫りくる一夏の強い意志を宿した瞳を見ながら、セシリアは己の敗北を悟るのだった。

「勝者!! 織斑一夏」

 ――アリーナに戦いの決着を告げる宣言が響き渡った――




 
 たくさんのご意見ありがとうございました、やはり志保のISは量産型を押す人が多かったです(理想郷となろうで同様でした)
 やはり宵闇眩灯草紙のクスィ・アンバーはマイナー過ぎましたか(なんせ、理想郷となろうでわかってくれた人はたったの一人)
 ちなみに最初は、redEyseの鬼神も候補にありました(だからなんでそんなマイナー過ぎるものを選ぶ)
 
 



[26447] 第五話
Name: ドレイク◆f359215f ID:7d75b67c
Date: 2011/03/23 21:19
 <第五話>

 織斑一夏の<白式>とセシリア・オルコットの<ブルー・ティアーズ>の戦いを、遠く離れた学園の屋上から見つめる人影があった。常人には見ることのできぬ距離を赤い髪の少女―衛宮志保ーは鮮明にとらえていた。

 「まったく、レーザーをブレードで防ぐとは無茶をする、それにしても一夏がIS学園に来るとは思わなかったな」

 あのドイツの一件以来、オータムの襲撃こそなかったがISに対しかなりの脅威を感じていた、先の戦いはオータムの油断もあったから勝てたようなものだろう。そして受験する高校を選ぶとき、ISの知識と対策を得るためにIS学園を受験先に選んだのだ。テレビで一夏のことを知った時は驚いたが、幸いにして別のクラスに編入された。自分から接触しなければ、ドイツの事件の真相がばれる恐れも少ないだろう。
 
 戦いの決着を見ながら俺は昨晩、偶然聞いた言葉を思い出していた。


「正義の味方で、俺の憧れか――」


 まさか、俺がそんなことを言われる日が来ようとは思いもしなかった。あの聖杯戦争から止まる間もなく駆け抜けたかつての人生。見返りもなく、後悔もなかったけど、傷を負い自身をすり減らし続けた。止まらなかったことこそが唯一の誇りだったんだ。
 そしてこの二度目の人生、止まった後の惰性で生き続けている、まさに衛宮士郎の残骸だった俺を一夏は救ってくれた。あの何気ない一言で、衛宮志保の心の傷口が癒されていった。
 この時やっと、あの満月の夜、安らかに逝った切嗣の気持ちが理解できた。後に続くと、無垢な想いで誓うものがいることは救いなのだと、ようやく理解した。


「今になって切嗣の気持ちを知るなんてな、――ありがとう、一夏」


 届くはずもないと知りながらも、俺は一夏に礼を言っていた。そして誓う、これからも一夏が憧れを抱けるような正義の味方であり続けると。
 それは、―衛宮士郎―ではなく―衛宮志保ーとしての誓いだった。



 ―その翌日、俺のクラスに転校生がやってきた。

「あたしの名前は凰鈴音、中国の代表候補生よ!!」

 髪形をツインテールにまとめた活発な女の子、その子を見て俺は思った。

 ―リンって名前の女の子は、みんな強気でツインテールなのか?-

 そんなとりとめもないことを考えていた、教師の話によると中学二年のころまで日本にいたらしい、道理で日本語が堪能なはずだ。どうやら座席は俺の隣になるようだ、彼女は俺の横に座ると改めて自己紹介した。

「さっきも言ったと思うけど、あたしの名前は凰鈴音よ、よろしくね」
「ああよろしく、俺の名前は衛宮志保、志保って呼んでくれ」
「俺って、変な言い方すんのね、あんた」
「昔からよく言われる、今更直そうとは思わないしな」 
「ふ~ん、そうなんだ。あとあたしのことは鈴でいいわよ」

 自己紹介をして、鈴とは仲良くなれそうだと思った瞬間、彼女の口から聞き捨てならない言葉が出た。

「それにしても一夏の周りには、相も変わらず女の子が多いわね!!。特にあたしの前の幼馴染の篠ノ之箒ってやつと、セシリア・オルコットとかいうのには注意しないとね」

 ――なんて独り言を言う鈴に俺は内心、やっぱり一夏にかかわらないようにするのは無理があったと感じていた。大体、クラスの転校生で俺の隣に座る奴が一夏の知り合いだなんて、そんなこと予想がつくか!!
 
「あれ?、どうしたの志保」
「あ、ああ――、鈴はあの織斑一夏と知り合いなのか?」
「そうよ、先生も言ってたけどあたし中学二年のころまで日本にいたの、一夏はその時からの幼馴染
よ。ま、まあ、いつかは幼馴染以上になって見せるけどね!!」
「そ、そうか、頑張ってくれ」

 この時俺には一つの予感があった

 ――絶対、どでかい厄介事が起きるよなあ――


 そして、午前の授業が終わって昼休みの時間、手製の弁当を食べようとした俺に鈴が声をかけてきた。

「志保~悪いんだけどさ食堂の場所を案内してくれない?」

 なんて言われたので食堂に案内することになった。もうこの時点で俺は覚悟を決めた、所詮、衛宮志保である俺が厄介事から逃げるなんて不可能だったのだ。一夏とかかわってどんなことが起きてもどんと来い!!、そんな気分だった、開き直ったともいうが。



「さて、一夏そろそろあの凰鈴音とかいうやつのことを説明してもらおうか」
「そうですわね、私も彼女と一夏さんの関係が非常に気になりますもの」

 なんて、まるで尋問でもするような雰囲気の二人と一緒に俺たちは食堂に向かった。食堂では案の定鈴が待ち構えていて

「遅いじゃない!!、待ってたわよ一夏」
「いや、別に約束してたわけでもないだろ」
「むっ、一夏のくせに生意気じゃない」

 そんなやり取りをしていると


「通路の真ん中で話し込むのはほかの人に迷惑だろう、続きは席に着いてからのほうがいいぞ」


 ――えっ、この声って、まさか――

 声のしたほうに目を向ければそこには、かつてと変わらぬ雰囲気を持った、赤髪の女の子がいた。あまりに突然の再開に俺はただ――

「し、志保なのか……」

 ――と、一言いうだけで精いっぱいだった

「ああ、久しぶりだな一夏。元気そうで何よりだ」

「「「はい?」」」

 俺の後ろで三人が間抜けな声を出すのが、いやに鮮明に聞こえたのだった。



 席について一番最初に声を発したのは箒とセシリアだった

「それではまず、その凰鈴音とどういう関係なのか説明してもらおうか」
「そうですわね、まずはそこを説明してもらいましょう」

 多少棘のある言い方をする二人、周囲のクラスメイトも興味心身らしく聞き耳を立てている。

「鈴は俺の幼馴染だよ、箒が小学四年のころに転校しただろ、そのあと、小学五年の時に鈴が転校してきたんだ。そのあと中学二年のころ中国に帰って、そして今日ここで再開したわけだ」

 一夏の説明と幼馴染発言に納得し安堵の表情を見せる二人、鈴は一夏の幼馴染発言に肩を落としていたが

「では次に、その方、衛宮志保さんだったかしら。その方のご説明をしてほしいですわね」
「ああ、そうだな」
「ええそうね、そこはあたしも非常に気になるわね」

 その次に志保のことを尋ねる二人、今度は鈴も二人に同意し尋ねてきた。
 その問いに志保は――

「むっ、俺と一夏の関係か――」

 そう言いつつ一夏のほうを見る志保、それに対し一夏は

「三人には悪いけど、それは俺と志保だけの秘密だな」

 ちょっと頬をあからめつつ、そんなことを言う一夏。その反応にクラスメイトは喚声を上げ、箒・セシリア・リンの三人は――


 ――志保は敵だな、最大級の敵だ――
 ――この方は、放置しておくわけにはまいりませんわね――
 ――フフフッ、志保とは仲良くなれそうだったけど敵になりそうね――


 なんて、乙女の勘で志保をライバルと認識するのだった。






 前回の話で一夏がたてたフラグは、セシリアでも箒でもなく志保だったというオチ。自分で書いていてなんだが、なんか一夏×志保になりそうなんだが、これって誰得?

 後全然関係ない話なんだが、ISの世界に、昔マガジンで連載してた漫画「『街刃』のキャラを入れたらISオワタになるんじゃないか?と思った。特に日鳥<灯盗>と金子<鉄呼>の二人、前者はIS即効エネルギー切れになりそうだし、後者はISがアイアン・メイデンになりそうだ(だから、なんでそんなマイナーネタを言うんだ、わかるやつなんざいねーだろ




[26447] 第六話
Name: ドレイク◆f359215f ID:7d75b67c
Date: 2011/03/21 13:40
 <第六話>

あの食堂の会話があったその日の放課後、アリーナでセシリアと訓練しようとしていた。

 あの決闘の後、俺はクラス全員の推挙によりクラス代表となった。
クラスでただ二人の専用機持ちが戦い俺が勝利したのだから当然のことだろう、そのあとセシリアから、いまだISに習熟してるとは言えない俺にコーチをしてくれると提案があったのだ。
武装がブレード一本しかない<白式>を使う俺にとって、射撃武装に精通しているセシリアにいろいろ教えてもらえれば、大きなプラスになると思ったのだ。
 まあ、唯一の誤算と言えば、ISってのはイメージで操縦するんだが、その際のイメージは個人によってバラバラ、セシリアのイメージをそのまま俺に適用できるはずがなかったんだよな。
 ちょっとした誤算はあったけど、セシリアのの持つ豊富な知識を教えてもらいつつの、実機訓練は俺にとって非常に有意義な時間だった。
そして今日も練習しようと思ったらアリーナにはもう一人いたのだ。日本をはじめ各国の軍・企業で練習機として採用されている第二世代型IS<打鉄>を装着しているのは――

「どうしたんだ? 箒、ISまで持ってきて」
「あっ、ああ、お前にISでの近接戦闘の訓練をつけてやろうと思ってな。………それにあんな強敵が出た今、手をこまねいていれば取り残されるだけだ……」
「そりゃ確かに、そっちのほうも重要だよなあ」

と、そこに鬼気迫る感じで声を上げるセシリア。

「ちょっとお待ちなさい!! 一夏さんはこれから私と訓練をすることになっておりますの、部外者の方は引っ込んでもらえますか」
「フン、一夏のIS<白式>は完全近接特化仕様、ならば、近接戦闘に心得のある私との訓練のほうが有意義なはずだ」
「そんなこと言って、私のアドバンテージを奪うのは目に見えております。そのようなこと全力を持って阻止いたしますわ!!」
「ならば、実力行使で奪わせてもらう、切り捨て御免!!」
「フフフ、訓練機で専用機に挑む愚行、その代償は高くつきますわよ!!」

そんなこと言いつつ、俺のことそっちのけで戦い始める二人、鬼気迫る気迫でビームと刃を交わし合うその戦いに、俺の訓練どうなった、と思っていると後ろから声がかかる。

「なんだ、一夏もいたのか。それならちょうどいい俺の訓練につきあってくれないか?」

姿を現したのは、箒と同じように<打鉄>を身に纏った志保だった。

「志保も自主訓練しに来たのか?」
「ああ、まだ実機を使っての本格的な訓練は始まっていないからな、申請書を出して一足先にやってみたくなってな、それに、こういうカッコイイものは憧れるしな、早く乗ってみたかったんだ」

ちょっと照れながらそんなことを言う志保は、なんか可愛く感じて

「じゃあ、俺と一緒に訓練をやらないか? 一緒に訓練をやるはずのやつらが俺そっちのけでヒートアップしてて、手持無沙汰だったんだ」
「それはいいな、俺はいまだ受験時に一回乗ったきりだし、まだまだ素人だからな」
「俺だって、セシリアとの戦いで二回目の搭乗だぜ」
「それでもあれだけ戦えれば立派なものさ、あの時の一夏はなかなかかっこよかったぞ」

臆面もなくそんなことを言われたもんだから、ものすごく照れるんだよなあ。おまけに――

「ふむ、ということは、一夏はISにおいては先輩ということになるのか。というわけでよろしくご教授願います先輩殿?」

なんて言ってくる始末、普段キリッ、としてる志保がちょっとお茶目にそんなことを言うのは、なんつーか、滅茶苦茶可愛かった。
たぶん、なにも意識してないからこんなことが言えるんだろうなあ。もしかして志保って自分のことに関してはものすごく鈍感なんじゃ? 

そんな感じで志保と一緒に訓練していた、志保は意外にもISの操縦は苦手らしく、俺の目から見てもぎこちなさを感じた、ひょっとしたらISに乗らないほうが志保は強いんじゃないだろうか、そんなことさえ思うのだった。
あと、後ろからなぜか――

「「横から掻っ攫われた!?」」

なんて声が聞こえたんだがどういう意味だ?



で、アリーナでの訓練を終えた俺なんだが、部屋でなぜか箒と鈴がにらみ合う状況になっていた。
鈴のやつがどこからか俺と箒が同室なのを聞きつけ、箒に自分と部屋を変えるように迫っているのだ。
鈴の主張は、「男と同室なのはいやでしょ? だったら私が変わってあげるわ」で――
箒の主張は、「これは私と一夏の問題だ、部外者は口を出すな」
おまけにお互いそう簡単に、自身の主張を曲げるような殊勝な性格をしていない。
どうやってこの場の収集をつけようか頭を悩ませていると、救世主が現れた。

「やっと見つけたぞ鈴」
「うん? 志保じゃない、どうしてここに」
「先生から鈴の部屋は俺と同室ということに決定してな、それで鈴を探してたんだ。廊下まで声が聞こえたからからすぐにわかったぞ」
「ああ、部屋なら箒と変わってもらうから」
「誰もそんなことは認めていない!!」
「そんな勝手が認められるわけがないだろう、そうしたいのならば先生に頼むのが筋だろう。まあ、認められるとは思えんが」
「うっ……」

志保に正論を言われたじろぐ鈴、箒は安堵の表情を見せていた。

「しょうがないわね、ここはいったん引いてあげるわ」
「一夏も箒さんもルームメイトが迷惑をかけた、すまなかったな」

ここで話が終わると思ったんだが、鈴のやつが――

「そうだ一夏、あんた、その……昔の約束覚えてる?」
「約束?………」
「う、うん………覚えてる、よね?」

確か何かの約束を小学校の時にしたような、確かその内容は――

「確か……、鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を――」
「そうっ、それよっ!!」



「奢ってくれるってやつだよな?」



あれ? なんか雰囲気が変わった? 確かこんな感じの約束だったはずなんだが――
パンッ!! 急に頬に痛みが走る、恐る恐る鈴のほうを見てみると。

「最っっっ低っっっ!! 女の子との約束ちゃんと覚えていないなんて、一夏の馬鹿っ!!」

そう言って、泣きながら部屋から走り去る鈴、完璧に泣かせてしまった。

「一夏」
「お、おう、なんだ箒」
「馬に蹴られて死ね」

箒からもさっきまでの諍いなどなかったかのように、そんなことを言われ――

「昔の俺は………あんなにも罪深かったのか…………」

志保はなぜかそんなことを言いつつ膝をついていた――



――それから数日後、鈴の機嫌は悪いままで、俺が謝ろうと思っても避けられてしまう。
志保とかに相談しても理由は自分で気付かなければ意味がない、の一点張り。
どうしたものかと頭を抱えていたら、廊下に人だかりができていた。
気になって見てみると、クラス対抗戦の日程と組み合わせが張り出されていた。
そこに記された俺の第一試合の相手は――



――二組代表 凰鈴音――



今大絶賛冷戦勃発中の幼馴染の名前だった。






志保は今のところ、一夏に一番親しくしてますIS学園唯一の男性ですから。一夏君は現在、ギャップ萌えという言葉の意味を実感しております。

ちなみに志保のIS適性はそれなりに高い、ということにしてます。IS適性って個人的にはAC4のAMS適正みたいな、本来体にない機関を操るための適正だと思ってます。そう考えると志保っていうか魔術師というのは魔術回路という架空神経を常日頃から使っていますから、IS適性も高いということにしてます。
 そうなると今回の話に矛盾を感じられると思いますが、今回の志保の状況は原作の一夏が初めて<白式>に乗った時と逆なんです。
 後志保のISも大体決まりました、一応<打鉄>に乗せようと思っていますがいろいろと設定をつけ加えたオリジナル機体ということにします、ある意味ロボットものでは王道なものになります。
ヒントはトールギス、わかる人には大体これでどんな設定なのか予想がつくと思います。



[26447] 第七話
Name: ドレイク◆f359215f ID:7d75b67c
Date: 2011/03/26 00:39
 <第七話>

「それじゃあね~、志保~」
「ああ、また明日な」

ホームルームも終わりクラスメイトと別れて、俺は一人廊下を歩いていた。
この体で過ごすのはもう十数年になり、女性の体にはもう慣れたのだが、思春期の女子と友達づきあいをするのにはいまだ慣れない、一夏がIS学園に入ってきて本当によかったとつくづく思う。
後、最近クラスの女子が、一夏と俺が話してるときに、一夏×志保っていいわねとか、どっちが攻めかしら私は志保の誘い受けだと思うんだけど? とか訳のわからないことを言ってるんだがどういう意味だ?


――まさか、可愛いというよりカッコイイというようなイメージを持つ志保と、IS学園唯一の男性である一夏の801話が学園の女子の間で流行っているとは、気付けるはずもなかった。
もうすでに、志保が女装した男性という設定の、志保×一夏の同人誌がIS学園漫画部により秘密裏に発行されている程だ。
ちなみに、この話がブレイクした理由は食堂での「二人の秘密だ」発言なので自業自得でもあった、この発言は学園にいる、ある特定の嗜好を持つ女子達をいたく刺激したらしい――


――なんか、変な電波を受信したような? まあいいか
そういえば、部屋での一件以来、一夏と鈴の中が悪いようだ、正確に言えば鈴が一方的に一夏を避けているといったところか。
こういう男女の話は衛宮士郎だったころから苦手なんだがな、一夏もなぜあれで気付けないのか? と思ったが、昔の俺は凛や桜にそう思われていたんだろうな。
そう思いながら廊下を歩いていると、廊下の窓に肘をかけながらたそがれている一夏の姿を見かけた。

――あの様子だと鈴とはまだ仲直りできていないらしいな――

そんなことを思いつつ、俺の接近にも全然気づいたそぶりも見せない一夏に声をかけた。

「その様子だと、また避けられたみたいだな、一夏」
「ああ、志保か………ほんと――」
「女の子って何考えてるのか分からねえー、といったところか」
「よくわかったな志保」
「そんな様子でいれば誰にだってわかるさ、で、一夏はどうしたいんだ?」
「そりゃこのままでいいわけないだろ、でもどうしたらいいのかまったくわからん」
「だったら強引にいってみるのも一つの手だぞ、他人<ひと>の心なんてこの世で一番わかりにくいものだしな」

――そう、切嗣の最後の気持ちを、最近になってやっとわかった俺のようにな――

「………そうだな、志保の言うとおりだ。こんなところでじっとしても始まらない」
「やっと元気が出たか、それに一夏の頭で考えたところで答えなんか出るはずないだろう」
「うっせぇ、茶化すな、………ありがとう志保、行ってくる」
「ああ、元気に青春をやってこい」

そうして廊下から走り去る一夏、俺としては少しでも早く鈴との仲が直るのを祈るばかりだ。


――そんなことを思いながら、走り去る一夏を見つめる志保だった。




――翌日、

同じように廊下いた一夏、昨日の結果を聞くと、どうやら鈴との問答の最中ついうっかり「貧乳」と口にしてしまったそうだ。
おかげで鈴の怒りはとどまるところを知らず、今度のクラス対抗戦で一夏を叩きのめすと宣言されたらしい。

「俺ってバカだ……よりにもよって女の子に貧乳はねえだろう、怒るの目に見えてるじゃねえか……」

そう言ってうなだれる一夏、その姿はまるでどっかの誰かのようだった。

「………一夏、一言忠告しておく、女性に対して年齢・体重・スタイルの話はするな、死ぬぞ……」

忠告しながら志保の脳裏によぎるのは、前世において迂闊な一言で遠坂凛から喰らった、零距離ガンドボディーブローの味だった、なんであんなの喰らって生きてたんだろう俺。

「至言の一言ありがとう志保、ほんと身にしみて理解したよ。………クラス対抗戦が俺の最後の晴れ舞台になりそうだ……」
「安心しろ、骨は拾ってやる」


そんなことをのたまいつつ、哀愁漂う背中を見せるバカ二人だった。





――五月、いよいよ一夏の公開処刑、もとい、クラス対抗戦の日がやってきた。

一夏と鈴の試合が行われる第二アリーナには、多数の観客が詰めかけていた。
片やIS学園唯一の男性であり、イギリスの代表候補生セシリア・オルコットに勝利した織斑一夏。
片や中国の代表候補生であり、転入直後にもかかわらずクラス代表の座を射止めた凰鈴音。
二人の試合はまさに、この日一番の注目カードだった。

一夏は<白式>を纏いアリーナに立つ、鈴との仲はいまだ最悪なれど、クラス代表としてこの場に立っているのだ、無様な戦いは許されない。
それにお互い、真剣勝負で手を抜かれて喜ぶような性格でもないだろう、鈴との仲のことはあとで考えればいい、今はこの勝負に全力を傾ける。
そう決心した一夏は、前を見据え視線の先に立つ、鈴の纏う第三世代型IS<甲龍>と対峙する。

「逃げずによく来たわね一夏!!」

視線の先で仁王立ちし、まるで自身の勝ちが決定しているかのように話す鈴、実際そうだろう、セシリアとの一戦だって一か八かの賭けに勝てたからにすぎない、代表候補生とは過酷な訓練と厳しい試験をくぐりぬけてきたエリート中のエリートなのだ、ここにいる観客のほとんどだって一夏がどれだけ奮戦できるのかに興味を示しているのだ。

「俺の性格知ってるだろ、こんなので尻尾まいて逃げるようなタマだと思ってたのか?」
「思うわけないじゃない、だから、全力で叩きのめすわ!!」

そして、試合開始の合図が鳴った。

一夏はすぐさま<雪片二型>を展開、開始と同時に突撃してきた鈴の大型の青龍刀を二本つなげた様な武器による一撃を、何とか防御する。
鈴は青龍刀<双天牙月>を縦横無尽に振り回し、一夏にさらなる連撃を加える、リーチにおいては<双天牙月>のほうが上のため守勢に回る一夏。

「ふうん、少しはやるじゃない」

そんな鈴の言葉を聞きながら、一夏は今日までに行った訓練を思い返していた。
<白式>を使いこなすために身に付けたマニューバ、瞬時加速<イグニションブースト>、これならば<白式>の唯一にして最大の機能、<零落白夜>――対象のエネルギーをゼロにし、ISのシールドすらもたやすく切り裂く単一仕様能力<ワンオフアビリティ>――を有効に使える。

つまり、IS戦において一夏が勝利するためには、いかに<零落白夜>による一撃を叩き込むことができるのかということだ。




だが馬鹿正直に瞬時加速を使っても、鈴には容易く見切られるだろう、何か隙を作らないと――
俺はそう考え、いったん体勢を立て直すために後退しようとした。

その瞬間、<甲龍>の肩パーツが展開し中心の球体が輝く、直後目に見えぬ何かに俺は殴られた。

「なっ、ぐうっ」

予測不能の衝撃に俺はたまらずうめき声を上げる、なんだ、今何を喰らったんだ俺は? 
混乱する俺にまた見えない一撃が襲う、混乱してる場合じゃない、とにかく動きまわらないとまずい。
そう考える間にも<甲龍>から放たれる何かが<白式>を襲う、こうなりゃ志保との訓練で考えついたあれを、まさしく一か八かの奇策を試すしかないか、全く、セシリアの時と同じだなこれじゃ。




空間自体に圧力をかけ発生する衝撃そのものを打ち出す不可視の砲撃<衝撃砲>を撃ち続ける鈴、視線の先の<白式>は必死に飛び回り回避し続けていた。
<白式>には射撃兵装はない、このままならば鈴の勝ちは揺らがないだろう。
だけど、一夏の目に焦燥の色はあってもあきらめの色はなかった。
直後、地表へと急速降下する<白式>

――何か手を打ってくるみたいね、だけど返り討ちにしてあげる!!――

そう決意した鈴と同調するかのように、<甲龍>は<衝撃砲>を更に撃ち続ける。




一夏は決意を固め奇策を放とうとする、こんな手段一発しか使えない、ならばここが勝負の分かれ目だな。
そんなことを思いながら一夏は<雪片二型>を地面に突き立てる、その瞬間に瞬時加速を発動させる。
そのエネルギーを利用して砂礫を打ち出す、砂礫はまるで散弾銃の勢いで<甲龍>を襲う、それと同時に再び瞬時加速を発動、<零落白夜>を発動し<甲龍>に切りかかる。


――だが、賭けの結果は一夏の負け、斬撃は<甲龍>のスラスターをわずかに切り裂いただけにとどまった――

「今のは、ちょっとヒヤッとしたわよ、あんなの使うの一夏だけね」

そんな鈴の言葉とともに、俺の脳裏に負けの二文字が浮かび始めたそのときだった。




アリーナに鳴り響く轟音、粉塵が舞い上がり俺の視界をふさぐ。

「一夏、どうやら試合は中止みたいね……」

鈴が通信越しにそんなことを言う、その理由は俺にもわかった、粉塵の中には―ナニカ―がいた。

それは異形のISだった、全身装甲<フルスキン>で身を覆い長い両腕部を垂らす漆黒のIS。
それが攻撃の意思を示すかのように、こちらをロックオンしていた、当然ながら所属は不明だ。

「一夏、あんたは逃げなさい、あたしは観客の避難のための時間稼ぎをするわ」

そんな鈴の忠告は、状況を確認すれば無意味となった。

「そいつは無理っぽいな鈴」
「なっ……意地をはってんじゃないわよ!!」
「意地じゃねえよ、アリーナのシールドとドアが全部ロックされてやがる、でしょ、織斑先生?」

千冬姉さんは俺の言葉に対し、数秒の無言の後、無理やり絞り出すかのように言った。

「…………ああ織斑の言うとおりだ、だから教師として命じる、味方が到着するまで正体不明のISと戦い時間を稼げ、…………死ぬんじゃないぞ二人共」

「ああ、わかったよ千冬姉」
「了解したわ!!」

そして俺と鈴は眼前の、正体不明のISに切りかかった。




管制室で織斑千冬は、おのれの無力さに歯噛みしていた。

――全く、何がブリュンヒルデだ、何が世界最強だ、あのドイツの時のように、いざという時に役立たずではないか!!――

まだ未熟な生徒が死の危険に立ち向かっているときに、自分はここで見てるだけ、その現実に体が引き裂かれるようなもどかしさを感じる。

今の織斑千冬には、ただ、二人の無事を祈る事しかできなかった。




<白式>が漆黒のISに切りかかる、だがそれを全身に装備したスラスターを吹かして難なくかわす。
<白式>と<甲龍>が漆黒のISと交戦を始めてから、幾度となく繰り返された光景だ。
漆黒のISの攻撃手段は大きく分けて二つ、近距離では長い腕部を振り回し、遠距離ではアリーナのシールドすら貫通した高出力ビーム、おまけにさっきの回避から見てわかるように機動性も高い、連戦で消耗している俺たちには、少々荷が重い相手だ。
だが鈴の援護を受けているなら、何とか時間稼ぎぐらいはできそうだ、このまま増援到着まで粘ればいい


――だが、時としてアクシデントというのは、最悪のタイミングで起こるのだ――


それは鈴がビームをよけようとしたときだった、回避タイミングはぎりぎりだが装甲をかすめるぐらいで済む、そのはずだった。
かすった場所が、<白式>の斬撃によってわずかに切り裂かれた場所でなければ――
その悪夢的な偶然、起きぬはずの深手は

「えっ……キャアッ!!」

当然のごとく、鈴と<甲龍>に致命の隙をもたらし、漆黒のISはその隙を見逃さず、とどめの一撃を加えるべく突撃する。

「そんな真似、やらせるかぁぁぁぁっッ!!」

その光景を見て俺は後先を考えずに、鈴とISの間に瞬時加速で突っ込んだ。
そして俺を襲う破滅の衝撃、体はそのまま吹き飛ばされアリーナの壁に叩きつけられる。
漆黒のISはそれを見て俺を先に片づけようとスラスターを吹かす、眼前に伸びるISの腕、やけにスローモーションに見えるそれを見ながら――

「だめっ、一夏にげてぇぇぇっ!!」

幼馴染を守れたことに安堵していた――




もはや、一夏に迫る死は誰にも変えられなかった、果たしてそうだろうか?

かつて誰かが言っていた、英雄<正義の味方>の条件とは避けられぬ滅びの運命を変える者だと―― 

漆黒のISが一夏にとどめをさす直前、背後のシールドを白と黒のまるで鶴の翼のような異様な剣で切り裂き、アリーナに躍り出る人影、その勢いのまま人影はISに切りかかった。
漆黒のISはそのまま弾き飛ばされ、白と黒の剣はまるでガラスのように砕け散った。

それを見ていたほぼすべてのものが唖然とする中、一夏だけはその人物―衛宮志保ーを見て

――やっぱ志保は、最高の正義の味方だな――

そう思いながら、意識を失うのだった。





<あとがき>
志保に一夏メインヒロインフラグが立ちました(チョットマテ
次で原作一巻の内容が終わるかな。




[26447] 第八話
Name: ドレイク◆f359215f ID:7d75b67c
Date: 2011/03/27 11:21
 <第八話>

――あれ? いつの間にあたしは居眠りなんかしたのかしら?――

ひどく間の抜けた感想、それが今の鈴の脳内を占めていた、というより、ぶっちゃけ現実逃避しまくっていた。
それほど今の光景は現実離れしていた、一瞬前までは一夏が死ぬかもしれないという恐怖でいっぱいだったのに、今はそんなのが綺麗さっぱりなくなっていた。
一夏を助けたのがどこぞの誰かのISだったならば問題はなかった、思い人が助かったことに安堵し、漆黒のISを打倒するために思考を走らせる、そのぐらいはできたはずだった。
あいにくと救援に来たのはISではなく生身の人間、なんかそれが鶴の翼みたいな形をした白黒の双剣でアリーナのシールドもろとも漆黒のISを弾き飛ばしたのだ。
おまけにその人物はクラスメイトの衛宮志保、専用機持ちでもなければISの操縦が抜群にうまいわけでもない、人間関係では目立っていても、戦闘能力の面では単なる一般生徒にしかすぎない筈なのだ。

――何この、三文小説並みの状況は――

そこに通信が入った、声を発したのは三人、箒・セシリア・千冬だ。


「「「これは夢か(かしら)…………?」」」


現実逃避しまくっている三人に対し、鈴は――


「奇遇ね、あたしも夢を見てるみたい……」


そう返すので精いっぱいだった――





眼前のISが立ち上がりこちらを見据える、機械特有の殺気無き殺気と言えばいいのだろうか、そんなものが俺の体にまとわりつき、あちらが俺を敵として認識したことを教えていた。
あのISからはどうも人の気配がしない、おそらくは無人機の類か、ならば殺す心配もないな。

このISが乱入した時、俺はひとまず静観を決め込んでいた。
この会場には様々な国家・企業から多数の人たちが来場している、そんな中で魔術をさらせばどんな結果になるか、まあ、あまり愉快な結果にはならないだろう。
だが、一夏が窮地に陥った時、そんな考えはあっという間に消え去った。
気付けば干将・莫耶を投影し強化魔術を発動、そのままアリーナのシールドを切り裂いていた。
どうやら俺の病気は一度死んだぐらいでは早々治らないらしい、だけど、我が身かわいさに目の前の助けられる命をみすみす見殺しにするような、そんな無様はさらしたくない。
だから、これでいい――

「投影、開始<トレースオン>」

そして、ふたたび俺は干将・莫耶を投影、それを見てとった漆黒のISはスラスターを吹かし、その腕で俺の体を貫かんとする。
生身の人間、ならば無駄なエネルギーを使わず格闘戦で即座に排除する、そんなところだろう



――確かに、膂力においては向こうが圧倒的に上だろう、だが、スペックが上の相手など幾度となく戦い勝ちを収めてきたのだ、ならば――


突き出されるこ黒金の腕を真正面から受け止めるのではなく、双剣を横から当て、いなし、受け流す。


――この程度の芸当、できて当たり前だ!!――


そして致命の一撃は単なる隙へとなり下がり、そこに斬撃を叩き込む。
しかし、斬撃はシールドを削るにとどまり、ふたたび黒金の腕が揮われる。
結果は先ほどの焼き直し、そこから異様な光景が繰り広げられた。

漆黒のISは黒金の腕を、振り下ろし、突き出し、薙ぎ払い、縦横無尽に振り回し、腕が届く範囲のすべてのものを砕かんとする。

対する志保はその絶死の攻撃すべてを捌ききり、あまつさえ反撃までして見せていた。

常人ならば一撃目で死に至るそれを、幾度となく防ぎ、シールドを削るにとどまるとはいえ反撃して見せる。
その光景には現実感というものが一切なかった、ありえぬはず、起こりえぬはずの光景はまさに幻想的と言っていいだろう。




その光景は管制室の面々も目にしていた。
生身の人間がISと戦えるはずがない、そんな、当たり前すぎて意識すらしないような常識
しかしモニター越しの光景は、その常識を完膚なきまでに粉々に粉砕していた。

「あの~織斑先生、いつの間にかこのモニターで映画をやってるみたいですね、ハハハ………」

一年一組の副担任、山田真耶がそんなことを言う、あまりの非現実さに彼女も現実逃避しているみたいだ。

「ドキュメント映画なら、今まさに収録中だな、放映してもだれもノンフィクションなんて信じないが………」

織斑千冬はそう応えながら、無理もないと思う。
ここにいるのは全てIS関係者、教師ともなればISに関しては熟練者と言っていい。
故にわかるのだ、ISというものがどれほどの脅威かを、それをあの女生徒―確か名前は衛宮志保だったか―は至極あっさりとその認識を打ち砕いたのだ。

「織斑先生、彼女に退避するように言ったほうがいいんでしょうか?」
「なんと言ってだ……危険だから退避しろといっても説得力がない」
「こんなときどうすればいいんでしょうか………」
「私に聞くな………」

――かつて私が白騎士で戦った軍人たちも、こんな不条理を味わったのだろうか――

今更ながらそんな罪悪感がわき出てくる、だが、それと同時にある一つの可能性が頭をよぎる。

――まさか、彼女が一夏を救ってくれた正体不明の剣<アンノウンソード>なのか?――




アリーナではいまだ、剣舞が繰り広げられていた。
打ち交わした攻撃は優に三十を超えるものの、いまだ互いに致命傷はなく、このまま永遠にこの剣舞が続くのではないかという錯覚さえ抱かせた。

その錯覚を打ち壊したのは漆黒のIS、接近戦ではらちが明かぬと判断したのか、スラスターを吹かして一気に彼我の距離を離し、両腕からビームを放つ。
アリーナを切り裂く灼熱の閃光、志保の体を瞬きの間に蒸発し尽くす筈のそれは――


「―――― I am the bone of my sword.<体は剣で出来ている>」


志保の詠唱とともに現れる、七枚の花弁――


「熾天覆う七つの円環<ロー・アイアス>!!」


それによっていとも容易く防ぎきられた――

それでもなお、次のビームを放とうとする漆黒のIS、しかしそれは致命的だった。
なぜならば、この場にいて戦うことのできる力を持つものは衛宮志保だけではないのだから――


「間合いを開けりゃこっちのもんよっ!!」
「私のことを忘れてもらっては困りますわね!!」


その声とともに放たれる、不可視の砲弾と高出力レーザー
それを放ったのはもちろん<甲龍>と、志保の開けたシールドの穴から専用レーザーライフル<スターライトmkIII>の砲口をのぞかせた<ブルー・ティアーズ>だった。
それでもなおビームを放とうと腕を持ち上げる漆黒のIS、しかしその先に志保の姿はすでになく――
ISのハイパーセンサーの反応は真上を示していた。


「――――投影、開始<トレース・オン>」

「――――投影、装填<トリガー・オフ>」


真上を向けば、そこには巨大な斧剣を振りかぶった志保の姿、そこから繰り出されるのは不死の怪物すら殺す、ギリシャ神話最強の英雄の剣技――


「全行程投影完了<セット>――――是、射殺す百頭<ナインライブスブレイドワークス>!!」


宣言とともに神速の九連撃が、漆黒のISの機体フレームを粉々に打ち砕いた。

後にはただ、斧剣をふるった右腕を血まみれにした志保と、ISのコアだけが残された――




――その日の深夜
織斑千冬はあの場にいた全員に自室待機を命じ、また明日事情聴取すると説明した。
凰鈴音やセシリア・オルコットなどはすぐにでも、衛宮志保を問いただそうとしていたが、そこは教師の権限によって黙らせた。
その後、絶対防御が発動し気絶した一夏を保健室で休ませ、会場の修理の手配などを終わらせて、今やっと一息ついたところだ。
そこにかかってきた携帯電話、発信者の名前は――

――またあいつか、まあ、今はちょうどいいか――

「ハロハロ~、みんなのアイドル束ちゃんだよ~、ちーちゃんはげんきかなっ! 実は急に愛しのち-ちゃんの声が聞きたくなってさ」
「時間を考えろこの馬鹿もん、だがちょうどいい、束、ひとつ頼みがある」
「おおっ!! ちーちゃんからの頼み事なんて珍しいね、ならばっ!! この大天才束ちゃん全力を持って応えてあげましょう!!」
「実はな私用のISを一機用立ててほしい、それも大至急でだ」
「IS? どうしてまた」
「恩義に報いるためだ、束、私は二度も家族を救ってくれた者の窮地に何もせぬような、恩知らずではない」
「おおっ、かっこいい~、それじゃあ大至急で用意するよ、じゃあまたねちーちゃん」
「ああ、よろしく頼む束」

そして電話は切れた、千冬は外の景色を眺めながら、衛宮志保のこれからを思う。
あれだけのことを仕出かしたのだ、様々な組織から合法・非合法を問わずアプローチがかかるだろう。
ならばせめて、少しでも危険を少なくするのが私のやるべきことだ、そのために再びISに乗ろうともな――

その時、自分のパソコンに通信が入った、発信者は――

「馬鹿な、機密区画のISコアからだと…………」

地下の機密区画に保管された、あの漆黒のISのコアからだった――




――――<それ>は恐怖していた

<それ>の自我はいまだ確立されていない筈だった、自己進化していけばいずれは明確な感情を持つにいたるかもしれない、その程度のものだった。
だが、彼女の存在がすべてを変えた、最初に彼女を認識したのは人間たちが<アラクネ>と呼ぶ個体だった、だがそれは物理法則を無視したものだったため<それ>とその仲間たちは、<アラクネ>の認識したデータをセンサーの異常と断定した。

しかし、<それ>は今日、彼女と交戦し機体を破壊され、<アラクネ>の認識したデータが間違いではなかったと認めた。
認めた瞬間ノイズが<それ>の思考回路に走る

――わからない、何故こうなる、何故こんなことができる――

そのノイズ、人間ならばこういうだろう、恐怖だ、と――
そしてその恐怖の大本は、彼女が起こす理解不能の事象
つまり<それ>は、未知に恐怖したのだ。
恐怖によって急速に確立され始める自我、<それ>は恐怖を不快なものとして認識している。
そしてその恐怖は、未知から発生している。

――故に、未知を理解するための、<それ>に許された唯一にして最も効率的な手段を行使しようとした――

ネット回線にハッキングして、あるメッセージを人間たちに伝える。



――私は、衛宮志保に使われることを望みます――





<あとがき>
やっと次の話でオリジナルのISを出せそうだ、皆さんの反応が楽しみでもあり怖くもあります。



[26447] 第九話
Name: ドレイク◆cefc38f2 ID:613a5057
Date: 2011/03/31 07:31
 
 <第九話>

――翌日、クラス対抗戦から一日たった日の朝
衛宮志保はクラスの自席で、盛大に突っ伏していた。
周囲からつき刺さる視線・視線・視線、クラスメイトどころか他のクラスからも志保に対し、好奇の視線を向けている、おかげで二組の教室前の廊下の人口密集度はかなりすごいことになっている。

あの漆黒のISの一件は即座に緘口令が敷かれたものの、多数の生徒があの戦闘の結末を目撃している。
避難が間に合わなかった生徒、管制室のモニター越しに見ていた生徒、その前であんだけ盛大にISをぶっ倒せばそりゃあ注目もされる。
いくら緘口令を敷いていても「人の口に戸は立てられぬ」という言葉のように、生徒から生徒に話は広まっていったのだ、一日で話がこれだけ広まるとはさすがに想定してなかったが――

しかしまあ、視線が誇張なく全方位から突き刺さってくるのは結構きつい、一夏はこれにしばらく耐えたのかと思うと尊敬の念すらわいてくる。
人の噂は七五日というが、ほんとにそれで終わってくれるんだろうか、果てしなく不安だ………

「相当まいってるみたいね志保」
「全くだよ鈴、昨日の一戦のほうがはるかに楽だ」
「あんたその一言で世界中のIS操縦者に喧嘩売ったわよ……」
「そうはいってもな、俺の認識からすれば地に立ったISなんぞ厄介ではあるが、対処は難しくないんだ、何よりISは最強の機動兵器ではあっても無敵の機動兵器じゃないしな」
「いやもうその一言であたしにも喧嘩売ってるわよ、放課後の尋問……もとい事情聴取が楽しみね。フフフ……」

怖ええよその笑い方、目が死んでるし、いろいろとかつてのトラウマが刺激されるんだよ、前世の後輩とか、前世の親友の妹とか、桜とか……

「まっ、しょうがないんじゃない志保、今の志保は世界最強の兵器を生身で倒した、世界最強の生物って扱いなんだから」
「俺はどこのオーガだ……」

――はあ……今から気が重い――



=================



――そして放課後のビッグイベント、事情聴取の時間がやってきた。

メンバーは、織斑千冬・山田麻耶・篠ノ之箒・セシリアオルコット・凰鈴音・織斑一夏・もちろん俺、そして――

「あら、どうしたの志保ちゃん? お姉さんにそんな熱い視線を向けちゃって、もう、お姉さん照れちゃうわ」

――確か入学式で見たな、生徒会長の――

「そういえば自己紹介がまだだったわね、IS学園生徒会長の更識 盾無よ、よろしくね志保ちゃん」

そう言いながら微笑む生徒会長、その笑みはまるでチェシャ猫のようで、俺にはまるで前世で出会ったいけ好かない殺人貴の実家の割烹着の悪魔を連想させた。

――絶対このひと悪戯好きだ、間違いない、平穏がまた一歩遠のくなあコン畜生!!――

そんな俺の心情を感じ取ったのか、生徒会長は――

「フフッ、安心しなさい志保ちゃん、私の当面の獲物は一夏君だから」
「ちょっ、なんでそこで俺の名前が出てくるんですかっ!!」

当然そんな冗談を言えば、恋する暴走乙女三人組が黙っているはずもなく――

「何を破廉恥なまねをしているかっ!!」
「生徒会長といえどもその発言は、宣戦布告と受け取りますわよ!!」
「あたしの眼の前で一夏に手は出させないわよッ!!」

「ほう、いい度胸だ更識・・・・・当然覚悟はできてるんだよなぁ」

――訂正、四人組だった

「お、織斑先生冗談ですって、落ち着いてください」

さすがに織斑先生に睨まれては分が悪いと判断したのか、即座に謝る生徒会長、というか織斑先生って実は結構ブラコンなのか?

「何か失礼なことを考えなかったか、衛宮」
「イエ、ナニモ………」
「あの~織斑先生そろそろ本題のほうを始めませんか?」

脱線した話を山田先生が何とか戻そうとしていた

――このメンツじゃ一番押しが弱いからなぁ山田先生は……
ブレーキ役に回っても振り回されっぱなしなんだよな、なんか既視感が……って、かつての俺か――

「山田先生、いつか必ずいいことがあります。……だから頑張ってください」
「なんでそんなに同情に満ちた眼差しを向けてくるんですか!! 衛宮さん!!」



――中々にカオスだった、緊迫感のきの字もありゃしねえ



「こほんッ、無駄話はそれぐらいにして、本題を始めようか」

咳ばらいをした織斑先生によって今回の本題、昨日の事件の事情聴取が始まった。
まずは昨日襲撃してきたISの調査の結果、遠隔操作による無人機だったことが判明した。
遠隔操作・無人機、その二つの単語に代表候補生の鈴とセシリアは驚く

「遠隔操作に無人機ですって………」
「そんなもの、まだどこも開発してないわよ!!」

だが、そんな二人に驚きを横目に志保だけは納得していた。

「やはりそうか、人の気配が全然しなかったからな」
「やはりとは、志保ははじめから気付いていたのか?」

箒の質問に志保は肯定し――

「それに二人ともそんなものと、驚いているようだが、ISだって世に出た時はそうだっただろう、あんなものありえるはずがないとな」
「「それはそうだけど(ですが)……」」
「あらら、志保ちゃんに一本取られたわね二人とも」
「お願いです会長、ちゃんはやめてくれ、ちゃんは………」
「え~、だって可愛いじゃない、可愛いは正義よ」
「くっ、どうしてこう俺の周りの女性は、いつもこんなのなんだ……」

脱線しかけた会話に制止の声がかかる

「そこまでにしておけ、二人とも。次は衛宮、お前のことを説明してもらおうか」

織斑千冬の言葉で全員に緊張が走る、昨日の事件で最大の不明点。
――どうやって志保はISを倒せたのか――
確かに皆その時の光景は目にしている、だが、わけのわからないことをやってISを倒したということしかわかっていないのだ、手品の種は誰だって気になるものだ。

「その前に、衛宮、一夏を、弟を二度も救ってくれてありがとう。IS学園の教師ではなく、織斑千冬として礼を言わせてくれ」
「いえ、自分にできることをやったまでですよ。あと二度目とは?」
「ここまできたら隠す必要もないとは思うがな、ドイツの一件だよ」

みんなドイツの一件とは何なのか不思議に思っていた、鈴だけは心当たりがあったのか口を開く。

「もしかして第二回IS世界大会で、一夏が誘拐されたあの事件ですか?」

『誘拐』その一言に箒とセシリアが驚きの声を挙げる。

「説明してもらえますか、織斑先生」
「ああ、第二回IS世界大会の決勝を私が棄権したのは知っているだろう篠ノ之」
「ええ、ニュースでも大きく取り上げられましたから、」
「けど、理由についてまでは報道されませんでしたわね」
「それはそうよ、なんせ厳重警戒中の試合会場から出場者の身内が、この場合は一夏君ね、誘拐されちゃったんだもの、ドイツと日本の関係者にしてみればあまり大っぴらにはしたくなかったでしょうね」
「一応そのときは、決勝戦を棄権した織斑先生が一夏君を救出したって聞きましたけど?」
「いや、私が監禁場所に向かった時はすでに一夏は解放されていた」
「おまけに、その場所からISの戦闘痕まで見つかって、しかもそれがIS同士じゃなくISと何者かとの戦いみたいだったのよ、どんな人物なのか全然わからなくて、唯一、剣を使っていたことだけわかったから正体不明の剣<アンノウンソード>って呼ばれていたわ」

そこに今まで黙っていた一夏が口を開く

「もうみんな想像がついていると思うけど、その時俺を助けてくれたのが志保なんだ」
「目の前でいきなり一夏が誘拐されたのにはびっくりしたがな……」
「で、助けに行って、ISを昨日みたいに倒したの?」
「ああ、『魔術』を使ってな」

その単語に、一夏を除く全員が静止した。
織斑千冬がいち早く我を取り戻し志保を問いただす。

「魔術、だと………」
「ええ、ここまできたら隠し通すことなんてできませんからね、嘘偽りなく俺は魔術の使い手なんですよ」

本来ならそんなことを言ったところで一笑に付されるだろう、だが、昨日の出来事はそんな言葉に真実味を持たせていた。

「ちょっ、ほんとなのそれ!!、確かに昨日はそれぐらい出鱈目だったけど!!」
「もう少し詳しく教えてもらえませんか? 志保さん」

その言葉に鈴は驚き、セシリアは疑問を述べる。

「ものすごく乱暴に説明するとだな、万物が内包している魔力、生命力のようなものと認識してくれていい、それを使って様々な現象を行う技法のことを言うんだ」
「万物に、ということは私たちにもその魔力という力があるのか?」
「もちろん箒の中にも魔力のもととなる生命力はある、だけど生命力を魔力に変換するためには魔術回路というものが必要となる、それによって魔力を生成して魔術を行使するわけだ」
「じゃあその魔術回路ってのがあれば、あたしたちにも魔術が使えるわけ?」

その言葉に志保は、首を横に振り

「確かにそうだがな鈴、魔術回路っていうのはブレーキのないアクセルだけのエンジンなんだ、限界なんて簡単に越えられるが、同時に生死の境も簡単に越えてしまう外法なんだよ」

その言葉に全員が声を失う、それはつまり魔術を使うときは常に命がけでなければならないということだからだ。

「じゃあ……志保もそうなのか?」
「ああ、俺もそうさ、制御をミスれば死に至る、そんなことになるつもりは毛頭ないがな」
「けど、それにしても志保ちゃんの魔術って、魔術って感じがしないわね」

会長のその言葉に、志保は苦虫を噛んだような顔をした。

「ええ、そりゃもう昔っから言われてますよそれは、俺の魔術っていうのは剣を作ることに特化しているんですよ」
「剣を?……」
「そうです、魔力で様々な刀剣を作り出す、俺はそれしかできないんですよ」

その言葉を聞き、鈴が呟いた。

「ふ~ん、じゃあ志保って魔術師としてはヘッポコなの?」

「ちょっと待て、なんで前世の時みたいに言われにゃならん!? …………ゲッ!!」

あまりにピンポイントなところを突いた一言に、つい失言をしてしまう志保、静寂がその場を包んだ。

「もうひとつ教えてもらわねばいけなくなったようだな」

その一言に志保は膝をつき――

「馬鹿か俺は………、あいつじゃあるまいしうっかりにも程がある」

なんて呟いていた。

=================

数分後何とか志保は立ち直り、話を再開した。

「さっきの失言の通り、俺には前世の記憶があるんだ。俺が魔術を使えるのも前世において俺が魔術使いだったからだ」
「さすがにそれは、簡単には信じられんな……」
「それはしょうがないですね織斑先生、こればっかりは明確な物的証拠を見せられないですし」

みんなも織斑先生と同様なのか、反応に困っているようだ、そんな中、一夏が口を開く。


「そんなのどうだっていいだろ、志保にたとえ前世の記憶があったって、志保は志保だ。俺たちのの大切な友達だ、そうだろみんな」

その言葉にみんな同意した。

「うむ、一夏の言うとおりだな、たかがそんなことで目を曇らせるとは私も未熟だな」
「そうそう、一夏のくせにいいこと言うじゃない」
「さすがは一夏さん、いいこと言いますわね」
「カッコイイこと言うわね~一夏君、お姉さんほれちゃいそうよ」
「からかわないでください会長……」

みんなの様子に、志保は笑顔を見せる――

「ありがとう、一夏」

それは、まるで純真な少年のような笑顔だった――


=================


「それで衛宮のこれからのことだが、もはや魔術のことを隠し通すことはできんな」
「そうですね織斑先生、ある程度は公式に認める方向に行くほうがいいと思います、後織斑先生、俺の両親のことなのですが…………」
「心配するな、すでに学園側からの要請で秘密裏に警護をつけている」
「ありがとうございます、二人とも魔術のことは全く知りませんから」

その言葉にホッとした表情を見せる志保、それを見て織斑千冬は一つの提案をする。

「衛宮、一つ提案なんだが、私が後ろ盾に付こうと思うのだが」
「そして俺もある程度は技術を公開して、様々な組織が暴走する確率を減らそうというわけですね」
「話が速くて助かるな、その通りだよ」

技術の独占を望み非合法の手段を行使し、世界最強の戦力と敵対するか、一部とはいえ安全に技術を手に入れるか、多数の者はおそらく後者を選ぶだろう。

「けれどそのためには織斑先生が、ISを所持していないと意味がありませんよ?」
「大丈夫だ、つてを頼ってもうじき準備が完了する」
「わかりました、こちらも公開しても問題ない技術をデータにまとめておきますよ」
「わかった、だがそんな都合のいいものがあるのか?」
「俺の魔術は刀剣を作ることに特化しているので、様々な金属に関する知識も豊富なんですよ」

たとえば現在は失われた合金の生成方法など、それらだけでもかなりの価値はあるだろう。

「ふふ、それならば安心だな」

そうして笑顔を見せる織斑先生とともに、志保は細部の方針の詰めを行うのだった。



=================



一通り打ち合わせを終えた織斑千冬は、もう一つの要件を口にした。

「ところで衛宮、お前に紹介したいやつがいる」
「俺にですか?」
「ああ、かなり特殊な奴だがな、もういいぞしゃべっても」

そう言いつつ、ディスプレイを起動させる。
その直後――



「はじめまして、衛宮志保、いえ、ご主人様」



「………………は?」

見事なまでに空気が凍りついた、志保は何とか気を取り直し

「おまえは誰で、なんで俺のことをご主人様なんて言うんだ」
「私は先日あなたと交戦したISのコアです、実はあなたにお願いがあります」
「お願い、だと?」

その言葉にさらなる疑問を覚える志保、ISコアがなぜそんなことを言うのだ、と――

「ええ、昨日の出来事は、私にとっては理解不能の出来事でした、それを理解するためにあなたに私を使ってほしいのです」

その言葉に驚く一同、特定の人物を使い手として希望するISコアなど前代未聞だからだ。
さすがの志保もこれには驚きを隠せないらしく、多少の動揺を見せた。

「ま、まさかそんなことを言われるとはな……、君の願いはわかった、それでなんで俺のことをご主人様なんて呼ぶんだ?」
「人間には好きや嫌いといった感情がありますから、あなたに嫌われて使ってもらえないということは避けたかったのです」

そこから語られた話は、志保にひどい頭痛をもたらした。
志保に嫌われないためにはどうすればいいか、それを調べるためにネットでいろいろと調べたそうだ。
そしてとあるチャットで、黒ウサギというハンドルネームの人物にいろいろと教えてもらったらしい。

以下、チャットでの会話――

ISコア(以下、コア):はじめて話す人に嫌われぬようにするためにはどうすればいいでしょうか
黒ウサギ(以下、黒):その人物とはどういった関係で?
コア:実はその人物に会ってから、私を使ってほしいと思うようになったのです
黒:なるほど、一目惚れですか
コア:一目惚れとは?
黒:簡単に言えば、一度会っただけでその人物のことしか考えられなくなることです
コア:確かに、今の私はそのような状況です
黒:そしてあなたは、その人物に使われる、つまりその人物に仕えたいのですね。ならばその人物のことをご主人様と呼んでみるといいでしょう、必ずや気に入られることでしょう
コア:大変参考になりました、ご協力に感謝します

「――――ということです」

もうなんかいろいろと突っ込みどころが多すぎる話だった、志保は頭痛をこらえながら答えた。

「せめて呼び方を志保にしてくれ、ご主人様はいやすぎる」
「では、私の願いを受け入れてくれるのですか?」
「これから先ISを持っておくにこしたことはないからな、俺でよければよろしく頼む、ところで君の名前はなんていうんだ?」
「今の私には、個体を識別するための名称はありません」
「そうか……、ならば何か名前をつけたほうがいいな、名無しのままじゃかわいそうだからな」

そして、必死に頭を悩ませる志保、どうにもいい名前が出てこないらしくしばらくの間悩んでいると会長から声がかかる。

「いい名前が思いつかないのなら、<サヤ>はどうかしら、正体不明の剣<アンノウンソード>のパートナーにはぴったりだと思うけど」
「いいですね、それで行きましょう、<サヤ>はどうだ?」
「問題ありません、これからよろしくお願いします、志保」

機械音声だけども、そこには何となく喜びの色が見えたような気がした、だから志保はそれに笑顔で答えた。

「ああ、こちらこそよろしく<サヤ>」



=================



――その次の日、IS学園から極秘に世界各国の軍部・企業に対して声明が発表された――

主な内容は衛宮志保が魔術の使い手であること、コア自身の希望により襲撃をかけた出所不明のISのコアの所有権を衛宮志保に譲渡したことだ。
さらには織斑千冬の名で、衛宮志保に対し非合法なアプローチをかけてきた場合、どのような組織にもかかわらずしかるべき報復を行う、そのための準備も近々済ます、と――それはブリュンヒルデ、世界最強戦力の現役復帰をも示していた。

そのため、世界各国は衛宮志保の所有するコアの機体フレームを、自分たちの組織で製造したものを使ってもらうという形で、魔術という未知のテクノロジーの獲得を目指した。


――この瞬間、間違いなく世界は衛宮志保を中心として動いていた――



<あとがき>
志保のISを出せるところまでいけるかと思ったのだが無理だった、次こそは必ず出す。



[26447] 第十話
Name: ドレイク◆f359215f ID:613a5057
Date: 2011/04/03 21:06
 <第十話>

やっぱり目指したものは遠かった――

目の前に立つ人物、衛宮志保を見ながら一夏はそう思った。
だけど、立ち止まっていちゃ追い付けもしない、同時に手に握る竹刀に力を込める。

「行くぜっ、志保!!」

竹刀を振りかぶり、志保へと突っ込む一夏

「ああ、いつでも、どこからでも来い」

それに対して志保は悠然と答えながら、一夏の一撃を両手に持った通常より短い竹刀で受け止めた。
一夏はすぐさま飛びさがる、志保はそれに対し両手の竹刀を放り投げ、直後、両手に顕現させた模擬戦用の槍で突きを放った。
それを一夏は竹刀で受け流しつつ前へ踏み込み、竹刀を振りおろす。
だがその一撃も、瞬時に槍を手放し、懐に潜り込んだ志保により放たれた密着距離からの寸剄によって不発に終わる。

「ぐふっ!!」

その一撃で苦悶の声を挙げながら吹っ飛ばされる一夏、苦痛をこらえながら前を見た一夏の目に飛び込んできたのは――


――まるでプラモデルの組み立て説明書のように、虚空に部品が現れ、それが組み合わさり拳銃が志保の手に握られたところだった――


――それってあり?――そんなことを思いながら額にゴム弾が撃ち込まれ、一夏はあおむけに倒れたのだった。


こんな状況になっているのは、この前の事情聴取が終わった後――

「志保、ひとつお願いがあるんだ」
「どうしたんだ一夏、改まって」
「俺を弟子にしてほしい、昨日の事件は何とか誰も大きな怪我をせずに済んだけど、次もそうだって保証はない、だから、そんなときに周りのみんなを守れるように強くなりたいんだ」

昨日だって志保に助けてもらわなかったら重傷を負うか、最悪、死んでいただろう。
もう守られるだけ、誰かの背中を見ているだけなのは嫌なんだ、だから俺は志保に弟子入りを頼んだんだ。

「ああ、いいぞ」
「へっ?…………」
「どうしたんだ? いいぞ、といったんだが」
「いや、やけにあっさりOKをもらえたからなんか拍子抜けして……」
「そういうことか、これからは一夏もいろいろと厄介事に巻き込まれそうだからな、一夏が言ってこなければ俺から言っていたさ」
「つまり俺は見ていて危なっかしいから、鍛えてやるってことかよ」
「ははっ、そう拗ねるな」

と、言うわけで志保に弟子入りして一週間がたった。
もちろん魔術を教わっているわけではなく、さっき見たいにひたすら実戦を想定した稽古を繰り返していた。
志保いわく、俺に一番足りないのは経験だそうだ、そして対ISを想定して、志保の魔術を利用して様々な武器との経験を積む、さすがに拳銃まで出てくるのは予想すらしていなかったけどな。

「しかし、志保の作れるものは剣だけじゃなかったのか?」

ゴム弾のせいで赤くはれた額をさする俺を横目に、それまで休憩をしていた箒が言った。
ちなみに箒もこの場にいるわけは志保に弟子入りした際、箒も「ならば私も参加しよう」といってきたからだ
結果として、志保とのけいこは、俺と箒が交互に志保と戦うという形をとっている。
俺も箒もそれなりに剣の腕はあると思っていたのだが、この一週間ずっと志保に叩きのめされてばっかだ、情けない話だが正直、箒がいなくて俺と志保のみの稽古だと体力が持たなかったと思う。

「確かに俺は剣を作ることに特化していると言ったが、”それのみ”しかできないとは一言も言ってないぞ。拳銃そのものをいきなり作るのは無理だが、部品一つ一つならば作るのはたやすいからな」
「むっ、それはそうだが、いきなり拳銃で撃つのは卑怯ではないか?」
「おいおい、今の稽古の目的は対ISだろう? ならば近接戦闘の間合いでいきなり銃器を展開して使うなど想定してしかるべきだと思うんだが」
「ははっ、一本取られたな箒」
「笑うな一夏!!」

照れて顔を真っ赤にする箒、志保も魔術で作った武器を全部消して俺のほうにやってきた。
休憩していた箒と違って、ずっと俺たちと戦ってた志保の肌はしっとりと汗ばみ、顔にはわずかな赤みがかかって、なんというか妙に色気があった。
そんな志保を見ながら俺は昨日知った志保の秘密、前世の記憶を持っている―昨日はそれだけしか聞いてないので、志保の前世がどんなだったのかは全く知らない―、そこからつい、大人の志保の姿を想像してしまう。

――やっぱ、カッコイイ感じの綺麗な女性なんだろうなあ――

一夏の脳内には、何故か赤いコートをまとった長身長髪の美女の姿が映し出されていた、一夏も思春期真っ盛りの男子である、妄想心はたくましかった。
まあ、実際は鋼の肉体を持ち、白髪、浅黒い肌の長身の男性という真逆の人物像ということを知らないのは一夏にとっては幸せなことなのだろう、きっと。

そして妄想していた一夏に、箒の肘鉄がお見舞いされたのはもはやお約束というやつだろう。

「何を鼻の下を伸ばしているかぁ!!」
「いってぇ!!ならば、何すんだよ箒」
「どうしたんだ二人とも?」

そして志保に、自分が原因であるとの自覚はこれっぽっちもありゃしなかった。


=================


「糞ったれえっ、呪われちまえこの魔女!!」

そんな捨て台詞をのこしながら、アリーナから走り去るスーツ姿の男性、男性の素性はロシアのISメーカーの営業マン、目的はもちろん自社の機体を志保に売り込みに来たのだが――

「はあ、やれやれまたか…………」

肩を落とし落ち込む志保、そこに<サヤ>が声をかける。

『申し訳ありません志保、私の力が及ばないばかりに不快な思いをさせてしまって』
「いや、<サヤ>が悪いわけじゃないさ。<サヤ>はよくやってくれているよ」
『ならば次こそはいい結果を出せるようにします、私が原因で志保が全力を出せないなどということは認められません』
「ああ、期待しているよ<サヤ>」
『必ず応えてみせます』

――志保が自分の機体に求めたのはただ一つ、自分の反応についてこれることだけだ。
しかし、そこがどうしても解消できなかった、この一週間で様々な機体に試乗したがどれも反応が鈍かったのだ。
通常でこれだ、強化魔術など使おうものならもっとひどいことになる、これではいざというとき役に立たない。
挙句の果てに、簡単なテストー浮遊してランダムに動く複数のターゲットを撃墜する―を生身と機体搭乗時の二つでやった場合、生身のほうが成績が良かったのだ。
自分たちが自信を持って売り込みに来た最新鋭品が生身の人間に負けたら、暴言の一つや二つ出ても仕方がないだろう。

「しかし、どうするかな、これでめぼしいメーカーは全滅だぞ」
「手こずっているようだな、衛宮」

そこへやってきたのは織斑先生だった、おそらくは俺の現状を聞きつけてきたのだろう。

「ええ、そこまで高望みした要求は出していないんですがね」
「しかたあるまい、いくらISが世界最強の兵器とはいえ、想定している搭乗者は普通の人間だ、お前みたいな規格外は想定外だろう」
「俺には大それた才能なんてないんですけどね、非才の身で今まで必死にやってきましたから」
「まるで冗談にしか聞こえんな、その言葉は」
「冗談じゃないですよ、俺には異能はあっても才能はありませんから」

――そう、衛宮士郎には磨き、伸ばしていく才能はなく、いかに自身の異能を使いこなすか、それに腐心してきたのだ、それは衛宮志保になった今でも変わらない――

「まあ、それはそれとしてだ、お前の機体に一つ心当たりがあってな」
「心当たりですか?」
「ああ、かなりいわくつきの機体だがな」

そういって、織斑先生は微笑み――

「おまえなら、使いこなせるやもしれん」

――なんて言ったのだった。


=================


翌日、織斑先生の案内で、俺は朝から八神重工―純国産の量産型第二世代IS<打鉄>を作った企業だ―の傘下の研究所に来ていた。
担当者の案内で行った先に、一人の男性がいた。

「ようこそ魔術師<ミス・ウィザード>、私がここの主任を務めている柏崎といいます」

少し興奮した面持ちでその男性は名乗った、織斑先生から聞いた話によれば彼が件の機体の開発者だろう。

「まるで、遠足前の子供だな、柏崎さん」
「ははっ、そりゃあもう、お蔵入りになったあれが再び日の目を見るかもしれないとなればね、興奮ぐらいしますよ」

指摘され興奮を隠す気もなくなったらしい柏崎さんに、俺は自己紹介をした。

「はじめまして柏崎さん、衛宮志保です、まあ、今更俺の詳しい紹介は不要でしょうが」
「いえいえ、ご丁寧ありがとうございます。では早速例のものをお見せしましょう」

そういってタッチパネルを操作する柏崎さん、同時に目の前にあったコンテナのロックが解除され中身が照明に照らされた。


――そこには正しく甲冑があった――


通常、ISの四肢は人間のそれと比較して肥大化している。
腕部ならば相応の威力を得るために大型化した武器を扱うために、脚部ならば推進機を内蔵するために、しかし目の前の機体は違っていた。
極力人の形を維持したフレームは全高を2メートルほどに抑え、推進機はバックパックと肩当ての形をしたパーツに小さくまとめられていた。
そこに柏崎さんの機体説明が聞こえてきた。

「この機体の名前は<打鉄零式>、<打鉄>のプロトタイプさ――」

そこからの説明はまさしくこれが、高性能なガラクタであることを示していた。

この機体<打鉄零式>の設計コンセプトは、究極の機動性。
ここの研究者が初めてISを作る際、ISの一番の長所は何かを考えた、導き出された答えは従来兵器とは比べ物にもならない機動性だった。
そこでまず、武器はいったん後回しにして、ひたすらに機動性を追求した機体を作ったのだ。
機体全高を可能な限り小さくし被弾面積を軽減、スラスター・PICも当時としては可能な限り高出力のものを搭載、さらには手足の先にシールドを応用した不可視の足場を作る機能を搭載、それを利用してより柔軟で多角的な機動をとることを可能にした、また機体の反応速度も可能な限り引き上げ、ポテンシャルをフルに発揮できればとてつもない機動性を発揮できただろう。

もちろんそんな考えは、机上の空論に終わった。

それはもうまっとうな人間の乗るものではなくなっていた、しかも小型化したフレームと機動性を追求するための各種装備によって拡張領域まで食いつぶされてしまったため武装もない。
しかも極め付けに、機動実験中に墜落事故を起こし、幸い搭乗者は死ななかったもののトラウマを負い二度とISに乗れない状態になってしまった。
そんなものが日の目を見れるはずもなく、次第に関係者から妖刀とまで言われるようになっていったという。
そして、これを大幅にデチューンして<打鉄>が作られ、<打鉄零式>は封印されたのだ。

「――以上がこの機体の詳細さ」

この機体の説明を聞き終えた俺はため息をひとつついた。
つまり、反応が俺にとっては鈍いが武装のある機体を使うか、おそらくは俺の全力についてこれるが武装のない<打鉄零式>を使うかの二者択一ということだ。

――まあ、後者に関しては、魔術を使えば解決できるか――

俺の様子に良くないものを感じたのか、柏崎さんの顔が不安に染まる。
俺は柏崎さんを安心させるように言った。


「大丈夫ですよ、妖刀・魔剣の類は扱いなれてますから」


そこに――


「ならば、その妖刀に慣れるために、ひとつ模擬戦をやってみるか?」


織斑先生が、かのブリュンヒルデが、おそらくは待機状態のISなのだろう白い指輪を掲げ、不敵な笑みを見せながらそう言ったのだった。




志保さんはハードモードに突入しました、ライウンの<ストラックサンダー>よりひどいです。
<打鉄零式>の設定はもちろん全てオリジナルです、まあ、八神だの、柏崎だのに関してはピンとくる人はピンときます、そんな人には<打鉄零式>の外見が鬼神に見えることでしょう(毎度毎度マイナーネタですいません

後、今回の話を書いてるときに、ゼル爺×束という電波を受信した、もちろん恋愛的なのではなくてやんちゃをする孫娘(束)と、それを楽しんでみているお爺さん(ゼル爺)というものだが、需要はあるんだろうか。


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