ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん
蒼い海に響き渡る呪文、それを呆然と“居合わせた”少年は聞いていた。周囲の空気が淀んでいる、その狂気に狂いそうになる。
いや、事実、少年は狂いかけていた。
闇に染まった魔術師ならいざ知らず少年は一般人、最も人造人間のパイロットをやっているけれど。
とにかくもこの空気に耐えられなかった、そんな少年に構わず儀式は続けられる。
いつのまにか浜辺には一人の少女、体全体を覆う装束を着て夢を見ているかのような危うい表情をしている。だが左右別の瞳からは確かな意志が宿っていた、金と紫の瞳が見つめるものは――
少女は両手を広げ歌いだす、それは神を喚ぶための詞。
神気と瘴気の孕んだ風が吹き荒れる、少女の体がページへ変化していく。
そこまで見て少年は、碇シンジは呟いた。
「知らない、展開だ」
応えたのは……
「おやおや、まるで未来を知ってるかのような発言だね?」
その声にシンジは振り向く、そこに、闇がいた。
形に出来ないもの、人の女性の形をしているけれどあれは別の何かだ。シンジは本能的にそう悟る、その直感は間違っていない。
なぜならば、“この碇シンジ”は既に、ナ●●ル●ラト●●ッ●の正体を知っているから。
胸元が開いたスーツを身に纏う長身痩躯の女性、彼女に第三新東京市で出会い導かれこの場所に着た。シンジはその女性、ナイアを問い詰める。
「一体、貴女は何のつもりで僕を連れてきたんですか」
「まあそう邪険にしなくてもいいじゃないか、それにしても君はよく耐えられているね? この歪んだ空間に、やはり君も……いや忘れているだけかな。それとも、思い出したくないのかい?」
その言葉にシンジは首を傾げ、脳裏にある光景が浮かぶ。
赤く紅い世界――大破した機体――永劫の――
「……っ!」
カチリと、パズルのピースがはまった音がした。
ナイアは哂う、儀式は終盤へ。
異形の神が具現しようとしていた。
(ダメだ、アレを喚んじゃいけない! ……そうだ、僕は知っている。知っていた! 思い出したんだ、だから)
シンジは叫ぶ。
彼女の名を/彼の名を。
永劫(アイオーン)!
時の歯車 断罪の刄
久遠の果てより来たる虚無――
永劫(アイオーン)!
汝より逃れ得るものはなく
汝が触れしものは死すらも死せん!!
瞬間、世界が、震えた。
シンジの叫びに次元の壁を越え鬼械神が応えたためである、それは鋼の巨人だった。
翼持つ鋼の神、鬼械神(デウス・マキナ)アイオーン。
その威風堂々たる神を見てナイアは歓喜する。
「あっはははは……いいよ、君は彼とは違う可能性を僕に見せてくれ!」
深い混沌の残響、それらを無視してシンジはアイオーンと一つになり内部で待ち構えていた彼女と再会する。頷きあう、言葉はいらなかった。彼らがすべき事は、目の前に彼方から顕れようと来たる海の神を還す事!
往こう、狂気と絶望とそれでも微かな希望が待つ戦場へ。