2011年4月3日8時2分
放射性物質の流出として過去最悪とされる海洋汚染は、1960年代から70年代にかけて英国の核燃料再処理工場から起きた。周辺漁場で取れる海産物に今、基準を超える汚染は見られない。だが、廃液は今も海に流され続け、住民や周辺諸国は不信をぬぐえずにいる。
白いカモメの群れが高い煙突をかすめて飛ぶ。英北西部のセラフィールド。絵本「ピーターラビット」の故郷として観光人気の高い湖水地方から西へ約40キロ、アイリッシュ海に面した敷地に、再処理施設がたち並ぶ。
1950年代前半には、軍事目的で再処理が実施されていた。以来半世紀、再処理に伴い、放射性物質を含む廃液を海に流し続けてきた。濃度は70年代がピーク。その後は処理技術が向上したため、近年は100分の1以下になっている。
海洋汚染が発覚した80年代以降、付近の海岸は一時立ち入り禁止になっていた。放射性を帯びた溶液漏れ事故もしばしば起き、運営会社による事故隠しも浮上。批判が高まった。
そのつど英政府は「健康に影響はない」と説明したが、アイリッシュ海がつながる北海に面したノルウェー、アイスランドは海産物の汚染を心配し、操業停止を求めている。特に対岸のアイルランドは毎年、魚介類などの放射能を測り、漁民の健康調査をしている。
これまで、健康への影響は立証されていない。だが、ノルウェーのソールハイム環境担当相は「セラフィールドで爆発や火災が起きたら、わが国の環境はチェルノブイリ原発事故の7倍の影響を受けるだろう」と国民の不安を代弁する。
沿岸はエビやタラ、カレイの宝庫。「廃液は海で拡散するから、大丈夫だ」と英国漁業者連盟の北西地区議長ロン・グレアムさん(66)は請け合う。
それでも実際の汚染とは別に、風評被害が起きた。英国名物フィッシュ・アンド・チップス(魚とジャガイモのフライ)の店が「アイリッシュ海の魚は使いません」と張り紙を出したこともあったという。