デマが拡散するインターネット、飲料水の買い占めに奔走する人々。震災の影響は被災地だけにとどまらず、先行きへの不安から農家が自殺する悲惨な出来事も起きた。解消されぬ「不安」に振り回され、冷静になろうにも冷静になれない。不安が人を駆り立て、それが広がっていく。専門家は「自分が普段と違う心理状態だと自覚する必要がある」と指摘する。
<自衛隊では支援物資を受け付けています。各県の県庁が窓口です>
震災発生直後、メールや単文投稿サイト「ツイッター」などで、こんな“呼び掛け”が広まった。
宮城、青森県庁などの住所や必要な物品を詳細に記した上で、協力を訴えるものだ。防衛省には「物資を持ち込みたい」との電話が殺到した。だが、実際は防衛省も各県も物資は受け付けていなかった。物資が届いた宮城県の担当者は「もし大量の物資だったら混乱は大きかった」と話す。
<【超拡散希望】宮城県花山村はいまだ救助は来ず、餓死した赤ちゃんや老人が後を絶ちません…>
切迫感あふれるツイッターの書き込みだが、花山村は市町村合併で平成17年に消失し、現在は栗原市。震度7を観測したが震災の死者数はゼロで、市の担当者は「餓死続出などまったくない」と困惑を隠さない。
こうした書き込みには<悲惨な状態のようです。広めてあげてください>と、悪意でなく情報を広めている様子もうかがえる。急を要する必要性を感じて親切心から<警察に通報した>と書き込んだ人もいた。
ネット上では<情報源の確認を><広めるべきことか冷静に考えて>という呼び掛けも盛んだが収ってはいない。東京女子大の広瀬弘忠教授(災害・リスク心理学)は「大地震が起こると、被災地より周辺でデマや流言は起きやすい。『この先どうなるか分からない』という不安に支配されている」と分析する。
先行きの見えない不安。それは、出荷停止を受けた福島県の農業を営む男性を自殺に追い込み、首都圏では飲料水の買い占めなど深刻な悲劇を招いている。「基準値を超えた」という情報の断片にとらわれ、「何が」「どれぐらい」「どうなるのか」という評価は置き去りにしたまま、人々は漠然とした不安に右往左往する。
「福島で野菜が作れなくなるかもしれんな」
福島第1原発の事故後の24日朝、家のそばで自ら命を絶った同県中部の男性(64)は不安をこう口にしていた。
放射性物質による「風評被害」は農家だけを見舞っているのではない。
「体は大丈夫なの? お店は平気?」
友人にそう心配された福島市の和菓子店経営、須田輝美さん(50)は驚いた。「『福島』というだけで危険と思われているのか」。
福島市は屋内退避地域(原発から半径20〜30キロ)ではない。だが、賑わっていた周囲の街はゴーストタウンのような静けさだ。須田さんの店も日々の売り上げは震災前の3分の1以下。県外からの注文も絶えた。
「福島は危ない、と言われ続ける。そのほうが私たちには放射能よりよほど怖い」。須田さんはつぶやいた。
混乱は首都圏でも続く。
[産経新聞]
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