きょうの社説 2011年4月2日

◎現代美術展 逆境を超える美の力示そう
 東日本大震災による自粛ムードが漂う中で、67回目の現代美術展が開幕する。現美は 、大方の人々の思考が芸術などに及びもしなかった終戦直後の荒廃の中で産声を上げ、美を求める強じんな作家精神と愛好者によって支えられてきた。北陸に住む者にとっても、震災の被災地から伝わる被害の甚大さに心は沈みがちになるが、厳しい戦後の時代を脈々と受け継がれてきた現美の原点を思い起こしながら最高水準の作品群を堪能し、逆境を超える美の力を示したい。

 たびたび指摘してきたことだが、「現美の奇跡」とも称される終戦から2カ月後の展覧 会開催は、戦災にこそ遭わなかったものの、食料や生活物資が枯渇する石川で、芸術文化の再建に向けて先陣を切る果敢な挑戦と言えた。

 会期19日間で入場者は約4万人を数え、その5カ月後に開かれた戦後第1回の日展が 、31日間の会期中、入場者が約5万9千人だったことを考えれば、地方の総合美術展として驚くべき成功を収めたと言えよう。美術の復興が戦後石川の復興の先駆けとなったことを思いやり、いま開かれる現美の意義を、つくる側も、見る側も、あらためてかみしめたい。

 今回の大震災とは比較できないが、4年前、能登半島地震の発生から間もない時期に開 かれた現美には、大きな被害を受けた輪島市からも多数の作品が寄せられ、自宅が半壊したにもかかわらず、新作を運び込んだ人もいる。出品を断念してもいい状況の中で、真剣勝負の場である現美で作品の出来栄えを問うた筋金入りの作家魂は、草創期の現美の精神がこの地に息づいている証しでもあろう。

 昨年は日本の美術作家に与えられる栄誉として双璧を成す日本芸術院会員1氏と、人間 国宝2氏が新たに誕生し、日本を代表する美の重鎮が顔をそろえる現美の展示風景は一段と厚みを増した。芸術院会員と人間国宝は、主な展示の場は日展や日本伝統工芸展に分かれ、作品を間近で比較しながら見る機会は少ない。美術界をけん引する巨匠たちの芳醇な美の競演が現美で実現し、作品と触れあえる喜びを会場で実感してほしい。

◎原発危機の回避 米仏独の協力が不可欠
 福島第1原発事故の危機回避に向け、欧米諸国や国際原子力機関(IAEA)などの協 力が不可欠になってきた。各国が矢継ぎ早に支援を申し出ているのは、これ以上、日本だけに任せてはおけないという危機感からだろう。原発技術で世界をリードするといわれてきた日本の危機対応のお粗末さに、世界はあきれている。専門家の日本派遣やロボットの提供は、いわば日本側への不信感の裏返しといって良い。

 たとえば、米仏独は放射線量が高く、人が入れない場所で活動できるロボットの提供を 申し出ている。日本は世界に冠たるロボット大国でありながら、原発危機を想定し、危険な作業をこなすロボットのノウハウがない。想定外の事故が起きたとき、「最悪のシナリオ」を想定した事故対応の準備がほとんどできていない現実にあ然とさせられる。今となっては米仏独に教えをこうしかあるまい。

 福島第1原発の炉心冷却のため、東京電力は注水量を増やしてきた。その結果、1〜3 号機のタービン建屋地下では放射性物質を含んだ汚染水が見つかり、注水を増やせば汚染水が漏れ出すというジレンマに直面している。特に2号機は水表面の放射線量が毎時1000ミリシーベルト超と高く、作業員が近づくことが難しい。この問題を解決しないと、冷却機能を回復するための作業が再開できず、さらなる放射性物質の放出や炉心溶融の可能性が否定できなくなる。

 米政府は真水を積載するバージ船2隻を急派し、うち1隻が福島原発に到着した。この ほか、海兵隊の放射能専門部隊や軍用のロボットなどを日本に送り込んでくる。また、来日したサルコジ仏大統領は原子力技術者に加えて、汚染地域で活動できるロボットや放射線測定機を提供したい」と述べ、ドイツのメルケル首相も原子炉の修復などに使える高性能ロボットの提供を日本政府に申し出た。

 福島原発の危機はもはや「世界災害」のレベルにある。天野之弥IAEA事務局長の言 葉通り、国際社会が協力して対処すべき段階といえる。世界の英知を集めてこの危機を乗り切りたい。