2011年2月11日 20時57分 更新:2月12日 0時24分
【モスクワ大前仁】ロシアを訪問中の前原誠司外相は11日、モスクワでラブロフ外相と会談した。日露間で最大の対立点となっている北方領土問題の議論は平行線に終わり、協議継続を確認するにとどまった。菅政権は発足後初めての外相訪問で対露外交の立て直しを目指したが、菅直人首相の「暴挙」発言などでロシア側の態度が硬化し、歩み寄りはなかった。
会談後の共同会見でラブロフ外相は「前提や歴史的なとらわれなしに議論を進める必要がある」と述べ、日本に「四島返還」からの譲歩を求めた。前原外相は「日本の原則的な立場は変わらない」として、四島は「歴史的にも国際法的にも日本の領土」と強調した。
会談は予定の1時間を大幅に上回り、約2時間に及んだ。ラブロフ外相は「良好な雰囲気の中で会談を行いたかったが(今月7日の)『北方領土の日』に容認できない行動があり、そのような雰囲気ではない」と発言。菅首相が昨年11月のメドベージェフ大統領の国後島訪問を「許し難い暴挙」と発言したことなどを間接的に批判した。前原外相はロシア要人の相次ぐ北方領土訪問に遺憾の意を表明した。
ロシア側は領土問題を議論するための歴史専門家委員会の設置を提案したが、日本側は「有益か疑問」(前原外相)と消極的な姿勢を示した。一方、北方領土での共同経済活動について日本側は「日本の法的な立場を害さない前提で可能かどうかハイレベルで議論していく」(前原外相)ことに同意した。ただラブロフ外相が会見で中国や韓国などからの投資にも歓迎を表明したのに対し、前原外相は「他国からの投資はわが国の立場と相いれない」と反発した。
菅首相の訪露については会談では協議されなかった。
前原誠司外相とロシアのラブロフ外相の共同記者会見での発言要旨は次の通り。
ラブロフ氏 「北方領土の日」(7日)の出来事や発言は日露関係の雰囲気を悪化させた。平和条約問題で日本政府が過激なアプローチに同調するなら交渉の展望はない。領土問題は国民の理解を経て解決しなければならない。前提や歴史的なとらわれなしに議論を進める必要がある。歴史専門家委員会の設置を提案した。委員会は有益で、他の国との間でも設置されている。
南クリル(北方領土)にはエネルギー、観光など投資の潜在力がある。中国や韓国、日本の投資家を待っている。投資家への特権制度を作ることも可能だ。
前原氏 領土問題で基本的に両国の考え方は平行線だ。北方領土は歴史的、国際法的に日本固有の領土だ。立場の違いがあるが、これまでの合意の諸文書と法と正義をもとに、双方が受け入れ可能な解決法を模索する必要がある。日露は重要な隣国であり、あらゆる分野で協力を進めなければならない。信頼と協力関係の積み重ねで平和条約を結ぶ考えは変わっていない。
経済協力はロシアだけでなく日本の利益にもなる。ウインウインの関係を築ける分野だ。北方領土での経済協力は、日本の法的な立場を害さないという前提で、ハイレベルで議論していく。歴史専門家委については、過去にも議論があったが、有益なものになっているかどうかは疑問だ。【モスクワ支局】