県内の特集

みやざきフロントライン【10.10.18-】

(2010年12月6日付)

■新ブランド化へ期待

 なめされた革は軽く、しなやかで高級感が漂う。大きさはおおよそ縦1メートル、幅75センチ。えびの市の新たな地域資源として、官民の模索でたどり着いた夢の素材「鹿革」。食害に悩む農家、高齢化する猟友会、商工業者それぞれに恩恵をもたらすことが期待され、ようやく成果が見え始めた。

 初のお披露目は11月中旬に開かれた市の産業文化祭。眼鏡ふきやアクセサリーなど小品ばかりだったが、2日間で約50点が売れた。

 猟友会役員らは2008年4月、鹿の毛皮の確保、なめし業者への供給を担う市鹿有効利用推進協議会を設立。会長の下牟田盛利さん(74)=同市永山=は「えびの産の鹿革は薄くて丈夫。鹿革をえびの発のブランドにしたい」と期待を高める。

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 市と同協議会が鹿革に着目した背景には、食害の深刻化がある。「被害が増え始めたのは3、4年前。田植え直後に苗を食べられるなど、食害に遭うと本当にむなしくなる」。農家で猟師の松岡晃さん(64)=同市大明司=は増え続ける農作物被害の実態を語る。

 市内の有害鳥獣による農作物被害は09年1230万円と、5年間で25%増加。「昔はイノシシが目立っていたが、今はシカがほとんど」といった声が聞かれ、両者の関連を指摘する人は多い。

 そんな中、捕獲のネックとなっているのが利用価値の低さ。県と市から1頭計8千円の補助があるとはいえ、肉のもらい手は限られるため、多くは捕獲された場所などで埋却されているという。捕獲促進には新発想が求められていた。

 猟友会も会員の高齢化に直面。「会員約180人の大半が65歳以上。5年後は半分に減るかも」と下牟田会長。「皮をはぐのが面倒」との声もあるが、新ビジネスに後継者育成の素地を求める。

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 鹿革の有効活用をめぐっては、全日本鹿協会(東京)など全国組織とも連携。昨年度までに和歌山県のなめし業者を経由した流通ルートを確立し、羊革のように柔らかい一方、牛革のように耐久性でも優れるなどの特徴を確認した。

 本年度に入ってからも、4月には市商工会女性部が中心となり、商品開発に当たる市鹿産品開発協議会を新設した。バッグや財布、衣料品などの鹿革製品を開発、販路を開き、鹿有効利用推進協議会と両輪で事業展開する―。それが目標とするビジネスモデルだ。

 市によると、国内に流通する鹿革の大半は輸入品。国産ではえびのの取り組みが先頭を走る。ただ、現状は市の補助などで成り立つ試行段階。2500円で売れ行きの良かった眼鏡ふきも採算ベースで見直せば、徹底した検証が不可欠となる。「ピンチを逆手に取ったアグリビジネス」(市畜産農林課)はこれからが正念場だ。(えびの支局長・佐賀信行)

【写真】えびの市産の鹿革で商品化された眼鏡ふきやネックレス。魅力的な商品作りが課題だ


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