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取り押さえ死 無罪判決
2011年03月30日
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判決後、報道陣の取材に応える松雪大地被告(中央)=佐賀地裁 |
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記者会見する安永健太さんの父・孝行さん(左)と弟・浩太さん=佐賀市の県弁護士会館 |
「被告人は無罪」。県警の巡査長松雪大地被告(30)が安永健太さん(当時25)を殴ったかどうか、公判前手続きを含めて1年近くを費やして、被告の刑事責任を審理してきた佐賀地裁が出したのは、無罪判決だった。
若宮利信裁判長が無罪を告げる主文を、松雪被告は起立したまま聞いた。その後、被告席に着席すると、2時間弱の判決言い渡しを背筋を伸ばして聞いた。判決後、松雪被告は「主張が認められた。(主張を裏付ける)証言をしてくれた人たちにお礼を申し上げる」と述べた。
取り押さえ行為に暴行はなく、適法な保護だったと主張してきた県警は、黒田弘首席監察官が「当方の主張が認められたものと考えている」とコメントを発表した。
一方、安永さんの父・孝行さん(49)はこの朝、自宅で息子の遺影に手を合わせ、地裁に向かった。目を閉じて無罪判決を聞き、裁判官が被告が暴行したという証言に疑問が残ることを説明し始めると、腕を組んで天井を見つめた。判決後の記者会見で、「無罪は残念。裁判所にも期待していたが、警察などの筋書き通りになってしまった」と語った。
判決は、被告が殴ったのを見たという女性2人の証言を「見間違えの可能性もある。間近で目撃し、証拠としての価値は大きいが、確信を持って暴行があったとは認められない」などと退けた。
検察官役の指定弁護士を務める本多俊之弁護士は「もっとはっきり暴行を見ていた証人がいたかもしれないが、捜査機関でない私たちには探し出せなかった」と話し、捜査機関の犯罪を弁護士が追及する付審判制度の厳しさを吐露した。
この問題では、安永さんを死亡させた責任を巡り、遺族と県警側が民事訴訟を争っており、4月から弁論が再開される。(甲斐弘史)
【解説】県警、全容説明すべき
取り押さえられた安永さんは、なぜ死亡したのか。松雪被告が殴ったかどうかを争い続けた裁判では、この疑問は明らかにならなかった。
地裁は09年、松雪巡査長にのみ、殴打の疑いでの付審判(起訴に準ずる手続き)を決め、取り押さえた他の警察官4人の付審判請求は棄却した。死因とは考えにくい殴打を裁判の対象とした時点で、致死責任が争点になる可能性はなくなっていた。
検察官役の指定弁護士の1人は判決後、取り押さえ全体の違法性でなく、松雪巡査長の殴打という限られた瞬間のみを立証せざるを得なかったことに「もどかしかった」と打ち明けた。巡査長の弁護人も「地裁は被告に話を聞くこともなく付審判を決めた。ずさんな判断で、検察官ならあり得ないことだ」と話し、証拠収集の不十分な付審判決定を批判した。
付審判では、警察と検察が証拠を集め、裁判所が付審判を決め、指定弁護士が公判に立つ。通常は検察が一貫して行う役割がばらばらになる問題点について、検討が必要だろう。
一方、致死責任が争点とならなかったことで、安永さんが死亡した経緯が解明されなかったのは、県警にとっても不幸だ。県警には、裁判で明らかにならなかった取り押さえの全容を自ら進んで説明する姿勢が必要だ。(波多野陽)
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