役場機能ごとさいたまスーパーアリーナ(さいたま市)に集団避難した福島県双葉町の住民約1200人が30日から、埼玉県加須市の廃校へ移転する。双葉町にある東京電力福島第1原発の事故後、いち早く県外避難を決断したが、アリーナの使用期限が月末に迫り再移転へ。28日には避難後初の臨時町議会も開かれた。初めての事態の連続に町の苦闘が続く。
「現実離れした毎日だ。本当にどうしたらいいのかという気持ちだ」。再移転を前にした26日、井戸川克隆町長は率直な心情を吐露した。
双葉町の住民が移るのは、アリーナから北に約20キロ離れた加須市内の旧県立騎西高校。24教室が入る4、5階建ての校舎や体育館、合宿所が並び、シャワー室もある。22日に町長が視察し「遠くに田んぼが見える。ほっとする」と即決した。
町と加須市の計画によると、校舎の全教室に畳計約1500枚を敷いて居住空間を確保し、役場機能も設置。市側は校内に対策本部を置き、職員4人を常駐させる。全人口約6800人のうち、アリーナに避難した約1200人を30~31日にバスで移送する予定だ。
しかし、移転後の課題は山積みだ。井戸川町長は「故郷に近い環境にしたい」と、教室を地元の近隣地区や隣組ごとに割り振る考え。雑然としたアリーナに比べ、プライバシー確保は改善されるとみられるが、見知らぬ土地での生活にストレスは避けられない。町民の「心のケア」対策も求められそうだ。
原発災害に伴う滞在の長期化も視野に入れ、小中学生は加須市での受け入れが固まったものの、主に農業と原発で生計を立てていた各家庭の生活をどう立て直すかは、まさに暗中模索の状況だ。
ただ、アリーナ到着の翌20日には“町役場”が始動。「安否確認や罹災証明の発行が多い」とはいえ、町民1人当たり3万円の貸付制度を創設した。28日の臨時議会で2011年度予算案も可決された。
原発事故で福島県内の避難所8カ所に分散していた町民を「1カ所にまとめたい」と、埼玉県側に談判し、アリーナに導いた町長の行動力に信頼を寄せる町民は多い。