チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[26770] 【ネタ】IS~漢達の空~その5投稿
Name: 凡夫◆773ede7b ID:b5aa4df9
Date: 2011/04/02 15:41


 「オレ達にとって、空は何よりも代え難いものだ。」





 祖国の空軍でもエースパイロットで知られる父は、何時も僕にそう言って誇らしげに勲章やアルバムを見せてくれた。

 時には友人達との笑い話や、実戦であった本当に危なかった時の話。
 滅多に家にいない父は僕にせがまれるままに、何時も話をしてくれた。
 
 お隣の幼馴染もまた父達の話が好きで、よく僕とつるんでいたものだ。
 当時色々あって友人がいなかった僕にとって、その幼馴染と僕を繋げる父達はある種の絆とも言える、とても大事なものだった。

 
 父と、父の友人達は、僕にとって何よりも誇らしいものだった。








 だが、父と父の友人達はある日、唐突に「空」を奪われた。






 

 それ以来、飲んだくれになってしまった父を母は見捨て、僕だけが家に残った。
 

 父だけじゃなく、父の友人達もほぼ同じ有様だった。
 酒に溺れ、貯蓄を切り崩していく父達を、僕は見ていられなかった。




 だから、二度目の生を受けてから、僕は初めて確固たる目標を得た。


 「空」を取り戻す。


 不当に奪われた空を、もう一度漢達の手に。

 そのためなら何でもする、と。
 そう、決めた。
 


 それが、どんなに辛くとも、逃げ出さず。
 己の心身をすり減らしてでも、実現する事を誓った。







 






 IS~漢達の空~





 

 


 ジョ二ー・ドライデンは転生者である。
 

 決して宇宙世紀出身のちょっと軽めで不憫な赤い稲妻ではない。


 
 ジョニーが転生をする事となった理由は割愛する。
 というより、詳しくは彼も覚えていない。
 何か輝かしいものに気まぐれに「特典」を与えられた事くらいだ。

 「精々楽しませてよ。」

 そんな言葉だけが耳に残っている。

 その際、彼が願ったのは彼のお気に入りの娯楽作品の幾つかから、それに関連する知識だった。
 
 願ったのは、「機動戦艦ナデシコ」とその劇場版、そして「アップルシード」、「甲殻機動隊」に関する知識だった。



 そして、彼はその知識はあまり必要でないものだと一度は判断する事となる。
 何故なら、彼が転生した世界は彼にとって完全に未知の世界だったからだ。




 IS、インフィニット・ストラトス
 

 アメリカの空軍士官の夫婦の間に生まれたジョニーにとって、その最新鋭兵器の存在は彼の人生に大きな影響を及ぼした。
 それも、恐らくは悪い方向に。

 エースパイロットだった父は空軍のISの採用によって空を奪われ、多くの同僚達と同様にその誇りを奪われた。
 管制官だった母はその職務を続ける事にしたが、次第に父を見限っていった。

 そしてある日、母は家を出ていった。

 父もジョニーもそれを止めなかった。
 止める言葉を持たなかった。
 
 そしてジョニーは恐らく一生使うつもりの無かった知識を、世に出す事を決めた。
 
 
 父に、父の友人たちに、空を取り戻すために。


 そのためなら、彼はあらゆる努力と犠牲を厭わない。

 




 SIDE JOHNNY


 僕が最初に行ったのは、先ずは自身の知識の再確認だった。

 転生からこっち、全くそういう事をせず、肉体から来る精神の後退に合わせて生活していたため、忘れていないか心配だったためだ。
 結果、どれ一つとして忘れてはいなかった。
 同時に、自身が持つ知識がどれだけ危険なものかを再認識した。
 ナノマシンや重力兵器、義体やランドメイドに関する知識を総動員すれば、十分にISに対抗できる、とも判断した。

 

 現状、ジュニアスクールも卒業していない身ではどうしようもない。
 だから、先ずは名を売り、協力者を得る事が最優先だ。


 しかし、子供が何を言ってもそう簡単に信じてもらう事はできない。
 そこで僕はネットに作ったサイトに、ある技術に関する理論を提示した。

 中身はアップルシードのLMことランドメイドに使用される技術の基礎理論だ。
 …とは言っても本当に基礎的なもので、これだけではまだまだLMを作る事はできない。
 10年単位で研究して、漸くと言った所だろうか?


 だが、撒き得としては十二分だろう。


 一時間としない内に、かなりのアクセスが確認できた。
 サイトに併設しているチャットルームでは現在絶賛議論中だ。
 本当に火が吹き出しそうな勢いだった。
そこにサイト主として一言添えておく。


 『これに興味を持って、それでいてISが嫌いという方は下記のアドレスにご連絡ください。』
 
 
 その後、サイトはIS嫌いな者を中心に大いに盛り上がり、大規模な先端科学技術の討論サイトとなっていった。
 その中で、かなり有望そうな人間にはこちらから声をかけていく。
 やはり彼らも現状の社会には辟易としており、かなり鬱憤を貯めていた。

 そして、サイト開設から半年後、有志を募り、母の伝手を辿り、僕達は小さな企業を設立した。
 

 名を「RE」

 REはRegeneration and Evolutionの略であり、漢達の空への復活と更なるステージである宇宙への進歩を意識したものだ。

 資金源は主に義体やLM関連の技術で取った特許が元となっている。
 特に人工筋肉は既存のものよりもかなりものが良いのでウハウハである。
 まぁ、その使用先が医療だけでなくIS関連も多いというのは非常にむかつく話だが、今は雌伏の時であるので、目を瞑っておく。
 それに、あくまで特許に出したのは基礎の基礎であり、本当にヤバそうな重力兵器や相転移エンジンなどの技術は秘匿しているから問題は無い。

 他にも同志達個人の資産も少々だが入っている。
 …正直、ここまで彼らがISを憎んでいるというのは驚きだった。
 まぁ、最近は女尊男卑も甚だしい世間なので、色々とあるのだろう。



 会社としては早速最新型の精密作業用機器やスパコンなどを購入し、アメリカ国内に本社を建築した。
 完成までの間も有効に活用すべく、僕らは半年程本社予定地の近くのアパートを3階分まるまる借りて、社員(仮)全員で集まると、今後の予定やら何やらを話していった。

 集まった社員(仮)達は僕がまだジュニアスクールに通っている年齢だと知ると相当驚いたようだが、話していく内に慣れていった。
 
 
 今後するべき事は、先ずはLMの実用化だった。
 それに義体の方もできれば製作して工作技術のノウハウを蓄えるべきとの声も上がった。
 なるほど、確かにその通り。
 知っていればなんだってできるという訳でもない。
 理論や設計、研究はできるだろうが、実際に作るとなると腕の良い技術者も必要となってくる事だろう。

 幸いにも集まった社員(仮)の中には元航空機関連の人材も多く、そこら辺は全員直ぐに納得できた。
 それにしても女尊男卑の影響か、集まった者の中には高名な年配の航空宇宙関連の技術者も何人かいるのだが、世界は大丈夫なのだろうかと一抹の不安を覚える。



 3カ月後、本社施設が大体4割もできると、全員が早速LMの実用化を目指して動き出した。
 
 人工筋肉に関するノウハウに関してはこの3カ月で皆結構習熟しているので良いが、搭載するFCSやバランサー、生命維持機能など一から作り上げなければならない。
 如何に結果が見えているとしても、それまでの過程は険しく長いものなのだ。

 ましてや、敵は世界最強の兵器たるIS。
 手など抜く事などできず、僕達RE社の社員一同は寝食も忘れて開発に耽った。

 最初に目指したのは、作業用としてのLMだった。
 戦闘用にするにはデータが不足しているので、先ずは作業用機としての堅牢さと信頼性、整備性などを目指す事となった。
 勿論、試作一号機は多少割高だろうと許す限りの高性能機に仕上げる予定だ。
 開発というものに節制は毒にしかならない。


 作業用の汎用人型重機という事で、サイズは2~3m程度が目安とされ、全体の大まかな構造や搭載する人工筋肉や油圧系の量を決定していくと、そこからは分担して作業する事となった。



 そして、どんどん時間が流れていった。




 最初期のLMにとってどんな材質が理想かを検討し、現行存在するありとあらゆる材質を調べていった。


 人工筋肉だけではやや最大馬力に欠ける上にコストが高くなるため、試作機一号は全身人工筋肉、二号機は一部油圧系を採用した廉価版となった。
 前者は軍用、後者は民用という具合に分ける。
 反応性という点においてはやはり人工筋肉だし、衝撃吸収力も高いので防御力が優れる。
 対し、油圧系は最大馬力は高いし、整備性やコストも優れるが、それ程防御力は高くないし、何より反応性が高くないからだ。


 IS程高級な代物ではないが、やはりバランサーは重要だ。
これはなるだけ重心を下にする事で安定性を高め、脚部に電磁吸着機能を付加する事で安定性を高めた上で、オートバランサーを設置した。
お陰で震度5クラスの震動でも転倒する事は無い。


 ISの様な絶対防御とは行かずとも、搭乗員の安全確保は最重要項目だ。
 そこで、本来のLMとは異なりマスターアームを削除、どこぞの機動警察の様に手の動きを直接伝える直接操縦形式に変更して操縦性を高めつつ、乗員を守る正面装甲と生命保護機能の搭載スペースを設ける事に成功した。


 そして、動力源に関しては大容量の小型燃料電池を採用し、連続5時間程の稼働を実現してみせた。





 そして、実に2年の月日が経過した。





 遂にLMが完成した。


 一号機はまだ本命の飛行システムであるダミュソスシステムが未完成であるため、発表は控えたが、作業用として開発した二号機は量産を前提として既に4000時間近い稼働時間を無事に終えた。
 それに量産機には必要のない機能の削除や一部設計の見直しにより、コストの方も低くなっている。
 もう販売する分には問題は無いが、何分IS全盛のこのご時世に売れるかどうか不安が残る。

 既にアメリカ政府や一部の企業には作業用LMを採掘場や災害救助用としてそこそこの注文が来ているが、軍需としてはお寒い限りである。

 LM―01A ギュゲス
 汎用型作業用LM第一号にして、後のLM全ての始祖となる機体である。
 その外見は卵型の胴体にゴリラの様な長めの腕と短い足、胴に埋まった頭部という構成となっている。
 高い汎用性と操縦性、整備性に低コストであり、作業用の他に災害現場における救助活動も可能な性能を持つ。
 五指のマニュピレーターを削岩機や杭打ち機等に換装可能であり、背面に空中飛行・浮遊を可能とするダミュソスシステムという板状の重力推進機により高所での活動も可能となっている。
 ただ、あくまで作業用、救助用であり、戦闘は不可となっている。
 
 現在、宇宙空間や深海対応モデルを開発中である。


 予想以上の良い仕上がりとなったギュゲスだが、しかし、今一つ売り上げが芳しくない。
 だが、幸か不幸か、他の企業や政府と細いながらも繋がりを確保できたのは幸いと言うべきだろう。


 そのためか、遂に我らがRE社にもISコアとIS開発への参加許可が出た。


 正直言って腸が煮えくり返りそうだが、背に腹は代えられない。
 それに、敵の情報は万金に値する。

 早速最新型のフランス製のラファール・リヴァイブを一機購入し、試作一号機の方との性能比較試験を行う事となった。







 三日後、RE社開発陣にはどんよりとした暗い空気が滞留していた。


 理由は簡単で、ラファール・リヴァイブとの性能比較試験でぼろ負けしたからである。
 試作一号機は未だ未完成とは言え、コストや整備性、操縦性以外ではほぼ全負けしたのだから無理もないと言える。
 

 ちなみに、ISの操縦は幼馴染の少女に依頼した。
 適正検査ではA判定を貰い、本人にも高いセンスがあったため、仮想敵としては十分過ぎる相手となってくれた。
 ……おかげでちょっと涙目になる事も多いが、きっと問題は無い。無いったら無い。


 ちょっと折れそうになったが、ここで諦めるつもりは全員毛頭ない。


 
 早速全員で喧々囂々の話し合いがなされ、戦闘用LMの再設計が決定された。

 先ずは機体サイズそのものを5~6mクラスにサイズアップさせ、凡そ全ての性能を向上させる事を目指した。
 
 そして、遂にナデシコ系の重力兵器関連の技術を使用する事となった。

 とはいえ、いきなり小型相転移エンジンとか出してチートとかは不可能である。
 先ずは重力操作技術のノウハウの確保である。
 ダミュソスシステムの御蔭で推進関係は十分なので、今度は兵装面の開発が始まった。


 いきなりディスト―ションフィールドやグラヴィティブラスト等の重力兵器の理論を見せる僕に驚く社員達だが、既に僕の異常性に関しては全員スルー、気にせずに早速仕事に取り掛かった。
 
 
 機体を5~6mにサイズアップしたためか、エステバリス関係の技術をそのままスライドできるため、戦闘用LMの開発は思ったよりもスムーズに進んだ。
 


 だが、ここで問題となったのが機動性である。
 全方位に視界を持ち、全方位に加速できるISを捕えるには、一体どうしたら良いのだろうか?
 
 

 無論、現在開発中の戦闘用LMは既存兵器に対し、圧倒的なものではあるのだが、どうしてもIS]と比べると機動性の面で見劣りする。
 

 そこで考案されたのが、重力波推進とジェットエンジンのハイブリット化である。
 
 これはエステバリス空戦フレームにも採用された機構で、加速はジェットエンジンに、浮遊は重力場推進に頼っているのが特徴的だ。
 今回の場合、重力操作による慣性制御を機体だけではなくジェットエンジンによって得た大推力のベクトルを変更させる事に使用する。
 そのせいで重力場推進のエネルギー消費が8%程大きくなってしまったが、これにより第二世代IS相当の機動性、運動性の確保に成功した。

 また、操縦方式をIFSではなくLM―01Aと共通のEOS(イージーオペレーションシステム)を採用した。
 パイロットはコクピット内で専用スーツを装着し、スーツに装備されたハードポイントで機体内部に半ば固定される様に搭乗する。
 なお、この専用スーツはオークと呼ばれるパワーアシストプロテクターを元にしたものであり、人工筋肉の高い衝撃吸収性による搭乗員の保護、高機動戦の際のGの軽減、生命保護機能を備え、水中や宇宙空間でも数時間は生存可能となっている。
 これにより、パイロットに掛かる負担の軽減と安全性の向上を果たした。
 

 後はバグの発見と生産ラインの調整、そしてデモンストレーションが必要だった。




 そして、僕は両親の交友関係を辿り、米国全土で冷や飯どころか空軍から叩き出された漢達に声をかけていった。

 彼らの持つ空戦のノウハウや戦闘経験、操縦技術は戦闘用LM開発にとって必要不可欠なものなのだった。
 今後、実際に戦闘用LMに搭乗するだろう彼らの声はRE社にとって多大な恩恵を与える事だろう。






 そして、雛型が完成したのは半年後。
 各所に調整を繰り返し、遂に戦闘用LMは完成したのだった。


 名称はそのままにエステバリス。
 その性能は現行最新の第二世代ISにも劣らないものとなった。

 全長は約6mで、ジェネレーターはやはり非搭載型となったが、コストと整備性、機体重量で優れている。
 その分の機体のエネルギーは要重力波ビームか長期活動用のENパック頼りとされた。
 基本兵装はディスト―ションフィールドとアーミーナイフ、アサルトライフルとなっており、このお陰で機動性、攻撃力と防御力全てにおいてISに劣らないものに仕上がった。
 
 そして何より、十分な訓練さえ積めば搭乗者を選ばないというISとはかけ離れた性質を持っていた。



 今日この日から、漢達は新たな翼を得て、再び空へと昇りはじめたのだ。
 










[26770] IS~漢達の空~その2
Name: 凡夫◆773ede7b ID:b5aa4df9
Date: 2011/03/29 22:38
第二話




 アメリカ合衆国には大きな不満があった。



 アメリカは世界の警察であり、国際社会のリーダーでなければならない。

 そう自負してきたアメリカにとって、現在の世界は甚だ不本意なものだった。




 ISという極東の小娘が作ったものに支配される世界




 軍事も宇宙開発も、最早IS一色になり始めている。
 圧倒的な軍事力と資源を背景として世界中に影響力を持っていた米国。
 それが今はどうだろうか?

 小娘一人が作った代物に、手も足も出ない。
 その上軍事力にも多大な制限ができてしまい、国内の治安は退職させられた軍人達のせいで治安の悪化や雇用問題が重なり、大きな社会問題となってしまった。


 多くの高級軍人達にしても多くの優れた空軍パイロット達を切り捨てるのは非常に辛い事でもあった。
 
 大企業にとって、今まで培ってきた多くの航空機開発のノウハウを否定したISは憎き敵だった。
 敵だったが、営利目的で動く企業はそれに従うしかない。

 そして、政治家にとっても小娘一人の掌の上という状況は非常に気に食わない。



 名誉ある合衆国を、世界を小娘一人の意のままにさせる訳にはいかない。

 そのために、名誉ある合衆国の復活を。
 ISからの脱却を。

 多くの政府要職にある者達がそう考えた。
 
 
 
 
 そして見つけた。

 あの大天災に匹敵する天才を。



 その少年は初めは誰にも注目されなかった。

 しかし、多くの最新科学技術の特許を持ち、冷や飯を食っていた多くの技術者達を雇い、ISに匹敵する兵器を作ったとなると、途端に目端の効く者達は彼の情報を集め出した。


 解ったのは彼が元空軍のエースパイロットを父に持ち、その父を空から追いやったISを憎悪している事だった。




 使える。




 ISを憎悪し、漢達に空を取り戻そうと必死になっている少年は、大人達にとって正にうってつけの人材だった。



 そして、彼の情報を知った者達は一斉に彼とのパイプを繋ごうと蠢きだした。














 IS~漢達の空~











 遂に戦闘用LM、LM-02エステバリスの受注が来た。

 
 これはつい先日、アメリカ内の企業・政府・軍問わずの重鎮達を招き、大々的なプレゼンを行ったからだ。


 とは言うものの、本来ならIS関連の技術発表会等で改良したラファール・リヴァイブとエステバリスの戦闘を披露する予定だったのだが、政府や財界筋から「プレゼンせんの?(意訳)」と何度も尋ねられたため、急遽行う事となったのだ。
 

 少々気にかかる事はあったが、事務や政治に詳しい社員達が揃って「好機を逃すな!!」というものだから、ジョニーを気にせずにプレゼンを行う事にした。







 







 SIDE JOHNNY‘S FATHER






 オレは、オレ達は一度空を奪われた。






 当時、ステイツの空軍パイロットの中でも腕っこきで知られていたオレは命令に従ってそいつ、ISとか言われる代物を落とそうとした。

 頼りになる仲間達、どいつもこいつも下品だが腕の良い、経験豊富な連中だ。
 乗ってる機体も当時の最新鋭機であるF-22。
 つい最近慣熟訓練も終了し、何の心配もなかった。

 例え新兵器だろうがなんだろうが、オレ達に負けはない、と。
 そう思っていたんだ。
 

 だが、現実って奴は何処までも残酷だった。





 オレの機に向かって白刃を振り下ろす白一色の人型の姿。





 気付いたのは2日後、空母の医務室だった。


 そこから、オレ達の凋落は始まった。



 空軍は再編成され、戦闘機は空から姿を消し、オレ達は翼と空を奪われ、追いやられた。


 ISと言われる女しか乗れない兵器に、オレ達が完膚無きまでに敗れたから。


 或いは、あの時オレ達がもっと奮闘していたら勝てたかもしれない。

 或いは、あの兵器が世界に広まらなかったらまだ空を飛べたかもしれない。

 或いは、オレ達がISに乗れたのなら話は違ったかもしてない。

 

 だが、全てはIFの話でしかない。



 後は、ただ貯蓄を食いつぶし、酒に逃げる情けない男だけが残った。







 妻には逃げられ、過去の栄光も消えた時、息子だけがオレを、オレ達を見捨てないでいた。



 頭の良い、自慢の息子だ。

 家に帰ると、何時もオレ達に話をせがみ、膝や肩に昇ってくる。
 やんちゃだが、頭も良く、女にも人気の、自慢の息子だ。

 息子は、オレ達を尊敬している。
 今もそれは変わらない。



 だからこそ、息子はオレ達にもう一度空を飛ばせようと動き出した。




 世情を見て、今のステイツにオレ達の居場所を作るには、空を取り戻すには何が必要かということは直ぐに理解した。


 作ったのは、ISに負けない性能を持ち、しかし、誰でも搭乗できる兵器。


 3年の年月をかけて、息子は天才である事を世界に証明してみせた。






 そして、オレは、オレ達は、もう一度空へと飛び立った。






 あの時の感動は筆舌に尽くし難い。


 強いて言えば、あれはあるべきものがあるべき場所へ収まったとでも言うべき、そんな感覚だった。

 
 あの日、実に10機近いLM-02が空を飛んだ。


 そして、通信から聞こえるのは始終漢達の嗚咽と歓声だった。




 『空が戻ってきた!』

 『空に帰ってこれたんだ!』

 『まだ飛べる!また飛べる!』




 後はもう、言葉にできなかった。








 半年後、オレはISとの模擬戦を行う事となった。





 お偉方へのデモンストレーション。

 これに勝てば、オレ達は栄えあるステイツの盾と剣として、また空を飛ぶ事ができるのだ。




 負けられない。負けたくない。勝ちたい。


 

 八百長などは一切無い。
 

 相手のIS操縦者は自慢の息子の幼馴染で、自分もよく知る相手だったが、だからと言って手加減なんぞする訳が無い。

 それは無論相手の方にしても同じだろう。


 『まだまだ息子はやらねぇぞ?』

 『おじさん、年よりは引っ込んだらどうかしら?』

 『なぁに、まだまだ若い連中には負けねぇさ。』


 げらげらげら。

 前の様に、出撃前の冗談を交わす。

 既に身体から酒は抜け、鍛え直した身体は以前の様に強烈なGにも十分に耐えられるし、長時間の戦闘にも問題ない。



 息子の未来嫁が相手と言えども、手は抜かない。
 寧ろ、それ位やんなきゃ意味が無い。
 いい女ってのは男の全力を受け止めてこそだ。



 開始のブザーが鳴る。


 ここから先は模擬戦とは言えど死線が引かれる領域だ。


 『行くぜ、ターシャ嬢ちゃん!』

 『行きます、ジェームズおじさん!』







 両者は真っ向から衝突した。



 通常IS同士の戦闘では空戦が基本となり、セオリー通り上を取った者が有利となる。
 しかし、エステバリスとラファール・リヴァイブ・REカスタムは既存のISと比べるとジェットエンジンの搭載比べると加速性が高いため、上下の取り合いよりも先に100m程度の距離では相手に突撃した方が隙が無いのだ。



 両者共に大振りで武骨なアーミーナイフで火花を散らして衝突し、Dフィールドを軋ませ合う。

 次いで、エステバリスが空かさずREカスタムに蹴りを入れ、距離を空け、ライフルで牽制しながら上昇を開始する。
 REカスタムも間をおかずに上昇を開始、ライフルを撃ちながらエステバリスに追いすがる。
 
 そこからは複雑な機動を描いたドッグファイトとなった。

 既に本社施設は豆粒程度にしかなく、周辺空域には二機の機動兵器のみ。


 両機は互いにジェットエンジンと重力場推進を用いて、第二世代ISから見ても高度な戦闘機動を以て相手の撃墜にかかった。




 ギシギシと、慣性制御でも御し切れないGが身体と機体を軋ませる。

 互いに相手の後ろに食らいつかんと動き、空を昇り、降りながら、二機が円を描く様に飛び、銃火を交える。

 一昔前の戦闘機のそれに近い動きだが、どんなに機動性・運動性が上昇しても、武装や機体性能に圧倒的な差が無ければ、その機動は必然的に似てくるものだ。


 そして、そうした形の戦闘ならば、やはり経験が生きて来る。
 そうなると、俄然有利となってくるのは、やはりジェームズだ。


 エースパイロットであり続けた彼を破るには、未だナターシャは未熟だった。


 Dフィールドは減衰しても機体のエネルギーが続く限りは回復する。

 しかし、現在は要重力場ビームを停止しているため、被弾すればIS同様に機体のエネルギーを削られていく。
 かと言ってフィールドを解除すれば、機体への空気抵抗が増し、機動性の低下につながりアウトだ。
 如何に慣性制御をしていたとしても、できる事には限りがある。


 徐々に被弾を重ね、消耗していくREカスタム。



 だが、搭乗者であるナターシャ・ファイルスの目はまだ死んでいなかった。



 


 手強い、とナターシャは思う。
 流石はアメリカの英雄だ、とも。

 相手は一度は退役したとは言え、歴戦の兵士。
彼の機動に自分は追い付いていない。
 武装は互いに同じものを使用し、機体性能自体もそう開きは無い。
 
 あるのは執念。
 絶対に負けない、負けたくないという執念だ。


 『それでも!!』


 私もまた負けられない。

 
 機体は最早限界に近い。
 仕掛けるのならこれが最後。



 絶対に彼との仲を認めてほしい。

 未だに友達という認識しか持たないあの鈍感野郎に一喝を与えるためにも、ここで外堀であるジェームズさんを攻略しておきたい。



 『行きます!』



 ここぞとばかりに瞬間加速を使用する。

 今日まで殆ど使ってこなかった技を、今ここで使う。

 REカスタムは音速の証たる水蒸気を纏って、エステバリスへ向かって突撃した。





 『空でオレに勝てると思うなッ!!』
 


 それは自負。
 
 空に生き、一度は追いやられ、それでも帰ってきた漢の執念。

 
 ナイフを引き抜き、音速で向かってくるREカスタムに、ジェームズは微塵も怖じる事なく、正面からブースターを吹かして挑んだ。




 音速状態の近接先頭の一撃は、互いに危険な諸刃の剣だ。

 威力は高くとも、それは自分にも言えるという状況で、正確無比に目標を攻撃し、自分自身は回避するのは至難の業だ。


 

 だが、漢は退かない。

 そんなものは、退く理由にはならない。



 『行くぜぇ……!』


 自分の両肩には、全米の、世界中の漢達の執念があるのだと。

 そう言わんばかりに、REカスタムがそうした様に全身の推進機を後方へ向け、前方めがけ瞬間加速を行う。

 ISの高等技能すら、最早脅威足りえないとでも言うように。

 水蒸気のベールを纏い、ジェームズは「奥の手」を見せた。





 「な…!?」

 ナターシャは見た。

 正面、自身と同じく音速で迫るエステバリスのDフィールドが目視可能なまでに密度を高めた事を。




 ナターシャは優秀なIS操縦者だ。
 
 適正はAであり、現在通学しているIS学園では人類最強の織斑千冬とも親交のある、将来を有望視された才媛だ。
 長期休暇の度にRE社に来て、LMの開発を手伝ってきた事もあり、戦闘だけではなく、将来的にはテストパイロットも務められるだけの能力は十分に備えている。

 だが、だからこそ彼女はエステバリスという兵器を、IS操縦者としての視点で見てしまっていた。

 
 通常、ISのシールドは全方位に常に展開し、それが尽きれば活動限界を迎える。
 消費は激しいが、それでも優秀な防御兵装であり、空力特性を維持するためには重要なものだ。
 必然、その形状は機体全体を覆う様な球状であり、原則としてその形状は変更しないし、普通はしない。

 しかし、Dフィールドは違う。
 フィールドアタックの様に、フィールド出力を一時的に上昇させ、体当たりや打撃に利用する等、その形状は自在と行かずとも任意で変更可能だ。
 IFS仕様のオリジナル程ではないが、それでも正面に限定したり、拳や足に収束させる等、搭載したCPUに幾つかのパターンを登録してある。




 『おお……ッ』


 ジェームズは右拳を引きつつ、正面にフィールドを収束、フィールド出力を向上させる。
 
 一瞬のうちに機体の正面が黒のヴェールに覆われた様に姿が隠れ、フィールドの収束が完了した。


 『負けない…!』


 ナターシャも見様見真似でフィールドを収束させ始め、機体が隠れる。
 しかし、その収束は明らかにジェームズに比べて甘く


 そして




 『おおお……ッ!!』




 音速を超えた拳と刃が正面からぶつかり合った。




 轟音と衝撃が青空に響き渡り





 『……!?』





 刃は、それを持つ右腕ごと砕かれた。
 



 そして、REカスタムは絶対防御を発動させつつ、弾かれた様に空から落ちていった。

 撃墜と同時に、即座に要重力場ビームが起動されたため、エネルギー不足になる事は無いだろう。



 そこまで考えて、漸くジェームズは長々と息を吐いた。


 勝った。

 
 実に3年近いブランクがあったというのに、よくぞあのISに勝てたものだ。


 勝利への満足感と、強敵への敬意、そして久しぶりに感じる空での戦いにジェームズは胸がいっぱいになった。


 『あぁ本当……オレには過ぎた息子だぜ…』

 
 帰ったら、あの未来義娘と共に可愛がってやろう。




 それにしても……


 『確かに良い子だがなぁ…』


 降下しながら、将来娘となるであろう少女を思う。


 『オレを受け止めるにゃ、ちっとばかし未熟だったな?』


 10年後だったら解らねぇけどな!

 そう言ってジェームズは上機嫌に笑いながら、歓声の満ちる地上へと降りていった。














 なお、この時の記録を見たジョー二ーが後に母に密告するのだが、この時のジェームズは知る由も無かった。

 




 SIDE OUT








 響き渡るのは、歓声と嗚咽。



 地上で大型モニターを眺めていた多くの人達がただ喜びに満たされていた。

 泣き、笑い、叫び、それぞれの形で感情を外に表していく。


 そこにいた多くの人間達が、ISの搭乗により、空と宇宙から離れる事になってしまった人々だった。

 空軍パイロットは言うに及ばず、開発メーカーや航空宇宙関連の技術者、そして、そういった人々の家族。
 

 彼らが求めるのは、漢達の空と宇宙への復活。

 それを求めて努力し、それを求めてここまで来た。



 そして、今宵

 それが遂に成就への大きな前進を果たしたのだ。



 「やった!オレ達やったんだ!」

 「また空に戻れるんだ!」
 
 「RE社ばんざーい!もう一生出ていかねぇぞ!」
 
 「ぐぅ…うっ…あぁあ!」

 「もうISなんぞに負けなくて済むぞ!!」



 デモンストレーションに来ていた政治家や高級軍人、企業の重役達も、漢達の喜びに一緒になって騒ぎだした。


 やがて、悪乗りした若い技術者達を皮切りに、シャンペンやビールがけが始まり、会場は一瞬にして宴会場と成り果てた。



 立場を忘れ、踊り、叫び、飲み、喰う。


 何年も忘れていた、喜びの酒の味。




 翌日の二日酔いも忘れ、今夜だけは一人残らず酒乱に巻き込まれ、朝まで飲むのだった。





 今日この日より、アメリカ合衆国は大きな転換期を迎える事となる。




















 機体説明

 LM-02 エステバリス

 外観と性能はほぼ空戦エステバリス(頭はアカツキ機)。
 本家よりも運動性や衝撃吸収などが向上しているが、これはIS技術とLM系人工筋肉を一部に採用したため。
 また、アサルトピット機能は無い。
 コクピット周辺は純粋な脱出ポッドになっており、搭乗員と機体のデータを脱出させる。

 今後、大口の注文が来て大量生産する事になれば、第二世代ISよりも低コストになる見込み。

 兵装は現在アサルトライフル、アーミーナイフ、ディスト―ションフィールド。
 オプションとして空対空ミサイル、ロケット砲、フィールドランサーが製作中。




 ラファール・リヴァイブ・REカスタム

 RE社の技術でラファールを改修したナターシャ専用IS。
 本家より拡張領域が二割程少ないが、その分要重力場アンテナやLM-02同様の推進システムや人工筋肉、ディスト―ションフィールドを装備している。
 こと防御力なら現在では第二世代最高となっている。
 
 外見上の差異は背面に空戦フレームのバックパックを装備している事のみ。

なお、前話に出たISの購入云々はあくまで外身の部分だけであり、コアは米国からのものを使用している。





[26770] IS~漢達の空~その3改訂版
Name: 凡夫◆773ede7b ID:b5aa4df9
Date: 2011/03/31 14:46
 第三話




 アメリカ合衆国空軍は今年、新たな軍備再編計画を立案した。


 戦闘用LMを主としたその計画には当初、多くの方面から反対が寄せられた。

 しかし、デモンストレーションの映像や実際にやってみせた模擬戦でもエステバリスの優秀性が証明されると、状況は一変した。

 
 元よりISによる女尊男卑があまり浸透していなかったアメリカでは、ISの最大の欠点である女性のみ搭乗可能という点が克服された兵器は多いに喜ばれた。

 また、作業用LMの存在も人々の多く知る所となり、発注が多く出た。
 丁度深海作業用モデルと災害救助用モデルが狙った様に発売が開始されると、こちらもまた大きな反響を呼び、全米で売れた。

 国外販売は国から制限が出て不可能であったが、それでも十二分な収益を得る事ができた。



 これにより、RE社は現在未曾有の黒字経営となっている。















 IS~漢達の空~












 「遂に、ここまで来たなぁ…」

 『そうだねぇ』
 『苦労したのう』
 『これからが楽しみ♪』
 
 「君たち、気楽だよねぇ」

 『そう作ったのは君じゃない』
 『そうそう』
 『何事もポジティブポジティブ♪』




 RE社 社長室



 そこでは現在社長であるジョ二ー・ドライデンが一人過ごしていた。

 より正確に言えば、一人と三基。
 彼ら・彼女らは会社のマザーコンピューターである三基のオモイカネ級AIだ。

 一号機はアリエス、牡羊座。
 陽気で子供っぽさがあるが、どこか似非熱血系。

 二号機はトーレス、牡牛座。
 爺むさい、慎重な性格。基本的にのんびり屋。

 三号機はキャンサー、蟹座。
 楽天的な女性人格。意外と抜け目が無い。

 以下順次作成中。

 黄道十二星座にそった名を持っており、現行では一般的なISを超える最高峰の処理能力を持っている。
 
 22世紀の技術をフィードバックしたが故の高性能なのだが、完全に模倣してみせるにはまだまだノウハウが揃っていないため、本家の7割程の性能となっている。 
 

 
 「今週に入ってからの侵入者は?」
 
 『全部で47名だね』
 『警備用無人機が足りんようになってきたぞい。増産せんとな』
 『CIAの人達も頑張ってるけど、限界みたい』



 LM-02の採用からこっち、RE社には各国や他の企業からの密偵や工作員が大量に侵入を試みていた。
 
 そして、その度にCIA職員や社の警備隊が出て来るのだが、そのとて限界がある。


 そこで、警備用の無人機が開発された。

 とは言え、攻殻機動隊のタチコマ達のように個別のAIは搭載していない。
 オモイカネ級AI達が操作する外部端末の様なものであり、消耗品だ。
 一応自立稼働はできるが、その場合は予め設定された動きしかできない。
 それらは主に2種類あり、施設警備用と戦闘用に大別される。
 前者はタチコマから搭乗スペースをオミットしてサイズダウン、光学迷彩と脚部に電磁吸着機能を備えたものである。
 施設の外壁や天井などに張り付き、24時間体制で200近い機体が高精度の複合センサーでRE社関連施設を警護している。
 基本兵装は35mmチェーンガン×2、スタンガン×2のみだが、後部のアタッチメントに対空機銃やロケット砲、小型地対空ミサイルも装備できる。


 戦闘用は木連製虫型無人兵器であるバッタ、しかもDフィールドを装備した後期型である。
 飛行も可能であり、高い運動性を持っているが、その性能はエステバリスには遠く及ばない。
 兵装はチェーンガンと小型マルチミサイル、Dフィールドと自爆である。
 現在は50機程製作され、警備用無人機が対処できない敵性戦力を確認すると出撃する。
 現在は幸いにも出撃した事は無いが、それも最早時間の問題だろう。

 ちなみに二機種とも動力は要重力場アンテナを使用しており、小型ながら高出力を誇っている。


 
 「ともかく、何時どっかの連中が襲撃してくるか解らない状況だからね。無人機は今後も増産していくよ。」

 『『『はーい』』』

 「じゃ、僕は会議に行って来るからねー」



 結構アットホームな雰囲気のする社長室だった。











 「じゃぁ定期会議を始めます。先ずは市場の報告からお願いします。」


 「は、まずLM-01の方ですが……最近生産が開始かれたLM-01B・Cの深海作業仕様・災害救助仕様の売れ行きは順調です。既にそれぞれ200台以上の注文が来ており、生産ラインは3カ月先まで埋まってます。この状況は今後暫くは続きそうですが……これは先日議題に上ったLM-01のライセンス生産の開始で今月から徐々に解消されていく予定です。後は順次LM-02のラインを増やしていく予定です。」



 LM-01Aギュゲスは作業用機械としては結構高額ではあるが、搭乗員の保護機能が従来の重機に比べて遥かに高く、汎用性が高い。
 そのため、大きな企業や会社では何処も多かれ少なかれ購入している。
 

 だが、購入の最大の理由はそれを解析し、その技術を自社のモノにするためだった。


 無論、この程度はRE社側でも予想していた。
 しかし、RE社はこれを黙認し、寧ろ好都合とライセンス生産が話が来た際にOKを出した。
 これは一企業の独占状態を避け、可能な限りアメリカ全体の技術レベルが向上する事を目的としたものであり、既に一部の政府高官には話がいっている。


 とはいえ、企業としては利益の元は独占していたいのが本音であるのだが、そう言う訳にもいかない理由があった。
 
 原因はLM-02の存在だった。
 現在、アメリカ空軍の最新鋭機であるこの機体、ISと同等の性能り遥かに低いコストに高い汎用性が揃った名機なのだが、最新機であるが故に未だ配備が終わっていない。
 
 さっさと揃えたい、揃えてISから脱却したいというのが現政権の考えであり、軍部とIS関連の利益に喰いつき損ねた企業群からも強烈な後押しがあり、断る事は不可能だった。

 かと言ってLM-02の生産は他社に任せるには時間が掛かり過ぎる。
 何せ重力兵器や人工筋肉など、ISにすら使われていない様な技術も多いので、何らかの事故が起きる可能性が大きい。
 そこで、比較的安心して任せられるLM-01の方をライセンス生産に出したのだった。


 
 「肝心のLM-02の方ですが…こちらはやや遅れていますが、先程の報告と合わせ、年度内に配備を完了する予定になっています。また、ドライデン大尉率いる教導隊は順調の様ですが……機体の消耗が激しいので、現在は本社でオーバーホール中です。」



 まだまだ大量生産するには人手も施設も足りないRE社では、どうしても生産が遅い。
 現在、社内向けのLM-01や無人兵器で絶賛増設中だが、作業完了にはもう少し時間がかかるだろう。
 幸いにも量産効果でLM-02のコストは1割ほど低くなり、生産速度も向上したので、まぁ順調と言えなくもない。

 

 「次に現在稼働中のオモイカネ級AIですが、三基とも順調です。少々人格が個性的すぎますが…皆さんもそんな感じですしねぇ。現在生産中の子達も揃えば、ぶっちゃけ世界中の電子世界はわが社が掌握できるようになります。」
 
 「それよりも言うべき事があるでしょ」
 
 「は、すいません……LM-02の発表以来、クラッキングは毎日三桁近くきておりますが、未だに突破は許していません。相手側の方の情報を毎回奪取したり、膨大なウイルスを送り込んだりもしていますが、全く減りません。CIAやFBIの皆さんに協力してもらっていますが、焼け石に水状態です。」



 もうノイローゼになる位にRE社にはハッキングが多い。
 多いが、オモイカネ級AIならびオペレーター諸君の働きにより、一度も中枢への侵入は許した事が無い。
 寧ろ有益な情報を得た事も多々あり、更にそれを政府筋に流している事もあって感謝されている位だ。
 
 だが、こうも連日来ては業務に支障を来たす事も出て来る。
 そのため、一刻も早いオモイカネ級AIの増産が求められていた。
 また、オモイカネ級AIの存在は何時の間にかホワイトハウスも知る所となっており、何基か注文が来ていたりする。

 とは言え、本社用の12基ロールアウトしない限りは現状のままに運営していくしかなかった。

 


 「現在警備部門が逮捕した侵入者ならび侵入を試みた者は通算1000人を超えました。CIAの皆さんの協力もあって水際で止めていますが、正直人手が足りません。先のオモイカネ級AIと並行し、警備用・戦闘用無人兵器と警備部隊のLM-02配備の声が上がっています。」



 社長室での会話通り、本当に侵入者の数が多いのだ。
 もう最近では食傷気味で社員全員がうんざりする程だ。
 捕え次第CIAに引き渡しているのだが、プロである向こうの職員すらうんざり顔を見せる程に多い。
 警備用無人機の操作はオモイカネ級AIに任せれば良いが、数を増やさなければこれ以上は限界だった。





 しかし、IFS強化体質のオペレーターがいないとは言え、何故オモイカネ級AIを3期も建造した上で、更に建造する予定があるのか?
 それもデッドコピーと言えど、合計12基もである。
 

 RE社社長であるジョニー・ドライデンには、ある懸念があった。


 
 世界のカオスの中心、史上最悪の天才にして天災、ISの開発者

 そう、あの篠ノ之束である。



 ISコアに搭載されているであろう量子コンピューター。
 それを使用し、自身の知識の情報が漏れ出る事を恐れているのだ。

 唯でさえ強力なISが自身の知識と技術を生かして強化されたら?

 それは既にラファール・リヴァイブ・REカスタムの存在が証明している。
 そんな事態は、絶対に避けねばならない。
 この問題に対してはアメリカ政府の方でも全力でバックアップがなされている事から、篠ノ之束という女性の存在がどれ程恐れられているかが垣間見える。
 だからこそのオモイカネ級AIの量産計画であった。


 だが、それでもジョニーには胸の内に不安があった。
 
 篠ノ之束にしか作成・分析不可能なISコア。
 彼女は一人でそれを467個作りだし、世に送り出した。
 なら、彼女が本気になってRE社を狙った時、一体どれ程のISコアが電子戦で使用されるのか、考えたくもなかった。
 そして、最大の理由はオモイカネ級AIがそのスペックを最大限に奮うには、欠けているものがあったからだ。


 先天的IFS強化体質のオペレーター、マシンチャイルドである。


 史実ではホシノ・ルリ、ラピスラズリ、マキビ・ハリが数少ない成功例であり、3人以外の数多くの試験管ベイビー達は投与された多量のナノマシンと適合できずに死んでいった。
 それを再現するには一体どれほどの屍を積み上げなければならないのか、神から授けられた知啓を持ってしても見当がつかなかった。
 1000や2000ならまだ少ない方という事だけは解る。
 電脳化手術にしても、やはり人体を弄る事に変わりは無い。
 しかし、人としての良識を持つジョニーには、そこまでが限界だった。
  
 彼と篠ノ之束の最大の相違点、それは倫理観を保持しているか否かだった。

 どちらも天才である事は疑いは無い。
 
 疑いは無いが、それは躊躇いが無いという事ではない。
 篠ノ之束にはたった3人しかいない社会不適合者であり、ジョニー・ドライデンには多くの人々がいる人格者である。
 
 篠ノ之束を圧倒するには、ジョニー・ドライデンという人間はあまりにも優しい性根なのだ。

 
 だからこそ、ジョニーはオモイカネ級AIを量産するのだ、質で劣るのなら数で補えとばかりに。

 
 そして2年後、その判断が正解であった事を、彼は身を以て知ることとなる。





 「さて、現在開発中の試作機PLM-01・02・03ですが、進捗状況は30%といった状態です。ご存知の通り3機とも出力・機動性強化型のテストヘッドですが……やはり01と03の方は量産機として採用するにはどうしてもコストが高過ぎます。」
 


 PLM-01は脚部を大型化、そこに二基のジェネレーターを搭載し、推進系の出力を向上した仕様だ。
 稼働時間の延長、機体出力の上昇、機動性の上昇はするものの、反面、整備性の低下、コストの上昇、その高機動故の操縦性の低下が問題となり、テスト用に少数生産される予定だ。
 現状許す限りの高性能機に仕上がる見込みであり、もったいないのでデータ収集完了後は一部のエースパイロットに支給される予定だ。

 PLM-02は推進系全てを高出力化、要重力場アンテナとバッテリーを高効率化した純粋な性能向上機だ。
 現行のLM-02の後継機に相応しい性能を保ちつつ、推進系と要重力場アンテナ、バッテリーを交換するだけで済む予定なので調達コストも低く済ませられるという優れものであるため、次世代機のLM-03はこちらで決定している。
 ただある程度改善されたとはいえ、稼働時間の短さとエネルギー消費の高い兵装の搭載が難しい等のLM-02同様の欠点を持っている。
 
 PLM-03はREカスタムを作成する際に得たノウハウを利用し、LM-02にISの機能の一部を搭載しようとした機体だ。
 特にIS固有の量子通信機能、量子格納機能、非固定浮遊部位、絶対防御の採用を試みた意欲作で、一部に米国製ISのパーツが使用されている。
 完成すれば本来相反する高機動と搭載能力を獲得した機体となる。
 ただ、ISのパーツを採用しているために社内受けが悪く、他企業の分野へ進出する事になるため無用な諍いの原因になりかねない。
 今後は量子格納機能と非固定浮遊部位のみに目的を絞る予定だ。
 


 「今後は01で得たデータを02にフィードバックする予定です。データ取り終了後は教導隊と一部のエースパイロットに配備される予定です。製作完了はそれぞれ3カ月後、2ヶ月後を予定しています。正式なロールアウトは来年度以降になる予定ですが。」
 「開発部には全員ボーナスだね。ただし、皆もたまには家に帰るようにね。」

 へーい、という気の入っていない返事が各所から帰ってきた。
 後で強制的に自宅に強制送還させる必要があるだろうか?
 ジョニーはそう考えたが、今は会議に専念すべきと考えた。


 「次に相転移エンジンの試作一号機が完成しました。起動実験は危険ですので政府側から指定されたポイントで行う予定です。余裕を持って来週行います。」



 相転移エンジン。
 
 インフレーション理論を用い、真空の相転移を利用し、真空の空間をエネルギーの高い状態から低い状態へ相転移させる事でエネルギーを取り出す画期的なエンジンである。
 その最大の特徴は真空さえあれば幾らでもエネルギーを取り出せる事にあり、宇宙空間において最大限のスペックを発揮する。

 その起動にはそれなりに大きなエネルギーを必要とするが、それでも従来の発電方法よりも遥かに大きなエネルギーを取り出せる事に変わりは無い。
 これを用いれば、米国はエネルギー問題を一挙に解決可能であり、また、ISの登場で停滞していた宇宙開発分野において大きな前進となる。


 まさに、宇宙を目指す漢達にとって、夢の様な技術なのだ。


 そのため、この相転移エンジンの開発には開発者の中でも宇宙開発のプロフェッショナル達が多数所属しており、漢達の夢のため、日夜開発に勤しんでいる。

 とは言っても、ナデシコ級戦艦に搭載された程のものではなく、木連のジンシリーズに搭載されたやや小型で出力の小さなものを使用する予定だ。
 ナデシコ・Yユニットがただ二度だけ使用した相転移砲の威力、木連の大艦隊を一撃で消滅させる程の危険さを考えると、いきなり大出力のエンジンでの実験は避けたい。
 
 そこで、最悪暴走しても都市一つ消えるだけで済む小型相転移エンジンが最初の実験に選ばれたのだった。
 ただ、それにしたって既存の発電方法よりもかなり優秀なのだから十二分だろう。



 「また、相転移エンジン搭載型の大型航宙艦ならび大型兵器の設計も進んでいます。」
 
 
 その言葉に、その場にいた者達は目を輝かせた。

 新しい事に挑戦したがる、大きいものが大好きなアメリカ人が多いこの場では史上初の航宙艦に移動要塞は大好物だった。
 …ちなみに、次に多いのが日本人で、彼らは浪漫兵装を作りたがったりする。
 
 優秀ではあるが、少年の心を忘れていない連中ばっかりだった。


 「前者のPRE-01は新技術のDブレードを採用した双胴艦であり、小型デブリ程度は問題ありません。また、デブリや小惑星破壊用に約12門の偏向レーザー砲と2門の粒子砲、正面に重力波砲であるグラビティ・ブラストを搭載しています。ですが、ものがものですから、ロールアウトは再来年以降になる予定です。」


 宇宙開発用にしては明らかに過剰な武装だが、もし近い将来アメリカだけが宇宙開発で進み過ぎれば、十中八九何れかの勢力の妨害行動が考えられる。
 その際、自衛用の武装があるのと無いのとでは大きく違う。
 正体不明のISに襲撃される、なんて笑えない事態も在り得るのが、今の彼らなのだ。


 しかし、大型艦の開発は今まで経験の無いものなので、やはり時間がかかる。
 再来年以降と言ったが、相転移エンジンの開発が成功してもロールアウトには4年後という試算が出ていた。

 ちなみに型番のPRE-01は試作のPに社名のRE、01は1号艦を指す。


 「後者のPLS-01方ですが、肝心の相転移エンジンの方が成功すれば、試作一号機は来年中に完成します。装備はグラビティブラストとDフィールド、要重力波ビーム発生器のみです。二号機以降は更にミサイルや対空迎撃機銃にレーザー砲、レールガン等を装備させる予定ですので、Gブラストの充填の隙も埋められる見込みです。」



 LM-02エステバリスが満足な戦闘を行うには、どうしても要重力波ビーム発生器が必要不可欠となる。
 現在は各地の空軍基地に発電機とセットになった発生器搭載型車両や大型輸送機による輸送がなされているが、ISに見つかった場合、ただの鴨にしかならない。
 現在は長期作戦行動を行う際には追加のエネルギーパックを装備して稼働時間を延長するのだが、根本的な問題解決にはなっていない。

 そこで、相転移エンジンと一緒に要重力波ビーム発振器を運用するための兵器が求められた。
 その結果、戦域でLM-02と作戦行動を取れて、十分な戦闘能力を持った兵器としてジンシリーズが選ばれた。
 相転移エンジンによる高い攻撃力と防御力を特徴とするジンシリーズは機体サイズが20m以上と大型で近接戦闘に難があるが、それはLM-02と作戦行動を取らせた場合には解消されるため採用された。
 
 とは言え、まだ肝心要のエンジンの方が完成していないし、いきなり大型兵器を作れる訳がないので、試作機を作ってノウハウの蓄積に努める必要がある。

 そのため、試作一号機はエンジンとの親和性と当初目的とする相転移エンジンと要重力波ビーム発生器の保護のためのDフィールド、LM-02の火力不足を補うGブラストという当初必要とされる最低限の機能が求められた。
 その結果、余計な両腕はオミットされ、胴体は正面のGブラストと操縦席兼脱出装置である頭部で構成され、下半身は重力場推進とランディングギアだけとなり、18m程度にサイズダウンされた。



 ぶっちゃけ、見た目だけならXG-70である。



 あるぇー?とジョニーは思ったが問題は無いので、まいっか、と流した。

 ちなみにPLSは試作ランドシップ、要は試作型移動要塞の事である。




 
 「じゃ、報告はここで終了。重要だと思う事は各部署ごとに纏めて提出して、皆仕事に戻るように。」


 そして素早く自身の職分に戻る面々。
 全員が本当は会議に出たくない程忙しいのだが、こうして顔を合わせて認識の擦り合わせをするのは集団作業では必須事項であり、自分達の目標の再確認にもなるため、決して欠席はできないのだ。









 漢達は、空を取り戻しただけで満足はしない。



 その先、宇宙をも目指して進み続ける。



 全ては、ISによって遠ざかってしまった空と宇宙を目指して。










 2011年3月31日改訂



[26770] IS~漢達の空~その4
Name: 凡夫◆773ede7b ID:b5aa4df9
Date: 2011/04/02 15:41
 第4話




 IS、インフィニット・ストラトス



 通称「白騎士事件」と言われるテロ事件を切っ掛けに世に出たそれは、既存の人類の常識を大きく覆し、大き過ぎる波紋を呼んだ。
 社会は女尊男卑一色に染まり、ブラックボックス化された467個のISコアを各国が保持し、それを軍事の最先端とした世界が生まれた。

 宇宙開発は停滞し、航空機パイロットの多くが空を追われ、高名な技術者や科学者はその座を追われ、窓際に追いやられた。

 その後釜に座ったのはIS操縦者である女性達と、今まで若さから評価されなかった女性科学者や技術者達。

 それでも、以前は男女平等が唱えられた影響からか、当初はそこまで酷くはなかった。
 しかし、それも時が流れるに連れ、より極端な思想が増え、それに異を唱える者も少なくなっていった。

 男性にはもう、女性を支える賢いペットという立ち位置しか残されていなかった。

 
 IS、インフィニット・ストラトス

 
 世界を変えた画期的な新兵器にして、女性しか搭乗できないという大きな欠点を持つソレは、しかし、現在その価値を大きく減じようとしていた。



 LM、ランドメイド
 


 米国のとある企業が開発したその兵器は、再び世界に男女平等の風を入れた。
 
 現在、各国政府で採用されている第二世代ISに匹敵する機動性、攻撃力、防御力を持ち、低コストかつ高い整備性、汎用性を獲得した6m大の人型兵器。
 

 そして、ISと異なる最大の点は、誰にでも搭乗可能で、大量生産可能だという点


 その存在は嘗てのISと同様に、当初人に知られてはいなかった。
 しかし、米国政府は何処の勢力よりも速やかにその存在を察知し、正式採用を決定した。
 それに違和感を覚えた多くの勢力は、即座に調査の手を伸ばした。
 そして、入手した。

 第2.5世代ISと件の新兵器の戦闘映像を

 そこからは早かった。
 各国はあらゆる手段を厭わずにその新兵器の情報を得ようとした。

 しかし、アメリカ合衆国は全力を以て絶望的な防諜網を構築し、一切の情報をシャットアウトした。

 そして、開発した企業に直接乗り込もうとした者達は、誰一人として帰ってくる者はいなかった。
 その全てが捕えられ、闇へと葬られた。
 また、クラッキングにしても同様で、寧ろこちらの情報を奪われる事がしばしば。
 

 だからこそ、世界はアメリカとRE社に対し、その新兵器の情報の開示を迫った。



 時はISの登場から6年、RE社創設から5年が経った頃だった。






 
 IS~漢達の空~






 
 その日、国連総会は荒れに荒れた。



 議題は勿論LM-02の情報開示ならび輸出解禁に関するものだった。



 各国は挨拶や祝辞もそこそこに、早速会議を始めた。

そして、何処の国も唱えるのは揃って同じ。
米国に対するLM-02の情報開示と輸出解禁だった。
 
 しかし、何処も素直に米国が解禁するとは思っていない。
 先ずは吹っかけて様子を見よう、もらえれば儲けものという具合だった。

 それに対し、米国は余裕を持って対応する。
 
 曰く、「国防に関する情報は国家機密。それを話す事はできない。」

 そんな当たり前の返答を求めていない各国は、ふざけんなとばかりに要求を繰り返した。
 とは言っても、それはあくまで先進国、それも日本以外の国だけだった。
 これは日本が既に同盟国であるアメリカと話を付けており、将来的にLMシリーズの日本向けの機体を輸出する事で話がついていたからだ。

 しかし、他国はそれを知らないため、日本の沈黙をいつもの弱腰と判断して捨て置いた。
 …追求されて情報を公開した所で、痛くも痒くも無い機体を輸出する予定ではあるが。
 

 その後、国連総会はそっけない米国と沈黙する日本、米国に追求する他国という状態のまま推移した。
 それは他の議題を押しのけ、一カ月近く審議された。
 米国の口の堅さもそうだが、各国の粘りも凄まじいものだった。

 そして遂に、米国が折れた様に口を開いた。


 「現在議題となっている機動兵器に関し、我が国はある程度の譲歩をする用意がある。」


 米国の発言に、各国は新たに動きを見せた。















 米国がむっつりと沈黙を保っていた頃、現在絶賛各国の注目の的であるRE社であるが………現在戦闘中だった。



 マスコミに偽装した不明勢力が、なんとISを4機も使って正面から襲撃してきたのである。
 
 そして、直後のRE社は戦闘態勢に移行、即座に迎撃に出撃した。

 相手は米国製第二世代ISの一つであるヘビーバレルとレッドブル、英国製第二世代ホークアイ、ロシア製2世代アルモス・ブラ(日本語でダイヤモンド2)だ。

 ヘビーバレルは重装甲・大火力による面制圧を、レッドブルは高い運動性と機動性、ホークアイが精密射撃を、アルモス・ブラは汎用性と稼働性を優先したモデルだ。

 どれもIFFは無いため、奪取されたか不正規活動用と思われるものであり、CIA職員からも撃破許可が出ため、RE社は心おきなく攻撃を開始した。




 まず最初に動いたのは常時展開している警備用無人機による濃密な対空砲火だった。

 光学迷彩を解除し、前腕に装備されたチェーンガンを迫り来る不明IS4機に発射する警備用無人機群。
 
 その火力はISを撃墜するには遥かに脆弱なものだったが……如何せん全施設の外壁が見えなくなる程にみっちりと張り付いた大量の虫型無人機の姿は、どうしても生理的嫌悪感を催さずにはいられない光景だった。
 その数、実に450機。
 

それが一斉にカメラをISに向けて動くのは………………ぶっちゃけ、その様は台所のアレに似ていた。
 

そして、ISの登場者は全員女性である。



 結果、4機の不明機は引き攣った様な悲鳴と共に施設全体に対し攻撃を開始した。



 そして30秒後、警備用虫型無人兵器を掃討した彼女らが我に帰った時、既に反撃の準備は完了していた。



 
 格納庫からは本社防衛用に多数配備された戦闘用虫型無人機が100機、LM-01が150機、LM-02が20機、試験中のLM-02の陸戦仕様機であるLM-02Gが10機、雪崩を打った如く出撃した。
更にダメ押しとばかりに試作中だった対IS兵器を多数持ち出された。

 ……ちなみに、既に軍への完全配備は終了しており、この場にいるのは純粋にRE社の私設防衛部隊所属機である。



 
 IS4機が事態に気付いた時、丁度4機目掛けて12発の大型ミサイルが放たれた。
 シールドがあるとは言え命中すれば損傷は免れない。
 そう判断した4機は危なげなく8発の大型ミサイルを迎撃したのだが、これがいけなかった。

 RE社上空に突然に妙な粉末が広まった。
 途端、シールドに極僅かずつだが継続して負荷が掛かり続け、シールドエネルギーを削り始め、4機は顔を青褪めた。
 

 これは実は要重力場アンテナの製作過程で発生する廃材部分を粉末にしただけの代物だったりする。
 要重力場ビームが照射されてもそのエネルギーを受け止めきれずに自壊するのだが、その性質を兵器転用したのが、この対ISミサイル「アシッドレイン」である。
 その名の示す通り、酸性雨の様にゆっくりとISのシールドエネルギーを削っていく。
 これは稼働時間に問題を抱えるISにとっては天敵とも言える代物であり、廃材利用の品であるため、費用対効果も高いため、制式採用の話も出ている。
 ちなみに、LM-02クラスのDフィールドなら十分耐えられるし、発動には要重力場ビームが必要不可欠であるため常に補給がなされるため特に問題無い。


 そして混乱する4機に対し、LM-02部隊が一斉に飛翔した。

 兵装はアサルトライフル・アーミーナイフ・マルチミサイルの通常仕様だが、如何せん数が20と多い。
 単純にアサルトライフルをばら撒くだけで絶望的な弾幕と化した。


 しかし、迫り来る致死量の鉛玉に、4機のISは吶喊する事で答えを出した。
 

 回避が最早不可能で目的の達成がもはや不可能というのなら、ここに長居する訳にはいかない。
 最低限の被弾だけで4機はそれぞれ東西南北に散って、イグニッションブーストによる離脱を試みた。

 が、そうは問屋が卸さない。
 

 『がっ!?』
 『うあぁ!』
 『なんッ!?』
 『…馬鹿な。』


 施設上空から抜け出そうとした瞬間、4機のISはまるでゴムまりの様に施設内部に向けて弾き飛ばされた。

 

 本社施設全てを覆う様に展開されたDフィールドは施設を守る盾であり……同時に、少々調節すれば内側から逃がさないための檻にもなる。
 電源は施設地下にある核融合炉と相転移エンジン一基から供給されているため、電源切れも有り得ない。

 4機のISは自分達が襲う側だと信じていたが……ここに来て袋のねずみであるのだと、漸く気が付いたのだ。

 



 そこから先は一方的なものとなった。

 LM-02部隊は一小隊につき5機編成を組み、連携を組んでIS1機をそれぞれ攻撃した。
 
不明ISは連携しようにも地上から来る精密な支援射撃に邪魔され、シールドエネルギーも順次発射されるアシッドレインにより減少が止まらない。
 低空飛行で施設を盾にしようにも物陰にびっしりといる戦闘用虫型無人兵器とLM-01部隊、LM-02Gの対空砲火にそれもままならない。



 LM-02Gは全長5mの奇妙な4脚のLMである。
 その外見は砲戦フレームの上半身に4脚の下半身で構成されている。
 操縦形式はは基本的に機体操縦と火器管制の複座型だが、一人でも操縦可能である。
 武装面は背面に2連装対空機関砲、肩と腕に汎用ラック、機体固定用アンカー、Dフィールドを装備する。
 性能自体はかのダイゴウジ・ガイが宇宙の塵にしてしまった重武装フレームに近いが、LMと言うのは名ばかりで、実質は多脚戦車ともいうべき性質を持つ。
これは攻殻機動隊の思考戦車や多脚戦車を参考とした事と大口径兵装を扱える上で機動性も確保するためにこの形態となった。
4脚化により搭載量が増えた人工筋肉により射撃時の衝撃吸収力が向上、射撃能力の強化を達成した。
 IS同様に慣性制御も射撃時の反動をキャンセルするのに使用する事もできるため、その精密射撃は狙撃仕様の第二世代ISにも勝る。
 米国陸軍からの注文で次世代の主力戦車として開発されたものであり、足には4個の追加バッテリーを装着可能、更にバッタ等の木連製無人兵器にも採用されていた小型ジェネレーターを搭載して活動時間を飛躍的に高めているので高出力兵装の使用も可能となっている。
 ラックと手腕に多数の兵装を装備可能で120mmカノン、90mmレールガン、ガトリングガン、スナイパーライフル、アサルトライフル、火炎放射機、荷電粒子法、三連ロケット砲、三連ミサイルランチャー、長期作戦用バッテリーなどがある。
 汎用性、機動性、火力、装甲の全てにおいて現行の陸戦兵器に勝るが、その分コストと整備性に関しては高くなってしまっている。



 対し、RE社側は限定された空間であるにも関わらず、先月末に遂に12基全てがロールアウトしたオモイカネ級AIの管制を受ける事で問題無い連携をこなす事に成功していた。
 しかも、唯でさえパイロットである漢達は年齢からもう空軍でやっていくには問題がある退役軍人達で構成されている。


 一対一の戦闘や圧倒的に格下との戦闘しか経験してこなかった彼女達IS操縦者に、勝ち目は無かった。
 
 


 その日、RE社上空に4つの汚い花火が上がる事となった。














 米国が先ず資料として提供したのは、戦闘映像だった。
 1対1から始まり部隊単位の模擬戦まで……凡そ各国が現在入手した映像よりも多くの映像が各国に渡され、議場でそのまま上映された。


 そして、ISに対し全く引けを取らないLM-02の姿に、各国は魅了された。


 一通り視聴して議場に落ち付き始めて会議が再開されると、各国は今度はLM-02の輸出解禁、一部の者は無償提供すら要求を開始した。

 それに対し、米国は落ち着いて対価の提示を要求すると共に……輸出向けの新型機であるのなら、輸出制限はしないと発表した。
 そして、これ以上の譲歩は我が国には難しい、と最後通告を付け加えた。
 

 
 結果、各国はそれぞれに資源やISコア、外貨を支払う事で、米国の取引に応じざるを得なかった。











 
 「へー、ほー、ふーん。」


 薄暗い研究室で、年若い女性がモニターを見ていた。

 睡眠不足から釣り上がった目、ぼさぼさに伸ばした黒髪、お伽噺にでも出てきそうなドレス、そのドレスを下からはち切れんばかりに押し上げる豊かな胸部。
 世界のカオスの中心、天才にして天災、ISの開発者。

 その名を篠ノ之束と言う。

 彼女が見ているのは、何の変哲もない、ニュース映像の一つだった。
 アメリカ空軍が配備した新兵器LM-02、それについてのものだった。
 彼女からすれば余り興味のないものであったが、それでも米国製の粗雑なものと言えどもISを撃破したのはちょっと驚きだった。

 彼女の予想では対IS兵器又はISに匹敵する兵器の登場は後20年は先だった。
 だと言うのに、それが覆された。
 僅かな驚きと……興味。
 篠ノ之束は愉快そうに唇を歪ませた。

 「ちょっと探ってみようかなー」

 そして、彼女はいつもの通り、自身の興味の赴くままに行動を開始した。 
 



 この行動が後のRE社と篠ノ之束の対立構造を本格化させる事になるのだが、それはまだ誰も知らなかった。
 

















[26770] IS~漢達の空~その5 new
Name: 凡夫◆773ede7b ID:b5aa4df9
Date: 2011/04/02 15:41
第5話




 米国が提案した輸出向けの新型機の輸出が本格化したのは、あの国連総会議から丁度2ヶ月後だった。
 


ELM-01Aストーク
 
 コウノトリの名を持つ8mのこの機体はLMとは言うものの、その前身のLM-02とはかなり異なる機体である。
 この機体はIS技術のLM-02への流用を図ったPLM-01・03を参考にジェネレーターを搭載し、機体の凡そ3割の部品を第二世代型ISと共有している。
勿論男性も登場可能だが、量子通信システムもなければ量子格納機能もコアネットワークも絶対防御も無い。
 無いが、量産可能で訓練すれば誰でも搭乗可能でISも頑張れば撃墜できるという戦闘用LMとしての必須条件は達成している。
人工筋肉の割合が低いため瞬発力は余り良いとは言えないが、その分装甲表面に対レーザーコーティングを採用、レーザー兵装には高い耐久性を持つ。
 その外観は鋭角的なLM-02に対し、全体的に重厚で迫力ある姿となっている。
 
 LM-02との機能面での主な相違は要重力場アンテナとDフィールドのオミット、ジェネレーターの搭載にある。
 Dフィールド分の重力制御は全て慣性制御と操縦者の保護、射撃時の反動キャンセルに使用される。
 ジェネレーターの搭載による高出力の実現でレールキャノンやレーザー兵装の搭載、ISよりも長い稼働時間を実現した。
 LM-02と比較しても決して劣っている訳ではない。
寧ろ最大出力と稼働時間、火力においては上回っているため、別の良さを持った機体と言える。
 …まぁ、その分機動性や運動性、コストや整備性で劣るのだが。
 
しかし、ISと部品の一部を共有と機体の大型化により調達コストと使用資源が増大、ジェネレーター搭載による整備性の悪化と重量増加など、大量生産には向いていない機体だった。
どちらかと言うと大型機としての搭載能力を生かして長距離侵攻や爆撃でもした方が良い機体だ。
 
ちなみに、米国と友好ないし同盟関係の国々には改良機であるELM-01Bシーガル(カモメの意)が輸出されている。
 外見上はELM-01Aとの差異は無いものの、Dフィールドを搭載、ISとのパーツ共有化をせず、駆動系の一部に人工筋肉を使用している点でLM-02に近しい。
 コストや整備性ではA・B型双方大差ないが、人工筋肉による運動性・操縦性の向上、Dフィールドによる防御力の向上と近接戦闘能力の大幅な強化を実現しているため、A型の方が性能は勝っている。
 
ただ、やはりこちらも大量生産には向いていない。
配備を完了するには予算も資源も足りず、国内のIS主兵論者の意見をどうにかできない内は大々的な購入もできないだろう。
増してや、自国生産や国内開発は何年掛かるか解らない。

ロシアや中国などの大陸国家なら可能かもしれないが、常に内側に火種を抱え込み続ける二国の内情を考えると、下手な増税は本当に革命を招きかねない。
 新型機を数年で完全に配備してしまう国力を持つアメリカが異常なのだ。
 
 
 
 何故こんな機体を輸出したのかと言うと、それは勿論RE社にアメリカ政府側の注文があったからだ。

 曰く、「量産し辛く、IS脱却が余り進まない様な機体は無いか?」

 現在、アメリカはISからの脱却が進んでいる。
 しかし、他国にはもっとISに惹かれて欲しい又は移行するまでの時間を稼ぎたい。
 そのため、ISと部品を共有化した機体を輸出したのだ。
 少なくとも、今暫くはISに繋いでおきたい。
 部品を共有化しているのならば、そう直ぐにISからの機種転換は行われないであろうし、ISモドキや出来そこないとでも批判されれば更に配備は遅れる事だろう。
 ISと共有化していなくとも、購入・生産の負担が多少あれば配備は遅れる事だろう。
 それが僅かなものだとしても、その僅かな時間が肝要だった。

 
そして、各国が足踏みしている間に、アメリカは更に上を行く。


 既に準備は整っている。
 後はそれを実行に移すのみ。
 
 アメリカはただ誰よりも先を目指すのだった。
 








 
 IS~漢達の空~










 世界が輸出開始されたELM-01に湧きかえっていた頃、アラスカに存在するRE社秘密ドッグは静かに動き出した。
 そして、そのドッグからつい半月前に竣工した船が出港していった。
 しかし、その船が海水に着水する事は無かった。
 中に浮き、空を行く白亜の双胴艦。
 今までSFの中の存在だったそれが、遂に現実のものとなった瞬間だった。

 PRE-01 ナデシコ
 
 かの伝説的機動戦艦と同じ名を持つ、この世界初の相転移エンジン式戦艦だ。
 しかし、その姿は瞬時に周囲の風景と溶け込み、最初から何も無かった様に全てを押し隠した。
 光学迷彩、ナデシコフリートサポート級ユーチャリスの持つDフィールドを応用した可視光線を屈折させるものだ。
 湿度や温度など周辺環境に大きく影響される攻殻機動隊形式のそれは携行性に優れるが、大きなものを長時間隠蔽するにはこちらの方が都合が良い。

 そして、白亜の双胴艦はその原型となった艦と同じく、地球の自転を味方に付けて加速を開始した。


 
 目指すは空の先、宇宙。
 

 漢達の夢を乗せて、白亜の艦は人知れずに空を行く。





 


 アメリカ航空宇宙開発局中央管制室

 そこでは今、アメリカという超大国が注力している国家プロジェクトの最終段階が進行していた。
 

 「PRE-01離水成功。現在、予定されていた加速航路に乗りました。」
 「そのまま監視を続行。PRE-01からの報告は?」
 「『問題無し。航海は順調。』と。」
 「『貴艦の航海の無事を願う』と返せ。」


 RE社が建造した世界初の航宙戦艦であるPRE-01は予定よりも3カ月遅れで竣工、幾度かの慣熟航海を経て、今日その誕生の目的を果たすべく宇宙へ向けて加速を開始した。

 本来ならほぼ同時期に建造が開始されるマスドライバーにより比較的簡単に宇宙へ出発する予定だったのだが、流石にマスドライバーの巨大建造物を作るには3年では足りなかった。
 後1年もあれば完成だが、一年もせっかく建造した艦を遊ばせておくには勿体ないため、PRE-01はオリジナル同様の手法を以て宇宙へと旅立つ事が決定した。
 その搭乗員は誰もが熟練の者達、誰もがスペースシャトルや宇宙ステーションの搭乗経験が長期に渡る者達だ。
しかし、ある者は年齢で、ある者はISの登場により閑職に追いやられた者達だ。
そして、そんな彼らだからこそ、この船に乗るに相応しかった。

 

 PRE-01 ナデシコ
 全長409m、全高227m、全幅182mの大型航宙艦である。
 動力は相転移エンジン2基、核パルスエンジン4基を搭載する。
 重力推進、慣性制御を採用した他、内部に浄水設備や最先端医療施設などが存在し、長期間の航海を可能としている。
 また、量産型オモイカネ級AIの存在によって搭乗員への負担が少なくなった他、電子戦にも優れる。
 また、艦載兵器として15機、予備3機のLM-02、艦外作業用LM-01を80機運用可能な母艦としての機能も有する。
 兵装としてDフィールド、Gブラスト、偏向レーザー砲×12を持ち、スペースデブリや小惑星の破壊から戦闘まで行える。

 現在はその本来の特徴的な双胴艦からは逸脱した箱型のシルエットを取っているが、これは目的地である月面到達後の施設建造のために大量の資材を運ぶためにDブレードの間にでっちあげの装甲板を張り合わせて急遽大型格納庫を追加したためである。
 月面到着後はこの格納庫は解体され、そのまま施設建造のための資材となる予定だ。

 なお、オリジナルよりもサイズアップが図られたのは強度と信頼性を最優先した上で艦載スペースを大きく取ったである。
 これはISという兵器が宇宙開発を命題にしている事から、ISを主力とする勢力との戦闘行動を想定したものだ。
 

 
 今後はこのPRE-01の運用データを元に後続艦の開発を続けていく予定だ。
 また、建造中の航宙輸送艦が完成するまでは地球・月面間で人員や資源を運搬する役割を持っている。
 

 漢達の、人類の夢を乗せた白亜の船は、今はまだ人知れず空を行くのみだった。
 







 
 IS、インフィニット・ストラトス


 それが空の覇権を握っていたのは、一重にその圧倒的性能による。
 機動性、火力、装甲etcetera
またPIC、ハイパーセンサー、コアネットワーク、シールドバリアー等の数多くの新技術を搭載している事でも知られる。
 量産不可能で女性しか搭乗不可能という欠点はあるものの、その存在が既存のあらゆる兵器に取って代わったのも無理からぬ性能を持っていた。

 しかし、絶対的な武力の象徴であったISから空の覇権を奪われつつあるのは、国際情勢に少しでも詳しい者であれば簡単に解る事だった。


 LM、ランドメイド


 重力操作・慣性制御によるISに負けない機動性、類稀なる汎用性、誰にでも使えるという操縦性、そして大量生産可能というそれは、徐々に世界に浸透しつつあった。
 その存在はISが齎した女尊男卑の風潮が蔓延る中、それは鬱屈を貯め込んでいる世界中の男性に新たな希望を見せている。


 しかし、そのLMでも未だISを超えられない点が幾つかあった。

 量子コンピューターやコアネットワーク等は別にいい。
 それは前線で戦う兵器の役割ではなく、後方のものだ。
 
ワンオフアビリティやパッケージ、形態移行もそうだ。
 武器と機体の開発、調整は技術者の仕事だ。
 

 問題は絶対防御だった。


 ISの持つエネルギーを大きく消耗するものの、核ミサイルの熱量すら防御する堅牢さは容易に模倣する事も、他の技術で代替する事も許さない。
 つい先日、RE社がたった4機のISの襲撃に本社の全戦力を投入しても手間取った理由がそれだった。
 
 圧倒的な火力、絶望的な物量、経験豊富で巧みな連携の敵機
 
 そんな絶望的な要素しかない状況で、IS4機を全機撃墜するのに5分も掛かったというのだから驚きだ。
 これが通常の機動兵器なら兎も角、絶対防御を持ったIS相手だと確実に直撃を当てても最低でも1度は防がれてしまう。
 結局、撃墜するには3度も直撃を与える必要があった。
 これがLM相手だったら1分も掛からなかったというのに、だ。
 


 そして、RE社はLM-02の改修プランを立案した。


 元々その性能から既に米空軍ではISを抜いてパイロット達の憧れの的であるそれは、名機であるが故に現場の要望に応えた改修とバージョンアップが続けられている。
 今は全米に配備完了し、予備パーツを国内企業が担当、RE社は輸出向けのELM-01A・Bを主として生産している。

 しかし現状に満足する事なく、RE社はPRE-01建造やPLM01・02開発で新たに培ったノウハウを生かすべく動き出した。
 各国にELM-01A・Bが配備される事もあり、現状のLM-02では不足の可能性もありと判断した米国も、それを積極的に後押しした。


 現在考案されているプランはPLM-02由来の高効率の要重力場アンテナと大容量バッテリーへの換装、そしてPLM-01を参考にした状況に応じて換装できる追加ユニットの開発だった。

 新型の要重力場アンテナとバッテリーは従来の4割増の性能となっている。
 量産していないため、コストは若干高いが、採用されれば問題無い。
 問題は追加装備の方だった。


 
 ここで一度PLM-01に話を移す。
 PLM-01は脚部を大型化し、ジェネレーターを搭載、出力の向上を図った機体だ。
 その分、LM-01よりも高コストで整備性も悪く、高過ぎる機動性が災いして扱い難いが、その分高性能な機体だ。
 
 しかし一号機が完成した時、その機動性に機体の方が耐えられない事が判明した。
 これにより機体フレームの強度から設計し直し、PLMシリーズの中で最も遅く完成し、二号機・三号機が建造され、一号機は詳細な記録を取った後に予備パーツに分解された。
 だが、今度は高機動中に被弾した場合、相対速度もあって相当なダメージを受ける可能性が指摘され、その対策に二号機と三号機はそれぞれ独自の路線で開発された。

二号機には専用の追加装甲が付加、単純に防御力を向上させるプランが採用された。
 更に追加装甲分の重量を背負っての高機動を実現するため、各部に各種推進機を設置し、更に増した機動性に対処するため、剛性の向上を目的とした装甲を追加した。
また、増加された装甲が近接戦で挙動に干渉しない様に、追加された肩部装甲が格闘時にせり上がって後退する近接戦形態への変形機能を搭載した。
 そこにPLM-02の高効率要重力場アンテナと大容量バッテリーを採用したため、最早最初の面影が存在しない全く別物の機体と成り果てたのだ。
高出力兵装の搭載とDフィールドの強化により攻防共に高レベル、遠近どの距離でも対応可能な汎用性を持つ。
更に両肩・腿・脚部のブースターによる圧倒的な加速力と機動性は、パイロットに専用の対Gスーツを装着させねば簡単な操作もままならない。
他、幾つかの追加装備も考案されており、あらゆる作戦に対応できる適応性も持っている。


 対し、三号機が出した答えは、Dフィールドの強化による防御力の向上だった。
 ジェネレーターの搭載で増していた出力によりDフィールドは3割増しとなっていたが、それでも出力にはまだ大きく余裕があった。
そこで前腕に一基ずつ、コクピット周辺に三基の小型のDフィールド発生器を設置し、格闘性能とパイロットの生存性を高める事に成功した。
 だが、そこでは終わらず、二号機が度重なる改良で既存器とは次元が違う機動性を獲得したのに対抗し、三号機もまた更なる改良が成された。
 両肩に回転式ターレットノズル一基ずつ、腰部前方に可動式バインダーノズル二基、背部に新型の大型重力場推進機を搭載、結果的に二号機にも負けない機動性を獲得した。
 しかし、二号機と異なり、搭載されたバインダー全てを細かい挙動で制御する事はEOSでは不可能という問題が立ち上がった。
 そこで、RE社が近年輸入用LM-01を日本に輸入するにあたって提携した「とある日本企業」のIS関連技術を発展させた脳波コントロールシステムを搭載する事で完成を見た。
 高い近接戦能力と防御力を併せ持ち、その機動性は二号機にも劣らず、こと運動性に関しては上回ってすらいる。
 また、機動性も機体各部の回転式ターレットノズルやバインダーノズル、大型重力場推進機を一点に向けて加速すれば、瞬間的にだが二号機のそれを超える事ができる。
 おかげで対Gスーツはもう一着必要になった程だ。
 

 ぶっちゃけ、ブラックサレナと夜天光である。


 しかし、二機に共通して言える事なのだが、その圧倒的な性能を使いこなすパイロットが限られていた。
 性能ばかりに固執して操縦性が著しく低くなっていたのである。
 幸いにも予算は潤沢であったし、二機のデータやノウハウを生かした次世代機であるLM-03の開発も大きく進んだ事から出資の回収も見込めるものの、会計部門の者が見れば卒倒しそうな程のコストが消費されていた。
 そこまでして開発された二機が操縦不可能な欠陥品というのもアレなので、この二機は扱えるエースが存在する教導隊に引き渡される事となった。
 今頃は米国の空を馬鹿みたいな速度で飛びまわっている事だろう。
 


 さて、話は戻って追加装備の件である。
 PLM-01二号機・一号機で培われたノウハウを元に開発される事となった追加装備は主に3つに別れる。
 これを改修されたLM-02に装備し、あらゆる状況下で対応させるのがプランの概要だ。

 改修機にはLM-02C エステバリスカスタムの名が予定されている。
 高効率要重力場アンテナと大容量バッテリーを標準装備し、LM-02よりも倍近い活動時間と出力を持つ。
 強化された出力を生かし、LM-02では不可能だったレールガンが装備可能、Dフィールドも強化されている。
 コクピット周辺は装甲が分厚くされただけでなく、3基の小型Dフィールド発生器を備え、搭載されたCPUが状況に応じて個別・必要によっては2基、3基が一斉に発動、パイロットの生存性を向上させている。
 また、重力場推進機が小型化、出力はそのままに軽量化に成功している。
 
 そして追加ユニットを装備する事で、更に状況に応じて機体の性能を高める事ができる。

 1つ目は高機動ユニット、長距離侵攻や強襲作戦を主眼に置いて設計されている。
 背面に背負う様に装備する高機動ユニットは鋭角的な戦シルエットを持つ。
 これは大容量プロペラントとバッテリー、重力場推進機とジェットエンジンで構成されており、全ユニット中最高の巡航能力を持っている。
 このユニットは簡易変形機構を採用しており、背面に折りたたんだ状態から展開する事で巡航形態、戦闘機の姿に移行する。
 その際の最大速度は実にマッハ4弱、並のISでは追い付けもしない速度だ。
 翼下には4つのハードポイントがあり、作戦に応じた兵装や増槽を装備できる。
 元が戦闘機パイロットが多いLM-02のパイロット達なら上手く運用できると期待されている。
 これにはRE社所属の元航空機開発者達の努力が詰まっている。
 
 2つ目は近接戦ユニット、主にLMやISとの近距離格闘戦を想定した追加ユニットだ。
 両肩・両足に反応装甲、前腕に小型Dフィールド発生器を一基ずつ装備している。
 前腕の発生器により格闘能力と防御力が向上、殴り合いを得意とする。
接近時の被弾を抑えるための反応装甲は防御の他に、鉄器に対する散弾地雷としても機能する。
 また、新型の対バリア兵器であるフィールドランサーを標準装備している(他のユニットでも問題は無いが)。
 これはISのシールドバリアやLMのDフィールドに瞬間的に高電圧による過負荷をかける事で減衰させるという特製を持つ。
 発電にはランサー基部のバッテリーを使用するため、バッテリー終了後はただの槍として使用する。
 予備のバッテリーは腰部横のハードポイントに計4個まで装備できる。

 3つ目は砲撃戦ユニット、遠距離からの火力支援や砲撃を想定したユニットだ。
 頭部両脇に複合センサーとレーダーマストを追加、両肩・脚部・前腕に汎用ラック付きの追加装甲を備え、腰部背面に射撃時の反動キャンセル用の慣性制御ユニットを搭載する。
 汎用ラックはLM-02Gと同じ構造を有しており、同様の装備を使用できる。
 高い索敵性能を生かしてアウトレンジからの攻撃を得意とし、あのアシッドレインの運用も可能となっている。
 しかし、火力で圧倒するのがコンセプトであるため、近接戦闘には難がある。
 僚機との連携を前提にした装備と言える。
 
 
 現在、この追加ユニット群は試作されたPLM-02で試験運用されており、LM-02の全面改修と同時に順次全米に配備される予定だ。





 
ELMの輸出、PRE-01の航海開始、LM-02の全面改修。


それらを行ってもRE社の、漢達の歩みは止まる事は無い。
 







 しかし、そんな漢達に興味を持ち、喰らわんとする者がいた。








 その日、RE社サーバに対し、大規模ハッキングが開始された。

 
 オモイカネ級AI12基の防衛網を以てしても、そのハッキングには辛うじて膠着状態を作る事しかできず、事態は一進一退を繰り返していた。



 
 





感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.148375034332 / キャッシュ効いてます^^