――価値観が一変すると、社会やビジネスはどう変化しますか?
1990年のバブル崩壊後の時代が「失われた10年」といわれてきたのに対し、今後の10年は“奇跡の復興の10年”と呼ばれるほどになるだろう。そのインフラが、フェイスブック、ツイッターなどのソーシャルメディアである。今回の震災で、ソーシャルメディアは、電話やメールが不通になるなか、社会の通信インフラとして定着した。このインフラ変更が何を意味するかといえば、大企業に代わって、NPOやソーシャルビジネスが変革を牽引する時代に入るということだ。
今後3ヵ月間は、必需品以外がなかなか売れず、いわゆる“戦時下経済”に近い状況である。また4月前半には失業問題、新入社員の雇用取消、会社の清算や事業整理を決断する企業も多数現れる。そうしたなかで、稼げる能力のある会社とそうでない会社に明確に分かれていく。稼ぐ力のある会社は、規模の大小を問わず、先頭に立って、日本全体を救っていかなければならない。
こういう危機的状況下では、多くの会社は、既存のビジネスモデルを手放す大転換が求められる。東北地方からの移転ニーズに応え、賃貸マンションからウィークリーマンションの斡旋。新築よりも中古住宅。エステよりもデトックス。レジャーよりはメンタルケアのためのキャンプ。太陽光+蓄電池による計画停電への対応。海外からの有機食材輸入ルートの確立など、時間勝負で提供しなければならない。そうしたことを次から次へと発想し実行できる主体は、いままで経験を積んだ地元密着のビジネスパーソンしかいないと、私は思う。
同時に、この難局は多くの会社のビジネスモデルを「フリー経済モデル」に移行させる。自粛ムードで、営業・販促なんてできない。派手な宣伝をやれば、バッシングされる。
となると企業が顧客にアプローチするには、無料で提供するしかない。つまり「フリー経済モデル」が急速に浸透する。
すでに赤ちゃんのいる家庭に、安全な水を無料で配っている会社や、被災者に家賃3ヵ月無料のアパートを斡旋する会社が現れ始めている。
フリー経済モデルとは、全部フリー(無料)にすることではなく、フリーで提供し、顧客リストを集めて、そこから本当に必要な人に対して適切なサービスや商品を販売することによって、利益を全体として成り立たせるというモデルだ。
もちろん、先の会社の例は、善意からの行動であり、利益目的ではないが、結果として、多くの顧客を魅了していくことになろう。つまり、社会貢献意識に基づく行動が、同時に顧客を集める行動と一致し始めたのである。