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「無用の長物」と化す ソフトバンク携帯震災が暴いた「儲け至上主義」

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 東日本大震災から半月が過ぎ、壊滅的な打撃をうけた携帯電話のインフラ復旧が手探りの中で進んでいる。本稿執筆の三月二十五日時点では停波基地局はドコモが八百六十局、KDDI五百二局、ソフトバンク五百七十三局まで改善したとしている。のど元はすぎたとはいえ、利用者は震災直後、無用の長物と化した携帯電話への失望感を忘れはしまい。だが復旧の途上では早くも携帯キャリア同士のさや当てが始まった。

各社全滅地域で存在感アピール

「ドコモやKDDIは通じるのにソフトバンクはまったく通じない」----。震災直後から、被害の度合いが大きかった宮城県気仙沼市や、岩手県大船渡市などからこうした不満が燎原の火のように広がっていた。

 孫正義ソフトバンク社長は、震災直後からツイッターなどを通じて積極的に発言し、菅直人首相や仙谷由人官房副長官、被災地の福島県や宮城県の知事と会談するなど、八面六臂の活動を続けているが、「政治パフォーマンスばかりで通信会社の責務を果たしていない」と批判が広がった。

 基地局は携帯電話サービスの生命線であり、最大手のドコモが全国に十万五千局、KDDIが五万七千局、もっとも設備が遅れているといわれるソフトバンクも公式には十二万局まで設置を進めている(二月現在)。ただ各社とも全国での設置分布までは公表していない。ソフトバンクは「そもそもどんな基地局をカウントしているのかわからないうえ、都市圏など需要の多い地域に重点配備したのが裏目にでた」(総務省関係者)との見方が多い。

 あまりの不通状態に業を煮やした地元テレビ局「岩手めんこいテレビ」はウェブ上でソフトバンク携帯の通信状況を特設ページで監視しはじめた。それによると震災から十日以上たった三月二十三日時点でも陸前高田市、大船渡市、大槌町、田野畑村など六市町村で「全域使用不可」が続いている。「復旧に手間取っているというより、ほとんど手を付けていないのではないか」(同関係者)というほどだ。

 この関係者の言うとおり、ソフトバンクは意識的に復旧に手を抜いているフシがある。
「NTTドコモやKDDIの携帯電話基地局が残っている場所ではソフトバンクの携帯も使えるようにローミング義務を課すべきだ」----。携帯各社が倒壊・断線した基地局の復旧を急いでいた三月下旬、ソフトバンク幹部が総務省に乗り込んでこう直談判した。自社設備が壊滅した場所では他社の基地局で通話を維持させようというわけだ。

 一方でソフトバンク社内ではこんな指示が飛んでいるという。「ドコモもauも使えないところは復旧のピッチを特別に上げろ。ドコモやauが使えるところは通常復旧作業でいい」。つまり自社設備がつぶれた場所は他社に乗っかり、全滅地域にソフトバンクの旗を立てて存在感をアピールする。トップは政治パフォーマンスに明け暮れ、幹部は総務省を揺さぶり相変わらずのタダ乗り作戦を練る----。

 ソフトバンクといえば、原口一博前総務大臣と組んで、NTTを分割し、光回線にタダ乗りする「光の道」構想で過去一年にわたり通信業界を揺るがしてきた。「未曽有の災害でもただでは起きないソフトバンク商法に恐れ入る」とライバル各社は鼻白んだ様子だ。

 復旧過程だけでなく、震災直後の不通ぶりもソフトバンクは突出していた。「ソフトバンクは禁じ手の一〇〇%規制をしていたのではないか」----。ある通信業界関係者は指摘する。

 非常時の通話規制には二つの種類がある。一つは公的機関の優先通話を確保するために基地局が自動的にかける規制。もう一つは基地局より先にある交換局において手動で行う規制だ。全国から被災地に向かう関門交換局で、トラフィック(通信量)の混雑具合を見ながらオペレーターが制御する。ソフトバンクは公式には九五%の発信規制を実施したとしている。一〇〇%の規制は電気通信の役務上禁止されている行為だ。

起こるべくして起こった通話マヒ

 W−CDMA携帯電話の国際標準化機関である3GPPは二〇〇二年に標準規格「リリース5」を採択、これ以降、音声通話(回線交換)とパケットを分離して管理できるようになった。これに対応した携帯端末は三〜四年前から販売され現在主流になっている。
 限られた周波数を音声に振り分けるか、データ通信に振り分けるかは、蛇口をひねるように携帯電話会社のさじ加減次第ということになる。

 儲からない音声通話からドル箱のデータ通信へのシフト----。ある通信アナリストは「今回の未曽有の通話マヒはこうしたトレンドの中で起こるべくして起こった」と話す。それを先導していたのが、ほかならぬソフトバンクだ。

 震災が起こるほんの一週間前、米アップルが発売を予定していたタブレット端末「iPad2」の話題で沸いていた。もはや記憶のかなたの出来事のようだが、iPadやiPhoneのみならず、続々と発売が予定されるスマートフォンが携帯電話の主役に躍り出て、携帯の用途は通話からパケット通信へと大きくシフトしていた。

 事実、音声通話のARPU(加入者一人あたり月間売上高)減少は世界の携帯電話会社が直面する課題だ。音声ARPUの減少を、データARPUの増加で相殺し、再成長の軌道に乗せるのが携帯会社の生き残りの道であり、日本の通信キャリア三社は音声依存率が五〇・八%と、世界平均(七六・五%)より低く(クレディ・スイス調べ)、いわば優等生グループに位置している。中でも突出しているのがソフトバンクである。ソフトバンクは初代iPhoneを投入した〇八年度第4四半期に音声依存度が六五%を切り、同時にそれまで漸減していた総合ARPUが上昇に転じた。

 ソフトバンクだけでなく、携帯各社が利潤追求のためデータ通信シフトに大きく舵を切る中で、地震はその死角を突いた形になった。通話もメールもできず、被災地ではバッテリーも切れ、寒空の下には公衆電話に並ぶ長蛇の列。通信会社のキャンペーンに乗って、携帯電話にすべての通信手段を依存してきた日本国民がこのときほど裏切られたことはないだろう。

 通信会社には一刻も早いインフラ復旧と、通話という基本サービスの位置づけを再度見直すことが求められる。
「私は、臆病者です。福島原発を心配しています。だから、東京を出て福島に向かっています。これから福島県知事にお会いします」(孫社長の三月二十二日付ツイッター)。ユーザーが携帯キャリアに求めているのは「冗長な発信力」ではない。寡黙にして揺るがない携帯電話そのものの発信力なのだ。

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