Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
福島第一原子力発電所の事故に対する国際社会の支援がいよいよ本格的に動き出した。主要国首脳会議(G8)の議長国であるフランスのサルコジ大統領も来日した。海外でも第一原発か[記事全文]
きょう、41道府県議選と15政令指定市議選が告示され、統一地方選の前半戦に挑む候補者が出そろう。東京都など12の知事選と、4政令指定市長選とともに10日に投開票される。[記事全文]
福島第一原子力発電所の事故に対する国際社会の支援がいよいよ本格的に動き出した。主要国首脳会議(G8)の議長国であるフランスのサルコジ大統領も来日した。
海外でも第一原発からとみられる放射性物質が検出され始めた。現場では、原子炉の制御を回復する作業を大量の汚染水が阻み、海水にも高濃度の放射性物質が漏れ出ている。
日本はこの危機に対処できていないのではないか、という不信感も生まれている。支援の機運が高まるのは、各国に危機感があるからだ。
事故の対応は長期戦の様相にある。政府や東京電力が受け入れに踏み出したのは当然だ。諸外国の知恵を借り、その好意を成果に結びつけたい。
軸になるのは、原子力のノウハウを蓄積している米国の協力だ。専門家による助言に加え、放射能汚染に対応できる米軍の専門部隊も派遣される。
とりわけ期待したいのが、危険な現場にいる作業員の仕事を肩代わりする技術だ。米国からの機材には、原発内で遠隔操作できるロボットが含まれる。
欧州の原発大国フランスからは大量の防護服や防護マスク、測定器が届き、汚染水処理の専門家も来日した。英国やドイツからも専門家派遣などの申し入れが届いている。
国際原子力機関(IAEA)も、住民避難とのからみで第一原発周辺の放射性物質の詳しい調査を政府に促している。
国際社会が敏感に反応する背景には、1986年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故がある。
当時、事故炉から出た放射性物質が欧州の広い地域に飛び散って、「地球被曝(ひばく)」とさえいわれた。その経験から、原発災害には一国では立ち向かえない、という認識が培われてきたのである。
今回は、国際社会が連携して原発の一大事に臨む最初の例となろう。
大事なことは、国外の支援を国内の人材や機材、ノウハウとうまく組み合わせることだ。
炉を落ち着かせ、放射性物質の放出を抑えるには何が求められ、どの国の技術や人材が最適かを見極める。場合によっては「こんなところに力を貸して」と要望してもいい。
外務省や東京電力はばらばらに対応するのではなく、首相官邸が司令塔となって専門家の意見を聴きながら判断することが大切だ。
国際社会の不信を解消するために的確な情報を発信することにも積極的でありたい。
きょう、41道府県議選と15政令指定市議選が告示され、統一地方選の前半戦に挑む候補者が出そろう。東京都など12の知事選と、4政令指定市長選とともに10日に投開票される。
東日本大震災の被害が大きい岩手、宮城、福島の県議選は先送りしたとはいえ、まだまだ選挙どころではない、と思う有権者が多いことだろう。
さきに始まった知事選では、多くの党首が街頭での第一声を見送った。出陣式で黙祷(もくとう)し、拡声機の音量を下げるなど選挙運動の自粛ムードが広がる。
民主党と自民党が対決する知事選は北海道と三重県だけ。事実上の相乗りが六つ、民主不戦敗が四つ。2大政党、とりわけ民主党の存在感の薄さが統一選の低調さに拍車をかけている。県議選が始まっても、静かな選挙戦が続くだろう。
昨年来、地方政治の現場では「首長VS.議会」の対立をどう解くのかが課題だった。そして、2大政党への不信感の裏返しのように、地域政党や首長が率いる新党が続々と生まれた。
とくに、河村たかし名古屋市長の「減税日本」は3月の市議選で第1党になった。この愛知県議選でも知事の新党と連携して勢力拡大を狙う。大阪都構想を掲げる橋下徹府知事の「大阪維新の会」も府議選と大阪市議選での過半数をめざす。
首長新党が議会を制して実質的な一元代表制になることに、私たちは慎重な対応を求めてきた。議会のチェック機能がいま以上に低下することを危惧するからだ。首長側の勢いがさらに増すか、その向こうを張る力量を議会が少しでも蓄えるか。それが今回の大きな焦点だろう。
統一選では長らく多くの地域で、人口減や高齢化、経済低迷といった地方の課題が問われてきた。大震災に襲われたのも、そういうところだ。こうした難題に候補者らは、どう立ち向かうのか。大震災を踏まえた防災対策も重要だが、地域の具体的な将来像を有権者は聞きたい。
いま被災地では、自治体のがんばりが目立つ。救援物資を送ったり、避難民を受け入れたりする市町村の連携も広がっている。たとえば、新潟県中越地震に見舞われた長岡市が妊婦や乳児、要介護者らを優先する福祉避難所を開くなど、現場ならではのきめ細かな対応も多い。
自治の現場の力強さが実感されるなかでの統一選である。従来型の補助金頼みの発想から、もっと自立をめざす分権型の手法を打ち立てられるのか。各地の議員の質を向上させていく機会に、ぜひしよう。