| ジャーナリスト 上杉隆
Saturday April 2nd 2011

無期限活動休止のおしらせ


並々ならぬご支援を頂戴している皆々様へ

(以下:なみなみならぬみなみなさま)

おかげさまで、兎年の今年、上杉隆はジャーナリスト活動12周年を迎えることができました。これもなみなみならぬみなみなさまのおかげでございます。まずは冒頭、衷心より御礼申し上げます。

ニューヨークタイムズを辞め、フリーランスとしての活動でもちょうど10年。おかげさまで、この間、じつに多くの方々の温かいご支援や励ましのもと、たくさんの著作や記事、あるいは番組などを通じて、活動内容を世に問うことができました。誠にありがとうございました。

とくに、最近の5年間は、フェアでない日本の言論空間の是正、メディア環境の世界標準化を目指す一環として、記者クラブ制度の改革に取り組み、それなりの警鐘を鳴らすことに成功したと自負しております。これもなみなみならぬみなみなさまの支えがあったからに他なりません。重ねて御礼申し上げます。

しかし、残念ながら、少しばかり手遅れのようでありました。今回の東京電力福島第一原発事故の例が示すように、自らの既得権益にのみ汲々とした日本の大手メディア(記者クラブ)は、結果として、政府と東電の「合成の誤謬」に加担し、憐れにも、先人たちの築いてきた日本という国の信頼を地に堕とす「共犯者」の役割を演じています。

かつて在籍したニューヨークタイムズ紙などの世界の論調を眺めていると、私はひとりの日本人ジャーナリストとして、いま強烈な無力感に襲われています。それは、あたかも日本政府は原子力エネルギーをコントロールできない無謀な「核犯罪国家」であり、また日本全体が先進国の地位から脱落して、今後数十年間にわたって「情報最貧国」に留まることが決定付けられているような書きぶりだからです。

ただ今回、唯一の救いは、今年立ち上がった「自由報道協会」所属の記者を中心としたジャーナリストたちの目を瞠るような活躍により、被災地、あるいは記者会見の現場、さらには内部の情報提供者から、政府・東電・マスコミで作られた「官報複合体」の隠蔽しようとする情報を、国民の前に提示することができたことです。

震災発生直後にガイガーカウンターを持って現地入りした者、ツイッターなどのソーシャルメディアで安否情報を発進した者、ラジオなどで被災地の声を全国に届けた者、東京電力という巨大スポンサーに屈せず発言し番組を降ろされた者、記者会見に通い海洋汚染の危険性を唱え続けた者、核マフィアの隠すプルトニウムの真実を追及した者、最悪のシナリオについて再三叫び続けた者――。彼らは各々己の責任で勝手に取材活動を行なっただけにすぎないのですが、結果としてジャーナリストとして「連帯」していたのです。

自由報道協会の暫定代表として、私は、彼らの仕事を心から誇りに思います。

いま、私は、70年前の「大本営」(政府・軍部・新聞)の時とは明らかに違う世界に住んでいる喜びを実感しています。インターネットなどの新しいメディアの発達によって、世界はそれ以前の状態に戻ることはないだろうと、確信しました。私自身は、微力ながらも、少しだけその変化に寄与できたはずだと自負しております。

一方で、記者クラブメディアはこの間、いったい何をしていたのでしょうか。自分たちは安全なところに置きながら、フリーランスや海外メディア、ネット記者らの仕事を横取りし、ソースも明示せず、自らの手柄のように報じているだけです。しかも、その直前までは政府・東電の発表に乗っかり、まったく逆のニュースを流していたのです。

私は、少なくとも敬意を持って彼らの仕事を評価してきたつもりでした。ソースは必ず明示し、スクープには賞賛を、つまらない仕事には批判でもって対応してきました。ところが、この12年間、彼らの方では、フリーランスやネット記者の仕事を、ただの一度も認めることはしませんでした。この20年間、ほとんどのスクープ記事が雑誌、ネット、フリーランスのジャーナリストたちによるものであるにもかかわらず、です。

これ以上、国際的にフェアな仕事のできない日本のメディアに関わることは、畢竟、自分自身も犯罪に加担していると疑われる可能性もあります。私はジャーナリストとして、国家的犯罪に加担したくないのです。

ということで、なみなみならぬみなみなさまにご報告があります。日本にとって、また私自身にとっても大きな節目となる2011年、その本年12月31日をもって、ジャーナリズム活動を休止することを決めました。

なみなみならぬみなみなさまに置かれましては、事情ご賢察のほど、ご理解賜りますようよろしくお願い申し上げ、お許し願えればと存じます。

最後になりましたが、今回の東北関東大震災で被災されたすべての方々へのお見舞いと、政府、東京電力、記者クラブが作る歪んだ社会の中で生き続けなければならないすべての日本人の幸福を心からお祈り申し上げます。

2011年4月1日

上杉 隆

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6 Responses to “無期限活動休止のおしらせ”

  1. Reiko より:

    現在のご活躍、心から感謝しています。
    沢山の難しい状況、そして無力感を感じられている事はよくわかります。
    上杉さんほどでないにしろ、日本国民の多くも同じく気持ちを持っていると思います。
    いままでの無関心から、フリーランスの記者皆さんのご活躍によって、私たちも何かをしなければいけないと、そんな焦燥感にも似た気持ちが湧きおこっている現状です。

    これから日本が変わっていくために、いままでも力いっぱい活動してくださっている上杉さんのお力が絶対に必要だと思います。

    今年いっぱいの活動休止、理解しそのあとの活動を応援したい気持ちはいっぱいですが、日本と私たち一般市民は見放されてしまったのか?そんな思いがしています。

    今日は4月1日。どうか活動休止は嘘だと言って欲しいです。

  2. ishiitk より:

    4/1を狙ったジョークであることを願うばかりです。

  3. damian16002000 より:

    うっそぴょーん

  4. みなと より:

    お疲れ様です。
    これで何もかもぶちまけられますね。
    よろしくお願いします。

  5. 飯島廣樹 より:

     からかっているのではない印に、実名で投書します。

     そのお怒り、絶望感をエネルギーに、今年いっぱい、あらゆる手段で現在の批判を続けてください。
    あらゆる所で吠えまくって、少しでも上杉ファンを増やす努力をお願いします。
    そして来年の正月休みに一旦クールダウンした上で、また新たな手法で活動を再開していただきたいと願います。

    「前言撤回」でも「心変わり」でも「なかったことに」でも何でも構わないですから。

     また海外に拠点を移して、そこから世界と日本に向けて、たとえば上に書かれたNYタイムズの記事のような
    視点でニュースを発信してもらってもいいと思いますし、日本のマスメディアから距離を置いて取材・執筆活動を続けてもらっても、私にはありがたいと思います。

     短くて恐縮ですが、私のような、普段はサイレントというより面倒くさがりの読者は多いと思いますので、
    一筆啓上させていただきました。

  6. おっしゃっていることは難しいんですが自分なりに理解できます。
    日本でのジャーナリストとしての活動をやめて海外で活動されるということですか?
    今拝見した文面ではそこのところがわからないわけでできるだけ早くその後の活動についてお聞かせください。
    素人の私達がしりたいところです。

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