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[24168] 竜殺しはドラゴン泣かせ【ほのぼの】
Name: カンヘル◆7253943b ID:f07d9861
Date: 2010/11/09 01:53
竜殺しはドラゴン泣かせ









第一話・ミカンは手を洗ってから剥きましょう。









 こたつでミカンを食べつつヌクヌクテレビを見ている時だった。
 いきなり玄関から「ドガ~ンバリバリバリ! はぁっはぁは~!!」とちょっと可愛らしい女の子の声がしたので、こたつから顔だけ出し、カタツムリのようにこたつを纏いながら廊下に出ると、


「たのも~!!」


 そこには尻尾と翼と角が生えた一人の金髪の女の子がいた。
 先ほどのボイスはこの子の仕業らしい。あ、目が合った。こちらを見てニヤリと笑い、鋭い犬歯を大っぴらに見せ付けてくる。
 履いているスカートの裾が短いから、こたつから顔だけ出しているこちらの視点では、彼女のスカートの中が見えている。
 白でした。


「ついに見つけたぞ! 今代のドラゴン殺しめ。貴様ら一族の命運もここに尽きた。長きに渡る我らが因縁も、今ここで決着をつけてやろうではないか!」

 
 パンツ見られていることに気づかずに、堂々と何だかカッコいい宣言をする少女。金髪ツインテール少女ってリアルにいるのね。現実は小説より奇なり。
 勇ましく堂々となんのこっちゃ分からないけど、とりあえず拍手を送っておこう。
 するとコスプレ電波少女は照れたのか顔を赤くする。


「あ、あまり褒めるな。照れるではないか――――って違う! 敵である貴様に褒められても嬉しくもなんともないからな!」


「はいはい。そんなことよりミカン食べるか?」


「いらんわ! そんなことより!! 我と勝負しろ、竜殺し!!」


「んあ~?」


 竜殺し? なにそれ美味しいの? 
 そんな武勲など俺は人生において授かった覚えはない。もらったものは毛筆初段だけだ。あとは何もない普通な人生だ。そんな俺が竜殺しってどういうことだ、美少女?
 竜は殺したことなんてなし、ヤモリとかゴキブリなら殺すのなら得意だぞ。


「無礼者! そんな劣等生物と我らドラゴンを同列に扱うなッ」


 ドラゴンな少女は尻尾をブンブン、唇を尖らしてプリプリ怒っていた。


「ともかく! さっさと外にいくぞ! 決着をつけてやる!」


「お断りです」


「臆したか!」


「いや、だって寒いし」


 誰が好き好んでこんな秋を微塵も感じさせない寒空に身を投じねばならんのだ。
 短パンで駆け回る年齢は十年前にとうに過ぎ去っている。あの頃は若かったなぁ。 


「おのれ軟弱物め! 家で暴れるのはさすがに悪いと思って、そこらへんを配慮してやっている私の恩を無碍にする気かッ。この礼儀知らずめ!」


「別に頼んでないです。もういい? 今からめっちゃええかんじ始まるから、早く帰ってくれる?」


「うが~!!」


 悔しそうに地団駄を踏む自称ドラゴンな少女。
 りんごのような赤い瞳がキッとこちらを睨む。少し目尻に涙が溜まっているのは気のせいではないだろう。仕方がないよね、思春期だし。


「もういい! 色々とカッコいいこと言って死闘しようと思ってたのにぃ! ばかばか!!」


 少女は玄関を蹴飛ばして開けて出て行ってしまった。
 まったく最近の子供の思考はよく分からん。ああいう子が将来この国にどんな利益をもたらすか想像するだけでも楽しくなる。
 いや、そんなことよりも、う~テレビテレビ。
 居間に戻り、テレビを点けようとするが、瞬間後ろからなんか飛んできた。
 それは等身大の岩。
 重力を無視してまっすぐにすっ飛んでいくソレは、弾丸ライナーでテレビだけでなく後ろの壁も粉砕して隣の家の柵にぶち当たってようやく停止した。
 そして聞こえてくる笑い声。


「はっはっはぁ!! よ~く考えてみれば、そのテレビとかいうものを破壊すれば良いではなかったか。というわけで壊してみたぞ、どんなもん――だぁ!?」


 グーパンで少女の頬を思いっきり殴りつけ、俺の物語が幕を開けた。



















 
 クソガキは粛清して再教育するが義務。それが大人の特権であり、責務。
 殴りつけて涙目な自称ドラゴン少女。その後やんやんや文句言ってきたので、お尻を百回ほどペンペンしてやった。そしたら泣いて謝ってきたので心優しい俺は許してあげた。とりあえずこたつに入るよう促す。


「ぐす、ううぅ、ごべんなさ~い……」


 号泣する少女にさすがにやりすぎたのかと焦る俺――――でもなかった。
 鼻水が机に垂れるのは勘弁なので急いでその小さな鼻目掛けてティッシュを持っていく。


「あい、ちーんして」


「ちーんッ」


 鼻水をティッシュで拭き取り、ミカンを献上してようやく自称ドラゴンな少女は泣き止んだ。


「……ぐすッ、ありがとう」


「いえいえ」


「優しいな、貴様は」


「当たり前だ。あ、壁とテレビの修理代は後日請求するからな」


「くされ外道」(ぼそっ)


 ド汚い言葉が聞こえたので、そのツリ目にミカンの汁を飛ばしてやった。
 バルス状態になっている少女はさておき、あと五分で“めっちゃええかんじ”が始まってしまうではないか。


「仕方ない、携帯で見るか」


 しかし、携帯がない。どこにもない。
 家中探したがどこにもない。そして、携帯は昨日修理に出していたという事実を思い出した。
 オワタ。生きる希望が失われた。現実は氷河ように冷たい。泣きそうになった。友人が録画してくれていることを切に願う。頼むぞ。


「というか、お前って結局何しにきたんだ?」


「んむ?」(むぐむぐ)


 もうどうでもよくなったので、正直聞く気はなかったのだが、なんとなく聞いてやることにした。今日の一時間余らせたし。
 ミカンの薄皮を一枚ずつ丁寧に剥いで、そのまま口に放り込んでいた自称ドラゴンな少女はマヌケな声と面で反応してくれた。少しイラッとしたのは言うまでもない。


「むぐむぐ、ごくん。だからさっき言っただろ。私はお前を殺しにきたのだ。数千年に渡る我らドラゴン一族と竜殺しの貴様らとの因縁に決着をつけに来たのだ」


「こっちの圧勝で決着ついたじゃん、帰れ負け犬」


「ぐむ! ちがう、ちがうぞ! あれはズルだ! いきなり頭ばーんと叩いてくるなんて卑怯ではないか! あれはナシだ、ナシ!」


「梨?」


 懐から梨を取り出す。


「違うわ!」


「いらないのか?」


「いや、欲しいぞ……」


「じゃあちょっと切ってくるな。ああ、ミカンの皮はそこのビニールに入れておいてくれ」


「うむ、心得た」


 梨を八等分に切り分け、皿に盛っていく。
 糖度13とかなり甘めの梨だが、まあ、自分的には12ぐらいがベストな気がするのだけれど、一個五十円という価格破壊には太刀打ちできなかったのさ。
 爪楊枝を二本適当にブッ刺して居間に運ぶ。


「ほい、どうぞ」


「おお、梨は好物だぞ」(ぱくぱく)


「ちょ、おま」


 結局、少女が五個も食べたので自分は三つしか食えなかった。
 なので、またミカンの汁を目に飛ばして鬱憤を晴らし、そのまま家から追い出した。ドラゴンでなくてとんだ疫病神だったな。
 ちなみに、友人は“めっちゃええかんじ”を録画していなかったとさ。









つづく









【作者のつぶやき】
 
「こたつにミカンは王道。そう思っている俺は今日もこたつでアイスを頬張る」





[24168] 第二話・冬はしゃぶしゃぶよりもおでん
Name: カンヘル◆7253943b ID:f07d9861
Date: 2010/11/09 20:57
竜殺しはドラゴン泣かせ








第二話・冬はしゃぶしゃぶよりもおでん









 ドラゴンでドジで泣き虫な痛い娘っ子を粛清してから早三日。
 平和な数日が過ぎ、そして今日もようやく晩飯の仕込みが終わって、冷蔵庫から持ってきた市販の板チョコをこたつに入ってモクモク頬張っていた時だった。
 

「お、おおおおおおおお邪魔します!!」


 その言葉通りの何ともダイナミックな入室。
 窓ガラスを破って頭からこたつにダイブしてきたのは、これまた綺麗な少女――ではない。これはれっきとしたお姉さんだ。顔は非常に童顔で何か頭に王冠乗せてるが、体の肉付きがお姉さんだ。
 ガラスの破片を踏み砕き、恐る恐る立ち上がる挙動不審のお姉さん。その発達したお尻にはやはり可愛い尻尾が生えていたりする。


「あ、あの、こ、こここここここが、えと、竜殺しさんのお宅でよろしかったでしょうか?」


「違います。うちは櫛名田です」


「ふああッ!? す、すみません! すみません!! すぐに出て行きます!!」


 そのまま後片付けもせずにお姉さんは凄い勢いで去っていった。
 その数秒後に先日聞いたことのあるような少女の笑い声がぶち破られた窓から耳障りに入ってきた。


「はっはっは!! あやつめもう殺したのか。流石は六大竜王の一人だ。仕事が早くて助か――――あれ?」


 姿を現したのは、予想通りの金髪ツインテール。三日ぶりにご登場の自称ドラゴン娘。
 ニッコリ優しく微笑む俺の後ろに般若でも見えたのか、物凄い量の冷や汗を額から顎先にまで垂らしている。
 脳内会議で満場一致で皆賛成。照準はストレートに。これより、問答無用で大人の暴力を行使します。


「久しぶり。そんでもって――――歯を食い縛ろうか?」(満点笑顔)


「え、や、あの、ちょっと」


 食い縛る猶予は与えた。なので、助走をつけて思いっきり黒幕の顎に右ストレートを打ち込んだ。
















 
「ごべんなざ~~~い……でべそ」


「よし、許す」


 泣き腫らしたその顔に免じて、ガラスの修理費と部屋の掃除と肩たたきと今日一日語尾に“でべそ”を付けることで心優しい俺は許してあげた。
 箒とチリトリは家になかったので買いに走らせ、今ようやく掃除が始まったところだ。


「ほら、こっちにもガラス飛んでるよ、なにやってんの」


「ぐすっ、はいでべそ」


 そんなこんなで掃除終了。お姉さんが襲撃する前より綺麗になっているのは御愛嬌。それぐらいの見返りは当然です。
 そして、労働者を労わる為に冷蔵庫で冷やしていた梨を特別ボーナスとして二個あげた。語尾に“でべそ”を付けるのを忘れるくらい大喜びする少女だった。


「それで? さっきの淫乱なお姉さんは知り合いか?」


「しょうだでげお」


「口の中に入ったものを先に片付けなさい」


「むぐむぐむぐ、ごくん! き、貴様が食べている途中に話しかけてくるからだ………………でべそ」


 ほんとうに素直でバカなやつだな。少し可愛いとか思ってしまった。ザルに持ったミカンの山から一つ投げて渡してやる。


「で、さっきの人は誰なんだ? おっぱいでかすぎだぞ、あのお姉さん。服の上からでもたゆんたゆん揺れてたぞ」


「私の親戚なのだでべそ」


「親戚?」


 どこで遺伝子がトチ狂ったんだ?


「私とヤツの一族はドラゴン界でも頂点に君臨する六大竜王族の一つでべそ。私一人では貴様を倒せそうにないからあいつを呼んだわけでべそ」


「あっさり帰っちゃったけどね」


「うるさい!」


「でべそが抜けてる」(チョップ)


「あいたでべそッ!」


 なるほどねぇ。とりあえずなんか知らんけど、コイツとさっきのお姉さんはドラゴン界では凄いお人であるという設定らしい。
 そして俺は竜殺しらしい。なんでそんなカッコいい肩書きをいただけたのかは訳分からんが、そういうこともあるのかな。奇抜で理不尽な世界になったもんだ。ミカンうめえ。


「あ、あの~」


「ん?」


 ふと後ろから声がすると思ったら、さっきのおっぱいのお姉さんがドアの隙間からこちらを覗きこんでいた。
 そして、相変わらずオッパイが大きかった。


「あー! ルナ!」


 ツインテール少女が尻尾をピンと立たせ、オッパイお姉さんに指先をビシィッと突きつけた。
 

「ココアちゃん……」


 対するお姉さんは、目に涙を滲ませて申し訳なさそうな顔をしていた。


「あ、あの、ごめんなさい。そこらへんの家を片っ端から探したけど、その、竜殺しさんじゃ、ど、どこも違うみたいで、わたし……」


 つまり、ここら一帯のご近所さんの家の窓をぶち破っていたらしい。明日名無しでそこらじゅうの家のポストに茶菓子の箱を入れておこう。
 さて、これでドラゴンさん(自称)が二人揃ったわけだ。そんで、時刻はすでに夜の七時五分前。やるべきことは一つだけだ。俺は静かにこたつから足を抜いた。


「ルナ! 違うぞ。ここで合ってるんだぞ! コイツがその竜殺しだでべそ!」


「え、え~!? そんな、わたし、わたし……ッ! だって、違うって……!」


「うちは櫛名田です」


「ほ、ほら、ココアちゃん、違うって……」


「ちがくないでべそ! あいつが竜殺しなのは確定的に明らかだでべそ!!」


「ココアちゃん、しっかりして! なんか言葉遣い変だよ!?」


「うちは櫛名田です」(フェードアウト)


 キッチンの方からピーッという電子音が鳴り響いた。


「とにかく! ルナ! 私達二人がいれば、いくら竜殺しとてどうにもなるまい!」


「そ、そうね。こう見えても、私達竜王の一族だものね!」


 どうやら仲良く結託出来たらしい。それは良かったな。居間から聞こえてくる喧騒に、微笑ましい横顔で彼女たちを見つめていた。
 うし、こっちも完成してるな。上出来だ。
 そして、後ろからものすごい勝ち誇った少女の声が聞こえてきた。


「おい、竜殺し! 我らを困惑させ、その隙に逃げようと乗じていたようだが、残念ながら貴様はもうオシマイだ。さあ、大人しく我ら竜王の、ドラゴン一族の恐ろしさを魂の深遠に刻み付けて、そのまま冥界に旅立つがいい!!」


「え、えと、と、とにかくあなたを殺します! お覚悟を!」


「うるせえ」


 指先から放たれた摩り下ろし生姜は、吸い込まれるように二人の両目に着弾した。




















 
 おでんはイイ感じに味が染みていた。朝から作った甲斐があったというもの。だいこんが特にやばい。箸でサクッと割れて、口に放り込むと染み込んだダシの味が一気に広がっていく。
 そして、向かいに座る二人もモクモクと箸を忙しく動かしている。自分用にと二日分作ったんだけど、このペースなら今日で平らげちゃうな。まあいいか。


「はふはふ!」


「ココアちゃん、お水いる?」


「はふはふ!」(首を縦に振る)


 どうやら金髪少女は猫舌なようだ。お姉さんの方は静かに綺麗に食べている。しかし、本当にオッパイ大きいね。


「……不公平」


「え? 何か言いました?」


「いんや」


 神は平等を愛するとか言うけど、多分不平等至高主義を持っていると思うよ。でないと、こんな現象が世界で成り立つ筈がない。


「おかわりいるか? まだまだあるぞ」


「うむ、この茶碗に山のように盛るがいいでべそ」


 素直に約束を守る子は好きですよ。というか、もう普通に違和感なく言ってないか?


「お姉さんは?」


「あ、では、わたしもお願いします」


「山盛り?」


「はい!」


 五合も炊いた炊飯器の中は、そんなこんなであっという間に空になった。この二人の食欲は並外れているな。
 時計を見ると、もう夜の九時を過ぎていた。


「あー、お腹一杯だぁ。満足だぁ」


「そりゃよかったな」


「お料理上手なんですね~」


 そりゃ一人暮らししてりゃ、大抵の家事スキルは問答無用で底上げされていく。学ぼうと思うんじゃなくて、学ばざるを得ない状況を作るのが一番学べるんだよ。
 食器洗いもお姉さんが手伝ってくれたので、少しの手間で終わった。
 というか、やっぱりオッパイ大きいね。


「さて、わたしたちはそろそろお暇しますね」


「あっそ。気をつけてね」


「はい。ココアちゃんもお腹一杯で眠たそうですし。今日は本当にすみませんでした」


 ぺこりと一礼して、眠ってしまった金髪少女を担いでお姉さんは玄関からキチンと帰っていった。
 そして思う。



「ほんと、オッパイ大きいよなぁ……」



 その晩、枕を濡らして寝たのは秘密である。 









続く









【作者のつぶやき】

「アマで箱○のソフトと間違えてPS3のソフトを買っちまった。死にたい」



[24168] 第三話・内側の線までお湯を張ると思っていたのか?
Name: カンヘル◆7253943b ID:f07d9861
Date: 2010/11/13 02:16
竜殺しはドラゴン泣かせ

















「お腹空いたでござる」


 忍者みたいな喋り方になってしまうくらいお腹が減った。
 試験一週間前ということもあり、勉強家の俺としてはここ最近睡眠時間を削った激しい試験勉強という試練を連日深夜まで繰り広げていた。
 しかしお腹が空いてしまうのは致し方ないことで。ここで重宝するのがインスタントラーメン。彼等のコストパフォーマンスはとても高い。安売りだし。
 最近は様々な物が売られており、色々な味を楽しめるようになっている。時代は常に進んでいく。


「今日は三平ちゃんにするでござる」


 つまりヤキソバ。外出する前にはあまり食べたくない物なのは間違いない。口臭が、ねぇ?
 一日家で過ごすような今日でないと、こういった物を口に出来ない。巡り巡ったチャンスともいう。美味しいしね。
 さて、お湯を入れま――――


「あれ?」


 ポットが空っぽ。
 仕方ないのでポットに水を張る。沸騰するのに数分。しばらくお預けを喰らった。
 暇だ。数分というこの時間。どうしてか長く感じるのは気のせいではない。さて、なにか時間を潰せるものはないか。
 


「はっはっは!! さすがのヤツもこの時間ならば寝ているはず! 思う存分落書き殺してやるぞ!!」



 暇つぶしがネギ背負ってやってきた。









第三話・内側の線までお湯を張ると思っていたのか?










 ドラゴン少女は部屋の隅で頬を膨らませてむくれていた。


「高校には試験勉強というものがあってだな」


「…………」


「こんな時間でも起きている人類は結構いるものなのよ」


「…………」


「夜更かしが無駄になったな」


「う、うるさい! べ、別に眠たくなんかないぞ! 悔しくなんてないんだからな!!」


 すっごい悔しそうな顔してるよ。ごめんね、空気読めなくて。


「それで? そのマジックで俺に落書きしてやろうという算段だったのか?」


「うるさい」


「子供~」


「うるさい! バカバカ!!」


 落書きする気満々じゃねーか。これは先に眠れないな。
 そんなこんなとやってるうちに、遠くでポットが沸騰を伝える電子音を鳴らした。


「な、なんだ?」


「湯が沸いたのよ。お前も食うか?」


 焼きそばは二つあるからな。三平ちゃんは安いし、二つ買っても二百円にも届かないお値段なのだ。


「作り方わかるか?」


「わ、分かるに決まっているだろ! バカにするな!」


「あいあい」


 というか、ドラゴンはインスタントラーメン食うのか? まあ、雑食なのかもな。人間と似ている部分は多々あるよね、金に強欲なところとか。
 コイツがドラゴンであるかどうかという確証はまだ持ててないけどね。だって今のところただの金髪ツインテールの幼女ってだけだし。


「さて、準備完了」


 中からソースとふりかけを取り出してから湯を張り、線の内側までではなく一センチ下のラインまでで湯を留めるのが俺流。こうすれば少し麺が固めになる。自分は断然固めが好きだ。
 さて、向こうもお湯を入れ終えたようだが――――――――あれ?


「おい」


「ん? なんだ?」


「ソースとふりかけはどうした?」


 容器の周囲にも、お前のその小さな体のどこにも見当たらないぞ?
 自称ドラゴン少女は、未発達な胸を逸らして自信満々にこう告げた。


「一緒に入れたぞ」


 やっちまった。


「残さず食えよ」


「?」


 三分後。彼女が涙目で麺を啜っていたのは言うまでもない。











 








 二人で夜食を片付けた時には、すでに時計は午後一時を指し示していた。


「まだ帰らないのか?」


「当たり前だ」


 どうやらドラゴンちゃんはもう少し頑張るご様子。瞼が少し重そうに見えるが、大丈夫?


「子供があまり夜更かしするもんじゃありませんよ」


「ば、バカにしているのか! 誰が子供だ! 私はこれでも貴様の数十倍は長生きしているのだぞ!!」


 俺の数十倍ねぇ。数十倍もかけて、まだこんなチンチクリンな見かけとは少々残念だな。


「こないだ来たあの子は? 同い年?」


「いや、あいつは私よりも十二個年下だ」


 余計残念すぎるだろ。お前は一生大人のお姉さんにはなれない呪いに掛かっているのか?


「知らん、そんなもの。それに、外見だけで判断するとは、竜殺しといえど片腹痛いな」


「お前の成長っぷりがいてえよ」


「くっ、おのれぇ……ッ。どこまでも私を子供扱いしおってぇッ! いいだろ! そこまで言うなら勝負しようではないか!」


「勝負?」


 人差し指の先をビシィッと俺の眼前に突きつけてこう言った。


「どっちか長い時間起きていられるか勝負だ!! 先に寝た方が負けだ!」


 簡潔な勝負内容だ。いいだろ、乗った。


「ふっ、私の意志の強さがどれほど強固なものであるか、貴様には骨の髄まで教え込んでやろう!!」


 なんかカッコいいこと言ってるけど、これって小学校の修学旅行のノリな対決だからね。どのみち子供っぽいところは変わらんからね。
 まあ、ただ勉強するだけってのもつまらないし、こちらとしては全然構わないけどね。勉強道具持ってこよ。
 

 こうしてドラゴン(自称)と人間の耐久不眠レースが幕を開けた。










 






 開始から三十分後。
 こたつで勉強を黙々と続ける余裕の俺に対し――――先生! 向かいの子がもうダウンしそうです!
 もう瞼が開いてるのか閉じているのか分からないレベルだった。首もカクンカクンしまくっている。


「もう寝たら?」


「……ッ! う、ううううるさいッ。ま、まだね、眠たくなんか、ないぞッ! 全然余裕だからな!」


「はいはい」


 どう見ても落ちる三秒前にしか見えないけどな。
 視線を戻し、数学の問題を二、三問軽く解いていく。中学で習った方程式がここまで進化してくるとは当時は想像もしていなかったなぁ。立派になったもんだ。


「――って、おい」


「ふあ!?」


 ガバァっと押し付けていたテーブルから顔を凄い勢いで持ち上げた。


「寝てたろ?」


「ね、寝てない。ちょっと考え事をしていただけだ! そうだそうだ!」


「よだれ」


「!!」


 腕でゴシゴシと涎を拭った。もう、いちいち可愛いなぁ。


「次は起こさないぞ」


「ふ、ふん! 寝てないと言っただろう! き、貴様こそ、本当はすっっっごく眠たいのでだろう? 無理をせず寝ても良いのだぞ?」


「あーそうだな。眠たいし、とりあえずあと………………二十ページぐらいやったら寝ようかな」


 ノルマは達成しておきたいからな。次のテストは上位狙いたいし。
 

「そ、そんなにやるのか?」


「ああ」


 俺のひたむきな向上心を見せ付けられ、ドラゴンな少女は額から汗水垂らしていた。
 そんな彼女にイジワルな笑みを浮かべてあげよう。


「貴様、私を心底舐めているだろう」


「寝る子は育つよ?」


「やかましい!!」


 やれやれ、こちらの真摯な思いも少しは汲んで欲しいんですけどね。
 本人がそういうなら仕方ない。やれるところまで頑張ってみんしゃい。



















 さらに一時間後。時刻は午前二時半。
 彼女は頑張ってなんとか起きていた。ただし、すでに意識は半分眠っているようで、


「……ね、ねむ、たく、なんか、ないぞ……ほんと……だじょ……」


「あいあい」(かきかき)


 呂律もすでに回らないご様子。三十分前から両手でホッペをつねって無理矢理起きているようだったが、もうそれすらも何の効力もなさないようである。
 力のない瞳が何もない空間を見つめている。まあ、頑張ったちゃ頑張ったね。努力賞として、明日の朝に俺特製のフレンチトーストを授与してあげよう。


「ふう」


 とは言え、さすがの俺も眠気がないと言えば嘘になる。眠たいわ。二十ページどころか四十ページは進んだか?
 そのとき、


「――――マエ」


「ん?」


 机にぺた~と顔を押し付け、綺麗な金色の髪の奥にある眠気眼が何とかこちらを見つめていた。
 あくび混じりの声でドラゴンな少女は小さくこう呟いた。


「……お前の……なまえ…………まだ……きいて、なかった……」


 名前ね。そういえば言ってなかったな。
 そして、こちらが答えるよりも早く、


「……ここあ……」


「飲みたいの?」


「……ちが、う………」


「?」


「………………それ、が…………わたし……の…………なまえ…………」


 ココア。
 それが少女の名前だった。
 午後三時。時計が三つの鐘を鳴らし終えたところで、自称ドラゴンな少女ココアは深い眠りの中に落ちていった。


「まったく……」


 その小さな肩に毛布をかけてやる。
 部屋の中は暖房で暖かいとはいえ、風邪にでもなったらさすがに後味が悪いからな。
 しっとりとした絹のような手触り。金色の髪を手のひらで梳いて、その微笑ましく、可愛らしい寝顔に頬がとろけてしまう。
 さて、では始めようか。
 俺はマジックの蓋をニヤニヤしながらキュポンっと外した。
 
 

「おやすみ、ココア」



 彼女の顔に思う存分落書きを施し、額に綺麗な“肉”の文字を刻みつけたところでご満悦になった俺は、そのまま安らかな眠りにつくのでした。
 翌朝、ココアが鏡の前で悔しそうな叫び声をあげたのは言うまでもない。
 












続く












【作者のつぶやき】

「お湯と一緒にソースインなんてするわけねーよとバカにして、つい先日やっちまったんだなこれが」





【感想返し】

[10]ソバ◆44dbff09 ID: 7a36f15d

>後、Amazonは返品できますよ~

感謝感激です。教えてくれて本当にありがとうございます。
早速返品しました。


[9]社怪人◆f8ce1004 ID: 1cf0295b

>土曜日からおでんを作って食ってだしを濾して具を入れ足して……を続けている。
ので、余計に題名に反応してしまったw

あれ? 俺がいる?


[8]una◆d0519b05 ID: ef95c5f8

>(・∀・)イイ!

ありがとうございます。顔文字って偉大です。


[7]電気猫◆4ab44749 ID: dbcc263a

>すごく……ほのぼのします…。なにこの抱きしめたくなる生物w

ほのぼの系は実は初めて。
愛くるしい簡潔な言葉って意外に難しい。


[6]ルーラ◆37b454d2 ID: fca15e5f

>あー良いテンポだw

テンポって大事ですよね。詰め込みすぎはよくないと最近気づいた。


[5]げそ◆ef10aec3 ID: 1d2e9af3

>もしかして、一人称が俺を使ってる女性主人公?

そうです。ちなみに胸は洗濯板。貧乳でいいじゃなイカ。


[4]GAHI!?◆8f2dae19 ID: 4f99e170

>ちょっとお馬鹿な竜が可愛くて萌えるwww

ちょっとどころではなかったり。頑張ってる分空回りするそんな素敵少女です。


[3]社怪人◆f8ce1004 ID: 1cf0295b 

>数千年……数千年かけてドラゴンが退化または衰退した。のか、
それともドラゴン殺しは溝の口あたりを本拠とする組織をタコ殴りする
あのヒーローさんみたいにむちゃくちゃ強すぎる。のか、

ドラゴンは進化してない。人間が進化しましたって感じですね。
細かい設定はちょくちょくこれから出していきます。


[2]エマーソン◆2b0a22db ID: a0b119ad

>せめて、ゲンコツか平手打ちにしてあげて下さい。

女子供を全力で殴る主人公って素敵ですよね。


[1]かこ◆a6957f9e ID: c4ad9fb0

>隣家がとばっちりでかわいそうだね。

主人公が幼女の代わりに弁償してくれました。





[24168] 第四話・世紀末覇者キングメロン
Name: カンヘル◆7253943b ID:c3d83741
Date: 2011/03/19 08:30
竜殺しはドラゴン泣かせ









第四話・世紀末覇者キングメロン









 正直、この質問は今さらすぎるような気がしないでもないけど、そろそろ聞いてみようと思い至ったのは、こないだのテストが調子良かったというのがあったかもしれない。
 俺の向かい側、こたつでプリンを幸せそうに頬張る少女に何となくこの質問をしてみた。


「お前ってさ、本当にドラゴンなの?」


「は?」


 その一言が意外だったのだろうか。ココアはプリンを食べる手を完全に停止させた。そんなに唖然とされるのが俺としては予想外だよ。
 ぷるぷると唇を震わせ、怒り心頭の真っ赤な顔でスプーンの先を俺の鼻っ面に突きつけた。
 

「き、きききさまは! 今、私になんといった!?」


「お前は本当にドラゴンですか? ……ってか、きたないだろーが、やめんかい!」


 鼻がキャラメルソースでベトベトじゃないか。甘ったるい匂いが鼻腔の奥の奥まで広がっていく。
 濡れタオルで鼻を拭いている間、ココアの怒りのボルテージはさらに上昇していく。


「ドラゴンだ! ドラゴンに決まっているだろうが!!」


「えー」


「えーってなんだ!? 見よ、このたくましい尻尾と翼を!! 見ろ、この鋭い牙と角を!!」


 翼と尻尾は知ってるよ。牙も確かに鋭い歯だなあ、とか思っていたけどね。こないだもTボーンステーキの骨噛み砕いてたし。
 でも、角? 
 角ってどこにあるのさ?


「ここだ! ここ! ちゃんとあるだろううが、竜王の証明である二又の角があるだろうが!!」


「どれどれ?」


 手に吸い付く肌触りの良すぎる髪の奥に、その小さな二又の角はちょこんと突起していた。
 とりあえず指で突いてみる。結構鋭く堅い。


「ふふん、どうだ? 立派なものであろう?」


「なにこれ可愛い」


 つーか、髪の毛サラサラすぎ、羨ましい。
 ついつい触ってしまうこの手触り。自然と頭をナデナデするのはその感触を楽しむ為であり、他に他意はない。枝毛の一本もないではないか。若さとは罪だ。 
 ふと、ココアの顔を見ると、なんだかすごく目がとろ~んとしていた。


「どうした? 眠たいのか?」


「ち、違う。お、お前が、そんなに私の頭を撫でたりするから……ッ」


「?」


「そ、その、ちょっと…………って、あーもう! いい加減手を離せ!!」


 ぐわっと脱兎の如く、俺の手の内から逃げ出すココア。あーあー、もうちょい触りたかったのになあ。
 彼女もあまり抵抗しなかったし、別に悪い気はしなかったんじゃないか? 正直、あの顔は反則級に可愛かったし、もうちょっと愛でたい気分でもある。
 先ほどまで垂れていた目尻をいつものようにキリッと釣り上げて、ココアは頬をぷ~っと膨らませた。


「信じてないだろ?」


「なにが?」


「私がドラゴンであることだ」


「あー、そりゃもちろん。欠片も信じてないな」


 だってドラゴンに見えないし。ただの可愛らしい少女にしか見えない。その羽と尻尾はきっと分離(パージ)できるものだと俺は信じているからな。
 すると、ココアはゆらりとなにやら背後に妙なオーラを纏って立ち上がった。


「なるほど、では、私の真の姿を見せてやろうではないか」


「変身できるのか?」


「もちろんだ! 泣いて謝るなら今のうちだぞ!!」


 正直、笑ってしまう展開しかこの先にはないような気がするが、優しい俺は口には出さない。
 そんな心配をしているうちに、ココアは腹から押し出すような覇気の篭った勇ましい声を上げ始めた。
 その直後、家が揺れた。


「おいおいおいおいおい」


 地震だ。それもかなりの揺れ。
 ココアの咆哮と共鳴するように、大きな大きな地震が起こっている。震度にすると6ぐらいいってるんじゃないか? かなり洒落にならない揺れだ。
 後ろの本棚が倒れた。キッチンの方からは食器類が豪快に割れていく音が聞こえる。電灯がチカチカと明滅して、今にも光を失くしてしまいそうなほど頼りない。
 揺れは続く。ココアの咆哮が最大限にまで達した。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!!!」


「!!」


 光が襲った。瞼を閉じても眼球が焼かれそうになるほど強烈な光。
 直視すれば失明は免れないかもしれないほどの膨大な。体が熱い。焼けるように熱い。膨大な苦痛が押し寄せてきて、でも、どうすることもできなくて。
 本当に、こいつは人間ではないのだと、今さらながら思い知って、そして、



「――――あれ?」



 間の抜けたココアの声と共に、光は急速に萎んでいった。
 恐る恐る瞼を開ける。ヒリヒリと痛む顔面。もしかしてこれってヤケドしてないかと思うくらい痛いかもしれない。そんなことを気にする暇もない。
 視界はぼやけている。何が何でどうなのか分からない。足元で何か動いている。声を上げているような気がする。どうやら鼓膜も少しやられているようだ。
 スリスリと、何故かその感触が心地いいなと感じつつ、視界が秒を重ねるごとに鮮明に回復していく。声もはっきり聞こえてくる。


「ど、どうなってるんだぁぁ!! これはぁぁ!!」


 視力、聴覚共にが回復する。そして、俺は足元にある物体をそこでようやく確認した。
 それは、


「あぁ?」


 犬? いや、猫? なんだこれは?
 大きさ的にはソレと同じくらい。きっと両手で抱きかかえてやれるであろう大きさで、毛は金色で少しモフっとしている。顔をちょっと埋めたくなる衝動が湧き上がる。
 頭には二又の角が一本。その根元に愛らしいピンクのリボンが括り付けられている。尻尾はスルッと長く、先端が剣のように鋭く尖っているようにも見える。
 そして何より、無茶苦茶目を惹かれるものが、この、愛くるしすぎる目元だ。
 可愛いなんてものじゃない。湧き上がる感情はもうそれすらも軽く超越している。
 そうこれはもう――――


「愛してる!!」


「んなぁ!?」


 抱きつく、抱きしめる、手厚く抱擁する。
 小動物はなんか絶叫を上げているが、その声も反応も動きも、もう全てが可愛い! 
 もう離さない。もう逃がさない。誰にも渡さない。俺だけのもの!!
 これは俺のモノ。コレは俺の物で、他人のモノなんて概念はなく、先天的にこの生き物は俺のモノ!!
 こんな可愛い生き物がこの世界に存在したなんて!


「こ、こら!! やめんか!! はーなーせー!!」


「ああ、堪らん! この腹のプニプニといい、毛のモフモフといい、お前は最高だ、セレスティーネ!!」


「だれだそれは!? 私はココアだ!!」


「この際誰でもいい。おまえは反則的な可愛さ! だから、もうお姉さんのものだ」


「誰かぁ~助けて~!!」


 それから一時間ほど、ココアさんドラゴン形態のあまりの可愛さに虜となる俺であった。

















「なぜ戻った」


「うるさい、このたわけ! 変態、ド変態!!」


 いつもの人間形態に戻ったココアは、こたつの中に隠れてしまった。はみ出た尻尾がとってもラブリー。
 こたつから弾き出されてしまった俺は寒いので、適当な毛布でカタツムリをする。


「しかし、何故だ……っ? 何故あんなにも小さく……?」


 本当はこの家を崩壊させ、頭の角が雲を突き破るほどにでっかくなる予定だったらしい。
 実際は一階の天井どころかこたつよりも低かったけどな。見た目の破壊力は凄まじかったけど。


「あれでいいじゃん。むしろあのままでずっといてくれ」


「断る」


「可愛いは正義だろ?」


「知らんわ!!」


 俺に存分にもちくちゃにされたのがそんなに気に食わなかったのか。
 すると、はみ出た尻尾がいきなりピーンと立ち上がった。


「そうか、これが竜殺しの力ということか……」


「だから、その竜殺しとはなんぞや?」


「教えると思っているのか?」


「思っていません。だから、ここは交渉に乗り出そうと私は思うのです」


「交渉?」


 ぴょこっとコタツから顔だけ出現させるココア。頬がほんのり赤いのは、コタツの暖か空気に刺激されたようで、目元はまた虚ろ虚ろと眠そうである。
 いい加減に、この少女が俺のところに毎日毎日訪ねてくる理由を本気で問いただそうと思うのだよ。じゃないと、第二第三の自称ドラゴンがやってきてもおかしくはない。あ、第二はこないだ来たか。
 とにかく、ここでその理由をはっきりさせよう。
 そこで俺はとっておきの切り札を取り出すことにした。


「さて、これが何かわかるか?」


「そ、それはッ!! ………………なんだ?」


 おや? この娘ったらメロンをご存じない?
 俺が取り出したのは、先日静岡の爺ちゃんから送られてきた、超高級メロンで有名な“キングメロン”。一玉一万円相当もする次元を超えたキングフルーツなのだ。
 これを口にすれば最後、そこらの惰弱なメロン如きなど二度と口にしなくなるであろう受け合いの究極メロンである。
 俺の魂の力説に、ココアはその白い喉をごくりと鳴らした。


「そ、そんなに美味いのか?」


「美味いっていうレベルじゃないな。頬っぺたどころか脳みそまでトロトロにする甘味は至高の一言。言葉じゃこいつの味を全て伝えられないな」


「た、たしかに。その厚皮の中に閉じ込められた甘い匂いで、我の鼻腔がどうにかなってしまいそうだ……」


 あれほど強固だったコタツでの籠城をあっさり放棄し、ふらふらとメロンの匂いに誘われるようにこちらに近づくココア。
 はいはい、涎は拭きましょ~ね~?


「で、どうする? 竜殺しについて教えてくれたら、このメロンをお前に分けてやってもいいんだぜ?」


「ほ、ほんとうか!! し、しかし、それを教えては、ますますこちらが不利に――――って、お前は包丁とまな板を持ってきて何を」


「ストン!」


「!?」


 悩み足掻く竜の少女の目の前で、ついにキングメロンが一刀両断された。閉じ込められていた濃厚な甘い匂いが部屋に充満していく。
 光り輝く果汁が外界へと溢れ出す。太陽のような輝きを放つ黄金の球体。まさに究極の域に達した至高のスイーツ。
 戦闘力はもはや計り知れない。圧倒的な存在感にココアは目を奪われている。


「…………」


「言葉も出んか」


「…………」


「感想は?」


「美しい」


「あとは?」


「食べたい」(じゅるり)


「喋る?」


「うん♪」


 果実の力はあらゆる種族を超越し、屈服させる。
 完全無欠の勝利。人類は、決して負けはしない。










続く










【作者の一言】


「カップラーメンみんな買い杉」 




[24168] 第五話・イチゴのショートケーキはまずイチゴから
Name: カンヘル◆7253943b ID:c3d83741
Date: 2011/03/24 14:58
竜殺しはドラゴン泣かせ









第五話・イチゴのショートケーキはまずイチゴから









 メロンを食べ終えた俺たち二人はコタツでぬくぬくとトロけていた。
 幸せとはこういった状態を言うのではないだろうか? 
 程よい暖かなコタツの世界に囚われ、壁時計の心地よい針音を嗜み、目の前で俺と同じような表情で幸福絶頂期な大満足笑顔で爆睡しているドラゴン幼女を見て母性本能をくすぐられる。
 言葉で全てを言い表せない幸せを感じながら、俺たち二人はいつの間にか深い眠りの世界へ――――


「――――ノコノコいくと思っていたのか?」


「いたっ」


 ぺちんっとココアのおでこにデコピンする。
 「うーっ」と呻きながらおでこを手で擦り、瞼を重そうに持ち上げた。


「……いたいではないか」


「寝るなよ。説明してから寝ろよ」


「明日な」


「それはダメ人間の思考です。起きましょう」


「ひたい! ほっへをひっはるなぁ~!」


 もちもちっとした頬っぺたから手を離し、お茶と茶菓子を場に補充して準備を整えた。


「さて、説明どうぞ」


「うむ、約束だからな」


 律儀な子供だ。えらいぞ。
 しかしドラゴンかぁ。さっきのココアの変身した姿はどう見ても手品でもなんでもなく本当に変身だった。ものすごい可愛かったが。
 先ほどのプリティキュートな姿を思い返す。確かにドラゴンと言えなくもない姿形をしていた。ドラゴンかどうかは知らんが、少なくとも人間ではないことは確かか。
 ココアはコタツから足を抜き、棚に置いてあった新品のノートと鉛筆を断りもなく勝手に持ち出して再びコタツに舞い戻ってきた。


「まず、貴様に一つ聞くが、竜殺しとはどういった人間を指すか分かるか?」


「いーえ、全然。竜を殺す能力みたいな?」


「正解だ」


「アホでも分かる質問するな。またミカンの汁飛ばすぞ」


「やめろ! 話の腰を折るなぁ!」


「わかったわかった、だから泣くな」


「泣いてない!」


「はいはい」


 気丈に振る舞う子は好きですよ。
 袖から取り出したミカンの皮を剥き、お一つ口に放り込んでやる。上機嫌になった。
 お茶を一口して喉を潤し、ココアちんの話が再開する。


「それでだ。竜殺しとは先ほどの貴様の解答で正解だ。正確に言えば【単体で竜を脅かす程度の能力を持った人間】を我らは竜殺しと認定する。その能力についてだが、とてつもなく多種多様な能力に分類される。『竜殺し』という名称から暴力的な能力を持った人間を想像しがちだが、ありとあらゆる角度から広義的にソレは解釈される」


「ほうほう」


「『殺す』と一言で言っても何も命を絶つという行為だけに限定されない。
 肉体を殺す、精神を殺す、音を殺す、視界を殺す、息を殺す、斬り殺す、押し殺す――――『竜殺し』と一言で大きく括ってしまっているが、このように多種多様な能力があり、個々に特化した能力は我らドラゴンにとってとてつもない脅威を秘めている」 


「なるほどね。つまり『竜殺し』っていうのは色々な能力があって、そのうちの一つを俺が持っていると?」


「そういうことだ。ちなみに貴様の能力はかなり特殊なもののようだ。どういった効果があるかは完全に把握しきれていないが、その能力は我らにとって十分な脅威となりうるのは間違いない」


 う~む、俺のどこらへんにドラゴンをチビらせる程度の能力が備わっているのか皆目見当もつかん。
 俺は普通の高校生だし、摩訶不思議な経歴は一切持っていない。どこにでもいるごく普通の人間、日本人なんだけど……。
 などと思考に暮れていると、ココアはノートに一つの円を描き、中心をトントンと鉛筆の芯で叩いた。


「全ての人類は先天的に『竜殺し』の資質を兼ね備えていると言われている。個人によって差はあるが、それが大きければ大きいほど我ら竜族の脅威となる」


 その隣に二倍ほどの大きさの円を刻む。真ん中に『危けん』と書き記し、その隣に正しく『危険』と書いてあげた。危険ってこう書くのよ?
 ココアの顔が悔しさと漢字を書けなかった羞恥心で真っ赤になった。
 しかし、特にそれに対して反論せず、別に気にしていないと言わんばかりに説明を続けていく。


「……我らは常に人類全体を監視している。生まれた瞬間に『竜殺し』として認定される者もいるし、ある年齢に達した瞬間に『竜殺し』だと変更されることもある」


「俺はどっちなの?」


「後者に分類される。貴様は極めて珍しいケースだ」


「そうなの?」


「ほとんどの場合、生まれた瞬間に『竜殺し』かそうでないかが決まる。そこから『竜殺し』になる可能性はないに等しい。なりたくてもなれないものだからな」


「ほう~」


「『竜殺し』にはある一定の素質が必要になる。その素質が足りないものはどれだけ努力してもなれるものではない。持って生まれた素質というものは、どうあってもそれ以上伸ばすことはできんだろう?」


「そりゃそうだな」


「しかし、稀に貴様のようなヤツがいる。素質それ自体を限界突破させて、『竜殺し』として覚醒する例外がな」


「つまり俺は天才型じゃなくて限界突破した超努力型ってことか」


「まあ、そんなところだ」


 努力ねぇ……。
 やってきた努力って片手の指で数えられる程度の数しかない。その中でそんなSF的な能力を開花させるイベントなどあったか? 
 思い当たる節はない。
 最近努力したことは、試験勉強を夜通しでしたことと、そのおかげで増えた体重を二キロ落としたことくらいだ。


「体重なんてどうでもよいことではないか。美味い物を腹一杯食べるほうが幸せだ」


「そんな考えをしているココアちんはまだまだお子様でちゅね~」


「お子様ではないわ! 貴様よりも年上だといっとろーが!! というかなんだその呼び方は!!」


 むきーっと手元にあったミカンを放り投げてくるが、それを掌でナイスキャッチ。


「食べ物を粗末にするな」


「いたたたたた!」


 またもやその柔らかホッペを力いっぱいつねる。
 そのままの状態で俺は質問をする。


「それで、俺はどういった特殊能力があるの?」


「はひにほっへはらへをひゃにゃへーー!!」


 仕方がないので解放してあげる。
 赤くなった両頬を両手で押さえながら、目尻から涙を零しながら教えてくれた。


「……断定はできないが、恐らく貴様の能力は、我らドラゴンの力を弱体化させる系統の能力だろう。以前から貴様の前では上手く力を行使できんなと思っていたが、さっきの異常変身で確信に至った」


「いや、アレは異常じゃないよ。むしろ素晴らしい変身だったよ」


「うるさい! 本来ならこんな家の三倍以上はでっかくなってるはずなのだ。貴様なんて虫けらのように踏み潰してやったものをッ」


「どこまで本当の話か分からんけど、今のところ口だけだからな」


「……信じてくれないのか?」


 そんな可愛い顔で上目遣いで言われると、またハグしたくなるから自重しようね?


「お前がコスプレ好きの電波少女じゃないってことは信じるけどね」


「そうか! ふふ、私の分かりやすい説明のおかげだな。感謝するがよい」


 
 「ふっふ~ん。どんなものだ?」という彼女の天狗な表情を見て、少し竜の娘をいじめたくなった。
 


「で? 今の説明は誰からの受け売り?」


「え?」


「誰からの受け売り?」


「ち、違うぞ! これは私がその自力で一生懸命勉強した賜物で……」


「ん~?」


「あ、えと、その…………お」


「お?」


「……………………お、おにいちゃんに教わった」


 あかん。そのモジモジと恥ずかしそうに答える表情はちょっとやばい。クラっときた。
 そして、その表情で是非とも俺のことをこう呼んでほしい。


「おねえちゃんって呼んでみて」


「?」


「呼んで」


「やだ」


 好感度が足りないようだ。もう少し頑張るか。


「ま、とにもかくにも説明ごくろうさん。お礼に自家製特別ケーキを進呈しよう」


「ケーキ!」


「イチゴのショートケーキだ」


「イチゴ!!」


 そこまで喜んでもらえると素直に嬉しいね。
 この子には是非とも『おねえちゃん』と呼んでほしいので、ケーキは大きめに、イチゴを二つ大目に乗っけてやりました。
 









続く









【作者の一言】

「ココアの属性攻撃【妹】」




【感想返し】

[11]チネロ◆01caf9f7 ID: c5ffd96a
可愛いうん可愛い (大事なことなので二回いました)

可愛いもの見ると、つい苛めたくなるそんな小学生みたいな発想。




[12]五月病◆be7c58bc ID: 1ca9f2e0
馬鹿な子ほどかわいいとはこういうことを言うのか・・・。

たまに賢いこと言ったら頭ナデナデしたくなりますよね。




[13]電気猫◆4ab44749 ID: dbcc263a
がんばって起きてようとするココアに萌えたw

そして、容赦なくラクガキをする主人公。




[14]明智◆084b92f9 ID: a6d95377
あー、うん。和んだw
冬はまったりぬくぬくできるからすきー

うちのネコもこたつから一向に出てきやしない。可愛いから許すけど。




[15]社怪人◆f8ce1004 ID: 1cf0295b
なんかドラゴンたち、微妙に餌付けされてないか?
続きを楽しみにしてます。

飴と鞭。躾には重要な要素です。




[16]ルーラ◆37b454d2 ID: 643fde04
何かそのうち当たり前のようにコタツにでも棲み付きそうだなw

最終進化はコタツドラゴンで決まりですな。




[17]もにょり◆843b5c97 ID: 7dfed2a2
も え た
しかし(見た目)幼女相手に容赦ねぇな竜殺し。

それが彼女の長所であります。




[18]α◆410a966a ID: b2caa60b
この話って作者がこたつむり状態の時に思いついた話なんだろ?

「働きたくないでござる働きたくないでござる!」ってコタツの中で丸まってた猫に懇願していた時に思いついた話。




[19]黒曜石◆1fa339fc ID: 8051a0f3
>>「この際誰でもいい。おまえは反則的な可愛さ! だから、もうお姉さんのものだ」

あ・・・れ・・・?
お姉さん・・・?
普通に男だと思ってたぜorz

バイオレンスなお姉さんは嫌いですか?




[20]村人A◆e9b6d99b ID: 6ca86979
もう更新ないと思ってたから続きが見れて嬉しいです。

作者の充電が完了したようです。




[21]ハゲネ◆9bea0560 ID: 5f3406da
お姉さんだったのですか。
てっきりお兄さんかと。
久々の更新嬉しいです。
・・・例のお姉ちゃんの方も変身ちっさくなってるんでしょうか?

ただしおっぱいはそのままです。




[22]通りすがり◆bbdcd06c ID: 00bc4a95
一話で拳が頬に炸裂してその下で頭にと発言してました。
作者さんもさすがにマズイと思って頭に変更して
上の方書き直すの忘れてたんだなあ……と思ったら
次話で顎にストレートが炸裂してました。

なるほどそういうスタイルなのかと納得しました。

主人公はお姉さんだったのですね。
ルナ見て枕を濡らして寝たのはそういう事だったのか!
……と納得したけど分かりにくいです。

ほのぼのしてて面白いです。更新楽しみにしてます。


あ、すいません。ふつうに誤字です。後で修正します……。
頭でなくて頬にフルスイング右ストレートで合ってます。パンチングマシンでやるような殴り方ですね。




[23]七誌◆926e97d3 ID: baaf37f2
お姉さんだったか、やっと胸で涙した理由がわかったわ

おっぱいは才能の塊。努力でどうこうできるものではないのですよ。




[24]s◆c7c0ace3 ID: 6a3341c3
主人公が俺っ娘姉さんと分かるのに三日掛かった。

需要ないですかね? 作者としてはたまらんのですが。




[25]五月病◆be7c58bc ID: 9bd07595
あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!
主人公が男だと思っていたら女だった・・・。
何を言ってるの変わらねーと思うが(ry

涙で枕を濡らした意味がわからなかったけど、ようやっと理解した。


主人公の胸はAカップ。



[24168] 第六話・変態という名の淑女
Name: カンヘル◆7253943b ID:c3d83741
Date: 2011/03/28 16:49
竜殺しはドラゴン泣かせ









第六話・変態という名の淑女










 夜ご飯を食べ終え、日課である腹筋を行っていると、「お邪魔します~」と間延びした声が玄関から響く。
 やってきたのはおっぱいの大きなドラゴン娘ルナさんだった。
 いつぞやのように扉を破壊せずに入ってきたのは賞賛に値する学習能力。


「失礼します――っと、お邪魔でしたか?」


「んーん。今終わったところ。こんな時間にどうしたの?」


 時刻はすでに夜の十時過ぎ。
 ドラゴンとは言え、おっぱいの大きな女の子が外をぶらぶらと歩いていい時間じゃない。
 オズオズとした様子。なんかあったのかな?


「えと、その、少しお時間いいですか?」


「? いいけど?」


「ありがとうございます」


「お茶持ってくる」


「あ、いえお構いなく」


「俺が飲みたいの。ついでだし、遠慮しない」


「すみません」


「謝るところ?」


「あ、えと、ありがとうございますですね。えへへ」


 その笑顔と谷間は男をあっさり陥落させるだろうなぁと嫉妬。やっぱり武器が多い人は得だなぁ。
 冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップにコプコプと注いでいく。冷たい氷がカランと音を立てる。


「ほい」


「あ、どうも」


 ごくごくと一気に飲み干す。うん、喉が潤い~。


「そういえば、ルナさんとはこうやって二人きりで話すことなかったね」


「そうですね~。以前はお料理をごちそうしていただいてありがとうございます。おでんとっても美味しかったですよ~」


「そりゃどうも」


「それで、今日私がやってきた要件ですけど」


「え、あ、うん」

 
 おでんからいきなり本題に話が飛んだ。


「ココアちゃんが風邪を引いてしまいまして」


「あ、そうなの?」


 ここ二、三日来ないなぁと思ったら、そういうことだったのか。
 うちに来たらコタツで数時間爆睡しっぱなしとか結構あったし、それで風邪引いちゃったかも。


「結構ひどいの?」


「いえいえ! そんなに大したことじゃありません。二千度の熱が出ただけで、ただの微熱です」


 人間なら即死以前に溶けるぞ、それ。
 さすがはドラゴン。頑丈ですなぁ。


「それを伝えにきたの?」


「いいえ」


「じゃあ何しに来たの? 笑いにきたの?」


「? 何をですか?」


「胸」


「?」


「……いや、なんでもないです」


「??」


 くそっ、満たされたおっぱいしやがって。


「私が今日やってきたのは、貴方の意志を確認するために来ました」


「意志?」


「はい。貴方は自身が『竜殺し』であるという自覚はおアリでしゅか?」


「噛んだよね?」


「自覚はおアリですか?」


「顔真っ赤にされてスルーされても」


「……」ジワ


「ごめんごめん。噛んでない噛んでない」


 ココアちんみたいにイジれないなぁ。


「『竜殺し』については、ココアちんから話は大体聞いてる」


「ちん?」


「卑猥な表現は慎むように」


「?」


 話が進まん。
 俺の願いを聞き取ってくれたのか、わざわざ胸を強調するようにこちらに前のめりで迫るルナさん。


「理解していると思いますが、本来のあり方として、『竜殺し』とドラゴンは殺しあう関係にあります。『竜殺し』として覚醒した人間のほとんどが我々ドラゴンを殺すために、日夜忙しく動き回っています」


「ココアの説明で思った疑問なんだけど、ドラゴンたちは俺たちの生活を監視しているって言ったよな?」


「ええ。そういった役目を持つドラゴンがいます。あの方も『六大竜王』の一人。この世界を監視する役目を担っています」


 なにその覗きに超特化した変態能力。超迷惑なんですけど。


「プライベートなところは監視しないでほしいんだけど」


「残念ですが、そうは言ってられません。私達の存亡がかかっているのですから、ご了承してください」


「ぐぬぬ」


 他人に見られたくない一面というものはあるんだけどなぁ。そこらへんは考慮してくれないようだ。


「まあ、プライバシーの侵害問題は置いといて。そんだけの情報を事前に取得できるなら、生まれた瞬間に『竜殺し』になる人間を殺してしまうとかできるんじゃないか?」


 その一言が意外だったのか、ピシーンっと尻尾を立てて驚く彼女。


「生まれた瞬間って、赤ちゃんをですか?」


「うん」


「できると思います?」


「俺は無理」


「私達も無理です。赤ちゃん可愛いですし」


 いやまあそりゃそうだけどね。種族の存亡を守るためなら、結構なりふり構わずやってきそうな流れだったじゃん?


「そんな外道みたいなことするドラゴンなんていませんよ~。可愛いじゃないですか、赤ちゃん」


 どうやらそんな所業はしない方針らしい。ドラゴンたちは思ったよりも平和主義者なようだった。
 コップの中で氷が解けていく。
 

「私達ドラゴンは、人間を絶滅しようとは思っていません。むしろ、人間の方が私達ドラゴンに牙を剥くことが多いのです」


「あれ? でも、俺はココアちんに先に喧嘩売られたけど?」


「貴方が『竜殺し』であると一番初めに見つけたのはココアちゃんです」


「あ? そうなの? さっき別のドラゴンが監視しているとか言ってなかった?」


「先ほど申した全人類を監視するドラゴンの名は『レヴィアタン』。ココアちゃんは、その御方の直系のご息女なのですよ」


「へぇ~」


 よく分からんけど、相当えらいドラゴンなのね。


「てことは、ココアが俺を発見できたのも?」


「はい、父君様の能力と同様の能力を彼女は持っているのです」


「ほほ~」 


 てことはアレか? あいつは将来、俺達の私生活を二十四時間常時覗き見る変態淑女に成長すること間違いなしなのか。
 それはなんか残念な末路だなぁ。あの子はあのまま清純でいて欲しいのだが。


「それで、ココアちゃんが貴方に挑んだのは、自分で初めて『竜殺し』を見つけたからでしょうね。すごく嬉しそうに私に話していました。「こいつは私が絶対に倒してやる!」と、そう息巻いていました」


「その意気込みは買うが、今のところ全戦全敗なわけだが」


「ええ、ですから貴方の『竜殺し』の能力は不思議です。あのココアちゃんが手玉に取られているところなど、実際貴方に対してしか見られませんから」


「そうなの?」


「ココアちゃんは超がつくほどのエリートドラゴンさんですから~。お兄さんとはとても仲が良いのですけど、あの二人が本気で喧嘩したら、多分この世界が持たないでしょうね~」


「マジか」


 そのドラゴン界きっての大物さんが、たかだかミカンの汁で怯んでいてはどうかと思うのだが?
 実は言うほどで、そこまで強くないんではないかと思ってしまう。
 でもまあ良く思い出してみると、あれだけの大型テレビを片手でぶん投げたり、吼えるだけで地震を起こしたりと、戦闘力は確かにすごく高いような気もしないでもない。
 お茶の中で中途半端に溶けた氷を口の中にインして、ボリボリと噛み砕く。


「ですから、それだけの力を持ったココアちゃんですら倒せない貴方を上は危険視しています。ですが、貴方には我々に対する敵意は全く感じられません。むしろ友好的な印象を受ける次第で、上の方たちは判断が難しいと頭を悩ませているのです」


「危険視ねぇ」


 腹筋20×3セットでヒィヒィ言ってるような弱い人間を危険視するなんてどうかと思いますが?


「ですから、今回私が来た理由はソレです。単刀直入に、貴方に我々と交戦する意志があるのかどうかを聞きに参りました」


「う~ん」


「その、どうなのでしょう? 貴方は、私達ドラゴンと戦うつもりなのですか?」


「う~~~ん」


 言葉の裏になぜか若干俺に対する怯えのような色が見え隠れしている。そんな反応を見せられると少し凹むなぁ。
 俺にどんな能力があるのか知らないけど、まったく迷惑なものを装備させてくれたものだ。
 壁があるのが分かった。なら、その壁を取っ払う。
 スクッと、コタツから足を抜く。対面に座るルナさんの体がびくっと大きく揺れる。
 ツカツカとルナさんの隣に着席。俺の行動が意味分からないのか、おどおどとした表情でこちらを見る。
 綺麗な緑色の瞳。銀色に光る長い髪。大きなおっぱい。肉付きの良い太もも。
 狙いは定まった。


「てい!」


「ふえ!?」


 そのまま女の子座りしている彼女の太ももを枕替わりに横になる。
 幼少以来の膝枕。久々にやってみると、ものすごく心地よい。これはやばい。
 そして、いきなり下半身を枕替わりにされて困惑するルナさんの声が頭上から降ってくる。
 

「あ、あの……えと……これはいったい……」


「男の夢――ヒザマクラ」


「ゆ、夢? って、貴方は女の子じゃないですか」


「女の子の夢でもあるみたい。…………きもちいい」


「え、ええ!?」


「頭撫でて」


「え、は、はい」


 しっとりとした掌の感触。
 あーなんか昔を思い出すぅ~。お母さんにはよくこうしてもらったっけ。


「ルナさん」


「こ、今度はなんですか?」


「寝る」


「ええええええ!?」


「ぐぅ」


「ちょ、ちょっと!?」


 睡眠効果でもあるのかってくらい、彼女の太ももは俺の意識をあっさりと落としてくれた。






















「もう、なんなんですか……」


 訳が分からない。
 どうして、この人はこんなにも無防備な姿を私に晒しているのだろうか。
 言ったはずだ。『竜殺し』と『ドラゴン』は戦う関係にあると。
 それなのに、こうして私の膝で寝ているこの人はどういうつもりなのだろうか。


「もしかして、これが貴方の答えなのですか?」


 囁くように、小さなその耳に答えを求める。
 答えは返してくれない。代わりに、くすぐったいのか小さく震えるその反応がとても愛おしい。


「ふふ、ココアちゃんが貴方を好きになった理由、分からなくもないですね」


 些細な問題かもしれない。
 私たちが思っている以上に、私達と人間は根本的なところで、きっと分かり合えるかもしれないという希望。
 それは、数千年経った今でも抱く、かけがいのない大切な一つの願い。
 この人なら、もしかしたらその架け橋になってくれるのかもしれない。
 ドラゴンに優しい『竜殺し』。
 今は、とても気持ちよさそうに眠り呆ける。



「それにしても、ヒザマクラとは、ずいぶんと疲れるものですね……」


 
 三時間後、彼女は起きてくれましたが、足がしびれてしばらく立つことができませんでした。
 そして、彼女に執拗に足をツンツンされてイジメられました。
 やっぱりひどい人。
 でも、この感覚ぅ……ッ!


「悪くない、かも……」ビリビリ


「えー」












続く















◆ドラゴン図鑑◆

No1:【レヴィアタン】

 現在のイラクを中心とした地域はヨーロッパの人々に『オリエント』と呼ばれていた。
 レヴィアタンはこの地域に古くから伝わる伝説の海棲生物で、ユダヤ教とキリスト教の聖典である『旧約聖書』にも登場している非常に有名な存在。
 レヴィアタンは別名『リヴァイアサン』とも言う。ワニのような姿をしているとも、恐竜に近いとも言われている。
 伝承によっては、300以上の目から放つ光で空を明るく照らし、鼻からは蒸気、口からは火炎を吐き出すというものがあるとかないとか。
 天地創造の7日のうち、5日目に神によって作られた。
 体長1600キロのドラゴンをネズミのように美味しく食べ、あらゆる武器が通用しない無敵の怪物。
 拙作では、世界の監視なんてオリ要素を加えられ、無敵の怪物から無敵であり変態という名の紳士にレベルアップしている。









【作者の一言】

「だいだるうぇいぶ? ふっ、珊瑚の指輪があればどうということはない」ドヤ?





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