2011年2月9日 20時14分 更新:2月9日 22時39分
【カイロ鵜塚健】ムバラク大統領の退陣を求めるデモは8日で2週間が過ぎたが、カイロ中心部タハリール広場には依然、数十万人規模の市民が集まる。政府と野党勢力による対話が進む中、参加者はあくまでムバラク大統領の「即時退陣」を求めている。デモを続ける人々の思いを聞いた。
テントで泊まり込む住民も多い広場はごみの悪臭が漂う。しかし、厳しい警備や大統領派との衝突は減り、参加者の顔は一様に穏やかだ。「爆弾、包囲、破壊はもう十分。子どもの涙はもういらない」。路面にチョークで詩が書かれていた。
目立つのがデモ犠牲者への追悼と、弾圧への怒りだ。亡くなった青年らの衣服をパネルで展示していた印刷店経営、ワエル・ハムザさん(35)は言う。「政治には関心なかったが、大統領は退陣表明後も市民に銃を向けた。そんな人間の約束を信じられるか」
「大統領を消し去れ」との看板を掲げていたアフマド・ハリルさん(25)は、北東部スエズから来た携帯電話会社勤務の男性。「私には仕事があるが、生活に困っている友人は多い。構造的に経済、社会を変えるには、大統領と憲法を今すぐ変えるしかない」。ムバラク氏に近いスレイマン副大統領による「暫定政権」にも反対だ。
デモ参加者の多くは特定政党や組織と関係なく、政権と対話を進める野党勢力への不信も根強い。都市工学専攻の大学教授、モハマド・エルギンさん(39)は「この国の野党は長く与党に取り込まれ、何もできなかった。彼らはデモ参加者を代弁していない。議会を解散して再出発すべきだ」と話した。
8日は初めての参加者も目立った。就職活動中の女性、ランダ・サベットさん(22)は「女性は教育や仕事で不利なことばかり。デモが長く続き、本当に国が変わるのではと希望を持ち始めた」と笑顔で語る。
参加者の多くが求めるのは、部分的な変化ではなく抜本的な変革だ。絶対的な指導者不在で着地点が見えない中、運動への期待ばかりが高まっている。