東日本大震災の中長期的復興政策とは ~社会資本整備と財政基盤、原発問題を考える~
震災は、緊急即時対応が場所によって成果を上げつつあるが、まだ地域や場所によっては緊急対応すらままならない状態にある。各地の住宅等への集団疎開や避難所の集約、仮設住宅の建設などが急がれ、疎開の場合は受入先の自治体や自治会との連携、避難所では継続的物資及びボランティアの供給、仮説住宅においては戸数の確保と住宅群の運営など、多数の課題が出てくるが、今回は、更にその先の中長期の課題について論じたい。
今回の震災被害の特徴は、津波による生活資産の全面的喪失にある。また、個々の規模の大きさと発生範囲の広さも他に例を見ない。
こうなってしまうと、現実的に、個々人で家を再建するのはコスト面で非常に難しく、社会インフラも併せて失っている以上、義援金や少しの支援だけでは如何ともしがたい。また、国の支援と言っても、必要とされる財政規模が大きく、裏打ちのない方法では、国の借金状況が限界に達している現在、安易な判断は国全体の信用を落としてしまい得る。
また、津波が来た地に再建すれば、堤防の高低に関わらず、被害が再発しないとも限らない。まだ、プレートの半分程度がずれずに残っている事も踏まえ、安心安全な生活が送れるかどうかは、「?」マークが残らざるを得ない。
そこで、以下の三点について、中長期的な観点から提言を行いたい。
・財政的に圧縮しながらも生活も便利な形での再建策
・復興財源の確保
・計画停電に対応するエネルギー政策
【被災地域を集約する究極のコンパクトシティ】
津波によって、数多くの地が壊滅的打撃を受けたことは、ほとんどの方が理解されていることだろう。
生活の基盤である住宅、道路や鉄道などの社会インフラ、電気・ガス・水道・電話なども、大半の地域で同時に失われている確率が非常に高い。
そうなると、再建する、と言うよりは、一から街を作り直す、と言った方が早い。
その際に問題となるのは、個人の資金力によって、再建速度だけでなく、再建可否すら決まってくる、という現実である。実際、神戸でもかなりの地が歯抜けとなり、土地区画整理を行ったところで、やっと空き地が減ったくらいだ。
つまり、今までの再建方法をとっていては、更に輪をかけたような事態になるし、社会インフラ整備(道路や電気・ガス・水道など)のコストも莫大にかかってくるだろう。少々の義援金も焼け石に水で、どちらかというと、住を除いた衣食(家財道具含む)に、義援金の使い道を集中させた方が良い。
では、どの様に再生すれば良いだろうか。
それは、「コンパクトシティ」と呼ばれ、以前からうたわれてきた(地方)都市の再建方法にヒントがあると考える。
具体的には、今回、津波被害を受けなかった高台を中心に、集合住宅とショッピングセンター(地元商店街が中心に入る)、クリニックモール(地元医院が中心に入る)などを集めたコンパクトシティを新たに建設し、被災住民に現在の土地との現物交換で入居して貰うことで、災害にも強く、現在のコミュニティを維持した形での復興を実現する。必要であれば、鉄道も再敷設し、コンパクトシティに直結させれば良いだろう。
こうすれば、社会インフラ整備額は最少額に抑えられる。なぜなら、そこへのアクセスだけを考えれば良いし、建物内の配管工事は、道路に埋めて各戸に供給するより、はるかに低コストで済むからだ。
また、現物交換で得られた土地は、公園や農地等に再整備し、住宅や商業施設としては利用しないことで、災害対応力を高めれば良いだろう。
津波に襲われない土地に住む事が最大の防衛方法だ、とは専門家のコメントだが、コンパクトシティ構想は唯一それを絵空事に終わらせない方法なのである。
更に、コンパクトシティに物流拠点を併設し、公民館や役場などの機能も集約すれば、一大防災拠点として活用することも可能となる。災害時には、その物流拠点の担当者が、救援物資等の受入や小口配送を指揮できるような契約にしておくことや、防災倉庫への備蓄以外にも、各店舗の食料品や衣料品も、災害時には後払いにはなるが、一括購入できる契約を結んでおき、併設の役場責任者の判断で、救援物資化できるようにするのだ。
公営プールを耐震構造で作っておけば、災害時には飲み水以外の生活用水も確保可能となるし、当然、太陽光発電や風力発電設備の保有と電気自動車による蓄電も行うことで、更に防災力は格段に向上する。
そして、これは付加的だが、とても重要なことがある。
もし、これだけの地域拠点が出来れば、多くの人が住みたいと考えるとは思わないだろうか。
そうなれば、一つの過疎化対策にもなる。
平常時は海に面した大規模公園を擁し、生活に困らない街があり、集合住宅でも、中には以前のご近所さんが住んでおり、祭りをやったり、オープンカフェがあったりすれば、コミュニティの維持にも繋がる(コンパクトシティでのコミュニティ維持の可能性については、また別途論じたい)し、集約効果による地域人口増にも貢献してくれるだろう。
加えて、買い物難民となっている高齢者も、車なしに買い物が可能となるし、役場の担当者が個別訪問する頻度も十分高められるはずだ。
地域防災拠点及び役場等との複合化によって、高い耐震性を持ちながらも、建設コストは個々に建てるよりもはるかに安く収められるだろう。
1~2年程度かかるかもしれないが、何とか他地域の都道府県営住宅や仮設住宅に住んでいただき、その後はずっと、安全安心で便利な生活をして貰いたいものである。
【財源は期間限定の消費税】
再建には、お金が欠かせない。
それも、億単位ではなく、兆単位のお金が必要となるだろう。
日本だけでなく世界中から義援金はかなり集まっているが、正直、焼け石に水、とまでは言わないが、かなりの財政出動を伴わないと、実質的な再建・復興は叶わないと考えるべきだ。長年かけて蓄えてきた社会資本すら失われた訳で、それを一気に建て直すとしたら、何十年分の支出を一度に必要とするからだ。
財源については、既に政府内では復興債の発行などの話も出ているが、出来る限り、借金を将来に繰り延べる形ではなく、税として裏打ちのある形で、短期前借(長くても5年以内)としての復興債が限度だろう。
そうしなければ、日本の負債比率は上がるばかりで、復興の足を引っ張りかねない。
勿論、方法論として、大量の円供給により、実質的な円安誘導により、日本企業を助ける、という話もないわけではない。しかし、それ以上に、復興以降のことを考えれば、これ以上、財政に手枷足枷をつけるのは避けるべきだ。
それに、今であれば、ある程度の国民負担は容認されるだろう。景気の下押し効果も、一気に5%でも上げない限り、そこまで大きくは出てこないはずだ。どの道、震災後には節約や震災影響による下押し効果が出てしまうのは避けられないし、逆に、十分に復興に資金を供給すれば、再建需要による景気の押し上げ効果も出てくるだろう。
現時点で、最も可能性が高いのは、消費税だろう。
+1~3%(概ね2%)程度の範囲で、1~3年くらいの期間限定で、復興税として消費税に上乗せ回収する。国民全体で被災地を助けるという考え方だ。
消費税は、低所得者層に厳しい、と言われるが、所得が高いほど消費も旺盛であり、また、消費税は個人だけではなく法人にも広がり、言われるほど公平性に乏しい訳ではないし、所得税等で賄うにせよ、国民全体の所得が落ちている現在、かなりの所得層まで課税対象を広げないと、実質的に徴収額が確保できない。
法人税も、大手企業でも既に納税額が0円の企業も多く、銀行からなど間接調達中心となる、中堅や中小企業に負担が増すだけだ(赤字企業は追加融資を受けづらいので、何とかして黒字化して納税するのが、中堅や中小企業の暗黙のルールである)。
但し、恒久的に増やしてしまうと、単なる増税なので、これでは理解が得られない。
そこで、期限を定めるのだ。
期間としては、小売を中心に消費税の更新にコストがかかる以上、1年間では手間ばかりかかるので、出来れば2年程度は行った方が良い。ただ、震災とは別に、税のあり方が議論されており、消費税の見直しも当然含まれるだろう(増税の方向で)。
それに最短でも2,3年はかかるだろうから、消費の冷え込みという悪影響のことを考えると、そこまでには終えたい。
そうるすと、1~3年という期間となる。
消費税1%で概ね2兆円だから、最低限の生活基盤づくりという意味では、何とか賄える規模になる。
これ以降は、どちらかと言うと、規制緩和などを大胆に打ち出し、震災特区として自主的な復興を後押しする。
優遇税制や農業の法人参入許可など、投資を呼び込む仕組みが必要になってくるが、これはこれで別途議論が必要なテーマだろう。
もちろん、消費税の一時増税だけでは不足するのはわかっている。しかし、4兆近くの裏打ちがあれば、マーケットへの影響は限られるだろうし、それだけの紐が付かない真水があれば、個人の支援に繋がる純粋な住基盤の整備に使う目途も立つ。それが、国民からの付託であると考えれば、無駄な独法をつくったりして、無駄に労費することはさすがに抑えられるだろう。
再建のための呼び水・土台作りとして、この程度の真水資金は短期間で必要だし、投資の方法によっては、その後の財政出動を抑制することも可能となる。ドイツ東西統合時も、一時的に統合のための税を設けていたし、それによって東側の再開発が劇的に進んだのは事実である。国民で支えるのであれば、その程度の負担はあって然るべきではないだろうか。
【自然エネルギー促進税も同時に】
今回のもう一つの災害(人災という指摘もあるが、基本は津波を起因とする自然災害が主要因だろう)である原発事故であるが、こちらに対する恒久的対策もうっておくべきだ。
私は、原子力工学出身であり、基本的には原発容認派であるが、発想のベースは「原発は必要悪」である。
なぜなら、発電システムの中で、最も高出力でCO2も排出しないが、同時に、最もハイリスクであり、高レベル放射性廃棄物は必然的に排出され、なお且つ、日本の非常に高い技術力を持ってして、何とか安全に運用でき得るギリギリのレベルにあるからだ。何より、現実的に原発なしに日本の電力消費は担える状態にない、という事実は受け止めるべきであろう。
中東の内紛で簡単に価格が急上昇したり、下手をすると入手が困難になりかねない石油に頼る電力供給体制は、エネルギー安全保障上の観点からも、適切とはとても言えない。
しかし、ハイリスクである以上、原発を更新して安全性と効率性を増しつつも、数は減らしていく努力はしなければならない。
そこで重視されるのは、日本国内でも確保できるエネルギー資源であるが、日本の技術力優位性や産業振興を考えると、太陽光及び風力による自然エネルギーの活用は外せない。
確かに、自然エネルギーは自然を相手にする以上、供給の「不安定性」という問題があり、一概に解決策にはなりにくい。しかし、日本全国に散らすことが出来れば、東西の電力相互供給(周波数変更)の問題を解決すれば、面として国土を捉えられるので、発電所ほどではなくとも、一定の安定性は保てるだろう。
そこで、今回の震災復興税の一部(率で言うと、2%のうちの0.5%程度)を自然エネルギー促進税とし、太陽光発電及び風力発電の導入に補助金を出すのである。あるいは、避難所となりうる学校などの公的施設には、100%に近い設置を目指すのだ。
特に、太陽光については、夏の電力需要期に向けて重要な対策となる。「原発停止による電力不足」から考えるでも述べたように、太陽が照っている時ほど暑く、その分、エアコンによる電力需要が増すが、当然、太陽が照っていれば太陽光発電も出力を増すことになる。これにより、ピークの相殺効果が出るため、最大需要期に併せて発電設備を準備し稼働させる、という基準で考えれば、かなり停電のリスクは下げることが可能となる。
また、産業面で見ても、補助金は国内産に限定すれば、国内産業の振興にも繋がる(非関税障壁と訴えられる可能性はあるが、震災復興の一部として期間限定で実施すれば、そこまで多数の非難は起きにくいと考えられる)。
それに、東北地方は風が強い地域も多く、地域産業への貢献にも繋がる。
当然、設置には工事が必要だから、そういった方面での需要も増すことになるし、中長期的にメンテナンスなどの安定的な需要も見込めるはずだ。
更に、発電量が増してこれば、スマートグリッドなどのインフラ系の投資も増えてきて、自然エネルギー活用について、世界的に技術的優位に立つことも可能となってくる。これからの世界貿易において、インフラ投資は見過ごすことの出来ない領域である。
今回の震災においては、阪神と異なり、地域産業基盤にかなり幅広く大きなダメージを与えたため、より産業振興による押し上げが必要不可欠となる。
その観点で、自然エネルギー関連は重要な位置付けとなるだろう。原発の問題がクローズアップされているタイミングでもあり、併せて進めるべきではないだろうか。
最後にまとめよう。
幾つかの地域においては、社会インフラと住基盤へのダメージが大きく、また、将来的な津波被害への対処も考えると、根本的な見直しを行った方が結果的に良い成果が上がる。財政的に圧縮しながらも生活も便利な形での再建策として「コンパクトシティ」が挙げられ、防災拠点との複合化により、更にその価値は高められる。
復興財源の確保としては、時限的な消費税増税が適切だと考えられる。地域の社会及び住インフラへの十分な資金供給と投資を行うことができる金額を確保しなければならず、特定層や法人などに限った課税ではなく、国民全体で支えるという意図も含めて、消費税はある程度有効な手段と考えられる。
原発被災に起因する計画停電に対応するエネルギー政策としては、やはり徹底的な自然エネルギー活用への転換が欠かせない。特に、夏場を乗り切るには、太陽光発電は欠かせないものであり、尚且つ、国内産業の底上げにも繋がってくるものをチョイスすべきだろう。
以上が提案の骨子となるが、今回の震災は被害が広域かつ大規模であり、ある種、目玉的な復興を用意し、内外から投資を呼び込むことを意識しなければ、正直支えきれないと考えている。そのため、如何に復興投資を乗数的に膨らませられるかが、中長期的対策においては重要なのである。そこまで考えての政策でなくては、被災地の本質的復興はなされないのである。
阪神・淡路大震災にあった者として、一日も早い対策の実施と復興の実現を願ってやまない。
◆筆者紹介
FRI&Associatesの草創期メンバーで、現在NPO法人FRI&Associates 理事長。
外資系コンサルティングファームにて、事業戦略、業務改革、IT導入などを手がけたが、自身の仕事の関わり方に疑問を感じ、ベンチャー企業に転職。経験を活かし、経営・事業・商品・営業等の企画業務、ライン管理職、各種改革関連業務を担い、徹底した現場主義により業績拡大を支えつつ、多数の業界大手企業のマーケティングコンサルティングにも責任者として従事。業界特性を考慮した実践的なアプローチにより実績多数。その後、IT・ライフサイエンス領域の投資育成企業にて子会社の事業企画や経営改革、大手メーカーの機構改革などにあたった後、地元関西に戻り、計測機器メーカーにて、経営企画担当の上席執行役員として、各種改革業務および主要事業のマーケティング、事業開発などを推進する。現在は、大手監査法人にてメーカーを中心にビジネスアドバイザリーサービスを提供している。
※FRI公式ツイッター(筆者が主担当です)
※筆者個人ブログ「清水知輝の視点 ~ビジネス・キャリア徒然草~」
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