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2011年4月2日(土)付

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復興再生ビジョン―希望への一歩 構想しよう

 「その日を境に、ほとんどすべての事が変わってしまう日がある。何百万人もの生活は再び同じものとはならなかった」。経済学者ガルブレイスが大恐慌を書いた著書にある言葉だ。

 私たちにとっておそらく、2011年3月11日は、それ以前と、それ以後とを隔てる時代の分水嶺(ぶんすいれい)になるだろう。

 よりよい明日への一歩を刻めたか、これまで通りその場しのぎに終始したか。どちらを選択するかが、いま問われている。

■津波減災する郷土に

 傷ついた街を復旧し、日々の生活を取り戻さねばならない。

 同時に復旧・復興政策の根本になるビジョンを作り、国民、とりわけ被災者に明確に開示し、共感と同意が得られれば、実現に向けて資源、人材、お金を集中させることが必要だ。

 ビジョンの柱は何か。戦後最大の災害を経験したいま、単なる原形復旧では済まされない。大津波は今後も繰り返し襲ってこないとも限らない。いざ起きても、被害を出来る限り小さくできる郷土に作り替える。そのことに尽きる。

 三陸から福島、茨城、千葉にいたる太平洋沿岸は豊かな海産資源に恵まれ、その港と、市場や加工場と、住居が一体化していた。そこを津波に襲われた。

 この地域は過去に何度も津波災害に襲われている。死者約2万2千人を数えた明治三陸大津波(1896年)や、さらにその37年後、同約3千人の昭和三陸津波が発生している。

 これらの津波災害はある教訓を示す。海に近接した暮らしは平時は便利だが、いったん災害が起きれば、仕事も自宅も、そして、自分や家族の命をも同時に奪いかねない弱点である。

 復興にあたって、弱点は出来るだけ小さくする努力を重ねたい。例えば仕事と生活の場を極力分け、住居は高台に置く「職住分離」を原則に考えたい。

 また地域の避難の拠点になる学校、病院、福祉施設などが津波に被災しないよう、設置場所には細心の注意を払いたい。

■主役は自治体と住民

 もう一つのビジョンの核は、高齢化に備えた街だ。高齢者を災害弱者にしない、安心して暮らせるような街づくりを目指したい。

 一人一人の高齢者が分散して暮らすのではなく、一定の地域に集中して住み、病院通いや買い物などが気楽に出来る街を作りたい。そのモデルになる中核都市を東北各地に作れないか。

 同時に、再生には若くて新しい力が必要だ。街づくりや農林水産業の復活のため、担い手になる若年労働者が参入できるよう、全国に呼びかけ、彼らが定着できる手だてを考えたい。

 民主党も復興基本法案の取りまとめを急いでいる。再生を目指すため、平時にはない取り組みが必要だし、それら諸事業を束ねる法制度が欠かせない。

 私たちのビジョンとの共通点も多いが、留意すべき点、注文すべき点も指摘したい。

 私たちは、政策作りと実行の主役は地域の事情に精通した被災自治体であると考える。従って基本法も、被災自治体と住民にとって、自ら立ち上がろうとする闘志と、創意工夫の英知をもり立てるものであるべきだ。

 復興事業を進める上で、調整役になる受け皿組織が必要だ。

 この組織は自治体はじめ、中央省庁、民間から人材を集め、構想作りから、具体的な政策立案、予算要求などを担ってもらう。縦割り行政の弊害を廃し、強みと得意技を融合する。

 ただし組織は復興までの期限あるものとすべきだ。例えば5年間などの時限を区切り、新たな利権の温床にはさせない。

■財源みんなで支える

 再生に必要な費用は、国民全体で支えなければならない。

 まずは所得税や法人税の一時増税が必要だ。さらには震災復興を目的に現行消費税に上乗せして課税する方法も考えたい。

 すぐに増税はできないにせよそうした方針を政府が宣言すれば、税財源を担保にした国債を増発しても国債は急落すまい。

 民主党内に震災国債を発行し「日銀引き受け」をさせようとする意見がある。しかし、国債の消化は市場に委ねるべきで、引き受けは財政の信頼を損なわせる。日銀の独立性も傷つき、通貨価値の下落、インフレの温床になる愚策であり反対だ。

 復興財源を賄うため、一般会計とは別の会計を創設したい。復興専用財源として透明化を図り、予算決算を国会がチェックすることで納税者の納得性も高まろう。無論、期限を区切る。

 今回のビジョンは一例に過ぎない。災害の詳細が分かるにつれ、足りない点、見直す点も出てこよう。

 震災から間もなく、爪痕はなお深い。先のことを語るのは早すぎるとの批判もあろう。

 ただ、あるべき姿を今から構想し始めることが希望ある未来への一歩と信じたい。これを議論の出発点として、今後、様々な提言をしていきたい。

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