2011-03-30
流通しているものは安全、の意味
昨日の記事で、農水省や厚労省の情報の出し方にも怒っている、と書きましたが、一応書いておきます。これは不安を煽る意図ではありませんし、今以上の警戒が必要だよ、と言っているわけではありません。
私は放射性物質が検出されている野菜などの出荷停止措置などには賛成しています。なぜなら放射性物質の検査はあまり簡単ではないため、サンプル数をたくさんこなすことができないためです。本来であればもっと細かく、広範囲にかなりの反復を取って調べることで、○○産の××作物の平均的的放射性物質濃度をその誤差範囲とともに出し、それに基づいて国民健康・栄養調査などから摂取量でリスクを評価するべきですが、リソースの制限で安全宣言をするのが難しいのです。短期間で十分なサンプル数を確保することができないため、出てきた値の信頼性が非常に低いのです。この段階では残念ですが、出荷停止措置を取るよりほかにありません。これは政府の信頼性確保の問題です。
調べてはいませんが、恐らく、既に出荷された分にも基準値を上回る野菜はある程度存在している可能性があります。基準値というのは、その基準値を上回る食品を摂取し続けた場合に、健康に影響が出る値の100分の1という安全係数で基準で決められることが多く、基準値を超えたものを何度か摂取しただけでは、すぐにリスクの上昇はもたらしません。*1この意味で、流通しているものは安全です。恐らく、安全宣言が出た後にしても、暫くの間は野菜や水産物から基準値を超えたものが出る可能性がありますが、今気にする必要があるリスクは、長期的な摂取による身体影響なのですから、そのような基準値を超えたものが、出てくる頻度こそが決定的に重要な情報なのです。最大値は重要ではありません。マスメディアは”最大で基準値のn倍”という書き方をしますが、こういう煽りにさせないために、ただ「安全です」というだけではいけません。サンプルを幾つ採取し、どのような方法でサンプリング計画をたて*2、どういうプロトコルでそれを検査したのか*3、その結果、作物中の放射性物質の量の分布はどのようになると考えられるか、ときちんと提示する必要があります。安全です、と宣言した後に、基準値越えがぽつぽつ出ることはサンプル数によって確率的に考えれば、普通にありえることですから、先回りして言っておかなくてはいけません。このようなコミュニケーションのあり方は大変面倒で、ともすれば不安を煽ってしまうかもしれず、大変難しいですが、公式発表に信頼性を持たせるために絶対必要な作業だと私は考えています。
その意味で農水省や厚労省の情報の出し方には大変不満があります。生データの一覧表を提示するだけでは、マスコミに、「最大値を報道してください」といっているようなものです。この辺り、大学や研究所のプレスリリースのように、コピペすればすぐ記事になるようなプレスリリースの出し方をしていただきたいと思います。記者会見にしても、印刷資料を配って「どこどこを見てください」みたいな広報しかできないのが大変残念です。スライドをプロジェクターで写しながら説明するとか、もっといろいろあるだろ、と言いたくなってますけど、私の目から見てマスコミよりはまだ全然信頼できるので、公式発表資料を見るのが大事だと思います。