【懸念・疑問1】チェルノブイリのような大事故が心配だ

【説明】チェルノブイリのような致命的な構造上の欠陥や運転員のルール違反は日本では起きない。

チェルノブイリ原子力発電所事故は確かに最悪の事故です。しかし事故の原因としては、構造上の欠陥や、運転員が安全上のルールを守らず安全系を無効にするなどの行為を行ったことが大きく関わっており、本邦の発電所の実態とはまったく異なります。

チェルノブイリ原子力発電所事故は、原子炉の出力を下げた状態で実施された試験中に起きました。運転員の規則違反により、原子炉の保護システムや自動停止システムが無効化されました。また運転員の操作ミスにより、当初の計画よりも著しく原子炉が不安定な状態になっているにも関わらず、試験が強行されました。→参照(1-8)

このタイプの原子炉(黒鉛減速軽水沸騰冷却型原子炉)は、低出力運転時には不安定になる特性を有していました。また、緊急停止信号が発せられても、制御棒の全挿入に約18秒以上が必要であり、異常発生時の停止機能としては遅すぎる(わが国で用いている軽水炉では、この値は2~4秒である)、原子炉格納容器がないため放射性物質の拡散を低減できないなど様々な構造上の欠陥がありました。→参照(1-8)

【異論】国内でも運転員のルール違反は多数報告されている。

日本でもルール違反はとても多数報告されていることは周知の通りです。こんなに違反を平気でする原子力企業社員を信頼できないからこそ心配するのです。

最近、北陸電力志賀原発1号機において、過去の定期点検中に制御棒引き抜きが発生し、臨界に至っていたにも係わらず、記録に残さず、国に対する報告もなされていなかったことが明らかになりました。→参照(1-9)

その他、原子力発電所を含めた発電施設におけるデータ改ざん等が複数明らかになっています。→参照(1-10)

【説明】違反の質が違い、日本では安全上重大でない違反のほうが圧倒的に多い。

違反習慣はたしかに問題ですが、安全の根幹に関わる違反と軽微な違反は同じではありません。日本では、教育・訓練の成果もあり、設置されている安全系をすべて無効にしたまま運転をするような違反は生じ得ないでしょう。

国際的に共通な評価尺度である、国際原子力事象評価尺度(INES)で評価した場合、 1-7の段階のうち安全上重要ではないと判断されるレベル2以下の事象が圧倒的に多数です。→参照(1-11)

原子力発電所においては、より高い安全性を目指して、規定・手順書の点検・改訂はもとより、ヒューマンエラー対策、人材育成、品質保証体制の見直し、関連企業との協力企業の情報共有等が継続的に行われています。→参照(1-12)

【異論】違反は違反で大きな問題であり、日本でもJCOのような例がある。

小さい違反が頻発する組織では、違反を軽視する風潮が生じます。個々には軽微な違反であっても、それらが重なって結局大きな事故になることはJCO事故が示すとおりです。

【説明】安全の根幹に関わる違反と軽微な違反は同じではない。

軽微な違反でも起こさない姿勢が重要という立場は共有します。原子力施設でもそのような方針が改めて強調されていますので(→参照(1-12)→参照(1-13))、大事故の可能性は実質ゼロでしょう。

原子力分野においては、違反やヒューマンエラー、あるいはそれらを引き起こす引き金となる組織的な要因について研究する「ヒューマンファクタ」の研究が先進的に進められてきています。

とかく「安全」を強調しがちに思われている原子力業界ですが、実際には事故やトラブルから謙虚に教訓を得て、より高い安全性を実現しようとする継続的な取り組みや研究が行われています。

参考コラム:「軽微な」違反と「重大な」違反。

2007年3月の時点で、制御棒脱落事故とその未報告、緊急停止の未報告など、大きな問題を含む違反が次々と明らかにされています。このような事態を見れば、前述の説明1つ目2つ目、などで説明した内容は、実態を直視しないきれいごとと感じる方もおられるかも知れません。

筆者はこれらのトラブルが重大な問題であることは間違いないと思っています。特に報告すべき事象を内部処理で隠蔽し報告しないという行為に対しては、リスク情報は事業者で共有することが重要であるという観点から強い怒りを覚えます。
しかしそれでもなお、本当の意味で最悪の違反であるかという意味では、チェルノブイリで経験された違反(1-8)と比べれば相対的に罪の重さが少ないレベルの内容であったと思っています。

「違反」というコトバはきわめて深刻な印象を与えます。事実それらは深刻な問題です。しかしながら技術者としては「重大な違反」と「軽微な違反」は区別して対応したいと思います。その意味で、このチェルノブイリ事故と日本で起こりうる事故との間には質的に大きな違いはあると思います。

なおこれまでに報じられている「未報告」あるいは「情報隠蔽」は平成14年8月末のいわゆる「東電問題」以前に起こっているものです。これらの過去の不始末は隠蔽しきれずに明るみに出てきたもので、それ以降の再発はないことが明らかになれば、筆者はここで違反の質に関して述べた見解を持ち続けたいと思っています。

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