原発の問題が行き詰っているようで、重苦しい雰囲気が立ち込める世の中です。そのなかでまだまだ避難所などで御苦労が続く方々も多いと思います。首都圏住民としては、寄付や受け入れなどでできるだけ協力すると思いますが、同時に経済をきちんと回すために必要以上に縮こまらずに仕事をし生活していきたいと思います。冷静に判断して風評被害としか思えないような買い控えとか買いだめとか行われている中では、根拠のないうわさに惑わされず野菜を食べお肉を食べるつもりです。 為替相場はまあ当然のごとく円安になりました。ECBはおそらく今月利上げでしょうし海外金利がむしろ上昇傾向にあり米国でも量的緩和解除から利上げも視野に入れる人が出てきたなかで、金利差という点でも自然なことです。ヘッジ付き外債を多く持つ保険会社などでは、そろそろお尻がむずむずしてくる水準かもしれませんね。 あの有名な(何で有名かはご想像にお任せしますが)ムーディーズという格付け業者が3月31日に3ノッチ格下げという随分なパフォーマンスをやってくださった東京電力は、社債の値段もそれなりに下がっているようです。一応の現状コンセンサスとしては、東電はそれなりの責任を負わなければならないと思われるものの、社債権者としての権利はそれなりに守られているようです。すなわち、株主の責任は問われることがあるだろうし、損害賠償で通常の営利企業としてやっていけないような事態になる可能性はあるかもしれないが、社債の償還については当面は問題ないと考えられることです。 当面は、という意味は、色々な不確実性が政治面も含めて大きいし、なによりも人々の気持ちのうえで完全な免責というのが通用するのか、という疑問があるからです。免責というのは、原子力損害賠償法(原賠法)に「原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは、この限りでない」(3条1項)とあり、要するに「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱」の場合は東京電力が賠償責任を負わないと明記されているからです。今回の天災地変はマグニチュードの規模や日本の歴史でもきちんとした記録がないぐらいの規模だったことにかんがみれば、「常識的」にはこの但し書きにあたるだろうと思われます。 しかしながら、先日枝野官房長官が「免責しない」と言明してしまったように、感情論としてそのまま通るかどうかはなかなか微妙と言わざるを得ないと思います。 ところでこの賠償の問題は社債権者との関係ではさらに微妙な問題をはらみます。というのは電気事業法に次のような規定があるからです。 (一般担保) 第37条 一般電気事業者たる会社の社債権者(社債等の振替に関する法律(平成十三年法律第75号)第66条第1号に規定する短期社債の社債権者を除く。)は、その会社の財産について他の債権者に先だつて自己の債権の弁済を受ける権利を有する。 2 前項の先取特権の順位は、民法(明治二十九年法律第89号)の規定による一般の先取特権に次ぐものとする。 ちなみに民法の一般の先取特権とは次のようなものです(面倒なのでWikipediaから) 一般の先取特権 以下に掲げる原因より生じた債権を有する者は、一般の先取特権を有する(306条)。 1.共益の費用 各債権者の共同利益のためになした、債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用をいう(307条1項)。 共益の費用中、総債権者に有益でなかったものについては、先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する(同条2項)。また、共益費用の先取特権は、その利益を受けた総債権者に対して優先の効力を有する(329条2項但書)。 2.雇用関係 給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権をいう(308条)。 3.葬式の費用 債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額及び債務者がその扶養すべき親族のためにした葬式の費用のうち相当な額をいう(309条1項、2項)。 4.日用品の供給 債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の6か月間の飲食料品・燃料及び電気の供給をいう(310条)。 一般の先取特権の順位(329条) 一般の先取特権が互いに競合する場合においては、その優先権の順位は、上に掲げた順位による。 一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合においては、特別の先取特権は一般の先取特権に優先する(329条2項本文)。 というわけで、通常の一般債権となってしまう損害賠償請求権に対して、社債権者というのは先取特権を持っており、端的にいえば電力会社の一般財産に対して優先的にかかっていける(財産から優先的に弁済を受ける)権利を持つことになっています。変えればいいではないか、といっても原賠法も電気事業法も法律なので、変えるためには国会の議決が必要ですし、そもそも法理論的に後からできた法律でその発生当時(社債購入、あるいは原発事故)の法律の効果を変えられるのかは大変疑問になります。 もちろん、東京電力がこれからお金がかかることによって会社自体が傾くことは考えられますが、社債権者の権利が危うくなる場合は「東電から」は損害賠償をとることはもっと難しくなります。つまり5兆6千億円(H12末)に上る社債の償還を損害賠償より優先しなければならなくなります。 もちろん、これは会社財産の清算の場合に重要になる規定であり、毎年会社側が償還をこなしながら損害賠償をやっていくことは全く問題はない。つまり、枝野さんが意図したかどうかはわかりませんが、損害賠償を払わせるということは政府として東電をつぶさないあるいは社債は保護される、と言ったのと同じことなのです。 一応、こういう一般財産で保全されるのは社債だけで、融資はその対象に入っていません。メガバンクなどが行った2兆円の緊急融資は、現在の理解では社債に劣後する一般債権となるはずです。通常はそれでは巨額の緊急融資はなかなか出せないでしょうから、何らかの無形の「信用補完」があると考えるのが普通です。 いいかえると、「暗黙の政府保証」みたいなものかな、と推測しています。 確かにこれまでも政府系と言われた某航空会社も破綻しましたが、某航空会社の場合は最悪の場合飛ばなくなっても国民生活上深刻といえるほどの大きな不都合がなかったのに対し、東京電力の場合は、資金繰りに行き詰ってオペレーションが止まることを許容できるかなんて想像することもできないし、そもそも倒産させて損害賠償をほったらかしにできるとも思えない。つまりToo important to failなのです。どちらかといえばアメリカのGSE(ファニメ、フレディマックなど)に近いのではないかと思います。彼らが「暗黙の政府保証」を持つといわれ実際それが現実のものとなったことを踏まえると、社債というのはきちんと償還され続けざるを得ないし、今後も必要な調達をバックアップする仕組みを維持せざるを得ないと思います。 余談ですが、水俣病で巨額の賠償責任を負うと予想されたチッソは国の管理下とはいえきちんと存続しています。やはり公害は大きくなるとその当事者をなくしてしまうのが逆に困難となるということかな、とも思います。 というわけで、話が長くなりましたが、一連の事象を冷静に考えるならば今回の事件において東京電力の信用力が落ちるのはやむを得ないですが、社債という点では「暗黙の政府保証」ができたと考えてもいいのではないかと思うのですがどうでしょうか?そのなかでまあ格下げもいいけれど、国の信用バックアップも考慮した上での格付けとかわざわざ付け加えて必要以上にしかも期末の最終日に3ノッチも格下げをするのは、やっぱりヤ●ザなみの強引な言いがかりとしか言いようがありません。大体において、最終的に国が面倒みるだろうみたいな書き方をしているのだから、言っていることがそもそもおかしいんですが。 |
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hikaruさんどうもです。前のエントリーにも同じコメントを頂戴したようですが、今回は特に関係なさそうなので削除させていただきました。悪しからずご了承ください。またこのようなコメントの出し方は今後お控えください。 |
厭債害債 2011/04/03 14:16 |
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