2011年3月26日(土) 東奥日報 特集

断面2011

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■ 原発事故で自主避難要請/半端な対応に住民苦悩

 残留か、避難か−。福島第1原発事故で、半径20〜30キロ圏内の屋内退避区域に自主避難を促した政府対応に地元が困惑している。「指示」ではなく「要請」というあいまいさもあり、呼び掛けから一夜明けた26日現在も、1万〜2万人がとどまっている。周辺では1日の積算放射線量が一般人の年間被ばく線量限度を超える地域も。住民の危機感は募るばかりだ。

 ▽情報よこせ

 「ようやく営業する商店も増え始め、ごみ収集も一部で再開された。徐々にだが、活力も戻りつつあるのに…」。26日午後、一部が対象区域に入る福島県南相馬市の担当者は戸惑いを見せた。

 15日の屋内退避指示の後、一時は町を去る人が続出。物資の搬送が滞り、残った住民が孤立化する状況も。残留を望む住民に配慮しながら職員らは対応に追われてきた。

 それだけに「自主避難の呼び掛け」という中途半端な国の対応に不信感は募る一方だ。特に健康への危険度について「新たな段階に入ったわけではない」(枝野幸男官房長官)としたことに、市の担当者は「むしろ危険だとはっきり言ってくれれば納得もいくのだが。国は現地の実態を把握していない」。

 同じく対象区域を抱える同県田村市の職員も「政府は残る住民の把握に努めろと言うが、その前に情報をよこせと言いたい」と声を荒らげた。

 ▽参考程度

 屋内退避や避難などの措置を決める際の目安とされる被ばく線量は、原子力安全委員会の防災指針に示されている。

 屋外に居続けると外部被ばくが10〜50ミリシーベルトになると予測される場合は「自宅など屋内に退避し、窓を閉め気密性を保つこと」。50ミリシーベルト以上は「政府の災害対策本部などの指示に従い避難する」としている。

 だが、この指針は強制力を伴わず、原子力安全委員会事務局の位置付けも「政府の災害対策本部が意思決定する際に参考にするもの」といった程度。加えて、放射性物質は均一に広がらず、風向きなどの気象条件でむらが出ることも、範囲の設定を難しくさせている。

 文部科学省は25日、原発から北西に約30キロの地点で、約24時間の積算で1.4ミリシーベルトの線量に達したと発表。屋外に居続けると仮定すると、1週間強で屋内退避の指標の値を超える計算になる。

 ただ、米エネルギー省の観測では、北西側の放射線量は下降傾向。観測結果や今後の予測線量を基に、退避や避難の区域を厳密に区分けするのは容易ではない状況だ。

 ▽コストダウン

 「今、避難の範囲を広げれば『危険性が増した』と受け止められ、パニックを呼び起こす」。菅直人首相が枝野官房長官らと対応を協議したのは23日。自主避難が相次いでいることを受け、避難範囲を拡大することも検討したが、結局、慎重論が大勢を占めたという。

 枝野官房長官は25日の会見で、今後の避難指示について「放射線量との関係で指示するのが原則。安全性の観点とは別に、社会的要請の観点から出し得るのかどうか、原子力安全委等に検討してもらっている」と説明。だが、ある政府関係者は「避難指示を出せば住民の移動に多額の費用がかかる。自主避難なら少しでもコストダウンできる」。判断の背景に、厳しい財政状況への配慮があったことを打ち明ける。

 迷走する政府。田村市で雑貨店を営む男性は「首相も官房長官も、安全な場所で学芸会のように騒いでいるだけ。原発内で被ばくした作業員や避難先で亡くなった高齢者を見ると、もはや安全な場所などない。一体どこに逃げればいいんだ」と吐き捨てるように語った。

(共同通信社)




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