【カイロ大前仁、ベンガジ(リビア北東部)杉尾直哉】国内の戦闘が泥沼化するリビアで、北大西洋条約機構(NATO)が主軸となる多国籍軍は1日夜、北東部マルサエルブレガ周辺で「友軍」となる反体制派の車両や救急車を爆撃し、少なくとも13人が死亡した。AFP通信によると殺害されたのは市民4人と反体制派兵士9人。生存者は、儀式の「祝砲」として上空へ発砲した直後に爆撃されたと証言しており、誤爆の可能性が高い。国際社会では多国籍軍の軍事介入への批判が根強く、欧米のリビア政策が厳しくなることは避けられない。
NATO報道官は事実関係の調査を始めたと語った。AP通信によると、この地域では儀式の際に上空へ発砲する習慣があり、生存者の男性は医師に「祝砲」の一環として発砲した後に爆撃されたと証言。ただ、ロイター通信によると、政府軍の戦闘員が反体制派の車両に紛れ込み、上空を旋回する多国籍軍機に向け対空砲を発射していたとの情報もある。
また、反体制派で構成する暫定政府の報道官は、今後も多国籍軍の空爆を求める見解を示した。
米仏英などの多国籍軍は先月19日に軍事作戦を始めて以降、空爆や爆撃の対象をリビア政府軍や軍施設に限定してきたと説明。NATOによると、先月31日に米軍から空爆の指揮権を受けた後の24時間で、178回軍用機を出撃させ、うち74回で空爆を実施した。
一方でリビア政府軍は、標的になりやすい戦車などを捨て、反体制派民兵組織と同様、四輪駆動車に兵器を積んで攻撃する作戦を取っているとされる。
このため、多国籍軍側は空からの政府軍・民兵の識別が困難になっているとみられ、リビア政府は多国籍軍側の空爆で民間人に犠牲が出ていると主張。リビア国営テレビは2日、手当てを受ける女性や子供の映像を放映し、「ミスラタでNATOの空爆を受け、負傷した」などと報じた。
このような状況下で、首都トリポリに在住するカトリック教会関係者は先月31日、近郊住民の証言を集めた結果、少なくとも民間人40人が被弾し死亡したとの見解を発表。NATOは同案件について調査に乗り出した。また英BBCは、マルサエルブレガ在住の医師の証言として、多国籍軍が爆撃した政府軍車両に爆薬が積まれていたことから、周辺に被害が及び、住民32人が死傷したと報じた。
欧米諸国はリビアにおける「民間人保護」を根拠として軍事作戦に踏み切ったが、反体制派へ武器供与を検討し始めるなど、深入りする様子をみせている。一方で先月29日のリビア問題に関する会議で、国連安保理理事国のロシアが欠席するなど、国際社会の足並みは一致していない。
毎日新聞 2011年4月3日 東京朝刊