守護戦士エンジェリオン！第四話｢甘い誘惑にご用心！？｣

約一ヶ月の間、ご無沙汰していました。今回は、守護戦士エンジェリオン！第四話｢甘い誘惑にご用心！？｣の一部シーンのSSになります。今後も、主にエンジェリオンを題材にした作品になると思いますが、投下は続けていきますので、よろしくお付き合い下さいませ。では次回。守護戦士エンジェリオン！第五話「危険な夢の謎を追え！」をお楽しみに！

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壁に悪魔のような顔をしたレリーフが掛かった薄暗い部屋に、一人の女性が立っている。
そして、そのレリーフから声が聞こえてくる。
「ゾーラよ。エンジェリックストーンの捜索は進んでいるのか？」
ゾーラと呼ばれた女性はレリーフの前に跪き、問に答える。
「はい。お喜びください悪魔王様。土のエンジェリックストーンの在り処が判り、妹のロクシーが直接回収に向かっています」
ロクシーとはゾーラの妹で、デモニアンの戦闘隊長を務めている。
「ほう。ロクシーならば、火のエンジェリックストーンのようなことにはなるまい。期待しているぞ」
少し皮肉を込めた悪魔王の言葉に、ゾーラは一瞬顔が暗くなるが、直ぐに報告を続ける。
「はっ！、水と風のエンジェリックストーンは有力な手掛かりが無く、現在も捜索中です。そして、行方知れずだった火のエンジェリックストーンは、エンジェリオンと名乗る邪魔者の手に・・・」
「エンジェリオン。我を今尚押さえつけている、神の力に適合した者か」
「はい。悪魔王様。エンジェリオンは我々の作戦の場に突然現れ、一人で怪人を打ち破る程の力を持っています。このままでは、悪魔王様復活の為の、エナジーの回収にも問題が・・・」
「ククク・・・。面白い」
悪魔王が楽しそうにそう呟くと、ゾーラは驚いた顔を見せる。
「面白い・・・ですか？」
「そうだ。実に面白い。やはり、こうでなくては歯ごたえが無い！」
「はぁ・・・（障害が無いと燃えない。悪魔王様の悪い癖だわ）」
ゾーラは心のなかでため息をつくが、表情には出さず、じっと悪魔王の言葉を聞く。
「邪魔者がいない世界征服の何が面白い？、これは、憎き神へ復讐するチャンスでも有る！、ゾーラよ。必ずやエンジェリオンを倒し、我の前に火のエンジェリックストーンを持ってくるのだ！」
「はっ！」

---

悪魔王との謁見が終わり、自室に戻ったゾーラ。
[はぁー・・・。悪魔王様はああは言っていたけど、作戦を考えたり怪人の素体を探したり、私は楽に世界征服できた方が良いのよね」
ぶつぶつとぼやきながら、ゾーラは机に座る。
「さて、次の作戦はどうしようかしら」
ゾーラは効率良くエナジーを集める作戦を考える為、日課の人間の世界の情報収集始める。
「ふーん。人間の間では、スイーツと言うものが流行っているのね。特に女性に人気・・・ふふ。これは使えるわね」
次の作戦の候補を決めると、早速調査に行く店を探す。
「最近人気のスイーツカフェか・・・。ここにしましょう」
そう言うと、ゾーラは人間の服装に着替え、部屋を出て行く。

---
[newpage]
「ここね」
黒いスーツに身を包んだゾーラが店の前に着く。
ゾーラが目をつけた店は、最近オープンしたばかりのスイーツショップ「サウスカフェ」。
店長も従業員も全て女性で、名前の通り南向きで日当たりも良く、店内と外に飲食スペースも有り、開放感のある店構えをしている。
近くに学校が有ることから、放課後は学校帰りの学生で店内は賑わっている。
「こ、混んでる・・・」
ゾーラが着いた時間は丁度放課後なので、当然店の中は混雑しているし、店の外まで人の列ができている。
「少し、時間をずらした方が良さそうね」
ゾーラは余りの混雑に列に並ぶ気にはならず、店の周りをぶらぶら歩き始める。
丁度、店の裏口の辺りに着くと、奥から声が聞こえてくる。
「あら？、何かしら？」
狙いをつけた店の裏口からの声が聞こえてきたので、ゾーラは物陰に隠れ聞き耳を立てる。
「レイ！、あんたまた分量を間違えたでしょ！」
「す、すみません」
裏口の前には二人の女性がいる。会話の内容から、どうやら仕事でミスした女性を叱っている所のようだ。
「ほんっとにドジなんだから！、何度言っても治らないわね。本当にやる気有るの？」
「はいっ！、やる気はあります！」
「そう。でも、いい加減にしないと私から店長にクビにするように言うから。良いわね！？」
「・・・はい」
「ふんっ！」
一方的に怒鳴りつけていた女性は店の中に戻って行くと、叱られていた女性だけが裏口の前に残る。
彼女の名前は金子レイ。
将来は、自分のスイーツショップを開くことを夢に、今は見習いのパティシエとして、「サウスカフェ」で働いている。
「はぁ・・・。私って、どうしてこうドジなんだろ。やっとパティシエの修行ができるお店が見つかったのに・・・」
ゾーラが叱られていた女性をじっと見つめると、にやりと笑う。
「あの子、良いものを持ってるじゃない」
そう呟くと、ゾーラが落ち込んでいるレイの方に向かい、声をかける。
「ねぇ。何を落ち込んでいるの？」
「え？」
後ろから突然声をかけられ、振り向くレイ。
そこには、黒いスーツを着こなした女性が立っていた。
「あなたは？」
「私？、私の名前はゾーラ。あなたの名前は？」
「あっ。すみません、私の名前は金子レイ。このお店で、パティシエの修行をしています」
「あなた、さっきここで怒鳴られていたけど、どうしたの？」
「え・・・それは・・・」
レイの顔が暗くなる。
「ごめんなさいね。さっきの話をたまたま聞いてしまったの。私で良かったら、相談に乗るわよ？」
「ほ、本当ですか？」
「ええ。私は困ってる人の相談に乗るのが仕事だもの」
レイの問いかけににっこりと微笑むゾーラ。
「ちょっと！、早く戻ってきなさいよレイー！」
店の奥から自分の名前を呼ばれてることに気づき、レイははっとなる。
「すみません！、今は仕事中なので戻らないと！」
「あらそう。残念だわ。じゃあ、もし話したいことが有るならここに連絡を頂戴」
そう言って、ゾーラはレイに連絡先の書かれたメモを手渡す。
「はい。じゃあ、失礼します！、あ・・・。ゾーラさん」
「何かしら？」
「今日は話しかけていただいて、ありがとうございました！」
レイはゾーラにぺこりとお辞儀をする。
「ふふ。私こそ仕事の邪魔をしてごめんなさい。頑張ってね」
「はい！」
レイは元気に返事をした後、店へ戻っていく。
「やっぱりあの娘。良いわ・・・。悪魔王様の為に働いてもらいましょう」
ゾーラは満足気な顔でその場を後にした。

---

店は無事閉店し、レイが後片付けをしていると、店長が話しかけてきた。
「レイちゃん。それが終わったら、大事な話が有るから私の部屋に来て」
恐らく叱られていた話だと思い、レイは渋々返事をする。
「は、はい」
後片付けが終わり、レイは店長の部屋に入る。
「失礼します」
部屋の中にいたのは店長一人で、レイは少しだけホッとする。
「レイちゃん。まずはお疲れ様。今日も叱られていたわね」
「はい。全部、あたしのドジが悪いんです・・・、叱られてもしょうがありません」
「レイちゃん。私はレイちゃんの夢が叶うよう応援してるわ。できることなら、一人前になるまでお店で働いていてもらいたい。でも、このままだと他の従業員の皆や、お客様に迷惑をかけてしまう。それは判ってるわね？」
「・・・はい」
店長は心の底からレイを応援しているが、立場上どうしてもレイに厳しい言葉もかけないといけない。
応援をしてくれていることは嬉しいし、立場上の問題もレイは判っているが、それがレイを余計に気負わせてることまでは判っていない。
「自分はドジだからって決め付けないで、前向きに頑張って！、あなたのことを応援してくれる人は私以外にも沢山いるはずよ」
「ありがとうございます！、店長。じゃあ、これで失礼します」
「ええ。おやすみなさい。気をつけてね」
レイが部屋を出て行くのを、店長は微笑んで見送る。

---

その日の夜、レイは寝付けずにいた。
今日は叱られただけでは無く、店長とも話したことで、心のもやもやが何時まで経っても晴れないでいる。
「はぁー・・・。やっぱり向いてないのかな・・・」
レイが溜息をついて落ち込んでいる時、ふと、今日会ったゾーラという女性のことを思い出す。
「そういえば、人の相談に乗るのが仕事って・・・カウンセラーか何かかな」
ゾーラに渡されたメモを手に取り、考え込む。
「このままだと何時か店を辞めないといけない。前向きに頑張らないと・・・」
店長に言われたことを思い出し、レイは思い切ってメモに書かれている連絡先に電話をかける。
「もしもし？」
「もしもし。えっと、ゾーラさんですか？」
「ええ。その声・・・金子レイさんね？」
「はい。こんな時間ですが、お話を聞いてほしくて・・・」
「ふふ。大丈夫よ。それじゃ、話を聞かせて頂戴」
「はい！」
金子レイは、自分の将来の夢が自分の店を持つこと、仕事場でいつもドジをし、従業員に叱られていること、店長は応援してくれているが、それが負担になっていることをゾーラに告白する。
「話は判ったわ。レイさん、あなたは一度カウンセリングを受けてみたほうが良いわ。私が紹介してあげるから、明日一緒に行かない？」
「明日ですか？、お店が終った後になら・・・遅いですか？」
「いいえ、大丈夫よ。じゃあ、明日お店に迎えにいくから、待っていてくれない？」
「判りました。ゾーラさん。今日は話を聞いてくれて、本当にありがとうございました。おかげですっきりしました！」
「ありがとう。そう言ってもらえると私も嬉しいわ。じゃあ、また明日会いましょう。金子レイさん・・・」
「はい！」
レイは返事をした後、電話を切る。
ゾーラと話したことで気が楽になったのか、そのままレイは自分のベッドに入って眠った。

---

次の日、レイはいつも通り店へ出勤する。
店に入り、店長や従業員に挨拶を済ませると、早速仕事を始めた。
そして、店の閉店時間まで何事も無く、時は進んでいった。
「皆さん。今日もお疲れ様でしたー！」
珍しく一日ドジもせず叱られもしないで一日が終わり、レイは上機嫌に帰りの挨拶をする。
「お疲れ様。明日もよろしくね」
「お疲れー」
レイの挨拶に挨拶を返す店長や従業員。
「はい！」
レイは元気に返事し、店の外へ出て行こうとした時、店の前でゾーラが待っていることに気づく。
「あ。ゾーラさん！、お待たせしました」
「お疲れ様。昨日はお電話ありがとう」
「こちらこそ、ゾーラさんとお話できて気が晴れました。今日なんて、一日ドジをしなかったんですよ！」
レイが嬉しそうに笑い、ゾーラも釣られて笑顔になる。
「そう。それは良かったわ。じゃあ、早速行きましょうか」
「はい！」
「良い返事ね。こっちよ。付いて来て」
そう言うとゾーラは歩き出し、レイも後をついていく。

---
[newpage]
しばらくの間、レイはゾーラの後を歩いていると、ゾーラは人気の無い路地裏に入っていく。
レイは少し戸惑ったが、その間にもゾーラはどんどん先を進んで行く。
ゾーラとの距離がどんどん離れていき、レイも覚悟したのか路地裏へ入っていく。
路地裏に入ってからしばらく歩くと、行き止まりに着く。
「あの・・・。ゾーラさん・・・？」
レイが心配そうな声でゾーラに話しかけると、ゾーラはクスッと笑いながら答える。
「心配しないで。ここで合ってるから」
ゾーラが行き止まりの壁に手を当てと、壁の一部が赤く光り、ドアのように開く。
「さぁこっちよ」
「え・・・？、あ、はい！」
レイは目の前に起こった光景に呆気を取とられたふぁ、ゾーラに案内されるまま壁の中に入っていく。
壁の中は広い空間になっていたが、薄暗く人の気配は無い。
「ゾーラさん。ここは・・・？」
レイが不安そうな声でゾーラに話しかける。
「ここがカウンセリングの会場よ。フフ。隠れ家みたいで面白いでしょ？」
「はぁ・・・」
クスクスと笑うゾーラに、レイは生返事を返すしかなかった。
「カウンセリングルームはあそこの部屋よ。さぁ、行きましょう」
ゾーラに案内されるままレイはカウンセリングルームの前に移動する。
「じゃあ、私は隣の部屋に用事が有るから、レイさんは部屋の中で先生と話してきて」
「はい・・・」
「そう緊張しないで、リラックスリラックス。先生はきっとレイさんの力になってくれるから。じゃあ、また後で会いましょう」
ゾーラは言い終わると、隣の部屋に入っていく。
レイはゾーラの姿が見えなくなるのを確認した後、部屋の中へ入っていく。
「失礼します」
レイが入った部屋も薄暗く、ぼんやりと壁に何かがかかっているのが判るだけで、人の姿は見えない。
「すみません。誰かいませんか？」
レイの声だけが空しく響く。
「何よこれ・・・」
レイは不安になり、部屋を出ようとするがドアは開かない。
「ドアが開かない・・・？、どうして！？、ねぇ、誰か開けて！、ゾーラさん！」
「五月蝿いわね。私ならここよ」
「え？」
部屋の奥から思わぬ人の声が聞こえると同時に部屋が明るくなり、レイは思わず声の聞こえた方向に顔を向ける。
そこには、ボンデージ姿に身を包み、レイの知るゾーラからは考えられない雰囲気の女性がいた。
「ゾ、ゾーラさん？」
着ている服は違うが、声も顔も自分が知っているゾーラに違いないと思い、レイは恐る恐る声をかける。
「そうよ。私はゾーラ。改めて自己紹介をするわね」
「え・・・？」
驚いているレイを無視して、ゾーラは言葉を続けていく。
「我々は偉大なる悪魔王様の忠実な下僕。その名はデモニアン！、ようこそ、金子レイさん・・・」
「な、なんですかこれ・・・。冗談は止めてください！」
「冗談？、冗談なんてじゃないわ！、我々デモニアンは、人間どもを支配し、この世界を悪魔王様のための世界に作り替える。そして、お前はデモニアンに選ばれたのよ！｣
「じゃあ・・・、悩みの相談に乗ってくれたのも・・・、カウンセリングのことも・・・全部騙していたんですか？」
レイは悲痛な思いでゾーラに質問する。
「いいえ。騙してなんかいないわ。あなたには、今からカウンセリングを受けてもらうわ。悪魔王様のね！」
今までレイが見たことがない、邪悪な顔を見せるゾーラ。
「ひぃっ！」
「ここからは逃げられないわよ。大人しくするのね。お前達！、こいつを悪魔王様の前に連れて行くのよ！」
ゾーラの合図で、辺りから全身が黒いスーツの女性が現れると、レイを捕まえて衣類を剥ぎとっていく。
「やだっ！、はなして！、ゾーラさん！」
全裸になったレイは、助けを求めるようにゾーラの名前を呼ぶが、ゾーラは無視し、レイはそのまま部屋の奥へと連れられて行く。
部屋の奥には、禍々しい悪魔の顔をしたレリーフが壁にかかっていた。
その壁の前に、無理矢理レイは立たされると、次は体の所々にチューブを取り付けられていく。
「な、何をする気なんですか・・・」
レイは涙を流しながら呟く。
「ふふ。今からお前はデモニアンに改造されるのよ。泣いてなんかいないで、少しは喜びなさい」
「いや・・・、かえして・・・」
想像を超えた出来事に、レイの思考は付いていかず、ゾーラの言葉もレイの耳には入っていない。
「ふん。聞こえていないようね。じゃあ、さっさと始めましょう」
ゾーラは血のように真っ赤な石を取り出し、レイの胸元に押し当てる。
「あ、あぁ・・・っ！」
胸元に押し当てられた石が赤く光り出すと、レイは苦悶の声を上げる。
「あ。あぁ・・・あ、はぁ・・・」
レイの表情がみるみるだらしのないものに変わっていく。
レイがもう眠ろうと思った時、何処からか声が聞こえてきた。

---

「我は悪魔王。今から、お前のカウンセリングを行う」
「カウンセリング？」
「そうだ。お前のことはゾーラから聞いている。夢や悩みのこともな」
「夢・・・」
「そうだ。お前の夢。一人前のパティシエになり、将来自分の店を持つ。素晴らしい夢だ」
「え、ええ」
「だが、お前自身、夢を諦めようとしていた。その時、我の下僕、ゾーラと出会った」
「はい・・・」
「ゾーラと出会ったことは、お前にとって幸運になっただろう」
「幸運？、どこが・・・？」
「お前は人間などと言う、愚かで醜い存在から、デモニンという素晴らしい存在に生まれ変われるチャンスを得たのだ」
「生まれ変わる？」
「そうだ。デモニアンになれば、人間とは比べ物にならない素晴らしい力が手に入る。その力を使えば、お前の夢も叶うだろう」
「私の夢・・・」
「そして、お前の失敗をしつこく責めていた者、お前を助けると口では言うが、実際は自分の地位を守る為に、お前を切り捨てようとしている偽善者を見返せるぞ？」
「え・・・？」
「ふむ？、気づいていなかったのか？、ならば教えてやろう。あの偽善者は、お前をクビにしようとしていた。それも誰かの意見では無い、自分の判断で、だ」
「嘘、嘘よ・・・」
「いくら口で綺麗事を並べても、所詮人間はそんなもの・・・。このまま人間として帰っても、お前の夢は叶わない。応援する者も存在しない」
「う、うぅぅぅ・・・」
レイは頭を抱えて蹲る。
「だが、我に忠誠を誓い、デモニアンになれば、お前の夢は叶い、お前を切り捨てようとしている奴らを見返すだけの力が手に入る」
「夢が叶う。あいつらを・・・見返せる！」
真実を知り、絶望の中に落ちていくだけだった彼女の心に変化が現れる。
「そうだ！、お前は選ばれた！、我に忠誠を誓い、デモニアンとなり欲望のまま生きるのだ！」
「あはっ！、そう、私は選ばれたの！、夢が叶うなら、人間なんて止める！、止めてやる！、あははは！、悪魔王様！、私をデモニアンにしてください！」
「良かろう。我への忠誠の証として、お前のエナジーを全ていただくぞ！」
この瞬間、人間の金子レイは死に、デモニアンに生まれ変わろうとしていた。

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「堕ちたわね」
ゾーラが満足そうに呟くと、目の前で恍惚な表情をしている彼女の体に変化が起こる。
胸元の石が赤く点滅を始め、体の所々に取り付けられているチューブを通して、彼女の体に黒い液体が広がっていく。
黒い液体が彼女の全身を包みこむと、彼女の全身に変化が始まる。
頭部は赤く変色しながら大きく膨らみ、傘の形に変形した。
頭部や白く染まった上半身には、更に毒々しい斑模様が浮かび上がる。
そして、手が一際大きくなる。
下半身は人間のそれだが、上半身は毒々しいキノコの化物な姿に変化した。
「お前の名前は何？」
「アハッ！私の名前はマタンゴデモン。ゾーラ様。私をデモニアンに変えていただき、ありがとうございました」
マタンゴデモンは、胞子を撒き散らかしながらゾーラにお辞儀をする。
「うっ・・・。ゴホゴホッ！、まずはその胞子をどうにかしなさい！」
ゾーラはたまらず鼻と口を手で覆う。
「すみませ～ん。でも、これはただの胞子ですよ～？、アハハ」
「はぁ・・・。マタンゴデモン。良く聞きなさい。お前は今から、その胞子を使って人間共からエナジーを集めるのよ。手始めに、人間だった時に働いていた店でも襲ってきなさい」
「え！？、じゃあ、ゾーラ様。あの店。私の物にしても良いですか！？」
マタンゴデモンが胞子を撒き散らかしながらゾーラに顔を近づける。
「え、ええ・・・。エナジーさえ集まれば良いから、店はお前の好きにしなさい」
「やった！、よーし、私のお店にしちゃお！」
マタンゴデモンは、嬉しそうに胞子を振りまきながら外で出て行く。
「・・・。本当に大丈夫かしら？」
ゾーラは一抹の不安を覚えながら、マタンゴデモンが出て行くのを見送った。

---
[newpage]
閉店時間が過ぎた後も、スイーツショップ「サウスカフェ」の店内には灯りが付いていた。
店の店長である彼女が一人残り、厨房で新作のアイデアの試していたのだ。
「これじゃ在り来り過ぎるわね・・・」
オープンしてからまだ、店を代表するオリジナルのスイーツが無く、店長は毎晩試作の繰り返しをしている。
「やっぱり、一人で考えるだけじゃ限界が有るのかしら」
「こんばんは～。あ！、やっぱり店長だ！」
彼女がぼやいている時、突然、厨房にレイが現れた。
「やっぱり、今日もお店に残っていたんですね。店長は本当に熱心なんだから～」
妙に明るい雰囲気で話しかけてくるレイに、店長は少しだけ違和感を覚える。
「ええ。レイさんこそどうしたの？、忘れ物？」
「違います。実は、店長にお願いが有って戻ってきたんです！」
「お願い？」
「はい！」
「良いわよ。せっかくだし聞いてあげるわ」
「やったっ！、流石店長！、じゃあ～、このお店、私にください・・・」
レイの雰囲気が急に変わる。
「え？」
「アハハハ！、知っているんですよ店長？、もう私をクビにするつもりだったでしょ？」
「え・・・？、ど、どうしてそれを・・・」
「悪魔王様が教えてくださったんです。そして・・・、私を人間から、デモニアンに変えてくださったのよ！」
そう言うと、レイの体がみるみる変化し、彼女の目の前には、キノコの化物が現れた。
「レイ・・・さん？」
「アハハハ！、それは人間だった時の名前。今の私の名前はマタンゴデモン。今からここは、私のお店になるの！」
「ひ、ひぃっ！」
彼女は店の外へ逃げようとするが、体に力が入らず床に倒れこんでしまう。
「あれ～？、どうしたんですか店長？、動けないんですか～？」
にやにやと笑いながら、店長に近づくマタンゴデモン。
「来ないで！、お願い！」
「うふふ。動けないですよね？、だって、店長はずっと私の胞子を吸ってたんですよ～」
マタンゴデモンは数々な毒の胞子を撒き散らすことができ、その胞子を吸ってしまった彼女は、身動きが取れなくなってしまっていた。
「さぁ、店長。今からお前は私の下僕になるのよ！」
「いやぁぁぁぁっ！」
真夜中の店内に、叫び声が響き渡った。

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悪魔王のレリーフの前に、ゾーラとマタンゴデモンが跪いている。
「ゾーラよ。次の作戦は決まったのだな？」
「はい。悪魔王様。人間共の間では、今スイーツという食べ物が流行っています。そこで、このマタンゴデモンの毒胞子を使い、中毒性の高いスイーツを流行らせ人間共を洗脳し、必ずや悪魔王様の前にエナジーを集めてまいります」
「判った。楽しみにしているぞゾーラ、そしてマタンゴデモンよ」
「はっ！、全ては悪魔王様のために！」
悪魔王との会話が終わると、二人は立ち上がる。
「マタンゴデモン。これからお前は自分の店に戻り、特製のスイーツを作りなさい。そして、人間共をお前のスイーツの虜にするのよ！」
「お任せくださいゾーラ様！、私のお店、そして、私のスイーツは完璧です！」
「後、エンジェリオンという邪魔者にはくれぐれも気をつけるのよ。お前の戦闘能力は低いんだから」
「大丈夫ですよ～。この胞子が有れば、エンジェリオンも私のスイーツの虜。アハハハ！」
マタンゴデモンの自信に満ちた高笑いを聞いても、やはりゾーラの胸には、一抹の不安が残ったままだった。

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投稿者月犬

2011年04月03日 15:33 閲覧数:4989

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