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[26873] 【習作】IS~人形輪舞曲(バンボラロンド)~【IS×(武装神姫?+独自要素)+その他ネタ】【TSあり】
Name: ヴぁん◆72ebca82 ID:5a6fbbc2
Date: 2011/04/01 14:39
 お初にお目にかかります。ヴぁんと申します。

 今回、二次創作の発表を初めて行わせていただきます。丁稚な文章でありますが皆様方に楽しんでいただけるよう。

頑張っていきたいと思います。

では注意事項です。

・あまり読みやすい文章ではありません。精進していきたいです。

・更新がマイペースまたリアル事情で、安定しないかもしれません。

・主軸はISで原作沿いですが、クロス物でオリ主?です。無双はそんなにできません。ほぼオリキャラもでます。

・グロイというよりエグイ表現があるかもしれません。エヴァンゲ〇オンくらいなのでR-12、もしくはR-15です。

・主に武装神姫側で独自設定や改変設定などが見られます。IS側も説明されてない部分は、脳内補完及びフロム脳でなされています。

・コジマ汚染とTSの要素があります。嫌いな人は見ないほうがいいかもしれません。

・戦闘コマは、ぐだる可能性があります。

・キャラからネタ発言が飛び出すことがあります。また文章からもいきなりネタが飛び出すこともあります。

・シリアス3、一夏のハーレム1、コメディ3、バトル3の配分。でいきたいですが、変動するかもしれません。

・脳内プロットは出来ていますが、原作が未完なのでどうなるか解りません。臨機応変にいきたいです。

それでは、ごゆるりとお楽しみください。


PS、メインタイトルの副題はイタリア語での読み方です。




[26873] プロローグ
Name: ヴぁん◆72ebca82 ID:5a6fbbc2
Date: 2011/04/01 14:53
ーある研究者の軌跡ー




カタカタカタカタ……

うす暗い部屋の中でキーボードを叩く音が響いている。

カタカタカタタタ……

叩く音が耳障りなほど、この部屋は不気味に静かであり、時折聞こえる呼吸音が人の存在を知らしてくれる。

カタカタカタカタカタカタ……

光源は机の上にあるPCの画面だけで、そこには現在、文字が高速で踊り狂っている。

カタカタカタタ……

 文字を操っているのは、白衣を着て眼鏡をかけた初老ような男性であった。

どこにでもいるような研究者といった格好である彼の特徴を強いて挙げるのであれば、PC画面を反射する眼鏡の奥に隠された、酷く濁った目であろうか。

その目は人間の負の感情である怒り、憎しみ、悔しさ、嫉妬を煮詰めた様だった。






 この男、名前は……仮にDr.Kとしておこう。

 彼は、少し前まで少なくとももっと明るい研究室で働いている普通の研究者であった。

 彼の所属していた研究チームはある企業、クロム社という、そこでISに関する研究をしていた。

 ISとは正式名称を『インフィニット・ストラトス』、数年前に一人の天才である篠ノ之 束より発表された宇宙活動用マルチフォーム・スーツである。

しかし、それは既存兵器を軽く凌駕し、これまでの戦略、戦術そして常識すらも根底から覆してしまうものだった。

そしてなにより女性にしか操縦できないことが、この世の男と女のパワーバランスを反転させてしまった。

 彼にとって男女のパワーバランスなどどうでもよかったが、ISの情報が開示されていくごとに、開発者である篠ノ之 束に対してある感情を蓄積していくこととなる。

その感情は嫉妬であった。大の大人がその才に嫉妬するほどにISに使われている技術は既存技術の数十段上を行っていたのだ。


 情報開示後、彼はISに関する解析班への転属辞令が下ると二言で即答し、その日のうちに研究を始めるほどISにのめり込んだ。

研究中の彼の表情は鬼気迫るものであったと班員がもらしていたという。

 彼の仕事ぶりはすごいの一言につきた。ISの基礎理論から応用、ISコアの表面的な技術まで解析したのだ。

それには開示されていない技術も含まれていた。


 クロム社としては、彼にそこまでの期待をしていなかったため嬉しい誤算となった、彼のレポートは他社が取引を要請するほど精密且つ丁寧に仕上げられ、ISの基幹技術にまで迫っていたからだ。

そしてそれは、彼がIS技術を吸収し、理解していっていることを指し示すものだった。


 彼にとってISを解析することは、天才である篠ノ之 束との勝負であった。

平凡な研究者であった彼がこれほどまでに執念を燃やし、上の見えない壁に挑むのは、彼の中にあった研究者としてのちっぽけな意地『真理を解き明かすこと』があったからに他ならない。

だが、そんな彼でも限界があった。ISコアの解析に待ったが掛かったのである。

 ISコアは情報も開示されておらずブラックボックス化しており、その情報は篠ノ之 束のみが占有する技術の塊で、これを解き明かすことは彼にとって研究者としての勝利となるはずだった。

しかし、それに横槍を入れたのは行政であった、それゆえ彼に抗うすべはなかったのである。

 クロム社も、その技術の重要性はわかっており歯痒い思いであった。

もし解析することができればコアを量産することも夢ではなかったのだ。

それは会社に莫大な利益をもたらす木の苗木であったが、植えることすら許されなかったことを考えれば、その悔しさは半端なものではない。


 後に判ったことだが、この行政の決定には篠ノ之 束の介入があり、行政側も不服な差し止めだったようだ。

それを知った彼の表情は、怒りと悔しさが入り混じっており、個室に戻っていく後ろ姿には阿修羅が見えたという。

彼にとってそれは同じ土俵立つ資格すらないと言われたも同然で、激発するのも無理のない話であった。


 彼が激発していた頃、クロム社は次の手を考えていた。

最善がだめになったら次善を、商売人である彼らは切り替えが早いのだ。

次善の案は、事前に数個まで絞られており保留状態で待たされていた。

会議の結果、ISにおいての最大の特徴であり欠陥である『男性が操縦できないこと』の研究を推進することに決定した。

 この技術を確立し、『男性が操縦できる』ようになれば企業として名声も利益も手に入れることが出来ると判断したものだった。
もちろん、この研究は彼に打診され、今度は邪魔をされないように極秘裏に研究は進められていった。





 研究は困難を極めたが、着実に進められていった。研究開始から数ヶ月後、彼はある仮説を立てた。

その仮説とは「男性でも女性型義体を通すことでISの操縦が可能になる」という突拍子もないものであった。

研究報告会での彼の言い分はこのようなものだった。

「研究中にISの起動時を細かく解析した結果、操縦者に対しISからなんらかのスキャンが行われておりました。
このスキャンは、起動時の動作に巧妙に隠されていましたが、なんてことはない容姿に関するスキャンでありました。容姿といっても体型や骨格などでISコアが独自の判断をしているようです。」

「なぜ、男性がISコアに認められないのか、ということまでは判りませんでしたが、このスキャンを基にIS適正が設定されることは突き止めました。」

彼は、一度息を整えて続ける。

「つまり、結論から言えばこのスキャンを誤魔化す事が出来れば、男性によるISの起動が可能であるといえます。」

 報告を受けた上層部から感嘆の声が上がる。

彼はそれが静まってからさらにこう続けた。

「しかし、問題は、いかにISコアを欺くか。そしてその後をどうするかということであります。」

「ISコアは優秀であり、女性の標準骨格に近い男性でも起動までにはたどり着けませんでした。」

「そこで私は、男性をISに直接認識させるのではなく、女性型義体というゲタを履かせることでISに誤認させるということを考えました。」

上層部から動揺の声が上がる。いくら本物と同様までの義手や義足を作る技術があってもこの時点では全身を義体化する技術はまだ未知の領域であるからだ。

「お静かに、ここでいう義体は、あくまでISを誤認させるためのロボットのようなもので、男性がロボットを中継して、ISを操作すると考えていただきたい」

「そして、それらは我々が養ってきた技術の応用で実現可能であると判断しました。」


それから具体的な草案が発表され、報告会は終了した。

報告を聞いていくほど上層部の雰囲気が変わっていくのが見て取れた。それほどまでに現実味を帯びた報告だったのである。

 後日、静かに新プロジェクトが立ち上げられ、その参加名簿に彼の名前も記されていた。

平凡な研究者は、クロム社にとって無くてはならない存在へとなっていた。

こうして彼の取り巻く状況は変わり始めたのだ。


 話は変わるが実はこのクロム社は、IS関連事業を開始する前には医療系技術部門の事業を展開していて、義手や義足といったものから手術用遠隔操作ロボット、果ては寝たきりの患者への治療としてのバーチャルリアリティー(以後VRとする)システムの開発をしており、ナノマシンにも手を出しているという技術的にはかなり恵まれたものだった。
ISはパワードスーツであるが、その操作は生体電気を使った義手や義足に近い。

 クロム社がIS関連の研究で他の企業より早期に発展していったのもこれらの技術的接点が主な要因であった。




 新プロジェクトの発動から約2ヶ月が経過した頃、彼が提唱した計画の要となる技術についての報告が上がってきた。

それらを簡潔にまとめると、
・義体技術については、わが社が保有する義手、義足の技術を基本に、ナノマシン技術を流用することで完成する目処がつく。

・義体と人間を中継させる技術は、手術用遠隔操作ロボットとVRシステムを組み合わせ、発展させることで可能。

・どちらもわが社の既存技術とIS技術を組み合わせることで実現可能。

・この2つの技術名称は、前者を義体技術、後者をサイコダイブ技術とすることが決定。

・どちらも1ヶ月以内に試作品を提出可能。

・予算が大分余りそうなので更なる技術開発を推進したいという要望。

・義体技術とサイコダイブ技術による単独の商品開発についてなど

というものだった。


 この報告は上層部に、かなりの好感触を与え、プロジェクトは更に加速していくこととなる。

ちなみにこの開発速度については、クロム社には基となる技術があったということとIS技術の分析結果があること、さらに研究員と技術者の連携が上手くいったためであり、本来プロジェクトというものは、年単位で行われるものであることから彼らがどれだけの技術力を有しているかが解るであろう。




 前回の報告から、1ヶ月が過ぎ、双方の試作品が報告書と共に提出された。

ナノマシンを惜しみなく使い人間の女性に出来る限り似せた義体(というよりは人形)2体と、人間と機械を繋ぐサイコダイブ装置はすでにすり合わせを行い稼動実験を成功させていた。

 他の企業ならばこれだけでも主力技術として売り出せるほどである。

もちろん、クロム社もその辺りは抜かりない。義体技術からの副産物であるナノマシンを使用した新型義手やサイコダイブ技術をフィードバックさせた新型VRシステムなど恩恵はすぐに現れていた。

 なお稼動実験時の記録として、義体に関して、視界、四肢の感覚、五感に関する男女のサイコダイブに関する影響などが残され、報告書がまとめられている。

主な特徴として、
・義体は通常なら10時間以上の連続稼動が可能、しかし、格闘など戦闘行動を行った場合、急激にバッテリー消費速度があがるため、2~3時間が限度であること。

・専用の充電装置が必要であること。

・個人差にもよるがサイコダイブによる酔いが起こることがあること。

・酔い以外のサイコダイブによる健康被害は確認されていないこと。

・最長サイコダイブ時間は5時間が限界。

・サイコダイブに個人差はあるが、男女、年齢差は確認されていない。

・四肢の感覚に問題はない、五感に関してはすこし敏感すぎるようで調整が必要。

そして報告書の最後に、

<改良の余地はあるが、現状でも問題なく動作を確認、義体技術及びサイコダイブ技術に致命的な欠陥なし。
順次、改良と調整を行いつつ、次の段階であるISの起動実験に移行することの許可を求む。>

と締めくくられている。



 蛇足だが、義体班とサイコダイブ班が初すり合わせ行った際、
両班から、「ア〇ギスとKOS-M〇S…だと…」とか「.hac〇…」などの発言がみられたあと、
何故か意気投合したという。
 教訓:いい物を作るなら遊び心と余裕も必要。







ーある研究者たちの軌跡ー



 報告を受けたクロム社は、義体によるIS起動実験の実施を決定。1週間以内に実験出来るよう調整すると通達した。

通達を受け、研究チームは急ピッチで実験の準備をすると共に、細やかな改良と調整を2体の義体とサイコダイブ装置に施していった。
 
 


 ここで2体の義体について紹介しておこう。

 1体目は、プロトタイプであるNo.00、仮名称「I-GS」通称「アイギス」。

このアイギスは機械とナノマシンを使った全身義体を作ることを主目標とした義体である。

そのためか、一部間接などから機械部が露出している。

構成している機械とナノマシンの比率は、7:3で機械が主体だ。


 2体目は、制式タイプであるNo.01、仮名称「KS-MS」通称「コスモス」。

アイギスより得られたデータをフィードバックし、より人間の構造に近づけることを主目標とした義体である。

そのためアイギスに見られた機械部の露出は無くなっており、外観はより人間に近くなっている。

構成している比率は、2:8で機械は基本フレームとし、ナノマシンを主体としている。


 なお、義体のモデルに対して研究チームに質問したところ、一昔前に出たゲームに登場するアンドロイドのキャラクターをモデルにしたという答えが返ってきた。

彼らの言い分としては、

「何分、全身義体という分野は未知の領域でイメージがしづらかったため、資料を探したのだが、論文などでは外観に関する記述が少なく、古典SFなども漁ってみたが参考にはならなかった。また、ISコアは容姿を気にすると聞いていたので、不気味の谷にならないようするための、資料集めは難航、苦肉の策として3Dモデルデータのあるゲームから、キャラクターをモデルとして使うことにした。そのため2体の義体は結果的に、あのような外見となった。」

ということらしかった。

 ちなみにモデルの決定については事後承諾であったため、上層部が呆れていたのが印象的であった。

逆に説明していた研究者のチーム内では、悪い顔しながら「計画通り」と漏らした者が何人かいたらしい。

また、容姿云々は伝達の齟齬によるものとして注意を受ける程度だったことを記しておく。
 


 どうでもいいことだがサイコダイブ時、表情の豊かさでは、アイギスに軍配があがる。








 IS起動実験当日、実験会場はISの暴走なども考慮に入れ、頑丈な地下区画の防爆実験棟で行うことになった。

そこには数人の上層部の方も見学にきており、Dr.Kが説明を行っているのも見えた。


 Dr.Kが実験指令所に向かう。実験の開始が近いようだ。

 実験場では、アイギスとコスモスが立って待機しており、反対側にはISが待機状態で鎮座していた。

2体の義体にはすでにサイコダイブによる男性の搭乗が済んでおり、開始の合図を待つだけであった。

指令所では、2体の義体、2人の男性、2個のISコアの状況が随時モニタリングされており、
起動及び稼動に関する計測の準備も万端のようだ。



 Dr.Kが持ち場に着いた。

 この実験が成功すればISにも男性が乗れるかもしれず、上手くすればIS適正のない女性でも、空を飛ぶことが出来る。

だが、ここにいる者たちはそんな大層な事は考えておらず、それぞれの思惑で実験に臨んでいる。



 Dr.Kにとっては、前段階であり篠ノ之 束へ挑戦するための準備運動にすぎず、

多くの研究員にとっては、自分たちが練り上げた技術の結果で、血と汗と睡眠時間の結晶が認められる瞬間であり、

一部の研究員にとっては、自分の夢が叶えられたことによる幸福と、これからの野望への一歩であり、

クロム社にとっては、投資による技術発展とその結果であり、これらは商品の発表会で、心の中では算盤を弾いている。

サイコダイブ搭乗者は、ISに乗れるということに心躍らせている。







「今から、義体によるIS起動及び稼動実験を120秒後より開始する。」
 Dr.Kより指令が下され、オペレーターよりカウントダウンが開始される。



「……3…2…1、実験開始」

研究員たちが記録を開始すると共に、

2体の義体が前進して行き、

それぞれのISに迫り、

手を伸ばしていく。

その手を全員が固唾を呑んで見守る。




そしてついに手が触れ……























 ISは起動した。



 ISの起動を受け、

「こちらサイコダイブ計測班、計測No.1、A搭乗者バイタル及びステータスに異常なし。」
「同じく計測No.2、B搭乗者バイタル及びステータスに異常なし。」

叫び喜びたい衝動を抑えながら

「こちら義体計測班、計測No.3、アイギスのステータスに問題なし。」
「同じく、計測No.4、コスモスのステータスに問題なし。」

研究員たちが、

「こちらISコア計測班、計測No.5、ISコアAに異常なし。IS適正はC、初期設定からフォーマット及びフィッティングの開始を確認。」
「同じく計測No.6、ISコアBに異常なし。IS適正はD、こちらも初期設定からフォーマット及びフィッティングの開始を確認。」

各自画面での情報を報告していき、

「ISの起動を確認、全ての観察項目に異常なし、起動実験は成功しました。繰り返します……」

 最後に起動実験の成功をオペレーターが繰り返しアナウンスする。

それを満足そうに聞く上層部と未だに厳しい顔のままの彼との対比が印象的だった。

 こうしてDr.Kの仮説は実証されることとなった。

しかし、実験はまだ終わっていない、この実験は起動及び稼動実験なのだ。
Dr.Kから次の実験への移行が指示され、オペレーターが繋いでいく。



彼らの衝動は、開放までもう少し時間がかかりそうだった……。














「これで実験の全工程を終了します。お疲れ様でした。」

 最終アナウンスが流れると、研究員たちから拍手と歓声を、上層部から拍手と労いの言葉が送られた。

あの後、稼動実験は問題なくおわり、搭乗者たちにも軽いサイコダイブ酔いがあるくらいで診断による問題はみられず、実験結果に満足して上層部は上機嫌なまま帰っていった。

 起動と稼動データの洗い出しや、各レポートの作成は明日以降として、研究員たちには解散を指示した。

義体の改良により最大3時間だった戦闘連続稼動時間を5時間に伸ばすことに成功していたが、5時間という制限時間の中で、膨大な数の実験項目を終わらせなければならなかったのだ。

さすがの研究員たちも疲労困憊で……

「イヤッホー!!、実験成功の祝杯あげよーぜ!!」

……まだ興奮冷めやらぬ者もいるようだが、まあ今回は大目にみることにしたようだ。
(Dr.Kの額に青筋が見えたような気もするがキニシナイ。)

 そして今、司令室にいるのはDr.K一人のみとなった。

彼の目線の先には、待機状態のISと、クレイドルと呼ばれる充電装置に眠るように座らされた義体たちがあった。

 彼には今回の実験で疑問に残ったことがあった。IS適正の基準である。彼が発見した容姿による適正判断は、ISコアの独自判断であるとされ、基準自体は闇の中である。そして今回の実験で使用したコアは連番のコアで、製造時期もほぼ変わらなかった。そしてISの開示情報の中に、コア・ネットワークがあることを考えると、両方のIS適正が、Dである可能性が高かった。

しかし、結果はコスモスはDで、コスモスより人間の容姿に遠いはずのアイギスがCであった。この差は何が原因で起きたのか……、彼は今夜も眠れそうにない。







 次の日、研究員たちは二日酔いの中でデータの洗い出しとレポートの作成をしなければならず、地獄を見たそうだ。
ちなみに考え事で一徹したはずのDr.Kは平気な顔で報告書を纏めていたそうな。

 教訓:お酒は、次の日に持ち越さないよう限度を守って楽しく飲みましょう。








ーとある企業の軌跡ー



 クロム社より全世界に向けて、男性によるIS起動実験が条件付きとはいえ、成功したことが発表された。

それは、少なからず世界に衝撃を与えたことは言わずとも解ることである。もっとも事の詳細を知った男性諸君はみな引き攣った顔をして聞いていたが……。

 まあ仕方ないことであろう。普通に考えればISに反応しなくても単なる義体として発表できるほどの技術なのにISが反応するものを作ってしまったのだから。

人々はクロム社の技術力に驚嘆し、それ以上にぶっ飛んだ発想にため息をついた。

 この発表により義体市場の先駆者となったクロム社は、その地位と名誉を不動のものとしていくこととなる。

あと、義体の影に隠れてしまったが、技術者の間では、サイコダイブに関する問い合わせが多かった。

 それと義体は、男女両方のタイプが成形されている。ナノマシンによる成形なのでオーダーメイドで作ることが簡単なのである。

ただし、ナノマシンそのものが高価なため、個人で買われることは資産家でもない限り少なく、大病院などの医療系機関が納入先として多いようだ。

新型ナノマシンの量産が一段落すれば値段も落ち着いてくる見通しである。




 この発表後、クロム社はISを起動できる義体を使っての、新しい企画を立ち上げていた。

その名も、プロジェクト『武装神姫』である。発案は、Dr.Kのチームにいた研究者で、暇つぶしに書いていた企画案が原因であった。

 そこには、義体によりISの搭乗制限が外れたことで、誰もがISを操縦することが出来、モンド・グロッソへ参加が実現可能になったことを踏まえ、義体同士でIS大会を開き、トーナメントを制した搭乗者に現役IS搭乗者への挑戦権と賞金を授与するというものであった。

また、その企画案には暇つぶしとは言えないほど、メリットとデメリットが綿密に書き出されていた。

 まず、先にモンド・グロッソの説明を簡単にしておこう。

強いて言えばISを使ったオリンピックであり、格闘部門など様々な競技を各国の代表選手が競い合う世界大会である。

また、競技優勝者や総合優勝者には特別な称号が与えられる。

現在すでに2回の大会が開かれ、アクシデントはあったものの好評のうちに閉幕している。以上。


 報告書の要点を箇条書きにしていくと、このようなことが書かれていた。

メリット
・ISの武装を試したいIS関連企業が参加する可能性大
  ISの数と搭乗者の数が限られているため、ISを確保できない小中企業の参加が見込める。

・IS適正の無かった人が参加申し込みする可能性大
  最大の目玉である。男性だけでなく女性からも参加者が見込める。(それがお遊びだったとしても)

・サイコダイブ装置を使ったバトルシミュレーションゲームを作っておくとトーナメントの質があがる可能性がある。

・そもそもISコアが無くても義体専用の武装を作ることが出来れば、大会が開ける。(義体同士で戦うため)

・搭乗者に危険が及ばない。

・宇宙空間でのド迫力戦闘が行えるかも、月で開拓勝負なんてのも面白いかもしれない。

デメリット
・義体1体の単価が高すぎて、壊れた際のコストパフォーマンスが釣り合わない。
  ISにある絶対防御のようなものを義体が発動できれば問題はなくなる。

・ISコアが足りなくなる可能性がある。
  そもそも数が無いのに貸してくれるかどうか、義体自体が武装の出し入れや武装へのエネルギー供給ができればISコア不在でも可能?

・モンド・グロッソの運営が許可してくれるか不明。


 




 ちなみにこれと同じような企画案が、企画部より提出されていて同じような指摘がなされていた。

もっとも、企画部のほうは、予算関係の問題の指摘が多く、利益率まで計算されていたが……。クロム社には、呆れるほど優秀な者が多いらしい。

 上層部は義体によるIS大会を開く際に問題となる技術的な部分の返答を、Dr.KとIS解析研究班に求めた。

2つの部署に返答を求めた理由は、義体側とIS側からの双方の意見が聞きたかったからである。


 1週間後、上層部に2つの報告書が渡される。

Dr.KからとIS解析研究班からの返答は、共に「条件付で、技術的に可能」であった。

各部署の返答結果が報告される。


 二つの返答を統合し要約して説明すると。

Q1.ISにある絶対防御とシールドバリアーは、義体で可能か。

A.可能、義体に使用しているナノマシンを利用して再現はできるが、絶対防御はISより性能が落ちる。

Q2.義体専用の武装でISに対抗できるか。

A.不可能であるが、モンド・グロッソというルール内のみであるのならば可能。
 補足、義体専用の武装がIS関連技術からの転用の場合に限る。

Q3.義体自体にISの機能である、武器の出し入れと武装へのエネルギー供給を付加可能か。

A.可能、物の量子化は解析済みであり、原理もわかっている。
 しかし、量子化に関しては莫大なエネルギーを消費するため、今の義体では武器のマガジンを10個ほどストックするのが限界。
 武装へのエネルギー供給も考えると、戦闘可能時間が極端に短くなる。
 モンド・グロッソ用義体として再設計及び作り直しを提案する。
 補足、ISは量子化に必要なエネルギーをISコアによって補っている。武装へのエネルギー供給も同様。


 上層部は満足な返答を得たようだ。とくにQ2.の返答が事実ならば、クロム社の義体はISの3割もの力を持っていることになる。

そしてDr.Kは上層部に媚びを売るような研究者ではないことは今までの報告書と実績を考えればわかる。

つまり、これは事実であるということだろうと上層部はそう判断した。この報告によりプロジェクト『武装神姫』実行への下準備が始められていくこととなった。






 後日、起動及び稼動実験を報告書にまとめ終わり、提出したDr.K率いる義体研究班に辞令が下る。

そこにはこのように記されていた。

<プロジェクト『武装神姫』の実行が決定、そちらにいる発案した研究員に計画の細かい資料の作成とプロジェクトを煮詰めるために会議に参加することを要請する。なお、義体研究班は義体開発班と合流し、『武装神姫』の雛形となるモンド・グロッソ用の義体(以後、素体)と、その素体用の武装の完成に注力せよ。また、『武装神姫』の雛形についての仕様書(要求書)を送付する。解らないことは、Dr.Kと発案した研究員に伝えて、まとめておくこと。>




 伝え終わってから数秒後、研究員たちから絶望のうめき声が奏でられた。






……さぁ、デスマーチの始まりだ(笑)!!
「「「「「「笑い事じゃない!!!」」」」」」




 





おまけ

 Dr.Kが辞令を読み上げる少し前。


「主任、主任、どうしたんですか?そんな嫌そうな顔して」

ある研究員が、書類を見ているDr.Kに尋ねる。

「……新しい辞令だよ」

そう言って研究員に見ていた書類を渡すDr.K。

「えっ……、マジっすか?!」

研究員は、書類を見ながらげんなりとしていく。

「あー……」

ため息をつきつつ研究員は書類を返してきながら、いきなり顔を上げると、

「仕事が増えるよ!!やったね、sy(ボフッ」

「言わせんぞ」

言葉を遮られ、仮眠用の枕をDr.Kから投げつけられた。

そのあと、Dr.Kは枕を回収して辞令を発表しに研究室に戻っていった。


 ちなみに、枕を投げつけられたこの研究員は所々でネタ発言している者で、名前を風見 幽真(カザミ ユウマ)と言う、入社3年目の新米研究員として、ここに配属されている。

 この辞令の元凶その1である。

なお、元凶その2は、技術的な返答であの報告をしたDr.K本人である。



教訓:人生なにが巡って帰ってくるか解らない。 







ーーーーーーーーーーー

お粗末さまでした。









[26873] プロローグ2
Name: ヴぁん◆72ebca82 ID:5a6fbbc2
Date: 2011/04/03 19:19

カタカタカタタ……

 場面は最初の暗い一室に戻る。

カタカタカタカタ・・・・・

 彼の作業は未だ続いているようだ。

カタカタカタカタ……

 彼、Dr.Kはその生気の無い目と手を動かし、只管にプログラムを打ち込んでいる。




……カタカタカタタッ

 少し経ってキーボードを打ち込む音が止んだ。

 彼はPCにセキリティロックをかけると、おもむろに席を立ち、ある方向に進んでいく。

その先には、薄暗く良くわからなかったが、言うなれば生体ポッドのようなものが十数個立てられていた。



 その中の一つの前で、Dr.Kは立ち止まるとポッドの横ある機械に手を当て、目をつぶった。

そうすると、手を置いた機械から淡い光が漏れ、生体ポッドへと繋がっていく。

光はそのまま、中にある人型に進み、光が触れると人型が震えるのが見て取れた。

その出来事は数秒もしないうちに終わり、今は薄暗い部屋に戻っている。


 Dr.Kは、その人型の様子に満足した笑みを見せると、白衣のポケットから銃を取り出し、銃口をこめかみに当て引き金を引いた。

銃声が響く。赤い花が咲く。

 それを感知したのか、部屋は赤い照明がつき、警戒アナウンスが流れてくる。

「警告。地下区画RX-79域にて小火器の銃声を感知、保安部はB装備で該当区画に急行せよ。なお安全のため区画ごと隔離を実行、隔壁から離れ……」

 もうこの部屋にはその警報を聞くものは誰も居ない。





 Dr.K、享年49歳。クロム社においてIS技術の解析を行い、その技術を既存技術と混ぜ合わせることでクロム社の技術力向上に多大な貢献をした。

クロム社が近年、稀に見る大成長を成し得たのは、彼のIS技術解析レポートのおかげと言って間違いない。

 クロム社の主力製品である義体とサイコダイブ装置の基礎応用理論を立て、プロジェクト『武装神姫』の素体及び武装開発の中核でもあった。

彼の自殺については、謎に包まれており自殺した場所が地下区画の遺棄された研究室で、そこには十数種の素体が休眠状態で生体ポッドに入っていた。

 自殺の時期はISが発表されて9年、クロム社から義体が発表されて3年のことである。

 
 素体の製造番号はどれも試作品の番号でDr.Kが研究用に保管していたものであり、なんらかの処置がなされていた。そのうちの4体は特殊処置と書かれていた。

 解析班に輸送中、何者かが襲撃、10体の素体が強奪されるという事件が起こる。

別口で輸送されていた特殊処置の4体は、Dr.Kが率いていた義体開発研究部に着くと、そのうちの3体が突然起動し、研究員に話かけてきたと報告されている。

現在、この2つの事に関する報告書を纏めている最中なので、後日詳細を説明する。

 なお、彼のチームに配属されていた風見 幽真(カザミ ユウマ)という研究員がDr.Kの自殺する数日前より行方不明で、事件と関連があるかわからないが捜索中である。

詳細が判明するまでこの事件について緘口令を出すことになっている。

 この報告書は、社外秘としてランクAAA以上の社員のみ閲覧できるものとする。








ーとある世界の軌跡ー


 ある天才がISを発表してから、様々なパワーバランスは崩れ、時代は激動の様相をみせていた。

それから約6年、世界が落ち着きを取り戻し、女尊男卑を当たり前に思う者が出てき始めた頃、クロム社が新たな爆弾を投下した。

ISを操縦できる義体技術とサイコダイブ技術である。


 この発表に世界は大きく揺れた、現在ISは世界において最強を冠するものであり、それを操縦できるものは女性で適正のあるもののみである。

その牙城をクロム社は崩そうとしているのだ。政界は混乱の極み、市民にも動揺が走る。だが、これを喜ぶ者たちもいた。

まだ、空を飛びたいと思っていた元空軍のパイロットたちである。彼らはISの登場による軍縮を受け、軍に居られなくなった者たちだった。

「また、空に手が届く」

そのような囁きが世界の各所から聞こえてきたのである。

ちなみに義体の映像が世界に流れた時の反応が、口をあんぐりと開けて止まったり、机に頭ぶつけたり、ドアに小指ぶつけるなどで多種多様な絶叫が聞こえてきたことを記しておく。
(一部で、「うおっしゃーーーー!!」という野太い声と黄色い声の、喜びの叫びが聞こえたが、スルーしておく。地域としては、主に極東の島国から、ビールの国、現最強の国と様々だった。キニシテハイケナイ)

もちろん、この情報はISの開発者である篠ノ之 束にも入ってきていた。



 ある一室で多画面のPCに向かう、ウサミミ着きのアリスファッションという奇抜な格好……、いやコスプレをした女性がいた。

そうISの開発者である篠ノ之 束である。

 束はクロム社の発表した義体についての記事とクロム社のHPに書かれている詳細、そしてハッキングによって社内資料を同時に閲覧していた。

「へー、ISのことちゃんと理解できる人が、私のほかにもいたんだー。んー、でもクロム社ってどこかで聞いたような……。あー……あー…ああっ!!ISコアを解析しちゃいそうになった所か!そうかーあそこかー。」

なにか思うところがあったのか、うんうんと頷く束。

「いやー、あの時はISのコア・ネットワークから緊急通達が来ちゃって、慌てて政府脅して止めちゃったけど、これだけ理解出来てるなら止めるほどでもなかったかな?」

ちーちゃんにも教えてあげようっと。と彼女は気軽に言っているが、「ちーちゃん」とは彼女の親友であり、第一回モンド・グロッソ優勝者である元世界最強の女性「織斑 千冬(オリムラ チフユ)」、その人である。









「……誰だ!!この忙しいと」「やっほー、ちーちゃんおひさしぶりー」






 織斑 千冬には困った親友がいる。誰が言ったか、親友は「天才で天災」と呼ばれている。それは自他共に認めているような状態だ。

 彼女は今、第二回モンド・グロッソで起こったアクシデントに関しての後片付けを終え、弟と共に家に帰ってきたところだった。

さらに手配やらなんやらで書類を書き込んでいるときに携帯が掛かってきたので、思わず叫んでしまったのである。

「…で、何か用事か?」

「怒っちゃだめだよー、ちーちゃん、短気は損気っていうんだから。」

彼女は相変わらず暢気な態度の親友に頭を抱えた。そして埒が明かないので会話を進めることにした。


「それで何かあったのか?というより通信して大丈夫なのか?」

「大丈夫、ダイジョーブ。ちゃんと秘匿通信だから、それでね、それでね、ちーちゃん今ニュース見てる?」

親友が珍しく外の事について話しているのに驚きつつ返事をする。

「いや見てないが……。」

「じゃあさ、じゃあさ。テレビでもPCでもなんでもいいから見てみてよ。」

要領得ない答えに困惑しつつも千冬は、書いている書類を途中で保存し、PCでニュースサイトを見てみる。

ニュース一覧を開くと一面の見出しにそれは載っていた。

……何の冗談だと彼女は思った。




 さっきから家の外が煩いはずだと彼女は思い返す。こんな発表があれば、騒ぎにならないほうがおかしいからだ。
意識をこちらに戻しながら束との会話を再開する。

「束、これはいったいどういうことだ。まさかまた……」

「違うよ、ちーちゃん。」

束の声に違和感を感じる。少なくとも彼女はこんな声を聞いたことが無かった。

「ねぇ、聞いて、ちーちゃん!!この義体ってね、私の発表したISの技術を応用して作られてるんだって!!」

「ああ……、そう書いてあるな。」

いつになく興奮した様子の束に、驚きながらも冷静に返して行く。

「だが、すでに開示された技術なのだろ?」

「違う、違うよ!ちーちゃん!あんなちゃちな技術じゃなく、ISをもっと分析、解析して理解しないと扱えない技術なんだよ!!」

束の説明は止まらない。

「開示要求で開示された情報なんてISの1000分の1!ううん10000分の1も理解してないんだよ。表面も表面、薄皮の部分なんだよ!!」

千冬は、なぜ束がこんなにも半狂乱になって興奮しているのか、なんとなくわかってきていた。

「だけど、違う!この会社は、このDr.Kって人は!私がつくったISって物を理解してくれている!!表面上だけでなく地殻まで掘り込んできてる!!」

束は……。

「それでね、聞いてちーちゃん!このDr.Kって人、すごいんだよ!私の作ったISを解析して、レポートを書いてるんだけどね!!」

篠ノ之 束は……。

「ISコア以外のブラックボックスを全部開けちゃったんだよ!しかも他の人が理解できるようなレポートを書けるほど全部理解して!!」

寂しかったのだ。

「それでね、それでね!」

 天才は孤独である。誰にも理解されず、誰もその思考を捕らえることはできない。理解できるのは、同じ天才か、それ以上の天才か……、はたまた、全く逆ベクトルの秀才か、バカだけである。

(なぜ、一瞬⑨の文字が浮かび上がった……?)

変な思考に、はまり掛けた千冬は束の言葉でこちらに戻される。

「ねぇ聞いてる?ちーちゃん?」

「ん……、ああ、聞いている。しかし良かったのか。世に出されたらまずい技術だからブラックボックス化していたんだろ?」

「というより、勝手にブラックボックス化してたんだよね。他の人が理解できないから。」

すこし、落ちついた様に束が言う。

「それでね!本題なんだけど、そのDr.Kってね!ISコアまで解析しようとしたんだよ!」

「ああ、そうだろうなそうでもしないとIS適正の秘密まで見抜けなかっただろう。」
(私も全てを理解しているわけではないが……。)

「ISのコア・ネットワークから緊急警報が来て、焦って止めちゃったんだけど。ここまで理解してくれてるんなら、解析してもらってもよかったかなーって思ったり。」

いきなりの束の発言に唖然とする千冬。

「そこまで……。」

「んー?どうしたの、ちーちゃん。」

千冬は、出掛かった言葉を飲み込んでなんでもない振りをする。

「いや、なんでもない。ああ、そうだ。そんな情報をもっていると国際IS委員会が黙っていないんじゃないか?」

「うー、なんか逸らされた気がするけど……。えっとね、委員会の基準ってさ、ISに関連することだけなんだよね。開示要求してくるの。」

「ああ……」

「だから、これは『わが社の義体の技術だ』って言ってるみたいだよ。クロム社、しかも押し通してるし。」

「なるほど、クロム社はISからの技術を屁理屈が言えるほど習得したということか。いい上層部だな。」

「だねー。Dr.Kの解析レポート自体は提出してるみたいだし……。そういえば、いっくんが誘拐されそうになったんだって……?」

とてつもなく、冷たい声で束が聞いてくる。

「あっ…ああ……、亡国機業という組織にな……。」

「へー、ふーん、そーなんだー。亡国機業っていうんだー。……うん、こっちでも調べておくね。なんか気になるから。」

束からの重圧が戻る。

「じゃ、また連絡するね。」

「わかった…。よろしく頼む。」


 束からの電話が切れ、通話切ろうとするがなかなか押せなかった。そして、千冬は自分の腕が震えているのに初めて気づいた。

そして窓の外が明るくなり始めているのにも気づいた。

(書類……どうしよう)

 織斑 千冬、彼女は、元世界最強の女性であり、現世界最凶の苦労人であった。










 ちなみに義体の映像を見たときの2人の反応。

天才
「おー、すごいすごい。これ考えちゃった人とも気が合いそう!!主に夢想実現之事な意味で!」
 
苦労人
「勘弁してくれ……。」














ー続・とある企業の軌跡ー

 クロム社と聞いて何を思い浮かべるかと聞かれれば、医療関係者は義手と義足と答え、PMCでは、VRシステムと答えた。

政府は、ナノマシンと答え、一般人はゲーム機のVRシステムと答えた。

でも、そんな答えはもう古い。いまやクロム社と言えば義体、義体、義体!!それは一夜にして義体一色に塗り替えられた!




 そんな見出しが新聞の一面に躍っているのを、コーヒーを飲みながらDr.Kが読んでいる。ちなみに研究室に泊まって3日目の朝である。

他の研究員の面々は、床に寝る者、椅子を繋げて寝る者、机で寝る者、PCで寝落ちしてる者とじつに様々だ。

ちなみにPCで寝落ちしている者は、内容保存してあげるのがDr.Kの優しさである。

その頃、幽真は廊下でぶっ倒れていた。3徹後であった。


 あの辞令が下ってから2ヶ月たった話である。







 プロジェクト『武装神姫』




 クロム社が発する新しいビジョン。

プロジェクトの内容を説明いたします。

 このプロジェクトは、クロム社においてIS解析の最大功績者であるDr.Kの提唱した義体理論を基にしております。

この理論は、人間に義体と言うゲタを履かせることでISに誤認を起こさせ、誰もがISに搭乗できるようにするというものです。

そしてこれらの理論は、実証され、すでに実践段階にあることは、各々方良くご存知だと思います。

 さて、現在、これらの利益は、誰もが享受しえるものではありません。

極一部の人しかISを操縦できず、そして極一部の企業がその恩恵を受けている状態であります。そして我がクロム社もその一つです。

そういった企業、組織は長続きせず、どこかで破綻が起きます。何事でもバランスが寛容なのです。

我らクロム社がほしいのは、断崖絶壁からの滝ではなく、大きな山脈からくる長く大海まで続く川なのです。

 では、どうすればよいか。 答えは簡単でISの絶対数を増やせばよい、そうすれば必然的に恩恵受ける企業も増えます。

ええ、解っております。それは不可能であることを、ISの開発者である篠ノ之 束がISコアを製造しなくなったため、467機で打ち止めとなっています。

この絶対数のため、IS関連企業は政府から補助金を受けなければ厳しい状況というとても情けない状態です。健全な状況ではありません。

 このままでは、癒着などにより成長を止めることになるでしょう。成長し続けるには新しい水が必要なのです。そして進化には、宿敵が必要です。

 では、本題に入りましょう。

こちらの映像をご覧下さい。



 会議室の中央で立体映像が映り、そこでは武装した少女?が軍事訓練用アスレチックを易々と突破して行く様が見れた。

黒い全身スーツを身に纏、胸部上部より鎖帷子のようなものが見え、時代劇物に出てくる「くノ一」と言える服装、そしてその少女の髪は、淡い水色という生物学上ありえない色していた。

 司会者は映像を流しながら、話を続ける。



 現在、映っている彼女は、プロジェクト『武装神姫』の雛形になるために作られた『TYPE:忍者型フブキ』と呼ばれる素体です。

素体とは、モンド・グロッソを主眼においてチューンされた義体を差します。この素体は、悪く言えばISの劣化コピーの性能と言えるでしょう。

 お客様、ご説明いたしますので、お静まりください。

 では、改めましてご説明いたします。武装神姫の素体は、ISと対比した場合、ISを10として3の力しかありません。

この素体は、義体にはなかった機能がいくつも付与されています。

 まず、ISにある絶対防御に準ずる安全防壁。これは素体を構成いるナノマシンを応用し素体へのダメージを減らし、戦闘での破損減らし、コストパフォーマンスを上げます。

現在、義体全般において、オーダーメイドと基本フレームはかなり安価になっているのですが、肝心の新型ナノマシンの増産が間に合っていないため割高となっており、この安全防壁により修理しやすくする狙いがあります。

また搭乗者にこの防壁があることで安心感を与えることができます。なお、この安全防壁は実質3層構造となっており、一番外側がISにも搭載されているシールドバリアー、次に全身を守る第一安全防壁、最後に胴体と頭を守る最終安全防壁です。

なぜ最後が頭と胴体なのかと言いますと、クロム社であるからというのが主な理由ですね。我らクロム社は元々義手義足を主に作っていたため、生産ラインが整っているのです。そのため手足を守る必要もないのです。

まあ、ナノマシン技術のお陰で生産は楽になったというのもありますが。

 次に、量子変換機能です。この機能によりマウントされた武器のデットウェイトを少なくできます。

まあその様子はISを見ていれば良くわかると思います。

 また、素体は、これらの機能を存分に使い、さらにIS用武装を使っても最大5時間の連続戦闘に耐えられるように作られています。

まあ、IS用の武装と言ってもモンド・グロッソ用にデチューンされたものですがね。



ああ、ぬか喜びさせてしまい申し訳ありません。


 しかし、次の話題では、ぬか喜びなどさせませんよ。さて、この武装神姫、現在足りないものがあります。武装の部分です。

やはりIS用の武装では、相性などの問題により武装も素体も100%の力を出せません。そして、私は先ほどこう言いました。

素体はISの3割の力しかないと、では残り7割どうすれば良いか、この場に居られるIS関連企業の武装部門の方々ならお気づきでしょう。

そう武装で補えばよいのです。

 IS関連企業の方々には、この「武装神姫」をIS用の武装のテストベットとして使っていただき、さらにそのための素体専用の武装を作っていただきたいのです。

この中には、中小企業の方々も居られ、運悪くISを受領できず、せっかく作り上げた武装の良し悪しすら解らなかった企業もあることでしょう。

しかし、素体であれば、搭乗者には困らず、しかも安全で、ISを待つ時間も必要とせず、メンテナンスもISより安くなります。

また、ISの3割といっておりますが、これはモンド・グロッソのリミッターをかけたISと同等であります。

例えるなら、ISは実銃で、武装神姫は競技用の空気銃です。改造できますがね。

 素体において一番のメリットは、素体は量産が可能ということです。そして、ISと同じく、宇宙、空、地、海、深海も武装次第では可能であります。

さすがにマグマは解りませんが、さらに何度もいいますが、搭乗者の安全が確保されているということです。

サイコダイブの最大時間は5時間。あとは設定次第で痛覚を感じるリアルなものから、ゲームのFPSのようにもなれます。最悪素体を捨てれば、捨て身の救助や、未探検の深海でも安全です。

 おや、何かご質問が……、ほうテロなどに使われるのではないかという疑問ですか。たしかにごもっともな意見です。

しかし、対策は万全です。もうライドオン、つまり搭乗した方ならわかると思いますが、素体には簡易AIが搭載されております。これにより登録された武装以外での攻撃、及び非武装の人間への攻撃は禁止してあります。

また、この簡易AIを排除しようとすると、素体はロックし緊急信号が発信され、通報されます。まあ例外として素手がありますが、武器を向けられない限りは反撃できません。

 えっ?試合で相手が攻撃してこなかったらどうするのか、ですか? IS自体を武装として認識しているので大丈夫ですよ。また試合の場合、カウントに連動してモードの切り替えが行われますので、ご安心を。

ああ、忘れていました。素体というよりクロム社の作る義体全般に言えるのですが、その全てに簡易AIまたはサポートAIが積まれておりまして、通常と戦闘、異常モードに場面で切り替わるようになっています。

日常生活時は通常、試合や警備、実験では戦闘、災害などでは異常という風になっており、それぞれリミッター上限が違います。つまりAIによる安全装置です。

 先ほどの話に戻りますが、通常モードで日常に関係ない爆発物、発火物を近づけると行動がロックされます。ご納得いただけましたか?……それはよかった。

 おや、そちらの方は……、おお、かの有名なメカアクションシリーズを作っていらっしゃるFS社とそのプラモデルを売り出しているK社さんですか、ああなぜ、呼ばれたのか知りたいのですね。

ええ、実は、素体と武装を作る際、困ったことが発覚いたしまして……、情けないことにいま、デザインが不足していまして。何せほぼ一人に任せてしまったため、かなり無理をさせてしまいましてね。

ええ、武装神姫と言っていますが、じつは素体の基本フレームはある程度自由が利くので、別に女性型である必要はないのです。あ、ISは女性型でないと起動しませんよ。

見てみたくないですか?あなた方がゲームの中で作られたメカが空を翔け、地を駆けるところを……おお、助力して頂けますか。では、後ほど細かい交渉をお願いいたします。





ではご質問などが無ければこれにて、プロジェクト「武装神姫」の発表を終わります。有り難うございました。






 おっと、最後にこのプロジェクトに関してのご質問は、随時受け付けております。御用の方はクロム社質問窓口まで、ご一報ください。

交渉次第ではライセンス生産も視野にいれております。そちらにとっても悪い話ではないと思いますよ。ではご一考お願いいたします。














ー続・ある世界の軌跡ー



 クロム社が義体の発表を行ってから半年、2発目の爆弾が投下される。

プロジェクト『武装神姫』と呼ばれるモンド・グロッソを主眼にチューンされた義体と武装のことだ。

クロム社から公式の発表があり、それは映像と共に全世界を駆け巡った。

その発表に大きな反響があったのはいうまでもない。

 とくに反発したのは主にISの搭乗者及び候補生たち、一部の一般女性そしてISの大企業郡だ。

逆に賛同したのは、世の男性たちと、IS関連の中小企業郡、そして何故かゲーム会社郡、一部女性(IS搭乗者含む)だった。

ほかは、よく言って中立、悪く言えば日和見を行った。

 比率としては、否:可:中であらわすと、3:5:2といった感じであった。 



 素体が販売され、小さな企業(レンタルもやっているのですよ)でも見られるようになった時期、事件が起こった。

ある国がISをクロム社に差し向けたのである。もちろんリミッターをつけてだ。

 クロム社に向かったISは2機、フランスのデュノア社製、第2世代IS、名前をラファール・リヴァイヴと言った。

これに対し、クロム社は、ある5機を向かわせ、撮影のための1機を配置していた。





 ちょっと補足をしよう、クロム社は、素体の販売について、「フブキ」を完全量産型とし、そのあとの神姫はカタログ注文式というスタンスである。

前にもいったが、素体や義体は、新型ナノマシンで成形している。そのため、注文を受けてから作っても生産ポッドがあいていれば1週間以内に完成するのである。

そしてもっと特殊な方法としてオーダーメイドというものがある。これは素体の基を作っておき、注文者が作った3Dデータをデザインとして作成する方法で、

デザイン料分、安くしてもらえるというプランである。もっとも生産ポッドに限りがあるので、5年先まで予約で一杯な状況である。

 義体のほうは注文製である。ちなみに義体と素体では使っているナノマシンが違うので生産ポッドも別ラインである。(義手や義足は、義体ラインで生産)








 さて話を元に戻そう、最初に撮影のための機体は、人型以外の義体は作れるのかという実験で作られた戦闘機型の義体で名前は通称「夜目」である。

あるゲームに出てくる空中で静止も出来る高機動戦闘機を模して作ってみたもので、大きさは大型のラジコンヘリくらいである。

機体制御はほぼAI任せで搭乗者は、行きたい方向を指し示すだけである。直感でしか操作できないので難しいとライドオンした人が言っていた。

 
 夜目が配置に着く。

 カメラに映ったのは、クロム社から向かった5体の武装神姫が白亜の装備にブロンドの髪をはためかせ、ガ〇ナ立ちで待っているところだった。

その姿形は白い機械式の羽根を装備し、足には膝から下を覆う装甲と小さなブースター。そして二の腕の部分に光学近接武器をマウントし、篭手のような装甲が目に着く。

小隊を組んで、ガイ〇立ち、撮影者は「わかってるなぁ」といいながらカメラを回していた。

5体の編成は、武装神姫専用装備の重装式1、軽装式4の『TYPE:天使型アーンヴァル』であった。

そして全員の共通点は、ヘルメットを前にスライドさせてあり、全員目元が見えないようになっていることだ。






 遠くのほうからISが迫る。いまここに天才が作ったISと秀才が基礎を作った武装神姫の火蓋が切って落とされる。




 さきに動いたのは重装式アーンヴァル、量子変換で取り出したLC3レーザーライフルを構え、水平線の向こう見えるラファール・リヴァイブの一機に狙いを付け……、

発射した。

 勝利の方程式1、不意打ちと超ロングレンジ攻撃。そして情報。

夜目から景気良く「弾ちゃーっく」と聞こえてきた。 


 発射と同時に軽装式4体が前に出て重装式を守るような隊列に変わった。

重装式アーンヴァルは次の発射体制に入っている。軽装式4体もアルヴォPDW9というサブマシンガンを構え迎撃体制をとりつつ前進していった。


 この時の、ISと武装神姫のシールドバリアー残量。どちらも全快状態は999

IS1:999
IS2:203
VS
AG1:999
AG2:999
AG3:999
AG4:999
AG5:999



 
 ラファールを駆る二人は焦っていた。

敵からの砲撃でシールドの8割を持ってかれたのだ。油断していたところを直撃でこの様である。

考えている暇はない、頭を切り替えて応戦しなくては勝ち目はない。

二人は、アサルトキャノンを構えて突撃する。

その瞬間、警告音が鳴り響く、弾かれるように回避行動をとる。

「よし避け……」ラファール1が光の奔流に飲み込まれる。

ラファール2は混乱していた、たしかに避けた筈のラファール1が自分から光に突っ込んで行ったように見えたのである。

さらに警告音が続く、軽装式の接近を許してしまっていたのだ。

 勝利の方程式2、予測偏差撃ちと連携。


IS1:264
IS2:203
VS
AG1:999
AG2:999
AG3:999
AG4:999
AG5:999


 現在、ラファールの2機は、それぞれ2機の軽装式アーンヴァルを相手にしなければならず、少しでも隙を見せれば超長距離レーザーを食らう状態になっていた。

軽装式アーンヴァルはある一定の距離には近付かず、中距離を維持しながらサブマシンガンを打ち続けている。

ラファールたちは、完全に後手に回っていた。連装ショットガンで応戦するも、相手は回避と篭手のシールドで軽減し、思うようにダメージを与えられない。

そこに長距離警報、二人は散開しようとするが、軽装式が邪魔をして、進めない。強行突破のため「ブレッドスライサー」で切り込むが……、軽装式はM4ライトセイバーを抜き、切り返してきた。

そして、そこを狙われ、ラファール2と軽装式は光に飲み込まれた。

(仲間ごと撃った!?)

 ラファール1は、軽装式からの弾幕を回避しながら驚く。

光が消え、空中に残っていたのは、軽装式であり、ラファール2は絶対防御を発動して、緩やかに失速していった。

 勝利の方程式3、計算と信頼。 


IS1:198
IS2:000
VS
AG1:999
AG2:823
AG3:056
AG4:769
AG5:734



 ラファール2と戦っていた軽装式が、前線から離脱しようとしている。ラファール1が何とかしとめようと動くが、残り3体の軽装式アーンヴァルから牽制を受け上手く近づけない。

ラファール1は覚悟を決め、シールド・ピアーズに賭ける。3体を強行突破ショットガン乱射で振り切り、離脱中の軽装式の背後に肉薄する。

「とどめーーーーー!……




 え?…」

 離脱中の軽装式アーンヴァルは、『直角に急降下』したのだ。結果ラファール1は盛大に空振る。

もちろんその隙を重装式は狙い撃ちにする。ラファール1は、光に飲み込まれ、絶対防御が発動した。


IS1:000
IS2:000
VS
AG1:999
AG2:603
AG3:056
AG4:562
AG5:590

 勝利の方程式4、機体性能把握と相手を土俵に上げないこと、そしてブービートラップ。



 白亜の装備に身を包み優雅に戦場を引き上げていく、その様は、天使型を冠するに値する姿であり、その戦い様は、敵対者を慈悲なく駆逐する神話の天使そのものであった。


 夜目は撮影を終えると、唖然としたまま海上で浮遊しているIS乗りの2人に近付き、クロム社からの招待があることを告げ誘導すると言った。

2人は、海上で突っ立てるわけも行かず、夜目の誘導に従っていった。


 この対決は、襲撃ではなく合同演習で実戦訓練であったことを差し向けた国とクロム社が発表した。裏でなんらかの取引があったのは言うまでもない。

この戦闘をみて、ほとんどの人の感想は「武装神姫は、数がないとISに勝てない」であり、一部の人は、「ISは、武装神姫の戦術により負けた」といった。

そして極少数の人は、「武装神姫は、数さえ揃えばISに勝てる」といった。



 これから2年間で素体は40000体以上作られ、その種類は20種類以上発売される。武装のパーツ数は1000種類を超え、今現在も素体、パーツは増え続けている。

クロム社の躍進はまだまだ続きそうだ。






















Dr.Kの自殺より1ヶ月後、場所不明。
 
「ん……やれやれ……ようやくお目覚めか」

……

「なかなかな寝ぼ助のようだな……きみは」 

……?

「ふむ……そうだな。私の名前はDr.K、好きな様に呼びたまえ。」





物語の歯車はカラカラと音を立てて廻り始める。





ーーーーーーーーーー

戦闘書くのて難しい



[26873] 第1話
Name: ヴぁん◆72ebca82 ID:5a6fbbc2
Date: 2011/04/03 19:20

 これまでの経緯をまとめてみたよ


・ISが発表されたよ。
・Dr.Kは私に嫉妬したよ
・Dr.KがISの解析してレポートを作ったよ。
・ISコアも解析しようとしたけど差し止められたよ。
・クロム社は、ISに男性をのせれるようにしたかったよ。
・Dr.Kが「人間に義体というゲタを履かしてISに誤認させる」という仮説をたてたよ。
・Dr.Kと研究開発班のお陰で義体が完成したよ。
・義体はアイギスとコスモスっていうんだよ。
・ISは義体を誤認して起動したよ。
・仮説は実証されたよ。
・クロム社が、ISすら騙せる義体って謳い文句で発表したよ。
・世界が驚きと呆れに包まれたよ。
・私がDr.Kとクロム社に興味持ったよ
・千冬の苦労人度合いが増したよ。
・クロム社は、プロジェクト「武装神姫」を計画したよ。
・Dr.Kと風見幽真って人の企画案が基になったんだよ。
・デスマーチだよ。
・2ヶ月で企画立ち上げと、武装神姫の雛形を仕上げたよ。
・雛形の名前はTYPE:忍者型フブキっていうんだよ。
・素体と武装をデザインしたのは風見幽真って人だよ。
・プロジェクト「武装神姫」が発動したよ。
・まず色んな企業の人たちに挨拶と説明をしたよ。
・素体はISの3割程度の性能なんだよ。
・デザイン関係でゲーム会社とかに協力を打診したよ。
・実は問い合わせとかいっぱいきてたんだよ。
・武装神姫ってプロジェクト名だけど別にIS関係しなければ男性型もロボ型もなんでも成形できるんだよ。
・クロム社が世界に向けて、プロジェクト「武装神姫」を発表したよ。
・世界が、またクロムかって言ったよ。
・反発と賛同と中立が3:5:2ぐらいだったよ。
・世界初のISと武装神姫の戦闘が起こったよ。
・2体5のハンデ戦で武装神姫が戦術勝ちしたよ。
・これを記録してたのは実験中の非人間型の義体だったよ。
・それから2年くらいでクロムは急成長したよ。
・プロジェクト「武装神姫」は世界で40000体以上、シリーズの種類は20種類以上、素体専用の武装パーツは1000種以上だよ。
・今も生産してるけど増産がおいつかないんだよ。
・さっきの数字には、オーダーメイド注文は含まれてないから、ワンオフ素体と武装を入れると倍以上になるよ。
・クロム社がフリーのデザイナーに声を掛けているみたいだよ。


そして……、Dr.Kが自殺したよ……。部下の風見って人も行方不明だよ……。



                    Dr.Kと周りの主な動向の報告書

                         まとめた人:篠ノ之 束

                       参考資料:クロム社内部資料
                            クロム社内部極秘資料



ーある学園の軌跡ー







 IS学園で教員をしている千冬に秘匿回線で突然、束からある報告書というかメールと資料が3枚ほど送られてきた。

主にDr.Kの動向が調べられたものだが、千冬が懸念したのは、メールの文章だった。

束が書いたであろうメールは、文章構成が滅茶苦茶でかなり動揺しているのが一見しただけでわかるのだ。

そして最終的には怨念のような文句を並べている。束が怨念をぶつけているのは一度千冬の弟、一夏を攫おうとした亡国機業であった。

 千冬は、束が読んだであろうメールに送付されたクロム社の極秘報告書を読んでみることにした。



<追加報告書>

 Dr.Kに関する追加情報と関連する事案についての続報をここに記す。

Dr.Kの自殺に関して最初は、有力な手掛かりが無く捜索は困難を極め、Dr.Kが直前まで使用してたと思われるPCを回収しようとしたところ、自壊プログラムが発動、復旧を目指していたが内部が物理的に損壊しており絶望的であった。

 ところが、思わぬ所から解決の糸口が見つかる。Dr.Kより特別処置を受けたとする自立稼動の武装神姫からDr.Kのメモリーデータの提出がなされたのだ。

データメモリーは、2つあり目覚めた3体の内2体から渡されたものだ。彼女らの証言によれば、

「プロテクトが掛けられていて中は覗けなかったが、Dr.Kからのメッセージが添えてあり、時が来たらある研究員に渡せと命令されていた。」

とのことだった。この2つのメモリーデータは、解析班に渡されたがプロテクトを突破できず、Dr.Kのいう研究員の手に委ねられた。

 その研究員は、現在の技術開発部門責任者で、社内ネーム「キサラギ」氏であり、Dr.Kの元上司であった。
(社内ネームとは社内で使われるHNである。主に誘拐や犯罪抑止の効果がある。また社内ネームはある一定以上の階級、または重要人物にのみ許されるものでDr.Kも社内ネームである。)


キサラギ氏の協力によりプロテクトが解け、中にあったDr.Kの手記及び技術レポートにより事件の全容が明らかとなった。

 まず、この事件には亡国機業というIS犯罪組織が関与していると見られる。亡国機業という組織については現在情報収集を行っており、追って報告する。

この組織が、Dr.Kに接触したのは、プロジェクト『武装神姫』が企業に向けて説明された後、すぐである。Dr.Kに関する報告書には書いてなかったが、この時期から時折Dr.Kの姿が見えなくなることがあったという証言がある。

組織からの要求は、素体のIS適正の向上と組織のための素体を作る事だったようだ。また脅迫内容は、従わなければ所属研究員の家族を消すという非道なものだった。そして、素体輸送中に襲撃を受け素体10体が強奪された件も同一組織と見られる。

 現在、素体のIS適正に関して研究は続けられているが、最高Cが限界であり、素体用武装パーツの研究に移行し始めている。その事もこの組織は掴んでいたようだ。

そして、Dr.Kが自殺した部屋で発見された14体の素体には、IS適正向上のための処置がされたことがメモリーデータのレポートにより解った。彼女らに成された処置は、心停止や植物人間などで脳が生きている状態で死亡したとされる者から新鮮な脳と脊髄を取り出した後、ナノマシンでコーティングし、素体に搭載させることでサイコダイブを省き、素体のISとの親和性を向上させるものだった。

この処置をされた素体は、直接接続型素体と呼び、従来のものをサイコダイブもしくは、ライドオン型素体とDr.Kは判別している。また特別処置と書かれていた4体の素体については、脳と脊髄をナノマシンで置換することでより親和性を高めたとレポートに書かれていた。

 結果、この処置をされたものは、IS適正がBまで伸び、まれにAの素体が誕生するとされ、特別処置の場合、A~Bが理論値となるとDr.Kが推察している。

技術レポートより、最初、直接接続処置されたものは10体で、直接接続特別処置されたモノも10体あったが。特別処置をした10体のうち7体が、脳髄をナノマシンに食われ、それは取り出した際融合し半透明の球体になってしまったと記され、この球体は組織に渡さないようある場所に隠したとも書かれていた。

現在、発見された素体のうち13体の身元が、資料により確認されていて全てが男性であったが、未だ休眠状態にある最後の素体についての情報が無い。Dr.Kの性格からして書き忘れたのではなく、あえて書き残さなかったと推測される。

これらの事項により、結論としてDr.Kの自殺は、良心の呵責とクロム社への警告を含み、亡国機業へ素体を渡さんとした最終手段であったと推測する。

 追記:Dr.Kの手記において遺言のようなものを確認。それによれば、「現在生産している義体及び素体について、人間そのものの外見を完全にコピーした義体の生産を禁止してほしい。」とされ、その後に成り代わりなどの危険性が書かれていた。これについては別紙で報告する。

 

 この報告に対して上層部は激昂しており、このような宣言をおこなった。


 「我らクロム社の製品を犯罪に利用しようとし、わが社の人材で宝であったDr.Kを脅迫の上、自殺に追い込み、さらにその忘れ形見である10体の素体を強奪していった亡国機業の罪は重い。

これより我らクロム社は亡国機業を敵対組織と認定し、撃滅する。もう二度とDr.Kのような事はさせない。まずは、クロム社内部に侵入した者と裏切り者を一掃する。その後、IS関連企業を虱潰しにして亡国機業を炙り出す。

我らクロム社に与えた屈辱を万倍にして返すことを誓う。」



         クロム社内部極秘報告書。この報告書は社員ランクAAA以上の者のみ閲覧できるものとする。












 千冬が報告書を読み終えた頃。秘匿回線で束が通信してきた。

「……。」

沈黙が重い。

「……ねぇ、ちーちゃん……。」

聞こえてきた声はとてもか細いものだった。

「何で…なんだろうね……。」

「何で……なんで……ナンデ……。」

「ナンデ……やっと、やっと理解してくれる人が現れたのに……。」

「やっと……ISを理解できるかもしれない人が現れたのに……やっと私を理解してくれるかもしれない人が出来たのに……。」

千冬は掛ける言葉を見つけられなかった。

「……ユルサナイ……絶対に許さない……亡国機業……絶対に……」

電話越しなのに嫌な汗が止まらない。それから数分、束からは呪詛が流れ続けた。


少し経って、束から話を切り出してきた。

「ねぇ、ちーちゃん……お願いがあるんだけど。」

「ああぁ、ななんだ束。でっ出来るだけのことはするが」

今までの迫力に流され、安請け合いしてしまう。

「なにどもってるの?変なちーちゃん。まいいや、えーっとね。クロム社と渡りをつけてほしいんだけど」

「……?もう付けてるんじゃないのか?この資料だって……、お前まさか!」

千冬は嫌な予感がした。

「だ……だって~、Dr.Kのこと知りたかったんだもん。ででも大丈夫だよ、痕跡は残してないから。」

千冬は束らしくない初歩的なポカであり、束がそこまでDr.Kを気にしていたことに驚くが。

「そうじゃなくて!私たちが社外秘な情報を知っていることが問題なんだ!今、渡りをつけてみろ全力で疑われるぞ!!」

「そこまで怒鳴らなくてもいいじゃないのー。」

それまでの反動もあってか千冬も取り乱しぎみである。

「はぁ……はぁ……、すまんすこし落ち着ける……よし、で渡りをつけるのは解るがどうしたいんだ?」

「んーとね、まず、Dr.Kの素体を見てみたいから報告書に載ってた特別処置の素体をどうにかできないかなぁ」

束がなかなか無茶なこという。千冬にとってはいつものことだが。

「難しいな、あの書類にあったようにあれはDr.Kの忘れ形見だ。そうそう手放さないだろう。」

「そうだよねー。私だって……あ、そうだ。私が休眠状態の眠り姫を起こすってのはどうだろ?」

「それも難しいだろうな」

「どうして?」

束が本当に解らない様に言う。



 ちょっと束という天才について補足しておこう。

本名:篠ノ之 束(シノノノ タバネ)、ISを一人で基礎理論から実証まで行い、現在存在する467個のISコアを作り上げた自他共に認める天才である。

だが完璧超人ではない。束にとっての世界は、千冬とその弟、一夏。そして実妹の箒だけであり、あとは両親、その他と言った感じである。というのが今までの束だった。

しかし、そこにDr.Kという異分子が入り込んだ。ついでにクロム社とか風見幽真とか。千冬や箒からみれば大きな変化である、束が自分たち以外に興味を示したのだから、そこまで束の他人に対する意識は絶望的だったのである。

親友と呼ばれる千冬でも束に理解は示してるが全てを理解できているわけではない。だから、あんなにも喜び、あんなにも悲しみ、あんなにも怒ったのだろう。


千冬は眉間を解しながら言う。

「簡単な話だ。クロム社にとってDr.Kは無くてはならない存在だった。しかし、彼が居なくなった今、技術力の後退は必至。もし彼の置き土産である眠り姫を目覚めさせることが出来なければ彼の後進が育たなかったことを意味する。」

「ふむふむ」

束は頷いているが、解っているか疑問である。

「そんな事になればクロム社の衰退は決まったも同然だ。クロム社は意地でもこの難問を解かなきゃならない。ある程度は持つだろうが、そのうち他の企業が追い越すことになるだろう。」

「えー。でもあの素体ってそう簡単に作れるものじゃ……あ、Dr.KのIS技術レポートか」

「その通り、束が言ったようにあのレポートはある程度、学があればそれなりに理解できる代物だ……わたしでもな。今ではKレポートと呼ばれるほど浸透している。」

「んじゃー、クロム社に技術提供を……。」

「それこそ向こうにとっては、ありがた迷惑だ。束の技術をIS関連技術だと言って踏み込もうとする馬鹿共が出てくるだろう。」

千冬は、束に講義するようなことが来るようになるとは……と感慨深げに思う。

「えっと、じゃあ……じゃあ……じゃあ。」

束はいままで誰よりも自由に生きてきた。大地の鎖に縛られたことはない。だから鎖に縛られて生活する方法を知らない。つまりどう接すればいいのか解らないのだ。

こんなに他人興味を示す束を思い、嬉しいやら寂しいやらの千冬が助け舟を出す。

「束、一つ教えておこう。彼らクロム社は基本的に技術者集団だ。そして上層部はその扱いに長けている上に頭が切れる。そんな彼らが一番気にすることは、契約だ。」

「契約……。」

千冬は、何かに取り付かれたかのようにスラスラを講義していく。

「クロム社にとって、契約とは技術と資金を交換するということ、もし出し抜かれれば自分たちは大損をすることになる。」

「……。」

「しかし、欲を出しすぎれば、他社から信頼を失い、契約すらしてもらえなくなる。」

「むー……めんどくさいなー」

「それが社会というものだ。さて束、








 お前が今一番したいことはなんだ?」





















 千冬は、ふう、とため息をつき携帯電話を置く。あの後のことをあまり思い出したくはない。

さっきのことを拭い去るようにクロム社にコンタクトを取るため、クロム社のHPを検索した。

今の時間でも窓口が開いてることを確認し、さっき置いた携帯電話も再度取り、番号を押していく。

呼び出し音が聞こえてきた。

「はい、こちらクロム社質問窓口です。何かどういったご質問ですか?」

「IS学園の織斑 千冬という者ですが、クロム社の交渉役に直接交渉したいのですが、どうすればいいでしょうか。」

「IS学園の織斑 千冬様ですね、少々お待ちいただけますでしょうか?」

「はい」

千冬はなかなか訓練された電話役だなとどうでもいいことを思いつつ、切り替わるのを待つ。

「お電話変わりました。クロム社、交渉役担当のオーメルです。織斑 千冬様ですね。」

胡散臭そうな名前である。

「ええ、そうです。」

「どういった交渉をお望みでしょうか?」

「ある情報のことについてと契約について、そちらと直接顔を合わして交渉したい。」

「………ある情報とは?」



食いついてきた相手に一言だけ伝える。






    亡国機業

            」

と。































 約5ヶ月後、IS学園とクロム社の間でモンド・グロッソに関する協定が結ばれ、公式にISと武装神姫が競うことができるようになった。

そのため、アドバイザーとして、ある1体が出向と言う形でIS学園に到着すると同時にある積荷がIS学園の地下ラボに運ばれていった。

 その積荷はもう1体の素体で休眠状態のまま半年経過したDr.Kの置き土産であった。

Dr.Kの置き土産の引き取りに関して、極秘裏にクロム社と仲介した織斑 千冬及び篠ノ之 束の間である協定がなされいるその名を、『亡国機業殲滅協定』といった。





















ーあるモノたちの軌跡ー









 なんと言えばいいのだろうか、浮遊感?水面に浮いてる感じ?どれも当てはめられない不思議な感覚。でも懐かしいような気がする。胎内の記憶ってやつか?

あとは……頭というより脳?背骨というより髄?が、ちくちくと痛いような痛くないようなもどかしい感じ。そもそも脳に痛覚ないんだから感じるはずないんだが。

ああ……なんか眠いような眠くないようなまどろみを行ったり来たり、じれったいなぁ。二度寝のときみたいにいつの間にか眠r…………。






 またこの感じ、ああ……ちくちくする。そもそもどうなってるんだ?というかどうしっ……痛いたたたた……何なんだ一体、思い出そうとすると痛みを感じるなんてフィクションだけだと思ったけど本当に感じるとは……。

暇だ、またねよ……。





 なんだろうこの違和感、体が鉛みたいに重い、動けない?……どうなってるの?



 

 うわぁ!……ユメ、ゆめ、夢か、でも久しぶりにみたな、姉ちゃんのユメ、ゆめ、夢なんて……えっ、あれ?思い出せない、おもいだせない、オモイダセナイ。

名前、なまえ、ナマエ……なんだっけ?まあいいや……寝たら思い、おもい、オモイ…出すよね?








 ……ジュウセイ……?……やけにウルサイな……ねカセテ…よ……










<……脳髄のナノマシンによる置換が終了>

<脳髄と素体への接続開始……OK>

<サポートAIの再構築開始……エラー>

<最大権限者からのパッチを発見実行……>

<エラー……OK……再構築完了>

<サポートAI及びFCS兼レーダー担当AIのイメージを捜索中……該当のイメージを復元中……終了>

<擬似空間を構築中……エラー……エラー>

<サポートAIによる擬似空間の構築申請……YES……サポートAIによる構築開始>

<リソースの問題により重要度の低い作業を中断>

<擬似空間構築完了>

<作業を再開……>

<武装パーツデータを確認……OK>

<素体に異物を感知……排除しますか?……NO……パッチを発見……実行中>

<素体の正常化を確認……新しいデバイスを確認……インストール中>

<FCS兼レーダーAIに変更あり……変更保存中……上書き完了>

<言語パッチ中……終了>

<サポートAIより記憶領域のプロテクト申請……OK……作業開始>

<…………終了>

………

……
















<全工程終了……システム全項目正常……意識LVロック解除>

<この命令を持ってセットアップモードを終了……”おつかれさまでした”>

<通常モードに切り替わります……”おはようございます”>





















どこか解らない空間の中央で誰かが丸くなりながら寝ている。

「ん~……」

誰かが肩を叩いている。それを煩わしそうに払う。

「んん~、あと五分~~」

そんな事抜かしてると、



拳骨が飛んできた。

「んぎゃ!?……イタタタタ!?」

あまりの痛さにもだえている誰かに対し、誰かが冷静に話しかける。

「目は覚めたかね?」

「あい……。」

まだ痛みが残っているのか、涙目で摩っている頭には狐の耳みたいなものがある。

誰かがキツネミミに言う。

「まったくこちらが自己紹介しているのに二度寝しおって」

キツネミミが誰かに向かって、そんなにない胸を張り、声高らかに言う。

「大丈夫じゃ!!ちゃんと覚えておるぞよ!」

そんな事言ってるが、頭抱えて悩む格好をしてる。

「え~と、うーんと、むむむの……ド……ドク……そうじゃ、ドクじゃ、ドク!」

誰か対して人差し指で指して、どこぞのS〇S団団長のように宣言する。

ただ、自信がないのかポーズをといて上目遣いで答えを待つ。

「合っているかの?」

誰かは、頭が痛そうに額を手で覆い、ため息をつきつつこういった。

「はぁ……残念ながら赤点だ。もう一度言うぞ、Dr.K、Dr.Kだ。大事なことだから二回言ったぞ。」

「でも好きに呼んでいいんじゃろ?」

「どうしてそういうところだけは覚えているんだ……まったく。」

Dr.Kは、本当に頭痛そうに俯く。

「だから、そちはドクじゃ!」


 二人は知らない、Dr.Kの本当の名を、二人は解らない、もう一人この空間に潜んでいることを、そして、三人は知らない、世界が変動していることを。

彼らは、ただ変動に身を任せるしかない。























「で、どこにいくんじゃ?」

 われは、Dr.Kと名乗る白衣を着た初老の男性?の後ろ歩いていく。

Dr.K……打ち込むの面倒なのでドクで十分じゃ、もうそう決まっておったしの。とりあえずドクは振り返りもせず、こう返してきたのじゃ。

「擬似空間のメインルームというところだよ。そこで説明をする。」

 われは、ぶっきらぼうな男じゃのうなどと考えながらも、その後ろ姿に何故か懐かしさを感じたのじゃ。

そうそれは、いつも見てきたsy(ズキン

「いつっ……」

 われはいきなり頭に痛みが走ったので思わず立ち止まってしまった。すると異変にきづいたのか、今度はちゃんと振り向いて少し気遣うように話してきた。

「大丈夫かね?」

「だっ大丈夫ぞよ……でもなにか違和感が……」

「ふむ……」

 われが、そう答えるとドクは、顎に手をやり考えてるような動作をしてさらに聞いてきた。

「その違和感がどういうものか説明できるかね?」

 とりあえず、解るだけドクに挙げてみる。

「……記憶に関することと、体が重く感じる。あと口調に違和感がするぞよ。」

「ふむ……となると……」

 われが、痛む頭を押えて待っていると、ドクが近付いてきて、頭の上に手を載せてきた。

少しすると痛みが取れ、体が軽くなった気がした。

「何をしたんじゃ?」

状況が良く解らなかったので聞いてみると。

「修正だよ。詳しい話はメインルームについてから話すからな……少し急ぐぞ」

「ちょ、待つのじゃ!」

 われを置いて走り出そうとするドクに言い放つが、聞いては貰えず、後を追っていく。






 少し走り続けていると、両開きのドアが空中に浮いていた。中々しゅーるな絵図らだった。

ドクが両開きのドアを、勢い良くあけ中に入っていく。われも続けて入っていくと光が逆流s(略

なんてことはならず、普通に部屋になっていた。いや、普通では無かったが……。

「なんで会議室なんじゃ……?」

 われは思ったことを口に出してみる。その疑問に答えるようにドクが話し始めた。

「そう設定したからね……私の趣味だよ。」
「円卓会議室がかえ?」「そうだよ」

 われが見回す限り、普通の会議室……ちょっと高級すぎる会議室だった。やけに深い部屋の造型、バロック調?の家具に机に椅子、上品な絨毯。そして円卓の中央には、でかい水晶玉が飾ってあった。

「どこの王宮じゃーーー!!」

 われじゃなくとも、ツッコミを入れているだろうと思うから叫んでしまったわれに罪はないと……思う。

「そもそもじゃ、ここでPCとか不釣り合いすぎじゃろうが!」

「それなら問題ない……内蔵式PCだからな。」

そういうとバロック調?の円卓からディスプレイが迫り出してきたり、回転してキーボードが出てきたり、中央の水晶からホログラムというか3D映像が出てきたり、色々台無しだった。

「……なるほどなー」

ちょっと人格崩壊しかけても無理ないと思いながら、現実逃避をしてしまった。





「さて、話しても良いかね?」

 われが現実逃避から帰ってくるとドクは、いわゆるゲンド〇ポーズでそう切り出したので、素直に頷いておいた。ちなみにドクの容姿は、眼鏡をかけた冬〇副指令に似ている。

「よろしい、では講義を始める。」

そういうと中央の立体映像に光が灯り、周りが暗くなっていく。

「さてまず、君のことから話すとしよう。君の名前は、ナル。クロム社が発売している武装神姫のTYPE:九尾の狐型蓮華と言う素体のカスタム機だ。」

 そういうとわれの全体像が中央の立体映像に映し出される。

 容姿の主な特徴を挙げると、身長は150cmくらい、等身は低め、髪型はナインテールとキツネ耳、体型はスレンダーと言え!

あとは顔に歌舞伎の隈取みたいなペイントが成されている。……一応スーツが表示されてるんじゃが大部分が肌と同色なせいでノースリーブの水着に長手袋とオーバーニーソックスというマニアックな姿になっておる。

「武装神姫というからには、専用の武装パーツが付属している。量子化されているので、あとでシミュレーションルームで試してみるといい」

武器が中央に表示される。

……すんごい難しい名前が並んでおるんじゃが、全部覚えなくちゃならんのかの?とりあえず疑問に思ったことがわしはあるので手を挙げてみる。

「なにかな?ナル君」「遠距離武器がないようなのじゃが……」

ドクが目を背ける。

「あるじゃないか、尻尾部分に8本」

投げろと!?

「まあこれには理由がちゃんとあってな、ナル君。素体にはそれぞれのシリーズごと特性が違ってくるのだが、君の場合、特性が超高速近接戦闘でね。そのだな簡単にいうと……射撃がド下手なのだよ」

生まれた瞬間から才能ないってわかるってこんな気分だったんじゃの……。

わしは、机にべたっと張り付くがごとく脱力してしまった。

「さらに追記しておくと剣の尻尾型収納装置は、尻尾状態からハンマー、鉤爪といった具合に形状変化させることができる。また剣は物理兼エネルギー系の武器だ。」

ヒートソ〇ドみたいなもんかの?

「ああ、話を少し戻すが君のキツネ耳は武装の一つでな。アンテナや各種センサーの役割を果たすことができる。」

中央にキツネ耳の内部構造が映り、各種センサーの名前がならんでいた。ただの飾りではないということか。

すこし耳をぴこぴこしてみる。ついでに触ってみる。「うひゃう!?」

「なにをやっているのかね、君は?」

ああ、ドクそんなに可哀想な目で見ないでほしいぞよ。

だが、ドクはすぐに講義の体勢に戻ってしまい、こう述べた。

「まあ君の奇行は今に始まったことじゃないから、先に進めるぞ」

何かそれはそれで悲しいのじゃ。

「武装神姫の基本内容はもう知っていると思うからあとで復習しておくように」

はしょりおった。

「さて、少し前に言ったが君は通常の武装神姫と違いカスタム機だ。その違いについて説明していく。」

われは、ドクの言い方に引っかかりを覚えた。

「君が、さっき言ったような違和感はここで関係してくる。」

何か嫌な予感がしてきた。

「きみのようなカスタム機はISとの親和性を高めるため、ある処置を施されている。特に特別処置を施されているものは他の素体と比べ、特段にIS適正が高い。」

不安がつのって来る。

「このカスタム機について、処置を施されたモノは10体、特別処置は4体製造されており、君は4体中の1体だ。」

聞きたくないという気持ちが耳を塞がせる。しかし、キツネ耳が拾ってしまう。

「その処置とは……」

いやじゃいやじゃいやじゃいやじゃ……

「脳髄が生きているうちにナノマシンでコーティングすることであり、特別処理では、脳髄をナノマシンに置換している。」

ああぁ……あ……あ…

「それらを素体に直接接続することで親和性を向上させるのだ。」

………ヤメテ

「なお、特別処置を受けた脳髄は破壊できない、時間を置けば再生してしまうからだ」

……いやぁ!

「それゆえ私は、処置者を帰還者(リターナー)、特別処置者を不死者(アンデット)と呼んでいる。」



「おめでとう、君は死んで不死者となった」

プツ

われは意識を失った……。















「ふむ、気絶したか。まあ仕方あるまい、一旦休憩とする。」

そういうとメインルームがハイテクな会議室から少し豪華な会議室に戻っていた。

 私は毛布のデータを呼び出し、ナル君に掛けてやる。

 

 椅子に深く腰を掛け、私は思案しはじめる。

彼を助けるためとは言え、不死者にしてしまってよかったのかと、特にあの様子を見た後としては強く思う。

そもそも私がこの方法を思ついたのは義体によるIS起動実験の後のことだ。

アイギスとコスモスのIS適正の差についてあることを思いついたからだ。

ISは、コア・ネットワークというもので繋がっており、互いに情報を与え合い自己進化すると開示情報にはあった。つまりそれは強くなる意思が存在するということ。

そこからISコアは、意思を持つ機械生命体か何かでないかと推測した。もちろん荒唐無稽な話だ、学会などで話せばありえないと一蹴されるのが落ちだ。

だが、この世に有り得ないことは有り得ない。ISの存在がそれを証明している。

話を戻そう。

 義体のIS適正について、アイギスのほうが高かったのは、アイギスを女性として誤認したのではなく、ISコアが仲間だと誤認したのではないかと考えた。

また、それを決定づけるように安定してCを出すようにした素体は、ナノスキンスーツを取ると間接などに不自然さが残っていることがわかる。

そして特別処置の際に出来た半透明な球体がISコア機械生命体説を裏付ける。なぜなら、その球体は……。

「ご明察♪」

突然の聞きなれない声に警戒するドク。そうするとドクを12時とした場合、3時の位置の席にそれは現れた。

「君は誰かね……」

「あら、結構なお言葉ね。サポートAIさん?それともドクかしら?」

言葉を返してきたのは、見てくれは女性であり、髪色は緑で、服はワイシャツとチェック柄の上着で、同じくチェックのロングスカートにまとめ、日傘を机に立てかけていた。

「わたしは、あの子の従姉……のイメージで作られたFCS兼レーダー担当AIよ」

彼女は、ナル君に目を配らせながらそういった。

しかし、……。

「そんなものは存在しないはずだ」

そう、FCS兼レーダー担当AIなど存在しない。そんなものにAIなど必要無いからだ。

私は厳しい口調で問いただした。しかし、相手は何事も無いかのように話かけてきた。

「いえ、ガワ自体は存在していたわよ。中身すっからかんだったけど、大方消し忘れでしょうね。だからわたしが直して使ってるわけよ。」

彼女は、人差し指を上に向けながら続ける。

「それに、ちゃんと球体は固定していれないとダメよ。変なとこに転がってちゃったらどうするのよ」

そして私は気付く。

やはりこいつは……。

「だからちゃんと固定しといてあげたわ、基本フレームにね」

あの球体か!

「この脳喰らいの悪魔めが……」

こやつは、特別処置中に7つの脳髄を喰らったナノマシンの集合体であるあの球体の化身だ。

私が罵倒をあびせて彼女は涼しい顔して、

「だとしたら貴方は、その悪魔の哀れな契約者ね」

皮肉でかえしてきた。

それからこの悪魔は更に続ける。

「それに、あの子たちは中々美味しかったわよ。お陰で色んな方面の知識を手に入れることができたわ」

笑顔でそう言い切り、舌なめずりをして思い出すようにいった。

「わたしを拒絶なんてするから、怒って食べちゃったけど、結果的に自我を持てるようになったし感謝しなくちゃね。ご馳走様」

この悪魔は私に向かってそう言い放った。


幾時間経っただろうか、とても長い時間向き合っていた気がする。

「さて、そろそろその子が起きるから、わたしは退散するわね。わたしは休憩室の花畑にいるからシミュレーターを使うときに呼んでね。」

私が睨みつけても流すかのように席を立って行く。そしてドアの前まで移動すると止まって振り返らずに話しかけてきた。

「ああ、あと彼らから伝言よ。『仲間を増やしてくれて有り難う。』ですって、裏技中の裏技で増えたのにね。」

そう言い残すとドアの前から彼女は消えていった。










「それでは講義を再開する。」

音を立てながらハイテク会議室に変形していく様を見ながらため息をつく。

 なんとか気絶から復帰したわれは、取り乱しドクに情けないところをみせてしまった。

ドクは気にしてないみたいだけどわれとしては複雑なわけで……

「ナル君、気持ちは解るが講義に集中してほしいのだがね」

ビクッと反応してしまうわれ。聞く姿勢に戻す。

「では、さっきは脱線してしまったが、違和感についてだ。これは、君を保護するための措置だ。」

どういうことじゃ?

保護はわかるが、措置というのがわからない。

「記憶についての違和感は、君が急激に生前や死ぬ瞬間を思い出してしまうと発狂してしまう可能性があるためにプロテクトが掛かっているためである。」

じゃあさっきの痛みは……。

ここに来る前の頭痛を思い出す。

「記憶を思い出すためのキーワードみたいなものに触れたため、プロテクトに弾かれたのだろうな。」

なるほどの。

納得がいったというふうに頷く。

「次に体の違和感は、脳が未だ生前の体の感覚で動かそうとしてるからだ、つまり馴染んでいないのだよ」

あーそういうわけかの。

手を開けたり、閉めたりしている。

「そして、口調だが、これは元々素体にある機能だな」

あ、ボイスチェンジャー機能の暴走じゃな?

「それに定常文機能の暴走もあるだろうな」

また厄介な機能が暴走しておるの

「そもそも素体で会話機能を使う者が少なかったからな。直接接続など未知なことをすればどこかで不具合がでる。」

そーなのかー。

「遊んでる暇はないぞ。時間が1ヶ月ほど送れを取っているからな。」

「次が今回の分の最後の講義だもう少し頑張ってくれたまえ」

講義の時は、基本聴く動作しかしないから映像説明でもない限り、地の文が書けんからの。

しかも生徒1人しかいないものだからイベントもないぞよ。

「最後は擬似空間についてだ。」

このへんてこ空間のことじゃな。

われは周りをみまわしながら思う。

ドクの舌は絶好調なようだ

「この空間は、君の脳を使ってシステムが作り出した夢のようなものだ。そのため、使おうと思えばなんでも出てくる、ただし君が知っているものだけだがね」

つまり、この空間を豊かにするには、われが見て聞いて触らないと情報が更新されないのかえ。面倒どうじゃの。

「メインルームを基本に様々な部屋が存在するそしてそれらは基本君の記憶の中にある情景から構築されている。」

「またこの空間に来れるのは素体が休眠状態になるか、クレイドルで充電しているさいだけだ。」

「さらにここでシミュレーターを使い戦闘訓練を行っても経験を積めるだけで素体の強化にはならない。」

 われの知識によれば、素体は成長するらしい。成長と言っても身長が伸びたりするのではなく、ナノマシンが動きを学習するのじゃ。

ダッシュなどの素早さを挙げる訓練ならば、ナノマシンがその動きになれて少しづつアシストしたり、剣術など鋭く早い動きならば一瞬の力の解放などが上手くなったりする。

まあ、動けば動くほどナノマシンが慣れて動かしやすいようにしてくれると覚えておけばよい。ちなみに意識して行えば行うほど効果があるという報告があるそうじゃ。

誰に向かって説明してるんじゃろうの。わしは。

「クレイドルの話が出たので話しておくが、君のような直接接続型素体は、サイコダイブ型と違い制限時間がない。そのため何時間でも行動できるが、戦闘モードになった場合、バッテリーの都合上5時間が限度だ。また試合で素体が破損した場合、クレイドルで休眠状態になれば自己修復と充電を行ってくれる。一応エネルギー充電は有機物を摂取することでもできるが、効率が悪いのでオススメできない。」

ほういいことを聞いた。つまり大食い大会にでれば・・・ダメに決まっておるか。それに有機物で過充電でもしたら破裂しそうじゃしの。

「そもそも素体には味覚がないから、味のないゴムを噛んでるようにしか思えんよ」

な……な…なっなんじゃとーーーーーーーー!!

そのあと、われは講義中に騒ぐなと2時間ほど説教されることになったぞよ。





「それでは、講義を終了とする」

 やっと講義が終わり机の上でぐだるわれ。たれきつねってあるのかの?などとどうでもいいことを考えつつ次のことを考える。

武器庫にいって武装パーツを見てくるのも良し、休憩室にいくのもよし、このまま寝るのも……Zzz









 それはナルにとって懐かしいと感じる夢であった。小さな時のこと、あのまどろみの中で見た夢の続き、それはある花畑のでの出来事。遠い記憶……。






 ぼくが親戚の家にある花畑で探索していたとき、ある花を見つけたとき。

花畑の隅でひっそり咲いているそれから目が離せなくなったぼくは、その場にしゃがみ込みその花を見てしていた。

「なにをみているのかしら?」

不意に後ろから話しかけられる。

話しかけてきたのは従姉の〇〇ねぇだった。~~姉さんは、この花畑を代々管理している親戚の娘ですこし虚弱体質であり、その関係か細身で、外に出るときはいつも日傘を差している。

ーー姉さんと初めて会わされたときのことは、少し色素の抜けた赤い瞳がとても怖く感じて、怯えているぼくを見て少し寂しそうな顔した<>姉さんの微笑みがわすれられなかった。

「はなをみているの」

そういってぼくは見ていた花を指差す。

それに対して**姉さんは、その花について語りだした。

「へぇ、すずらんがここに咲くなんて珍しいわ。君影草(きみかげそう)、谷間の姫百合(たにまのひめゆり)とも呼ばれているわね、花言葉は「幸福の再来」「純粋」「意識しない美しさ」……」

++姉さんは、花が好きだ。愛してるといってもいい、病的なほどに執着しているのだ小さなときからこんな広大な花畑の管理を任されているほどに。

でも、ぼくはそんな%%姉さんのことが嫌いじゃなかった。

「本当はもっと寒い地方で見られるんだけど、誰が種を運んできたんでしょうね……。」

ぼくは$$姉さんから花の話を聞きながら、すずらんを見続けていた。

「ふふっ……ごめんなさいね、あなたが花にきょうみを持つなんて珍しいと思ったから……、でも、その花にはあんまり近付いたらダメよ」

いつもの儚げな微笑をしながらそう諭してくる。

「どうして?」

小さい子供からの当然の疑問にすぐ答えが返ってきた。

「その子にはね、毒があるのよ……1人なら問題ないでしょうけどすずらんの花畑を雨の降った後、歩いていれば……」

思わず後ずさると__姉さんにぶつかってしまった。

「……そんなに怯えてあげないで、花が悲しむわ……それに大丈夫……」

##姉さんが後ろから抱きしめて、耳にささやいてきた。

「もしあなたが死んでしまっても……ちゃんと活けて(タベテ)あげるから……〇真……」








 わしは頭の鈍痛で覚醒した。とても懐かしくも恐ろしい夢を見たような気がする。すこし頭を手で押さえて辺りを見回すとそこはさっきまで講義がされていた会議室で今はわし、一人のはずだった。

「あら、ようやくお目覚めね」

懐かしい声が聞こえる。その声が聞こえた来たほうにユックリと向きかえるとそこには……。

「お呼びが掛からないからこちらから着ちゃったわ。そうしたら寝ているなんて失礼な話だと思わない?」

あの夢で見た在りし日の‘‘姉さんが、あの微笑を向けて、

「じゃ、自己紹介するわね。お初にお目にかかるわ、FCS兼レーダー担当AIよ。名前はまだないわ、よろしくね」

立っていた。それを見たわしはその儚くも恐ろしい微笑みに恐怖を感じて、不覚にも気を失ってしまった。


「あらら?人の顔を見て気絶するなんて失礼な子よね。あなたの記憶の中にある顔から構築したっていうのに。」

 わたしは気絶してしまったその子に近付く。少し魘されている様子を見ながら頬をつついてみる。

「へぇ……感触まで再現してるのね。この空間は。」

妙なところで関心してしまうわたし、そして、もっとも伝えたかったことを魘されているそのこへ囁いてみた。





「もっともっと強くなりなさい。もっともっと賢くなりなさい。そしてもっともっと純粋になりなさい。そうして早く早く……



 私たちの仲間になりましょう……



 待ってるわね」


それだけを伝えて私は花畑に戻っていった。 

















 IS学園の地下ラボで、キーボードを叩く音が聞こえてくる。そこには特別処置と書かれたポッドとPCを高速で操っているウサミミを生やしたコスプレ女性がいた。

彼女はここ一週間ここに入り浸っている。あの天才と言われた篠ノ之 束を一週間も釘付けにする強固なプロテクトがそのポッドには施されていた。いやプロテクト自体は束にとって強固なものではない。ただ単純に数が多く、トラップだらけのめんどくさいプロテクトが何千何万と掛けられているのだ。

その様相は束の提唱したISとDr.Kが中核となった武装神姫の縮図を見ているような錯覚に襲われる。ISコアを使って強制ハッキングしてもいいのだが、そうすると中身の素体にもダメージが行く。それゆえPCで解かないといけない状況になったのだ。さすがDr.Kやり方が悪辣である。

ちなみにクロム社でこのプロテクトに挑んだ研究員はノイローゼになり、現在治療中である。


 親友の様子にさすがに心配になってきた千冬が地下ラボに下りてみるとそこには散乱したゼリー状携帯食の空容器があり、真ん中に束が座り、その指が高速で踊っているのが見えた。

尋常じゃない様子に声を掛けれない千冬、千冬が入ってきたのもわからないほど集中している束、その様子は、すこし大きな隈が出来てるくらいで、逆に瞳は爛々と輝いていた。

そしてしばらくして、束がおもむろに席を立つとポッドに近付いていく。

そして束がポッドの脇に付属している端末を操作すると警告アナウンスが流れた。

<警告、ポッドの開放を行います。付近にいる作業員は1分以内に安全域まで離れて下さい。繰り返します……>

しかし束は動こうとはしなかった。千冬が声を掛けよう近付くと次のアナウンスが流れる。

<システム全項目異常なし。素体の休眠モードを解除準備OK。ポッドを開放し、素体の拘束を解除します……>

ポッドの透明な蓋が宝箱のように開き、素体の姿が露になる。

素体が体を起こし、伸びのような動作しながらぼやいていた。

「あ~……んーー!……だれじゃぁいきなり……ヒトが気持ちよく寝ているのを起こしよって……」

千冬はその光景に、またクロムかっなどと頭を抱えていると、束の様子がおかしいことに気付き、駆け出した次の瞬間。










「ん?だれじゃ?ってなんじゃーーーー!?」

束は目覚めた素体に勢い良く抱きついた。








この日、IS学園地下ラボにて、ナルという素体がこの世に誕生した。

篠ノ之 束がISを発表してから9年と半年、クロム社が義体を発表して3年と半年のことであった……。









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あれれー?おかしいなヤンデレお姉さんが増えたよー





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