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[26632] 【ネタ】エセ高校生の横島【GS美神・逆行】
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/02 21:58
まえがき

未来で美神令子と結婚していた横島忠夫の意識と知識が逆行し高校1年生から開始です。
原作での時間の修正力も加味されていますが、バタフライ効果も加味された平行世界分岐型のストーリーです。
バタフライ効果のひとつとしてヒロインはなぜか美神ひのめです。
魔改造横島物で、オリジナル色や二次設定が多くでています。
にじファンで先行掲載している物の修正版となりますので、内容が若干異なります。
こちらで色々とご指摘をいただいていますので、不定期掲載の予定です。

以上のような作品でよければ本文をお読みください。

*****

2011.3.21:初出



[26632] リポート1 さっそく除霊
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/28 20:40
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プロローグ
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やたらボロっちい四畳半の部屋で横島は目覚めた。
なぜか見覚えはあるのだがなかなか思い出せないでいると、頭の中に今日の日付がうかんできた。

「平成8年?」

平成19年から理由はわからないがこの前、妻の令子を助けるために戻ってきたよりも1年前に魂か意識がもどってきたようだ。
色々と現在の身体の記憶や部屋の中の状況やカレンダーからみるとその通りなのだろう。
今度はどんな事件にまきこまれたんだろうか。
時間移動は封じているはずだからも玉の暴走か?
それとも、ひさしぶりにでてきた宇宙の卵につっこまれたとかというのは神魔族が管理しているからそれは、最近の動向ではないだろう。
とりあえずは、様子をみるしかないか。

こうやってひさしぶりに一人でいると令子との結婚は確かに幸せだったな。
しかし色々と犠牲にしてきたものもある。
これが繰り返されるなら人生赤字の繰り返しだよな。
今後のことだがアシュタロスとの件というよりも、ルシオラの件があるので1年の猶予は助かる。

幸い今日は日曜日で考える時間はある。
そういえばこの時点では本気かどうかわからなかったことがあったよな。
しかしアパートのひとりぐらしで両親からの仕送りが、本当に最低限しか送ってこなかった時にはあせったことを思いだしていた。
生活のためにアルバイトをどうするかを考えるのもあるが、現時点で自分の霊能力がどれくらいあるかの確認をする。

部屋の中で色々とためしてみたが簡単にいえば霊力だけなら中堅GS程度といったところか。
魂ごと過去へとんできたわけではなさそうだ。
多分だが意識か知識だけもしくは両方が何らかの理由で過去にさかのぼったのであろう。
自分の最大の霊能力である文珠を生成できないのはいたいが、2日に1個程度しか生成できていなかったので切り札的にしか使用していなかったしな。
今は霊的成長期にいるのであと1年あれば前回の時よりは力はついているだろうが、力だけではあのアシュタロスは倒したりすることはできない。
可能ならばアシュタロスの希望通りに滅ぼしてやるのがよいのだろうが前回を踏襲できるであろうか。

ただし意図してきたわけではないのでルシオラに関しては複雑な思いがある。
前回と同じようにしたい分もあるが、それだと彼女の思いにたいして失礼にあたるのではないかと。

いきなり難しいことを考えるのはやめ。
霊能力自身についてはだいたいわかったが、霊能力に比較して身体能力は明らかに足りないのはこの部屋の中だけでもわかる。
まずは基礎訓練からのやりなおしか。



この前の毒蜘蛛の件で令子を助けるために時間移動をして改めてわかったことがある。
大きな事件はそれに相当する事件は必ず発生する。
しかし個人的なことは簡単にかわってしまうことだ。
妻の令子は1回目に打った解毒剤の量が俺と個人差のためか未来にもどっても毒性の中毒のままであった。
俺はあの事件で傷をおったのと、過去に解毒剤をうったことにより戻った時点では毒についての問題は発生していなかった。
これが時間の修正力なのだろう。
高校2年生の時はものすごく色々な事件があったり、何回も高校2年生をしていたような気はするが、細かいことの記憶はあやふやになっている。

色々と世話になったおキヌちゃんをたすけて生き返らせてあげたい。
しかし、死津喪比女の起こした霊障から考えると早めに手を打つと、時間の修復力により別な霊障が東京を襲うだろう。
それは俺の持っている知識のアドバンテージが生かせなくなる。難しいところだ。



今おこなった霊能力の確認での霊体痛は考えなくても良いだろう。
肉体的キャパシティは現状でも充分霊力の出力に対して適応しているようだ。
潜在能力だけならあの両親から血を受け継いだ俺だとあらためて思わされたが今は無理だな。


この時期にGSの道をすすむとなると一番の安全策は令子と一緒にいることだが、まだ事務所は開かれていないはず。
そうすると令子が研修をうけているはずの唐巣神父のところか。
その他の候補となると冥子ちゃんのところだが、この当時の冥子ちゃんはまだ冥子ちゃんのぷっつんってなおっていなかったよな。却下だ。
たしか冥子ちゃんのぷっつんが目立たなくなったのはアシュタロス事件……公式には核ハイジャック事件だったよな。
原因はよくわからないがあのときの霊障で思うところがあったのだろう。


日曜日なのは幸いだし距離的にも比較的近いこともあり唐巣神父の教会に向かう。
立て直す前ってこんなにボロだったっかな、この教会。
そんな失礼なことを考えながら教会のドアをノックをする。

中からでてきたのは亜麻色の髪の女性だが、俺がこの前に過去へ戻った時とみて知っている若い令子より若干やわらかい感じの女性がでてきた。

「はじめまして。横島忠夫と申します。唐巣神父はいらっしゃいますか」

「ええ。今いますがどのようなご用事ですか」

「GS助手を希望していまして、その……アルバイトとしてやとっていただけないかとお願いをしたくて……」

目前の女性には令子ほどに一緒にいたいと感じはしないが、霊波が非常に似ている。
前回の10年前に時間移動の時には、思わず我を忘れるぐらいに若い令子に興味をひかれたのにこの違いはなんだろうか。
目前の女性はちょっと考えてから、

「ええ、まずは中にお入り下さい」

「ありがとうございます」

教会の中に通されたら唐巣神父ともう一人の亜麻色の髪の女性がいる。
あれはまさしく令子だ。
思わず近寄りたい衝動に耐えながらもう一人の亜麻色の髪の女性が俺のことを唐巣神父に伝えているようだ。
その唐巣神父がちかよってきて、

「私が唐巣です。君が横島君ですか? GS助手を希望とのことですが除霊の経験はありますか?」

「いえ、ありません」

今朝意識をしただけだからこの身体では実際におこなっていないので正直に言う。

「除霊というのは大変危険な行為だよ。君はそのことを認識しているのかね?」

唐巣神父は俺に対して説得をしようとしているのだろう。

「正確には認識していないかもしれませんが、先週の日曜日、夢枕に菅原道真公が現れましてそれによって俺には霊能力があることと、
 その能力について語ってくれました。その夢の後にこの霊能力にめざめました。それでこの1週間練習をつんでいます」

そう言って右手と左手にそれぞれ手のひらより少し大きめなサイキックソーサーを作成する。

唐巣神父が軽く「ほぉ」という言葉をつむぎだす。



唐巣神父はその霊能力によって作り出された過程と、それによって横島の発生させる身体全体の霊力が変化していないことをみていた。
まだ充分な霊的に余力がありそうだと判断する。
これだけの霊能力でも充分にGS試験は突破できるであろう。
ましてや若くていまだ霊的成長期にありそうな前途有望そうな少年を育ててみたい気はする。
しかしながら唐巣神父から語られる言葉は自己の思いとは別な方向に向かった。

「たしかにそれだけの霊能力を埋もれさすのは惜しい。
 しかしながら今いるここの二人の面倒を見ているのとこの後もう一人くるのでそれが精一杯でね」

「そうですか。よろしければ目の前のお二人の女性のお名前だけでも聞かせてもらっていただいてもよろしいですか」

「……名前ぐらいなら良いでしょう。最初にドアであったのは美神ひのめ君。そしてそちらにいるのが美神令子君です」

えっ、ひのめちゃん? 俺の知っている過去と違う平行世界に移動したのか。
そうすると原因にかかわらず、元に戻るのは難しいぞ。
そうは、いってもあまり考えるのもまずい。

「……あらためて挨拶させていただきます。横島忠夫です」

令子からはそれぐらいの霊能力は何よっといった感じを受けるが、意識がとんだ前の義理の妹にあたった、ひのめちゃんからはうらやましそうな視線を感じる。
しかし、ひのめちゃんは発火能力者としての才能を発揮していないのだろうか。

「私があずかるのはこの二人。いやさらにもう一人増える予定で手一杯なのだよ。私のところでGS助手というのはあきらめてくれないだろうか」

「うーん」

この時代に他のきちんとしたGSを知らないな。
この時点から未来になれば知り合いは増えていくが現在の住所と同じかというと自信は無い。
そんな悩みをみてとったのか唐巣神父からある提案を受ける。

「GS助手をめざすならばGS協会に行ってみてGS助手の募集が無いか確認してみてはどうかな?」

思ってもいなかった発想だ。
たしかにGS協会でGS助手の紹介していたこともあったなと思い出す。
自分ではつかったことがなかっただけにすっかり忘れていた。

「唐巣神父ありがとうございます。GS協会にいってみます。あと縁があったら美神令子さん、美神ひのめさんもよろしくお願いしますね」

ひのめちゃんはともかく、令子とは何か縁があるはずだ。
二人の反応はそれぞれ異なるが、極一般的な範囲をでてはいなかった。

早速GS協会にむかってみる。
GS協会では簡単な書類を書いてGS助手の募集をみてみる。
この時期にGS助手をだしているのはかけだしの新人か何らかの都合でGS助手がいなくなった場合だ。

俺はその中で六道女学院とは関係が無く比較的若手のGS院雅良子(いんがりょうこ)というGS助手募集にたいして紹介依頼をお願いしてみた。



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リポート1 さっそく除霊
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今日にでも面会という話だったのと遠くはないので院雅除霊事務所に直接向かうことにする。
ついた院雅除霊事務所でおこなったのは巫女姿の女性と面会だ。

「貴方が横島忠夫君ね」

「はい、横島忠夫です。貴女が院雅良子さんですか」

「そうよ。GS助手といってもそんなに難しいことをさせる気はなかったのだけど横島君は霊能力があるそうね」

「ええ」

そう言って両手にサイキックソーサーを展開する。

「充分ね。将来GSを目指すならともかく3年以内ぐらいなら、GS助手としてアルバイトは歓迎よ」

3年とは微妙な数字だ。
高校卒業までを目指すという意味なら普通の高校1年生にとっては卒業までの期間なので魅力的な提案であろう。
しかし、俺の目標は来年の夏休み明けごろにおこるであろうアシュタロスの事件だ。
その前には現在の令子とそれなりの信頼関係を築き上げておきたい。
そんなためらった感じを勘違いしたのであろうか院雅良子は、

「別に3年とはきまっていないわよ。まずは貴方が実戦でどれくらい使えるかしりたいわね。
 時給とか危険手当については今日は単発の契約として、今後のことは今日の結果をみてからお話しましょう」

「えっ? 今日ですか?」

「あら、聞いていなかったのかしら。GS協会も怠慢ね……このことは聞かなかったことにしてね」

「ええ」

「一緒に行うGS助手がケガで霊的中枢(チャクラ)にダメージを残してしまったので困っていたのよね。
 他のGSを頼むと金額的に高くなりすぎるしそういうところでも困っていたところなのよ」

高校生の肉体でありながら俺の主観では若い女性でもあり断れない内容なわけで思わず、

「それでOKっす」

っと言いかけるがどんな霊障を今日行うかということを聞く。
内容的にはそんなに高度では無い。
自分ひとりでもサイキックソーサーさえあれば多分大丈夫だろう。
しかし、肉体の動きについてはさすがに自信は無い。
GS助手なのに助っ人というのはおかしな話だがGS助手として臨時契約を結んで早速今日の除霊を行う場所に向かった。


院雅除霊事務所所長 院雅良子もとい院雅さんの事務所で目を通させてもらった資料によると今回の仕事のターゲットは、

『自殺者の怨霊で霊力レベルはC。特定のオフィスである部屋からでないのでオフィスの外に損害はなし。
 説得は不可能であるが特殊な点はナシ。通常除霊処置で成仏可能と判断される』

書類にはそのように書いてあったが院雅さんの話によると、

「今回の怨霊は浮遊霊から霊力を吸い取る能力があったのよ。そのために現状の推定霊力レベルはBになっているのよ」

「ますますその怨霊の霊力レベルがあがっていきませんか?」

「そのあたりは他の浮遊霊が入れないように結界札を貼ってきたからあと2,3日は大丈夫よ」

このあたりはさすがにプロだな。
事務所から目的地まではタクシーで移動する。
そういえば令子のところで働いた初期は私鉄とかの移動も多かったなっと思い出すが、その後は自家用車での移動が多かったのでタクシーは滅多につかわなかったな。
まあ自家用車は事務所の必要経費ということにしてあったのを知ったのは随分たってからだったが。

タクシーに持ち込むものは以外と少ないのか?
梓弓(あずさゆみ)と桶胴太鼓に何種類かの道具と札だ。
これを運ぶのが俺の役割のひとつだ。
令子のところで若いときに働いていたのに比べたら非常に少ない。

有名どころな道具や札はもう何回もつかっているので見慣れない梓弓(あずさゆみ)と桶胴太鼓の説明を受ける。

「この小さめの太鼓は桶胴太鼓といってこれををたたくと音と一緒に霊波がのらせて相手に届くのよ。
 それで怨霊をあらかじめ用意しておいた結界にとじこめるのに使っているのよ」

おキヌちゃんのネクロマンサーの笛は直接説得や浄化させていたが、このような方法もあるんだ。
おキヌちゃんは相手があやつっていたキョンシーをあやつったりしたり、相手の意思に働きかけるなんてこともしていたな。

「こちらが私のメインの武器になる梓弓(あずさゆみ)よ。
 これも弓をはじくと音がでてそれに霊波をのせるというのは同じだけど、桶胴太鼓よりは霊波をのせにくいのよ。
 けれどもこの矢で結界に閉じ込めた怨霊を最後に止めをさすのが私の除霊スタイルよ」

世の中には色々な方法があるんだな。

「そういえば神通棍はどうするんですか?」

「そ……それはね。切り札ね」

「神通棍が切り札?」

「私が得意とするのは中距離から遠距離なの。
 近距離まで迫られるような強力な怨霊から……一時的撤退をして作戦をたてなおすのに使っているわよ」

最後の方は言葉が少し弱まっているのは気にかかる。
しかし命あってなんぼだしな。
自分たちより魔力や妖力が強い魔族や妖怪を相手にするのに戦術的撤退なんてしょっちゅうだったしな。

「へーい。了解しました。それで今回の俺の役割は?」

タクシーの中で説明を受けるが、初めての仕事だし役割としては仕方が無いか。



目的地の事務所へタクシーでつくと、いつもの通り領収書をもらって降りる。
院雅除霊事務所で話した雰囲気やタクシーの中で聞いてくる内容を加味すると、この横島という少年にはまだ隠し事がありそうね。

最初に霊能力に目覚めたのが、菅原道真公が夢枕にたったその朝に霊能力が発現した?
それはまだしも1週間もたたないうちに、世界でトップ10に入る唐巣神父のところへGS助手として売り込みにいくかしら。
素人ならよくは知らないはずのそれぞれの札や神通棍についても知っていた感じがするし。
もしかしてもぐりで除霊でもしていたのかしら?
この仕事で彼を見極められるかしらね。



二人の思惑はそれぞれ異なるが除霊でゆだんは禁物。
各自ターゲットの怨霊に対して事前にたてた作戦の通りにすすむ。
前回は霊力レベルはCの怨霊ということで梓弓(あずさゆみ)のみを持ってきていたが、今回は桶胴太鼓で怨霊を結界内の隅の方へおいこんでいく。
その様子を横島が彼女の前で結界札を持ちながらすすんでいくというものだ。

横島としてはサイキックソーサーの方が確実なのはわかっているのでちょっとなさけない。
除霊はしたことが無いことになっているのだから院雅からみたら俺の初仕事である。
実際この肉体では除霊の初仕事になるわけだが。
サイキックソーサーが実戦で使用できるかどうか不明というリスクを、おいたく無いのは理解ができてしまう。

院雅さんが桶胴太鼓を使用して、怨霊を隅においつめていったところで横島は結界札を院雅さんから指示された6箇所に張っていく。
これで怨霊が移動できる範囲は5m四方程度まで小さくなった。

「院雅さん、結界札は全部貼り終わりました」

6枚目の結界札を貼り終わったところで声をかける。

「じゃあ、ラストね」

院雅さんが梓弓(あずさゆみ)で矢を放つ。
矢に霊力がのっているのはわかるが、その時の弦の音にもしっかりと霊波がのっている。
2重攻撃になるのかな。
結界の中の怨霊はあばれていて結界がミシミシと鳴っているので

「この結界もちますか?」

「あと2,3本矢がさされば成仏するから、それまでもてば大丈夫よ」

「そうすか」

「それよりも話かけるならあとにしてね」

「へーい」

話かけるなということはこの結界そんなに長時間はもたないということか。
邪魔しちゃ悪いな。

院雅さんがさらに梓弓(あずさゆみ)で矢を2本さしたが、まだ怨霊の霊力が半減した程度にしか見えない。
霊力レベルBの怨霊といってもマイト数に換算したら範囲が広いからな。
とどめの一発のつもりなのか最後の矢にはこれまでよりも大きな霊力がこもっているのがわかる。
もしかしたら今までのは怨霊の霊力を見ながら矢にこめる霊力を調整していたのか。
それだったらたいしたものだ。そしてその矢を放ったら、

スカッ

怨霊が避けやがった。
それとともに結界をやぶって出てくる。

院雅さんも対応しようと梓弓(あずさゆみ)から神通棍へきりかえようとしているが、襲ってくる怨霊の行動が早くて間に合いそうに無い。
俺は院雅さんの斜め後ろにいる。
この身体では間に割り込めるほど早くないし、こちらにむかってきたときの為の吸引札を投げてあてるのはこの身体では訓練していないから今は無理だ。
俺は近くにいる院雅さんに飛びつきつつ、サイキックソーサーをノーモーションの意思だけでコントロールして飛ばす。
体勢を立て直す必要があるかと思ったらそれだけで怨霊は消えたのを感じた。

「院雅さん、怨霊消えちゃいましたね」

「えっ? 今のが消えるわけ無いのに!」

ちょうど院雅さんから見えていないのは確認している。
霊感が強いならサイキックソーサーで怨霊に止めをさしたのがわかるだろう。

「ちょっとどけてくれるかしら。まわりを確認しないと」

折角、院雅さんの身体のぬくもりをもう少し楽しみたかったので身体を預けたまま言う。

「俺のサイキックソーサーをぶつけたら消滅しました。これも院雅さんが弱めていたからだと思います」

そう言いながら思わず胸のあたりをスリスリするが胸の感触があまり無い。
これはサラシをまいているか何かか。

『こんちくしょー』

「それでもいいから、まずはどいて」

胸の感触が楽しめないならあまり駄々をこねるのは得策ではない。

一応、一緒にまわりの確認をしたが怨霊らしい気配は残っていない。
やはり無事に成仏してくれたようだな。



彼のサイキックソーサーと、私の最大霊力を込めた梓弓(あずさゆみ)の矢が同じ強さだというの?
しかも今回特にこわがっていた様子も無いし、最後のあの判断だけど普通ならサイキックソーサーのかわりに吸引札が正解のはず。
しかし、サイキックソーサーをきちんと使いこなしているということはそれなりの場数を踏んでいるわね。

こうして横島は院雅から目をつけられるがそれはセクハラ方面ではなかった。
これが良い方向に転ぶのか悪い方向に転ぶのかいまだ横島にはわからない。



院雅除霊事務所にもどって今日の臨時アルバイト分を先にもらえることになった。
元はレベルCで除霊助手の仕事なのに約束の金額より多少多めに入っている。

「あれ? 約束していた金額より多いんですけど」

「最後は助けられた格好になったからよ。本当なら吸引札を使うところだけど、
 吸引札は高いから判断ミスを除いてもその分を上乗せしといたのよ。嫌かしら?」

ブンブンと首を横にふりながら

「いえ、ありがたくいただいておきます」

「それで、貴方GS助手として合格よ。本当ならもう少しテストとかしてからきめるのだけど、今日の様子を見る限り私の除霊スタイルとあっていそうよ。
 次回は明日きてもらうで良いかしら?」

「明日ですか? ええ大丈夫です。ちなみに明日も仕事ですか?」

「いえ、明日は除霊の仕事はないけれどアルバイトとはいえ正式なGS助手としての雇用契約を結んでおきたいのよ。
 契約書を事前にわたしておくから、目をとおしておいてね。わからない部分があったら明日その場で説明してあげるわよ」



私の見立てが正しいのなら、彼は除霊になれているわね。
あとはモグリでGSをおこなっていなかったのならどうやって場数を踏んだかよね。
どうも女好きなようだしそこをうまくすれば良いように使えるかしら。

横島の性癖はすっかりばれているようだった。


*****
院雅良子(いんがりょうこ)はオリキャラですが、最終巻で200年後にインガ・リョウコとでてきていますので、ビジュアル的にはそれと同じとみてください。
院雅良子は巫女姿ということで、神道の道具として梓弓(あずさゆみ)と桶胴太鼓をチョイスしました。
梓弓(あずさゆみ)と桶胴太鼓は、少なくとも霊能力発現の為の道具としては原作にでてきていません。

2011.03.21:初出



[26632] リポート2 霊力・妖力・魔力のつどい
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/28 20:44
「横島クン。頭に巻いていた白いバンダナはどうしたの?」

学校につくなり同じクラスの少女から聞かれた。
そういえば美神除霊事務所の正式社員になってからつけなくなっていたので、つけてくるのを忘れていたな。

「ああ、やっぱり。バンダナを巻くのはやめるようにしておくよ」

「その方がいいと思うわ。あれ似合わなかったもん」

あれ? 以前と学校での反応が違うな。それとも入学してまだ日数もたっていない人間が多いからだろうか。
以前ならこれだけでも、

「どっかの覗きで落としたの?」

「学校をやめる前兆か?」

「これから下着ドロするための準備かも?」

とか散々言われていただけあって今回の反応は新鮮だ。
その影には中学時代からの生徒もいるわけで、

「単純に忘れたのをごまかしただけだろう」

中学時代にも同じことを言っていて翌日にはバンダナをつけているのを目撃していた中学時代からの級友の言葉は、横島には聞こえていなかった。



教室に入ると騒ぎがおきていた。
旧い机のまわりを皆が囲んでいるのだが、その旧い机にクラスメートが飲み込まれたという。
俺は五角形のサイキックソーサーを五枚だして机の周りに配置し簡易的な結界を形成する。
『愛子』ならこの程度の結界でも抜けられないだろう。



ひのめはちゃんは大きくなっているし今度は1年早くこの学校に机妖怪の『愛子』がきている。
『愛子』の対策はわかっている。しかし、誰か大人が必要だ。
クラス担任の先生がきているのでGSの助手をおこなっていることを言って、至急GS協会に机妖怪のことを調べてもらうように問い合わせてもらう。

「GSの助手ならそのGSに頼むのが筋じゃないのか?」

「俺は正確にいうならばまだGSの助手ではなくて今日、契約する予定なんです。それに学校関係の机妖怪っていうのは特殊だという噂を聞いたことがあります。
 机妖怪のことがくわしくわかるGS協会から協力を依頼されてくるGSが望ましいでしょう」

「なんか横島に言われていると思うと納得いかないというか」

「時間がもったいないので早めにお願いします」

簡単にでていったが以前、令子が愛子から皆を救いだしたときのことだ。
あとでGS協会妖怪事典を読んで、GS美神令子が救出したと愛子が生徒を吸い込んで数時間後に吐き出したことは各時期毎に書かれていた。
今回はそれを逆手にとって誰が『愛子』を説得するかがわかるだろう。
言ってしまえばカンニングだが今の俺と令子との接点って1回限りだからな。
GS協会も先に気をきかせて派遣してくれれば良いのになと思ったが、あのときは外で何月何日だったかを皆に聞かれていなかったからな。
唐巣神父ならこういう時にでも無償でおこなってくれそうだが、もし間違っていたら個人レベルでの歴史の修正があちこちの時期でおこりそうだ。
ただでさえこの世界は以前の俺がいたときとずれているのに、これ以上ずれると判断が難しくなっていく。



しばらくまっていると教室にきたのは予想外にも院雅さんだった。しかもスーツ姿でだ。

「院雅さん、どうしてここへ?」

「横島君ちょうどいいわ。現場にいるはずだと校長から聞いていたけれどね。GS協会から机妖怪の退治の依頼があって資料を送ってもらったのよ。
 そうしたらGS院雅良子とその助手の横島忠夫が最後に入ってきて、机妖怪の『愛子』を説得して無事に皆を戻したということになっているのよ」

もしかして『愛子』がここにいたり院雅さんがここにきたのは俺のせいか?
一部で「横島のくせにあんな美人と」という声は無視をしておこう。

そして俺と院雅さんは愛子に飲み込まれるように入っていったが、あの舌に触られる感触ってなんともいえない感じがする。
愛子の中に入ったところで直接授業中の空間にでた。
あれ? 最初は愛子だけだと思っていたのに。
まわりでは、

「先生!!」「うおおーっ」「先生――っ」

という声の元に生徒たちが院雅さんの元に集まってくる。

「これで授業ができますわっ!! 学級委員長としてクラスを代表して歓迎しますっ!! しかし学生ばかりでは学園生活はおくれない!!
 しかたがなくホームルームを続けてきましたが……私たちはいつの日か教師が現れることを待ち望んでいたのです!!」

愛子が目をキラキラさせながら語っている。
そんな愛子につきあうかのように院雅さんが、

「はーい。それじゃ授業を始めます!! 皆さん席について――!!」

俺はすぐに説得を開始するものだと思ったのだが違うようだ。
ノートにメモをし、その部分をちぎって院雅さんが横を通るときに渡す。
戻ってきたメモには2時間目と書いてある。
その2時間目では、

「春の幽霊注意週間です。本来なら警察から人を派遣してもらうのですが、GS免許をもっている私が代わりにおこないます」

そういえばオカルトGメンができる前は幽霊注意週間に警察がきていたなっと思い出す。

「さてここは妖怪がつくった特殊な場です。そのための対処方法を皆様に考えてみてもらいましょう」

「先生!! ここから出ようと皆で考え続けたのだどその結果はでてきませんでした」

「高松君だったかしら貴方達は出ることばかりを考えて、妖怪が誰だか考えたことはあるのかしら?」

「……」

「そうね。たとえ考えてわかったとしてもこの中では対処方法はないわね。それで正解よ」

「先生!!」

「けど、外にでられた時はGSやGS協会を頼りにしてね。それで妖怪を探したり外にでるための実習を体育館で行うから皆さん着替えてきてね」

「いえ、体育着もないんですが」

「あら。そうしたらそのままの格好でも良いので体育館へ行きましょう」

なぜ愛子は体操着を用意をしていなかったんだ。
女子高生の着替えを覗くチャンスなのに。
愛子の方はとみると見破られない自信があるのか素直に体育館に向かう。

「皆さん集まりましたね。神楽舞の一種で巫女神楽という儀式をおこないます。
 この神楽舞自身にも祈祷による場所を清める効果がありますが、この巫女神楽に私の持っている桶胴太鼓を使ってこの場を霊的に浄化する能力を上乗せします」

この説明を聞いてもピンときていないのか愛子は平静に見える。
院雅さんが実際に巫女神楽を舞いながら桶胴太鼓を叩いていくと、この場に満ちていた妖気がみるみると浄化されていくのがわかる。
昨日の除霊もこれを使えば楽勝だったのじゃないかと思うのだが。
そんな思いをもっていると、愛子がうずくまっているのを何人かの生徒は気がついたようだ。
それとともに、まわりの生徒達ある程度正気に戻りつつあるのか、

「僕たちは何を…?」

「先生、ここはどこです!?」

そんな中、巫女神楽を舞いながら院雅さんが近寄ってくると愛子が白状する。

「私が妖怪です。ただ……ただちょっと青春を味わってみたくて……ごめんなさい~!? しょせん妖怪がそんなもの味わえるわけないのに…!?」

その愛子の白状とともに院雅さんが動きを止める。
そして高松が愛子にむかって、

「愛子クン、君は考え違いをしているよ」

「え…」

「君が今味わっているもの――それが青春なのさ」

涙を流しながら語るものでも無いだろうと思うのは俺がもう歳をくった証拠か?

「青春とは、夢を追い、夢に傷つき、そして終わったとき、それが夢だったと気づくもの……その涙が青春の証さ」

「高松クン」

「操られていたとはいえ、君との学園生活は楽しかったよ」

「みんな…!? みんあ私を許してくれるの……!?」

「みんなクラスメートじゃないか」

「あ…あ…ごめんなさい…!! ごめんなさい…!! 私…私…」

「先生、これでいいんですよねっ!? 僕たちは間違ってませんよね!?」

「そうよ。間違っていないわ。元の世界に戻ったらGS院雅良子とGS助手横島忠夫が愛子を保護するって伝えておいてね」

こうしてこの空間の中で就業のチャイムが鳴り響き俺たちは自分の元の教室にもどった。
そこでは愛子が、

「すみませんでした。ほかのみなさんにも元いた時代の学校に戻っていただきました」

「反省しているようだし、このまま机として、この学校においてあげられないかしら」

「……生徒にはなれなくても、せめて備品として授業を聞いていたいんですう……」

ちょっとした沈黙のあと校長と担任の先生が、

「我々はみなこーゆー生徒を夢みて教師になったんだ――っ!! なのに今日びは可愛げのないガキばっかり!!」

「妖怪でもかまわんっ!! 君は我々の生徒だ――ッ!!」

たしかに、この学校には問題児が多かったしな。俺を含めて。
それにこの学校の先生ってこういう先生が多かったよな。
外と中の時間差があるのかすでに放課後になっていたのですぐに院雅除霊事務所に向かうかと思ったが、

「それでは、請求書をおくりますのでよろしくお願いしますね。校長先生」

それはにっこりと笑みをあげている院雅さんがいた。
院雅除霊事務所に向かうタクシーの中で素直に今日の巫女神楽と桶胴太鼓による浄化能力がすごいことを伝えたが返答はそっけないもの。

「あれは妖怪の体内の中という一見広大に見えるけれど、実際の元の空間では机1つ分の空間しか無いのよ。
 だからこそあそこまで効果的だったのよ」

「それじゃ、昨日みたいなところで同じ除霊をしたら?」

「私の巫女神楽じゃ昨日のところは無理よ。効き目があるとしたら神社とか雑音が少ない田舎かしら」

「うーん。そうなんですか」

「それからあの机妖怪には捕らえられた本人たちが訴えはしていないけれど、前科になるから1年ぐらい保護観察が必要よ。
 危険はなさそうだから当面横島君が面倒みなさいよ。横島君が言わなければあの場で除霊するつもりだったのだから」

愛子の中へ入る前に、

「この机の妖怪は危険じゃない感じですよ。何かあったら俺がなんとかします」

なんてことをそう言えば軽く口走っていたな。

「きちんとした保護観察を行えるのはGS助手ではなくてGS免許(仮)を持つGS見習いからだから、今度の初夏のGS試験がんばってね。
 それじゃなきゃ私も学校なんてよってられないし、あの机妖怪の気がかわったとかでてきたら問題になるから、きちんとした保護はできないわよ」

この横島君ってこういう特殊な除霊にも馴れているわね。
さてどうしようかしら、結構楽しみね。



GS試験は来年受けるつもりだったのにあっさりと俺の予定はくつがえされた。
GS試験を受けるためにはGSの下で修行する必要は必ずしも無いのだが弱みをつくってしまったな。
俺は愛子を見捨てるつもりはない。
このまま年に2回あるうちの初夏のGS試験をうけないといけないのか。

ちなみに俺は、結界として愛子を囲っていたサイキックソーサーの陣についても質問された。
これも一応は菅原道真公のせいにしておいたけど、その時は納得していたようだったな。

サイキックソーサーは通常六角形だが、それは通常その形が一番なりやすいからだ。それをコントロールして五角形にする。
あとは五箇所に並べれば、簡易的な結界陣を作成できる。
ただしやりすぎたことがあった。
各サイキックソーサーの色を微妙に変化させたことだ。

これは、陰陽五行の五色の竜にかかわる。
土行である黄竜の黄色、金行である白竜の白色、水行である黒竜の黒色、木行である青竜の青色、火行である赤竜の赤色。
元々は地上に現れることができる上級魔族対策としての文珠での結界陣を検討していた。
ある程度の範囲なら、訓練によって自分の霊波調を変化させられることもわかった。
もともとは、対アシュタロス戦での同期合体のアイディアからのパクリだな。
霊波のコントロールはこの身体では完全では無いが、今は序々にならしていっている。
これが完全になれば一般的な除霊は問題ないはずだが、令子と一緒だとたまに1日7,8件とかあったからな。

院雅除霊事務所では、契約内容は特に不満もなかった。
それにエンゲージの神様とかいうのもとりついていないようだったから素直に契約をした。
アルバイトなのでいつでもやめられるのだが、別に机妖怪の愛子の保護についての一文が例外としてのせられてしまったしな。


そしてその翌日に転入生がはいってきた。
なにやら意識が逆行してきてから毎日何かがある。
転入生の名はピエトロ・ド・ブラドー。
まあバンパイア・ハーフのピートだ。

ブラドー島の件は無いのか?
一体全体どうなっているんだ。

ピートが転入生として入ってきたが、ピアノ妖怪はあらわれなかった。
タイガーがいないからだろう。
タイガーが来たときには要注意だな。

それとピートに、

「そういえばピートって霊波が普通の人間と違うっぽいけれど何かのハーフなのかな? GSの保護対象になっているのかい?」

「普通GSの方でも気がつきづらいのにわかってしまいましたか。僕はバンパイア・ハーフなのでGSの保護対象にならなくても大丈夫なんですよ」

うん。招待をしっているだけだからな。

「バンパイア・ハーフなら軽くみても100歳は超えているだろうに、なんで今さら高校なんかにきているんだ?」

「ICPO超常犯罪科で働きたいと思っているんですが、高校卒である必要があるので……」

「ふーん。そうすると、わざわざ日本にきているってことは誰かGSに師事もしているのかなー」

「ええ。唐巣GSのところにごやっかいになっています」

「あの唐巣神父のところか。できたら、GSのトップクラスである唐巣神父の持っている書物を読ませてもらえないか聞いてみてくれないかな」

「それぐらいなら、唐巣神父も良いと言ってくれると思いますよ」

「じゃあ、善は急げということで今日寄らせてもらってもいいかな?」

「今日ならいると思いますから頼んでみますよ」

「ありがとう、ピート」

ピートと話していると周りの女生徒は、

「バンパイア・ハーフだって」

「なんで横島くんと話しているの」

「ピートにだったら咬まれてみたい」

「あらためてみたらキュッとしまったおしりがステキ」

なんて言っている。
一応は唐巣神父の教会に入れるようになった。別に令子に未練があるわけじゃないぞ。
なんか色々話しているうちに吸血鬼のブラドー伯爵は前回のメンバーから俺とおキヌちゃんがいない状態で行ったらしい。
俺ってあのときは手伝いどころか仲間の足をひっぱていたからな。

そして、この世界で大きな違いはアシュ財団という存在だ。
アシュって、アシュタロスの省略ともとれるし、芦財閥とはまた違うしな。
この財団は、魔族を保護する財団として存在していることだ。
彼らにも独特の独特のルールがあり、襲われたとしても絶対に魔族に手伝わせないことらしい。
ただし、一緒に存在するというよりは、魔界にもどってもらうというのが主な目的なようだ。
そういう意味では普通のカルト集団とは異なるらしい。


さて、唐巣神父の教会で一番の目的はここに残っている蔵書だ。
令子が最初に独立したときの事務所や唐巣神父の教会はそれぞれ壊れたが、そのとき無くなった蔵書に貴重品が大量にあるときいていた。
月曜から木曜は、唐巣神父の教会で蔵書を読み漁りにきているのさ。

あとは、いつも本を読んでいるわけでもなく、ボーっと令子たちの訓練を見学していることもある。
令子とはつかずはなれずで今のところはいる。
と言いたいが、煩悩を制御できずにあたってくだけている。
そうはいっても今は他のGSの助手だからか多少は手加減されているような気はするが、霊体を鍛えるのに本当にいいんだよな。
けっしてMじゃないぞ。

ひのめちゃんは同じ高校1年生で、六道女学院に入学しているのまではわかっているが、令子よりひのめちゃんが可愛らしいな。
彼女らは母親の話にふれていないので隠れているのであろうか?
ひのめちゃんは発火能力者らしいが、それを嫌っている気配がする。
典型的な現代的なスタイルである神通棍や、破魔札などで除霊をしたいらしいな。
破魔札はうまくつかえるみたいだが一枚あたりは高いから、唐巣神父のところでは50円の破魔札で練習しているようだ。
破魔札を使うということは接近戦が必要なのだが、運動音痴とはいわないが平均的な高校一年生ぐらいの動きにしか見えない。
せめて六道女学院霊能科高校1年生並みぐらいの動きはほしいところだろう。
彼女もそれがわかっているのか、俺が最初にサイキックソーサーをだした時はうらやましげにみてたのであろうな。
体外の霊力操作ということで10歳のひのめちゃんに教えていたことを、こちらのひのめちゃんにちょっとばかりアドバイスをしてみたら吸収力が早い。
しかし、令子が横島クンから教えられた技なんて不要とばかりに禁止されちゃったけどな。

それと、こっちの令子とひのめちゃんは同じ魂のように霊波がよくにているな。
霊波は必ずしも一定じゃないから、10歳と15歳で変わることはあるが、ここまで似るとは思わなかった。


金曜日の夕刻から日曜の夜までは、院雅除霊事務所に行っている。
これは彼女がアイテムを自作してそれを販売しているので、無理をして稼ぐ必要が無いのも大きいのだろう。
院雅さんは暇さえあれば、結界札を作成している。
神社の娘で、そのために神道系のGSにすすんだそうだ。
しかし攻撃系の札は作成することができないので、購入するそうだが梓弓の矢は自作だそうだ。
実家の神社の神木の剪定(せんてい)で、でたあまりから矢は作るそうだ。

男の影は感じない。
まあ、あまり家庭的な女性とは感じないしな。
事務所では店屋物とか外食ばかりだし。

仕事量は金土日の3日間で2~4件程度だ。
週の1件が俺用に用意された仕事のようで、院雅さんが後ろからついてきて俺の除霊の仕方を見ている。
何かミスがあったら指摘されるが、今のところは少しずつ霊能力が開花しているように見せているので、

「いきなり、そんなのを実戦で試すな!!」

と叱られるぐらいだろうか。
残りは彼女のGS助手として、結界札で彼女の前衛として彼女をまもっている。
机妖怪の愛子を保護しているということで少しレベルの高い仕事もきているようだが、そういうのは断っている。
だいたい受ける仕事は霊力レベルCからレベルDのもので、新人GSより少し上ぐらいものが中心のようだ。
安全確実だけど、少しスリルを味わいたいといったところなのだろうか。


今はここで仕事をすることによって霊能力と身体の動きをならしているところだ。
ほぼイメージと身体の動きが一致しはじめてきている。

今度の初夏のGS試験はメドーサも関係しないだろうし、運が悪くなければ無事に試験を通過してGS免許(仮)を取得できるだろうと思っていたんだよな。
GS試験前日まではだけどね。


*****
横島が私立なのは『4巻リポート9教室漂流』に書かれているのと、私立なので愛子とかピートのことも色々と融通がきくのでしょう。
愛子の事件って、やっぱりどっかに残っていても不思議ではないので、このあたりはオリ設定です。

2011.03.22:初出



[26632] リポート3 誰が為に鐘は鳴る(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/28 20:40
今度の初夏のGS試験はメドーサも関係しないだろうし、運が悪くなければ無事通過してGS免許(仮)を取得できるだろうと思っていた。
GS試験前日まではだけどね。


いつものように唐巣神父の教会で蔵書を読みふけっていると、妙だがなぜか懐かしい感じの霊波を感じてくる。
書庫からでていくと、そこには小竜姫さまがいた。

「俺は横島。あいかわらずお美しい。ずっと前から愛していました」

「私に無礼を働くと……仏罰が下りますので注意してくださいねっ」

そう言いつつ神剣をふるってくる。
すっかり忘れていた。
手をにぎるぐらいはいつものスキンシップ程度だと思っていたのだが、最初にあったころの小竜姫さまってこんな感じだったよな。
俺も余裕は無くその神剣をさけたが、髪の毛が少し飛ばされた。



ふと小竜姫が、あら、手加減していたとはいえ、私の刀をよけた。人間の中にも面白い者がいるものですね。



「横島クン、彼女は小竜姫さまと言って神様なのだよ。その、セクハラはやめてくれないかね」

唐巣神父の髪の毛も少し飛んだようだが気にしないで置こう。どうせ10年後はあれだし。

「私だけでなくて、小竜気さまにまで手を出すの」

「それって、俺への愛の告白ですか!! そうですよね!! 間違いないですね!!」

あっ、令子にまた神通棍でセッカンをうけていた。
それを無視するかのようにまわりで話はすすもうとしている。

「それで、そこの横島さんというのは、この教会の方ですか?」

「いえ、他のGSの助手です」

俺がすっかり復活して答える様子に、小竜姫さまも驚いているようだ。

「この人、本当に人間ですか?」

「ええ。多分」

そこでしっかり人間だとみとめてくださいよ。唐巣神父。

「聞かれても?」

「ええ。問題ない信用と実力はあるでしょう」

うん? 唐巣神父の前で、最初以外に霊能力をみせたことは無いはずだけどな。
たしかに令子にどつかれて、すぐに復活するところはよく見られているが。

「このピートくんと同じくらいの実力はあるようです。
 精神的なレベルを考えたらピートくんをこの席から外したほうがよいかもしれません」

そっちからもれていたか。そういえば、ピートもGS試験受けるんだよな。けれど、精神レベルを唐巣神父に心配されているのかよ。
ピートはかわいそうに蚊帳の外だ。

「これから話すことを周りに言わないと守れますか?」

何か聞かなければいけない悪い予感がする。

「聞くのはかまいませんが……俺の所属している除霊事務所の所長に許可をとらせてもらってもよいですか?」

小竜姫さまが唐巣神父に目配せをしている。小竜姫さまにこんな芸当もできるんだ。

「机妖怪の愛子クンだったかな。それを保護している人物ですから、詳細さえ伝わらないようにすれば問題ないでしょう」

「じゃあ、電話をかけさせてもらいますね」

院雅除霊事務所に電話をかけると、院雅さんがでてきたので、

「妙神山の小竜姫さまと言う神様が、唐巣神父のところに来ていましてこれから話をすることを周りに言わないと守れるかっていってくるんですよ。
 どうしましょうか?」

「あら。妙神山の神様に恩を売れるなんてなかなか無いことよ。
 私に詳細を伝えてとは言わないけれど、事が終わったらあらすじでも教えてもらえるかしら」

返事は即答でした。
院雅さんも即物的だな。
まあ、ぶっちゃけ一部をふせて小竜姫さまに伝えたが、

「そうですね。事後ならそれぐらいは問題ないでしょう」

「へーい」

小竜姫さまが話を始める。

「唐巣さんにGS資格試験へもぐりこんでほしいのです」

「えっ? もぐりこむ!?」

「魔族の動きがつかめたのですよ。狙いは、どうやらGS業界をコントロールすることらしいんです」

「魔族といっても、どの魔族かはっきりしないのですが、GSと魔族が裏で手を組んだらどう?」

「マフィアと警察が手を組むようなものですよね」

「情報では、とりあえず息のかかった人間に資格をとらせるようです。でもそれが誰なのかはわかりません」

うーん。やっぱりメドーサなのかな。
魔族や親族って寿命が長い分、長期計画をたてるよな。
ただ、以前より1年早いんだよな。

「唐巣さんには、受験生の中に怪しい人物がいないか見定めてもらいます」

「美神令子さんは外部の調査を、美神ひのめさんと横島さんは実際に戦いながら可能な限り上位に入ってください」

「そうよ。多分優秀な奴の中に魔族と手を組むものがいるはずですわ」

何か神様が話しをもってきたから、今回の魔族が悪い相手だときめつけているような気がする。

「えーと、その魔族の動きというのですが、その魔族は具体的に人間に対して何か悪いことをしそうなタイプだという情報でもあるのですか?」

唐巣神父が気がついたのか、フォローを入れてくれる。

「小竜姫さま。現在の人界では、現在進行中の具体的害ありと認める霊的存在に対して攻撃を行うのですよ。
 なので、その魔族が人界に対して害をもたらすという証拠がないと、たとえ、魔族の手下となっていたとしても単純には手がだせないのです」

ピシッ と小竜姫さまが固まってしまった。小竜姫さまが復活すると唐巣神父が、

「なので、単純に魔族と手を結んでいるからとGS試験を不合格にさせるというのは難しいですね」

「もう少し、その情報をあつめないと難しそうですね」

「ええ。その通りです」

その話を聞きながら俺は、前回は心眼を授かったが、今回はそういうわけでもない。
条件をだしてみるか。

「相手が人界に対して害をもたらす魔族の息がかかったもので、優秀というならば何か武器になるようなものはいただけないでしょうか?」

「えっ?」

小竜姫さまが呆けたようにこたえる。
これは、何も準備していなかったな。
バンダナにかわるものも今はもっていないし無理か。

「無理なら気にしないでください。なんとかします。」

「わたしも全力をつくします」

へえ、ひのめちゃんが積極的だ。



小竜姫さまは唐巣神父の教会の帰り道「私って役立たずなのかしら」っと、どこかの神族の調査官が言いそうな言葉をそっとつむいでいた。



翌日のある都内のホテルでの一室。

「いよいよですね。私の愛弟子たちが一人でも多く合格すること祈っていますよ」

「ご心配なく。行ってまいります……! メドーサさま」

「気が向いたら応援に行くかもしれまっせん。――昔なじみにあいさつもしたいのでね…!」

一人の男がでていったあと、

「さて、この茶番につきあってもらえるかしらね……小竜姫」



入り口には『ゴーストスイーパー資格取得試験 一次試験会場』と大きくはられている。
今年の受験者予定数は1852名で合格枠は32名で、1次審査の霊力で128名まで、まずは絞られる。
そんな会場にきていたが普段は朝に弱い院雅さんがなぜかついてきていた。

「1次審査からくるって、なんか院雅さんらしくないんですけど」

「横島君。普段どのような目で私をみているのかしら」

口は災いの元。覆水盆に返らず。

「いえいえ、これはもう俺を愛しているとしか――」

「そんなわけないでしょう」

簡単に一蹴されてしまう。
美人だし中々色気もある。ただし隙があるような無いような感じなのだけど、何かしようとしてもさらりとかわされてしまう。
令子とのスキンシップだけじゃものたりない。
ただいま、煩悩絶賛たまりまくりだ。


俺は普段の通りにジージャンとジーパンできている。
院雅さんは除霊ならば巫女姿だがそうでなければ大概はスーツを着ている。

「本物の神様というのは見たことがなくてね。見れるときにみておこうかなって思ってよ」

ちょっと言いわけがましいが、いくら神様が出歩いているといっても、普段は見分けが中々つかないしな。
ヒャクメみたいに目立つ神様もいるのだが、コスプレだと思ってそれでおわりかも知れない。


ひのめちゃんは今回六道女学院から唯一出場する生徒らしい。
あのそばにいるのは六道夫人か?

GSの3割は六道女学院の卒業生だが、実際にGS試験にでてくるのが多いのは高校三年生の初冬になってからの試験にでるのが多いらしい。
その次に多いのは卒業後らしいが、だいたい霊的成長期が終わることが多い20歳までには諦めるように指導しているらしい。
六道女学院に在学しているうちに初夏のGS試験にでてくるのはよっぽどの実力者ということだ。
たしかにピートの能力には見劣りするが、それって札をつかっているときだけだからな。
こうやってみるとやはりひのめちゃんは、少なくとも六道女学院ではトップクラスなんだな。


そう思っていたら、いきなりピートにだきつかれた。
院雅さんが少々引き気味だ。
そういえば初めて顔をあわせるんだっけ?

「少しは離れろ、ピート。俺の築いてきたさわやかなイメージが台無しだろう」

「何言っているのよ」

つっこんできたのは令子だった。

「いえ、故郷の期待背負っているのでプレッシャーが。それに横島さんならセクハラの汚名はつかないし」

こいつ計算づくか。しかし、

「まわりの声をきけよ。ピート」

ちょっと離れたところで女性からは、

「何? 彼氏じゃない? 美形ってホラ、そのケが…」

それを聞いて俺は、

「俺にそのケはないぞ。ピート」

ピートがちょっと青ざめて離れていったが自業自得だな。
まあ、ピートは2試合ぐらいならなんとでもなるだろう。
3試合目以降はあの恥ずかしい親父、ブラドー伯爵のことをふっきれれるかどうかだろうな。
なんとなく覚えている以前の記憶を頼りにそう結論づける。
それはそうとして、

「俺の所属している除霊事務所所長の院雅良子さんです」

院雅さんが挨拶のかわりに会釈をしおわったところで、

「こちらの方が唐巣神父です。院雅さん」

「私の助手がしょっちゅうお邪魔しているようで」

「いえいえ、彼がいるとなかなかにぎやかになりましてね」

それって俺と令子のドタバタのことを言っているのか。
それはともかく、

「唐巣神父。準備はしなくていいのですか?」

このあと、試験を受けるのなら変装する時間が必要だろう。

「いや、あまりに情報不足でね。多分、2試合は通過されてしまうだろう。それぐらいなら後処理の方でね」

この件について話はしていないので、院雅さんはビジネスライクに聞き流しているが多少は興味深げそうだ。

「それに前途ある若者の邪魔になるかもしれないからね」

なんとなく、唐巣神父らしい考え方だ。

「小竜姫さまには?」

「小竜姫さまもわかってくださったよ」

髪の毛が風にのって飛んでいったのは見なかったことに。

「そろそろ、君たち受験生は会場に向かったほうがよいのじゃないかな」

「うっす」

ピートと一緒に向かう途中ひのめちゃんとも一緒になった。

「ひのめちゃんと一緒にいた人って、もしかして六道女学院の理事長?」

「よくわかりましたね。そうですよ。GS受験の時に受験生がいるといつもついてくるんだそうです」

そうだったかな?
GS試験会場あたりに近寄らなかったし、近寄ったのっておキヌちゃんがGS試験を受けたときだけ。
おキヌちゃんは唐巣神父がGS協会会長になってからの改革で特別推薦枠で入れるようになってからだもんな。
そういえばタイガーも同じだったか。
まあ、あの人のことは気にしても仕方が無い。
それよりも冥子ちゃんがぷっつんした時に、十二神将をおさえてもらいたいな。

1次試験会場に向かってみると前回は気にするほどの余裕もなかったが女性の割合は多い。
確かに純粋な霊能力だけなら女性の方が霊力が強くなる傾向にあるって以前、令子が言ってたしな。
1次試験の霊力審査は番号札が9番。
これって今回の試験は苦しむってことか。
そんなのは迷信だろうがGS界ってこういうところで縁起担ぎするのもいるからな。

霊力の審査は周りの様子をみながら適当に上げていく。
ここで一生懸命霊力をだして、ばててもしかたがないからな。
無事に審査を通ったが、まあここまでは特に心配することも無いだろう。
ひのめちゃんもピートも無事に通過している。
それよりも驚いたのは院雅さんが、

「お弁当作ってきたから一緒に食べない?」

「おともさせていただきます」

条件反射で言ってしまった。
昼は2次会場までの間の適当な店で昼食をとろうと思っていたから、気分的にはラッキーだ。
ちょっと大きめなかばんをもっていると思ったら、桶胴太鼓じゃなくてお弁当か。
院雅さんの食事って始めて食べるが、おにぎりと玉子焼きとかミニトマトにから揚げとかと、ちょっとしたピクニック気分のお弁当だ。

「うん。美味しいっす」

「無理してほめなくても良いのよ」

「いや、味加減が絶妙にバランスとれていてとってもおいしいですよ。もしかして院雅さんって関西方面の出身ですか?」

「あら。よくわかったわね」

「関東にきてからこの味は自宅以外で食べた覚えは無いけれど、大阪に住んでいたときには外食でもこの味に近かったですからね」

「横島君って、大阪出身だったわね」

「ええ。それに母が大阪出身ですから」

「ふーん。そうなの。ところで緊張しているようにみえないけれど、この調子なら今日は大丈夫そうね」

「えっ?」

「やっぱり助手の調子ぐらいは知っておきたいのよね」

「うー、そうですか」

今の肉体年齢よりも10年以上は長生きしているつもりだが、やはり女性にはかなわないか。



黒地に白龍の刺繍を胸につけた道着をつけた二人。

「どう、雪之丞? あたしたちの敵になりそうなのはいた?」

「まあな。女とバンパイアハーフ。あと実力を隠していそうなので、男が一人と女三人だな」

「思ったよりレベルが高いわね」

「だが、いずれにせよ主席合格は俺たち白龍会がいただく!」

「女性には興味はないけれど、その実力を隠している男っていうのに興味があるわね」

「ゴーストスイーパーのエース! おいしい…! おいしすぎるぜっ!!」

「ほっぺにごはんつぶついているわよ、雪之丞」

話がかみあっていそうで、かみあっていない二人だった。


*****
ここの小竜姫さまは、今はちょっとなさけないかもしれません。
原作でGS試験を受けたのは初夏らしいので、5月下旬ということにしています。

2011.03.23:初出



[26632] リポート4 誰が為に鐘は鳴る(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/28 20:41
GS試験初日の夜。
唐巣神父の教会で慰められている少年が一人。
それは金髪の美形でなく青いジージャンとジーパン姿の横島。

「今日のことは気にすること無いですよ」

「この横島、一生の不覚なんだ。ひのめちゃん」

「そこまで落ち込むこともないですよ」

「ピート。自分がそうじゃなかったからって、そんなこと言えるんや」


ほったんは二次試験第一試合4番コート。
相手はオーソドックスな、大陸の導師風の格好をしたソロバンを武器にしてた奴だった。
試合開始の合図とともに、その場でソロバンを使って占いを始めやがった。
普通、対戦前にやっておくものだろう。
思わずあっけにとられてしまって隙ができていたというか、ほおけていたんだな。

「計算完了――!! 私の計算では君は2分40秒で敗北するッ!! 私の計算は完璧ィィィ――ッ!!」

そんな声にハッと我に返ったら相手が目の前に来ていたので、思わずカウンター気味だが霊力はほとんどこもっていなかったパンチを見舞っていた。
そこまではいい。
こんな霊力のこもってもいないパンチにも打たれ弱いのか、こちらに倒れかかってきたので男を支える趣味なんかない俺はさけようとした。
ところが足元に相手が先に落としたらしいソロバンがあって、それにひっかかって倒れてしまったところに相手が倒れこんできて……

思い出したくねぇぇ。
文珠があれば『忘』の文字でも入れるて記憶を消したいところだ。

「そんな、たまたま、男同士で、口を合わせただけじゃないですか」

なんか、そういうのを逆にうれしそうに話しているような気がするぞ。
ひのめちゃん。俺にうらみでもあるのか。手はだしていないはずだぞ!!

「そんなわけで口直しに令子、お願いします――ッ!!」

「何回言っても呼び捨てか――!!」

服はきたままだが、ル○ンダイブを令子にかましたらいつものように撃沈された。
それでも不憫に思ったのか、普段よりは霊力がこもっていなかったな。当社比0.92倍だけど。



他方、その横島の試合を見ていた男たちの中で、

「あら、うらやましい。私もあの手をつかおうかしら」

「それはやめておけ、勘九郎。変態GSっていうことで、依頼人がこなくなる」

「雪之丞のいけずぅ」

「お前といっしょにいるのが嫌になってくる」

「そんな友だちがいの無いこと言わないのよ」

そんなやりとりがあったとか、なかったとか。



そんなわけで俺は試合の後に、院雅さんからのひとことは、

「ご愁傷様」

と言われて所長に逃げられるし、落ち込みっぱなしで怪しい選手を探すどころか次の相手の試合も見ていなかった。
それでこの唐巣神父の教会でのやりとりにもまともに参加していない。
令子にぼこられて逆にようやく精神的にも復活したところで、

「ほう、ニキ家からひさびさにGS試験にでてくるんですね。
 もしかしたら魔族がGS業界をコントロールすることらしいという情報はこの動きのせいかもしれませんね」

「ニキ家って懐かしい名前ですね。」

「ニキ家って何ですか?」

以前には聞いたことの無い情報だ。

「漢数字の二と、鬼と書いて二の鬼で、二鬼(ニキ)と呼ぶのだよ。二鬼家では鬼を扱うので、現代では魔族として分類されて情報が流れたのかもしれないね」

「式神もベースが鬼であることがありますよね? 二鬼家は違うのですか?」

「式神の鬼と二鬼家の鬼の大きな違いは、調伏させて使役するのが式神で、調伏もしないで自己の霊力だけや契約でコントロールするのが二鬼家の鬼だね」

「それなら、フラウロスも一緒のようなものじゃありませんか?」

「西洋の悪魔に対抗する人間に仕える悪魔フラウロスのことだね」

「ええ、たしか、そうでしたよね」

「どちらかというと、二鬼家の鬼は前鬼や後鬼に近いね。ただ、鬼との関係が式神というよりは悪魔使いに近いというところが大きな違いだけどね」

ふえー。魔装術よりリスクが高そうな気がする。

「だから、二鬼家は平安時代からつらなっている名門と呼ばれているが、GSや昔なら陰陽師になっている人数は極端に少ないよ」

平安時代か。何か細かい違いがあったせいで、現代では二鬼家の扱いが前にいた世界とこの世界では違うんだろうな。
前の世界か。ここまできたらいくら考えても無事に戻る手段は無いのだろうしな。
それよりもまだ見果てぬ美人を追い求めているほうが俺らしいさ。

「ところでその二鬼家の人って女性ですか? しかも美人とか」

「横島さんはそんなことばっかりですね」

小竜姫さまにあきられてしまったが、他のメンバーはまたかという感じだ。

今日の段階ではこれが最後の方の話だったので、結局はおとなしく帰ったが昼の試合のことを思い浮かべると眠れなかったことしかり。
このGSという仕事に徹夜はつきものだが、この身体はそこまでなれていない。
つまり翌日は、

「ああ太陽が黄色い。何もしていないのに……」

徹夜明けみたいなものなので、ちょっと気分ハイになっているかもしれない。
会場についたら意外と試合までの時間が少なくて院雅さんから、

「昨日のことで、てっきりGS試験に出るのをあきらめるかしらと思ったら」

「……さすがに、そこまでは」

血の涙を流しながら答えていたかもしれないな。

「ああ、いいから受付にいってらっしゃい。今度の対戦相手は女性よ」

「そっ、それをはやく言ってください!!」

入れ替わり防止のための本日の受付を通過して、さっそく二次試験第二試合の2番コートに入ることになった。
2番コートに入ると丁寧に挨拶をしてくる。

「ワン・スーミン、18歳です。お手やわらかにお願いしますわ。うふっ」

やっぱ、これっすよ。中国美人がなんか「ドキドキしてますわ」とか言ってまっている。
審判から、

「試合開始!!」

「横島いきま――す」

おもわずとびかかったら、神通三節棍でなぐりつけてきやがったのでサイキックソーサーで避けたけど、

「あぶないじゃないか」

「あら、これは死合ですわ」

「字が違~う」

「わたし、こういうふうに日本語をおそわったんですけど……」

「どこのバトルジャンキーにならったんだ――ッ!! そんな難しい武器なんかあつかわないで、組んずほぐれつお願いしま――す!!」

「皆様の目の前で行う趣味はありませんわ」

そりゃあそうだが、昨日のせいでちょっとばかり煩悩パワーが足りない気がする。
仕方が無いので、サイキックソーサーからの変形であるサイキック棍を作り出す。
名前にひねりが無いって。ほっとけ。

「あら、あなたも棍術を扱われますの?」

「我流だけどな」

老師の毛の分身である身外身の術でいじめられてばかりだったけどな。ルルルルルル~~
ワン・スーミンも中国武術の本家としては負るわけにはいけないのだろう。
相手の霊力が増していくのがわかる。
油断してもらった方がいいんだけどな。
だしてしまったものは仕方が無い。
栄光の手の系列である霊波刀だと、相手を本当に斬ってしまうからな。



我流なんていってたけど、かなりできそうね。
三節棍より、普通の神通棍の方がよかったかしら。
武器はひとつしか持ち込めない、この大会のルールがあるから相手が慣れていない武器でと思ったのが間違いのもとかしら。



「ねぇーちゃん、こないならギブアップしないかい?」

「あら。女性から誘うだなんて、はしたないと思いませんか? あなたこそどうなのかしら」

「貴女みたいなきれいな人に声をかけられたら、ほいほいついていきますよ」

ちっ! 相手の動きになれる必要があるから簡単に身動きできないのにな。
まあ、そうはいってもお見合いをしててもしかたがないから、美神流の戦いでいってみるか。

試合相手のワン・スーミンのチャイナドレス風の霊衣からの足が見えて、なんとなくチラリズムを感じさせてくれる。
神通三節棍をもっていなければ組んずほぐれつっといって、煩悩エネルギーをためておきたいところだが次の試合のためにも美神流で短時間で終わらせるたい。


「女性に優先権をと思っていたのですが、誘ってくれないので行きますね」

「おわかりね。そのほうが私もうれしいわ」


カウンター系か、何か特殊能力があるんか。
様子見で、サイキック棍を数回ばかり突きだす。
突きはその先より内側に入られさえしなければ、一対一ではもっと効率の良い対人方法のはずだが、しっかりと避けたりさばかれたりしているな。
こちらもわざと飛び込みこまれやすいように、隙をつくって誘っているのに。

「受けているだけだと、体力と、霊力がもたないんじゃないですか?」

こっちは、あいてのドレスの脇から見える足の上を想像しながら戦っているで、体力はともかく霊力はいっこうに落ちない。

「みぞおちをガードしないで、隙を見せているつもりなんでしょうけど、私そんなお安い女ではないですわ」

あら、お見通しってわけね。
通常の武術は、どうも相手の方が上手のようだ。
未来での知識があるから作戦等もたてられないことは無いが、1ヶ月ちょっとでは肉体の強化までにはいたっていないからな。

「それじゃ、こんな手はどうですかね」

サイキック棍を突きだしたあと、突きの引き際でそのまま一旦さがると見せかけてサイキック棍を投げつける。
そしてつっこんでいき、もう一本のサイキック棍を作りだして突くが受け止められた。

「あら、器用ですわ」

「普通の武術家なら、武器を手放すと思わないからひっかかると思ったんだけどね」

「そうね。さっきのが神通棍なら虚をつかれたかもしれないけれど、貴方のは貴方自身でつくった棍ですから予測はついていましたわ」

「次回のための参考にさせてもらいますよ」

「次回が貴方にあった……」

この話はここで途切れた。
最初に投げたサイキック棍が、彼女の後頭部にぶつかったためだ。
サイキックソーサーと同じく、サイキック棍も遠隔操作が可能だ。
もどってくるための時間と、相手の注意をひきつけておくために話していたのだがね。
俺は手に持っていた方のサイキック棍の霊力を体内にもどしながら移動して、倒れこむワン・スーミンの身体を支える。
彼女から霊力の出力がなくなっているのと、内部に練り上げていた霊力が霧散しているのも確認している。

胸のあたりに手のひらがあったりとか、なんか指先が動いているように見えるのは気のせいだぞ。
そんなところへ無粋なことに、

「勝者、横島!!」

審判がワン・スーミンの様子を確認して声をかけられる。
救護班がすぐによばれて霊的治療のためにひきはなされた。

こんなんばっかりや。

「横島選手ゴーストスイーパー資格取得――っ!!」

一部の外野からは「ずるーっぃ」とかいう声が聞こえていたが、霊力はともかく体術や棍術は相手の方が上だったしな。
それにもっと嫌なのはこの試合をみていたのが雪之丞ではなくて、なぜか勘九郎だったことだ。

お尻をおさえて逃げ出したくなる衝動を抑えながら戦っていたのだが、俺の戦い方はサイキック棍のみだと思ってくれると良いんだけどな。


対戦相手のワン・スーミンを倒したあとに試合場からおりていくと院雅さんが、

「GS取得おめでとう。あまりうれしそうじゃないのね」

「いえいえ、うれしいですよ」

本当なら来年取得したかったのだが、今年でよかったのかもしれない。
勘九郎がいるということはメドーサとつながっている可能性が高いということだ。
アシュタロスがGS協会の上層部に子飼いのGSを送り込もうとしているのも、いつの時代から平安時代にきたのかはっきりしなかったからなのだろう。
GS協会上層部から情報が入れば、時間移動能力者である令子の情報も手に入れられるかもしれないしってとこか。

「これからは、愛子の面倒はしっかり見るのよ」

「あっ!」

「あら? 愛子のためにGS資格とったんじゃないの?」

意味深にきいてくる感じだが、

「いえ、うれしくてそっちまで頭がまわっていませんでした。気分を落ち着けるのにちょっとトイレへ」



横島がトイレに向かう方向を見つめていた院雅だが「横島君もよくわからない子ね」と呟いていた。
机妖怪の愛子を助けるのが目的だとばっかりだと思っていたのに、今回のGS試験で神様からも何か依頼をうけているようだしね。
しかも彼の霊的能力の発達は異常な速度ね。
本人は隠しているつもりらしいけれど、すでに私より強いみたいだし知識面では偏っているけれど除霊方式が異なるのだから教えられることも無いしね。
あの女好きで妖怪でもかまわないという考えっぽいのに、愛子のことを忘れていた様子ね。
単純な女の色気でなんとかできると考えていたのは無理かもね。
そうすると私の手にはあまるかしら……


*****
対戦相手はオリキャラが多くなっています。

2011.03.24:初出



[26632] リポート5 誰が為に鐘は鳴る(その3)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/28 20:41
トイレの目の前で待つこと十数分。

勘九郎と陰念(インネン)がこねぇ。
こっちのトイレでよかったはずだけどな。
ここで待っていても仕方がないから、GS試験で受かったメンバーを見てみるか。

対戦表のところに来たところで、今日の試合にはカオスがきていたのに負けている。
カオスの対戦相手は二鬼陰念。しかも次の対戦相手は俺だ。
俺の記憶に残っている魔装術をつかえこなせていなかった奴と、名門であるという二鬼家が直結しない。
それと特に警察がきていた様子も無いし、この試合どうだったか誰に聞いてみようか?

対戦表を他にもみていると、ひのめちゃんとピートは勝ちあがっている。
ピートは昨日の試合で、一皮向けたらしくバンパイアとしての能力を使うことも覚えたらしいからな。
勝ち上がっていて欲しくなかったが、勘九郎と雪之丞もいる。

さらに見ていた中で気にかかるのが、偶然にしてはできすぎだが……芦を苗字とした3名がいる。
芦財閥は無いと思ったが、この世界ではあるのか?
芦財閥ではないとしたら違うのかもしれないが、3人の女性らしき名前が鳥子、八洋、火多流で、特に最後の火多流がルシオラのベースであるホタルとも読み取れる。
そうすると鳥子が蝶をベースにしたパピリオ、八洋は逆よみになるが妖蜂をベースにしたぺスパなのか?
試合を見るか会ってみないとわからないか。

自分の中では整理をつけていたつもりで今の俺は未来の意識や知識を持っているが、自身の身体は高校1年生のものでそれにともない煩悩にひっぱられる傾向が強い。
こういう形でもし俺の知っている、いや、違うはずなのだがルシオラだと感じてしまって敵対したらどうなるだろうか。
俺は新しい悩みをもったことにより、カオスの対戦状況やその相手の二鬼陰念の勝負内容をききに行くのを忘れていた。



まだ試合にでるのは32人残っているのと、全員がすでに会場へ顔をだしているのかは不明のために誰が芦の三姉妹かはわからない。
第5コートで芦八洋が試合をするようだから、そちらを気にかけておくか。
俺はこのあと必ず第1コートなので、対戦表からどこに誰がというのはわかるが、まず気にかかるのは同じ開始時間で試験のある芦八洋だ。
ひのめちゃんとピートや雪之丞の試合も覚えていたらついでにみておこう。

第1コートで対戦相手を待ちながら第5コートを見ていると、二人の女性が対戦するようだが両者とも外見はべスパには見えない。
霊波などはこちらとあちらの結界で詳細は不明だが、多分違うだろう。
もやもやしていた気分が晴れてくる。
さて、そうしたら現金なもので対戦相手の二鬼陰念のことが気になりだしてくる。
なぜかなかなかこないのだ。
審判が、

「二鬼選手…!? 二鬼陰念選手…!! いないのかね!?」

「遅れてすみません」

そこには高級そうなビジネススーツを着込んだ少年がいる。
その傷だらけの顔のせいか、どっかのチンピラにしかみえないな。
俺の記憶にのこっていた陰念と顔はほとんど変わっていないようだ。

他のコートではすでに試合がはじまっているようなので、審判が早速、

「試合開始!!」

その合図で俺はサイキック棍を出す。
相手は呪文を唱えているようなので、その隙にとっととド突いて終わらせようと思って近づいたら霊波砲を放ってきやがった。
昨日きいていた二鬼家の話とは行動が違うので、ちょっと予測外。
連続でくるわけではないが相手に近づこうとしたところで、霊波砲がくるのでかわすだけかわして戦術の練り直しの為に一旦後退する。
その間に呪文が完成したのだろう。
一本の角が額上部から生えている鬼が召喚されたようだ。
律儀にも自己紹介から始めてくる。

「オラは酒天鬼(シュテンニ)!! この二鬼氏に召喚された鬼族だ。 二鬼氏の霊力により召喚の儀式はなされた。オラと勝負しろ!!」

「イヤ――っ!!」

大声で答えてやる。
勝負事の好きなタイプの鬼族だな。それで最初に呼び出したときに契約の種としたのだろう。
問答無用で戦うタイプの鬼なら、まともな方法では勝負にならんわ。

「してもらわないと困るのだが」

「困るのはそっちの都合だ。俺は知らん。そっちの二鬼陰念と契約内容を確認しな」

そう言って、鬼族の酒天鬼は無視する。
こういう場なら勝負事をうけなければ、この鬼族なら大丈夫だ。
実戦だとどうしても勝負をうけさせようとするんだろうけどな。
その間にもう一体の鬼を召喚していたが、そちらはこちらのやりとりをまっていたようだ。

「僕は餓鬼(ガキ)です。何か食べ物はありませんか」

こういうタイプの餓鬼は初めてだが、

「もっと健康的に太らないとね」

こう言ってやると泣いて帰っていった。
どこに帰ったのかはわからんが俺の気にすることでもないだろう。
陰念、鬼を制御できてないじゃないか。
そう思うだけなのだが、言葉にはださないで冷たい視線だけを陰念に送っておく。

「口八丁で鬼をまるめこむとはな。俺の能力はこれだけじゃないぜ!!」

陰念の霊圧が上がっていく。


二鬼陰念の霊圧が上がっていくとともに、霊波で身体をおおっていく。
魔装術か。しかも前回と違って、霊波の物質化までにいたっている。
これなら、名門とよばれている家からGSの免許取得にでてこれるわけだ。

「あれは魔装術。失伝したと思っていたのですが、二鬼家に残っていたみたいですね」

解説の声が聞こえてくる。
知ってるからいらない解説だが普通のGSは知らないよな。

「自らの霊波を外部に直接だして、通常の人間以上の力に変える術です」

厄珍じゃない知らない解説者だが、なかなか知識はあるようだ。
あとで、名前とかの情報をきいておこう。

「そっちが魔装術でくるなら、本気をださないといけなさそうだな」

「魔装術を知っていたのか。油断ならねえな」

「しまった。知らないふりしてたら、油断してくれたかもしれない」

またも墓穴をほってしまった。
とはいっても、右手にサイキック棍で左手にサイキックソーサというスタイルに変更する。
魔装術は霊的物質化でパワーをあげたり身体速度もあげられるが、その他は知っている限り霊波砲と物質化だ。
みたり感じたりする範囲では、以前のGS試験での雪之丞くらいの強さの想定でいいか。
このレベルならサイキックソーサーで防御と、攻撃にサイキック棍で充分だろう。


「あたしたち以外にも魔装術の使い手がいたのね」


勘九郎のひとりごとなのだろうが聞こえてくるから、やめてくれ。
お尻のあたりがむずむずしてくる。


陰念からは、

「冷静に追い詰めて、楽にしてやるからな」

って物騒な言葉を聞くが、霊力ならこちらもワン・スーミンのおかげで満タンだ。
霊波砲の連続攻撃がくるが、威力は弱いし、連射速度も遅い。
誘導していこうという意図はみえるが、ほとんどの霊波砲は避けることができる。

「霊波砲より、直接打撃に来たほうがいいんじゃないのか?」

「うるせい!」

立っている場からダッシュをかけてくるが深追いはしてこない。
なら、ゆっくり時間かせぎをさせてもらいますか。
魔装術で連続して殴られると、そっちの方がつらいんだよな。今の肉体は。
霊波砲の威力も弱いといってもあたれば痛いではすまないぐらいのダメージはでそうだが、次の雪之丞戦の方がこれより大変になるのは目に見えている。
無駄な霊力は使いたくないからな。

逃げまわること10分ぐらいかな。
陰念が「残念ながらここまでか」と言って、魔装術を解く。

「ギブアップはできないからな。あとは好きにしやがれ」

「そうか」

ギブアップができないから、あとは軽くこずいて倒れて起き上がらなければTKO扱いとなる。まあ儀式みたいなものだ。
気軽に近づいて間合いに入ったところでサイキック棍をふりあげると、陰念が俺にむかって霊波砲を放つ。

ちくしょう。だまし打ちか。



なーんてね。

霊力が体内で右手に集中していたのは感じていたよ。
もっと、霊力の穏行をうまくするんだな。
それに眼がいけなかったな。何かをねらっているのが丸わかりだ。

この距離だとさすがに霊波砲は避けることができないので、サイキックソーサーで流してそらしつつ思いっきりサイキック棍でなぐりつけてやった。
悪く思うなよ。


「悪くないわね。もう少し年をかさねると私ごのみかしら」


いや、いいから、勘九郎。
俺はそばにいてもらいたくないぞ。


俺は審判から勝ちを告げられてから、ピートと雪之丞の試合を見ようと思っていたらすでに終了していた。
そこに院雅さんが、

「横島君。魔装術相手に勝つなんてすごいわね。それに鬼を相手にしないなんて思いもしなかったわ」

「相性の問題でしょう。俺には、院雅さんみたいに広域にいる怨霊の除霊はできませんから」

文珠でもあれば可能だが、俺みたいな霊能力が圧縮・凝縮系に分類されるGSには広域の怨霊退治は怨霊の霊力レベルが低くても難しい。



この子は自分の価値をわかっているのかしらね。
言葉のやりとりだけで、鬼をしりぞけるなんて普通はできないわよ。
言葉に霊力はのせていたみたいだから説得力があったのかしら。
自身とは違う音での霊力の、のせかたの再発見につながっている院雅だが、

「そういえば、今日も昼食は一緒にどうかしら」

「ええ、よろこんで。っといいたいところなんですが、ちょっとピートとか唐巣神父とも話があるので……それと一応次の試合相手をみていたいですから」

「そうね。それも肝心だわ」

院雅さんは俺の試合の時これるというか、GS試験の受験者とGS協会関係者以外で試験会場に直接入れるのは限られている。
GS試験受験者が対戦しているときだけ、会場におりてこれるルールにしたがっているまでだ。

「そういえば、ピートってどうなったか知っていますか?」

「あの金髪のバンパイアハーフ? だったかしら」

「ええ、そうです」

「相手がやはり魔装術の使い手で負けたわよ。貴方の相手みたいに中途に動くのではなくて、ジャンプなどの移動能力もあったわね」

やはり次は雪之丞か。
俺のコートと雪之丞のコートの中間の壁際に勘九郎がいたから、以前みたいにそちらで何かしたのだろう。

そういえば、メドーサって前回は観客席にいたはずだよな。
そうやって、霊圧をさぐってみると、小竜姫さまの霊圧を感じる。
そちらをみると、メドーサと並んで立っている。
ものすごく緊張感がただよっている。危ない場所はさけておこう。
そう『地球の歩き方』にも書いてあった気がするもんな。



その危ない場所では

「おや小竜姫、ひさしぶりだね」

「ちゅうりゅ……メドーサ!?」

「あら、中竜姫とよんでくれないのかい?」

「竜族危険人物全国指名手配中のお前には、その名を使う資格はありません」

「そんなことはどうでもいいけれど、私は試合の見物に来ただけなんだから、怖がることなくてよ」

「お前がGSに手下を送りこもうとしているのはわかっているのよ! 白龍会に手をだしたわね」

「白龍会? 何のことかしら」

「お前を斬るのに証拠など必要ありません……!!」

「くっくっくっ……ここでやるなら相手になるわよ。 ただし何人死ぬかしらね?」

「ぐ……!!」

「しかも、現在私は人間の間では追われる身では無いのよ。神族から魔族ということで襲われたの。
 正当防衛で人間を盾にしたとを主張したら、神族の方が殺人をおこしたことになるさ」

「メ…メドーサ……!?」

「私はよくても、あんたは、いや神族全体が困るわよねー!? 私を目の前にしてもお前には何も出来ないのよ――!!」

とか会話があったらしい。
まあ、危険地帯が広がるのも、時間の問題なのかもしれない。



今現在気にかかっているのは、芦鳥子と芦火多流の試合だ。
別な意味で勘九郎の試合も気にかかるが、魔装術を魔物的な方向できわめているのなら結果は火をみるより明らかだからな。
それにちかよりたくないしな。

芦火多流という名の少女だが、見た目がまるで違う。
霊波とかは当時の俺では感じることはできなかったから自信は無いが、特に胸がCカップあるなんて……完全にルシオラじゃないと俺の霊感がいう。
けど胸があるルシオラもって、おほん。

芦鳥子も美少女だがパピリオの面影もないし、霊波や霊力の質が違う。
偶然にしてはたちが悪い。
それとも気のまわしすぎか。

2人の戦いぶりをみていたが、余力はあるように見えるので決勝戦はこの2人のどちらかと組んずほぐれずといきたいが、記憶に残っている勘九郎の方が多分上だろう。
勘九郎がみていたから、雪之丞に戦い方なんかつたわるかもしれないしな。
医務室に向かう途中、次にあたる雪之丞との対策でも考えておくか。


*****
中竜姫というのはたまにでてくる二次設定で、その中竜姫がメドーサがだったというのはオリ設定です。
芦の3人娘は見た目は違いますが、さて、どうなんでしょう。

2011.03.25:初出



[26632] リポート6 誰が為に鐘は鳴る(その4)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/28 20:42
医務室では令子が、

「雪之丞をここに送りこむはずが……」

なんて言っている。
俺はわざわざ見たくないが、ピートのざーっと全身をみわたしたふりをして足を指さし、

「ここだけ他のキズと違います。同じ人物からとの質の違うキズっぽいっすね。雪之丞と戦う前からケガでもしていたんですか?」

俺は冥子ちゃんがいるのをすっかりわすれていて、今の言葉でぷっつんしないかちょっと動揺していたがこれぐらいなら大丈夫らしい。
俺の反応最初に反応したのは、この会場で内情を知っている中で唯一残っていたひのめちゃん。

「横島さん。ピートさんからはそんなことは聞いていないよ」

「反則? まさか!?」

「ビデオとかに残っていたら御の字なんですけどね」

「審判に講義しよう」

「無駄よ、先生! 決勝や3,4位決定戦ならともかく、他の試合に霊波撮影用のビデオなんて使わないんだから、証拠がないわ!」

そう言ったあとに令子がちょっと考えたそぶりをしてから、

「横島クン。次が雪之丞の相手だったわよね。ひのめのためにもあいつをたおして」

「えっ! 俺っすか?」

「たおしてくれたらご褒美考えちゃおうかな。令子」

「犬とお呼び下さい」

ひのめちゃんから生ぬるい視線がくる。
そういえばこういう時の昔の令子って、約束きちんと守ったことあったっけ?
まわりにも約束があったことをはっきりさせよう。

「それで、考えただけってのは無いですよね」

「そ……そんなわけないでしょう!」

それだけで状況証拠は充分なんだけどな。

「考えてくれているのはキスとかですか?」

「……まあ、貴方が無傷で勝ったら本当にしてあげるわよ」

「皆もききましたね。俺もうこうなったら無傷で勝つっすよ」

きっとまわりはできるわけ無いと考えているんだろうな。
何か話そうとしている唐巣神父の口を令子が手でふさいでいる。
GS的な常識を考えたら、今のピートを相手にして勝つ相手に無傷で勝つなんて普通なら無理だからな。


秘策なんてないがこういう時の俺の煩悩は信じられる……気はするよな?


本格的な雪之丞対策はともかく唐巣神父に気にかかる点を聞いておく。

「魔装術を使うというと、白龍会がメドーサとしてつながっているとしてどうしますか? 
 それと芦という苗字の少女たち3人がベスト16まできているのですが、あの娘たちも何か怪しい気はするんですが……」

「白龍会がメドーサとつながっていた場合は、GS協会の方で対処してもらうことになっている。
 芦家の方はあそこも昔は陰陽師の名門だったんだが、最近ではなかずとばずでね。先代でGSもやめていたはずなんだが、血筋なのかね。
 ただ、南アメリカから戻ってきたばかりらしく過去の経歴をまだつかめないでいる」

「そういう意味では、やはり怪しい相手と考えていいんですかね」

「芦家の少女達に悪意や魔族とのつながりを感じられないのだが、彼女たちについてはまだなんともいえないところだね。
 それと二鬼家の陰念クンは自分であの鬼と契約したとのことから、特に問題ないだろう。まあGS協会から監視ぐらいはつくかもしれないがね」

彼女たちの判断は保留か。

それじゃ、昼食でもとって本格的な雪之丞対策でもねっておこう。



お昼は院雅さんにピートと雪之丞の戦いがどんな風だったかをより詳しく教えてもらった。
ここの雪之丞も霊波砲が主体、近接してもパンチやキックよりも、霊波砲を使ってくるというところだ。
考え付く限りのパターンはイメージトレーニングをしてみたが、次の試合を考えないで勝つだけなら簡単だと思う。
ただし、無傷でという条件では確率として2割あるかないかどうかぐらいかな。
令子のキスもそろそろ恋しいし、だからといってその先を考えないで体力を消耗するのもな~

最少限のダメージにするとして次の試合は女性はひのめちゃんだし、ひのめちゃんにセクハラしたらなんとなく10歳児にセクハラをしている気分になりそうだ。
こっちのひのめちゃんは15歳だとは理解しているつもりなんだけど、未来でのひのめちゃんの面影が重なってどうも子ども扱いしちゃう癖があるんだよな。
他人が聞いていたらくだらないと思うところだろうが俺にとっては切実だ。
煩悩を優先するか、勘九郎との決勝戦……できたら、あの結界の中で勘九郎と一緒というのは避けたいな……
やっぱりここは対雪之丞には令子のキス狙いとして、次のひのめちゃんの試合で負けようかな。
うん。それがよさそうだ。


「横島君。何を考えているかしらないけれど、顔がにやけているわよ」

考えていたことが思い切り顔にでていたようだ。
言葉にだしていないだけこの時点の俺としては進歩しているだろう。

「いえ、次、無傷で雪之丞に勝ったら美神令子さんからキスをもらえるっていうので、昨日の帳消しになるし」

「あら、そう。口直しなら誰でもよかったのかしら」

「えっ?」

「例えば、わ・た・し」

「そんなふうに隙をみせて、いつもかわすくせして」

あら、お見通しだったのね
キスのひとつぐらいで真っ赤になるような歳でもないけれど、だからといってこの子を制御するのに無条件なのもね。
それに横島君がまだ実力を全てだしていないといっても、あの鎌田勘九郎っていう子にはかなわないだろうし、

「次の試合で無傷ってのはともかく、きちんとした1位ならキス。しかもディープなのをしてあげるわよ」

「またまたそんな」

「エンゲージの神付の契約書でも書いちゃっても良いわよ。横島君」

「春……初夏だけど、人生の春が…!!」



そんな気はないけれど、キスひとつぐらいですむなら安いものだわ。
GS試験見習いの間だけでも少し難易度の高い除霊を受けてみようかしらね。
そうしたら、一生安泰できるだけの金銭も入ってくるし、あとは良い男を見つけるだけだわ。

案外似たもの師匠と弟子もどきだったりする。



さらさらさらと契約書を書かれたのに、サインしてハッと思った。
俺が1位ってことは、勘九郎……あいつを相手にしてきちんとした1位になれるのか?

んで書いてある契約書の中は、1位になれなかった場合はGS試験見習い中は師匠を変えないことってしっかりかかれている。
師匠を変えようという気は無いが、どうやって月にいこうか? 難問だ。
けど、なんとかなるだろう。これまでも、この今回の逆行以外はなんとかなっているのだし。



雪之丞対策はなんとかなるとして、勘九郎か。
やっぱり時間稼ぎをして、魔族になるのを待つのが最適かな。
なんかこのGS試験での魔装術の使い手対策って、時間稼ぎばかりだな。
魔装術の奥義を極めていない相手にするのには、それが一番有効なんだけどな。
俺の体力が続けばという条件付きだけど。



いよいよベスト8をきめるところだが、まずは雪之丞だ。
安全でありながら、傷を最少限にできれば無傷でと選んだのがこの作戦。いってみるか。

「横島忠夫選手対伊達雪之丞選手!! 両名、結界へ!!」

雪之丞は白龍会の胴着ぬいでいて上半身は肌をみせている。

「おまえ、上半身はだかってあの勘九郎の夜する相手を昼休みにでもしてきたのか?」

「ちっ……違うわ。そんなオカマと一緒にするな」

「だったら、その上半身裸なのをどう説明する」

「ふん。それだったら俺は白龍会をやめたんだ。だからもう関係ない」

「そうするとGS免許取得は仮免のままだぞ。師匠がいなければGSになれないぞ?」

「なに――ッ!!」

「きいていないかったのか? 可哀想にな。負けてくれればどこかのGSとか紹介してやるぞ」

そんなあてなんて、まあ、あったりするのだが、あまりかかわりたくは無いからここは口からでまかせだ。

「いや、お前を倒して俺がトップになれば、どこのGSでも師匠になってくれるだろう」

「その根拠はどこにあるんだよ。魔装術を使うっていう時点で普通なら避けられるのがオチだぞ」

「海外にでもいけば、そういう経歴でも受けるGSはいるだろう。それよりも、勘九郎から聞いたが、魔装術を使う相手に勝ったんだってな。
 最初から全力でいかせてもらうぜ」

うーん。口八丁で丸め込むのは無理だったか。
審判から「試合開始!!」の合図とともに、雪之丞は魔装術を発動している。
俺はというと防御用に左手のサイキックソーサーは先ほどと同じだが、魔装術を確実に貫くにはサイキック棍ではこころもとない。
文珠で『剣』を使うときにでる剣と、ほぼ同じ形状のサイキック双頭剣。
未来では使い慣れているサイキックソーサーの変形バージョンだ。
文珠の精製効率の悪さからつくってみたが、俺にとっては使い勝手が非常にいい。
サイキック棍よりも先に使いだしていたからな。

以前なら中級妖怪レベルまでなら、栄光の手をつかわなくてもこれで退治できていたほどの威力はある。
今のレベルはそこまで届かないが、サイキックソーサと原理は同じなので魔装術とは非常に相性がいい。
そんな俺を警戒しているのか、

「まだ、そんな隠しダマがあったのか。俺は誓ったんだ! 強くなるってよ……年もとれずに死んじまったママによーー!!
 そして霊力にめざめ、それを鍛え抜いて、こんなにカッコよく強くたくましくなれたんだ。貴様はどことなく俺に似ている!」

ルシオラのことか。一瞬よぎったのは、かつての魔族の少女のこと。
戦いの最中に迷いは禁物だ。

「行くぜっ!! 楽しませてくれよ」

「楽しませられるかどうかわからないが、全力で行くぞ!!」

単調につっこんできながらの雪之丞の連続霊波砲は場所をかえながら避けて、避けられない霊波砲はサイキックソーサーでそらしたり、サイキック双頭剣でつぶしていく。
霊波砲のはなったあとの、結界のなかでの会場の床が破損して煙をだすのが煙幕かわりになる。
煙の中をすばやく、まわりから見えたらゴキブリのように移動する。

俺は雪之丞の霊力を感じることができるが、雪之丞は霊力を感じるのではなくまだ眼でおっている段階なのだろう。
さらに俺自身の隠行と、凝縮系の代表であるサイキックソーサー、サイキック双頭剣は外部への霊力をほとんどださないようにコントロールできる。
この霊波が入り乱れたなかで感知するのは普通なら難しいだろう。

俺は煙の方を見ている雪之丞の背後に立ちサイキック双頭剣を一閃するが、完全には刃が通るわけではない。
その中で雪之丞が、回し蹴りをはなちながら離れようとする。
サイキック双頭剣の反対側の刃でその蹴りを受けつつ、俺はサイキックソーサーを唯一むき出しになっている顔面のあごに放つ。
さすがに致命傷だったのだろう。魔装術が消えて倒れるかと思ったが、まだ立っている?

次に何がくるかわからない。俺は下がった。
刃が通った傷がある右肩、蹴りをはなった右足、口からも血をたらしながら立っている雪之丞がいたがそこから強い霊圧は感じない。
立ったまま気絶しているのか?

「まさか、こんな短時間でやられるとわな。いつかお前においついてやる。待っていろ」

そう言って、雪之丞は倒れていった。
全部が致命傷になるわけではないが、左肩だけはキズが深いから、救護班の冥子ちゃんが式神のショウトラでヒーリングをおこなわせている。
冥子ちゃんは自分自身へのなんらかのショックには弱いようだが、他人のキズは大丈夫らしい。

しかし、まさか肩を切られた直後にあそこから蹴りがくるとは、思わなかったが結果オーライか。
雪之丞の格闘センスというか、この場合は根性か?

それはともかく令子からのキスと思って、気を緩めたら右足から痛みが。
回し蹴りが若干だけどあたっていたのね。右足のジーンズに穴があいている。
ジーンズに穴があいてなければ、自分のヒーリングぐらいはなんとかなるからごまかせたのに。とほほ。



小竜姫は今の戦いをみて『後ろからなんて卑怯』っと言いたいが、隣にいるメドーサのせいでそれも言えずに、額をおさえている。

横ではメドーサが、

「ふーむ。なかなか気に入ったわ、あのコ」

若い頃の横島のモノノケに好かれる体質にひかれているのか、それとも純粋に美神流の卑怯な戦いかたを気に入ったのかは、いまだ不明である。



審判からは「伊達選手試合続行不可能なため、横島選手の勝ち!!」とともに試合場を降りていく。
院雅さんからは、

「もっと時間がかかると思ったけど早かったわね。どんなことをしたの?」

「試験が全て終わったら話させてください」

「そうね。楽しみに待っているわよ」

久しぶりの気が抜けない対人、雪之丞を相手にしたためだろう。
悪霊、妖怪や魔族とも違う人間独特の殺気ににた気配のある中で動いたせいか、至極短時間なのに疲れを感じる。
それだけじゃない。徹夜明けのせいもあるのか。


早めに試合が終われたので次の試合相手になるであろう、ひのめちゃんの対戦をみにいく。
ひのめちゃんの対戦相手は芦八洋で、ひのめちゃんも札ではなくて発火能力をつかって火の攻撃をおこなっている。
それに対して芦八洋は霊波砲で応戦しているが、このままならひのめちゃんの勝ちだな。

そう思った矢先に、芦八洋がまさかの魔装術を発動していた。
そして、その姿は……


*****
院雅さんのキャラは、素はこんなんです。多分過去の行動を含めて首尾一貫していると思うのですが。
芦姉妹はって? それは内緒です。

2011.03.26:初出



[26632] リポート7 誰が為に鐘は鳴る(その5)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/28 20:42
芦八洋の魔装術の姿は、薄く身体全体に張り付くような感じで霊波をまとっている。
髪の毛が伸びているのは、魔装術で防御力をアップされた部分だろうが顔はむきだしのままのように見える。
魔装術そのものの完成度でいえば雪之丞を上回っているかもしれないが、魔装術の完成度に対してそれほど霊力が高まっているようには見えない。
霊力だけならまだひのめちゃんに勝ち目はあるかもしれないが、魔装術で上がった速度に身体の動きが完全に追いついていない。
ひのめちゃんのGSとしての、身体の動きが平均的なGSより下であることが原因だろう。
相手のいる位置に発火させることはできているため近接戦での致命傷はおっていないが、このままではと思ったところで令子がひのめちゃんに呼びかける。

「ひのめ。遠慮はいらないわ!! 相手が魔装術でくるならこっちも本気でいくのよっ!! 必殺技よ!!」

あっ! あれか。けれど、あの技をひのめちゃんに教えたときは、

「そんな横島クンごときに教えられた技なんて不要よ!!」

そう言われたんだけど未来でのひのめちゃんが令子から教わった技のパクリなんだから、純粋に美神家の技になる。
中間に俺が入るからややこしいだけか。
それに今の彼女ともだいたい相性は良いらしいが、それを封じていたのも半分くらいは訳がある。
こっちのひのめちゃんでも同じことができると思ったから教えたのだが、俺が未来にいたときのひのめちゃんより年上のせいかね思ったよりも……。

「こんなときのために封印しておいた『アレ』を使うのよっ!!」

不要をここで、封印にすりかえるのか。
令子はやっぱりここでも令子だな。
芦八洋は八洋で

「必殺技? あれが、最近日本のGS界で噂になりだしている美神令子……!!」

ひのめちゃんが、その令子の言葉で八洋を注意しながら結界の方へ動き出す。
八洋が必殺技を警戒しているのか、中長距離主体の霊波砲に切り替えてきた。
ひのめちゃんが結界まであと一歩のところで、自分自身と八洋の間に巨大な炎の塊をだす。
炎はひのめちゃんと霊的につながっているので、その先にいる自分以外の何かを感じることができている。
このあたりの霊力を感じる能力は令子よりもひのめちゃんの方が上なんだが、本人はまだ意識できていないようだ。

八洋が移動して身体を見つけようとしても、間にかならずその炎の塊がくるし霊波砲をはなつとより大きな炎になる。
一種の霊力吸収能力まで付加されているのだが、あまり吸収しすぎるとコントロール不可能になるんだよな。
相手に知られなければいいんだけどさ。

八洋から霊波砲を放たれてその霊波砲を吸収した直後に、炎は八洋へとむかいつつ形はとある姿に変貌していく。
その形は竜……炎からつくられる灼熱の火竜が相手に向かっていく瞬間、その隙を見逃さなかったのか八洋が霊波砲を放つ。
かろうじてひのめちゃんは直撃をさけたが、左腕にケガをおっている。
ただ、その間にひのめちゃんが放った火竜も八洋を襲いレジストしようとしているが、霊波砲を放ったせいでふんばりがきかずに結界の外に押し出される。

「負けたわね」

ちょっとハスキーボイスだけども可愛らしい声とともに八洋が魔装術を解く。
衣服はあちこち焦げているが、火竜での火傷までには至って無いようだ。
あのひのめちゃんの火竜をレジストするのは魔装術というのはやはりすごいな。
しかし、目前の炎が小さくなるときに姿が見えるのが欠点か。
ひのめちゃんの技の、この欠点は令子も見過ごさないだろうな。
もう少し運動をさせないといけないと反省するであろうしと思っていたら、

「やっぱり横島クンの教えた技ね。欠点をなおすのに大変だわ」

おい、令子!! ひのめちゃんの動きが遅いのはあまやかしすぎたんだよ
そう大声でさけびたいが、まだここでは会ってから1ヶ月半ぐらいだもんな。

審判から勝ちの宣言をひのめちゃんは受けていたがその場に八洋から近寄り、

「今回は負けたけれど、私の霊波砲を受けたのだから、救護班に霊視してもらった方が良いわよ。私の霊波砲はあとあとまで霊体に響くらしいから」

そう告げたあとに、彼女の姉妹である芦火多流とすでに試合がおわっているのであろう芦鳥子の方へむかっている。

そんな忠告をうけたひのめちゃんはキョトンとしていたが、俺は疑問がわいてくる。
あの八洋って少女は、すでに魔族化の段階に入っているのか?
べスパの霊波砲には妖毒を帯びていたが、あの少女の霊波砲にも?
俺はひのめちゃんに近寄りながら、

「ひのめちゃん、たいしたキズに見えないかもしれないけれど、念のため、救護班に見てもらったほうが良いと思うよ」

「私だって、自分自身のヒーリングぐらいはできるますよ」

「いや、あの対戦相手の言っていた言葉が気にかかってね。霊波砲にも毒素が混じっているタイプがあるらしいからね」

「横島さんがそういうなら行ってみるけれど、お姉ちゃんからはそんな話は聞いたことないんだけどな」

そうは言いつつも救護班の方にむかってくれた。
しかし、もし毒素を持つ霊波砲を放っているんだったら、八洋は本当に人間か?
知っている魔族でも霊波砲に毒素をもっていたのは、べスパだけだ。
この時間軸でのべスパに相当するのだろうか。

俺はもしかしたら、今後くるであろう過去への移動で過去を改変してしまったのだろうか。
俺は次の試合の芦火多流も気にかかるが、自分自身の体力回復と霊力回復のために観客席に移動する。

「院雅さん。ちょっとばかり体力回復したいので15分ばかり眠ります。すみませんが、まわりから茶々をいれられないようにみていてもらえますか?」

そんな試験中に茶々をいれてくるなんてと思うだろうが、俺が小竜姫さまとメドーサの方を軽く示しながら言うと、さも納得と承諾をえた。



その頃示されていた二柱の間では、

「お前の手下たちもたいしたことないわね」

「何のことかしら」

『他に魔装術を与えられている人間は知らなかったが、しょせんクズはクズということか……!!』

雪之丞クラスでもメドーサの中ではクズよばわり。
GSとなって協会に入る計画を白状しても安全な雪之丞だが、まわりでは未だ何が進行しているか不明中。



俺は15分ばかり椅子に座りながら眠ったところで、多少は体力と昨晩からの睡眠不足のたしにする。
霊力はさして消費していないが、霊力を回復するためにイメージをする。

霊力の回復は普通の瞑想でも可能だが、今の俺の場合、煩悩が強いから妄想だけでって自分で思っていてちょっとばかり悲しい。



今度はベスト4を決める二次試験第五試合。
ひのめちゃんは霊体に問題がでているためのドクターストップで俺の不戦勝。

ひのめちゃんが受けた毒素は霊能力を2,3日程度使用しなければ毒が自然に抜けていくらしいが、霊能力を使用すると極端に霊体への毒素が増えていくタイプらしい。
そのため俺はすでにベスト4に確定で、次の試合相手となる芦鳥子の試合を見学していたが戦闘開始直後の霊波砲1発でおしまい。
相手がしょぼすぎて参考にもならん。
あと、決勝の相手になりそうなのは芦火多流と勘九郎だが、これも試合開始数秒でおわらせていたために何もわからない。

試合の消化が早いので、本来の時間より15分ほど早く次の試合が開始されることがアナウンスされた。



そして二次試験第六試合の「試合開始!!」の合図とともに、芦鳥子は魔装術を発動する。
俺の試合を多分姉妹から聞いていたのだろう。
対する俺は両手に通常より少々大きめのサイキックソーサーを作る。

「あら、私には双頭剣はつかわれないのですか?」

「あれだと、必要以上にキズを負わせてしまうからな。だからといって棍だと、貴女の魔装術をやぶれそうにないしね」

「私がなめられたとは思いませんが、手加減はしませんよ」

「できたら手加減してくれるとうれしいかなと」

「……」

それ以上、言うことは無いとばかりに芦鳥子が突進してくる。

芦鳥子が突進してきながら、手と足を中心に組み立てた連打を放たれる。
その打撃のひとつひとつが重たい。

えーい、こんなのまともにうけてられるかと、サイキックソーサーでガードをしながら避けて流して、受け止めきれずに後方や斜め後ろに軽く飛ぶなどを繰り返している。
この芦鳥子はこの動作を見る限りにおいて、不完全な魔装術の弱点を知り尽くしている。
霊力を肉体の外にだすことにより動きを強化するのだが、霊波砲等の放出系の霊能力を使用すると魔装術を維持できる時間が短くなる。
その欠点を補うために、体術中心できているのだろう。
これだったらサイキック棍で、少しずつダメージを与えていく戦法でもよかったかなと思いつつも、この攻撃の回転をいなすのがようやっとな状態。
このままだと思ったよりも長くなりそうだ。

って、ローキックはだめー。
魔装術でローキックなんてされたら足が一発で折れるやん。

自身の体力を鍛え始めてまだ1ヶ月半ちょっと。
この連打を続けられると、先にまいってしまうのはあきらかに俺の方だ。
外からは見えないことを良いことに、あることをしたいのだが無理っぽいな。

目の前の鳥子は美少女といっても過言ではなく、霊力なら煩悩をフル活用すれば煩悩エネルギーをためられても不思議ではないはず。
比較的薄い霊波で覆われている魔装術なので、身体のラインがはっきり見えてそれなりにメリハリのあるボディに目をうばわれても不思議ではない。
しかし今の俺にとっては、ちょっとばかり幼く見えてしまう。
俺の基準からみると煩悩を満たす対象になりにくい。
だってな、ひのめちゃんより幼く見えるからな。

美少女とはいえ、どちらかというと小柄ながら見かけによらずにパワーファイタータイプである鳥子。
もう少し色気があれば多少は別なのだろうが、通常戦いながら色気を期待するなんてそんなことは無理である。
実際、色気を振りまきながら戦っている美神令子が異常ともいえるのだが。
しかし、本当に単調とはいえ連打の回転がはやい。

「このままじゃぁ、らちがあかないな」

これだと、体力と霊力を一方的に消費していくだけだから長期戦はまずい気がする。
斜め後ろにとんだところで中央にもどり、俺は戦法を変えることにする。
さっきから中央に戻るのはくりかえしているのだが、この瞬間は多少の間があくのでこれがチャンスだ。
可能なら栄光の手を使いたいところだが、まだそこまで体外へ霊力を一箇所からだせる出力には足りない。
しかたがなくサイキックソーサーを小さくして、その2枚を足へ移動させつつサイキックトンファーを作りだす。

うん、見た目がかっこ悪いって。
しかたがない。ゴキブリよりはマシだろう。

「その格好は……」

「受けてばかりいてはらちがあかないから、ちょっと痛い目にあうかもしれないけど、ごめんな」

昔の俺ならこんなことは言えなかっただろう。
この前あった昔の俺はコンプレックスがめちゃくちゃ強かったからな~
そんな今でもどちらかというと反射神経だけでさばいているだけのつもりなのだが、まわりは中々信じてくれねぇ。

とはいっても、実戦で目だけは肥えている。
この鳥子は2戦目であたったワン・スーチンよりは技術面で劣るのがはっきりとわかる。
だからこの相手のパワーをいかさない手はない。

サイキックトンファーを攻撃に使うがやはりたいして効かない。
確かに効くとはおもっていなかったが、これだったらサイキック棍だったかなとおもいつつも攻撃を続ける。
一方的に受けにまわるよりは相手にプレッシャーになっているはずだが、やはり相手のパワーの方が上だ。
なんだかんだといいつつ結界に追い詰められる。

鳥子はよけられないと思ったのか、最速の拳を打ってくる。
ワンチャンス。まっていたのはこれだ。
相手のその拳をサイキックートンファーでひっかけながら、身体を泳がせ俺は鳥子の外側に立つ。
さらに反対の手で首にサイキックトンファーをひっかけて体制をくずさせながら、さらに結界にぶつかる寸前に足の裏まで移動させたサイキックソーサーで一押しだ。
場外への押し出しだな。
まさしく魔装術なんて、簡単にここの結界をやぶってしまう装甲を身にしているからこそ遠慮なくたたきこめる連続技。

「乙女のお尻を足蹴にして場外負けだなんて!! 納得いかないわ!! 再戦を要求する――!!」

この手のタイプにつきあっていたら、どうしようも無いのは身にしみている。
結婚する前の雪之丞とか、雪之丞とか、雪之丞とかって、あいつだけか。
似たような性格っぽいから、違う方面で相手をしよう。

「夜のベッドの上での相手ならいくらでも」

一瞬キョトンとしてたが、意味が通じたのか顔を真っ赤にさせながらも考え込んでいる。
まさか本気か?

「おいおい、まさか本気にしているわけじゃないんだろうな」

「そちらが言った条件でシミュレーションをしてただけよ!!」

「けど、試験結果はこの通りだろう?」

本気で寝技で勝負するシミュレーションとかしていたんじゃないだろうかと多少は心配したが、結局は冷静にもどったのかひきさがった鳥子だ。
しかし、本気で考え出すとは思わなかったぞ。



「横島君、余裕をもっていたわね。魔装術相手ってなれているの?」

突然院雅さんからかけられた声に、嘘は得意なつもりだが、な、な、なんかまずいことしたかなと思いつつ、

「そんなわけないじゃないですか。だって霊力に目覚めて、まだ1ヶ月半ちょっとぐらいですよ。魔装術は唐巣神父の協会の文献でなんとなく覚えていただけっす」

「ふーん。まあ、柔よく剛を制すともいうから、対処方法としてはあってるけれど……」

「次の相手の試合をみたいので」

俺は院雅さんの言葉の途中で口をはさんで、そそくさとまだ続いていた鎌田勘九郎対芦火多流の対戦をみることにする。



あの子、何かやっぱりかくしているようね。
けれど、今の私じゃぁ……
横島の方へ目をむけながら、今後どうするのがよいか考える院雅だった。



鎌田勘九郎対芦火多流は勘九郎が魔的に完成された魔装術を展開しているのに対して、芦火多流も不完全ながら魔装術をだしている。
普通ならば同じ魔装術でも完成度は高いし、武術の面でもそれなりの腕がある勘九郎の圧勝するはずなのだが、芦火多流にかすりもしない。

芦火多流の特徴はスピードにありそうだが、それだけではなかった。
勘九郎は芦火多流の光を使った幻術にまどわされている。
タイガーのはテレパシーによる直接脳へ刺激がいくが、霊能力の防御力が高ければそれも届かない。
それに対して光をつかった幻術となると見破るのは困難だろう。

それでも勘九郎よりは、芦火多流と対戦する方が気分的にらくだ。
俺の後ろの純潔を護るためにがんばってくれ!! 火多流!!
オカマあいてより女性相手の方が絶対にいいんだ――っ!!

火多流の方はというと幻術とともに、たまに霊波砲をまぜてくる。
思わぬ方向からくる砲撃だけに、勘九郎もダメージをおっているのだろう。
ルシオラを思い浮かばせる戦い方だが、麻酔の能力がないのだろうな。

それでも、勘九郎にあせりがみえない。
絶対の自信にあふれているのか?
右手に剣を持ちながら先ほどまでの剣をふるっていた様子とは変わって、スタスタスタと中央に移動していく。
それって相手が見えないんじゃ、好にしろっといっているようなもんだぞ?

実際中央にいる多分幻術でつくられた火多流を斬ると、消えてみえなくなった瞬間に霊波砲が勘九郎の左後方からあたった。
それを待ち受けていたのか、左手から特大の霊波砲を霊波砲を受けた方向にむかって放っている。

「きゃぁ!!」

かわいらしい悲鳴とともに、霊波砲で結界の外へおしだされた火多流がいた。

「勝者、鎌田選手!!」

俺の願いもむなしく、勘九郎が勝った。
どこにかくれていたのか知らないが、審判が勝者である勘九郎の手をあげる。
しかし、とっとと勝利者の手を離す。
どこかおっていきそうな雰囲気のある勘九郎だが、俺はやっぱり次の試合を棄権はできないかな。

まったくもってまともな方法では勝てる気がしないぞ。


*****
第五試合は決勝までさすがに魔装術5連戦はやりすぎだなので、中間で不戦勝をはさみました。

2011.03.27:初出



[26632] リポート8 誰が為に鐘は鳴る(その6)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/28 20:46
決勝戦の前に3,4位決定戦があるから、観客席で少しでも体力と霊力を回復させておこう。

火多流と鳥子の姉妹対決だが、魔装術はなしだ。
うん。そのほうが良いぞ。少女同士の少しは揺れる胸を見れるから。
結果は体術の差で、火多流の勝ち。

先ほどまでの魔装術をつかった派手な展開とは違って地味な展開だ。
絵的には、あまりおもしろくないだろうなと、3,4位決定戦を写している霊能力対応ビデオカメラをみながら思っていたりする。

そういえば、勘九郎はどうしたんだっけ?
もしかしたら、俺がうごかないとまずかったかな。
あわてて雪之丞が運ばれているはずの救護室の方へ移動する。
しかし、途中で勘九郎と唐巣神父がむかいあっている。
ここって、令子がいるシーンじゃなかったっけ?

あっ、エミさんがいないから、変化しているのね。
勘九郎の心が力にのっとられたら、こちらの戦力って、エミさんも、タイガーもいないってことは前より激減じゃないか。

もしかして対戦をぎりぎりひきのばしても俺ってピンチ?



勘九郎の心が力にのっとられたらまずいぞ。
エミさんがいない分は、俺の霊力アップとひのめちゃんをあてにしていたのに、ひのめちゃんが参加できない。
俺が所属している院雅除霊事務所所長の院雅さんは、ここまでくると問題外の実力っぽいしなぁ。

今の令子はまだ妙神山で修行前だし、あとは唐巣神父が幸いなことに小竜姫さまとメドーサの間ではなく、こちらに来ていてくれることだ。
エミさんよりも実力で上なのは確かだが、近距離よりも遠距離攻撃型なので勘九郎との相性はやはり悪そうだ。
芦の三姉妹が味方になってくれるとしても、いくら魔装術のパワーがあっても見た感じでは勘九郎に対抗するのはむずかしそうだ。

途方にくれているうちに「横島選手!! いないのかね!!」と試合開始で呼び出される。

やるだけやって、駄目なら最後は逃げ出すか。
大きくみて、月からの魔力送信事件から本格的にアシュタロスが動き出している。
あの悪運の塊の令子が、その事件まではだいじょうぶだろう。

だから、やっぱり死ぬのはイヤだぞ。
皆で、会場から逃げ出せば怖くない。
今回はこれでいこう。


『そんな作戦がうまくいくわけが無い』とは、誰にもきこえていないのだから突っ込める者はいなかった。


「試合開始!!」と審判の声が響く。勘九郎が

「魔装術はね、みがきをかけて完成させると……」

「オカマやマザコンになるのか?」

「ちがうわよ――!!」

「どうやってみても、今日の男の魔装術使いは変なのしかいなかったけどな」

ついでだから、陰念も変態なかまにしといてやろう。

「そうじゃなくて、美しくなると言いたかったのよ!!」

「その格好を鏡でみたことがあるのか? 美しいというより、まだカッコよくと言う雪之丞の方がまともに思えるぞ?」

「あんなマザコンと一緒にしないで……それよりも魔装術よね」

勘九郎とかけあいをしているうちに、俺は霊力を最大限の出力でだせるように両手に集めておいたのを出す。
サイキックソーサーとしては小型版で、霊力は手にあつまったうちの一部しかつかわない。
しかし、その小さめのサイキックソーサーを両手からノーモーションでとびださせて、続けて同じ大きさのサイキックソーサーをつくりまた放つ。
全部で六連発のサイキックソーサーを放ったが、すべて避けられた。
しかもコントロールして攻撃させたのも含めてだ。

「それで全力かしら。あまりがっかりさせないでね」

勘九郎の後ろから襲わせたサイキックーソーサーは俺の手元にもどして、霊力の損失を防いでいる。
左手に通常のサイキックソーサーと、右手にサイキック双頭剣の体勢をとる。
一応奇襲攻撃だったんだが、ワン・スーミンへのラストの攻撃をみられていたか。

「完成された魔装術と、まともに戦うと思っているのかい?」

現在の戦力差は出力マイト換算で約4倍なんだから、まともに相手なんてしてられるかよ。

「そんなことを言ってられるのも今のうちよ。死になさい。横島忠夫」

「イヤだ――!!」

そう言っておっかけっこをはじめるとみせかけて、せっかくしかけた術を始動させる。

「何!! 身体が急に重く…!?」

魔装術相手では未来の雪之丞にしか使ったことはなかったが、やはり勘九郎にも効くか。

「俺がただ単にサイキックーソーサーをなげつけたと思ったのがお前の敗因だ!!」

まだ勝ったわけじゃないけど、プレッシャーはかけておかないとな。

「サイキックソーサーの位置をみてみるんだな」

「五角形、しかもあの霊の盾までも?」

「その通り、俺の奥の手さ。サイキック五行吸収陣という」

愛子の時につかったのとは違って、単一色の五角形型のサイキックーソーサーを結界内のぎりぎりに設置させている。
6枚の同時制御はきびしかったが、単純に奇襲攻撃と思って壊されなかったのがよかったな。
まあ6枚ともあたってくれたらかなりなダメージになるはずだが、それは期待のしすぎだろう。

「そんなの関係ないわ。完成された魔装術こそ人類最強のはずよ」

魔装術の極意は力にのっとられないことなんだが、この勘九郎に届くだろうか。

「その魔装術が完成されたものだと思っている時点で間違いをおかしている。魔装術は存在能力を意思でコントロールしてパワーを引き出すのが極意だ」

さも、知ったかぶりでいう。
実際にはそういうものだと知っているんだけど、ここの世界では今日まで相手にしたことがあるなんて誰もいないだろうしな。
ただ、院雅さんの視線が食い入るようにいたい。
あとで、なんか追求されそうだ。

「それに魔装術と、俺の術との相性の問題もある。俺自身のパワーは少なくとも魔装術に効果的な技がサイキックソーサーやこのサイキック五行吸収陣さ」

単純に五角形のサイキックソーサーを五角形においただけにみえるだろうが、霊視がしっかりできるものや霊視ゴーグルを使えば見えるだろう。
サイキックソーサーが霊的な線で五芒星と真円でむすばさっているのを。

このサイキック五行吸収陣の特徴は、中にあるものの霊力を吸収してさら吸収陣を強化していく性質がある。
ただし、例外はやはりあって俺は吸収の対象にならないし、普通の人間や妖怪からも霊力や妖力は吸収しづらい。
対象は魔装術などの身体の外部が霊的存在であるもの。
悪霊や魔族が対象で、神族にもきいたりするんだな。
まあ、魔族や神族でもメドーサや小竜姫さまみたいに強すぎるとほとんど役立たずか、下手をすると逆にふりまわされるんだが。

勘九郎がそれでも攻撃に移ろうとしているが、迷いもあるのか予想より速度が遅いのでかわし続けている。
霊力は多分半分程度までしかおちていないはずだから、まだ俺よりも倍程度の霊力での出力はだせるはず。

「そこまで、メドーサに義理立てする必要はあるのかな?」

その言葉に敏感に反応する勘九郎。

「メドーサ? 何の話かしら?」

攻撃とめているぞ。
魔装術のせいで顔はわからないが、状況証拠としてはかなり有力なんだけどな。
その時外部から、

「鎌田選手、術を解きたまえ! 君をGS規約の重大違反のカドで失格する!!」

待ちに待っていたときだ。
令子が「証拠は手元にあるわよ」と続ける。

勘九郎の選択はどっち?



ちゅうちょのでている勘九郎にまわりからは、

「やったか……?」

との声が小さく聞こえてくる。
対して勘九郎の答えは、

「証拠…? それがどうしたっていうの?」

少しばかりおそかったようだ。勘九郎の心が力にのっとられたのか。

「人間ごときが、下等な虫ケラがこのあたしにさしずすんじゃないよ!」

通常の結界はすでに解除されているので勘九郎はいまだサイキック五行吸収陣の中だが、俺はその言葉をきくとともにサイキック五行吸収陣から抜け出す。
さて、残るか逃げ出すかそれの問題だが、以前戦っている勘九郎よりはサイキック五行吸収陣のせいでそれほどパワーはだせないだろう。

「こいつ魔装術の使いすぎで、力に心をのっとられかけて魔族化が開始しようとしかかっている!!」

そうさけんだのだが、GS協会の審判たちが集団では波魔札で対抗しようとして一蹴されている。
審判たちって、やっぱり実戦から遠ざかっているのね。

そんなのんきなときじゃないけど、そう思わずいられなかった。
人はそれを現実逃避という。


心が力にのっとられかけている勘九郎とは、令子が戦っている。
令子は弱った魔族をどつくのが好きだからな。

そんな様子を安全なサイキック五行吸収陣の外から眺めていると、院雅さんが声をかけてくる。

「戦いに参加しないのかい?」

「えー! だってもう1位決定しているようなもんだし、あとは正規のGSにまかせておく方がどうやってみても安全そうだし」

「まあ、それでもいいけれど、1位っていうのはどうかしらね?」

「へっ?」

「GS試験の規約をよくよんでおくことね。こういう場合は、
 1位っていうのは名目で、通常の1位とは扱いが異なるはずよ」

「そうすると、俺が1位を目指した努力って無駄?」

「あの契約書のことをいうのならその通りね」

つらーっとした顔で院雅さんに言われると、せっかくのディープなキスのチャンスが……

「もしかして、あの中に入って戦わないと1位じゃなくなる?」

「そんなわけは無いでしょう」

んじゃ、何のために院雅さんは聞いてきているんだ?
それはともかくとしても、

「あとはゆっくりあの中にいてもらえば、勘九郎の霊力が吸収されて魔装術は維持できなくなるだろうから、令子さんが勝つんじゃないかな?」

のんびりと院雅さんと会話しているが、サイキック五行吸収陣の中で戦っているのは勘九郎と令子だけだ。
あとは遠距離からの支援攻撃の唐巣神父、冥子ちゃんの式神のみで、他は様子を見守っている。
だってあの中の二人の動きが速すぎて入れ替わり立ち代りで下手な支援は、逆に令子の方を攻撃してしまいそうだからな。
遠隔攻撃をしかけている唐巣神父と冥子ちゃんの式神もサイキック五行吸収陣の結界の強化するために吸収されて、勘九郎にたいしたダメージを与えていない。
冥子ちゃんの式神が中に入ろうともがいているから、それだけはやめておいてもらうか。

「六道冥子さん、式神をあの陣の中へ入らせようとするのはさけてもらうとうれしんですが……」

ちょっと下手にでておく。

「なぜ~? 令子ちゃんは~、ひとりでたたかっているのよ~」

いつもの間延びした感じだ。いきなりぷっつんはなさそうだな。

「六道家の式神って、式神のダメージが術者にもどってくるんでしょう?
 あの勘九郎のパワーって並大抵じゃないから、近くで戦わせると六道冥子さんにダメージがもどってくると思うんだよね」

俺の話の合間にこのぷっつん娘のそばから、ひとっこひとりいなくなったぞ。
すでに、そういう方面で有名だったのか?

「う~ん。じゃあ~、近くにいかない式神で~、戦うのは~、いいのね~」

「そうするのが、安全だと思うよ」

主に俺の安全のためにだけどさ。
余裕があった俺は観客席の方を見ると、なぜか小竜姫さまがメドーサに刺又(さすまた)で動きを封じられている。
えーい。神様が人間に迷惑かけるなよ。


以前の世界では偶然横島がたすけたんだけど、そんなのは知らなかった横島なのも仕方がないだろう。


今の手持ちの戦力でどうにかするならあの手か。

「今、陣を解くから注意してくれ――!! 令子」

俺はサイキック五行吸収陣を構成しているサイキックソーサーを戻しつつ俺自身の霊力に戻す。

「重かった身体が、元にもどったわ」

「なにやるのよヨコシマ――ッ!!」

令子、怒るなよ。
勘九郎も充分にパワーダウンしているようだしって、まだ強いな。
それでも、小竜姫さまがいないと色々と困る。
俺はできるなら使いたくなかった技を使う。

「外道焼身霊波光線ー!!」

霊波砲なんだがこの声をださないとなぜか出せない。
声がきこえていた範囲の人間達には、かわいそうにと見つめられる視線がいたい。だから嫌なんだ。
最初に韋駄天の八兵衛が霊波砲を放ったイメージで、俺の霊波砲を放つイメージになったみたい。
しかも通常の霊波砲ではなくて、収束型になっちゃうんだよな。
元々が神様の技で、俺との霊力の強さが違うからそうなるんだろう。

狙った先はメドーサ。
霊力に差がありすぎるから、まともなケガはしなくても嫌がらせレベルにはなるだろう。



あたったメドーサは予想外からの衝撃に思わず刺又(さすまた)を取り落としてしまい、小竜姫の神剣に身をさらすことになった。

「形勢逆転ってやつね…!! 勝手なマネもここまでよ、メドーサ!!」

「……たしかにここまでのようね」

『っち、まさかザコに邪魔されるとはね』

会場で反撃をしだしている勘九郎を見ながらも、自身の身のためだろう。

「勘九郎!! 撤退するわよ!!」

「――わかりました!」



うん? 撤退? 前の時はたしか違う言葉だったような。

「仕方がないわ! 次は決着をつけてあげる。横島!」

「いらんわい!!」

「生きてそこからでれたらね…!!」

火角結界なら今日になってからみつけたので、発動しないように小細工をしてある。
純粋な魔族ならこれぐらいつくれるだろうが、まだ人間をやめていない勘九郎には種が必要だ。

見つけたのは決勝の結界の下に隠すようにあったのだが、今起動した火角結界はもっと広域い範囲でたっている。

安全だと思っていた俺はその広く放たれた火角結界の結界内にいるし、残り爆発までの時間は120秒とカウントダウンを開始している。
前回なら令子の勝負下着の色と同じ黒を斬れば良いのに、今度のこの火角結界はどちらかわからんぞ。

「全員で霊波をぶつけるんだ!! 霊圧をかけてカウントダウンを遅らせる!!」

唐巣神父、それ無理っす。
これだけ大型の火角結界なら小竜姫さまでもとめられるかどうか。
外部から娘のためだろう、六道夫人も霊波をぶつけている。
芦の三姉妹も魔装術をつかって霊波をぶつけているが、それでも焼け石に水だ。
まあ火角結界って、上下を破壊するから火角結界の外にいる分には安全だけどな。

メドーサと勘九郎もいなくなり、かわりに小竜姫さまが霊波をぶつけてカウントダウンを遅らせている。

「私の霊波でもカウントダウンを遅くするしかできません。
 美神さん、左側の結界板の中央に神通棍でフルパワーの攻撃を…!! 急いで!!」

「こ…こう!? 穴があいた…!?」

「そいつは結界の霊的構造の内部よ!! 分解しているヒマはないけど活動をとめるチャンスはあります!! 中に二本、管があるでしょう!?」

「あるわ! 赤いのと! 黒いの!」

「どちらかが解除用、どちらかが起爆用です! 切断すればことは終わるわ! 選んで!」



令子の悪運を信じる手もあるが、俺はもうひとつの手を使うことにする。

「六道冥子さん、俺に魔装術を授けてくれくれないか。そうしたら、この火角結界をどうにかできると思う」

「え~、冥子、そんなの知らないわよ~~」

「六道家の式神の中で、夢の中に入れる式神っているはずだけど」

「ハイラちゃんね~」

「それが短時間なら、他人に魔装術を授けてくれるはずなんだ」

十二神将の遊び相手をしょっちゅうする時があったのだが、偶然なのかそれともハイラの好意なのか遊び相手の間は魔装術もどきを使っていた。
ただハイラがそばにいないとか、冥子ちゃんの影の中に入るととぎれるので、ときどき残りの式神にボコボコにされていたりしてたが。

「ハイラちゃ~ん、できるの~」

「キィッ」

そう鳴き声を出して、俺の影法師(シャドウ)が抜き出されて、俺の身体の外を覆うように展開されていく。
この魔装術もどきだが、やってることは魔装術と同じようなものだからまあいいのだろう。
完全なコントロールをおこなって鏡をみないと実際にはわからないが、和服と変な帽子にピエロっぽい顔をしているだろう。
まわりが混乱におちいっている中、そんな俺と冥子ちゃんの様子を正確にきいて見ていた六道夫人がいたりするのもわかっているが、今はこの危機をぬけだすことが先だ。

影法師(シャドウ)は霊力を100%使いこなせるが並のGSなら肉体から出力できるのは、影法師(シャドウ)が出力できる20%をこえれば良いほうだ。
超一流といわれるGSでも普通30%を超えない。
たまに六道家みたいに霊力を100%しょっちゅう出しているのではと思う相手もいるが。
この影法師(シャドウ)をだす前の俺は30%ぐらいの霊力で、コントロールだけなら超一流だが、霊力の総合出力がいまだ低いのでサイキックソーサーどまりだ。
霊力を1ヶ所から一気に出せるようになれば栄光の手もつかえるかもしれないが、未だ肉体の方がそこまでついていってない。

しかし、この魔装術もどきなら、どこからでも100%の能力をだせる。
俺は火角結界の開いた穴の部分が多少せまいので、魔装術もどきの馬鹿力で穴を大きくする。
そしてその穴の中に入り、他人からは見えないように『視』の文字が入ったビー球くらいの大きさの球体で確認する。
そう、俺の本当の奥の手の文珠で今回の解除用の線は赤か。
赤を切断するとまわりから、

「止まった……!?」

との安堵の声がきこえる。

このあと院雅さんから追求されそうなのと、六道夫人は何かしてくるかな。
他からもきそうだけど、六道家の式神のせいにすればいいだろう。
しかし六道夫人の行動パターンって、原則、人頼りなのはわかるのだが、どっちの方向からくるのかわからないのが困ったところだ。

何はともあれ府に落ちないところもあるが、無事解決したと思いたい。
しかし、これからが本格的な始まりなのだろう……今後のアシュタロスへの戦いにそなえての。


*****
サイキックソーサーをベースにした変形バリエーションを多くだしています。
サイキック五行吸収陣ですが、サイキックーソーサーと前世である陰陽師高島の陰陽五行術との合体技です。
ハイラによる魔装術もどきは、ナイトメアの話で影法師(シャドウ)に変化させられたことの拡大解釈によるオリ設定です。
これで六道夫人に眼をつけられたっぽいので、横島クンへ合掌。
GS試験編はこれで完結です。

2011.03.28:初出



[26632] リポート9 院雅除霊事務所はクビ?
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/29 23:39
疲れたからまっすぐにあの安アパートにもどりたかったのだが会場では、

「今日のことはしっかり説明にきてね」

そんな院雅さんの言葉にさからえません。
まわり中に聞こえるように言ってたので、こちらに対して質問をしたかったであろう令子とか人柄の良い唐巣神父をだまらせる効果はあっただろう。
六道夫人もにこにこしながら、何を考えているのやら。
小竜姫さまはそんな人間の心理なんかに気がつかないで、

「さきほどはたすかりました」

「神様に恩を売れるチャンスなんて中々無いという師匠ですから」

おもいっきり、電話でのことをもう一度言っておく。
これで、院雅さんの追及の手は緩まないかな。
院雅さんの方を視ると霊圧があがっている。
今日は思いっきり追及されそうだ。はぁ。

事後処理があるということで、小竜姫さまと、唐巣神父に令子は会場にのこっている。
ひのめちゃんは救護室にでものこっているのかな。

単なる選手である俺は先ほどの言葉のやりとりもあるだろうが院雅さんと一緒に事務所へ戻った。

「色々と知りたいことはあったけれど、今日こそはきちんと話してもらうわよ」

ごまかしつづけたツケがきたかな。

「えーとですね。なんか、今日は予知夢みたいなのをみまして、それで色々と助かりまして」

「それだけだと、魔装術に対しての対処方法の的確さと、さらに初めてだというのに魔装術を使いこなしていたことの説明になっていないわよ」

「……院雅さんこそ、魔装術のことをどれくらい知っているんですか?」

「……」

時間稼ぎの一言だったが、なぜか考えこんでいる。
一般に魔装術はそのコントロールの難しさから、詳細を知っているものはいない。
なぜかこの魔装術にこだわるようにうかがえる院雅さんだが意を決したかのように、

「私も魔装術が使えたのよ。今は使えない……使わないようにしてると言ったほうが正しいかしら」

「へっ? 魔装術が使える? けれど今は使わない? なぜ?」

「魔装術のことをかなり知っているみたいだけど、魔装術をコントロールができないと魔族に化けてしまうのは知っている?」

「ええ、まあ」

前回の時の陰念なんかもろにそうだったし、勘九郎も今の状態で使い続けたらいずれは心が力にのっとられて、魔族になるだろうしな。

「私は魔族化しかけたのよ。なんとかコントロールはとりもどしたけれど、霊的中枢(チャクラ)がずたずたになってね」

「えっ? よく、無事というか、ここまでなおりましたね」

少なくとも前の陰念は魔族から人間にもどれてもチャクラがまともに活動しないくらいに、おかしくなっていたせいでもう霊能力を使えるようにならなかったしな。

「それなりに努力はしたわよ。けれどね……魔装術をつかっても、霊力のアップはできなくなったのよ」

「それって、霊的中枢(チャクラ)も修復されきっていないで、さらに霊力のリミッターが壊れているということですか?」

「その通りよ、察しがいいのね。多分、今、魔装術をつかっても5%ぐらいしか霊力のアップは期待できないのに、魔族になってしまう危険性が高いのが私よ」

「そうでしたか……」

「こんな私を軽蔑する?」

ほとんど感情がこもっていないようだったが、わずかに悲しげな霊波を感じる。

「いえ。尊敬に値するぐらいです」

「なぜ?」

「俺ってちゃらんぽらんですから、そんな状態になったら自暴自棄になって、どんな生活をしているのか。
 それに比べたら院雅さんってすごいなって思うんですよ」

「私のことをうちあけたんだから、横島君のことも知っておきたいの。これから師匠としてやっていけるかどうかを含めてね」

「それって、話ようによっては?」

「他のGSを紹介して、そっちで見習いになってもらうわ」

下手なところを紹介されると令子と離れる可能性がでてくるし、そうするとアシュタロスとの戦いにも影響がでてくる。
小さいところでは関係しなくても良いが、大きい事件では関われる程度の関係はきずいておきたい。
ここの院雅除霊事務所なら唐巣神父の教会からも、今後の令子の活動拠点になるであろう人口幽霊一号ともそれほど離れていない。
短期でGSの本免許がとれても、令子との接点がとれるところは少ないだろう。
令子のところにこちらから行ったら給料、いやアルバイト料が思いっきり低いだろうしな。
さすがに極貧生活はごめんだぞ。

何より重要なのはこの美人で色気のある所長から離れるのは、今の俺にとって煩悩パワーを増加させる手段が減るということだ。



「そんなに難しそうに考えているけれど、わずかな時間とはいえ師匠である私にも話せないことなのかい?」

色気をたっぷりと振りまきながら、俺の隣にきていた。
またしても不覚。この横島、こんなおいしい状況になっていたのを気がついていなかったなんて。

「いえ、悩むだなんて、院雅さんのそばにいさせてもらえるなら……」

そう言ってだきよせようとすると、するりとにげられた。
ああ、俺の煩悩のバカやろー
なんかあきれたように、

「その調子なら本当の悩みなのか、怪しいところだね。明日いっぱいまではまっていてあげるから、それまでに答えをだしておきなさいよ」



アパートに帰ってきてGS試験の仮免が発行されることは、院雅さんから電話で伝えられてきたが、俺は明日どこまで話すべきかで悩んでいた。
1ヶ月半ばかりの付き合いだが、除霊作業という生き死ににかかわる仕事をしているとそれなりの信頼関係を必要とする。
だから師匠として俺を導くつもりがあるのかもしれないが、俺の意識と知識の方が11年先のものだと知ったら彼女はどういう反応を示すだろうか。

昨日はショックのあまり忘れていたがいつもの日課である寝る前の瞑想を行う。
普通の瞑想だけでなくサイキック五行吸収陣と似た技というか、元の基本技術をたどるとサイキック五行陣にたどり着く。
これは俺の前世が陰陽師なのに霊力をお札を作るために、筆を通して安定させて霊力を供給させるのが苦手というところからきている。
そこで、ヒャクメの分析をもとに、老師が考えだしてくれた技だ。
その変化形であるサイキック五行重圧陣の中で霊圧をかけながら瞑想を行う。

瞑想を行うが雑念だらけだ。
土曜日曜はお昼までに事務所へいけばいいので、明日考えるか。
そうして疲れた中、ぐっすりと眠る。



朝は朝食といってもコンビニ弁当なのだが、その前のランニングと軽い体術を使ったイメージトレーニングを行う。
イメージトレーニングは実際には霊力をつかわないが、霊力をつかったと過程して仮想敵を想定して行う。
俺の場合は大きくわけて、2系統の相手を想定している。
悪霊や、身体を変形させることが少ない人間の形をとる魔族と、人間の形をとっていなくて、どのような攻撃防御手段か不明な相手を想定する。
戦ったことの無い相手はイメージしづらいので、文献などをあさってイメージトレーニングをつんでおく。
しかし、あくまでイメージなので実際に戦ったときには異なる能力があったりするので油断は禁物だ。

アパートに帰って、院雅さんに伝えることを考える。
院雅さんなら、秘密はまもってくれるだろうと思う。
昨日魔装術を一時的に授かった時点で文珠のストックもついでにつくっておいたので、最悪な手だが『忘』の文珠で忘れてもらうこともできる。
そうなると、あのちち、しり、ふとももと別れるのがなごりおしい。院雅さんとわかれるのも悲しいぞ!?

日曜の12時前につくように出発する。
昼食は霊力をたくわえられるようにと、オカルト稼業兼任の料理屋に頼むことが多い。
たまに焼いたヤモリがはいっていたりするのが嫌なのだが、霊力のもとだからな。好き嫌いは言ってられない。



事務所に入ると思いがけない人物がいた。
それも、そう。昨日のGS試験で俺と試合をした芦鳥子がいる。

なぜ?

疑問はすぐに解けたが、予想外だった。

「あらためまして。芦鳥子です。院雅除霊事務所のGS見習いとして契約をお願いにまいりました」

「えーと、院雅さん。もう一人この事務所で、GS見習いを雇うんですか? はっ! それとも俺に愛想をつかした!!」

「馬鹿ねぇ。そんなんじゃないわよ。横島君」

「私、アメリカから引越ししてきましたので、日本でのGSに知り合いがいないんですよ」

「あれ? 院雅さん。芦家って代々GSだったんじゃなかった?」

「それは彼女の祖父までで、彼女の父は普通の会社員なんだってさ」

「はい。それで、アメリカでは別なGSに師事していたのですが、彼女にも日本のGSにツテはなくて、
 GS試験で負けた相手のところに師事するのが良いだろうって」

「けど、きのうは確か再戦を要求するっていっていたような」

「いえ。あんな負かされ方でも負けは負けですしそのあとの決勝戦での戦い方ですが、あの陣をつかわれていたら私の負けでしたよね?」

「うっ!」

確かにあれをつかっていたら勝てるんだが、あれだけでも結構目立つ術なのに何回も使えるのは目立ちすぎるので、できれば使わない方向でいたんだけどな。
世の中うまくいかないものだ。ただ、そこで院雅さんが、

「確かにこの横島君の実力はあるけれど、教えたのは私じゃないわよ」

「それは言いすぎではないかと……」

「そ、そ、それじゃぁ、私はどうしたら良いのでしょう」

「そうね……横島君、昨日のことはきちんと考えてきてあるでしょうね」

「はい。ただ……人目があるところではちょっと」

「横島君と話があるので、その要件がすんでから話をするのでいいかしら。鳥子さん」

「ええ。まずは相談にのってもらいたいですから」

「そうしたら昼食に良い時間だし、これで外食と暇つぶしでもしていてもらえるかしら」

院雅さんが財布から1万円札をだして渡そうとしている。

「いえ。そんないただかなくても、相談をもちかけたのはこちらですから」

「いや、仮契約みたいなものだわ。勝手に他のところにいかれてもこちらとしても困るかもしれないからね」

「それならお受けいたします」

なんか昨日の試験に比べるとネコをかぶっている気がしなくもないが、やとわれようとするのだから普通はそうだよな。

「そうね。午後3時にきてもらえるかしら。それまでには、こちらの方もなんとかなっていると思うから。横島君、そうよね?」

3時か、そんなものかな。

「そうですね。それぐらいなものだと思います」

芦鳥子が事務所からでていったあと、すぐに話ことになるかもしれないと思っていたのだがその前に、

「もしかしたら、一緒に食事をするのも最後になるかもしれないから、今日は奮発しているわよ」

「やめるかもしれない人間に?」

「立つ鳥後をにごさず。もしやめることになっても、横島君ってそういう感じに見えるしね」

「そうですか。そう言っていただけるとうれしいっす」

嵐の前の静けさか意外にのんびりとした感じで、昼食はすすむ。
昼食後は本来の話題をついに話すことになる。

「それで、横島君のことを教えてくれるわよね。いろいろと」

「ええ。その前に、もし納得していただけなければ、これからお伝えすることを忘れてもらうことになりますが、それでもかまわないですか?」

「忘れてもらう? それは私に忘れろってこと?」

「いえ、実際に忘れさすことができるんですよ。俺の霊能力のひとつなんですが」

「やはり横島君って。サイキック系だけじゃなかったのね」

「いえ、その能力もある意味サイキック系です。それの進化版ってことになります。
 どちらかというと昨日の試合の霊波砲とか、魔装術もどきを使う方が本来の俺の能力じゃないのですが、それは本筋じゃないのでいいですか?」

「それだけ、あなたにとっての秘密事項ってことね。わかったわ。それでいいわよ」

俺は文珠を一つ出し『忘』と言う文字を入れる。

「これがさっきの忘れさすことのできる、霊能力になります」

「これが霊能力? どちらかというと霊具じゃないの?」

「いえ、これは俺がつくりだした……俺の霊波の塊が固定化したものです。
 そしてこの『忘』の文字の効果でこの文字の意味の通りに忘れてもらうことができるんですよ」

「ふん。変わった能力ね。それは、わかったからあなたが今まで秘密にしていたことって何?」

「そうですね。これを使うと早いっす」

俺は文珠の中の文字を『忘』から『伝』と変える。

「これで『忘』から、俺の考えていることを言葉をかえさずにイメージごと直接『伝』えることができます」

「何、その能力。聞いたことなんて……もしかして、うわさにきいたことがあるけれど、それって文珠?」

「よく知っていましたね。その通り文珠です。これを知っているなら、これが使えるってだけでも秘密にしたいってわかりますよね?」

アシュタロスを倒したのは最後、文珠だという噂が流れて魔族や一部の神族の過激派から狙われたことがある。
確かに文珠の力も必要だったが、それだけじゃない。
あのワルキューレさえ最初は『使いようによってはどんな魔族も倒すことができる』と言ってたから、そういうイメージが人間より神魔の間では大きかったのだろう。
まあ、令子と二人の合体でおそってきた連中は倒しまくったからあながち間違いではないんだが、そのたびにあやまりにくる小竜姫さまとワルキューレが可哀想だったな。
令子は小判とか、金塊とかもらったらころりと機嫌をなおしていたけれどな。

「そうね。今の日本、あるいは世界なら横島君をとりこにしようとするかもしれないわね」

「昨日の火角結界を解除したのも、これで『視』認をして、解除用のコードを判別したんです。
 けど、文珠だけだと、それほどたいしたものでもないんですよ」

「えっ?」

「これ以上は、話すよりも文珠をつかって『伝』えます。いいですよね?」

院雅さんが頷いたところで、俺は令子にあったところから、大きな事件に関する内容を感情を殺しながらレポート風のイメージで伝える。
世界を選ぶかルシオラを選ぶかなんてのを伝えるのはごめんだから、そういう個人情報などもさけているので、淡々としたレポート的に受け取っていると思うのだが。

「あ、あ、貴方って未来からきたの? そのせいで一番古く考えられるのは平安時代からあなたの世界と分岐している世界となってしまっているって? そんな……」

多分、それであっていると思うんだよな。あとは中世ヨーロッパでカオスとかとあったことが影響を与えているかもしれないけれどな。
調べてみる限り、過去の記憶にある大きな事件で時間のずれは無い。
俺の知らないところでおこっているかもしれないが、影響範囲は極めて限定的だ。
わかっている限りでは、ひのめちゃんが大きくなっていたり、残っていなかったはずの二鬼家や芦家があったり、GS試験の事件が1年はやかったり。
芦家は芦財閥なんてふざけたもののかわりなのかもしれないが、このまま順調にすすめば1年後にはGSとしてトップクラスにいるだろう。
それとも魔族化していたのかもしれないが、どちらにしても俺のいた前の世界ではなかったはずだ。

かなり簡略にしてレポート風にして『伝』えたが、院雅さんはどう判断する。
クビになるかな?


*****
文珠はあと最低1つはあります。
GS美神でもアメリカはコメリカという説はありますが、ここでは美神美智恵が使った空母がアメリカ空軍ということで、アメリカ設定にしてあります。

2011.03.29:初出



[26632] リポート10 史上最大の臨海学校(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/30 22:03
院雅さんはしばらく考えていたようだが聞こえてきた声は、

「直接戦力にはなれないけれど、情報ならうまくすれば入手できるかもしれないわね」

俺は改めて院雅さんの顔をみつめて、その一言で俺は院雅除霊事務所に残ることになったのを理解した。

「多少は時間に誤差はあるかもしれませんが、情報を集めるってだけでも結構危険ですよ」

院雅さんの決意を知りたくてあえて危険を強調するが、

「どうせ、全員そのアシュタロスの核ハイジャック事件や、その後の霊障にあうんだろう?」

「多分、そうですね」

「知ってしまってから忘れるなんていうのは少なくとも私の流儀じゃないわよ。それに意外な人生になりそうだしね」

「本気ですか?」

「本気よ……ただ、貴方の煩悩を満足させようとはおもわないけれどね。ふっふっふっ」

えーい。俺の性癖まで暴露したのにそれはなんだっと言いたいのは少しばかりあったが、味方になる人物ができて安堵している俺がいる。
こうきまったら怪しさの可能性がある芦鳥子には、

「この事務所は人手がたりないわけじゃないから、GS協会でGS見習いになれるところを紹介してもらったら良いわよ」

とビジネス風の笑顔で対応していた。
しかし、女って、いくつ顔を使い分けているんだ? 謎だ。


学校では愛子に、

「GS試験合格したよ。正式な免許証と院雅さんからの移管状が届いたら、俺が愛子の保護者ということになるからな」

愛子がもじもじとしている間に、

「なんだとお前、愛子をひとりじめするつもりか」

「家に持ち帰るのか?」

「家に帰ってあんなことや、こんなことなんかするんじゃないだろうな~~」

男共の叫びはこの際無視して、

「うそー。本当に愛子が横島君のものになっちゃうの」

「馬鹿ね。保護者ってだけよ、あれは」

女生徒は男共の嫉妬よりは横島のことを買っているようだ。
愛子が次のような発言をしなければだが。

「保護者ってことは、一緒に住んで、高校生同士が同じ部屋に。しかも血のつながらないのよ。それって……隠れた青春だわ――」

「やめろ――っ!! 愛子!! そんな妄想にふけるな――っ!!」

「冗談よ。じょ・う・だ・ん」

「冗談にしては性質がわるすぎるぞ――っ!!」

まわりの男共は、すでにバットや、椅子を持ち上げていたなんてこともあったりした。


唐巣神父の教会には、ひのめちゃんに負けた芦八洋が唐巣神父にGS見習いとして入っている。
俺の時はピートを迎え入れるときだったから、無理だったのはわかるがなぜ入れるっと思ったら答えはわかった。
小竜姫さまから小判をせしめた令子が除霊事務所をたちあげようと奔走しているのだ。
それで、芦火多流が令子のところでGS見習いになるらしい。

うーん。芦火多流のアルバイト代は大丈夫なんだろうか。
ちょっと人事ながら心配だ。

その翌日には、芦鳥子が魔鈴さんのところに入ったとのことだ。
まさか、魔鈴さんがもう日本にきていたとわな。
うかつだった。知っていたらなやまないで、魔鈴さんのところに弟子入りするんだったのに。
飯もまかない食が食べられるし除霊の腕も一流の彼女のもとなら、前の性格のままなら信頼できる師匠になってくれていただろう。

魔鈴さんは白い魔女とも言われているが、魔力も行使する。
魔鈴さんの魔力は魔装術とは相性もいい。
弟子入りするのは難関だが、以前はGSの正式免許をとるために雪之丞が弟子入りしてたからな。

平日はそんなものだが金曜日から日曜日の夜は、主に俺のGS免許を正式取得を早めるための協力ということで院雅さんが霊力レベルBのものをとりよせてくれている。
今後の調査の為の調査費の捻出をかねているので、色々と調査費として使う予定である。
だから手元に入ってくる収入はあまり無いが、情報を入手するとなれば安いものだ。



そして明けた月曜日の朝に今度は愛子が、

「みんな――っ!! ニュースよニュース!!」

「あいかわらず、その手の青春っぽいことが好きだな」

「そういう妖怪なんだからいいでしょう。そんなことより、ニュースだってば! 転校生がくるのよ!」

俺はタイガーのことを思い出して、

「男か?」

そう聞くと予想は外れていて、

「女性よ! しかも3人! 全員、美少女よ!」

「おい! 美少女が3人って本当か?」

「3人全員がこのクラスにくるんじゃないでしょうけれど……」

「報道するならきちんと取材してきてくれ」

しかし、1年生の6月の初めに転校生とは珍しいな。
定員割れしているから、学校としては受け入れているんだろうな。

それで教室に現れたのは、芦火多流。
うーん、確証はないが本当にルシオラじゃないよな。ルシオラならあの言葉に反応するだろうか?
他の姉妹である鳥子と八洋は他のクラスに入っているらしい。
前回も変わったクラスだったが、今回は除霊学校になるのかよ。
下手をすると六道女学院よりGS見習いの生徒が多いぞ。
ホームルームの終わったわずかな時間だが芦火多流の席が近いので声をけてみる。

「やあ、芦さん」

「あら、横島さんもここの学校でしたの?」

「俺のことを覚えてくれているのか?」

「ええ、昨日の鳥子との試験はみせていてもらっていましたし、決勝戦やその後も」

うー、火多流みたいな美少女が見ているのを気がつかなかったって、GS試験2日目の俺ってよっぽどどうかしているぞ。

「それは気がつかなかったな。俺は鎌田勘九郎とか3,4位決定戦はみせてもらったよ。対した腕だね」

俺と火多流がGS関係者だと知って、まわりが各種反応をおこしているがこの際は無視だ。
えーい、ピートも無視をきめこむな。

「しかし、それよりも、なぜこの学校?」

「GS見習いするところへ行くのにちょうどいい場所だったのよ」

語り口調が俺の知っているルシオラと違う。やっぱりルシオラとは違うのか?
まあ、すぐにしる今日知る必要もないけど気にはなる。

「言われてみればこの学校、令子さんのところはわからないけれど、芦さんの姉妹が行くGS事務所に近いもんな」

「そうそう。私の行く予定になっている美神令子さんの事務所がきまったのよ」

「へぇ、どこだ?」

「練馬区XXXXのXXXXの一軒家よ」

はい? そこって人工幽霊一号がいるところじゃないか。
俺も下見をしているから知っているが、一発であそこをあてるか。
これは、龍神王の息子の天龍童子の事件は無いのかな?

しかし、個人につらなる歴史が異なるので、発生するのかしないのかわからん。
こればっかりは竜族にツテでももたないとわからないだろうし、妙神山に行くのも手だがいつもいくというわけにいかないしな。
令子は姉御肌のところがあるから他人のためにパーティをしたりする面もあるが、あそこで自分の事務所を開いたときにはパーティとかしなかったんだよな。
しかしこの芦三姉妹も怪しいんだよな。見た目がこれだけ違うのに三つ子だったとは。



そんな日常生活に多少の変化はあったが、現在はちゃくちゃくと院雅さんと情報集めをしている段階だ。
けれどその情報の中には、さらに頭が痛くなってくるような問題も入っている。
さてどうしようか。



そして7月中旬も早い頃に、なぜか俺は六道女学院の臨海学校についていくはめになっている。
院雅除霊事務所経由で打診がきていたのだが院雅さんにしても六道女学院とは特に関係ないし、俺は平日なので学校へ行くという理由で断っていた。
そうしたらこの学校のGS見習い全員で、六道女学院の臨海学校にいくことになった。
当然のことながら、学校も休み扱いにならないで正規の授業扱いになると聞かされている。
六道夫人、校長へおくりつけでもしたのか?

そんなわけで今現在俺たちは六道女学院の女生徒とは別に、六道家の大型ヘリにのって移動している。
それで横にすわっているのは冥子ちゃん。このぷっつん娘がいるのでハイラと一緒に仲良くしてるぞ。
ちなみにこのヘリには芦三姉妹とピートも載っている。

今回の六道女学院の臨海学校は外部から現役GS3人に、GS見習いが5人って、おキヌちゃんが臨海学校だったときより充実しているよな。
その分、何か余計なことがおきそうな気がするので、院雅さんに来てもらいたかったが、依頼を受けているわけでは無いので行けないと言われる。
ごもっともだけど、代わりに結界札を大量にもらってきている。
その他の時の臨海学校って、現役GSが2人だったのが記憶に残っているから、おキヌちゃんの時でも多少は重たくなる予感はしていたんだろうな。



今回の役割を冥子ちゃんから説明を再度ヘリの中で受ける。

「今回の除霊はね~、海流に流されてやってくるような霊なの~。
 だからみんなね~、たいして強くないのよ~。けれど、数と種類は多いから~、1年生の修行にはいいのよ~」

「それぐらいの強さなのに、この除霊にGS見習いの私たちが参加する目的をもう一度教えてほしいのだけど。六道さん」

芦火多流が真面目そうに質問している。

「同じ高校1年生でも~、女学院の生徒が除霊しているのと~、GS見習いの違いを~見せてあげてほしいのよ~」

「わかったような、わからないような」

「ようは力の格の差をみせればよいってこと?」

「あんまり本気をだされても~、自信をなくす子がいたらこまるから~、そのあたりは1人あたり~、二クラスぐらいをみてもらいたいのよね~。
 陣形がくずれかけたところをたすけてあげてほしいの~」

俺はちょっと失礼な聞き方だが、直球できいてみる。

「それだけ、今回の1年生の質はよくないのかな?」

「そうじゃないわ~、何か今年は他の年と~、違うことがおこりそうだってお母さまはいうの~」

また六道家の他力本願癖がでてきたな。
正規のGSか、六道女学院の卒業生を呼べよ。
とは思ってもここにいるGS見習いって、俺が知っている限りでは全員が日本のベスト30に入りかねない実力の持ち主だからな。

前回は海の深くにもぐらされた記憶はあるのだが、今回は同じ相手だとしてどうしたらいいかな~。



ヘリから降りたら、そこは少し昔風だが大きな観光客用ホテルがある。
俺ってここにとまらなかったし、朝まで除霊になったんだよな~

「六道女学院の生徒たちはどうしたんですか?」

六道女学院の生徒たちより遅くつくはずなのだが、なぜか俺たちの方が先についているようだった。

「そういえば横島さんって、眠っていましたからね」

ハイラが毛針を飛ばす時の霊波のこもった時の固い毛とはおもえないぐらい、ハイラの毛ざわりが心地よく、ついつい眠ってしまった。

「いや、今晩は多分徹夜に近くなるんだろう? それで、少しでも多くの睡眠を先にとっておこうと思ってな。ピート」

もちろん嘘であるのだが、決して冥子ちゃんに下手な刺激を与えたくなかったなんて理由じゃないからな。

「そこまで、考えていたのですか。僕はてっきり……」

続きが気にかかるんだけど、

「そんなことより、生徒たちはどうしたのかなぁ?」

「それならバスの前方で事故がありまして、バスがくるまで時間がかかるようです」

ああ、令子とエミさんがそっぽをむいた。
この二人の公道レースに一般車両がまきこまれたのか。
ここの結界がきれる時間までにバスは到着するんだろうか?

「バスの到着は~、3時までにはくるみたいよ~。
 結界が切れるのは4時くらいだけど~、霊たちが襲ってくるのは~、深夜ぐらいからだから~、安心してていいわよ~」

安心なのかな?
海岸線にはってある六道家がつくってある結界のせいで、あの向こうはよくわからないな。
今の俺の霊能力じゃ、沖合いの総合霊力がだいたい把握できる程度だろうけどな。
前回の通りにおそってきても、奇襲っていっても寝ている最中の奇襲で無い分、多少の余裕はできるだろう。
ただ、ちょっと気にかかることがある。

「海はそうですけど裏手の山の方って、何か霊的に乱れた感じがするんですけれど」

不自然にきこえないかちょっと心配しながら聞いてみたが、

「え~、冥子わかんない~」

「ふーん、よく気がついたわね。横島クン」

「令子も気がついていたワケ。気がついていないのかもと思っていたワケ」

「無償でおこなう趣味が無いだけよ。エミ」

二人の口ゲンカっといっても、この二人にとってはあいさつがわりのようなものだろうけれど、

「冥子ちゃん。あとで六道夫人にきいておいてもらっていい?」

この冥子の存在に気がついたふたりは、爆薬庫の隣にいるのに気がついたのかおとなしくなる。

俺は以前の冥子ちゃんとの昔風の呼び方にかわったわけだが、冥子ちゃんも気にしていないどころかすでに『お友だち』認定されていた。
そのされた時には十二神将にもあわせて歓迎されたが、ハイラの魔装術もどきでかろうじてふんばっていた。
少しばかり時間がたって半分ほど遊びつかれていったのか、少しづつ冥子ちゃんの影へもどっていく十二神将たち。

『ふー、これで安心かな』

心のなかで思って安心していたら冥子ちゃんの影へとハイラも戻っていってしまった。
そうなると魔装術もどきが解けるわけで、物理的に一番力があるビカラの体当たりで、一発で遠くに飛ばされた。
運がいいんだろうな。飛ばされなければ、残りに式神にぼろぼろにされただろうからな。次回から気をつけよう。
回想していると、

「そうね~。お母さまに~相談してみるわ~」

「それがい、いいと思うわ。そうよね、エミ」

「そういうワケ。令子」

緊張感がただよっているのはわかるのだろうが、日本に来て日の浅い芦三姉妹はのんびりとしている。
これが芝居だとしたら、かなり高度な芝居だな。
十二神将の噂は、半分冗談としかうけとっていないのかもしれないけれどな。

あれは目にしたものとか、実際に経験したものしかわからんぞ。


*****
横島の通っている学校で定員割れというのはオリ設定です。

2011.03.30:初出



[26632] リポート11 史上最大の臨海学校(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/01 22:25
ホテルでは令子の提案で一度宿の部屋へ入らせてもらう。
エミさんがピートと一緒にくっつこうとしない。
さすがは冥子ちゃん効果だ。かなりぶっそうな効果だが。
部屋はピートと同じだが、六道女学院の生徒たちがくるまでまた眠らせてもらおう。



六道女学院の生徒が到着したというので、年配の男性におこされた。
多分、この人が今回つれてこられて来た霊能力を持たない一般の先生なのだろう。
六道女学院の霊能科だけは特例で教員免許がなくても、霊能力に関しての教育で単位扱いとなるが他校では無理な話だ。
それで今回は他校の生徒である俺たちの単位のために、教員免許をもっている普通科の教師がきている。
どの教科の単位にわりふってもいいという条件もある。
今のところ休んでいないから不要なんだけど、たしか学校を休まなければいけないような事件にまきこまれた覚えがあるからな。
あまりきたくはなかったが、きてしまった以上やれることだけはやっておくか。

俺たちは授業の一環ということで、広間での六道女学院の生徒たちへ説明を一緒にうけている。
俺たちは他校からきているということで、先ほどの普通科の教師の横の方のふすま側に座っている。

六道夫人の最初の挨拶があってから他校の生徒であるが、GS見習いで除霊経験をつみにきたということで紹介が開始される。
一番最初はピートの紹介で一応エリートという意識が女生徒にあるのか、騒ぎはしないが熱い視線がいっている。
次からは芦八洋、鳥子、火多流の順番でGS試験での順位が下から順番に紹介をしているようだ。
一応仮にとはいえ1位となった俺の紹介だが、どちらかというと冷たい視線を感じるなぁ。
きたえはじめて2ヶ月半ばかりの貧弱なボウヤよりは少しは筋肉もつきだしているが、肉体的にはまだまだだし、この時期はまだもてなかったもんな。


実のところGS試験は六道女学院にてビデオでながされていたのだが、決勝戦では勘九郎とのかけあいとあとはにげまわっているようにしか見えない。
サイキック五行吸収陣までカメラでおっていればいいのだろうが、結界の一部にみえても不思議ではない位置にある。
そんなわけで悪運だけで勝ったと、大半の女生徒に思われているのが真相だったりする。
一部のわかる人間にはわかるのだが、霊能科高校1年生にそこまでもとめるのは無理がある。
そしてそれをわかっているひのめ以外にも、1人の生徒が尊敬の眼差しを送っていたりするのだが、横島の過去のもてていなかったという記憶が邪魔をしている。
横島好みの美少女なのにあわれなり。


横島は横島で、おどろいていることがある。
なぜかおキヌちゃんがいるのだ。誰か生き返らせたのか?
死津喪比女の地震をともなった霊障事件はおきていないはずだから、無事に死津喪比女を倒していてくれたらよいのだが。
そうでなければ死津喪比女を倒す算段をはやく考え出さないといけない。
まずいなぁと思いつつも、それはこれからおこるかもしれない、組織だった霊たちからを相手にして終わったときだ。


令子たち現役のインストラクターはここにきていない。
実習である除霊開始頃か、それが杞憂であったならば夕食の時間になれば会うこともできるだろう。


臨海学校での実習の説明は、おおむねヘリの中と同じ説明をされたが、違うのは山側の状況説明をされたことだ。
説明しているのはこの女学院の除霊担当の教師だが、

「祠(ほこら)が、産廃業者によるゴミの不法投棄でその中にうもれているとのことをきいています。
 こういう場合は、その祠の石神さまがお怒りになっている場合が多く、現在、山側は霊的に不安定になっています。
 ゴミの掃除はどうしようもありませんが、山側からの方にも結界をはりますので、安心して海側の除霊にはげんでください」

石神でもどの程度の霊格をもっているんだろうか。
ゴミにうもれて自分で排除できないんなら、霊力は低いんだろうな。
まあそっちはそれほど心配する必要はないのか。
山側に結界を張るということは、最悪でも山側と海側の結界の間におちてくる妖怪たちをどうにかすればいいだけだな。
楽観してたところで、俺はどのクラスの担当かなと思ったら爆弾がおちてきた。

GS組で、冥子ちゃんと組まされることになった。

「おい、まてや!!」

そうつっこみたかったが、さすがにこの場ではやめておく。

「それでは各自夕食の間までに睡眠をとっておいてください。徹夜になると思いますから寝ておかないときついですよ」

そうして解散になったところで、六道夫人に苦情を言いに行く。

「六道夫人。俺はまだGS見習いですよ。正規のGS組に入るだなんてまだまだですよ」

「あら。私の知っているところによると、GS試験に合格してから参加している除霊件数は16件で、いずれも霊力レベルBからCのものね~。
 単体の悪霊は霊力レベルBを12体、霊力レベルCを1体、霊力レベルDを33体、参考として霊力レベルEは83体の悪霊を退治したそうね~」

六道夫人はストーカーか。
霊力レベルEなんて、まともに数えていなかったから、俺よりくわしいぞ。
GS協会への最新の除霊報告書に記載されている数なんだろうな。

「正確な除霊数はおぼえていませんが、たしかにそれくらいだと思うっす。ただし所属している院雅除霊事務所って、
 基本的に低レベルの悪霊が多数いるようなところをひきうけているから、なんとなくそれくらいの数字になっただけっすよ」

「けどね、単独で霊力レベルBの悪霊を相手にできるGSって、普通の新人GSはもちろん中堅以上のGSでもほとんどいないのよ~」

たしかに美神除霊事務所でGS見習いをしていたころの、一般のGSのレベルって知らなかったが霊力レベルB以上の除霊だと複数のGSが協力することが多いからな。

「冥子~、横島君と一緒に組めるってうれしがってたわよね~」

こらこら、そこで自分の娘を武器に使ってくるか。
これで断ったら、冥子ちゃんのぷっつんの対象になるじゃないか。
いや、まてよ、逃げ道はもうひとつある。

「冥子ちゃんと一緒というのは非常にうれしいですが、今回は授業ですし、
 GSとして活動するならば院雅除霊事務所を通してもらわないと、俺の一存ではお受けできかねるっす」

うん。我ながら完璧だ。
そう思っている横島だが、六道夫人はそんなにあまくないわけで

「それなら、院雅除霊事務所は受諾して前金も入金してあるわよ~」

「聞いていないっす――っ!!」

「確認してみたら良いわよ~」

って、さっそく携帯電話だしているし。
その携帯電話を受け取ると、

「横島君、ごめんなさいね。けれど、どうせ授業として参加するんだからこれくらい問題ないでしょう。情報収集のたしになるからがんばってね」

こう一方的に言われて切れてしまった。

『例年通りの除霊実習でありますように!』

こう祈る横島であった。



少し時間がたったところで気がついた。俺ってやっぱりアホだ。痛恨のミスをしている。
単純にGSの話だけすればよかったのによりによって、

「冥子ちゃんと一緒というのは非常にうれしいです」

なんて言ってしまった。
こっちはタイムリミットまであと2年あるから、それはそっちでなんとかしよう。
タイムリミットって?
俺はこの前16歳になったばかりだから結婚できる18歳まで、あと2年ある。
六道夫人なら俺が式神と仲が良ければ、まずは冥子ちゃんとこのまま組ませたがるだろうな。
そういうことは令子のところから一時独立していた時期にあった。
うやむやになってしまったが、婚約を匂わせる発言が当時はあった気もするしな……

アシュタロスの事件までは、そういう面ではフリーでいたい。
ルシオラを助けられるなら助けてやりたいしな。
自分のエゴだともわかっているし、俺の知っていたルシオラとも違うだろう。
それでもなぜか、この時代にもどってきたんだから俺の人生で一番後悔していたことだけは解決したい。


とりあえず、話すことは話せたとばかりに六道夫人も冥子ちゃんもいなくなった。
まずは部屋にもどるかと思ったら結界がとぎれたのか、海上も遠くの方から膨大な霊力を感じる。
全体での総合霊力は大きくても、はっきりとはわからないが霊力が大きく分散している感じだな。
しかし、せっかくだし念のための処置をしておくか。
ピートには散策と言ってでかけるが、リュックを背負っていくところにつっこんでくれ。
それともピートにこういうのを期待する、俺がいけないんだろうか。

今日聞いた話と、過去の記憶を頼りに院雅さんお手製の結界札を砂浜にうめていくという地味な作業をしていく。
院雅さんって、平日は固定客の結界視察とともにその固定客との噂話で仕事をひろってきてるからな。
令子も金成木財閥とか、地獄組みとかの固定客もいたが少数だったからな。
令子とは違うスタイルだけども、将来みならうべき点はこういうところにあるのかもしれないな。



その頃、海底では

「海上の霊から報告です。結界がきえました!」

その報告をきいた妖怪の海坊主は

「うむ!……GSどもは油断しているはずだ! 去年までは霊たちの動きはゆっくりだったからな……! だが、今年はちがう!!
 私という指揮官がいるし、とっておきの作戦もあるからな!! 今夜は、GSにとっては長い夜になるだろう……!!」

そして、結界が切れたところで一斉に襲えるよう陣形をととのえつつある。



一方現在の横島の能力では霊力が存在しているのはわかるが、隊列まで整えているなんていうのはわからずせっせと結界札を海岸砂地にうめていた。
しかし、遠隔の海上の状況変化に気づき、海のかなたから霊が一斉にくることは確実だということが判明する。
まだ生徒たちは寝入ったばかりか、まだおきているだろうから一部の者は気づいているかもしれないと思いつつホテルの令子たちの部屋へ向かう。
ホテルのGSチームが仮眠しているドアを思いっきりノックというかたたきまくりながら、

「大変です。おきてください。冥子ちゃん」

だがおきてきたのは令子で寝起きのために目覚めが悪く、不機嫌だったが横島は自分の弟子でも、従業員でも丁稚でもなく冥子を呼んでいる。
これがひとつでも条件から外れていたら、けり倒して部屋にもどって眠りについていたであろう。

「うるさいわよ! 何なのよ!!」

「令子か。霊の一斉攻撃がむかってきている。すぐに対応を」

令子って言われると「令子様と呼べ」と普段はいうのだが、この寝巻き姿の自分に飛びついてこない横島は物理的にありえないと寝ぼけていた頭がはたらきだした。

「それ、本当?」

「こんな緊急時にそんな冗談とかいいませんよ」

霊力源の距離を感知すると、

「わかった。あとは、私とエミでなんとかするから冥子をよろしく」

自分の身の可愛さで万が一のぷっつんに巻き込まれないように横島に冥子をおこさせ、令子はエミと二人で六道女学院の体制を整えるべきうごきだした。
横島を冥子と二人にさせるというのか。
女性が寝ているというところに高校1年生の横島を入れるというところに令子の男女間に対しての未熟さはあるのだが、そんなことは気にはしていられない。



俺は眠っている冥子ちゃんと二人きりにされてしまった。
今はそんなときではないのにと思いつつも身体がつい反応して、顔と顔がちかづきそうになっていく。
そんなとき、

「んー、むにゃむにゃむ。令子ちゃん~~」

思わずにびゅううんっと少し離れたところで正座する。

『さっきフリーでいたいと誓ったばかりなのに、俺って奴は、俺って奴は――っ!!』

「あれ~? 横島クン~? 令子ちゃんとエミちゃんは~~?」

眠たげにぼんやりと寝巻きすがたで起き上がるが、着崩れがほとんどない。
それはおいといて、

「霊が一斉にむかってきているので、令子さんとエミさんは先に動きだしました。
 多分、六道夫人とか生徒とかをおこして、緊急で除霊の準備や作業をしているじゃないかなと」

「そ~、それじゃあ~、私も急がないといけないわね~」

緊張感もなく、寝巻きを脱ぎ始めようとする。

「ちょっと、まって――っ」

俺はくるりと反対方向を向くが、身体は部屋からでようとするのをこばんでいる。

『俺の煩悩ってやつあ……」

「横島クン~、何をしているの~」

「いえ、着替えなので、そっちを向いたら駄目かなと思って」

「う~ん、だって、今は水着よ~」

せっぱつまっていた俺はすっかりわすれていた。
そういえば、先ほどの令子もエミさんもすぐに水着姿ででてきたことを。

「そうでしたね。はっはっは」

ちょっと笑い声がかわいている。

「じゃあ~、私たちは海岸に向かいましょう~」

「へーい」

俺の精神的危機はさったが、なんかどっと疲れた。
霊の団体様ご一行がくるのに、こんなんじゃあいけない。
自業自得なんだけど。

ホテルの出口で冥子ちゃんはウマの式神であるインダラをだして横のりしているのはいいが、

「横島クン~、一緒にのらないの~。普通に走っていたら~、遅くなるわよ~」

間延びした口調ではあるが、それは正しい。
しかし、ウマタイプのインダラへ一緒に乗るということは肌が密着しているわけで、俺の煩悩がもつだろうか。

「横島クン~、はやくしないと~、大変なことになるんでしょう~」

俺はなるべく冥子ちゃんに触れないようにインダラに乗ると、

「腰に手をまわさないと~、途中で落ちちゃうわよ~」

冥子ちゃんは俺に対しての危機感が無いんだろうな。
俺がそういうそぶりをみせていないからな。
しぶしぶだがちょっとばかり水着越しに冥子ちゃんの身体を堪能していたら、

「いくわよ~」

そう間延びした声とともに、インダラが走り出すがその加速感のすごいこと。
思わず振り落とされないように冥子ちゃんにつかまっていると、冥子ちゃんを堪能するほどの時間もかからないで砂浜についた。
さすが時速300Kmをだすインダラだ。
初めてのってみたけれどインダラの早さをなめていたみたいだな。

俺が砂浜についた時にはすでに令子とエミさんはきていて、令子は防御結界を展開している。
それとエミさんは霊体ボウガン班へ指示をして、幽霊達の上陸阻止を開始しだしている。
六道女学院の女生徒たち全員というわけではないが、俺が設置しておいた結界札も発動していて本格的な上陸を阻止している。

クラスの子達はまだきていない娘たちもいるようだが、霊能科教師、GS見習いの全員がいた。
ひとまず第一波は安心だろうが、第一波が舟幽霊?
はて? 記憶では悪霊が第一波だと思っていたのだが。

「冥子ちゃん。これなら、まずは安心かな?」

「そうね~~、私もそう思うわ~」

第一波がひいたころには六道女学院の女生徒たち全員と、六道夫人も最後の生徒をつれて到着していた。
普通科の先生は、ホテルで待機してもらっている。
いてもできることってあまりないどころか、邪魔だからな。

各クラス単位で、霊能科教師が前衛と後衛に班をわけなおしを指示していた。
そのどちらへにも動けるようにと2クラスの間の後衛の前の方にGS見習いメンバーが配置されている。
本来のチーム編成になるところで、俺たちGSチームは六道夫人と一緒に作戦会議を開いている。

「舟幽霊が大量にきたのにあっさりひっこむのは、げせないワケ」

「私がここの生徒だったときは散発的だったし、種類もばらばらできていたわ。例年、そうですよね? 六道のおばさま」

「そうね~。今年は普段と違うわね~」

「また、霊気いや妖気も近づいてきていますよ」

「まずは例年通りにおこなって様子をみましょう。防御側というのはそんなに手段も多くないのだから」

思ったより現時点での令子って、集団戦も理解しているんだな。
この臨海学校での実習を経験しているからか?
それで、様子をみているとおかしい。
海上を移動してきているのではなく、海中をすすんでいるようだ。
しかも線とか面とか立体ではなく2つの点として霊力を感じる。
これはなんかまずい予感がする。


*****
六道夫人に悪意はないのですが、横島君逃げられませんね。
美神令子は六道女学院卒業生で、臨海学校の除霊にも参加したことがあるということにしています。

2011.03.31:初出



[26632] リポート12 史上最大の臨海学校(その3)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/02 21:56
海中をすすんでいる霊力からまずでてきたのが小さな男性の幽霊だった。
力はそんなになさそうだぞ?

「うらめしい~~!! あああっうらめしいっ!!」

そんな声は無視されて、その幽霊に霊体ボーガンがあたるとあっさりと、

「やっと自由になれた~~!!」

そう言って成仏していったが、あれは悪霊じゃないな?
そうすると身長10m近いだろうか?
少し丸っこい感じの妖怪があらわれた。
これが先ほど感じた妖気だろう。
いくつか霊体ボーガンがささっているがたいしてきいていないようで、

「おらは『コンプレックス』夏の妖気のカゲにひしめく陰の気をすする妖怪だぎゃー」

各方向からひそひそと声がきこえてくる

「聞いたことないわね」

「知っている?」

「気持ち悪い~~!!」

「みにくいわね」

「うわ~、暗そう」

なんか、女子高生の容赦のない声が響いていると、

「おらは、おみゃーら人間のマイナス思念が固まってできた妖怪だぎゃー!!
 おみゃーらGSの卵たちは修行漬けで男とデートのしたことの無い娘たちも多数いるだろう」

そういって指をさされていった女生徒たちが、図星なのか頭をかかえこみだしている。

「うっとしいワケ!! 霊体貫通波!!」

最後まで言わせきらずに攻撃するエミさんって、お約束をやぶってしまうのね。

「ぐふっ…だが…おでは必ずよみがえる…! そこに人間のマイナス思念がある限り…おらは…」

令子は「…最後までうっとーしい奴…だまって消えろっての!」と言っている。

なんか先ほどまで頭をかかえていた女生徒たちは、

「来年もくるのかしら。そうしたら来年の1年生は可哀想ね……」

「どっかから流されてきただけだから、来年は別の場所じゃないかしら」

そうフォローを入れている令子だが、あまり自信はなさそうだ。
そうしているうちにもうひとつの霊気が海中から姿を現すと、

「えっ!? あれって霊団なワケ!?」

「あんな群生体、女生徒たちでは相手にできないわ!!」

おキヌちゃんを護ろうとして『護』の文珠を使ったときと同じくらいの霊団だ。
さらにまだ遠方だが、この霊団の支援のためか悪霊達が第二派としてこようとしている。
前回の臨海学校と大きくことなっているぞ。いったいどうなっているんだ?

霊団を見た時、おキヌちゃんを思いだしたが、ここの六道女学院にいるのはおキヌちゃんか?
試しに聞いてみる。

「この学年にネクロマンサーはいませんか?」

うん? エミさんがなんか苦々しげな表情をしている。
おキヌちゃんがネクロマンサーとして幽霊から復活した時なんかわざわざ歓迎したぐらいなんだけどな。

「この霊団を相手にできるような世界に4人いるかどうかぐらいの高位で貴重な人材がいるわけないでしょう。横島!!」

霊団の除霊の困難さを理解している令子はいらだっている。

「そ~ね。残念ながらいないわね~」

六道夫人もそう言うし、あの娘がおキヌちゃんだとしてもネクロマンサーじゃないのか。
ここは腹を一つくくるか。

「俺に作戦があります。聞いてくれますか?」

「横島クンに?」

「あら、聞いてみたいわね~」

六道夫人も賛同したし、他のメンバーもアイデアがないのかこちらを見ているので大雑把に作戦を話す。

「そんな、危険なんてより自殺ものじゃない!! 横島クン!!」

「見習いとはいえGSやっている以上危険なのは承知しています。これ以外で短時間でおこなえる作戦案のある人はいますか?」

霊団の動きが遅くてこちらの結界にまだとどいていないが、その後ろには悪霊達の第二派がひしめいている。
こいつらが合体したら、もうここにいるメンバーではどんな手をつかっても無理だろう。

「賭けってワケ」

「私も信じちゃうわ~」

六道夫人のその信じるって根拠はどこからでてくるんだよ。

「じゃあ、さっそく行きますので、式神をだして。冥子ちゃん」

「シンダラちゃん~、アジラちゃん~、サンチラちゃん、ハイラちゃん~。横島クンのこと~まもってあげてね~」

火を吹いて相手を石化するアジラ、電撃攻撃を行うサンチラと、俺の魔装術もどきを行うのに必要なハイラが空を飛べるシンダラにのる。
俺自身が飛ぶのは『サイキック炎の狐』だ。
現存する魔法の箒(ほうき)で、俺にとって過去に初めて載らされた魔法の箒だ。
これが原体験となっているのか、空を自分の能力でとぼうとして思考錯誤してできたのがこれだったりする。
以前は音速の壁を越えて飛ばしてしまったので壊してしまったが、やっぱり飛べる能力がないと魔族や神族を相手にするのはつらすぎる。
文珠で飛ぶのだと文珠の生産が間に合わないしって、そんな事を思っているのも時間的にもったいない。

さっそくでてきた式神たちと一緒に、サイキック炎の狐にまたがって霊団へ向かう。
このむかっている最中に、ハイラの魔装術もどきをおこなってもらう。
これで準備は完了だ。
あとは霊団のまわりに悪霊がちかよれないように、比較的長距離攻撃ができるアジラ、サンチラで霊団の外周部を攻撃してもらう。
それと悪霊が近づけないようにしてもらったりもしている。

俺は魔装術もどきを使って、霊団の中につっこむ。
まわりにはその後、中央にいる悪霊をかたっぱなしに斬ると言っておいた。
霊団に霊的な中枢はなくとも中心部になるほど霊が密集しているので、ここを叩くのが最短時間ですむ方法だ。
これも魔装術もどきがあるからこそできる荒業だが、もうひとつ俺の奥の手である文珠を使うことにしてあった。

だって、痛いのキライだし。
『成』『仏』と2文字で文珠2個を制御すれば、これぐらいの霊団ならきれいにかたづけられるはずだがそれだとさすがにまずい。
『浄』化の1文字ですませてあとは霊団にあいた隙間からサイキックソーサを5枚なげつけて、爆発させないようにしながら斬らせまくる。
さらに右手には霊波刀を、左手にはサイキック小太刀をつくる。
霊波刀だが栄光の手ではなく、人狼が使用する霊波刀と同じで大きさは霊力に合わせて形状は大きく変更することはできない。
この魔装術もどきの間なら栄光の手もつかえるが、これ以上の能力がだせるのを見せるのもまだ問題だろう。

これで霊団内部の霊をかたっぱしからきっていくのと、霊を外部からそぎとるように攻撃をかけているアジラ、サンチラがみえはじめてきた。
地上からは霊波砲を放ってくれている生徒たちもいる。
長期戦になるから無理は俺だけでいいのにな。
その霊波砲を放っている生徒の中におキヌちゃんがいた。
いや、おキヌちゃんは霊波砲が使えなかったし、覚えている霊波とは違う。
おキヌちゃんじゃなかったのか。
残念な気持ちとよかったという気持ちが入り混じる中、霊団が維持できなくなり悪霊達はばらばらとなっていく。
さて、ひきあげどきだと思ったら六道夫人が、霊視能力が非常に高いクビラを頭のうえにのせている。
もしかしたら、文珠の件もばれたかな?
悩むのはあとだ。

まずはサイキックソーサを全て回収して、これからの長い夜のために霊力の消耗をおさえておく。
そして魔装術もどきをハイラに解いてもらって地上に舞い戻ったところで、

「ずいぶんとはやかったわね~」

のほほんとたずねてくる六道夫人。

「もっと時間がかかると思っていたわよ? 横島クン」

「私も令子と同感なワケ。説明してくれるワケ。横島」

ちょっとあせっていて除霊の時間が短すぎたか。

「それよりも、あの悪霊の第二派を」

「そういっても逃げられないわよ!! 横島クン!!」

「そういうワケ」

「私もしりたいわね~。あの霊団の中での強力で全体にひろがっていったようなのについてね~」

六道夫人にはクビラである程度まで見えていたが『浄』の文珠までのことはわかっていないことを祈ろう。

「えーと、あれは、全身から霊波を一気に放出したんです。放出系は苦手なんでまわりにとめられると思って言わなかったんですが、運良く成功したんですよ」

実際にはやりたくはないが『ヨコシマン バーニングファィヤ メガクラッシュ』という技が使える。
韋駄天の八兵衛がつかっていたわざだが、生身の状態で使ったら霊力を全てつかってしまう。
魔装術もどきを使えば多分全部の霊力を使用しなくてもできるだろうが、かなり霊力を消耗するのは確かだろうし、これ叫ばないと使えないのがもっと嫌だ。

「そういえば、GS試験でも霊波砲はつかっていたけれど、あれは変に収束していたものね」

「ええ。見ていましたか。なので、全体に出すのも成功する確率は五分五分ぐらいだったんですよ、実は」

余計なことを言ったが、

「運も実力のうちね~ 第二派もそろそろ後半戦にはいりそうだから、疲れのでてきている生徒を休ませるなどみてきてあげてね~。横島くんも休んでね~」

「へーい」

なんとかごまかしきったか。
しかしせっかくの夕日の良い時間帯だったのに、芦火多流とまた話がこの時間帯にできなかったなぁ。



もうちょっと違った能力にみえたのよね~
横島くんは隠したがっているみたいだから~、嫌われないようにしないとね~
しかしGS試験での隠行といい、今回の件といいどれだけ多才なのかしら~
さすがは『村枝の紅ユリ』の息子といったところかしら~



GS試験の対雪之丞戦でしっかりと目をつけられていた横島だった。
六道夫人は霊能力を見る眼だけはたしかなものがある。
霊能科への入学試験や編入試験でも面接で霊能力を見定めたりしていたりするのだし、こうやって各種実習で生徒たちの能力をみたりしているのだから。
とはいっても娘への教育はうまくいっていないようだが。



「海上の霊から新たな報告です。コンプレックスと霊団が短時間で除霊されました!!」

「計算外だが、その分GSの霊力も消費しているはずだ。
 第二派をひきあげさせて、第三派の投入と、コマンドを出して敵の陣をくずせ!!」

実際、GSも霊団のために霊波砲の放出で霊力が乏しい生徒がでだしてきている。
その上、上空からコマンド部隊が降下しだしてきたが、山側にも結界がはってあるためにコマンドの投入はそれほど効果をあげない。
その間に気がついたのは、

「なんか~、いつもとちがって組織的ね~」

六道夫人だった。

「っということは、今回は指揮官がいると思っていいですね。おばさま」

「そうね~」

令子は考える。
ここにいる敵は、海の中だ。
指揮官になれるぐらいならば力関係を重視する妖怪ならば、霊格も違うのが一般的だ。
指揮官をみつけて倒せば、霊の統率は乱れ例年通りになる。
そうなれば、まだ生徒が中心でも戦えるだろう。
みつけるのは霊格は違うはずだから簡単だ。
しかし、問題はどうやって海の中にいるであろう指揮官を倒すかだ。
自分の事務所のGS見習いが普通の人間であるので除外。
一瞬横島のことも浮かんだが、あの霊団相手に霊力を消耗しているしこのあとの長期戦では必要だろう。
もう一人ピンときた人物がいた。その相手も長期戦にむいているし現在の横島よりは信頼できている。
その相手にむかってひとこと、

「来なさい!!」

呼ばれたのは弟弟子にあたるピート。
ピートならば人間の肉体をはるかに超越するバンパイアハーフだし、バンパイアは流水は渡れないとかの伝説もあるが渡れないだけだから沈むだけである。
しばらくすれば溺死することもあるが、鎖でひっぱりあげれば問題なしと令子の中ではソロバンがはじかれていた。

横島は自分で考えだした『サイキック銛』を使用しようかと思っていたところだったが、結局は流されるままのピートを静かに応援してただけだった。

GSチームからピートの変わりに入ったのでブーイングが飛ぶかと思っていたら、さすがにそんな余裕が無いように見える。
見えるのは横島だけで、先ほどの霊団への単騎突入で無事生還してきたところをみている生徒たちには尊敬の念をおくられているのだったりする。
そこはそれ過去の記憶が邪魔をして、冷たい視線をなげかけられているような気がしている。

横島も自分好みの女生徒の水着姿をチラチラみながら煩悩パワーをためて、悪霊達へ攻撃をしているので霊力の減りが遅くなっていたりする。
もうちょっと年上の女生徒たちならば煩悩パワーも減らないのであろうが、それはこの場合は仕方が無いだろう。

霊力を減らしていく生徒たちをフォローするように中距離はサイキックソーサーで、近距離では霊波刀を行使して動きまわっているがその動きはゴキブリのごとく。
一部ではその攻撃力や機動力に関心をしながらも嫌悪感がなぜかわきあがって、尊敬できると頭ではわかっていても感情が拒否反応をおこしたりする女生徒たち。

そしてある瞬間から突如、悪霊たちの動きが乱れた。
指揮官からの伝達がとだえたのであろうと、横島は過去の経験から判断して行動する。

「ひのめちゃん。お願いだから、火竜をつかって」

「そうすると、私の霊力がかなり減るんですけど」

「今は、きっと悪霊達に指令がとどかない状態になっているようだ。
 令子さんが何かしたのだろう。このチャンスをつかって遠距離までの攻撃をしたら、いっきに相手が崩れるはずだ」

「そういうもんですか?」

「戦いには転機のチャンスがある。今がその時だ。お願いする」


普段、姉の令子にとびかかっては蹴られたり、なぐられたりして落とされている男だが自分にはそういう行動をされたことがない。
そんな横島のことを多少は冷ややかにみているひのめだ。
かかってこられるのは自分ではないのと、それは女として魅力が無いのかしら? というちょっとしたジレンマをもっていたりする。
しかし、霊能力に関しての知識については信用している。

「ええ、やってみます。まかせてください。横島さん」

「お願い。いい子だから」

「お子さま扱いもやめて下さい」

「わかったから、早くお願い」

そして、ひのめの発火能力を利用した炎の塊から火竜が形成されて、横島が指示した方向へ火竜を放つ。
一番、敵勢力密度の高いところだ。
悪霊、妖怪たちをやきつくすようにすすんでいくが、あいにく海上ということでひのめ自身が思ったほどは遠くまで飛んでいなかった。
しかし、予測を超えた火竜の威力には横島がおどろいていた。
この火竜、ひのめ自身は気づいていないが、浄化の能力もあるので一度妖力や魔力でにごり始めていた海水を浄化もしている。
そんなわけで後方から伝達はこなくて、前方からは聞かされていなかった高い霊力を何回か検知している。
さらに、海水が浄化されたものだから残っている悪霊達は完全にパニックにおちいっていた。

こうして完全に勢力は、六道女学院にむく。
霊力が残り少なくなったものも、霊力消費が少ない破魔札を使用したり遠距離系が得意なものは霊体ボーガンの使用へと切り替える。
悪霊たちの攻撃も乱雑になり、各個撃破の対象になっていった。
そんな攻防をくりかえしているうちに令子とピートもかえってきて、さらに朝となり外の結界が再起動して六道女学院側の勝利に終わる。

ちなみに山側に落ちたコマンドたちは、全て水妖であり、長時間の陸上での活動にむいていなくて結界があったために全滅したとだけ追加しておこう。
最後は、人数の確認をして全員無事であることがわかった。

普通ならめでたしめでたしだが、つかれきっている生徒たちをホテルへつれて寝かせるという作業がまっている。
霊力も精神力も体力もとぎれている女生徒たちに、他人の面倒まで見れるものは少なく、横島はこれ幸いとばかり背中に女生徒を背負ってホテルまでの往復をする。
目的は背中の感触だがその途中、六道夫人が妖怪たちから、

「じゃ、ボクたち撤退します――」

「は~~い、また来年ね~~~~!!」

『それじゃ、妖怪たちにあばれてもらって、お金をもらうあこぎな商売じゃないか』

そう心の中だけでつっこむ横島だった。



[26632] リポート13 温泉へ行こう
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/02 21:57
「これ、どうしようかしら」

院雅さんがこまったように、GS協会の除霊依頼書の写しをもってきていた。
俺が目を通すとそこには『人骨温泉』と依頼元の地名が載っている。
思っていたよりも早くおキヌちゃんとあえるかもしれないっというよりは、巫女の衣装をきた若い娘の幽霊が時々見られるという情報を入手している。
多分おキヌちゃんだろう。それよりも除霊対象になっているのが、男性の幽霊としか書かれていない。
推定霊力レベルはC~Dと多少変動しているが、地方の調査した霊能者からの報告だから、あまり経験は無いらしいからな。
せめて山男風とか書いていてくれればいいのだろうが、同じ道をたどるとは限らない。
それはそれとして、もう少ししたら夏休み。
今度の依頼は夏休みシーズンをにらんだ集客で影響がでる前に幽霊をなんとかしたいのだろう。
相場観が異なるのか、霊力の変動幅を見込んでも若干安めの除霊代金だ。
これだと一番GSが多い東京から、わざわざ行く人間も少ないだろう。
多少ほっておいても大丈夫かもしれないが、おキヌちゃんらしき幽霊が目撃されているのが気にかかる。
悪霊化がはじまろうとしている前兆なのか?
300年も自分の本当の意義がわからず、幽霊をしているという気分は、わからないがやっぱり助けてあげたい。
それよりも

「死津喪比女をなんとかする手段を思いつかないっす」

「除霊経験なら、横島さんの方が長いでしょう?」

最近は院雅さんと二人きりなら、横島君から横島さんと言うようになってきている。
まあ、肉体年齢は院雅さんよりも下だが人生暦は長いからな。

「前のは、完全に運だのみが大きかったし、おキヌちゃんを特攻させちゃったから……死津喪比女が地上にでてこないとね。
 それと早めに死津喪比女を倒すと、それとは異なった霊障が、東京を襲うことになるからな~~」

「それが歴史の修正力?」

「そうだけど、それも確実といえないところが悩ましくて……」

「えっ? そうなの?」

「俺の意識のみが未来からもどってきていることにより、多分平安時代か、中世ヨーロッパに行った事で、今の関係がずれていると思うんですよ。
 そのせいで、現在のこの時点では、大きな事象では変化が少ないのに、個人の差はそれなりにでています」

「そうね。美神美智恵さん、令子さんの母親がイギリスで西条さんとICPOに行っていて生きているというのがね」

「そう。美智恵さんが今いるということは、令子が狙われていないということにつながるか、
 美智恵さん自身が時間移動の能力に目覚めなかったという可能性がある」

「それで、まよっているの?」

「……そうなんだ」

「未来なんか、私にはわからないことなんだし、貴方もそんなこと気にするのをやめたら?」

「えっ?」

「確かに未来を知っているというのは貴方のアドバンテージでしょうけど、それにしばられすぎると、この前の臨海学校みたいなことがおこるわけよね?」

あたっているだけに痛いところをつかれたというところだ。

「まずは、貴方にとって大事なおキヌちゃんを救ってあげてから、おこることに対処してみたら?」

「……そうだな。やっぱり、それが俺らしいよな。ところで院雅さん」

「うん? なに?」

「今まで聞いていなかったんだけど、院雅さんって魔装術を使えていたんだよね」

「……そうね。今は使っても意味は無いし」

「その時の魔族と、未だに交流はある?」

「あるけれど、なぜきくの?」

「死津喪比女退治を手伝ってくれないかなと」

「無理ね。あの魔族には地中の妖怪を相手にする能力はないし、交流といっても契約の一環としての交流だから、手伝ってはくれないと思うわよ」

「まあ、普通は何か代償が必要だもんな」

うーん。院雅さんと契約した魔族の名前を教えてくれないんだよな。
真名ならともかく地上での仮の名ぐらいは、教えてくれてもよさそうなんだけどな。
小竜姫さまとかの地上に現れる高位な神族や、それに若干おとるとしてもワルキューレあたりだと魔族としての仮の名だしな。

今回は死津喪比女退治退治はあきらめて、なんとかできるかはやめに検討しておくか。



今回は『見鬼くん』をもっていくことにする。
いつもは街中できまった範囲の除霊をしないから、院雅除霊事務所では中々出番の無い道具だ。
こいつがあれば霊気の強い方向をさしてくれるので、お手軽に幽霊を探すことができる。
まあ、霊波調は霊体にあわせてあるから、多少霊気力がある人間がいても、そちらの方向には向かない。
ただ、雑霊にも反応するのが欠点なんだが。

それで、金曜日の夕方から向かうは人骨温泉ホテル。
念のために2泊3日でとまることにしている。
ちなみに人骨温泉の近くまではJRで移動してそのあとはレンタカーだ。
しかし、院雅さんの運転がちょっと、怖い。
俺が変わりに運転したいぐらいだ。
だってねぇ、初心者丸出しっぽい運転だから怖くて。
そんなに対した距離じゃないのに、これだけの恐怖感を覚えたのはいつ以来だろうか。

以前のおキヌちゃんに教えてもらった落石注意の看板の場所で一旦おりる。
もうすぐ日が落ちるところで『霊視ゴーグル』でみわたしてみるが、はっきりした霊の痕跡は無し。
とりあえず、今はいないみたいだ。
まあ、普通はもっと早く温泉につくからその人達を見におキヌちゃんはきているのかな?

人骨温泉ホテルでは、夜な夜な幽霊がでる部屋があるという。
えーと、前は単純に露天風呂だったよな。
また以前と微妙に変わっている。たしか前は昼間にもでていたはずだよな。
さすがに昔の俺でも夜間の雪の中を進駐したいと思わないはずだよな。
男のことは覚えていないのが昔の俺らしいというか、ビバークした時は雪でまわりがくらくなってきたのは覚えているけどな。

温泉に泊まるも俺は、

「院雅さん、温泉付きの部屋にとまらないんですか?」

「横島さんのためにとってきた仕事なのよ。自分で片付けなさいよ」

ごもっとも。
折角のホテル温泉付き部屋なのに一人さびしく幽霊をまっている。
『見鬼くん』で見る限り、自縛霊ではないことまではわかる。

院雅さんは隣の部屋で何をやっているんだろうか?
ちょっと興味を持ちながら温泉につかろうとしていると、バラエティ番組の音がしてくる。

「ふむ。院雅さんって、こういう趣味があったんだな」

そういえば魔装術をさずけた魔族の話もそうだが、プライベートな話題はあまりしないよな。
俺が文珠で俺にとっては過去になることも、プライベートにかかわることはかなりさっぴいたけれどな。
煩悩が今現在一番の霊能力源だがそれだけではないということを。

あまり長く風呂につかると湯あたりをしてしまう。
適当にテレビ番組をみているが、山中のせいなのか番組のチャンネル数が少ない。
結局ぼーっとテレビ番組を見続けながら、でてくるという幽霊を待っていたがあらわれなかった。
一日目は、でてこなかったな。
そういえば、毎晩でるわけでないから2泊3日という予定にしていたんだもんな。
電話がなるのででると院雅さんだ。

「どうだった?」

「幽霊はでてこなくて待ちぼうけでいたよ」

「そうね。やっぱり、最低二晩は必要でしょ?」

「そうっすね。セオリーかな。けれど、一応、こちらは高校生の身分なので」

「何言っているのよ。エセ高校生のくせに」

「まあ、それを言われるとね」

「朝食でもとって、今日のことを話し合いましょう」

「うっす」

軽くミーティングをしながら、朝食をとる。
結局俺は午前中は仮眠をとって、午後からはおキヌちゃん探しだ。

この山を一人で『見鬼くん』を持ちながら探している。
えーい、わかってはいたけど、院雅さんはついてきてくれない。
話相手ぐらいはほしいっと思いながらも『見鬼くん』の指さす方向にむかっていくと、雑霊だ。
霊力が低いから悪霊になりにくいのだが『見鬼くん』にひっかかる。
この山は死津喪比女がいただけあって、竜脈……地脈とも普通は呼ぶが、それがあつまってきているだけあって雑霊も多くいる。
おキヌちゃん探しを軽く考えていたが今回は無理かな?

もうひとつは死津喪比女の居場所を探すことだが、こちらは院雅さんがついでに人骨温泉のふもとの街で聞いてくれている。
何をって?
作物がなりにくいところとか、草木が生えにくいところだ。
死津喪比女が地脈からきりはなされているということは、その周辺の土地も地脈の恩赦をうけないので草木がまっさきに影響をうける。
地脈がどうなっているかなんていうのは表面まであがってきてくれていないと、普通はわからないからまわりくどい手だがこれでだいたいの居場所は推測できる。
だからといって、死津喪比女を地表にひっぱりだせるかが問題だけどな。

あらたに『見鬼くん』にひっかかった霊はというと未来では、この山で山の神としてさわがしかったワンダーホーゲルだ。
そういえば、こいつもこの山の神になったときから本名をなのらなかったな。

「そこの山男風の幽霊さん、聞こえるかい?」

驚いたように振り返りながら

「じっ…自分が見えるっスか?」

「ああ、声も聞こえているぞ! 一応見習いだけどGSだからな」

「嬉しいッス。周りの誰にも気がつかれなかったし、今の季節はいいっスけど、冬は寒いであります!!」

「ちなみに俺は横島。幽霊さがしをしているんだけど、手伝ってくれないかな?」

「手伝うでありますが……なら、条件があるっス」

想像はつくがきいておくか。

「どんな条件だ?」

「自分の死体をみつけてくれないっすか。それで供養をしてほしいであります」

「じゃぁ、目的の幽霊探しが成功したら、その条件をのもう」

いや、まるっきりもって条件を飲む気はないのだが、こう言っておかないとこいつ手伝ってくれないだろうしな。

「探すのを手伝うだけじゃ駄目っスか?」

「ああ。しかも今晩はホテルにとまって仕事があるし、明日は夕刻には帰る予定だから、今日、明日だけしか時間がないからそのつもりで」

「……わかったっス。その条件でいいであります」

よし、これでこいつと無駄にいる時間を減らすことができる。

「えーと、探しているのは、巫女姿の15歳ぐらいの女の子の幽霊なんだが」

「この辺では有名であります」

「どんなふうに?」

「あの子は姿形もはっきりしているのに、俺たち他の幽霊が見えていないみたいっスよ。それで噂になっているっす」

あの道士、そこまで考えていなかったな。
それなりに雑霊が多いのに、この場所で300年、一人ぼっちとしか感じなかったのは。

「たまにいるタイプの幽霊だな。他の幽霊は見えないか、見えづらい幽霊がいるんだよ」

「そうなんっスか?」

「もしくは……推測になるからやめておこう。まあ、そういうタイプの幽霊がいるっていうことだ」

「そうっスか。だいたいいる場所は知っているっスから、時間がないならさっそく向かうっス」

ワンダーホーゲルをついていくと、下の方にむかっている。

「横島サン、俺、嬉しいっスよ!」

「何が?」

「死んだあとも、今は降りるだけとはいえ、男同士ですごせるなんて」

ああ、肝心なことをわすれていた。
こいつも、なんとなくそのケがある奴だったな。

「勝手に喜ぶのはいいが、成仏したかったら、さっきいった幽霊さんをさがそうな」

「もう少しっスから」

そういうと、みえてきた。
うんおキヌちゃんだ。
ちょっとさみしそうにしているな。

「そこの巫女姿の幽霊さん」

「えっ? 私のことをみても逃げ出さないんですか?」

「ああ、GSっといっても通じないかな。道士や神主、宮司に近い感じで、幽霊を助けるのを専門にしているんだよ。
 それで、俺の名前は横島忠夫。幽霊さんの名前は?」

後ろで『自分の名前は尋ねなかったくせに』と呟きはきこえるが無視しておこう。

「私はキヌといって、300年ほど昔に死んだ娘です。山の噴火を沈めるために人柱になったんですが……普通そういう霊は地方の神様になるんです。
 でも、私才能なくて、成仏できないし、神様にもなれないし…」

「後ろの幽霊、今の話は聞こえていたか?」

「ええ、聞こえていたっス」

「他に幽霊がいるんですか?」

今のおキヌちゃんだと霊力の弱い幽霊は見えていないんだな。
多分、霊的システムによって地脈にくくりつけられたせいで弱い霊を感知できないんだろう。
推測でしかないから、道士にあったらきいてみないとな。

「ああ、おキヌちゃんといったね。山から神の候補がいなくなるのはまずいことだから、後ろにいる幽霊がなりたいと言ったら、入れ替えをしてあげるけど」

「ええ、本当ですか?」

「山の神様……候補かもしれないけれど?」

「まあ、才能の問題があるかもしれないけれどな」

「挑戦するっス!! やらせてほしいっス!! 俺たちゃ街には住めないっス!!」

「後ろの幽霊は山の神様になりたいって言っているから、おキヌちゃん入れ替えわってみる?」

『うん』といってほしいのだが

「そこに本当に幽霊が居るんですか?」

「ああ。多分だけど、おキヌちゃんがこの地脈から切り離されたら、見えるようになると思う。入れ替わってみるかい?」

「はいっ!!」

「じゃあ、儀式をおこなうから、おキヌちゃんはそこにたっていて、後ろの山男はそのおキヌちゃんの横にならんでくれ」

俺の能力からいうと令子と同じ手法はとれないので、別の方法となる。
五枚の五角形のサイキックソーサーだが、黄色がかっているのを二人の周辺に配置する。

「サイキック五行黄竜陣!!」

地脈を制御できる黄竜にちなんだ陣だ。
これで、地脈に干渉ができる。

「この地の力よ。少女の幽霊より、男性の幽霊へ流れを変えたまえ…!!」

サイキック五行黄竜陣も含めてそれっぽく言葉はとなえているが、言葉もなく意思だけでも入れ替えが可能なんだけどね。
いきなり入れ替わるよりは心の準備もできていただろう。
山男は白い袴姿になって弓と矢と矢筒をもった姿になった。
一方おキヌちゃんは

「あれぇ? いきなりとなりに男の人がいます」

「これで、自分は山の神様っスねーっ!!」

「とりあえずはね。がんばって修行してくれ!!」

「おおっ、はるか神々の住む巨峰になだれの音がこだまするっスよ~」

「いや、もうその時期すぎているから、って、とんでいっちゃったな」

うん、後先考えずに移動する奴だな。

「ありがとうございました。これで私も成仏できます」

「うーん、できるかな?」

「えっ?」

「いや気にしないで、いいよ」

「そうですか。短い間でしたけど、さよなら……」

地脈から切り離したけれど、霊体が安定しきっているおキヌちゃんは、

「あの……つかぬことをうかがいますが、成仏ってどうやるんですか?」

「長いこと地脈に縛りつけられたから、安定しちゃったんだよ。
 最近ちょくちょく人が見えるところにでてくる幽霊がいるということで、悪霊化していないか調査しにきたのが今回の目的だったんだよね。
 悪霊なら成仏させるけれど、そうでなかったら自分の意思で成仏してもらうんだ。俺の除霊方法って、悪霊でもかなり痛いらしいからおすすめはできないよ」

「かなり痛いんですか……そうしたら、私どうしたらいいのでしょう?」

「地脈から離れたら序々に不安定になると思うから、それで自然に成仏できると思うよ。
 折角だから東京、昔でいう江戸にきてみないかい? 色々と今までできなかったことができるよ」

「それで、いいんですか?」

「うん。実際に妖怪を一人保護しているしね」

「えーと、それじゃ、ごやっかいになります」

そして、俺はおキヌちゃんと話をしながら人骨温泉ホテルに向かっている。
院雅さんにおキヌちゃんを紹介したあとに思いがけないことことを告げられる。

「それじゃ、キヌさんは横島君のアパートで一緒ね」

はいっ?
てっきり院雅除霊事務所で寝泊りしてもらうのかと思っていたが思いっきり違うぞ。
あの4畳半のアパートの部屋で、幽霊とはいえ女性と二人暮し?

俺の煩悩はもつのか?


*****
地脈に縛られていた時の、おキヌちゃんが(霊)力の弱い霊を見られない状態であったというのはオリ設定です。

2011.04.02:初出


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