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[21907] 神木・蟠桃の木の精霊(ネギま本編完結・超鈴音・相坂さよ)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/03/29 21:30
本作の投稿開始はチラシの裏2010年9/14日から、赤松健版移動2010年10/21日からとなっております。
尚、2011年1/21日65話 サイカイ。サイアイ にて「ネギま」としては一応の完結を致しました。
この作品は主にネギまの設定に、幾つかのオリジナル設定を加え、その場合どうなるだろうかと考えた事から勢いで始まった妄想物です。
当初は短編で終わるだろう、と思っていましたが終わる気配がなかなか見えないうちに字数に換算して百万字を突破しました。
SS投稿は本作が初めてです。
また、本作以外の創作を行う予定は一切無く、私自身一回切りの試みですので、多々問題があると思われます。
尚本作のPV数は一時期異常増加があった為、実際には表示されているPV数よりも本来は数万近く低いのは間違いありません。

本作の特徴と注意
1、かなり淡々と進むため、盛り上がりと盛り下がりが殆ど無く、残念ながら読む人を選ぶものとなっていると思われます。基本的には流し読みを推奨致します。
2、開幕テンプレ転生で始まりますが、設定を簡単に建てる、話を楽に進める為という要素が強く、単純に第3者視点が増える、というものに近いです。
3、設定に設定を重ね、後出しジャンケン的な状況になりつつありますので、そういったものが不快な方はご注意下さい。
4、基本的に原作の出来事の順番をフライングする形で再構成するような話になっています。
5、神木及びネギ先生魔改造要素(主にガンダム00の設定を擦り合わせ)有り。クロスではありません。
6、恋愛(ラブコメ)要素ほぼ皆無。
7、戦闘描写はおまけ程度ですが、技に関して「―  ―」で括っているのはテイルズシリーズをそれとなく意識しています。
8、話の展開にご都合有り。
9、主にwikipedia等を参考にしていますが、設定の不備により矛盾が発生する可能性有り。
10、一部地名等に実名を使っていますが、そこで実際に起きた出来事、人物とは何の関係もありません。
11、本来なら詳しく描写すべき点を大幅にカットし、その辺りのイメージを原作にかなり頼っていますので、原作を読んだ事の無い方で……読まれる方はあまりいらっしゃらないとは思うのですが、それによって理解出来ない、ついていけないといったことがあるかもしれませんので、ご注意下さい。
12、感想掲示板で疑問点について意見をいただいた場合基本的にネタバレに近くても回答していますので、ネタバレ厳禁な方はご注意下さい。
13、原作で魔法世界編が終わってもいないのに、無理やりほぼ終わらせる形となりました。結果としてオリジナル展開となりましたが、幾つかのシーンが単行本派の方には確実にネタバレとなっていますので重ねてご注意下さい。
14、文字サイズは大以下を推奨致します。

オリジナル設定
1、原作学園祭編で中心人物となる超鈴音が未来に帰ると死亡する(本作ではその逆、阻止という形で進みます)。
2、地球(旧世界)で魔法が使えるように魔力を生み出しているのは麻帆良学園に生える神木・蟠桃。この点に関してはテイルズオブファンタジア、テイルズオブシンフォニアの世界樹ユグドラシルの設定を擦り合わせる形になっています。
3、魔法世界は人造異界ではない。
4、魔力と魔分という概念が異なる。これは単純に勇者が生意気な某ツルハシゲームの影響です。更に魔分=GN粒子といった感覚です。
5、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが話の初期で真祖の吸血鬼では無くなる。これによってバタフライ効果発生。
6、学園長の名前は近衛近右衛門ではなく、近衛近衛門。

魔法世界編における設定
1、原作で度々出ている地図の上が北、下が南であると確定(原作初期マガジン連載時の設定で通します。単行本では修正されていましたが)
原作、絡繰茶々丸から、ケルベラス大樹林、古菲探索時に度々下が北である発言が為されているが、上下反対では分かりにくい、混乱を招く為。
2、一般旅客輸送飛空艇の時速を60km強、1日の総飛行距離を1500kmに設定。
3、ネギ先生の箒での最高時速を100km、徒歩での平地移動時速を12-18kmと設定。
4、メガロメセンブリアを基準に時差を左に行くほどマイナス、右に行くほどプラスと設定。
尚、日付変更線をアリアドネーとフォエニクス(メガロメセンブリアのある大陸の東端)間の海に決定したいと思いますが、混乱を招く恐れがあるので基本的にスルーでお願いします。
5、貨幣価値について
矛盾が多いですが以下のように設定致します。
1ドラクマ=16アス
1アス=10円
1アスの日本での感覚での貨幣価値は100円程
ナギ・スプリングフィールド杯賞金100万ドラクマは日本人の感覚で16億、正しくは1億6000万(原作で3人奴隷労働6年分で返せるという発言は後に水商売含むか、トサカさんの適当な見積もりであると想定)
1アスが最小通貨で基本的にインフレ気味と想定

参考:凡その魔法世界都市位置関係
  12時        14時       16時     17時                     1時            3時   4時     6時
                   ヘラス                            アルギュレー大平原
                                                             ボスポラス                  

 アリアドネー                      ノアキス  ニャンドマ  ヴァルカン   

                                                 エオス                           フォエニクス
シレニウム                                              メガロメセンブリア       ノクティス・ラビリントゥス
                                              トリスタン
         ゼフィーリア                     オスティア
                                               オレステス
                                                         クリュタエムネストラ

           ケルベラス
       グラニクス           モエル  エルファンハフト


                                                                             タンタルス
                         アンティゴネー                                  テンペ
ブロントポリス                           アル・ジャミーラ



           ケフィッスス             桃源

        セブレイニア      盧遮那     龍山山脈


本編アフターにおける設定(火星=魔法世界)
・本編中での火星と魔法世界の同調により
1、南北が逆転(ヘラス帝国、アリアドネー、メガロメセンブリア、北に集中していた大陸が全て南半球)
2、自転周期が24時間から24.6229時間へ増加
3、公転周期が365日から686.98日に増加(火星での日数換算にして669.601日)
4、火星の暦を地球での2003年9月1日時点で同じく2003年9月1日に同期(公転方向は同じ為、季節にズレが出ないように)

  地球、日本時間2003年9月1日3時43分=火星、オスティア時間2003年9月1日0時0分

5、火星の一ヶ月を56日間に変更

2003年
  9月~12月まで全て56日間

2004年
  1月=56日 2月=56日 3月=56日 4月=56日 5月=56日 6月=55日
  7月=56日 8月=56日 9月=56日 10月=56日 11月=56日 12月=55日

2005年
  1月=56日 2月=56日 3月=56日 4月=56日 5月=56日 6月=55日
  7月=55日 8月=56日 9月=56日 10月=56日 11月=56日 12月=55日

……以後、年間670日と669日を交互に繰り返す

参考:本編アフターでの凡その火星(魔法世界)都市位置関係
                          21時               0時                                   9時
                                          龍山山脈     盧遮那      セブレイニア

                                             桃源             ケフィッスス



                                       アル・ジャミーラ                             ブロントポリス
                テンペ                            アンティゴネー
 タンタルス

                                                              ケルベラス
                                             エルファンハフト  モエル           グラニクス

                    クリュタエムネストラ
                                オレステス
                                         オスティア                     ゼフィーリア
                                  トリスタン
  ノクティス・ラビリントゥス       メガロメセンブリア                                              シレニウム
フォエニクス                          エオス

                                    ヴァルカン  ニャンドマ ノアキス                     アリアドネー

                    ボスポラス
                   アルギュレー大平原                             ヘラス

以上、これまで感想掲示板で誤解を招いた、理解不十分であると思われるものについて触れたつもりですが、今後も補足する可能性があります。

簡単なあらすじ
・神木の精霊の場合
1世界に魔法を残す指令を受ける。
2火星、魔法世界のテラフォーミングを進める。
3魔法世界の崩壊を防ぐ。
4以後宇宙に飛び出す。

・ネギ先生の場合
1メルディアナ魔法学校は恙無く卒業。
2原作よりも数ヶ月早く麻帆良に到着。
3エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルから教育を受ける。
4原作よりも長時間修行に励む。
5修学旅行(行き先変更)、学園祭を恙無く過ごす。
6魔法世界で急速に重要人物になる。
7魔法世界をやり遂げる
8めでたしめでたし

3/29
現在総文字数約1264000字です。

3/29
現在総文字数約1255000字です。

3/23
現在総文字数約1233000字です。
kyoko様のご指摘頂いた火よ灯れの件に関して77話から80話まで適宜修正致しました、大変申し訳ありません。

3/20
現在総文字数約1223000字です。

3/9
現在総文字数約1206000字です。

3/5
現在総文字数約1194000字です。

3/2
現在総文字数約1175000字です。

2/28
現在総文字数約1163000字です。

2/26
現在総文字数約1154000字です。

2/25
現在総文字数約1142000字です。

2/22
現在総文字数約1127000字です。

2/19
現在総文字数約1092000字です。

2/14
現在総文字数約1075000字です。
長谷川さんが麻帆良に来たのは中学からと修正させて頂きたいと思います。

2/12
現在総文字数約1062000字です。

2/10
現在総文字数約1053000字です。

2/8
現在総文字数約1041000字です。
魔法世界編はもう既に終わっていますので無理に2万字更新にこだわるのはやめたいと思います。

2/6
現在総文字数約1032000字です。
横道にそれたパートを入れようとして、やはりいらないか……と削除を繰り返していたら結局ひとまず1万字で魔法世界公開という運びになりました。
次回更新は復活したネギ先生と図書館島の住人2人との話になると思われます。

1/29
現在総文字数約1021000字です。

1/21
現在総文字数約1007000字です。

1/19
現在総文字数約994000字です。
63話空白期間にて、ゆえ吉さんの記憶の事すっかり忘れており、美空パートにて戻った事に修正させて頂きました。
また、アルの発言にラカンにも連絡をいれたという補足もさせて頂きました。
というのも、ラカン氏のこれまでの発言とフェイトさんの発言に10年前にラカン氏もせめて情報を得ていないとおかしいという事に今更気づいたからです……。

1/17(18)
現在総文字数約974000字です。

1/16
現在総文字数約967000字です。

1/15(16)
現在総文字数約956000字です。

1/13(14)
現在総文字数約946000字です。

1/12
現在総文字数約937000字です。

1/12
現在総文字数約926000字です。

1/5
現在総文字数約909000字です。
凡士様の感想を参考させて頂き、麻帆良の部を追加致しました。

1/4(1/5)
現在総文字数約906000字です。
久しぶりの新規投稿ですが……もう頭が痛いです。

1/3
現在総文字数約896000字です。

1/1
明けましておめでとうございます。
現在総文字数約893000字です。

12/30
現在総文字数約879000字です。

12/29
現在総文字数約871000字です。
追加完了です。

12/26
現在総文字数約855000字です。

12/25
現在総文字数約846000字です。
追加完了です。

12/24
現在総文字数約837000字です。
追加作業がやはり後で入ります……。

12/23
現在総文字数約826000字です。
追加完了です。

12/22
現在総文字数約818000字です。
また後で追加作業となります……。

12/21
現在総文字数約808000字です。
追加完了しました。
後もう一息で魔法世界編も終わりを迎える事ができそうです。

12/18
現在総文字数約802000字です。
やはりネギ先生が強すぎました……。

12/17
現在総文字数約788000字です。
追加完了しました。

12/15
現在総文字数約782000字です。
とうとうトランザムしました。
バランスをミスると色々大変な事になりかねないので調整が必要かもしれませんが……。

12/12
現在総文字数約769000字です。

12/9
現在総文字数約750000字です。
追加完了です。

12/8
現在総文字数約745000字です。
また追加が入ると思われます……。

12/7
現在総文字数約733000字です。
妙に牛歩化したのはアスナの過去の年齢問題に折り合いをつけるのに手間取ったからです……。
ようやくこれでゲートポート探索編に移れます……。

12/5
現在総文字数約729000字です。
ちょっと展開的にそれは……と言われそうですが……意見があったらどうぞお願いします……。
この話的にはアリ……だと思いたいのですが……。
何よりネギ先生の魔法世界救済案はこの作品では発動しないので……。

12/4
現在総文字数約716000字です。
追加完了です。
51話も9000字程度なのでまた追加となります

12/3
現在総文字数約699000字です。
恐らくまた追加予定になりそうです……。

12/1
現在総文字数約688000字です。
追加完了です。
最近2万字を目安に魔法世界編を進める癖がついてしまいました……。
以下、既にオコジョ妖精が帰ってきたので「もうそろそろ」では無くなりました。

もうそろそろオコジョ妖精が帰ってくる話が入るので、魔法転移符関係の19話20話を再確認したところ非常におかしな事になっていたので修正箇所の説明をさせて頂きます。
修正前19話では魔法転移符が転移札と表記されていましたが全て(魔法)転移符で統一しました。
また、「転移した後に爆破して転移札も粉々で追跡ができない」という記述も、転移符が現場に残るというのは性質上あり得ないので、該当部分を削除しました。
何故か当時私の勝手な思い込みで呪術協会系と決めつけるようなスタンスで会話文が交わされていましたが、これもおかしな事なので、そのため無理の無い記述に改めて修正致しました。
流し読みをなさってる方は大丈夫かもしれませんが、読み直すと明らかな矛盾が発生していたので整合性が取れるように修正したという程度です。
当然特段話の流れとしては大差ありませんので、わざわざ読みなおしてまで再確認する必要もありませんが、報告をさせて頂きます。

11/30(12/01)
現在総文字数約677000字です。
短いので追加作業が入る可能性が高いですがご了承下さい。
プレビューが効かないのはなかなか厄介です。

11/28
現在総文字数約669000字です。

11/27
現在総文字数約653000字です。
結局47話に追加作業を行い、アリアドネー集合までとしました。

11/26
現在総文字数約644000字です。
今回少し短いですので後で調整を入れるかもしれません。

11/24
現在総文字数約632000字です。
ネギ先生の処理は……違うパターンもあり、どちらでもよかったのですが、結局都合が100%な展開となりました。
そうでない場合も都合が100%でチート能力を手に入れるような感じになるのであまり変わらないんですが……。
それよりベアトリクスが石化したのはショックでした……。

11/23
現在総文字数約612000字です。

11/20
現在総文字数約586000字です。

11/19
現在総文字数約564000字です。
アーニャ……はこれでまぁいいんじゃないかと。
別に廃都に放りこんでおいても良かったんですが……。

11/18
平地で障害がなければネギ先生は3、4時間で50kmは移動できるという原作の記述があったのを思い出し、魔法世界編1の「遅めの自動車ぐらい」云々の部分を修正致しました。
朝倉和美が飛空艇に乗って世界一周した距離が、概算で42000km程度だと思われるのでこれを日数換算して、一般旅客輸送艇の時速を60km強程度とすることにします。
よって24時間飛空艇を飛ばすと一日の総飛行距離はおよそ1500km程度となるように設定したいと思います。
小太郎君や楓さんのような人達は、ケルベラス大樹林からヘカテスに抜けるまでは日に75kmで4日間、ヘカテス、グラニクス間を日に150kmで2日間300km弱は自分の足で進めると考えたいと思います。
一応上記のネギ先生の4時間で見れば×3で12時間ですから1日の平地移動距離150kmというのは概ね合っているのではないかと思います。
エリジウム大陸はセブレイニアも含むのかや、テンペテルラは地域名でテンペが街の名前であっているのか、等イマイチよく分かりませんがいずれにせよ、図を張ることもできませんのでうまくやっていく必要がありそうです……。

追記:下手な魔法世界都市位置関係を上記に追加しました。参考までにどうぞ。

11/17
現在総文字数約550000字です。
彼が出てくるようで一切でてきませんでした……。
やはりバラバラというからにはとことんバラバラにすべきかと思いましたが、破綻しないよう気をつけます……。

11/16
現在総文字数約530000字です。
魔法世界編に入る前に最後のあとちょっとが先に入りました。
次からいよいよとなります。
何やらPV数がまたしてもおかしな上昇を見せているようなのですが正しくは131000ぐらいであるかと思います。

11/14
現在総文字数約521000字です。
いよいよ魔法世界編ですが、今後テンション的な問題で8月27日以降の話と交互に進めるかもしれません。

11/13
現在総文字数約509000字です。

11/12
現在総文字数約495000字です。
ドラクマの貨幣価値をなんとなく設定しましたが、おかしいようであればご指摘下さい。

11/10
現在総文字数約486000字です。
ようやく1日目終わりです。

11/9
要するに35話の「女性型の~さん」の前三文字を削除すればエラーは起きないということに気づき試した所、解決致しました。
test様情報提供ありがとうございます。
細かいことですがまほら武道会の試合数をやはり1選手1日4試合、全試合およそ600試合に修正しました。
試合と試合の間隔が最大で4時間にできないと話的に矛盾が生じるのは避けられそうにないのが理由です。

11/8
35話残存部分がなんとか投稿できました。
エラーが解消次第結合作業を行う予定です。
麻帆良祭でやや気が遠くなってしまい麻帆良祭後の話の……原型のようなものが先にできてしまいましたが、あちこち要修正ではあるものの大体普通に繋がっていく予定です。
次は麻帆良祭続きとなります。
現在総文字数約465000字です。

11/7
文量があと少しという所で投稿しきれず、エラーが発生し半端な部分までしか35話投稿できておりません。
何度か試行したいと思います。
sage投稿にすれば良かったのですが失敗しました……申し訳ありません。
一旦削除した方がいいのかもしれませんがしばらく様子を見たいと思います。

11/6
現在総文字数約441000字です。
やはり補足という形でまほら武道会一戦目を終えるまでで区切る事としました。
流石に3日間18戦近く全部触れるなんてことはしないので、後は飛び飛びかつ麻帆良祭そのものにも話が移る予定です。
細かいことですが久々に正しく字数計測したところ442569字でした。
徐々に誤差が出ていたようです。

11/5
現在総文字数435000字です。
触れる試合と魔法球の関係で未だ1時間ぐらいしか経過していないという……。
まとまりが悪くなるので話数の結合か補足を行っていくことになるかもしれません。

11/4
あまり関係は無いのですが32話のまほら武道会要綱の試合数の計算がおかしい事になっていたので修正いたしました。
選手の人数が奇数になっていたので偶数にも修正しました……。
本日の夜には分量がたまり次第投稿したいと思います。
現在総文字数約424000字です。

11/1
現在総文字数約412500字です。
今回はただの事前説明ですので話自体の進行はほとんどありません。

10/31
現在総文字数約403000字です。
とうとう40万にまで膨れ上がりました……。
今回独自解釈とご都合が100%含まれています。

10/30(2)
現在総文字数約391000字です。
二度と旅行なんてやりたくありません。
今回ぐだぐだが激しいので、より一層の流し読みを推奨します。
修正の検討はしたいですが、修学旅行で襲われるのは確定だったのでやはり話の本筋は変わらないかと……。
どこに焦点を当てて書くべきかわからなくなってくると碌な事になりませんね。
10/31一度違う展開で書いた時に古菲が美空達といるような発言が残っていましたが削除しました。違和感を感じた方は申し訳ありません。

10/30
現在総文字数約360000字です。

10/26
現在総文字数約345000字です。
28話の補足をしました。
チラシの裏からの表記の削除を行ないました。

10/25
現在総文字数約341500字です。
正直期末テスト編は突発的にやる気になったのであまり量が膨らみませんでした。

10/24
現在総文字数約334000字です。
ネギ先生の課題で自爆した可能性があります。
後で「そんな事なかった」にならないように気をつけたいと思います。

10/23
現在総文字数約324000字です。
今回あからさまな後出しジャンケンを使いました。

10/22
現在総文字数約313000字です。

10/21
現在総文字数約303000字です。
原作開始の2月も過ぎ、赤松健板への移動を開始。

10/20
22話超部活設立の補足部分の追加を完了しました。
学園長との反省会部分の会話文が一部変更となりましたが、大差はありません。
現在総文字数約293000字です。

10/19
赤松健板への移動にあたり全編に修正を加えたいと思います。
修正内容は末尾の変更や、長文の分割等、今までの流れに変更が起きるものではありません。

10/17
現在総文字数約286000字です。
23話の補足よりも先にこっちの方がサクサク進んでしまうという…。
一応補足部分は半分はできているのですが、どれぐらい大げさにするかの調整が必要そうです。
とうとう本来の原作開始の2月に入ったので、一応この辺りでそろそろ赤松健板への移動を考えております。
とは言ったものの移動する必要性があるかというとあまり無いような気もするので微妙なところではあります。
個人的には超鈴音をもっと積極的に扱う作品が増える事を願うのみです。

10/16
現在総文字数役276000字です。
前半部分の補足を後に行う予定ですが現在書いている途中の状態です。
単純に戦闘はどうあれ流れはこうなるからというのが原因ですが…。

10/15
現在総文字数約266000字です。

10/13
現在総文字数約254000字です。

10/11
現在総文字数約244000字です。
後半部ぐだってますが一度都合良く動きを入れるという事で。

10/10
現在総文字数約230000字です。
本選決勝あたりは思わずかっ飛ばしてしまいましたが、結果はこんな感じです。

10/09
現在総文字数約214000字です。
一気にウルティマホラまでかっ飛ばすかに思われましたが1日目で今回は終了です。
次話であまりやりたくはないのですがウルティマホラ編となります。

10/08
現在総文字数約204000字です。
書く内容に困りましたが、困った時の超鈴音は便利です。

10/06
現在総文字数約193000字です。
あまりの違和感になんともいえませんが、投稿です。
修正するにしてもネギ先生が弟子になるという話の流れ自体は変わらないのでなんとかしたい所です。

10/04
現在総文字数約166000字です。
今回は短い上、話自体の進展から言えば殆ど進みませんでしたが、しばらく試行錯誤が続くと思われます。

10/05
現在総文字数約173000字です。
昨日に引き続き7000字程度ですが、次も残り触れていない辺りを行ってから時間を少し経過させる予定です。

10/03 21時台
前編→1話
中編→2話
後編(世界征服1)→3話
以下同様

と訂正する作業を行ないました。
度々の変更ご了承下さい。

10/03(2)
現在総文字数約159000字です。
無理矢理な感がありましたがやっと7月を向かえることができて良かったです。

10/03
現在総文字数約147000字です。
今回は大分辛くなってきた繋ぎという側面が強くなってしまったかもしれません。

10/01
現在総文字数約137000字です。
半角カタカナが文字化けする等ありましたらご報告お願いします。

9/29(2) 20:11
後編9の末尾の変更をまたしても行ないました。
情報統制で海の発生をどうにかするつもりだったのですが、書き出したところ5000字を超えたあたりから明らかに積みの状態に入ったので結果として光学迷彩に頼ることにしました。
今回末尾で変更する前の話に似たものは時期的にもっと後で行うことにしたいと思います。
度々の修正申し訳ありません。

9/29
現在総文字数約126000字です。

9/27(2)
現在総文字数約114000字です。
今回はあまり量がありません。

9/27
続けて二度目の修正を後編7に行わせていただきました。
該当箇所は放射線関連の内容と生物工学云々のややこしくなる部分です。
この先を考えるとピンポイントな分野指定は首を締めることにつながるので修正させて頂きます。
また今後のために更に補足を加えさせていただきました。
またもや後出しジャンケンをフル活用です…。
※誤って後編7を削除してしまったので記事が上がってしまいました。混乱を招くような真似をして申し訳ありません。

9/26
現在総文字数約108000字です。
短編という表記自体怪しさを増して来たため題名から削除させて頂きます。
混乱を招くかもしれませんがご容赦下さい。
今回は後半が火星編で重力問題を無理やり解決させましたが、読みにくさ、違和感を感じるかもしれません。
引き続きお付き合い頂いでいる皆様、ありがとうございます。
補足:感想を頂いた情報を参考に後半部の火星のあたりについて修正を行ないました。けー様情報提供ありがとうございました。

9/25
現在総文字数約92000字です。
残念な戦闘描写が加わわる事となりました。
ご容赦下さい。

9/23
時間が大分あいてしまいました。
現在総文字数約84000字です。
後編5の内容は前回の続き程度の物ですので流してお読みください。

9/19(2)
本日分投稿です。
現在総文字数約76000字です。

9/19
後編1、2を世界征服編のくくりとのおかしさからまとめて中編に直しました。
混乱される方がいらっしゃるかもしれませんが、内容に変更はありません。

9/17(2)
現在総文字数約66000字です。
世界征服編3キリがいいので投稿です。
火星に関する情報をあさりまくることになりました。
詳しい方でそれおかしいぞというところがありましたらご指摘お願いします。

9/17
現在総文字数約61000字です。
ネタが00に走っているのはついに明日映画が公開なのと関係が無いわけではありません。

9/16
現在総文字数約52000字です。
後編1に関する感想に寄せられた誤字修正を行ないました。
また前回よりも短いのは後編2はキリがいいところになったためです。
量を期待している方は続きをお待ちください。

9/15
現在総文字数約44000字です。
また、感想の助言を頂き改行処理を加えました。9/14よりも読みやすくなっていると感じて頂ければ幸いです。

9/14
チラシの裏に投稿開始。



[21907] 1話 超鈴音が来るまでの5000年
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/14 00:43
気が付くと先があるのかないのかわからない白い空間にいた。
……死んだ、ということなのだろうか。
とはいっても、なんというか……知識はあっても記憶が無く今こうして自覚している人格はあるが自分が何者なのかも不明なので生死はあまり問題ではないかもしれないが。
……既にこんな発想をしている時点でどうも元々こういう性格をしていた……ような気がする。

《ようこそ、我が空間へ》

と……突然声が聞こえた。
こんな何もない空間で永遠に居たらさぞ飽きる事だと思っていたが、呼ばれていたらしい。
とにかく挨拶をしておこう。

「お邪魔しています」

《ごきげんよう。……前世の生きた経験が喪失している……か。しかし、得た知識は残っている、人格にも大きな変化がある訳ではないようだ》

「ご存知とあれば話す手間が省けました。して、ここにいる理由について尋ねたいのですが」

《結論からいうと、魔力等というものが存在する世界に跳んで、方法は任せるがその世界のある修正をしてもらいたい》

あれか、二次創作なのか。
いや、歴史修正とはどういうことか。

「魔力等がある世界からそれらを消滅させれば良いのでしょうか?」

修正するのだったらまずその不思議な力等を修正すべきなのではないだろうか。

《消滅ではなく、残して貰いたい。世界の多様性という点で、そういったものがフィクションの中ではよくある力が実際に存在しているのは珍しいケースだからだ。ただそれ故に暴走しやすいので、繊細な世界でもある。……さて、修正の仕方は自由だが、今からこの世界の歴史を知識に追加するが、それを踏まえてどういった形で行いたいか、要望があれば言って貰いたい。今語りかけている私が直接行うというのは事情は省くがとある制限があって不可能だ。情報量が多いが、ここは時間経過は存在しない空間故、案が決定したら話かければ対応する。……実は世界の歴史を与えるのはこれが初の試みだが……良い案を期待している》

拒否権というか、前世が喪失している時点でアイデンティティに執着がある訳でもないので拒否する必要性も特に感じない、ものは試しか。
……知識が入って来たようだ。
なんだか自分の元の知識にある世界にとってつけたように不思議な力が混ざっている世界のようだ。
確かにこれは繊細なのかもしれない。
魔力等が消滅するのを防ぐということだったが、どうやら火星の座標に位相が異なるが存在した魔法世界がその形を維持できず崩壊し、歪んだ形で火星と同化しズタズタになった上地球との繋がりが絶たれたということらしい。
ある機関が送り出した少女が最後の望みをかけて過去に跳ぶ技術を得て歴史の修正を試みる……か。
過去に跳べる技術があったのも驚きだが、13歳の少女が跳んだのも驚きだ。
結局彼女は目的を達成することはできなかったがある程度歴史に影響を与える事には成功したらしい。
しかし、未来に帰ったこの少女は時間移動の反動で死亡したのか。
……まさに命懸けだ。
彼女によって影響を受けた時間軸の未来も、地球に生えている随分巨大な世界樹と呼ばれる木を利用して魔法世界を存続させるものの、魔力消費に耐え切れずおよそ千年後に結局魔力は枯渇。
頑張ったと思うが、形あるものはいずれ滅びるという訳か。
いずれにせよ繊細な魔法とやらは消滅した。
しかし、修正するからには根本的なものの変化を要望して、数千年単位の過去から準備する必要がありそうだ。
紀元前617年に始まりの魔法使いなる者の出現と魔法世界との繋がりが発生したあたりが一つの鍵か。
この繋がりが起きなければ……いや人がいる限りいつかは繋がりが起きるものか。
気になるのは鬼やら悪魔、この表現は人から見ただけのものだが魔力が枯渇し始めてから現れる事ができなくなったらしい。
驚きだが亜空間には彼等の天動説的世界が広がっているようだ。
……正直信じがたいがなんという奇跡だろうか。
しかし、これなら魔力がこの世界から消滅していないから問題ないのでは……なるほど、この亜空間は完全に閉鎖状態で進歩する可能性は無く既に完成している状態なのか。
つまり、不確定要素の多い地球の存在する宇宙空間とは違い観測しても完成しているから変化が無く意味がないという訳だ。
後気にするべきは植生時期があやふやなこの神木か。
魔力の供給を行っているようだが、この世界樹には種子が存在しない、つまり奇跡的確率で自然に生えたということか。
星の意思なのかもしれない。
ならば、修正すべきはこの奇跡の木の機能と認識疎外程度の自衛能力。
これだけ神秘の塊でありながら一方的に人に利用されたら流石に枯れるのも無理はない。
……要望として認められるかはわからないが一応決定……と。

「要望を決めました。この世界樹の発生と同時に私の存在をこの木と同化すること、つまり、この木に宿る精霊にでもなりたいと思います。それに際しての長い時を生きるのに耐えられる精神力、ストレスに耐えられるようにして頂きたいです。また未来から跳んで来た火星人の目的が完遂できるのを最低ラインとした木の能力強化、種子を生み出せる事、後は対人間用のインターフェイスを用意できればなんとかなるかもしれません」

《決定したか……しかし木の精霊……とは今までに無い案だ。初めて……と言ったが、この世界は時空間を完全に保存してあるため今までに、今回のように特定の存在に送り込んだ事がある。どうやら……歴史を追加したのが良かったのか、元々そういう性格なのが功を奏したのか……普通は大体オリ主がどうとかテンプレだとか言い出して人外な人間になるも結局上手く行きはしなかった。彼等自身はかなり楽しんで生活していたが。愚痴のような事を言ったが気にしないで良い。今ので分かると思うが、先例も幾度もあるからあまり気にする必要もない。ただし、期待できる案だけに、要望は可能な限り実現する。……それでは旅立つと良い、ごきげんよう》

何やらブツブツ最後に聞こえたが返答する前に、ただでさえ白い空間が眩しく輝き出した。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

……意識が戻って来た。
視界が人間離れ、いや既に精霊化しているのか、前後関係なく知覚できる。
周りは随分開けた平野が広がっている。
何はともあれ無事に地球に到着したようだ。
視界が広い割には異様に目線の起点が低いがこれは……生えたばかりか。
流石に生えた瞬間からやたら大きい訳ではないらしい。
まずは精霊体を利用して動き回ることにしよう。

……不自然に周囲が開けているのは自然にこうなったとしか言いようが無い。
ある程度離れると一面森が広がっている。
この世界の地球は凄い……自重という言葉を知らないらしい。
何処まで遠くに行けるかもついでに確認しておこう。
所謂幽霊のように浮遊しているというより完全に飛行だ。
5キロ程行ったところ……。
いや、何故5キロとわかるのだろうか。
初期文明も発生していない状態で何故元の知識の尺度で認識される。
木の能力強化とは演算ができるコンピューター……恐らく有機的のものではあるだろうが……そのようなものが搭載でもされているのだろうか。
……と、逸れたがどうやらここまでしか離れられないらしい。
不便だ。
恐らく木が発芽したばかりで出力が低いのだろう。
一旦木に戻る事にしよう。
……すぐに木と同調して情報の整理を始めた。
やはりコンピューター云々はアタリだった。
その結果判明した事だが、要求した種子の生成が可能になり安定した木の状態になるのは二千年後になるそうだ。
因みに今は元の知識とのリンクの結果紀元前3000年にあたる。
状況が佳境に入る頃には樹齢5000年とは中国の歴史云々を越す。
そして、周りが開けているのは自動で結界を構成しているためらしい。
余計な植物が生えない、動物がこない。
こうしてみると土壌として先行き不安だが木から発生している微弱な不思議な原子レベルの粒子、無色透明だが……いや、密度によってはそうでもない……かもしれない、のお陰でバクテリアは活発らしい。
というかこれが魔力か。
魔力というのは語弊があるだろうか……養分とかけて魔分なんて呼び方の方が正しい気がする。
どっちにしろ精霊が呼び方決めても意味は無いか。
因みに散布の仕方は地中活性と高速で上空に打ち上げて地球中にあまねく広がるようになっている。
さながら木という形を擬装したテラフォーミングマシンである。
地球自体は滅んでもいないのにかかわらず。
当然ながら世界の知識にもあった付近六ヶ所の魔分溜りと……当然世界他11箇所のものもまだないだろう。
こちらは千年少々したら結界のためと保険の為に貯める予定だ。
最初のイベントは千年後である。
現在の思考速度は高速で時間は殆ど過ぎていない。
観測速度の早送りができるようで、千年後までを人類としての感覚で、三日で回しておこう。
活動範囲も狭いし。

……当然、周囲の景色は太陽が上がったり下がったりのするのを繰り返しほぼ点滅していると言える。
木には周囲の映像を記録することができるので全て収集しておこう。
どこに保存するかと言えばハードディスク、もとい年輪である。
周りの森も延びたり倒れたり腐ったり、季節が回ったり、特段疲れはしないが……もし真面目に見たら疲れるのではないだろうか……綺麗ではあるが。
そういえば魔法世界は地球側の始まりの魔法使い、造物主とやらが造ったという情報もあるが、観測できなかっただけで恐らく悪魔さん達と同じで完全閉鎖型の亜空間だったところに何か穴のようなものを開けたのだろう。
完成していた世界に穴が空いて未完成の状態へ、つまり擬似的に地球と同じに存在になった訳だ。
結果魔分が徐々に地球側に流出しだして広大な宇宙空間に徐々に拡散、減衰していった……と。
因みに召喚される鬼、悪魔の世界が消滅しないのは召喚の際に使われる魔分が地球か魔法世界のものであるのが理由らしい。

……三日後、高さは50メートル程になった。
さながら物見の塔といったところか。
魔分溜りを形成し始め、活動範囲も100キロに達した。
このままだとローマ帝国に飛んでその魔法世界への道が恐らく開くであろう瞬間を見ることは叶わないのがはっきりした。
……あきらめも肝心である。
しかし、種子の形成とその発芽から成長を考えると時間が足りるのだろうか。
再計算開始。
……種子の形成開始は千年後と言う名の三日後。
種子の完成は更に二千年かかる。
千年時間があるなら木の中で苗というか若木ぐらいまで育てておけばいいだろう。
なんとか魔法世界の限界までには間に合うようで安心である。

……三日経ち種子が形成され始めた。
活動可能範囲は500キロに拡大した。
やはり日本から出られない。
まあ仮にも魔分散布している本人だから魔法世界と繋がったらわかる筈だ。
……因みに三日と言っているが、実際には精神力の強化を利用した無心状態になっているだけである。
つまり思い出そうと思えば周囲の記録は全て残っているので気が遠くなるの。
本当に精神力を強化して貰っておいて良かったと言う他ない。
寂しい等そういった感情も精霊にもある……私の場合特殊かもしれないが、強制的に感情を抑制している。
できなかったら多分啜り泣く大木とかいわくつきの木として処分されるかもしれない。
というかこの記憶、魔法で読まれたら普通の人類は精神が擦り減って死ぬのではないかと思うほど何も無い。
風景画家とか歴史家にはいい資料だろうが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

さてやってきた紀元前617年。
異質な魔分のゆるやかな流入を感知した。
これで晴れて亜空間から魔法世界も火星の座標入りとなった。
しかし魔法は随分凄い。
ある意味元の知識にある無人探査機でそれなりの月日を要する道程の座標にゲートという手段でワープできるのだから。
穴を開けて魔法世界へと旅だった本人は新たな発見に喜んでいてそんな事には気付いてはいないのかもしれないが……。
歴史によれば魔法世界側の純粋な人間はこちらから移住したらしいのだが、2600年で6700万に増えたというのだから、恐らく旅立ちには研究機関か何かのかなりの人数で飛んだのだろう。
本格的にゲートが完成するのもかなり後であるからほぼ極秘裏に行っていたのであろうが涙ぐましい努力である。

……さて、次は400年の日本の関西地方、大和でのリョウメンスクナの襲来。
活動範囲内だから見に行こう。
精霊体は人間にも見える事はありえるらしいが時間加速状態で対応する訳もいかないし、世界樹の秘密がばれでもしたら早くも死活問題である。
最近は結界の使用をやめて認識疎外に変わっている。
動物からすればあって当然かつ無い状態はありえない存在という認識を与えているため木を傷つけられることはない。
人間も来るが動物と同じく祈りのような事をされるが害されることもない。
魔分の打ち上げも隠蔽度合いが上がっており、木から魔分が供給されているとは気がつかないだろう。
こればかりは本当にバレては困るが。
……と、ゆっくり飛んでいるうちにリョウメンスクナと覚しきものを発見。
現れたばかりだから弱いのか人間からダメージを貰っている。
日本では平安時代を過ぎないと魔力と気の運用が体形化されないので完全に単純な殴り合いとなっている。
……数日かかって、人間もかなり亡くなったが、リョウメンスクナもエネルギー切れで自ら封印状態に入った。
これで1500年かけて力を蓄えるのか。
うん、頑張れ。
埼玉、まだ違うが、未来の麻帆良の地と同じくここも龍脈があるから大丈夫。
そして……この後は後600年で種子が完成するという大事なイベントだ。
期待して待とう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まさに感動の瞬間だった。
完成と同時に光り輝き、幻想的な空間が木の内部に広がった。
種子とは言ったものの大きなクルミみたいなものではなく、見た目は淡い桃色で鮮やかに発光する巨大な華である。
この瞬間は永久保存決定……ケーブルな映像媒体の発見番組に送れば間違いなく世界の神秘として何度も再放送される筈だ。
……落ち着いて確認したところ種子は華の中心に存在していて華自体はあろうことか宇宙船として機能するらしい。
いや、物理的に火星に送るのだろうか、コレは。
何故かイメージ的にはファンタジアな物語の大いなる実りと見た目が同じである。
てっきり苗を、ゲートを通して魔法世界に持って行くのか……とも考えていたが、これだと打ち上げて魔法世界と火星の位相を完全に同調させた方が安定するのではないだろうか。
どうもその機能もついているようで……。
種子は華の中で育てる事ができるようなので任せる事にする。
要望しておいてあれだが、これは異様にハイスペックだ。
まさに備えあれば憂い無し。
華は宇宙船ということだが、これを利用すると精霊体の活動範囲限界を無視できるようだ。
いや、空飛ぶ巨大な華なんて確実に問題があるから実用性は皆無だが。
認識疎外にも流石に限界がある。
……それと、唐突だが世界樹を一応22年周期で発光させておこう。
精霊体が便利で忘れていたが、ヒューマノイドインターフェイスはまだ造っていない。
素体は肉体的に死ぬとそれきりのようだから何体か用意しておこう。
なんというか、軽く00な生命体入っている。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

次のイベントはというと真祖の吸血鬼の誕生とやらだが、500年ぐらい経ったらやってくるだろうし、どっちにしてもそんな外国には飛べない。
しかし不死で肉体持ちとは相当辛くないだろうか。
精霊体でぶらぶら……殆ど神木の中でだけだが……していると便利すぎて感覚がおかしくなっているだけかもしれないが。
成仏しない幽霊、精神体がいる理由もわかる。
世界を早送りで観測できるのは意外と面白い。
……元の知識通り江戸幕府が誕生し、明治維新。
そして1890年彼がやってきた。
既に高さ250メートルの大樹にもかかわらず認識疎外を行っていたが、これをすり抜ける人間がいたのだ。
明らかに開けているのに、ある程度周りを水源で囲まれているが、大して日本人も住んでおらず神木・蟠桃と大層な名で呼ばれているようだが、このあたりは本当に何も無い。
しかし誰も疑問に思わないのは認識疎外の結果だ。
たまに発光して綺麗だとか思っているだけらしい。

「西洋風の学園を建設する場所を探しにやってきたが何故ここは不可解に何もないのか。しかし何故調査に着いて来た誰もこの木を疑問に思わないのだ?」

ごもっともです。
これはヒューマノイドインターフェイスの出番となるか、いや面倒だし精霊体が見えるか試してからでいいか。
因みに精霊体の見た目は髪と目の色が翠色で性別のよくわからない子供の姿、基本的に半透明である。
4890歳だが。
見えるかな……と、とりあえず外人さんの目の前に降下。

「………」

驚いているか、まあ驚きますよね。
先手必勝。

《ようこそ外来人、見たところ拝みに来たわけではなさそうですが、用があれば聞きましょう。申し遅れましたが私はこの木の精霊です》

嘘をついたりすることはないと信じたい。
しかし、もし怪しければ木の存続の為に得た、意識を拡張して思考を共有又は読む能力を使っていこう。
プライバシーやら人権に引っ掛かるが結局使ったらどうしたってそうなるし……いずれにせよこれは極力使わないに限るが。

「私はヨーロッパから来たウィリアム・バークレーです。学術機関を設立する土地の視察に来ました」

まあ、さっき独り言聞いていたのだけれど。
地味に人類と会話するのは精霊になって初めてだった。
感情が抑制されていて感慨もないが。
4890年誰とも会話しないとは間違いなく史上最高齢の引きこもりだ。
人間ではないけども。
しかし……今回ばかりはウィリアムさんが魔法使いかどうかだけは確認しておこう。
……一般人だった。
単純に認識疎外が効かない体質と見た。
未来にいたな、同じ体質の人。
祖先かもしれない。
魔法使いは調査隊の中に混ざっているだろう。
ともあれ精霊体を濃くしておいたものの見えてくれて良かった。
学園都市自体の建設は必須だから拒否する必要もない。

《この地は不思議な力に満ちています。学園を開けば様々な才能に開華した優秀な人材が育つかもしれません。もしその学術機関をこの地に建てるのならば見栄えある立派なものにして下さい。長いこと精霊をやっていますがいささかこの地は殺風景ですので。ただこの木を傷つける行動はやめて頂きたいものですが》

上から目線と暗に勝手にしろと言った訳だが、彼は精霊に許可を得たと言って嬉しそうに感謝して戻って行った。
一部既に神社になっていたりもするが、本当に何も無いのでやりたい放題できるだろう。
頑張れ。
土地の権利の問題等ありそうだが神木が切られることは認識疎外のお陰でないから大丈夫だろう。
……それからというもの瞬く間に数年でいくつかの機関ができ、気が付くと地上に見事な西洋風の麻帆良教会、実態は地下に魔法使い人間界日本支部ができていた。
地下にするのはわかるが怪しい教団みたいでなんともいえない。
地下を掘るのは木の根的な意味でも、もしもを考えてやめてほしいところだ。
当然といえば当然だが六ヶ所の魔力溜りのひとつでもある。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

更に4年経って1894年6月、やっつけで発光した。
その後学校令が暫くするうちに色々改正されたが学園内の問題で特に関係はない。
都合よく、魔法関係者が関与しているのは間違いないが6ヶ所のポイントがめでたく全て調べられたらしい。
魔法使い支部、世界樹前広場、恐らく後に大学になるだろう麻帆良の高等学校の中央公園、女子高の礼拝堂、龍宮神社の門、大層な名前のフィアテル・アム・ゼー広場である。
そして1903年真祖の吸血鬼が来日する予定に近くなってきたのだが、先に麻帆良にやって来たのは武田惣角というちんちくりんのおっさんでした。
何やら合気柔術を、東北地方を中心にあちこちに広めているらしい。
やってきてすぐに麻帆良の施設内に道場を開いた。
やる気が凄い。
打算ついでに精霊体の隠蔽力を高めた状態で見よう見真似で動きをトレースすることにした。
重さのない躯だから微妙だが。
いつかヒューマノイドインターフェイス使う時に役立つかもしれないと期待しつつ。
……1ヶ月程して大きな魔分を保持した見た目幻術で変身した凄い金髪の美人がやってきた。
何故姿を変えているかわかるのかといえば地球の魔分の殆どは自家製で……その関連で殆ど分かるからである。
間違いなく真祖の吸血鬼に違いない、術式に悪意ある物の意思を感じてやや不快だが。
魔分隠蔽も完璧なようでここの魔法使い程度ならまだ気がつかないだろう。
手続きも単純なようで習ったらめでたく門下生入りというなんともいえない道場なのだが麻帆良は割と外国人が多いので彼女がやたら浮く事もないだろう。
色んな意味で本当に浮いているのは自分だが。
と油断していたのだが……凄い視線を感じる。
とりあえず気付かないふりをしつつ感情を完全に殺して今日の道場のメニューをこなした。
精神強化万歳。
帰るときは成仏する感じのエフェクトで霧散。
まだ木の精だとばれるのは早いだろう。
気のせい、だと思ってもらおう。
……真祖さんとの遭遇初日をクリアし、次の日、また次の日と彼女とはやや離れた位置で鍛練した。
驚くべきは彼女の熟達速度である。
日を追う毎にレベルが上がっているのだから。
三週間程経った頃彼女に敵う門下生はいなかった。
武田のおっさんは負けなかった。
流石である。
……その後半年もしないうちに彼女は合気柔術の達人になり麻帆良を去る事にしたようだ。
吸血鬼だとばれないうちにということだろう。
別れ際の武田さんはこんな才能のある真面目な弟子を得られて良かったといって喜んでいた。
外国に広めてくれと何度も念を押す姿がやる気に溢れていて熱い空間が形成されていたのが印象的だ。
彼女はこちらの存在には最初こそ気にしていたが暫くしたら気にしなくなっていた。
……さて、長命種の誼みと打算の布石の回収のため挨拶をしておこう。
追跡していた彼女の魔分反応の動きが止まったのを確認して精霊体で空から降下。
二度目だ。

「…………」

驚かせるのは別に趣味ではないのだが精霊らしい振る舞いは降下に限ると思う。

《ごきげんようお嬢さん。麻帆良の神木・蟠桃の精霊です。今日はお嬢さんが道場を去るということで挨拶に来ました》

これで、しつこい体育会系の幽霊だとは勘違いされないだろう。
実際一心不乱に鍛練に励む子供の幽霊が毎日成仏していたらありえる誤解だ。

「精霊だと?いつもいつも、てっきり暑苦しい武芸の幽霊だと思っていたが何か証拠はあるのか」

手遅れだった。
無視していたことのあてつけだろうか。
その割にはわざわざ高圧的な日本語で腕を組みながら会話してくれるが。
道場で話していた時と口調が違いすぎる。
せめて名乗って欲しい。

《証拠になるかはわかりませんがお嬢さんが見た目以上に長生きしており、今の姿すらも偽っているというのがわかる、というのはいかがでしょうか》

人類二人目の会話で何故か下手に出た返答をしてしまった。
今年で4903歳なのだが。

「ふん、確かにただの幽霊ではなさそうだな。まぁいいだろう、その精霊とやらがこの私に何の用だ」

完全にこういうキャラらしい。
挨拶って言ったのだけれど。
名前もわからない。
道場で名乗っていたのは間違いなく偽名だろうから。
歴史はわかっているのだが、個人名はどういう配慮なのかわからないが不明だから困る。

《長生きの方にお会いしたのはこれが初めてでして、またいつかこの地に来る事があったらと思い挨拶しに参りました。一つ、その長命化の術式に第三者の悪意が感じられるのが気になるのですが、お嬢さんの意思次第ではありますが清浄なものに修正できますがいかがでしょうか》

何故こんなに丁寧に話してしまうのだろうか、先手必勝と言った割に完全に主導権はあちら側だ、もういい仕方ない。
少々恩を売っておくことでこの地をできるだけ気にいってもらい、あわよくば実際に見た世界の話でも聞いてみたいものだ。
思考を共有してもいいが友好関係を築きたい相手にそんなことをするのはやめておきたい。

「ほう、この身体に刻まれた忌々しい真祖化の術式がよくわかったな。どういう訳か知らんができるものならやってみるといい。それで精霊だということを信じてやろう。失敗したらただではおかないがな」

自家製の魔分で行われた歪んだ術式をいじるのだから失敗することはありえないから安心してできる。
しかし、もし普通の人間が今のこのお嬢さんと真面目に会話するのはかなり怖いのではないだろうか。
感情抑圧のお陰で全くストレスを感じ無いから助かる。

《信じて頂けるとあれば、確実に成功させて頂きます。目を閉じてリラックスして下さい》

まだ信用できないのか、少し間を置いてから目を閉じてくれた。
さて始めよう。
術式の構成魔分を精製したばかりの魔分と交換、汚れた魔分は再吸収しておこう、放置する訳にも行かない。
歪んだ部分をできるだけ自然な流れに変更。
初めていじる魔法が真祖化の術式とはなんとも言えないが有機コンピューターこと神木の精霊である限り地球の魔分で行われているならば殆どがフォローできる。
因みに地球に流れ出ている魔法世界の魔分は先程と同じく時間はかかるものの再吸収して精製しなおしているのだ。
時間にして数秒といったところだろう。

《処置完了致しました。気分はいかがでしょうかお嬢さん》

治ったのは間違いないと思うがやりすぎた感も否めない、吸血鬼からずれて違う存在にしてしまった気もする。
歴史改変はまだ行いたくなかったのだが、精霊の存在について再度来日した時に面倒なことになっても困るので遅かれ早かれといったところだと思いたい。思いたい。

「な……なんだ、これは。身体を縛っていた鎖が感じられない。まさか人間に戻れたとでもいうのか」

人間に戻った訳ではないのだけれど、吸血鬼は廃業したな、これは。

《いえ、長い間定着し続けた術式に処置を加えただけですので人間になったということはありませんが、確かに吸血鬼でなくなったのもまた事実だと思います。申し訳ありません、余計な事をしてしまったかもしれません。元には戻せないのですが木を切るのは許してください》 

初めていじった魔法なものだから手加減できず可能な限り改変してしまった。
既に精霊として対話した相手には認識阻害は効果がないのだから木に手を出さないように頼むしかない。
しかもうっかり吸血鬼だと知っていたことを言ってしまった。
この地にはまだ吸血鬼は来たことないのに。
気がつかないでくれると助かる。
有機コンピューターはうっかりという人格に対しては補正をしてくれないようです。

「人間に戻ったわけではないのか…。まあ良い、お前は精霊の癖に随分取り乱す変な奴だな。別に怒ってはいない。吸血鬼でなくなったのは寧ろ喜ばしいことだから気にするな。木を切るなとか言ったが本当にあの無駄に大きい木の精霊なのか。その割に随分小心者のようだな。明日には私はこの国を出て行くが、お前の名は何だ」

暗に不釣合いだと言われた気がする。
最初に会話した時よりも穏やかになってくれたから良しとしよう。
しかし名は何というか、か。
そういえば木の精、木の精と自覚はあったものの前世の名前もわからない訳で名前はあるとしたら勝手に人間が呼び始めた神木・蟠桃しかないな。
いやこれは木の名前であって精霊の名前ではないか。
某物語でもユグドラシルが木で精霊はマーテルだったし。
まあ呼び方は好きにすればいい、他力本願でいいか。

《何分今年で4903年目に到達するのですが、こうして真面目に人類と会話するのはこれで史上二人目でして、最初の一人目はこの学園の創設者の方でした。しかしながら木の精霊だと名乗っただけですので木としての蟠桃という名前は人間が呼んでいますが精霊としての名はありません。私もお嬢さんの名前はまだお聞きしていないのですが》

もういいなるように成ればいい。
悪いことにはならんだろう。
精霊は正直者ということにしておこう。
木の精霊だから名前はキノとかでも構わないが。
安易すぎるが……別にいいか。

「お前そんなに生きていたのか。それなのに名前がないとはとんだ奴だな、人間の飼い犬ですら名前があるというのに。私の名前はエヴァンジェリン・A・K・マグダウェルだ」

ミドルネームを含めても随分凄い名前だった。
しかも飼い犬未満の認識になっているし。
もう少し年上を敬えと言いたい。
怒りの感情に関してはろくなことにならない可能性が多いと思い完全に抑圧しているのでやるせない気分だが。

《エヴァンジェリン・A・K・マグダウェルさんですね、よろしくお願いします。私も名前を今考えたのですが、木の精霊なのでキノとでも呼んでください》

エヴァンジェリン・A・K・マグダウェルという彼女の名前を聞いてチャチャなんとかという名前がよぎったので彼女に命名されるのはまずい気がしたのだ。
しかし今の今になって成り行きで名前が決定するとは……。

「キノ……か。木の精霊だから……いくらなんでも安易過ぎはしないか。あんな大層な木の割に控えめな名前だな、小心者のお前にあっているとは思うが。また気が向いたらこの国にも来るとするよ。その時はまた会おう、キノ」

なんかいい話になったのかこれは。
真祖の吸血鬼との邂逅編、完とでもいった感じか。
何故か強制的に会話が終わったのだが……ああ、勝手に精霊体が薄くなっている。
真祖の術式は意外と負担がかかったらしい。
別れの挨拶ぐらいしっかりしておこう。

《またこの地にいらしたら歓迎しますよ。エヴァンジェリン・A・K・マグダウェルさん。それではまた会う日までごきげんよう》

この後ようやくキノという名前に安易すぎる経緯で決定した精霊が数ヶ月活動しなかったのだが世界樹の成長期だっただけだった。
また、エヴァンジェリン・A・K・マグダウェルは二つ名である闇の福音と呼ばれていたのだが術式をキノがいじって以降使える属性の魔法が闇から光になったそうで、少々悩むことになるのだがこれはまた別の話。
等という……解説でした。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

あれから時間が経ち1916年に発光しておいた。
精霊体の活動可能範囲も広くなりとうとう中国の一部に被ることができたが地味に木が心配で離れられない。
麻帆良学園も創設26年を数えるが魔法使いを始めとしてこの土地に興味を持つものが増えてきており、魔力溜りの研究やら地下になにやら施設を作ったりと気になるからだ。
幸い木を傷つけるなかれという認識阻害もとい認識改竄とも呼んだほうが正しいもののお陰で大事には至っていない。
やはり一番怖いのは人間の性かもしれない。
しかしいつか人工衛星を飛ばされたりしてこの木が写ったらどうなるのだろうかとかなり心配である。
写真には認識阻害なんてできるわけがない。
そういう訳で認識阻害の効かないウィリアムさんに麻帆良の街並みを褒めつつ色々言っておいた。
しかし彼もかなり良い中年になっていた。
因みにこの時期世界では第一次世界大戦が勃発していたというのは歴史の知識の一つである。
そして元号が大正から昭和に代わり1938年にまた発光である。
さて、割と暇だが苗木の方の成長は順調である、恐らくこのまま荒野に植えても逞しく生えてテラフォーミングするだろう。
未来は安泰である。と思いたい。
時に、エヴァンジェリンお嬢さんの噂が魔法使い支部から観測できた。
そう、魔分溜りに支部を作った気持ちはわかるが、そこは私のテリトリーなので筒抜けなのです。
どうやら彼女は真祖の吸血鬼ということで、もう違うけど、魔法使いからは賞金首の扱いを受けているのだが、最近では魔法使いが「この吸血鬼が!」と言うと「私は吸血鬼ではない、闇の福音でもなく光の福音だ!」と訳の分からない事を言いだすようになった、そうだ。
要するに彼女が最初こちらを全く信用していなかったのはご苦労にも追いかけてくる魔法使いのせいで疑心暗鬼になったからなのだと思う。
精神的刷り込みとは怖いものだ。
完全にお嬢さんは被害者でしかない。
恐らく丁度50年したらまたこの地にやってくると思うのだが、その時は暖かく歓迎しようと思う。
1940年に高等女学校で連続殺人事件という麻帆良にしては珍しく随分過激な事件が起きたのだが、その中の被害者がどうやら地縛霊になったらしいのがわかった。
正直暇だし精神体の誼で相手をしようかと思ったのだが、最初こそ情緒不安定だったのだがいつの間にか鉛筆バトントワリング、所謂ペン回しを一心不乱にポルターガイスト現象の応用で練習したり、図書室や近くの書店の本を読んだりしていた。
それはそれで意外と精神体は、楽しそうだったのでしばらく放っておくことにした。
どうも死ぬ前の記憶があまり残っていないらしい。
共感できる。
助けようと思えば造るだけ造ったヒューマノイドインターフェイスをカスタマイズして入って貰えばそれで解決するのだが、これをやると世界樹の異常性を暴露するのと同じであり、まだ時期的に考えても先送りした方が良いだろう。
本当に無駄に数だけは揃えたが軽く安置所みたいである。
何故使わないのかというと、一度入るとどうあっても誰かの目につくため処理に困るからである。
エヴァンジェリンお嬢さん作だとかお墨付きをもらえればいいが後48年はかかるだろう。
……世界情勢も大分きな臭くなってきており、第二次世界大戦も近い。
麻帆良の地に対する外国人への感覚が悪い方へ向かっているかもと思いつつも魔法使い達が独自に魔力溜りを利用して展開した認識阻害のお陰で陸の孤島状態でありかなり平和だった。
この時ばかりは彼らの功績を認めざるを得ない。
ウィリアムさんも年になり学園長を退くことになったので、労いの言葉を伝えておいた。
会話回数が一番多いのが彼、いや会話した相手は未だ2人だけだが、もうすぐウィリアムさんも亡くなるであろうから知り合いがお嬢さんだけとなるのである。
木の精霊の交友関係の狭さは折り紙つきだろう。
さて、日本が降伏し、元の知識にもある科学が急速に発展する時代の幕開けである。
やはり魔分なんてなくても人類は困らないのではないか。
4945年も魔分を地球中に散布しといて利用されないというのもそれはそれで悲しいものがあるが。
せっかく少なくとも日本は安定したかと思えば今度は麻帆良の地を狙った侵入者達が夜な夜な入ってくるようになった。
注目すべきは近衛近衛門という麻帆良側の迎撃する若者が異様に強いということだ。
近衛近衛門という名前が個人的に、語呂が面白く気に入ったので自分もキノエ・キノエモンと名乗ったらどうかと思案したが語呂が悪いので却下である。
彼には四次元なポケットがあったらプレゼントしたいとなんとなく思う。
しばらくする内に麻帆良でのこの手の出来事は内々に処理するように裏で決まりごとができたらしく、それに併せて麻帆良の技術力を結集し電力と魔分溜りを利用した敵性反応を探知する侵入者用のセンサー的結界が整備されることとなった。
既に広がりに広がった麻帆良は随分大きな都市になったのだがこれをカバーする結界に魔分溜りを利用するとはいえ作成するとは、人間は逞しいものだった。
世界の歴史を確認したところ近衛近衛門はあの強さから言って麻帆良最強の魔法使いでこの後学園長になる人その人のようだった。
どうも気になったのはこれが原因だったのかもしれない。
思い立ったが吉日、近衛門に挨拶しておいた。
先日ウィリアムさんも亡くなったので本当に話す相手がいなくなったのである、彼は自分の夢見た学園がまさかここまで大層なものになるとは思わなかったようでかなり満足して旅立たれた。
知識で知っていた私自身もかなりそこには同意である。
そういう訳で、近衛門に話しかけたのだが夜の侵入者撃退後に部屋で休もうというところに会いに行ったのが悪かったのか、いきなりサギタ・マギカという矢という割には細めのビームにしか見えないものを数本放たれた。
当然、自家製の魔分が元なので効くわけもなく即座に全て分解した。
こういう時の対処は有機コンピューターに感謝せざるを得ない。
彼の部屋にも一切損害を出すことなく処理することができた。
仮にも故ウィリアム氏の夢の都市の建物の一部であるため外部の見た目の美しさと同時に内部もかなりデザインが良いのだ。
形あるものはというが、壊れないにこしたことはない。

《驚かせて申し訳ありません、落ち着いてもらえないでしょうか。私は神木・蟠桃の精霊で名前は最近決定したのですがキノと申します。今宵は近衛門殿の無双の侵入者撃退に感謝と挨拶に参りました。恐らく神木に精霊がいるなどとは聞いたこともないかもしれませんが、亡くなった先代のウィリアム学園長にしか姿を見せたことはなかったからなのですが信用して頂けるでしょうか》

若いからなのか随分血気盛んである。
日本男児恐るべし。
近衛門は第二次世界大戦に行ったのだろうか。
魔法使いでありながらも質量兵器の戦争に参加しつつ魔法を一切使わずに戦う姿を考えると命を賭けた縛りプレイとしか言いようがない。
と、近衛門は意外と素直なのかサギタ・マギカが消滅したことに怪訝そうにしながらも戦闘態勢を解いてくれた。

「こちらもいきない攻撃を仕掛けて申し訳なかった。蟠桃の精霊の噂は少しではあるが、小耳に挟んだことがあるため信用させてもらおう。俺の名をご存知とは光栄です」

良い人だった。
確実にこれは交友関係が狭い自分から言っても間違いないと思う。
思わず名前を呼んでしまったのだがむしろ褒め言葉になったようで良かった。

《どういう噂か興味がありますが信用して頂けたよう安心しました。以前はそんなにあからさまな侵入はなかったのですがね。確かに私が宿る木があるこの地を狙うのもわかるのですが、これだけ既に一般人も住むこの学園都市を襲ってどうするのか計画があるのか気になるところです。単純に麻帆良の力を削ぐためにやっているだけかもしれません。私の立場上あまり人間の闘争に介入するわけにもいきませんので陰ながら見守らせて頂きます。近衛門殿は今後もこの地にいるのですか。この国も安定してきて50年ほど前に魔法世界との繋がりとなる世界に点在する11箇所でゲートが公的に作動するようになったようですが、あちらに行かれる予定等はあるのですか》

多分精霊史上割と長めなセリフだったと思う。
しかも殆ど世間話だ。
実際この50年で地球側に対する魔分流出速度がゲートの増加で加速しているのは間違いない。

「噂の話というのは、現在の学園長は魔法関係者なのだが先代のウィリアム学園長が翆色の精霊は小さくて丁寧だと酒の席で述べていたことがあるそうだ。侵入者に関しては我々も最近では慣れてきたが、全く迷惑な話です。俺には精霊の立場はよく分かりませんが、この地にいる限りはこの地の守護は任せてください。短期間魔法世界に行くことはあるでしょうが基本的には地球の魔法関係の施設のある場所に上司と向かうのが多くなるでしょう」

なんか、近衛門の口調が安定しないのだけれど多分見た目子供なものだから接し方に混乱しているのかもしれない。
精霊体は大きくできるが、もう姿に執着する必要も無い上、単純にあまりに馴染みすぎたというのがある。
生粋の日本人の名前で魔法使いってなんか違和感あるが頑張れ。
その後少々世間話を続けつつ、重ねて守護の件に感謝を述べて、精霊の存在についてはミステリアスなほうが精霊らしいととりあえず適当なことを言いつつ納得させて口外しないで欲しいと頼んでおいた。
一つ魔法使いからの見地から魔法使用についての興味深い話を聞くことができた。
今まで気にしていなかったのだが、彼等にとって体内の魔分使用には同時に精神力を削るためやり過ぎると大変らしい。
精神力は思いの強さのようなものであり強化は可能だそうだ。
所謂筋力トレーニングと同じようなものなのだろうか。
彼等は魔力魔力といつもいっているが、どうやら大気に満ちる自然エネルギーを魔力といった形に変換して個人の器の中に保持しているとのことなのだが、この話を聞いたとき自家製の魔分はやはりイコールで魔力と結び付かず、その前段階の超自然的不思議粒子か何か程度にしか認識されていないのが明らかになり、昔からやっている上空への魔分の高速散布がいよいよバレない訳だと理解できた。
何故今更知ったかというといちいち魔法使い養成の基礎講義など聞かなくても地球上である限りほぼ不可能はないと感じていた……何の努力もしていないがそういう余裕が原因だったりする。
また、真面目に会話する相手が史上3人目にして魔法使いは2人目で1人目にはうやむやな内にしっかり会話することもなかったのも原因である。
いずれにせよ久しぶりに充実した一日だった気がする、夜だけだが。

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たまに近衛門に会いに行ったり、例の地縛霊のお嬢さんがここ最近で書店に並ぶようになった日本の所謂漫画を気に入って読んだり、相変わらずペン回ししたりと自分と生活パターンは違っても本質は変わらないなと思った。
ただ記憶があいまいなせいでいつまでも成仏せず時折悲しそうにしているのが辛いものだ。
近衛門に自分と同じような半透明な存在が地縛霊だけど女子中学にいるという話をしたのだが、どうやら当時近衛門も同時期に学校に通っていたため、連続殺人事件の事も聞いたことがあるらしい。
近衛門は、精霊体は見えるものの、地縛霊が見えるかどうかはわからないと言っていたが、後日侵入者撃退の際にその学校に寄ったことがあったそうだがいなかっただけなのか見えなかったと言っていた。
再び時が流れ近衛門は時折海外に出張したりしながらも基本的に麻帆良が拠点として活動するうちに結婚した。めでたい。
1960年に遅れたけどということで盛大に発光してやった。
今回はしっかり科学的映像媒体で記録したそうな。
画質は期待できないが良い映像資料になるだろう。
近衛門も中年入りしていて落ち着き始め、結婚した影響なのか段々性格も堅物から柔らかくなった気がする。
相変わらず防衛能力は恐ろしく高かったが、むしろ守るべき家族ができたからか更に強くなった気がしないでもない。
守るのは攻めるより難しいとなんとなく知識にあるのだが近衛門に関しては、ただし近衛門は除く、等と何かに記載されていそうだ。
程なくして娘も誕生した。めでたい。
しかしながら発光は大分先でできないので言葉で祝っておいた。
精霊に祝って貰えるなら必ず健やかに成長するだろうとしみじみとしていた。
更に時間が経過するうちに学園長が健康上の都合で、多分麻帆良防衛の黎明期で頑張った為精神的に疲れていたのだろう、退職して故郷へ帰って行った。
新たな学園長に任命されたのはそう、近衛門であった。
初代学園長は創設者であったため若い頃からずっとやっていたという例外だが、先代が学園長就任した年齢と比べると大分早い。頑張れ。
ただ前から思っていたが何故学園長室がもともと高等学校だったが女子中学に設置されているのかは謎だった。
多分ウィリアムさんの建築計画唯一のミスだと思う。
いや、あえてそうすることで麻帆良が完結することは無いとでも暗に言いたかったのだろうか、聞くのを忘れていた。
話は逸れたが近衛門の防衛能力の高さはもちろんとして、実は名家の出身ということもあって色々とあっという間だった。
いきなり偉くなって戸惑ってもいたが、なんとなく権利を使える立場にあるのだから麻帆良をもっと人材的に発展させたらどうかと言っておいた。
ここ最近の唯一の交遊関係がある近衛門が最高責任者になって間接的にという訳でもないが人脈を広げてもらった。
実際元々広かったものだからネズミ算的に拡大していった。
中でも雪広グループは発展が著しいものの一つで裏の処理で割と金がかかるのを上回る表の凄まじさを見せた。
麻帆良でも人気の就職先に入ったらしい。
麻帆良は以前から年二回学園祭と武道会で前者は芸術と科学、後者は体育会系がメインで盛り上がりを見せているのだが1978年の奴の武道会での突然の出現は衝撃だった。
彼の名はナギ・スプリングフィールド(10)である。
近衛門のイギリスの友人がいる、魔法学院から飛び出して来たらしいとんだやんちゃ坊主であった。
故に近衛門は前に一度会った事があるらしいのだが、近衛門も突然謎の少年が現れたという情報を得たときは驚いていた。
彼の魔分容量は懐かしいあのお嬢さんを超えていた。
人間なのだろうか。
ナギ少年であるが、トトカルチョがこういったイベントに必ず付き物なのが、麻帆良が麻帆良たる所以なのだが、大人の部に参加するものだから混乱が巻きおこったのだ。
当然麻帆良の人は流石に大人が勝つだろうと思うが、期待を裏切り、近衛門の戦闘能力も人外じみていたが、10才であれはない。
魔分で身体能力を向上させているのはわかるが麻帆良の大人達を圧倒していった。
麻帆良の地で長年修練を積むと一部人外な感じの人々が量産されるのだが、そういった人達がいるにも関わらず、優勝までいってしまった。
一つ述べておくと、18世紀から19世紀にかけて中国拳法では八極拳、八卦掌、形意拳が順に成立しており気の存在に関しては知っている人は知っているというものになっていて、大人達も十分強い人々がいるのにも関わらずこの結果である。
この年の武道会のトトカルチョはどちらが勝つかというものから始まってすぐにナギがいる所はどこまで謎の少年が勝ち上がるかというものに変化していた。
ナギの犠牲になった大人達の存在感が空気だった。
……その後本人は麻帆良を気に入ったらしいが、嵐のように去って行ったのだった。
正直彼に精霊の存在がばれると碌なことにならなそうなのは何故だろうか。
ナギによって掻き回された武道会であったが、映像機材が本格的に登場するようになり、裏の関係者達のどこかの実写版格闘ゲームのような熱い戦いは、技の自粛により大会の規模がこの年を最後にして縮小の一途を辿ることになった。
それ以前の大会はしっかり世界樹の年輪に記録されているので自分はいつでも閲覧できるのであるが。
世界樹が発光するのは前回撮られているし、今更やめる訳にもいかないので放置である。
その辺りの処理はできる麻帆良の人々が処理してくれる。
昔気にした人工衛星の問題もどういう訳か起こっていない、非常に助かる。

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ナギが麻帆良から去って行ったのを期にして、いよいよ今度は魔法世界が戦乱の世に突入して行った。
あちら側に行くとしたらヒューマノイドインターフェイスに入るしかないのだが……行っても神木があちらに無い以上バックアップが無いのだから……そんな状態で何ができる訳もなく、そもそも今となって思えばあり得ない、としか言いようが無いのだが、正直ナギ少年を見たらもうなんとかなるだろうと思った。
知識でわかっていたが改めて納得である。
彼と同じぐらい人外なラカンという人物が後に加わるならば色々ゴリ押しできるのだろう。
ただ悲しいかな地球側の魔法使い達が魔法世界の戦いに参戦し、少なくない数の人々が亡くなった。
こちらの魔法使いは地球の大戦が終わったのを見ているからこそ黙っていられなかったのだろう。
近衛門もこの事については嘆いていた。
後にこの影響が麻帆良防衛の人員不足に繋がり、生徒まで狩り出す事になるのは皮肉な話である。
1982年の発光はそういった意味でも控えめな鎮魂をイメージした雰囲気にした。
1983年魔法世界側の強力な魔分減衰が地球側でさえ感知できた。
途中で止まったようだがナギ達がうまくやったのだろう。
紀元前617年の始まり魔法使いの奴らはどうしているのだろうか。
恐らくかなり根本的に精神が擦り減っているはずだから過激な判断に至って全部消すという手段に出たのかもしれない。
それとも単純に人口を減らしたいだけだったのだろうか。
……とにかく終戦を迎えて良かった。
近衛門も疲れていたらしいので時間をかけて体内魔分の総交換を行っておいた。
今までの防衛の感謝の意味も含めて今更実のある事ができた気がする。
そして、1985年忘れていたリョウメンスクナが力を付けて目覚めたのだ。
だが運の悪いことに青山詠春の要請により人外なナギとその仲間達によって1500年前のほうが余程善戦していたと自信を持って保証しよう。
やられ役が定着しているとしか思えない。
この話を近衛門にしたら何を思ったかナギはともかく「詠春殿を婿に取る」と言っていた。
確かに娘さんの近衛木乃葉さんは間違いなく美人で見せてもらった詠春さんの人物像から理想の女性だろうと思う。
間違いなく上手くいく。
これで西の呪術協会が麻帆良にちょっかい出すのを減らせれば御の字だ。
ところで実は最近近衛門の後頭部に異変が起きそうだったのだがこの前の魔分交換作業の結果なのか、以後、後頭部の変は無かった。
わかりやすい見た目になる機会を潰した気もするが、これぐらいの改変は誤差の範囲内だろう。
その後詠春さんはノリノリだった木乃葉さんによって計画通りという形に落ち着いた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

1988年になり懐かしい事にちゃんと85年振りにエヴァンジェリンお嬢さんが麻帆良にやってきた。
でたらめな呪い付きで。
犯人はあいつなのは間違いない。
我が史上二人目の対話者に何ということをしたのか。
賞金首からお嬢さんを消去したのはよくやったと評価しよう。
精霊にはその辺はどうしようもないし。
まだそうなってはいないが。
ただ一つナギとは関係ない変化があったようで、原因は85年前の術式改変のようで幻術、魔法薬無しでやや成長していた。
身長が……150にギリギリ届くか……というぐらい。
不老じゃなかったのか。
因みに木から観測しているだけなので直接お嬢さんと会っているのは近衛門とナギだ。
正確にはナギがいるから木に引きこもっているのだが。
ナギに関わるのはまずいと相変わらず警鐘が鳴っているからだ。

「久しぶりだな、じじい。10年経ったがあまり変わってないな」

「久しいのナギよ、魔法世界の方ではよくやった。本当のじいさんになるのはまだだがの。孫の顔を見るのが待ち遠しいわ。して、こちらの美しいお嬢さんの説明をしてくれんかの」

「ああ、こいつはエヴァンジェリン・A・K・マグダウェル、闇の福音だ。自称光の福音と言っているがそれはどうでもいいな。学校に通った事がないからじいさんの学園のどっかに入れてやってくれ、警備員足りてないみたいだし丁度良いと思うぞ」

恐ろしく強引だった……。
自分から中退した奴に言われても説得力がないだろう。

「ちょっと待てナギ、この訳の分からない呪いをどうしてくれるつもりださっさと解け。大体何を勝手に話を進めている。光に生きてみろ等というのが学校に通うことに何故なる」

「まあ心配すんなって、お前が卒業する頃にはまた帰ってきてやるからさ。それまで試しに学校通ってみろよ、友達できるかもしれないぜ。ああ、それとエヴァンジェリンお前は俺が倒したことにしとくから賞金首のリストから消しとく。それじゃ俺は行くからまたな」

会話が咬み合わない残念な空間だった。
近衛門とお嬢さんが展開の速さに置いて行かれた。
さて、なんと精霊史上二人きりの対話者が外部の人間がいない状態で揃っているという瞬間なのだから混ざらないわけにはいかない。

「して、エヴァンジェリン君よ、ナギの奴は前にここに来た時もあんな感じだったのじゃが、どうするかの。呪いを解くことはワシにはできんし。学校の件は直ぐに手配できるがどうするかの」

微妙な空間だがこの状況ならばいつ混ざっても同じだ。
降下作戦を実行に移す。

《エヴァンジェリンお嬢さんお久しぶりです、麻帆良へようこそお帰りなさい。歓迎します。近衛門殿、実は85年前にお嬢さんは麻帆良に来たことがあるのです》

「おお、キノ殿このお嬢さんをご存知でしたかの。以前ワシが三人目と言っていたということは二人目がエヴァンジェリン君だったのじゃな」

「久しぶりだなキノ、不本意な形でこの地に来ることになってしまったが話相手もいるししばらくはこの地にいることにしよう。少なくとも賞金が取り消されるのを確認するまではいるさ。あの時はお前が自然消滅したから成仏したかと思っていたが相変わらず性格は変わっていないようだな」

《そう言って頂けるとありがたいです。私もここ数十年は近衛門殿としか話す相手がいませんでしたので嬉しいです。ところでエヴァンジェリンお嬢さん、以前よりも成長しているように見えるのですが新しい魔法ですか》

「そうなのだキノ、よく気づいたな。お前の術式改変のお陰で肉体年齢の固定化にある程度介入できるようになってな、なんとか3、4年分の成長ができたのだ。あの時は言えなかったが感謝しているぞ」

どうやら予想通り魔法は全く関係なく物理的に頑張ったらしい。
見た感じ不老でなくなった訳ではないようだが。
というかなんだかんだ幽霊ネタ引っ張られているし。

《ところで近衛門殿からも以前聞いたのですが光の福音とは一体どういうことなのでしょうか。実はあの時魔法関係の術をいじったのは私の精霊史上初だった上確かに自然消滅してしまいよく確認できなかったのですが》

「それもお前の術式改変の副作用で私が使える属性が闇から光になったからだ。しかも闇の眷属だった筈が違う存在になったためか闇の魔法が使いにくくなったと来ている。メリットもあったがデメリットもあったな。まあ私の使う魔法は基本的に大体氷だから気にしなくていい」

《85年前余計なことをしれないと思いましたが、気のせいではなかったのですね。私としては以前の術式は精霊として妙な不快感があったので今のお嬢さんがスッキリしていて好ましいものです。ナギ少年にかけられた出鱈目な呪いは気になりますが。ところで近衛門殿、エヴァンジェリンお嬢さんの魔力は強大ですし、魔法先生達からしてみれば残念ながら脅威の的のようなものになりかねませんからなんらかの対策を取るべきだと思うのですがいかかでしょう。因みにその呪いは時間が経てば私が解くことができますのでもしもの時も安心してください》

正直者の精霊を自称していたが真面目に嘘を付いたのは初めてだ。
実際あの呪いも直ぐに解くことができる。
魔分に分解するだけで終わるから。
この後事務的な近衛門との会話を通し、お嬢さんの魔力を麻帆良の防衛結界に利用し、直接戦闘に出るのではなく侵入者の探知を主に行うことになった。
私の存在によって微妙に歴史とずれているが許容範囲内だと思う。
少なくともお嬢さんの麻帆良に対する感情は悪い方に行っていないのだし。
お嬢さんは3年経ったらナギが来て呪いを解いてくれると信じているので、今すぐに解けなくて構わないと言っていた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

エヴァンジェリンお嬢さんは麻帆良学園都市の桜ヶ丘4丁目の一戸建てログハウスに住むことになった。
しばらくして内装はファンシーな感じになっていてそういうところは意外と楽しんで生活しているようだった。
それぐらいのもてなしはしないとナギの被害者としても妥当なところだと思いたい。
また、チャチャゼロという緑色の髪の毛の身長70センチぐらいの戦闘人形にお目にかかったのだが、「半透明ジャ切リガイガネェナ」などと訳の分からないことを言われた、ご遠慮願いたい。
歴史と異なり彼女が動けるだけの魔力は確保されているのである。
ヒューマノイドインターフェイスに入るのはやめておこう。
お嬢さんに私の入る人形を作ってもらおうかと思っていた計画もあっと言う間にご破算である。
間違いなく切られる。
4人目の対話者がとんだ戦闘狂だったのはなんともいえない。
この年ナギ少年属する赤き翼のメンバーの高畑・T・タカミチ少年が麻帆良学園に通っていたのは余談である。
そしてやってきた平成時代の幕開けである。
この年近衛門に孫娘が誕生し真・お祖父さんに晴れてなったのである。めでたい。
ただ一度孫娘を遠くから観測したのだが歴史通り魔分容量が異常に大きく将来遅かれ早かれ魔法関係に足を踏み込むのは避けられない事態だろうと思う。
エヴァンジェリンお嬢さんも初年度は中学3年の途中からだったので呪いが発動してやり直しになったが許容範囲内だったらしく、改めての中等部の3年間の生活はそれなりに楽しそうに生活していた。
そして見事3年が経過したのだがナギ少年は現れることはなかった。
お嬢さんはナギの安否を心配していたが私としては仮にも2人目の対話者がこのまま心に傷を残してまたやり直しというのはいくらなんでもないと思いこっそり呪いをいじって仲良くなった友人がお嬢さんを忘れないように改変し高等部にも上がってもらうことにした。
これも身長が伸びていなかったら物理的に難しかったかもしれない、あの時の選択は間違っていなかったと言いたい。
そして1993年にナギ少年が京都の赤き翼の拠点で麻帆良学園の研究をして、その後イスタンブールで行方不明になったという噂が入ってきた。
まもなく公式記録でナギ少年は死亡扱いになった。
お嬢さんにはナギ少年が京都にいた事は秘密である。
死亡の知らせについては、近衛門と共に「あれが死んでいるわけがない絶対嵐のように沸いて出ると思う」と言っておいた。
同時に初代学園長の時代から建設された麻帆良湖にある図書館島という島があるがそこに、住み着いたものがいるのを確認した。
アルビレオ・イマことクウネル・サンダースである。
彼は年齢不詳らしいので接触することにした。
図書館島に入るのは建物ができて見に行ったきりもう100年振りぐらいだったが地下施設の広がりが異様だった。
よくこんな無茶な増改築ができたものだと感心する。
アルビレオ・イマは最奥にいるのはわかっていたが、実際に彼の住んでいる場所は随分センスの良い所だった。

《ごきげんよう。私は麻帆良の神木・蟠桃の精霊をやっています。私自身は木の精霊なのでキノとでも呼んでください。あなたは恐らく赤き翼のアルビレオ・イマ殿だとお見受けするのですが、この度は挨拶に参りました》

史上5人目だがあの緑色の見た目が被る人形には丁寧に自己紹介はしなかったからほぼ4人目である。

「風の噂で神木には精霊がいるとは聞いたことがありましたが、本物に会えるとは光栄ですね。私をご存知とは意外ですが、こちらこそ宜しくお願いしますよ」

《自己紹介でここまで落ち着いて反応を返してくれた方はアルビレオ殿が初めてです、私の精霊史上5人目ですが。接触した理由ですがどうも長命な気がしましたので長い付き合いができるかもしれないと思いまして。つかぬことをお伺いしますがイノチノシヘンというアーティファクトは人間でなくても記録できるのですか。何年分保存できるのかも気になるのですが》

彼のアーティファクトの事はもともと知っていたが少なくとも精霊体としての記憶のみなら最初の4千年近くは延々と続く麻帆良の古代の自然の四季とでもいうような気の遠くなるものであり、木の最重要機密の種子や華、自分の発言等危ない記憶に関しては精霊体から切り離して年輪に記録させておけるので読まれてもなんということもないのである。
地味に面白そうだから読み取って欲しいというのが本音である。
ちょっと興味……悪戯心が働いたという事にしておこう。

「随分積極的ですが精霊の記憶を読めるとはまたとない機会ですから試しにやってみましょうか」

本人もどれくらいアーティファクトの効力があるか知らないらしい。
こういうのはやはり実験が肝心だろう。

《よろしくお願いします。大分長いかもしれませんがやってみてください》

アルビレオ・イマはそう返答する早速収集してくれた。
本が無駄に増えた。
凄く。

「驚きましたね、まさか5冊になるとは思いませんでした。何人かいるのですか」

5冊ということは記録可能な年数が1冊千年ということなのか。
エヴァンジェリンお嬢さんもまだ600歳だからこれは初めてなのかもしれない。

《恐らく1冊千年分だと思います。4冊目の400年目は初めてやってきたリョウメンスクナが記録されている筈です。5冊目は890年目あたりから麻帆良の記録が見られると思いますから楽しめるのではないですか。それ以外は美しい大自然の繰り返しですから真面目に見ると精神が壊れるかもしれませんから早送りでもあるなら別ですが気をつけてください》

正直見られて困るほど複雑な交友関係もないし。
ただ彼からの評価が、木がでかい割に引きこもりの小さな精霊というイメージになるだけだろう。

「まさか5千年近い樹齢とはよく今まで無事でしたね」

ごもっともです。
木の皮を被った何かでなければなかなか難しいと思う。

《その点に関しては自然発生した時からのことですから木の潜在能力の高さに驚いてください。どういうつもりかはわかりませんがこの空間に時間停止空間を擬似的に創りだして篭るのであれば暇つぶしにどうぞ。今度また来たときに感想でも聞かせて頂けると良いですね。それでは失礼します》

まあ……彼は色々事情がありすぎるのだが、無理に追求する必要もない。

「随分変わった精霊なのですね、私も当分暇ですから遊びに来てくださって結構ですよ。できれば私がここにいることは言わないでもらえると助かります」

《いえ、今まであなたを含めて五人しか話したことはありませんからまず話す相手もいないですから安心して下さい。寧ろ私の存在も他人に口外しないでもらえると助かります》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

その後1995年になる間にアルビレオ・イマに会いに行ったのだがクウネル・サンダースと呼ぶように言われ、随分気に入っているようだった。
確かに語呂がいいのは認めよう。
でも近衛近衛門よりはまとまりはないと思う。
記録の感想を貰ったが「やはり真面目に見たら自然編は気が遠くなりそうだ」と言っていた。
ただ、やはり歴史的価値は凄いものだそうだ。
価値が凄くても精霊に金銭なんてあっても意味が無いからどうでもいいのだけれど。
エヴァンジェリンお嬢さんのミドルネームのA・Kがアタナシア・キティだと情報を得た。
古い友だと言っていたから昔どこかで会った事があるのだろう。
お嬢さんの方はもうそのまま大学まで上がってもらうことにした。
身長的な問題は体質だということでゴリ押しである。
学部の方はお嬢さんが機械に弱いため文系の芸術系に進んでいった、過去に習得した合気鉄扇術も生かし舞を始めとする日本の文化がかなり気に入ったようだ。
中学生をリピートしないとここまで生き生きするとは思わなかった。
チャチャゼロは現実に戦い足りないのかテレビゲームをしたりと割と引きこもり生活を送っている。
人形だから我慢しろ。
赤き翼のメンバー、最近ではNGO団体悠久の風で活動している高畑・T・タカミチ君が神楽坂明日菜という少女を連れて来て、しばし面倒を見つつ初等部に入学させた。
彼も麻帆良で学生をして落ち着いていた頃もあったがそれでも、その頃からして一般人と比較するとかなり頻繁に外部に出かける事が良くあった。
一方、その少女と言えば、世界の歴史によればその実態は黄昏の姫御子であり……色々あって……というにはそんな簡単な言葉では到底済ませられる規模の話ではないが……いずれにせよ今後なるようにしかならないだろう。
驚いたのは無意識に魔分のアポトーシスを微弱ながら起こしていた事だ。
本人にも魔分許容用の器があるにも関わらず、である。
ある意味木の趣旨と正反対の能力だ。
そもそも1983年の強力な魔力減衰反応は彼女を利用されたものだというのだから当然かも知れない。
タカミチ君は近衛門を通してエヴァンジェリンお嬢さんからダイオラマ魔法級の使用許可を得て修行を本格的に始めたが、確実に老けるからやめておいたほうがいいと思う。
人外ならともかく。
因みにタカミチ君とは接触していない。
近衛門の方はといえば定期的に体内魔分管理はこちらが勝手にこっそり行っているのでボケたりすることもなく徐々に老化は進んでいるが基本的に健康そのものである。
……その後も順調に時が経ち、1999年お嬢さんは大学院に進学した。
学費は学園が全額負担なので悠々自適な生活である。
やっぱりタカミチ君は急速に年齢を重ねている。
君付けで呼んでいる場合ではないかもしれない。
近衛門に言ったらあまりやりすぎるなと言っているがかなり頑固な部分があるのかやめる気配が無いそうだ。
本人が納得しているなら精霊は口を出す訳にもいかないので傍観に徹するのみである。
ここ数年の楽しみは形骸化した武道会の代わりに、平成に入って営利活動が可能になった麻帆良学園祭の異様な盛り上がりである。
いつの間にか巨大な電光掲示板付きの飛行船が飛んだりと科学技術の進歩は凄い。
ある時龍宮神社のお嬢さんに浮遊中に隠蔽していた筈なのだが特殊な目なのか見られたようで、気がつかないふりをして成仏してやった。
因みに彼女は少女ながらNGO団体四音階の組み鈴に所属し、度々世界中の紛争地域で活動しているそうだ。
幼少からNGOに所属とはこの神社は何を祭っているのだろうか。
2000年も終りに近づく頃から近衛門の孫娘の麻帆良学園の女子中等部への進学が決まり準備が始まったが、どうやら神楽坂明日菜と同居することになるらしい。
近衛門に孫娘の魔力の器を一般的な水準にすることもできると言っておいたが、その話は保留ということになった。
この話をした時点である意味個人の魔力の器を好き勝手弄ることができると公言したようなものなのだが、近衛門が言いふらすことはないだろう。
割と最近はいたずらする事に目覚めているが、少なくとも近衛門が木に対して不利になるような行動を取ったことは一度もないのだ。
知らない人から見れば何故か女子中等部に存在する学園長室にいる、等と不名誉な噂もあるようだが、近衛門自身今更年齢的にも気にしていないし、初代学園長が残した唯一の初期建築失敗の証拠なのだから壊すのは忍びない。
数年前にエヴァンジェリンお嬢さんに女子中等部でお前と同じような幽霊を見たと言われた。
いや、私は幽霊ではないと何度いったらわかってもらえるのか、世界の歴史の知識から彼女たちが、人外魔境の巣窟のようなクラスに一同に集まることになるのはほぼ間違いない。
恐らく相坂さよが実体を持って中等部に同時に入学しても別に問題はないのではないだろうか。
気がつけば彼女はもう60年も幽霊家業をやっている訳で、例の芸はこれ以上極める必要もないぐらい達人の地縛霊になっていた。
しかも精神年齢は永遠の15歳というリアクションをしており以前気にかけていた時よりも更に悲しげな表情を見せるようになっていたのでいつか果たそうと思っていた同じ霊体の誼を実行に移すに至ったのである。

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某日、麻帆良学園女子中等部放課後を過ぎ、生徒たちが皆寮に戻り始めて彼女が一人になったとき接触を試みた。

《今晩は、私は麻帆良の神木・蟠桃の精霊をやっています。木の精霊なのでキノとでも呼んでください。相坂さよお嬢さんですね、お話があるのですが聞いてもらえるでしょうか》

正直今まで散々放置していたから罪悪感が凄いが、久しぶりに感情抑制を使って落ち着いて対応する。
この名乗り方も定着してきたが未だ6人目である上に、相手は正真正銘の幽霊である。

《こ、こ、こんばんは、まさか私に気づける人がいるとは思いませんでした。地縛霊になってから今まで見えていそうな人もいたけど誰も話し相手にはなってくれなかったので嬉しいです》

霊体同士の会話はなんか微妙だ。
いや、申し訳ないが人外の生命体なので。
とにかく話せる相手がいて単純に嬉しいらしい。
霊体の思いは意外と真っ直ぐ伝わってくるが自分もそうだったのだろうか。
そんなに黒い事は考えていないから大丈夫だろう。

《そう素直に言ってもらえると助かります。単刀直入に言うと、お嬢さんには来年度にこの女子中等部一年生に入学して頂こうと思っており、魂の入っていない完璧な身体に入ってもらおうと考えています。その際私自身の機密に触れる部分があるので魂に強力な制約をかけて情報を外部に漏らさないように刷り込みをかけることになるのですがいかがでしょうか。場合によってはもしもの時のために私を手伝って頂くことになるかもしれませんが》

そう、5000年もかけて待ち望んだ火星人の到着も近く、計画のために独立で動ける霊体の仲間が入れば心強いのである。
どう見てもこのお嬢さんは気弱な感じであり、霊体生活も長いため人間の俗物的欲望もかなり薄いであろうから人材、もとい霊材としてはなかなかの逸材である。
丁度いたからという本音が無いとはいえないが。

《あの、私もう一度人間になれるんですか。このままいつか成仏するのだと思っていました。こんな機会をくれるなんて嬉しいです。ありがとうございますキノさん。お願いします》

成仏できない原因を自覚していなかった。
前世の記憶があいまいだから死ぬ直前の強い思いがはっきりとわからない限り強制的に除霊される以外は成仏できないのですよ。
それはともかく、精霊史上二人目の女性は凄く良い性格でした。
エヴァンジェリンお嬢さんが強烈だっただけかもしれないが。
あれ、チャチャゼロって女性だった気がするが、気のせいだな。

《許可が得られたのでまずは相坂さよさんを地縛霊から精霊に完全に改変させて頂きます。痛みは霊体ですからありませんので安心して下さい》

まずは局所的な土地から開放することであるが浮遊霊に格上げしても木には入れないのでいっそ精霊になってもらうことにした。
ファンタジア、シンフォニアな物語も元人類から精霊へと大体こんな感じではなかっただろうか。
魂の情報を解析し魔分で地縛霊に関するものだけを上書きする。
久しぶりにフル活用する有機コンピューターであるがなまったりはしない。
魔分で情報改変というのも不思議粒子が為せる神秘の一つだろう。
彼女が魔法世界産の幽霊だったら難しかったかもしれないが地球産の幽霊なら問題はない。

《全工程終了しました。続いて精霊体としての運動パターンの最適化を行ないます》

発言が機械のオペレーションみたいでアレだがノリは大事だと思う。
5000年かけて研磨されたプロの精霊の動きをインストールする訳だ。

《ようこそ精霊の世界へ、相坂さよ。まずは木の内部に戻るので付いてきて下さいね》

同じ精霊になったのだからお嬢さんとかそういった概念は既に意味を持たないのであるから呼び方はこれでいい。

《本当にありがとうございます。凄く身体が軽くなったような気がします。あ、待ってくださーい》

まだ人間の身体を得ていないというに、まだ感謝するのは早いのではないだろうか。

《空を飛べるようになったのを喜ぶのは後にしてもらえるでしょうか。幽霊よりも精霊の方がこの地は見えやすいようなので》

そんなこんな初めての試みに割と緊張したプロの精霊(笑)と新人精霊少女の邂逅であった。

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相坂さよも無事に人目につくこともなく木と同化できて一安心だ。

《無事木と同化できたようで安心しました。まさか木の中がこんなふうになっているとは思わなかったでしょう。まだ、約束通り制約をかけていないのでその処理をします》

はっきり説明したことはなかったかもしれないが00な感じの量子演算装置の空間を想定してもらえればいいと言って伝わるだろうか。
とはいっても木の中が空洞になっている訳ではなく、ここも亜空間なのであるが。

《はい、とても驚きました。木の内部がこんなに植物とは思えないような空間が広がっているなんて誰かが知ったら大変ですねー。あ、私が知ってしまいました。そうでした、制約でしたっけ。どうぞお願いします》

そんなに妙な気合入れられても困るのだが。
テンション上がりっぱなしの精霊少女は元気でした。
魂に制約といったものの単純にアクセス権限に許可を必要とするもので、ああ言ったのは木の内部がコンピューターになっているなどとは実際に見なければわからないからである。
実際、機密情報に関する発言をしようとするとどうなるかと言えば、強制的に防止措置が即座に作動して、情報を知らないという状態で会話をすることになるのである。
試しに以前自分にかけてエヴァンジェリンお嬢さんに機密情報を話そうとしたのだが当たり障りの無い会話に自動的に変換されるという便利仕様だった。
記憶の選択除外ができるのだから当然といえば当然かもしれないが。
等と言っているうちに無事に完了したようだ。

《無事に終りました。制約と言いましたが私を上位アクセス権の保持者として相坂さよは下位アクセス権があります。こちらで権限に関しては取捨選択しておいたのでこの木の記録に関して閲覧できる情報は自由に見て構いません。また基本的に木の有機コンピューターによるバックアップを受ける事になるので計算能力を始めとする演算能力は恐らく世界最高になっています。但し、人格に関しては影響がほぼ皆無ですので会話が上手くなるといったその辺りは保証対象外です。最重要機密に関して近いうちに明かす事になるかもしれませんから楽しみに待っていて下さい。続いて約束通り、入る身体を見せるので下層に降りていくので付いてきてください》

有機コンピューターの割にはいつも引きこもってばかりで数学の問題を解いたことがあるわけでもないが恐らくその辺りは間違いない。
実際観測を行ったりしている時点で証明されているだろう。
魔分という不思議粒子を精製している癖に科学的というのも、一体何なのかと考えだすと碌なことにならないので気にしないのが良い。
例の死体安置所的な場所には降りると言っても精霊体で貫通するだけだ。

《うわー、なんですかこれは。キノさんの死体がいっぱいあります。あれ、あっちに私によく似た身体がありますね》

ちょっと待て。
最初のは死体なのに自分のは身体とはっきり言い直しているんだ、既に一回死人だったろうに。

《死体ではありませんよ。正式名称は対人間用ヒューマノイドインターフェイスです。別に人類と戦争するわけではないので勘違いしないで下さい。私自身は都合があって一度もこれらを使ったことはありません。相坂さよには既に専用にカスタマイズしたものを用意したあちらのものを使ってもらいます。何故既に用意しているか先に説明しておきましょう。まず相坂さよ、あなたが1940年に高等女学校で連続殺人事件に巻き込まれてから地縛霊になっていたのは知っていました。その点については後で木の観測の歴史を見ればわかると思います。今言いましたが、私はあなたを助けようと思えばいつでも助けられたのですが、今まで60年間見て見ぬ振りをしていたことになるのです。その点は謝らせてください》

遅かれ早かればれることなので正直者の精霊は言うべきことは言っておこう。
実際地縛霊になったのはこちらの責任ではないのだけれど、やはり助けられる設備がありながら見過ごすというのは揺れるものがあったな。

《謝る必要ないです、キノさん、長い間一人だったけど今こうして助けてくれたので感謝してます。キノさんは凄い精霊なのに私をフルネームで呼んでくれますがこれからは私の事はサヨと呼んでください。ほら、私ももう精霊なんですよね?》

彼女が怒らないのは最初から予想できたことだが、精霊になると名前がカタカナになるなんて知らない。
まあそういうルールにしておこうか。
お互い二文字で分かりやすいし。

《ありがとうございます、サヨ。これからよろしくお願いします。私のこともキノとそのまま呼んでくれて結構です。早速身体に入ってみてください。思う通りに身体を動かすことができると思いますよ。ただ、一度身体に入って木から出た身体は人間と同じように生体活動が起きますから水分や食事というのも必要になります。身体から出て精霊体になることもできますが、身体の状態には気をつけてください。木からのバックアップがあるので情報は逐一確認できるのでもしもということは殆どないと思いますが。とりあえずこの空間では好きなように動いても問題ないです》

因みに服は彼女の生前の物そのものをトレースしてあるから制服を用意する必要があるな。
自動でトレースしておいて驚いたが、当時の女学生はドロワーズを履いていたようだ。まさに生ける化石である。
図書館島の司書にこの話をしたら面倒な反応が帰ってきそうだが。

《凄いですね、違和感が全くありません。これならすぐにでも生活できそうです。身体を用意してくれてありがとうございます、キノ》

《サヨは護身術を習った事はないと思いますが私が昔合気柔術を記憶したことがあるので、恐らく問題なく使えると思いますよ。まあ大分古い型ですが。私は今から近衛門、学園長の所と恐らくエヴァンジェリンお嬢さんの所に寄って話をしてくるので身体に入ったまま木から出ずに適当に過ごしていてください》

これからはある程度各精霊のユーザー設定をしたほうが良いだろう……か。
少なくとも純粋な元人間のサヨの場合プライバシーもあるだろうからその方が……まあ5000年生きている私はそういうのはもう割とどうでもいいのだが。



[21907] 2話 火星少女地球に立つ。精霊(笑)少女相坂さよ始まります。
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/14 00:43
近衛門に相坂さよを精霊化して入るべき身体を用意してあると言ったら驚いていたが、あまり深く追求してくれなくて助かった。
サヨの戸籍や寮の部屋は上手く用意してくれるらしい。
エヴァンジェリンお嬢さんは今年で大学院も卒業である。
そこで来年度からもう一度だけ女子中学に入ってもらうように頼んでおいたが、怪訝な顔をしながらも「久しぶりに自分より身長の低い奴らを見られるのは悪くない」等と正直よくわからないことにこだわりを見せたが了承してくれた。
同時に例の地縛霊の問題が解決して彼女も通学することになる旨を伝えておいた。
身体をどう用意したのかといったことは近衛門との口裏合わせでごまかしておいた。
実はもう殆ど登校地獄の呪いは残っていないのでお嬢さんの意思次第なのであるが、麻帆良の地に対する印象はかなり良いらしくまだ残ってくれている。
ただ残念ながら新たに入るクラスは人外魔境になる予定なので身長がやたら高い中学生に遭遇すると思うが。
近衛門にもこの件を話しておいたが、同じことを考えていたらしい。
歴史というのは大したものだ。

それから明けて2001年。
待ちに待った火星人の来訪である。
紀元前から長い時をかけて修正してきた甲斐がやっと実るのだろうか。
今更といったところであるが、エヴァンジェリンお嬢さんとの最初の出会いの際に世界の歴史にはどういう配慮か個人名がはっきりしないということであったが、対象となる人物と関係のある人物から芋づる式に名前もわかるようになっている。
例としてアルビレオ・イマに関する情報は、ナギ・スプリングフィールドを確認した段階ではっきりしたため、イノチノシヘンのようなあらかじめ知っていなければ話題に出せないことについても聞くことができたのである。
さて、火星人、火星人と呼んでいたが、小学生の頃から天才的頭脳を発揮し麻帆良大学工学部に研究室を借りている研究一筋の葉加瀬聡美、彼女の中学の経歴ではっきり関係のあるのは火星人、エヴァンジェリンお嬢さん、茶々丸が殆どなのである。
彼女の名誉の為に言っておくと工学部の中ではとても有名人であり知らない人はいない。
長くなったが、火星人の名前がめでたくわかったところで珍しく本気を出して解説しておこう。

火星人、火星少女の本名超鈴音、発音でチャオ・リンシェン。
能力は非常に高く、勉強、スポーツ、料理を始めとしてできないことを上げたほうが早いであろう無敵超人。
麻帆良最強頭脳と呼ばれ、勉強の成績も前述の葉加瀬聡美を抑え常に学年1位。
100年先の未来の科学技術を駆使し、マッドサイエンティストでもある。
多くの研究会、お料理研究会、中国武術研究会、ロボット工学研究会、東洋医学研究会、生物工学研究会、量子力学研究会に所属し中でも東洋医学研究会では会長の任も務める。
目標は「世界征服」であり嫌いな物は戦争、憎悪の連鎖、大国による世界の一極支配である。
行動の異端さから学園の魔法先生からは危険人物として協力者の葉加瀬聡美と共に目をつけられた。
移動中華屋台「超包子」のオーナーであり、資金力も非常に高く計画のために2003年の学園祭に向けてM&Aを行った。
挙げていくとまだまだと言ったところだが、極めつけはカシオペアという航時機による時間跳躍や、本人の肉体と魂を代償に行使可能になる呪紋回路が体表に刻まれているということが挙げられる。
魔法の始動キーの意味は「我、魔法を使う最後の魔法使い」である。
最後に、本人すら与り知らぬ情報として彼女の計画が失敗しカシオペアで未来に帰ったとき反動で死亡したというものがある。

尚、跳んできた地球側からすると彼女の経歴は一切不明であるが、世界の歴史によると知能や運動能力が高いのは、元々天才であるのに加えて大量の情報を脳に直接転写しているからである。
普通に考えて13歳の少女がいくら天才であってもこれほど膨大な知識を備えるのは時間的に無理である。
航時機を始めとする情報機器を持ってきてはいるが、使いこなすのにも理解が必要なのであるから間違いない。
肉体的時間が停止できるダイオラマ魔法球なんてものがあったとしてもそこに篭って学習することは不可能ではないだろうが難しいだろう。
あのマジックアイテムには魔分が必要であるため枯渇した火星では魔法球内の魔分が減衰していってしまい、いずれは魔法球としての効力を失うためである。
火星に僅かに残った魔分は航時機による過去に時間跳躍に殆どが使用される筈である。
そのためにわざわざ呪紋回路まで刻んでいるのだから。

私が今まで準備してきたことは彼女の時間軸の過去からの上書きであり2001年になった今彼女の時間跳躍の結果と重なったという訳である。

火星少女の目的の中には魔法を保護するということは恐らくないと思われるが、魔法世界と火星の関係から魔法に対して恨みに近いものを感じていてもおかしくはないのであろう。
対して私の目的は実際魔法を保護というより、魔法が行使できなくなる原因そのものを阻止することであるので究極的には、地球で使えなくなっても構わないし、華の宇宙船がある時点で更に別の惑星を探しても構わないと言えるのである。
とはいっても地球で長いこと使われ続けることができるのならばそれに越したことはない。
数十年前にも述べたが、華の中で育てていた若木は既に千年が経過し火星でも間違いなく上手くテラフォーミングが可能だ。
ただ、物理的介入は魔法世界だけの問題ではなく地球の無人探査機等の存在もあり有機的宇宙船があるなどとバレれば日本が争いの火種に巻き込まれるのは避けられないだろう。
そういう意味では100年先の技術力を駆使し超鈴音の世界征服というのは是非やってもらいたいものである。

こちらの正史からすれば魔法を公表するということは立派な魔法使いにとってはタブーであり、近衛門と敵対することになると思うと裏切るようでなんとも言えない。
木の最終手段としてあまねく地球に散布された魔分を活用して「魔法はあって当然だ」という強制認識を地球人類にかけることもできるのであるが、これは正しくは強制認識ではなく完全に情報の上書きである。
ただ、地球人類にしか効果がなく、例によって魔法世界には効果がないので、確実に違和感が発生してしまうであろうし、最悪木を物理的に切られかねない。
魔分を利用している術に関してはこちらの完全支配下に置いて無効化できるが、京都神鳴流のような気を利用した危険な技は瞬動で木ごと飛んでいくことはできないので天敵である。
魔法障壁を張ることはできるだろうがジリ貧になるだろう。
こちらから打って出るのも不可能ではないがこの地球には核という手段があるので爆破されて終わりである。
また、そんな事になる前に魔法は必要ないという意思を持った認識阻害の効かない一般人達が表で運動を起こして以下同様ということもあるかもしれない。
5000年前に要望した能力は確かに万能に近いが完璧ではないので木という立場上イマイチ使いにくい。
華で飛んでいってしまいたい。

精霊としての立場に関係なく、5000年前から個人的な願いではあるが火星少女の死は回避したいということぐらい我侭を通したて叶えても良いだろう。
それぐらいは役得ということで許して欲しい。
5000年の間助けようと思えば助けられた命に。

サヨが超鈴音と同じ部屋になればサヨを介して交渉を行うことも可能になるのだが果たして上手くいくだろうか。
超鈴音に興味があるのでと言って近衛門にサヨを同じ部屋にしてもらおうか。
頼んでおこう。
火星少女の歴史の記憶からすれば相坂さよが肉体を持って活動しているのは確実に何かが起きていると思うのは間違いないのだから、遅かれ早かれ接触してくるであろうし、どちらかというと早い方がいい。

少なくとも超鈴音が万能能力で葉加瀬とエヴァンジェリンお嬢さんとの協力、歴史と異なりチャチャゼロが稼働しているが予め、以前からたまに精霊のお告げと称していたのを利用し新たな従者ができる機会について伝えておいたのでなんとかなると思うが、恐らくあっと言う間に茶々丸が完成するだろう。
エヴァンジェリンお嬢さんのドール契約方式とやらが必要な技術なので恐らく超鈴音の方から接触があると思うが。

火星少女が中学の始まる三ヶ月の間にどれほど地盤を固めるのか見させてもらおう。
お手並み拝見である。
もし私も対等な人間であれば彼女の方が自分よりハイスペックなのは間違いないからあまり偉そうには言えないが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

観測した結果火星少女は学校が始まるまでに驚くべき過密スケジュールで、何らかのハッキングをかけたのか戸籍を用意し女子中等部への入学手続きを済ませてから、世界の歴史通りに大学のあちこちの研究会に殴りこみをかけ、必ず成果を残し人脈を広げていった。
あまりに活動が派手なものだから経歴不詳も相まって魔法先生から危険視され始めるのも時間の問題だった。
超包子を開店する資金源は未来からある程度レアメタル等を持ってきたのではないだろうか、勿論使い道は工学部の研究開発費などにも回っていくだろうが。
しっかりエヴァンジェリンお嬢さんと葉加瀬と共に接触し茶々丸の作成に取り掛かった。
その際チャチャゼロが稼働していることに疑問を持ったと思われる。
程なくして学園の結界が違う事にも気付くのではないだろうか。
混乱させて悪いが頑張れ。

今回本当にロボットが必要なのかどうかは怪しいが戦力はあったほうがいい。
なんといっても強制時間跳躍弾は血を流さずに相手を無力化し続けることができるので魔分が必要だとしてもいざとなったら木から供給できるからかなり理想的な武装だろう。

サヨの入居する女子寮の部屋であるが近衛門に頼んだ通り3人部屋になったのである。
女子寮は基本的に2人部屋であったが無理やりねじ込んだ訳だ。
権力は凄い。

そう、サヨであるが3ヶ月の間何をしていたのかといえば、始めは何よりも木内部のSFの未来的空間を満喫しており、麻帆良学園創設からの発展の記録などを見て楽しんでいた。
現クウネルも形骸化する前の麻帆良武道会を筆頭にかなり楽しかったと言っていたから予想どおりといえば予想どおりだが、サヨの場合は自分で通っていたこともあって思い入れがあったようだ。
相坂さよの生前の記憶はあまり残っていなかったが、両親の墓を探し出し精霊体で飛んでいって墓参りをしに行っていた。
その後は私から木の精霊としての役目についてかなり真面目に話した。
何も知らせずに火星少女の元に投げ入れるような真似は流石にしない。
魔分の精製に関するアクセス権を許可して見せたが、これが何なのかを理解してくれたところ、幽霊だったときに魔法を見たことがありましたと言っていた。
60年もいれば見たことがあってもおかしくはなかったから成程といったところで話が早くて済んで助かった。
私が観測していた超鈴音の目的を世界の歴史をぼかしながら予想として伝え、サヨ自身は魔法使いではないので秘匿に関しては無頓着であり世界に公表するといっても、「大変そうですねー、世界征服ですかー」等とコメントを頂いた。
意外に精霊には向いているかもしれない。
少なくとも、超鈴音の同じ部屋になったら彼女の開く店で働いたりするといいと勧めておいた。
会計、注文処理はバックアップで完璧だろうから。
しかも、かなり羽振りがよく時給も高いであろうし、近衛門にねじ込んで貰っているのだからそう言うのも悪くないだろう。
何にせよ人間の体で好きなように平成の世を楽しむと良い。
昔から読んでいた漫画や雑誌は精霊体でも相変わらず夜に書店に潜り込んで読んだりしているらしい。
幽霊の頃の癖は抜けないだろう。
本当にでかい木の精霊の癖に二人して色々小さかった。

魔法の秘匿だが歴史ではエヴァンジェリンお嬢さんはどちらでも構わないという立場を取っていたとされるが茶々丸の作成で、ある程度超鈴音の計画を聞いているだろう。
重大な発表であるが、今までお嬢さんのプライバシー云々で彼女の状態を精査したことはなかったのだが、今後少なくとも敵対関係になっては困るため、念入りに吸血鬼ではない何か別の存在について精査した結果がでたのである。
実は本当に微弱ながらも木から自動的にパスが通っており一部精霊化していた。
5パーセント前後の影響は大したことはないと思うかもしれないが、地球の魔分生産を一手に引き受けている木と少しリンクがあるだけでも不老不死である。
なんとなく成長した理由がわかったのだが、3~4年お嬢さんは魔法世界に行っていたのではないだろうか。
本人も変化が起きた原因をはっきりとわかっておらず、とにかく成長できて良かったと思っているだけであるから魔法世界に行った分徐々に気がつかないうちに80年の間成長したということなのだろう。
因みに木に対するアクセス権は100%精霊でないと発現しないので情報は一切漏れていない。

それと唐突だが長谷川千雨という麻帆良女子中等部に入学に当たって麻帆良にやってきた彼女は認識阻害の効かない故ウィリアム氏と同じ体質だった。
因みに血縁関係はなかった。
認識阻害が効かないと強烈なやつをやることになるが、それをやると人権的に問題があるし、麻帆良の異常性を感じられるという存在もまた異常ということで頑張ってもらうしかない。

……常々観測している割には真面目に結果を確認せず、日々を眺めていただけだったのだが火星少女もお出ましだしこれを期にニート精霊から働く精霊をやろうかと思う。
サヨもいることだし、しばらく完全に木と一体化しよう。
後は頼んだ精霊少女。頑張れ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

えー皆さんこんにちは私は元人間、元地縛霊で今精霊でありながら人間に戻ったような相坂さよです。
ややこしいです。
キノが真面目に働くと訳の分からない事を言っていたので私もこうして頑張ることになりました。

何を頑張らないといけないかと言えば人間だった時にできなかった友達を作ることです。
キノの観測情報からある程度の命令のつもりなのでしょうが、いつも丁寧なのでお願いにしか聞こえません。
とにかく私は経歴不詳のここ三ヶ月で有名になった超鈴音さんと葉加瀬聡美さんと同じ女子寮に入ることになったので今引越しの作業中なのです。
実は当初の予定だとエヴァンジェリンさんのところに住まわせてもらう予定もあったらしいのですが私の身体はどちらかというと組成が魔法よりなので女子寮に住んだ方がいいんだそうです。
今かなり緊張しているのですが、キノから幽霊でしたが復活しましたと自己紹介するといいと言われたのが原因です。
冗談のつもりなのでしょうか。
超鈴音さんは未来人だろうということなので先方は知っているからそのほうが打ち解けられるだろうということらしいです。
葉加瀬聡美さんには幽霊だったと言ったら冷たい反応をされると思うと言われましたが、彼女の情報からして私からみてもそう思います。
ただ、彼女が計算している時に精霊のズルをして解けば興味を持ってくれるかもしれません。
頑張ります。

そう言っている内に女子寮についてしまいました。
ま、まだ建物の前なのですが、相変わらず麻帆良はなんでも規模が凄いです。
確かに女子中学だけで一学年700人超ですから三学年合わせれば2000人を越えてなおかつ中学からは全寮制なのですから当然かも知れません。
私の60年前のおぼろげな記憶ではこの寮はなかったと思います。
わくわくします。
中も期待出来るはずです。

ロビーも広いですね。
他の皆さんも続々と入っています。
私は6階の部屋になりました。
麻帆良女子中等部は一度クラスが決定すると三学年ずっと同じ教室を使うのですが、それは女子寮も同じなんだそうです。
よほど問題がない限り原則部屋は三年間一緒なんですね。

今のところ話したことがあるのはキノと戸籍などを便宜して下さった学園長先生と必要なものを買う時に店員さんと少しやりとりをした程度しかまだ会話していないのでまた緊張してきました。

いよいよ部屋に到着しました。
あえて少し遅めに来たので先に同室の二人は入っていると思います。
観測してしまえばわかることですがいちいちそんなことをしていてはせっかくの人間なのに勿体無いのでやりません。

あ、ドアに鍵がかかっていません、ドアノブを回します。緊張の一瞬です。

あわわっ!

「きゃっ」

痛いです……転んでしまいました。
幽霊の時もよく転んだことがあるのですが治っていないようです。

「入ってくると同時に転ぶなんて初めて見たネ。大丈夫か」

顔を上げるとそこには頭にお団子をした中華風の少女がいました。
間違いありません、超鈴音さんです。

「あ、はい、大丈夫です。みっともないところを見せてしまいました。そうだ、わ、私幽霊でしたが復活しました!相坂さよと言います、同じ部屋になったのでよろしくお願いします」

ちゃんと言えました。
いえ、言えてよかったのかな。

「何か今変なこと聞こえた気がするが私は超鈴音だ。よろしく相坂サン」

幽霊発言はなかったことにされました。
キノ、言っている事が違うじゃないですか。
引きこもりに従ったのが間違いでした。
しかし精霊は正直者という教えがあります、ここで引くわけには行きません。

「聞き間違いじゃないです。幽霊でしたが復活しました!」

何度でも言います。
分かってくれるまでは。

「そんなに強く言わなくても聞こえてるからいいヨ。私も火星人だから気にしなくていいネ」

幽霊と火星人は似たようなものらしいです。
未来人とは聞いていましたが火星人だったとは思いませんでした。
後で報告します。

「わかってもらえて良かったです。私も火星人でも気にしません。ところでもう一人部屋にいらっしゃらないんですか。三人部屋だと聞いていたんですが」

葉加瀬聡美さんがいないんです。
大学の研究室かもしれません。
何か凄いロボットを作っているらしいです。

「もう一人はハカセだが、ハカセは今大学の研究室に泊まりこみしているから帰てこないかもしれないネ。会った時に挨拶するといいヨ」

やはり研究室だったようです。
とにかくこうしてしっかり自己紹介もできて超鈴音さんとの邂逅を終えたのでした。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

サヨに頑張ってもらったが、まさか精霊は正直者の理論で二回も幽霊であるのを主張するとは思わなかった。
やり遂げたという様子で超鈴音さんは火星人でしたと報告してきた。
よくやったと思います、本当に。
私自身が会いに行ったら恐らく人外の言い合いとかにならないだろうからある意味事実である。
超鈴音が火星人だと会ってすぐ火星人だと暴露して来たが信じようが信じまいが関係ないからといったところだろうか。
私は私で女子寮の魔法先生による監視体制の観測をしているが例年と変わらないようだ。
監視体制といってもただの警備システムなのだが。
流石に盗聴を平然と行う等ということはない。
危険人物扱いしているのもまだ一部の敏感な人だけなのだろう。
引き続き頑張れ。
今度は精霊体で超鈴音に一時的に憑依してもらったりして幽霊だったことを証明すると面白いかもしれない。
真面目に仕事するってこういうのとは違うが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

学校が始まるのは3日後なのですが、超鈴音さんが出かけていってしまったので私は寮の部屋でゆっくりしつつ、ベッドの上に身体を残したまま最大隠蔽モードの精霊体で麻帆良大学工学部の葉加瀬聡美さんの研究室に行ってみることにしました。

大学は中学とは違ってかなり近代的建物が多く工学部のある一番高い建物は30階近くあります。
そういう訳で来たもののどこに葉加瀬聡美さんの研究室があるのかわかりません。
失敗しました。
観測をするしかないようです。
なんだかんだであまり人間の身体で活動していません。
60年も精神体だったので意外とこっちの方が慣れているというか便利なんですよね。
本当に人間離れしたなと思います。

無事研究室が見つかりました。
なんとさっき別れたばかりの超鈴音さんもいました。
何やら緑色の髪をした耳の所にアンテナのような機械のついた、ガイノイドと呼ぶらしいですがどうやら今日が初めて起動する日のようです。
超鈴音さんが葉加瀬聡美さんらしき人と話しているのですがものすごく早口で会話しています。
いわゆるマッドサイエンティストというものなのでしょうか。

あ、目をあけました、凄いです。
関節などは機械だということがよく分かりますが造形は人間にそっくりですね。
ガイノイドさんの名前は茶々丸さんというそうです、なんだか変わった名前です。
あれ、エヴァンジェリンさんが名付け親だそうです。
キノは時々彼女の所に行って話をすることがあると言っていました。
私も仲良く出来るといいなと思います。

茶々丸さんが最大隠蔽モードの筈にも関わらずこちらを見ているような気がするのですがばれているのでしょうか。
超鈴音さんにはばれていないようですが。

うーん、どうしましょう。大変です。
あ、キノから通信です、え、隠蔽モード解除していいんですか。
確かに権限も降りてきましたが。
こうなったら超鈴音さんに幽霊で復活したことを証明するいい機会ですし頑張ります。

《す、すいませーん超さん、追いかけてきてしまいました。どうやら茶々丸さんが私に気づいているようで隠す必要ないと思ったので、このとおりさっきの発言は嘘ではないと信じてもらえましたか》

「……あ、相坂サン。本当に幽霊だったのカ。驚いたナ」

超鈴音さんが驚いています。
葉加瀬さんも何か変なものを見たような目で見ています。
同じ部屋なので仲良くしてください。

「超さん、彼女は一体誰ですか、幽霊なんて本当にいるものなんですか」

「超、ハカセ、彼女は幽霊ではありえません。私に幽霊を探知する機能はついていません。幽霊とは違う何かです」

消去法で幽霊を否定されました。
これってかなりマズくないですか。
でも権限が降りたままなので好きにしていいということなのでしょう。

《驚かせてごめんなさい。葉加瀬聡美さん初めまして、女子寮で同じ部屋になった相坂さよといいます。茶々丸さんも初めまして。よろしくお願いします。幽霊ではないということでしたが、元幽霊だったのは本当なんです。調べてくれればわかると思います》

精霊という発言は流石にやめておきました。
キノに迷惑をかけるのは早いですし。
うまくごまかして発言できたと思います。

「よ、よろしくお願いします相坂さん。正直科学に魂を売ったものとしては信じられないですが、その半透明なまま一緒に生活するんですか」

「相坂サン、エヴァンジェリンも呼んであるからもう来るとおもうがいいカ」

《女子寮に身体を置いてきたのでこのままということはないです。今は信じられなくてもいいですけどいつか信じてもらえると嬉しいです。エヴァンジェリンさんにはまだお話ししたことがないので構いません》

多分、いいよね。

それから間もなくエヴァンジェリンさんもやってきたのですが…

「なんで幽霊がここにいるんだ。茶々丸が生まれたと聞いてきたのだが。いや待て、お前昔見たことがあるな。確かあれは……」

えー、昔エヴァンジェリンさん私のこと見えてたんですか。
話しかけて欲しかったです。

《12年前から9年前に女子中等部のA組のクラスです。エヴァンジェリンさん、相坂さよです覚えていませんか。つい最近身体を貰ったのですが今は置いてきてしまいました》

「ああ、あの時の地縛霊か。そうだ前翠色の幽霊が言っていたのはお前の事だったのか。せっかく身体を得たのになんでまた浮遊しているんだ」

《すいません、随分長いこと幽霊やっているので慣れてしまっているだけです》

「エヴァンジェリン、茶々丸が相坂サンは幽霊とは違う何かだと言ているがどいうことかわかるカ。今日は茶々丸の起動日なのに幽霊事件とはネ」

「マスター、初めまして私は絡繰茶々丸です。ドール契約をして頂きありがとうございます。私には幽霊を探知する機能はないので相坂さんは違う何かだと思います」

「茶々丸、これからよろしく頼むぞ。よく相坂さよが幽霊じゃないとわかったな。幽霊でないとするとこいつは翠色と同じなのだろう。地縛霊から昇格という割には出世しすぎじゃないのか。あいつもじじぃもよくやるよ」

エヴァンジェリンさんは一度も精霊という言葉を使っていません。
ただキノの扱いが意外と酷いですが。

《エヴァンジェリンさん、正解です。お二人に助けてもらいました》

「私もハカセじゃないが予想外の出来事で少し疲れたヨ」

こうして一度に4人も知り合いが増えて私は嬉しいです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

一時はどうなるかと思ったが、サヨならもうなんとかなるといった感じだな。
なんだかんだでまだ精霊ということがバレている訳ではないし。
あとエヴァンジェリンお嬢さんは精霊の事をうまく隠してくれていたが、幽霊ネタが役に立つこともあるようで世の中どう転ぶかわからないものだ。
超鈴音にはいずれバラさなければならないから時期を選べるようになったというところか。
感謝しよう。
さて、仕事を続けよう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音さんに会ってすぐに私が幽霊状態を披露してから3日。
入学式を終えて、1-Aの教室で今自己紹介という名の事故紹介が起きています。
こんなことになるなんて思いませんでした。

学校が始まるまでの3日は葉加瀬さんと仲良くなるために邪魔にならないように精霊体で研究中の資料を見たりして計算している機会があったのでズルをして手伝ったら計算速度に驚いて、たまに手伝ってくれると助かりますと言ってくれました。
この辺りは予想どおりでした。
あれ、あんまり身体使ってないかな……。

超鈴音さんは、二日目に真剣な顔付きで仲間にならないかと誘われました。
この点はキノも予想外だったらしく随分早かったが別に問題はないしむしろ好都合だから頑張れと言っていました。
学園の監視が今のうちは緩いからもう精霊の事を話して構わないとも言っていました。
超鈴音さんの魔法の事を世間に公表するという話など大体キノの予想通りでしたが、協力しますと答えて自分が幽霊ではなく神木・蟠桃の精霊になっていることを明かしました。
それを言った瞬間超鈴音さんは神木に精霊がいたなんてと目を丸くして驚いてましたね。
続いて火星人というのは事実で、しかも未来人だと明かしてくれました。
キノの予想は当たっていたんですね。
調子に乗って精霊の説明をしようとしたのですが、例の防止装置がかかり当たり障りのない会話になってしまいました。
まだこの辺はダメということらしいです。
キノからはあまり急ぐ必要はないから精霊なんだよーぐらいでまだ済まして置けばいいと通信を受けました。

問題は今の状況です。
正しく自己紹介をしたところ高畑先生が、質問があったら聞くといいと言った矢先、朝倉和美さんという人がいるのですが、何か面白い物を見つけたような顔をして

「相坂さんは生き返ったんですか!」

と言われたんです。
何故かキノから珍しく爆笑する声が聞こえてきたのですがそんなのを相手にしている場合ではありません。
高畑先生も実は学園長先生から話を聞かされていないのか物凄く驚いていました。
翆色とお爺さんの評価が下がりました。
教室の中が完全にうすら寒い状態なんですがどうしてくれるんでしょうか。
こうなったら正直者の精霊の意地を通します。

「あ、あの、私生き返りました!」

せっかく勇気を出して本当の事を言ったのに聞いてきた本人も微妙に引いているんですが。
空気が完全に死んでいます。
相変わらず耳障りな笑い声が聞こえてくるので切断しました。
凄くショックです。
事故紹介でした。

「せ、先生までそんな顔しないで下さい。差別は良くないと思います」

と、キラーパスをぶつけてやりました。
これでもくらえ!

「あ、ああ悪かったね相坂さん、席に戻っていいですよ」

……スルーされました。
個人的な場だと信じてもらえるのに公の場になるとこういう反応をされるというのは全くもって集団の心理というのは嫌なものです。

でも、ここでまさかの超鈴音さんから反応がありました。

「皆私も火星人だから気にすることないネ。生き返ったならそれでいいじゃないカ」

火星人と生き返ったのは同じらしいです。
その後冗談だったのかという声が聞こえて教室の空気が回復しました。
超さんありがとうございます。
こっそりブラックジョークがうまいねと隣の席の朝倉さんが微妙に顔を青くしながら話しかけてきたのですが、どうやら彼女は情報はつかんでいてもまさかという感じだったようです。
ひどい目にあいました。

その後の自己紹介は順調に進み、忍ばない忍者がいたり、シスターがいたり中学生に見えないプロポーションの人がいる一方小学生の双子がいたり、随分ピリピリしたサイドポニーのかっこいい人がいたりしました。
一番ありえなかったのが茶々丸さんでした。誰も耳の機械を不思議に思っていないのか何事も無く通過しました。
認識阻害というやつですね。扱いの差を感じました。
あと長谷川千雨さんですが、インターネットに精霊のズルで介入できるのですがネットアイドルのちうさんに良く似ていましたね。
次のエヴァンジェリンさんは朝倉さんが「何故中学に戻ってきたんですか」とまたきついところを聞いたのですが「ああ、暇だったからな」と一言で済ませました。
見習いたいです。
最後のザジ・レイニーデイさんは怪しげでした。

キノが言うには「あのクラスは他に比べてサヨを含めて人外魔境だから仕方ない」だそうです。
確かに飽きがこなさそうですが、60年間あの席で生活してきた私でもこんなクラスは初めてです。
明らかに八百長のにおいがします。

初日は授業がないのでそのまま解散でしたがエヴァンジェリンさんは茶々丸さんとすぐに帰って行きました。
私も超さん、葉加瀬さんと工学部に行くことになりましたが4日目だから慣れたのか寮に身体を置いてでていくのはお決まりになっています。
途中超さんはお料理研究会に用があるらしく行ってしまいました。
葉加瀬さんとロボットの新型設計の計算を手伝いました。
葉加瀬さんも私がもう何者でもいいようです。
慣れって大事ですよね。

一日目からなんだか生きている気がしました。
午後は身体使ってないですけど。
寮に帰って来てから超さんも遅れて戻ってきて肉まんの屋台を開くという計画を聞かせてくれました。
これがどうやらキノが以前言っていた、超さんのお店のようです。
開店したらウエイターやりますと言ったら、「今それを頼むつもりだたヨ」と先読みに成功しました。

そういえば言ってなかったですが、この女子寮の大浴場は凄く豪華で収容人数も多く、人間の身体を得て入ることができて本当によかったと思いました。
私はお風呂は凄くよいものだと思うのですが5000年も半透明のままのキノは興味ないのでしょうか。

そういう訳で私の身体を得た二度目の学園生活が始まったのでした。

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朝倉和美の情報収集能力はやはり中学に上がっただけにも関わらず凄いものだった。

因みにこちらは何も無かったのかというと例の忍ばない糸目の忍者が神木の木登りを始めたのだが何故登れるのかは知らないが270メートルある頂上まで登りきった。
これで13歳というのは信じがたい。
高層ビルの特徴として部屋の中はともかくとして、外側は風圧の危険というものがあるのだが270メートルまで登れるというのがどういうことかわかるだろうか。
しかも登り切ったあとに呟いた言葉が「いい景色でござる。またさんぽにくるでござるよ」であった。
木登りが散歩だなんて聞いたことがない。
一切木に傷をつけないのも驚きだが。
いや認識阻害が効いているのだと思う。
逆に言えば木を害する意思は一切なく純粋に登りたかっただけで、かつそれが実現可能ということになるのだが、大したものだ。

後日彼女は小学生の双子とさんぽ部に所属したそうだ。
また「拙者は忍者ではないでござる」と忍者であることを否定しつつも小学生に忍術を教えることもあったのだが完全に矛盾しているのに気づいているのだろうか。
どこか頭が悪いらしい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

あれから毎日を楽しく過ごしています。
中でも学園祭に向けて四葉五月さんと超さんの移動屋台「超包子」の出店に向けて活動するのが充実しています。
また工学部の発表するロボットの制作も順調です。
エヴァンジェリンさんは大学生の生活感が抜けていないのかよく学校に来ません。
自主休講というやつだそうです。

そんなある日の帰りなのですが、龍宮真名さんという褐色のかっこいい同じクラスの人に、隠蔽モードなのに姿を見られてしまい、何故か隠し持っている銃を構えられてしまいました。

そういえばキノが龍宮神社のお嬢さんは修羅場をくぐっていると聞いたことがありましたが。
なるほど、苗字が同じでした。

そうでした、茶々丸さんが私に気づいたのは本当に微弱な魔力反応を検知したからだったようです。
龍宮さんは片目が特殊な魔眼というものだそうです。
未だに夜な夜な漫画を読むのですがリアルに邪気眼というやつなのでしょうか。
思わず銃が出てくるのはそういう事なのでしょうか。

《龍宮さん、撃たないでください!相坂さよです、何も悪いことしてません。夜中に書店に入って漫画を読んだり映画館に入ったりすることぐらいしかしてません!》

あれ、意外と悪いことしてるのかな。
いえ、何にせよ一方的に成仏させられるのなんて酷い話です。
成仏しないですけどね。

「あ、相坂か、本当に幽霊だったんだな。済まない、悪霊か何かかと思ってとっさに撃とうとしてしまった、許してくれ。しかしそこそこ悪いことしてるじゃないか」

《ありがとうございます。良いんです、幽霊の仕事ですから》

仕事なら文句はありませんよね。

「ああ、わかった。気をつけて帰れよ。確かに便利だな。私は映画館に行くと大人の料金をいつも取られそうになるから困っているぐらいだよ」

やはり身体があるというのは不便なようです。

《身体があると大変ですね。私のおすすめの映画を見つけたら教えるので期待してて下さい》

「そうか、わざわざありがとう。楽しみに待っているよ」

龍宮さんはなんだか凄く大人な女性という感じの大人でした。
私は75歳なんですけどそれよりも大人って凄いです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

なんだかとても神木の精霊として恥ずかしい会話が聞こえた気がするのだがあきらめよう。
サヨはそういう行動をとっているものだから超鈴音にも能力に疑問を抱かれることが計算能力以外では今のところない。
ある意味天性の隠蔽工作霊かもしれない。

以前、なんだかんだ、精霊のユーザー設定をすると言ったが、サヨの行動はたまにちらっと作業の合間確認する程度に見ると面白いのでやっていない。
許して欲しい。
私自身人格はあるものの三大欲求は既に希薄化が進みに進んでしまっているので所謂色々余計な物が観測できてしまうがどうでもいいといったところである。
どちらかというと面白いか面白く無いかの違いで情報を判断するようになっている。
因みにサヨは一応精神強化が自動でかかるが、本人の意思次第だが少なくとも以降の計画で数千年を過ごすということにはならないから必要性も無いが。
また、サヨは感情抑制を全く使っていない。
使わなくても、自分らしさでしっかり生活しているし大丈夫だろう。
私は加速していたとはいえ最初の孤独な4000年超はどうしても必要だった。
サヨについて心配なことがあるとしたら確率は低いだろうがパクティオーした場合である。
契約相手側の契約執行発動による時間制限は無限にできるという恐るべきブースター機能が誕生するからである。
バランス崩壊もいいところだ。
もしそうなったら今使っている肉体は処分してもらうしかない。
ただ、試したことがないからなんとも言えないが魂があればできるという資料が存在するのだがこれもかなり危険な情報になり得るだろう。
相坂さよがサヨになる前に説明のために魂に刷り込み云々言ったが、本当に介入が必要になるからだ。

ところで最近はしっかり仕事をしており、見逃していた情報の確認を初めとして魔法世界の怪しい奴らの観測を続けている。
世界樹の精霊の噂はかすかだが故ウィリアム氏の酒の席で既に広まっているから、麻帆良の支部に潜伏者が現れる可能性があるからである。
有機コンピューターであることが、もしも、バレていたならば手中に収めようと完全なる世界の奴らならハッキングをかけてくる可能性も十分ありえる。
意外にもサヨは我々がインターネットに介入ができることにすぐに気づいたが私は失念していた。
故にハッキングの対策を始めたのであるが。
そう、電子精霊というものがあるのだが、ここ麻帆良の魔法先生に弐集院光というなんともふくよかな男性がおり、始動キーを知ったとき感動した。
ニクマン・ピザマン・フカヒレマンである。
全くラテン語が関係ない。
ここまで自分の思いを魔法に乗せるだなんて熱いとしか言い用がない。
とても気に入った。
他の魔法先生は変えたほうが良いと言っているらしいが何を言っているのだろうか、変えるなんてとんでも無い。
話が逸れた。
およそ100年の間に地下施設が色々作られたのは以前にも言ったが、図書館等の内部のような謎の空間がいくつかあり興味深い。
正直施設の必要性は感じ無いが、魔法使いというのはやはり地下で怪しいことをするのが大好きなようだ。
立派な魔法使いと自称しながらせっせと穴を掘る姿を想像して欲しい。
なんと涙ぐましい努力だろうか。
全部記録して公式ガイドマップと称して売りに出してやったら面白いと思わないだろうか。
精霊に使い道なんてないが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

半人半霊の生活リズムです。
相変わらず充実した人間の身体の生活と精霊体での生活を繰り返しています。
どうやら葉加瀬さんの手伝いをする日などに寮に戻って身体を放置して生活するのが原因で身体が弱いらしいというイメージが定着しつつあるそうです。
地味に事故紹介の影響を引きずっていて、復活ネタが横行しています。
ネタではなくマジなのです。

怖いことがまたありました。
龍宮さんが多分教えたのだと思うのですがサイドポニーのかっこいい桜咲刹那さんが私が一人で身体に入っていて偶然周りに誰もいない時に接触してきたのです。
恐らく付けられていたのだと思いますが観測していないので気づきませんでした。
なんと今度は銃ではなくやたら長い真剣が出て来ました。

「相坂さん、龍宮から聞いたが本当に幽霊らしいな。一体その身体は誰のものなんだ。もし、木乃香お嬢様を狙っているなら」

「待ってください!確かに私は幽霊もやっていますがこの身体は正真正銘私のために学園長先生が用意してくれたものです。何を焦っているか知りませんが刃物を出すのは危ないですよ」

どんどん危ない空気になっていくので会話を遮りました。
感情抑制を使うとこういった事態に動じなくなるそうですがキノは普通に生きるなら使わない方が良いと言っているので使っていません。
少なくとも今は生身なので危機意識が働かないのは問題あると思います。

「……申し訳ない、学園長が用意したのか。刃物を向けてしまったことを謝罪します。私も動揺するとは精進が足りませんでした。龍宮も言葉が少なすぎます」

「わ、わかってもらえたようで良かったです」

なんとか肉体の危機は去りました。
もし切られてもまだまだ身体は木の中に用意してあるので大丈夫なのですが。
でもこうして考えてみると、ここで死体になって後でまた新しい身体で現れたら社会的に死ぬでしょうからこの身体、大事にしないと。

キノに桜咲さんの事を伝えたら、木乃香お嬢様というのは学園長の孫娘、同じクラスの京都弁で話す近衛木乃香さんその人で彼女はその護衛でこの学園にやってきたそうです。
何故護衛が必要かというと近衛さんは極東一の魔分の器の持ち主で狙われやすいのだそうです。
そのため、幽霊が近衛さんの身体を乗っ取るのではないか心配になったのだろうということです。
桜咲さんはまだこちらに来て間もないため緊張しているのではないかということです。
私達は魔分生産を行っている神木の精霊のため無尽蔵に魔分があるのですが、このインターフェイスには器は搭載していても基本的には必要最低限しか充填していないので目立つことはありません。
この辺りは実際に使った私の方が詳しいです。
私も少し魔法使ってみたいなとも思いましたが、精霊体自体が高度な魔法みたいなもので身体強化の魔法であるとか瞬動や虚空瞬動といった歩法を学ぶぐらいなら、さっさと身体からパージ!して本気を出した方が早いと聞いて、人間って大変だなと思いました。
普段浮遊するときは七つの願いを叶える玉のお話のように効果音が付きそうな速度では飛んでいません。
普通に建造物を貫通したり、信号など全て無視して飛び越えるだけでもかなり移動は短縮できるので必要性がないのです。
また、対魔法使いなら地球にいる限り全て魔法は分解できる上、それの対応は有機コンピューターの適切な判断でオート稼働するので必要性もないそうです。
キノとしては精霊が人間と争うのは木が危険に晒されるから、やりたくないことランキングでも最上位に入ると言っていました。
特に桜咲さんの使用する神鳴流という剣術は魔分が関係しないので天敵だそうです。
少なくとも私達の性格ではかなり積極的に戦闘するなどかなりありえなさそうです。

何にしてもイベントの付きないクラスです。

超鈴音さんですが、超包子の出店計画ばかりをしているのではなく、様々な研究会に入っています。
その中に同じクラスの古菲さんが所属している中国武術研究会もあり、二人は中国拳法家同士仲良くなっていました。
そのため超包子の開店の際には私と同じでウェイターをやるかもしれないそうです。
とても明るい女の子なので一緒に働けると思うと楽しみです。

拳法つながりで、私は魔法を使うのを考えるのはやめましたが、キノの言っていた合気柔術というのが使えます。
そこで超鈴音さんに頼んで少し相手をしてもらったのですが、「まさか日本の武田惣角の生き写しを見るとは思わなかったヨ。これなら超包子の店員で困った客にからまれても大丈夫ネ」と誉められました。
私が知らない人の名前が出てきたのですが超鈴音さんの知り合いなのでしょうか。
どこで覚えたのか聞かれましたが幽霊の時に習得したと答えておきました。
似たようなものですからいいでしょう。
後でキノが合気柔術のトレース元のちんちくりんの凄い人で、私が生前生まれた時にはまだ現役だったということで一昔前の人だったようです。
精霊になって三ヶ月の間、木の資料:麻帆良の変遷は楽しく見ていたのですが私が生まれた時点から閲覧していたので見落としていたようです。
ただ超鈴音さんが褒めるような体術を引きこもってばかりのキノが覚えていたというのは意外でした。

4月が過ぎ5月も下旬、中間テストがありました。
60年間授業を幽霊として受けてきた私ですが中学の学力には自身がありますし、今はズルい計算能力も備わっているので数学はあってないようなものです。
間違って記述しない限りミスはありません。

テストの結果は737人中超鈴音さんが1位、葉加瀬さんが2位、私が3位という一つの寮の部屋に学年の最高学力が揃うという快挙を成し遂げ、注目を集めました。
私が3位になった理由はうっかりして書き間違いをいくつかしていたと言い訳したいです。
一方でこのクラスには致命的に点が悪い人もいて平均点自体は大したことないという結果に終わっています。

無事にテストも終り、6月に入って麻帆良学園祭の準備も本格的に始まりました。
1-Aでは何をやるかということであれやこれやと意見が出ましたが、超鈴音さんが温めてきた超包子の支店を出すことを条件に喫茶店をやってくれれば資金を拠出するということ決定しました。
その際、それならと「この雪広あやかも協力することをお約束しますわ」といいんちょ、こと雪広あやかさんも俄然やる気を出して見事決定したのでした。
いいんちょさんは麻帆良でとても有名な雪広グループのお嬢さんなので超鈴音さんがやるなら自分もやらなくてはということなのでしょう。

正式名称、移動式中華屋台「超包子」ですが、何が移動かといえば、麻帆良の地に走っている路面電車の一部車両をどういう手段でか買収し、改装することになっているのです。
当然葉加瀬さんの協力のもとただの改装には済まず、ほぼその車両だけで製造から販売まで可能な上、極めつけに飛行モードも存在するという、電車の枠を飛び越えたものになる予定なのです。
超鈴音さんが「五月、この店飛ぶからよろしくネ」と言った時の料理担当の四葉五月さんは「え?飛ぶ?」という反応には私も深く共感しました。
古菲さんの反応は「飛ぶのか、それは面白いアル」と純粋でした。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

麻帆良祭、それは毎年驚くべき盛り上がりを見せ、前夜祭を含め三日間開催され、一日に2億6千万もの金額が動くと言われ、東京の年二回のイベントにも勝るとも劣らない経済規模であり、また発表される技術力の高さから関東で知らない人の方が少ないというものである。

私にとって学園創設から毎年見てきた光景であるが今年は一つ違う点がある。
火星少女、超鈴音が今回参加するのである。
今まで全くヒューマノイドインターフェイスを使用したことはなかったが、5000年の永きに待った私が初めて実体のある身体に入り、彼女の経営する超包子の肉まんを、初めて口にしようと思うのである。
もちろんこれも感慨深いものであるが、超鈴音との接触のタイミングとしては麻帆良に人が溢れ返るという点でも最高の状態とは言えないが、悪くはないタイミングだろう。

こうして私の計画は本格的に動き出したのである。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

前夜祭も盛り上がり、今日は麻帆良学園祭初日です。
今は「超包子」メンバー全員、超鈴音さん、四葉五月さん、古菲さん、絡繰茶々丸さん、そして私の5人で移動型中華屋台の記念すべき開店の瞬間です。
1-Aの教室の方はクラスの皆が頑張ってくれているので私たちはこちらに集まっています。

「今日から超包子開店だよ。皆よろしく頼むネ。世界に肉まんを!」

「調理は任せてください。私の夢である店を出すこともできました、必ず成功させてみせますよ」

「任せるアル!」

「超、私も協力します」

「私も任せてください!」

こうして超鈴音さんの挨拶とともに忙しい三日間が始まったのでした。

元々朝倉さんにお願いして麻帆良新聞でも宣伝を行って貰っていた上、例の飛ぶ路面電車という話題性も相まって大盛況になりました。

途中高畑先生と弐集院先生が店に来てくれて、「凄く美味しい」と褒めてくれました。特に弐集院先生は肉まん全種をコンプリートし、「明日も来るよ」と幸せそうに帰って行きました。高畑先生は「相変わらず本当に肉まん好きですね」と苦笑していました。

途中一日の中であちこち地上を走って移動したり、お客さんを乗せながら飛行して驚かせつつ、定期的に1-A支店に肉まんの補充をしながら大成功の内に見事初日を無事終えることができました。
因みに1-Aは皆素敵な衣装を来て喫茶店を盛り上げていました。

そうして迎えた二日目、なんとキノが生き返ったのでした。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

初めて身体に入ったが本当に違和感がない。
向かうは超包子ただそれだけである。
麻帆良は身体があると非常に広く感じ、店の位置の観測を続けるがたまに飛んで移動してしまうのが10歳程度の身体には少々辛い。
壁を貫通したい、空を飛びたい、重力がある。
なんと不便だろうか。
ただひとつ良かったのは小柄なために人と人の間を通り抜けやすいということである。
一苦労してやっと目的の店についた時、金がないのに気づいた。
そんなものも必要だったなと失念していた。
その問題も救いの手に見せかけた違うものによってすぐに解決した。

「あれ、キノ生き返ったんですか!」

某精霊(笑)少女である。
多分この前の事故紹介とやらのあてつけだろう。
確かにあの時久しぶりに笑ったから悪いとは思ったが。

「そうそう、それです。復活です」

他の客の目が痛いので冗談と思える返答をしておいた。

「おや、その坊主も生き返ったのカ」

 火 星 人 が あ ら わ れ た。

感動の対面の筈なのであるが全くシリアスな空気にはならなかった。

「はい。生き返ったばかりなのでお金を持ってないのですがサービスしてもらえませんか」

「働かざるもの食うべからずネ」

正論だった。流石天才は言うことが違う!

「……では、私を臨時の店員として雇って下さい」

自分から働くことになったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

翆色がやってきました。
なんというかお金を持っていないということで学園長先生にお小遣いぐらいもらってくればいいと思うのですが、仕方が無いので私がだそうと思った矢先。

「働かざるもの食うべからずネ」

流石超鈴音さんでした。
その後何故かキノはやるせない顔をしながらも労働力となったのでした。
たまには精霊の仕事という訳の分からないこと意外にもやってみろと私も思います。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

現在明らかに浮いている。
いつも浮いているが今日は存在である。
私の服装であるが、当然10歳用の服など用意しているわけがなく、そのまま首から店員用のプレートを下げられているのであるが、00な人造革新者と似たような格好なのである。
使用するまではあまり気にしていなかったのだが、やはり浮く。

ただ一つ、私の大変気に入っている弐集院先生が肉まん、ピザまん、フカヒレまんを並べて食べている今である。
魔法が発動するに違いない。
この状況に出会えるとは僥倖だった。

思わず

「弐集院先生、お仕事頑張ってください」

と応援した。

「ああ、なんだかよくわからないけどありがとう坊や」

残念ながら相手は食べ物にしか興味なかったらしい。
こういうのを期待ギャップとでもいうのだろうか、一方的だから微妙に違うが。
坊やにしか見えないのはわかるが仮にも齢5000を越えている。
違和感しか無い。

凄く忙しく働いているうちに、閉店である。
何も食べていない。
何ということだろう。
しかも色々人目についてしまったし、魔法先生も何人か来ていたじゃないか。
良かったのは危険な香りのする1-Aとは接触せずになんとか済んだということぐらいしかない。
こんな後ろ向きな喜び方をしたいわけではないのだが。

そんな中、調理を担当していた四葉五月さんがおもむろに肉まんを一つ差出してくれた。

人間の優しさに感動した。
5000年史上初の食事、立ったままとは行儀が良くない。
こんなに美味しいとは思わなかった。
弐集院先生がはまる理由がわかる。

「坊主、美味しすぎて泣いてるアルか」

中国少女Bだった。
遭遇した順番から言ってBである。
泣いているというのは本当だった。
感情抑制が知らないうちに切れていたのだ。

「はい、美味しすぎて涙が出ました」

精霊は正直者なんだ。
四葉五月さんは微笑ましい顔をしている。

「翆坊主にそう言てもらえるとは光栄だネ」

海坊主みたいな呼び方やめてほしい。
いい話だなという空気がいい話だったのかな、になるから。
まあ、働かざるものの件でこっちの正体はわかっていたんだろう。

「今日のアルバイト代はいらないので今度話を聞いてください。私はいつでも大丈夫なので、日時はさよに言っておいてくれればいいです」

「それなら学園祭が終わったら連絡するヨ」

こうして超鈴音とのなんともせわしない初の対面を終えたのだった。

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今木に戻って来ているが、慎重に周りに人がいないかを確認してから無事帰還できた。

皆さん二日目の超包子一人いなかったと思わなかっただろうか。
そう、色がかぶりそうで危ない絡繰茶々丸である。

彼女はマスターであるエヴァンジェリンお嬢さんが所属するサークルの発表会に一日中付いていたのだ、例のマスターの記録というやつであろう。

ここ6年程でお嬢さんは永遠の美少女として大学で有名になっているのだ。
事情を知る一部の立派な魔法使いの先生達からすればあまりいい印象を持たれていないようであるが、そんな裏の人達等霞むぐらいに、表で人気を得ているのである。
基本的に日本の伝統芸能を好む傾向にあるお嬢さんは茶道や囲碁を初めとし舞などにも手をつけ、少し大学生としては身長が低くはあるが、その大人びた振る舞いと、金髪の外国人がひたむきに練習する姿に誰もが心を打たれたという。
この辺りが、お嬢さんがお嬢さんであり続ける所以である。
そういう訳で近衛門に近しい魔法先生の殆どは彼女の12年間の行動で、闇の福音という二つ名はどこへやら、どちらかというと安全な大人しい人物として定着しているのである。
外部から来る魔法使いの目に止まることもあるが、誰もその周りの空気からまさか闇の福音だとは思わないらしく大事には至らない。
魔法を使わずして認識阻害を展開するとは凄いことだと思う。
以前朝倉和美が自己紹介の時に質問していたのは彼女にとって当然の疑問と言えよう。
正史のように中学を卒業する度に周囲の人物の記憶がリセットされることがないとこれほど味方ができるのであるから、いかにナギの呪いが短絡的かわかる。
また、この映像を例の図書館島の引きこもりに渡すと、イケメンなのにも関わらず若干引くリアクションを見せるのをやめてもらいたいのは余談である。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

三日目の学園祭も相変わらず勢いがとどまることはなく、最後に向けていっそう盛り上がり私達は学園祭を終えました。
空飛ぶ屋台で料理も美味しいということで学園祭後も営業を続けていく予定です。

そんな時超鈴音さんに

「さよ、翆坊主に明日のクラスの打ち上げが終わったあと話を聞くと伝えておいて欲しいネ」

と言われました。
確かに明日は振替休日なので打ち上げが終わったら時間がありますしね。

「わかりました、超さん」

いよいよ明日ですね。



[21907] 3話 精霊と超鈴音
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/10/19 23:18
《単刀直入に言う、超鈴音、この先未来に帰ると死ぬ。航時機による反動と身体に刻んだ呪紋回路が原因だ》

「何いきなり言い出すんですか!」

「精霊だからといて何故そんな起きていないことがわかる。私はここに来て神木に精霊がいる事を知たときも驚いたが一体どうなているか説明して欲しいネ」

《サヨ、今から最重要機密に関するアクセス権を許可する。しばらく情報を確認しているといい。まず、私は超鈴音の2101年の時間軸の事を知っている。また、超鈴音が2001年に来て影響を与えた時間軸の千年後の結末も知っている。私は更にその時間軸の枠の外から紀元前3000年にこの地にやってきて今こうしてここにいる。人間ではないが過去を変えるという点では超鈴音と究極的な目的は異なるがやろうとしていることは同じ筈だ。超鈴音、質問だ、魔法を恨んでいるか、魔法は必要あると思うか》

「俄には信じがたいが信じるしかないカ。質問の答えだが私は故郷が苦しむ原因となった魔法を恨んではいるが、その必要性の有無については特に思うところはないヨ。故郷では殆ど使われることはなかたからネ」

《そうか、わかった。私の究極的な目的はこの魔法という不可思議な力を消滅させることなく未来に残す事にある。それが神木・蟠桃の存在理由でもある。なぜならこの星で魔法の行使を可能にしているのは神木・蟠桃そのものだからだ。知っていることには強制認識魔法の発動が出来る事以外にもあるだろう》

「星に対する魔力供給カ」

《その通り、人間は魔法の元を魔力と呼んでいるが、魔力は神木が供給するエネルギーそのものとはイコールではない。我々はそのエネルギーを魔分と呼んでいるので以降はそう解釈してもらいたい。一応確認だが、そちらの未来では神木には種子を残す能力は発見されていないな》

「神木の情報は故郷でもそこまで多くは得られていないヨ。一体何の植物なのかも不明だた、突然変異というのが通説だヨ」

《火星、魔法世界の崩壊後の星ではこの情報は判明していないのか。今のでわかったと思うが、今この神木には種子を作る能力があり、実際に既に亜空間内で樹齢1000年を数える。またこの第二世代の若木を火星に送るための手段も存在する。結論としては、魔法世界の消滅、火星の惨状を防ぐ方法として、ただ後は打ち上げればいいだけだ》

「なら何故この千年の間に打ち上げなかたネ。わざわざ私を待つ理由がないだろう」

《木は一旦根付いたら動くことができない。我々の目的は常に魔法を残す事が第一位であるため、地球の神木の安全を無視するならばいつでも打ち上げる事ができるが、それでは魔法の存在に対して否定的な人間によって害されるおそれがある。今でこそ神木の重要性が麻帆良学園都市にはあるからこそある程度の安全性が得られているが数百年前の人類の行動などを考えて見ればわかるだろう。狂信的な人間の思い込みは恐ろしいものだ。また、自然災害による根本的な損害も含まれる。確かに人類に対してならばこの木には強力な認識阻害によって木を傷つけないように刷り込みをかけることができるが全世界にそれを行うほどの出力はない。よってこの認識阻害の範囲外から核のような質量兵器で攻撃された場合防ぐ方法はないということだ。因みに強制認識魔法による魔法の存在の公表は可能だが、その瞬間しか効果がないため、つまり新生児には効果がない。100年は優に持つだろうから超鈴音の目的は達せられるが数百年、それ以上先になったらというのはわかるだろう。また、効果がなくなったらまた同じことを繰り返すというのも精霊の立場としては、人間を洗脳しているというのは可能性を潰すことでもあるから手段としてはふさわしくない。矛盾しているがそれが我々の存在理由でありここに人間の意思は関係ない》

「なるほど、わかったよ。学園祭の時の翆坊主は人間性というものを感じたのだがあれは仮初のものなのカ。それで私にこんなことを話したのだから何を要求する。話をしたいではなく話を聞いて欲しいと言っていたが。今更私の計画を実行しろと言うわけではないのだろうナ」

《人間性がないという訳ではない。今の私は人間性を全て封印しこの神木の精霊としての立場で話しているだけだ。超鈴音が感じたそれは仮初ではない。超鈴音、嫌いな物は戦争、憎悪の連鎖、大国による世界の一極支配だな》

「そんなことまで知ているのカ。私のプライバシーは……、分かたヨ、精霊の立場ならばただ答えるのみだネ。嫌いな物はそれで合っているヨ」

《火星に第二世代の若木を打ち上げるのは決定事項だ。神木・蟠桃の能力は強力だが対応できるのは地球での魔法関連に限定されていて完璧ではない。京都神鳴流などのような気を用いる物理攻撃に対して致命的な弱点を抱えている。また地球での魔法と言ったが、現在の魔法世界の魔分は地球の物とは異なるため、圧縮して持ち込まれた場合は支配下に置くことはできない。これの解決は火星に第二世代を定着させ魔法世界との位相を同調させて支配権を獲得するしかない。しかし、今魔法世界には紀元前617年に魔法世界への道を開いた最初の地球系火星人が作った完全なる世界という組織がある。魔法世界だけではなく、地球にもこの組織の工作員が存在する。現在三体目のフェイト・アーウェルンクスを筆頭とするが今頃イスタンブールの魔法協会支部に潜入しているはずだ。一体目、二体目は超鈴音の先祖、ナギ・スプリングフィールドが倒している。彼等は我々神木の精霊の存在に気づく可能性があり、そうであれば神木の支配権を獲得しようと行動を起こす可能性が十分にある。事実サヨを見ればわかるだろう。我々がなんらかの方法でハッキングされたら終わりだ。相手にしなければならないのは完全なる世界と危険度は下がるが魔法に否定的な人類だ。何故超鈴音に話したかだが、わざわざ自分の身体に危険なものを刻んでまで過去を変えに来たという点と火星が助かるという条件がある限りあらゆる魔法使いと比べて我々を裏切る可能性が最も低いからだ。我々だけでは不可能だが信用できる人間の協力があれば可能性が生まれる。別に一人で彼等と対抗して打ち倒せと言っている訳ではない、最大のハードルは第二世代が定着するまでの間だ。超鈴音の好きな物は世界征服だろう。是非やってみればいい、我々は超鈴音が裏切らない限り協力しよう》

「また壮大な話になてきたネ。私が一番信用できるからカ。随分期待されたものだナ。いいだろう、麻帆良最強の頭脳であるこの超鈴音、世界征服を目指すネ」

《よろしくお願いします。私の個人的な我侭な願い、命を賭けてまで未来に影響を与えた超鈴音の死亡を阻止するというのも叶えてみせます。翆の木の精霊が約束します。5000年も待ちましたが本当に長かったですよ。ようこそ麻帆良の地へ、歓迎します》

「それが翆坊主の人格としての願いカ。私一人の命とは確かに我侭だが随分待たせたようだナ」



[21907] 4話 精霊5000年稀代のイタズラ
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/23 18:34
昨日は、完全に外界との関係を絶つために寮の部屋と同じ座標に展開した亜空間で、キノの鈴音さんに対しての真剣な話が行われました。
キノという人格を封印していたため、機械のように話をするものだから私は全く会話に入れませんでした。
鈴音さんがいくら天才であっても知らない歴史の情報や特に木に関する機密情報は知らない限りはどうしようもありませんから一方的な説明に近いものがありましたが。
例の意識の拡張というもので知識を共有すればパッと終わるんですが使いませんでしたね。

最後の最後に元に戻りましたがキノの願いなんてあったんですね。
最初に鈴音さんが死ぬって唐突に言い出すものだから何を失礼なことを言っているのかと思いましたが、最後には5000年かけて助ける準備をしていたというんですから、首が長くして適当に生活していた時があるのも納得が行きました。

結局私が鈴音さんと初めて出会ってから昨日までの聞いてきた計画は大規模に変更となりました。
キノがもっと早く教えてくれていればと思いましたが、超包子をやめる訳ではないし、まだまだ必要ということもわかりましたから初期段階だった為無駄ではなかったと安心しました。

確かにキノがアクセスを許可してくれた情報は根本的に異常な物が多かったです。
出来事と結果はわかりましたが、全てが許可されなかったのか個人名の正確な情報を中心としてはっきりしてませんが、私への配慮なのかもしれませんね。
全てがわかってしまったら世界が色あせてしまうからといったところでしょうか。
正史という認識がなされているのですが、私からしてみれば驚くほど詳細な未来予想でしかありませんね。

既に正史はパワーアップした木によって違う道を進み始めることになりましたがうまくいくと信じたいと思います。

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昨日の超鈴音との対面は結果としてやはり私の言うべきことを聞いてもらうことばかりだった。
与り知らぬ情報があるのだから当然と言えば当然だが話を聞いていた超鈴音は、最初は怒っていたが最後はある程度の理解を得られたところで決着して良かった。

あの後、第二世代の打ち上げの計画について内容を詰めた。
超鈴音の100年先の科学技術力と木の電子回線介入能力の使用でまず麻帆良の発電所を初めとし関東地方全域を完全に制圧し、学園都市結界もろとも落とし、探知魔法の使用を不可能にする。
完全に照明が失われた段階で、タイミングを併せて地球の人工衛星、可能性のある日本に存在する米軍基地や自衛隊のレーダーにハッキングをかけ関東地方の情報を改竄する。
改竄している間、華を最短距離で茨城県沖に一旦射出し、関東地方全域の状況を直ちに復旧させる。

その際、発電所のシステムに不備が元からあったように偽装するのも忘れない。
日取りは天候が非常に重要だ。
曇りのレベルが80%近く占めているか同じような条件で雨が降っている夜中を狙いたい。
海への射出完了までを10秒以内で終わらせたい。
もしこの作戦で死人が出るような真似は避ける必要があるからだ。
自家発電などには対処できないだろうが、病院施設に執拗に攻撃を加える訳にもいかないので仕方がない。

以上、これらの条件が満たされたなら後は深海を移動させながら南極に近いところからの大気圏突破を試みる。
この際にもタイミングを併せて人工衛星の情報を改竄する予定だ。
こちらも天候の条件は同じである。

神木5000年の歴史をかけて成長した有機コンピューターの演算能力をご覧あれといったところである。

やりすぎの感は否めないが、目撃者はできるだけゼロにしなければならない。
日本から謎の飛行物体が射出されたとなると魔法云々の問題ではない。
やはり超鈴音の協力は必須であった。
但し実行するのは私とサヨであるため仮にこの大規模なサイバーテロの犯人がわかったとしても逮捕は非常に難しいだろう。
サヨは以前から軽犯罪をやっている気がするが捕まる気配はない。

なんといっても手錠ができない。
精霊体には物理攻撃が効かない。
魔法も効かない。
木の安全さえ確保されれば問題はない。

アフターケアとしてこの事件を起こしたら地球のインターネットとまほネットに事件に関しての情報操作を行う必要があるだろう。

気に入っている弐集院先生とのまほネット上での電子精霊バトルもあるかもしれない。
同様に長谷川千雨との地球インターネットでのハッキング対決もあるだろうか。
これらは楽しみでは全く無い。

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神木に精霊がいるということを知ったさよとの出会いから何かおかしいとは思ってはいたが、精霊自体が私と同じ歴史の改変にやってきた存在とは思わなかたヨ。
しかもその改変の始まりが5000年前からだなんて正気の沙汰ではないネ。
まあ翆坊主は人間でないが。

あの不思議な空間での一方的な情報提供は私の知らない情報も多かたナ。
特に木に関する部分は火星では情報の欠損が多かったから興味深かたヨ。
当然のようにナギ・スプリングフィールドが先祖だと言われた時は一瞬唖然としたが、いずれやてくるネギ・スプリングフィールドに私が同じことを言うにしてもあんなに流して言ったりはしないネ。

まずは、私としても第二世代の木を火星に打ち上げるためにハッキング技術の整理からはじめないといけないネ。
魔法を残すのが精霊の意思と言ているのに、今科学の方が必要にされているのは皮肉だが。
100年前の防衛システムなんてザルのようなものネ。
この超鈴音が完璧な仕事をしてみせるヨ。

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超鈴音との通信は傍受されない、名づけて、魔分粒子通信で行っている。
イメージとしては00なアレを思い浮かべてもらえればわかるだろうか。
脳内に直接響くため超鈴音は少し辛いと言っていたが我慢してもらうしか無い。
しかし粒子の加速空間での会話にすぐに対応してきたあたり量子力学の知識もあるとはいえやはり天才だ。
近いうちに有害な呪紋回路の削除と魔法が使用可能になるようにしてもいいが、前者はともかく後者は魔法先生がやってきそうなので保留だ。
パクティオーという手段もあるにはあるか。

着々と100年先の技術と木の能力との収斂を行っていく日々を続けていく。

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相坂さよです。
私もキノと鈴音さんの人間の枠を超えた方法での会話を聞こえるようにしてもらっています。
実行するのはキノと私なのでどうせなら聞いておけという配慮らしいです。
基本的には私は魔法関係者に怪しまれないように今まで通り日々を過ごしつつ、平常営業するようになった超包子で五月さん、古さん、茶々丸さん達と働きながら資金を稼いでいます。
本当に弐集院先生はよくやってきます。
たまに高畑先生や厳しいと言われている新田先生も来ますが、五月さんはさっちゃんと呼ばれて人気者です。
人徳の為せる業でしょうか。
葉加瀬さんの研究も超包子のため前ほどではありませんが手伝っています。
ちゃんといつも通り夜には漫画を読みに行くのを忘れません。

そういえば学園祭が終わった後朝倉さんの所属する新聞部の記事に超包子の平常営業についても載せてもらったのですが、一緒にエヴァンジェリンさんの学園祭二日目の記事も載っていました。
素敵な写真がいくつか載っていてクラスで話題になりましたが本人は自主休講でした。

これから中学生の私たちに残っているイベントと言えば期末テストです。
ですが殆ど勉強しなくても、今更というところです。
また1位2位3位を鈴音さんではないですが最強頭脳でとってやります。

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サヨ達の期末テストも無事に終り、三人はまた中間の時と同じ順位だったが、雪広あやかは前回5位だったが僅差の点数争いの中4位に食い込んだ。
努力家である。
そういえば彼女は華道を嗜むようで、例の学園祭でエヴァンジェリンお嬢さんにいたく感銘を受けたらしいが、自主休講の多さと相まって微妙な評価らしい。
そう、雪広グループの財力と表の情報網と手を組めれば、今回の作戦等ももう少し楽になるのではないだろうか。
まあ精霊のいたずらと称した犯罪に加担してもらうわけにはいかないが。

現在もう既にハッキング準備は完了して後は天候待ちという状態である。

台風が発生しているが中国大陸の方にそれていくことが多く困っている。

超鈴音は作業が終わりじっくり脳を休めている状態だ。木とリンクしている精霊ならともかく生身の人体では負担が大きかった。
やり遂げた際にはマッドサイエンティストとしての何かが垣間見えたが。

昼はよく曇って後少しと思ったら夜には月が見えていてしまっているという形で惜しい日もあったが、こうして天候がなかなか揃わず8月になり夏期休業に入った。
有機コンピューターなれど地上から天候を読み取るのはなかなか難しいもので、人工衛星をハッキングしたほうが早い。

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夏も本番ということで夏季休業ですが、やっぱり人間の身体は不便です。
外が暑すぎて干からびそうです、一応植物の仲間ですし。
そういう訳で夏場は寮に身体を放置することが多く、三人共出かけていて冷房をかけておかなかった時が一度あったのですが、あともうちょっとで熱中症になりそうな健康状態になり警告が出たのには焦りました。
身体は大事ですけど暑いのは嫌です。
精霊も悩み多き年頃というやつです。

真夏だと流石に熱い中、肉まんを食べに来る人も少なくなりましたが例の先生は例外でした。
汗をかきながら幸せそうに食べる姿が印象的です。

溜まっていた映画も全部見て、そのまま龍宮さんに報告しに行ったのですが、ついつい寮の部屋をすり抜けて会いに行ったのでびっくりしていました。
隠蔽度合いの問題で桜咲さんは気づいていなかったので龍宮さんの様子を見て「龍宮、突然変な動きをするな」と言っていました。
ごめんなさい。
その後桜咲さんにも見えるようにしたのですが、
「1-Aは最初からおかしいクラスだとは思っていたが、平然とその姿を見せられると現実感が逆にないな」
と、やや諦めモードでした。
それが良いです、気にしても仕方ないですよ。
とにかく映画の評価をしっかり報告した結果、龍宮さんが少し興味を持っていた映画はハズレで助かったよと言っていました。
人の役に立つというのは良いことだと思います。

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相変わらず精霊というより幽霊としてやりたい放題なサヨは放置するとして打ち上げの日取りが決まった。
結局システム完成から3週間かかってしまったがこうして実行に移せるようになって良かった。

超鈴音は頭が痛いのも治り、例の粒子加速空間での会話を通して何か得るところがあったのか量子力学研究会で凄いことをやらかしたらしい。
学会で今話題沸騰中である。
なんだか充実しているように見える。
副作用もあったのか、葉加瀬は元々マッドサイエンティストモードに切り替わると高速で話すが、それを超える速度で言葉が話せるようになったらしくそろそろ人外の仲間入りである。
本気で魔法を使わせたら燃える天空の発動速度が一般的魔法使いの基礎魔法の発動速度と変わらないだろう。
まさに純粋種として目覚めたのかもしれない。
超鈴音改め超・超鈴音の誕生だ。
発音でチャオ・チャオ・リンシェンである。
なんか何処かの国の挨拶に聞こえるのは気のせいだろうか。
願いを叶える7つの玉の物語に因んで超鈴音2とかでもかまわないかもしれないが。
その場合の読みはスーパーリンシェン・ツーである。
どこぞの人革連のいかした機動兵器の名前みたいだ。

さてやってきた2001年8月16日午前1時半。
天候は関東地方全域を覆う雲によって良好である。
今はサヨも真面目に木の中にいる。
今回初めてサヨも人格を封印する。
感情はいらないからである。
役割分担は私が魔法対策と華の射出シークエンスで、サヨが広域ハッキング担当である。
正味数秒間に渡る稀代のサイバーテロの幕開けである。

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《関東地方全域に電力を送電する可能性のある水力、火力、原子力発電所を規模にかかわらず推定200箇所に超鈴音プログラムによる介入を開始。2秒で制圧完了》

《並行して探知魔法の使用を全域に渡り使用不可状態へ移行、学園都市結界の解除を実行》

《関東全域の照明の無力化を確認、光度良好、第一段階完了。続けて軌道衛星上の人工衛星の映像の改竄、軍関連のレーダー機器類の情報の改竄を開始》

《有機結晶型外宇宙航行船:暫定名称大いなる実りの茨城県沖への射出シークエンスを開始。粒子力場の展開準備》

《第二段階完了。全ての映像、その他機器の情報の改竄を確認》

《射出タイミングを大いなる実りの自動プログラムに譲渡。射出開始。粒子力場の展開によりソニックブームの無効化を確認、地上に被害は発生せず。着水による津波の発生は許容範囲内、付近に船舶の存在は無し》

《続けて超鈴音プログラムによるハッキングの最終段階に移行。順次復旧作業に入る。システム不備の偽装を完了》

《学園都市結界の復旧、探知魔法を使用可能状態へ移行》

《全工程の完了を確認。作戦終了》

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こうして無事に私も仕事を終えることができました。
鈴音さん渾身の作、超鈴音プログラムからすれば現代の防衛システムなど言われていたとおりザルのようなものでしたが少し数が多かったです。
人格を封印するというのは初めてでしたが、機械になった感覚というのがわかった気がします。
今思うと漫画みたいで少し面白かったですがやってる最中は何も感じないのでなんとも言えません。

この後は華の南極到着と同様に天候の確認を待って大気圏突破を行うだけです。

また、ネット上での噂の監視も仕事に入りました。

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この電撃作戦による日本政府の対応は発電所全域の一斉停止という事態を重く見て公表されないことになった。
国防の問題点として全電力会社にハッキング対策の強化に対する通達が裏でなされたようだ。
一方麻帆良学園都市では近衛門達の緊急招集があったが、探知魔法の無効化は学園都市結界の崩壊による影響だろうという結論がなされた。
また学園都市結界の崩壊は例の発電施設の影響であるとも考えられた。

因みに超鈴音は当夜、例の量子力学研究会での発表の準備に携わって学生達と共に徹夜していたため、魔法先生も流石に彼女を疑うことはなかったそうだ。

しかし、やはりネット上の掲示板では、毎晩夜遅くまでパソコンを起動している人たちの嘆きの声が書き込まれていた。
突然の停電の影響で環境が悪かった人のデータはお釈迦になったそうな。
それに伴い、日本政府はサイバーテロを受けた事実を隠しているのではないかという憶測が飛び交ったが、規模があまりに大きすぎるため真相が迷宮入りであった。
「宇宙人の侵略の布石じゃね」「ねーよw」というような書き込みがあったが、一番近い。
少なくとも人外の仕業である。

まほネットの方は流石旧世界の防衛網は大したことないなどと勝手に話が違う方に向かっていったので特に問題は起きなかった。
ただ、麻帆良の学園都市結界もあっさり落ちたことに対して改善するべきだろうという意見もあり、この後麻帆良学園都市内の電力システムの強化が図られたのであるがこれはまた別の話である。

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あのいたずら翆坊主と幽霊少女は盛大にやったようだネ。
私の技術力を使っているのだから当然だナ。
例の粒子加速空間によるインスピレーションは私のマッドサイエンティストとしての才能に良い刺激だったよ。
これから通信技術の革新の時代がやってくるネ。
ただ思わぬ副作用には流石に私自身ハカセと会話した時若干引いてしまったヨ。
ハカセが「超さん何言ってるか全然わかりませんよ」と言ったからわかったのだがネ。
しかし、宇宙船があるとはなんどあの木に驚かされればいいのだカ。
飽きないからよしとしよう。

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無事に海に沈めることができた華だったが、1000年まえに大いなる実りと見た目同じじゃないかと言ったことで暫定的にそういう名前に設定していた。
ノリは大事だとは思うが改めて考えると、資料として見る分には違和感はあまり感じ無いが、実際に言うと語呂が悪いのが微妙だった。
恐らく宇宙船なのに、それっぽくないからだろう。
正直、宇宙船超包子号とかでもいい気がする。
ああ、弐集院先生もクルーとして搭乗してるな、絶対。

話は逸れたが、海底だろうと華は問題ない。
後は大気圏突破であるが、遅くてもいいわけではないがそこまで心配する必要もない。
地球が火星に最も接近した日は今年2001年においては6月21日であり皮肉にも麻帆良学園祭の開催時であったが、その際の直線距離は6734万㎞である。
この話は世間でも話題になり当日は観測を行った人が多々いただろう。
故にその付近で華を飛ばすことが不可能だったのも事実だ。
既に8月となっているが、地球と火星はおよそ780日の周期で接近を繰り返す。8月18日の今日はそこから59日が経過している。
とはいっても華の最高速度は秒速100kmの異常出力という仕様である。
もしソニックブームを無効化する機能がついていなかったら、秒速300mの音速の壁を越えるだけで地上のガラスに影響がでるのであるから、いかに途方もなく危険な代物かわかるだろう。
絶対に日本にそんなものがあるなどと知られる訳にはいかないのだ。
同時に、だからこそ、神木・蟠桃からも補助をして茨木県沖までほぼ最速の速度で射出できたのだが。
光と比べるのは質量がある時点で考えてはいけない。
移動可能距離は一日につき864万kmであり、今から打ち上げれば遅くても10日程度で到着である。
地球の現在の化学燃料を利用した技術で数ヶ月を要する距離がこのザマである。
ある研究機関の発表によると、比推力可変型プラズマ推進機(VASIMR)であるとか原子力ロケットが実現すれば、であるが、二週間程度で着くことが出来るであろうとされているが先の話だ。
正直そこには悪いが魔法世界と火星を同調させる予定なのでゲートもあるし必要ないだろう。
いずれにせよ学校が始まる9月には着くだろう。

超には華がどれぐらいの速度で火星にたどり着くかは言っていないが恐らく教えたら乗らせろと言ってきたに違いない。
これだけ廃スペックな華であるが、自己主張が激しいために発光はしないものの、光学迷彩の機能がついていない。
月の光に照らされたらどれだけ美しいことだろうか。
そういう訳で曇りの日をわざわざ選んだのだ。
また直接打ち上げると雲がどうしても吹き飛ぶため人工衛星の改竄を長時間続けなければいけなくなるので、海に一旦射出するという方法を取った。
単純に打ち上げるだけなら大気圏およそ500kmの突破まで5秒で済むが粒子力場で無効化するといっても流石に突破するときにはある程度光ってしまうのでこの作戦もやはり取れなかったという訳だ。
因みに魔分粒子力場に近いものは魔法使いも使っている。
浮遊術あたりがその典型だ。

さて、南極近くからの大気圏突破であるが天候を同じ雲りの状態を狙いつつ今度はまず雲の高さまでじっくり上昇した後に加速を開始するという方法をとる予定である。
これで南極の観測者達に仮に見つかってもあきらめるしかないと思う。国籍不明の謎のでかい華がぶっ飛んでいったなんて南極から報告されても
「捏造だろwww」「加工乙」
などとなってくれると思いたいが、祈るのみである。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

相坂さよです。
その後華の打ち上げは成功しました。
大気圏を突破する瞬間の映像は幻想的でした。
人工衛星の映像は改竄しているので、地上の南極の一部の人に発見されてしまったのは痛手でしたが各国政府の見解は、どこの国でもない上そもそも人工衛星に写っていないのでコメントは控えるというものでした。
世論とネット上では人間はやはりこういう話題が好きなのか色々ありましたが、9月になって学校が始まってすぐ、朝倉さんの属する新聞部からの記事には

[サイバーテロの犯人は地球外生命体か]
数日前の関東地方全域で起きたサイバーテロと思われる大規模停電と南極での謎の飛行物体の目撃情報は果たして関連性があるのだろうか。仮に地球外生命体がいるとして、日本を襲ったのは地球の技術力の高さを確かめるものだったのだろうか。南極での謎の飛行物体は空に飛んでいったという情報だが、もしかしたら地球に興味を失って帰っていったのかもしれない。真実がいずれ明らかになることを期待したい。

という内容で、実に記事自体も憶測で書かれており、信憑性が薄いとクラスの皆さんは言っていましたが私たちとしてはこういう勘違いをしてくれて助かりました。
後で鈴音さんに部屋で「サヨ達は私と同じ宇宙人らしいネ」と初めて知ったよそんなことというような表情で言われました。

実際キノは忽然と5000年前に現れたんですから宇宙人みたいなものだと思いますけどね。

鈴音さんの技術がなければこうしてうまく打ち上げて火星に到着させることもできませんでしたから何かお礼がしたいですね。
できるとしたら華から撮影された宇宙空間の移動映像なんかがピッタリだと思います。
神木・蟠桃から離れても木同士のリンクは深いもので映像もリアルタイムで到着するんです。
この10日間は本当に楽しかったですね。
やろうと思えば精霊体ならあちらにワープさせられるみたいで直に宇宙空間を見に行く事もできるみたいですけど、リアルタイムに情報共有はできているのであまり意味はないかもしれません。。
華自体は魔分を生産することはできないので、無闇にワープしたりすれば魔分を消費するため、場合によっては燃料切れのようなことに繋がりかねません。
でも華を射出する前に予めこの2618年の間に地球側に流れてきた魔法世界の魔分を再変換した分を含めて、かなりの量を搭載したので、仮にワープしたりしたとしても魔分切れの心配はほぼありえないんですけどね。
とにかく、無駄遣いは今は駄目という事です。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

既に華は火星への到着を終えており、木を定着させるポイントを探している。
火星に接近して改めてわかったことだが、魔法世界と火星の地形は非常に似ている。
魔法世界の地図は麻帆良教会の地下の支部に置いてあるのでバレバレだ。
ただ、地球から見れば、この地図は上下反転する必要があるのだが。
魔法世界と位相を同調した場合北極と南極が逆になるため魔法世界の地図は改められることになるだろう。
面白いのは魔法世界の地図では上の部分に南のヘラス帝国があり本人達も反対だということに気づいているのではないかということである。
同調したらきっとわざわざ金をかけて過去に火星探査機を到着させたソ連とアメリカは今までの苦労はなんだったのかと思うかもしれないが、関係ない。

木を定着させるポイントは魔法世界でいう龍山山脈のあるあたり、火星では北極洋だ。
そうする理由はメガロメセンブリアのある南半球に近いのは危険性が高いからである。
遠いと言っても残念ながらこの地域もメセンブリーナ連合の領域に近い。

しかし海を挟んでいるだけまだマシである。
位相が同調した時に陸が調整されて浮き上がることを信じよう。
幸運にも火星には月が二つあり、所謂月と星の力というのかこれの位置関係で魔分を元にした力の増幅が地球よりも強力に起きるだろう。
良くわからないかもしれないが世の中知らない方がいいこともあると思う。
勘弁して欲しい。

メタな発言は置いておくとして、いよいよテラフォーミングの始まりである。

華を大地に着陸させた後、華から亜空間内で今まで育成していた若木を魔分で保護しながら不毛の大地に根付かせるのである。
同時に有機結晶型宇宙船である華から余裕がある分だけ一気に大気中に向けて魔分を放出する作業を開始した。
とりあえず、数ヶ月を要するので随時観察が必要である。

因みに魔法世界の位相を破って火星に直接あちらの住人がやってくることはない。
そもそも、この事実にまだ気づかないだろうし、やってきたとしても人類なら今の状態の火星に生身ならば酸素不足で死亡する。
0.13%しか含まれていないのだから。
大気組成の95%が二酸化炭素である状態でのびのびと成長できるのは仮にも植物である二代目神木だけだ。
用意周到なことに水分と地中活性のためのバクテリアは華に積載してきているのでこれらを利用しつつ、5000年前の地球と同じく地下への魔分散布により強制的にテラフォーミングを敢行する。
楽なのは火星が地球に比べて表面積が1/4であることである。
魔分が行き渡るのには貯蔵してきている分も相まって数ヶ月で完了するだろう。
問題は重力が地球の40%程度しかないことだが、これについてはある引きこもりの力を借りれば解決しそうなので多分大丈夫だろう。
度々貸しを作ってきたのだから協力してくれる筈だ。

木の能力の真髄はこの全く自重しないところだろう。
種子を作れるようにと要求したがその範囲内には違う星で根付かせる事もしっかり含まれているようで本当に助かる。
流石に一晩でやってくれました!ということにはならないが。

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ここ最近私は随時送られてくる情報を見るという楽しいことが日課に加わりました。
苦労して打ち上げた第二世代の神木の様子です。
魔分を元々大量に込めている上既に高さ50mの大木であり、早送りなのではないかという速度で周辺の大地に異変が起きています。
この映像は高く売れるに違いありません。

日常生活は概ね人外魔境の巣窟1-Aとしてのレベルでは平和な部類に入ると思います。
秋と言えば体育祭でありウルティマホラの時期ですよ!知っていますか。
私は過去の麻帆良武道会の映像を見たことがあるので、確かにそれと比べるとそれほど大した内容ではない、ということになってしまいます。
でも超能力バトルではなく純粋な格闘技としての大会なので比較の対象にすること自体が間違いだと思います。
実は私例の合気柔術が使えるので出ようかと思っています。
身体が弱いという噂が定着しているのを払拭するいい機会になる筈です。
この大会の良いところは桜咲さんのような危険な刃物は出てこないので肉が切れたりはしないというところが安全で私向きだと思います。
古さんも、鈴音さんも中国武術研究会の一員として出場するのでどうせなら便乗して一緒にということです。
そのため大分気候的に涼しくなってきてまた人気が上昇中の超包子の営業が終わったら、相手をしてもらっています。

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およそ一年ぶりにクウネル・サンダースが引きこもる図書館島にやってきた。

《ごきげんようクウネル殿。およそ一年ぶりですが相変わらずのようですね。今年の分のエヴァンジェリンお嬢さんの学園祭の映像を持ってきましたよ》

「おや、学園祭が終わったらいつも間もなくやってくるので今年はこないのかと思って心配していましたよ。キティの映像をですが」

相変わらずお嬢さんの事となると地味に反応がきつくなるのだから、やめて欲しい。

《暇だからといって若干拗ねるのをやめて欲しいものです。今年は精霊の仕事が忙しかったのですから勘弁して頂きたい》

「精霊の仕事なんて見てるだけだと思っていましたが、そんなこともあるんですね」

《不毛なので早速イノチノシヘンの更新して下さい》

「失礼しました。では早速頂きますよ。キノ殿も以前に比べると大分私に対して対応が軽くなりましたね」

《同じ引きこもり同士ということです。今回はこれだけではなくある頼みがあるのですが聞いて頂けますか》

「ええ、話す相手も門番の彼女ぐらいしかいませんからいいですよ」

《知能があるからいいとは思いますがさながら老後の生活ですよね。いえ、なんでもありません。頼みというのは重力魔法に関する全ての情報の提供なのですが》

「精霊であるあなたが魔法を使う必要があるとは意外ですね。精霊の仕事というのはその辺りと関係がありそうですね。いいでしょう、この数年の暇つぶしに付き合ってくれているのですから協力しますよ」

《そう言ってもらえると信じていました。感謝します、クウネル・サンダース殿》

「もしかして以前大停電を引き起こしたのはキノ殿の仕業ですか。私のパソコンのデータが一部飛んでしまって困りましたよ」

《そう疑われると否定しても意味が無さそうですから、好きにしてください》

まさかこの引きこもりも被害者だとは思わなかった。
確かに図書館島建築されてから長いからそういったことがあってもおかしくはないな。
今回は目的があるから正直すぎるのは重力魔法に関する情報を手に入れるまでは自粛しよう。

こうして最後に核心をつかれるも重力魔法に関しての情報を得られることになったのである。
勿論この情報は調整を行って火星の神木に常駐プログラムとしてインストールする予定である。



[21907] 5話 超鈴音と二人の暇人
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/23 18:36
私はもう二つ寄る必要のあるところの一つ目、近衛門のいる女子中等部にある学園長室に来ている。

《近衛門殿、お元気ですか。この前の大停電の収拾は大変だったと思いますが》

実際これの主犯は我々だから、何を知らない振りをと言ったところだが、魔法先生の総意はともかく多分近衛門個人は気づいてると思う。
あの司書もそう思うのだから、我々の存在を実際に見て知っている人間はそうであっておかしくない。

「キノ殿、また突然ですな。色々後始末が大変じゃったが、あの停電の『お陰』で学園結界が強化されることになったのも悪いことではなかったの」

はっきり気づいているとは答えないがお陰でというあたりの言い方からして気づいているのだろう。
いつもこういう事に関して私には深く聞いてこないところが近衛門の良いところである。

《最近は麻帆良の警備も今でこそエヴァンジェリンお嬢さんが居ますが、昔のあの輝かしい全盛期の頃のようにとは言えませんね。一部十分に実力があるとは言え年端もいかない学生の手を借りなければギリギリというのは見ていて私も辛いものがあります。今回はその辺りでお話があるので聞いてください》

「神木の精霊殿に、それを言われると恥ずかしいものですな。麻帆良も表が豊かになって来た一方、裏がこの様というのは皮肉なものじゃ。話というのはもしや手伝って頂けるということですかな」

《ええ、精霊としてはイタズラが過ぎたと反省していましてね。それにそろそろ西洋魔術と東洋呪術で争うのをやめて頂かないと、中にとんでもないものがいつの間にか紛れ込むということになってしまいそうなので》

「ふむ、やはりあの停電はキノ殿の仕業だったのですな。いつか真相を教えてもらえると信じておりますぞ。儂も曾孫の顔を見るまでは死ぬつもりはないでの。西と東はもう長年争っておる事で婿殿がいるといってもなかなかままならないものじゃ」

今70代半ばの近衛門ならなんとか曾孫の顔も早ければ80代には見られるかもしれない。

《近衛門殿には言っていませんでしたが、私の行動可能範囲は既に中国大陸にまで及んでいるのです。そういう訳で近いうちに、その関西呪術協会の長である詠春殿に会いに行こうと思っていますよ》

「キノ殿にしては珍しいですな、やはりこの先何か動きがあるのですかな。そういえば興味を持っておられた超君の屋台でキノ殿によく似た容姿をした子供によくわからないが応援されたと言っていた魔法先生がおりましたな」

やっぱりあの学園祭は得られたメリットの割にデメリットが多すぎたな。
後悔はあまりしていないが。

《いや、お恥ずかしい。あの魔法先生の始動キーをご存知だとは思いますが、それを気に入っていましてね》

「前々から思っておったが、精霊というのはそういう語呂のようなものが好きなのかの」

《私だけですからあまり気にしないで下さい。話が逸れましたが麻帆良防衛の警備として相坂さよの時と同じく身体の用意がありますので参加させてもらいます》

「相坂君じゃったが、学校側としてもあれには助かりましたぞ。長年座らずの席として残しておくことになったのが解決できたのは良いことじゃった。うっかりタカミチ君には伝えてなかったから始業式の初日にはどういう事かと聞かれて困ったがの」

《何にせよまた彼女が生活できることになって良かったということです》

「そうですな。おっと警備に参加して頂けるのはありがたいですがまさか戦闘に直接するのかの」

《私が相手をするのは、やたらと鬼を召喚したりする人間全般ですよ。彼等の魔力封印処理を行ないます。直接殴り合いはしませんので誰か、できるだけマイペースな魔法先生と一緒に行動させてもらいたいですが》

「なるほどのう。確かにそれなら防衛もかなり楽になるのう。魔力封印をされた噂も捕まえて送り返して広めさせれば迂闊に手を出せなくなる訳じゃな。その魔法先生ならちとコワモテじゃが神多羅木先生がいいかもしれんの」

《大体そんなところです。行動する際の身体ですが今よりもっと小さいもの、お嬢さんのチャチャゼロぐらいの大きさですかね、頭にでも乗せてもらえればヘルメット替わりにもなりますよ。勿論私の存在は近衛門殿とお嬢さんの合作とでもしておいてください。解けない魔力封印なんて出処が気になるはずですから。普段はそうですね、身体の安全が気になりますがお嬢さんの家の何処かに放置しておくのがいいかもしれませんね》

「精霊の身体を安全第一に使うとは気が引けるのう。エヴァにも儂から言っておくが、キノ殿もこれから会いにいくのじゃろ」

《ええ、そのつもりです。そういう訳でこれからは今までよりずっと頻繁に会うことになりますがよろしくお願いします》

「こちらこそ心強い味方ができて助かりますぞ。報酬はどうするかの」

《情報隠蔽だけで結構ですよ。お金なんてもらっても使い道も殆ど無いですから》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

一緒に行動する魔法先生がマイペースな方がいいのは魔力封印処理自体は別におかしいものではないが私がやるものはあまりにも異端なので、そういうものを気にしない人間の方が都合が良いからだ。

精霊体で会いに行ってもよいが既に身体は、まだチャチャゼロサイズは一体だが作成してあるので直接訪ねる事にする。

人間の家の玄関に立ってインターホンを鳴らすのは初めてだ。
小さくしすぎて手は届いたもののギリギリだった。
背伸びしたい年頃である。

「こんな時間にどちら様でしょうか」

出てきたのは茶々丸だった。
そういえば、私がここに来ると緑率が75%になる上、この身体の名前も恐らくお嬢さんが付けることになるだろうから、数十年前の嫌な予感が思い出されるのだが…。

「翆色の幽霊と言ってわかるでしょうか、茶々丸さん」

「マスターに伝えて参りますので少々お待ちください」

そうして戻っていった茶々丸がまたすぐに出てきて招き入れてくれた。

「既に近衛門殿には話してありますが、これからこの身体をエヴァンジェリンお嬢さんの家に置いて頂きたいのですが」

「いつもの幽霊よりも更に小さくなってどうしたかと思えばいきなりなんだ、説明をしろ」

「ええ、麻帆良の警備に個人的に参加しようと思いまして身体を用意してきたのですが、直接戦うわけではありませんので、移動しやすい兼ヘルメットとして頭の上に張り付こうと思ってこうなりました」

「マスターお茶が入りました、お客様もどうぞお召し上がり下さい」

茶々丸がお茶を入れてくれたが、肉まんという固形物体を食べたのも5000年史上初だったが水分の摂取もこれが初めてだ。

「お茶を飲むのは初めてです、ありがとうございます茶々丸さん。美味しいですね」

「しかしチャチャゼロみたいだな。精霊が人間同士の争いに介入だなどどういう風の吹き回しだ」

そこへやってきた身の危険を感じる相手。

「ケケケ、御主人ナンダソノ俺ミタイナチッコイ奴」

「これはただの容器に過ぎませんし切っても面白くないですから勘弁してください。お嬢さん、私の個人的思惑もありますがこれから何かが起こるかもしれないので保険のためですよ。そこでこの身体はお嬢さんと近衛門殿の合作ということにして警備の方々に紹介することになるので名前を付けて頂きたいのですが」

「なるほどな、まあ好きにするといい。それより私が名前を付けていいのか。いいだろう。そうだな、チャチャゼロ、茶々丸と来たから次は茶々円だな。これでお前は二人の妹だな」

楽しそうな顔をして実にしてやったという満足感をかもしだしているのが微笑ましい。
0とか丸とか円とかバリエーションが尽きたらどうするんだろう。
嫌な予感はしていたけれど、麻帆良の高級学食焼肉屋のJoJo苑のパクリみたいな名前でいいのだろうか。
もともとJoJo苑も元ネタがあるのだが。

「ケケケ、マタ妹ガ増エタナ」

「マスター、私も妹ができたのですね」

皆さん、性別に違和感を感じているかもしれないがこの身体はお嬢さんの家の構成を考えて一応性別は女性だ。殆ど関係ないが。

「お嬢さん、とてもいい名前をありがとうございます。大事にします。つきましてはこの身体を放置できる手頃なマットでも用意してもらえるとありがたいです」

なんとも言えないが、チャチャゼロと茶々丸はそれで普通だという反応をしているので反論する気も起きないし、実際するつもりも始めからなかった。

「そのあたりは茶々丸、頼んだぞ」

やはり茶々丸がこの家にやってきて良かったらしい。

「わかりましたマスター、茶々円ついてきてください」

こうして今まで沢山用意していた身体よりも新しく用意したこの小さいものが使用率No1になるのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

それから三日後の夜近衛門とお嬢さんの口裏合わせも済み警備の方々との顔合わせとなった。

「じじぃ、こいつを紹介してやれ」

「先生方、この小さな子は茶々円君じゃ。エヴァンジェリンと儂の作った傑作だから能力に関しては心配しなくて良いぞ。基本的に直接戦闘はしないが、主に召喚術師を相手にすることを想定しておる。警備の際には神多羅木先生に預けるのでよろしく頼むの」

近衛門も名前が茶々円になった時は微妙な顔をしていたが、もう慣れたらしい。
実はこの三日で私自身も意外と悪くないかもしれないと思い始めた。

「紹介頂いた茶々円です。皆様の日頃の負担を減らす為に頑張りますのでよろしくお願いします。神多羅木先生は私を頭の上に乗せて下さい。邪魔かもしれませんがヘルメット替わりになりますので」

「学園長、高い能力があるのにヘルメット替わりという発言をするなんてどういう教育をしているんですか」

女性の方々の視線が痛い。

「いえ、ご心配なさらないで下さい。私の身体は壊れても修復可能ですから。それに小さい理由は大きくても私は直接戦闘ができず良い的になるだけですから、その代わり運びやすいようにという配慮です」

なんとなく、人間にしか見えない小さい子供を警備に使うというのがあまり印象が良くなかったらしい。
先生たちが慣れるまで待つとしよう。
きっと大人の身体なら身体で実力を証明しろ等と言うことになりかねないのでこれで良いだろう。

「学園長、私が責任を持って警備をしますので任せてください」

神多羅木先生はサングラスとヒゲのお陰でコワモテにしか見えないが、あれを取るとつぶらな瞳が隠されているパターンなのだろうか。

「それでは今日の警備も皆頼むの」

こうして私のある打算を抱えた計画を伴って、コワモテの先生が頭に子供を載せて警備するというシュールな光景が麻帆良の夜の日常に加わったのだった。

因みにこの茶々円の身体は恐ろしく軽いので神多羅木先生の首に殆ど負担はかからない。
軽く北国の頭に被る防寒具の役割みたいなものだ。

「神多羅木先生、前方200mに呪符使いと思われる反応があります。どうやら鬼を召喚するつもりのようです」

「分かった。茶々円君。確かに完全にサポート型のようだな」

「ええ、その代わり直接戦闘能力はほとんどないですが。しかし意外と麻帆良はタバコを吸う先生が多いんですね」

「スーツに匂いが付いているのがわかるのか」

「消臭しておきますよ。鼻の効く連中がいるとも限りませんし」

そう言って魔分でニオイの元を分解した。
便利である。

《そろそろ近いですが、お任せします》

密着しているのもあって念話も容易だ。

20体近い鬼が目視で確認できる。

神多羅木先生は射程範囲内の中距離から両腕を高速で動かし気を次々に放っていく。
はっきり言って先生の攻撃に対して鬼の動きが鈍い。

一匹倒しきれずに懐に潜り込んできたが、この世界との繋がりを絶ってやった。
完成している世界の連中は隣の芝生を見ていないで目障りだからじっとしていろ。

《今のは君がやったのか》

《召喚術師対策というのは伊達ではないということですよ。神多羅木先生の実力なら今のもなんなく回避できたと思いますが。呪符使いは右前方10mの木の影に隠れています》

そう伝えた先生は瞬間一気に距離を詰め同じように気を放った。

《終わりですね。まずは一人目、パーソナルデータ解析、魔力封印処理を実行》

呪符使いが魔分容量の器から術に変換できないように改変する。

「それが君の役目か。確かにこれで再度侵入はできなくなるだろうな」

「そういうことです、いつまでも夜になる度に不毛な争いを繰り返すのをやめて欲しいものです。送り返してこの噂が広がってくれればそのうち効果が出るのではないですかね」

「さっさと捕縛して次へ行こうか」

こうしてこの後直接1人の召喚術師の封印処理を施し、そうでない相手は神多羅木先生が早業で倒し、他の魔法先生達が捕まえてきた召喚術師については以下同様である。

「学園長先生、この子は召喚術師しか封印処理できないのですか」

高音・D・グッドマンというお姉さまな感じのウルスラの女子高に通う魔法生徒が言った。

「高音君、その子のする封印処理は召喚術師に対してのみ特殊な効果を持つものじゃからその話はあまり意味が無いのう」

実際には誰でも可能であるが、やりすぎるのも問題なので、一人で何体も呼び出して仕事を増やす相手のみにしたのである。

「学園長の言うとおりです、私の封印処理はそれ以外の人物に対しては並以下の効力しかありません。普通に封印処理をした方が良いです」

「失礼しましたわ。学園長先生、茶々円さん」

彼女は多分強力な封印処理ができるというのなら全部やったほうが良いと思っているのだろう。
正義感が強いらしい。

「それでは皆様今夜はこれで失礼します。マスター参りましょう」

このようにエヴァンジェリンお嬢さんの事は茶々丸さんと同じくマスターと呼ぶことになっている。
同時に緑色の方々も姉と呼ぶことになったのだが。

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相坂さよです。
火星の様子は順調です。
ウルティマホラに向けての練習も順調です。
この身体は合気柔術を使うことはできても対人戦の経験がないのでそれを学習することは必要なのです。
ある時女子寮の裏庭で鈴音さんに相手をしてもらった事があるのですが、いいんちょさんにその様子を見られていたらしく学校で

「相坂さんも合気柔術を嗜んでいるのでわすね。身体が弱いと聞いていたので意外でしたが本当に大丈夫ですの」

と心配されたのですがどうやらいいんちょさんも合気柔術を含め色々使えるらしくそういう事ならと私は

「いいんちょさん、私はまだ中国武術しか相手にしたことがないんですが、違う流派の武術で相手をしてもらえませんか」

そういう訳で、あれよあれよという間に何故か大規模な施設で練習できるようになってしまい、古さんや鈴音さんは「なんとゆーか凄く広いアル」「流石雪広財閥ネ」と素直な反応をしていました。
ただ、成り行きで長瀬さんやなんだか面白そうという理由で腕に覚えがある人達も混じったりするようになっていましたが。
正直私の身体が弱いという設定は何処かへ吹き飛んでいったみたいでほぼ目的は達成されてしまいました。

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クウネル・サンダースから重力魔法の情報について得るようになったのはいいのだが問題があった。
彼は重力球を発生させて対象を押しつぶすというものを得意としているのだが、これは物を引きつけるのとは形態が違うため転用が難しい。

《重力球を使って潰す魔法はよく分かりましたが、対象に対して重力を発生させるか地球の重力加速度を増加させる魔法というのは無いのですか》

「大戦を生き残ってきた私としてはそういった使い方ばかりだったのですけどね。なるほど、少し工夫してみましょう」

《重力魔法についての文献があれば見せてもらえるとこちらとしても何かできるかもしれません》

「それでしたら私が書いた本がありますよ」

という訳で彼が重力魔法の権威だった。
全く売りに出す気はないみたいだが。

《一つ聞いておきますが魔法世界と地球の重力は同じですよね》

「私は違和感を感じたことはありませんので同じだと思いますよ」

《それにも関わらず、魔法世界のある星は地球よりも小さいというのはどういうことなのか気になるのですが》

「そんなにペラペラ喋ってしまって良いんですか。なんとなくキノ殿が何を気にしているのか分かって来ました」

《あまり時間もないと言いますか、方法が早めに見つかるに越したことはないので。私はクウネル殿を少なくとも敵だとは思っていませんし。最近真面目に仕事を始めてみたら、この図書館島の地下深くにどういう訳かうまく偽装してあるゲートもありますし、心配で堪らないのです》

「それは初耳です…この図書館島にまさかゲートがあるなんて…」

《クウネル殿も気づきませんでしたか。要するにこの麻帆良学園都市は魔法世界からやろうと思えば、確率の高低を問わなければいつでも来ることが出来る可能性があるんです。しかもこのゲートの怖いところは地下に見事に埋まっているんです。魔法世界側からしかほぼ使えないと見て間違いないいでしょうし、またどこに繋がっているかもわかりません》

「私もそれは気になりますね。調べてみましょうか」

《いえ、やめておいたほうがいいですよ。かなり危険なニオイがしますから。精霊の私もこの100年の地上の発展に気を取られすぎたようです。魔法使いが頑張って穴を掘っているな程度にしか思っていなかったのですから。それに今はこの魔法の方を優先したいのです》

「わかりました。あなたがそういうのでしたらそうなのでしょう」

これは超鈴音の協力も得たほうがいいかもしれない。
火星にやむなく投げ出された人類が低い重力の中作り出した戦闘服に着目すれば魔法技術と併せてなんとかできるかもしれない。

《クウネル殿、私が興味を持っている自称火星人の超鈴音という少女がいるのですが彼女の技術は凄いものですので一度会ってはもらえませんか》

「キノ殿は先程から恐ろしい程厳重な結界を張っているようですが、どうやら私は既に巻き込まれているようですね。いいですよ、私の趣味に合っていたら尚良いですが」

《それは自分で判断してください。後、もう一つだけこの際もう一度確認したいことがあります。私は基本的に地球の事しかわかりません。魔法世界は時間的にどれほどの時が過ぎていますか。もっと具体的に言えば例の大戦で中心となった国の歴史は2600年以上を越えているのですか》

「オスティアに関しては数千年と言われていますから2600年は優に超えていると思いますよ。これは間違いないです」

《…ありがとうございます。ゲートが100年前突然稼働し始めたのはそのせいかもしれませんね…。いえ、とりあえずこの本の内容は覚えましたのでまた来ます。続きはその時にでも》

やられた…。
おかしいとは思っていたが、世界に穴を開けて入っていったのは間違いないがその後時間の流れがダイオラマ魔法球と似たような状況になっているのに気付かなかった。
世界の歴史も地球の暦を元にしているものだから整合性がとれていない。
この分だと完全な歴史であるという保証もないな。
というかこの世界の歴史を与えると言われた空間では、「全て」なんて一言も言っていなかったじゃないか。
今まで他の者達にも試させたことがあったが上手く行ったことはなかったというのが歴史の知識の有無だと思っていたがその辺りも関係ありそうだな。
5000年振りに過去を想い起すだなんて皮肉な話だ。

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《超鈴音、二ヶ月振りですが話を聞いて下さい。今は大丈夫ですか》

《この感覚も久しぶりネ翆坊主。話なら私はこっちでハカセと会話しながらでも聞けるヨ。大体この会話法は加速してるからすぐ終わるだろう》

火星人は聖徳太子か。

《最近は日中も夜も忙しいようでやや心配でしたが超鈴音にはどうということもないようですね》

《当然ネ。この超鈴音に不可能はあまりないヨ》

地味に便利な言葉だと思う。

《赤き翼のアルビレオ・イマに興味はありませんか。今はクウネル・サンダースと名乗っているのでそう呼ばないと反応してくれませんが。個人的にまたやって欲しいことがあるので会ってもらいたいのです》

《翆坊主、私がこちらで調査しようと思てた相手に会わせたいんなんて相変わずネ》

《そういえば…そうなんですか。そこまでは知りませんでした。日取りですが我々はいつでも良いので都合の良い日をサヨに伝えて図書館島に来て下さい》

《やっぱり暇人なのカ》

暇ではないが暇がないかといえば暇になろうと思えばいつでも暇である。
ややこしい。

《不正解です。私は人ではありません》

《屁理屈はいいヨ》

はい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《超鈴音、図書館棟島にようこそ。私の所有物でもありませんが。まずは普通に入ってください。クウネル殿も近道を開けてくれるようですから》

《わかたヨ》

そう言って超鈴音の背後霊ではないが隠蔽モード全回で誘導していたところ忘れていた、あの部活の事を。
麻帆良学園図書館探険部である。

「あれ、超さんや~珍しいな。図書館探険部に入りに来たんか」

近衛門の孫娘だった。

《ここで彼女とその仲間に遭遇するとかなりまずいですよ》

《わかてるヨ。私はうまくやるネ》

「近衛サン私でもこれ以上所属する所を増やしても時間が無いネ。今日は少しここがどんなところか見に来ただけだヨ」

「それなら私達図書館探険部が案内するよ」

 孫 娘 の 仲 間 が 現 れ た 。

《超鈴音、天才でも早くもあまりない不可能が発生しましたね》

《隙を見て逃げ出すネ。誘導は頼んだ翆坊主》

《了解です》

それからというもの図書館探険部の彼女達は超鈴音を地下ではなく地上の建物から案内し始めたのだった…。

《なんというか彼女たちは実は敵なんですかね》

《わざわざ地上の方を案内するとは思わなかたネ》

「と、こんな感じが地上なんやけど、超さんこの図書館島は地下の方が実は深いんよ」

仕事をして充実感たっぷりの彼女達を見ているとなんともいえない。
何にせよ地下にやってこれた。

《後地下に二階分進んだら近道があるのでそれまで辛抱して下さい》

《突然消えたら心配しそうだナ》

《まあより彼女達がこの建物に興味を持つということで》

「そういう訳で私たち図書館探検部を、ってあれ超りんいない。消えちゃったよ木乃香」

「あれ、ほんまやなー。迷子になってしまったかもしれんな。探さないとやな」

《いや、本当に悪いとは思いますが思いの他隙だらけでしたね》

「意外と消えてもマイペースだったネ。大分時間が取られたがまだまだ大丈夫だナ。翆坊主案内頼むよ」

《任せてください》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《クウネル殿、やっと着きましたよ。やはり身体があるというのは不便なものですね。彼女が超鈴音です》

「あなたが超鈴音さんですか。頭にお団子ではなくネコミミなんていかがですか」

あーだめだ。なんとかしないと。

「超包子の肉まん買ってくれたら考えてもいいヨ」

この引きこもりはここから出るためには神木の魔分出力を挙げなければいけないため無理だな。

《時間も予想外に削られていますし、本題に入らせて下さい。超鈴音、火星の重力は地球と同じでしたか》

「いや、こちらの地球で既に計算されているものと同じだたネ。その代わり専用の服で重力の問題を補っていたヨ。翆坊主がやって欲しいというのはそれカ」

《そういう事です。クウネル殿は重力魔法に造詣が深いのでなんとかできないものかと。私としては質量を擬似的に増加させるという方法しか思いつかないのですがね》

「火星人というのは本当のようですね。驚きました、普通の少女にしか見えませんね」

「普通じゃないネ。私は麻帆良最強の頭脳超鈴音だヨ。赤き翼のメンバーに会えて光栄だナ」

こうしてこの日随分と長いこと二人は技術の収斂を行ったが完璧な解決には至らなかったため、また次回ということになったのである。
それでも、何かしら得るものがあったので良しとしよう。



[21907] 6話 年寄り達が未来に向けて
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 18:56
「ハッ」

雪広あやか流という合気柔術なのですが、武芸百般というのは本当の事のようで

「やっ」

オリジナルの技まで開発しているんですから凄いです。

「相坂さん、なかなかやりますわね」

古さんとの相手をしてもらうのと違って私が怖がって防戦一方になることもないので

「いいんちょさんが相手の練習は楽しいです」

「さよ、ワタシとやるのは楽しくないアルか」

「古さん、そんなことはないですよ。私の実力だとまだまだ古さんの相手をするには早いと思うんです」

「それなら良かたアル。強くなるよう練習するアル」

ウルティマホラが開催される時は体育祭の時期と重なります。
学園都市にある学校が同時期に体育祭を行い施設の都合、人数の多さの問題のために、各生徒は自分の出場する競技をクラス内で決める必要があります。
ただ学年毎に参加できる競技に割り振りがあるので、得意な競技があるとは限らないのですが。
例えば徒競走では1-Aからは陸上部の春日さんと毎日新聞配達をしている神楽坂さんが出るといったような形です。
基本的にウルティマホラが開催される日は一般の競技は行われないので気兼ねなく参加したい人は参加できます。
ウルティマホラの予選は年齢の近い者同士行われていき、勝ち残って行けば徐々に年齢が離れた人達との相手となるのですが、つまり今この施設で練習している人同士で本選のための予選を行わなければならなくなるということです。

「いいんちょさん達はウルティマホラに出るんですか」

「武芸は護身術として嗜んでおりますので大会には出ませんわ」

「拙者も修行ができるだけで結構でござるよ」

意外にも楓さんは出ないそうです。
忍者だと聞くと「拙者は忍者ではないでござる」といつも言っていますから一応隠すつもりなのでしょうか。
こうなってくると結局出場するのは古さんと鈴音さんと私の三人ということになりました。
鈴音さんはここでの練習に毎日来てはいないんですけどね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

精霊やってると壁とか床というものに本当に縁がない。

《クウネル殿、わざわざ超鈴音を連れてここまで降りてくるのに時間がかかるのですがもっと近道ありませんか》

「いつ言い出すかと思っていたんですがね。ここの奥に地上への直通エレベーターがあるんですが気づいていないのですか。超さんを面倒な方法で連れてくるあたりわざとやっているのかと思って私も道を用意したのですよ」

《あの奥ってただの空洞ではありませんでしたか》

「いつも色々無視して突き抜けてくるものだから空洞だと思ってるだけだと思いますよ」

こういう事だ。
半透明の姿に慣れすぎているとそういった乗り物というかこの類の物の事を失念しやすい。

《どうやらその通りのようです。次からは使いますよ、便利な乗り物。ところで私から言うのも何ですが超鈴音は魔法を世界に公表しようとする計画を持っていたんですよ。要するに本来はクウネル殿とこうして会うということには絶対にならなかった筈なのですがね。代替案が見つかって現在進行形ですから》

「そんなことまで私に話して良かったのですか。最近本当に口が軽くなりましたね」

《真面目に協力してもらいたいというのもありますが超鈴音は正真正銘ナギ・スプリングフィールドの子孫ですからクウネル殿も何か思うところがあるのではないですか》

「それまた爆弾発言ですね。私がここで果たす約束よりも先に更にその先の血縁者ということですか、面白い。なるほど、火星人で未来人ということですか」

《色々と代償を払ってたった一人でここまでやってきたんですよ。私はナギを見たのは10才のまほら武道会の時がほとんどですが、無茶なところは似ていると思います》

「あの頭の良さや話し方、苗字など大分似ているかと言われると同意できかねますが、確かにたまに仕草が似ているかもしれませんね。しかし、未来を変えてしまえば彼女は結局…」

《既にこの時間軸にやってきて定着している時点で、未来が変わったからと言って身体が私みたいに薄くなって消滅なんてことはありえませんよ》

「彼女は未来には戻らないのですか」

《戻らせるわけには行きません。超鈴音が未来に戻れば長時間跳躍に身体が耐えられず反動で死にますから。少女がそういう事になるのは世界の損失なのでしょう。安全に未来に送るならば100年冬眠させる方法がありますけどね》

「私としても美少女の死というのは避けたいですね。しかしその方法は時間跳躍と言えるのですか」

《クウネル殿も似たようなもの使ってるんですから気にしてはいけませんよ。過去を変えるのは大変ですが未来に逃げるだけなら簡単ということです。今日が嫌なら明日になるまで安全な場所で寝ていればいいだけなのですから》

「確かに今の私のようなものですね。時間旅行者としては、方向は違いますが同じようなものということですか」

《そろそろ超鈴音が図書館島に着くので先程の近道で連れてきますよ》

「私としても今の雑談で彼女とはただの他人という訳ではなくなりましたし楽しみにしていますよ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《超鈴音、ウルティマホラも近いですが待っていましたよ。今日はエレベーターで行きましょう》

《翆坊主、何故前回それを使わなかたネ》

《一度ぐらい冒険を、と言いたいところなんですが忘れていただけです》

《昨日茶々丸のメンテナンスで翆坊主の親戚みたいのが実体化していた映像を見たがそんな非常識では世間でやていけないヨ》

《もうご存知ですか。あれもただの容器なので使ったら放置するだけなので今のところ困ってないんですよ》

《あの神木は本当に木なのか気になてくるヨ…》

《やりましたね》

《わざとネ》

他人がこのネタを使うとは思わなかった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「クウネルサン、前回来た時も思たが滝が周りにある空中庭園というのは風流なものだナ」

「そう言ってもらえたのは数年振りですよ超さん。精霊殿はこれよりずっと良い映像を見すぎていて特にコメントした事がありませんし」

《実際幻術の効果貼りつけてるだけなんですから、実物と比べられてもと思いますよ。空洞なのは事実ですけど》

「翆坊主、どんな映像見たことがあるネ。火星は荒野だたから興味あるヨ」

《超鈴音、クウネル殿、少し私の近況報告といきます。既に第二世代の神木は火星に到着しテラフォーミングを開始しています。しかし重力、大気組成、魔分の問題がありますから数ヶ月と言うところだったのですが実際もっと掛かりそうです。海だけは用意したいので氷が溶けるまで時間がかかりますし、これにも重力が関係ありますから。最速でも一年以上というところです》

「キノ殿、早い方がいいとは言っていましたが既に始まってるんですか」

「宇宙船使い終わたのなら研究させて欲しいネ」

《少しいきなり過ぎました。まあ遅かれ早かれということで納得してください。色々終わったら使っていいですが地球に戻すのがまた面倒なので当分お預けですし、公然と使えるようにするためには世界征服して下さい。火星と魔法世界の同調が現実化してきたということは人間と亜人との接触という新たな問題が起き、結果として魔法が世界に公表されるのも近いということですから。ファーストコンタクトは重要ですよ》

「それは確かに失敗できませんね。しかし、こちら側に同調させる必要はあるのですか」

《クウネル殿は知らないかもしれませんが、魔法世界は第二世代の神木がなければ今から11年程で崩壊します。それが完全なる世界やメガロメセンブリアが動いている理由でもあります》

「翆坊主、クウネルサンに教えてしまていいのカ」

《重力魔法の問題が大きいですが、どちらにしろ、いずれは話さなければなりません。それに超鈴音、いくら一人で大抵なんでもできる無敵超人であっても、少なくとも裏切らない味方はできるだけ多くいた方が良いですよ。少し他人に協力をしてもらうだけではなく頼る事も覚えてはいかがですか。そろそろ心の底から此処で生きたらどうですか。納得できるかどうかはともかくとして私は歓迎しますよ》

「失礼ながらナギの遠い血縁者だと聞かせてもらいましたが、先程の話はこのための前振りだったのですね。超さん、最終的に決めるのはあなた自身ですが、私がいることを言いふらさなければ、ここには来たい時にいつでも来て構いませんよ」

「……」

流石に超鈴音は黙った。
わかっていてこういう会話の流れに持っていったのは悪いとは思うが、これもある側面の事実だ。

《超鈴音、別に返答を求めているわけではありません。無意識に今の時間が夢のようなものだと感じているのではないかと思ったのです。超鈴音は今ここにいるんです。事実1-Aというクラスに友人もいます》

「…わかたヨ。その言葉は受けとておくネ翆坊主、クウネルサン」

「あなたの中で何か意識が変わると良いですね」

《精霊のおせっかいということで心のどこかに留めておいて下さい》

「しかしキノ殿、さらりと流してしまいましたが魔法世界の崩壊とは穏やかではありませんね。私の仲間もあちらにいます」

《そういう訳でクウネル殿も積極的に協力する理由ができましたね。因縁のある完全なる世界も含めて》

「この前は巻き込まれたと言いましたが、今巻き込まれて当事者になれて良かったですよ。少し話が長引きましたが前回の続きと行きましょう」

こうして少しだけ明るくなったように見える超鈴音と図書館島の司書、精霊は重力魔法の研究を続けたのだった。

そして時間が限界を迎えたところでクウネル殿が徐に

「蒸し返すようですが、超さん、本当の名前はスズネ・スプリングフィールドなのではないですか。音をシェンと呼ぶのは変わっていますし、超という苗字も所属名という感じがします。そうであれば屋台の名前にも付けるというのも自然な気がします」

世界の歴史では超鈴音で統一されているがどうなのだろうか。
言われてみると本名を隠しているという可能性は高いな。

「ははは、勘が良いねクウネルサン。本当に、予想外な事が起きすぎだナ。本名は火星でも隠す必要があたから私も殆ど印象にはないがその通りだヨ」

「もしやとは思いましたがなるほど。事情があるようですしこれまで通り超さんと呼ばせて貰いますよ」

《私もそれは知りませんでした。超鈴音が超家家系図という資料を持っているのは知っているので本名だと思っていましたが》

「翆坊主、覗いたのカ」

元々知ってるのは覗いているのを含んでいるような気もするが、睨まないで欲しい。

《元々知っていたんです。何度も言いますが超鈴音は今ここにいる、ただそれだけです》

「まあいいヨ。色々終わたら宇宙船貰うネ。少女のプライバシーを侵害した罰ネ」

「キノ殿はイタズラも程々にした方がいいですよ」

イタズラではない、これは。
ここにいる三人は割と性格が悪いかもしれない。

《もう好きにしてください。私たちはなんというか性格が悪いという点で似ているかもしれません》

「おやおや、私は違いますよ」

「翆坊主と一緒にされるのは心外ネ」

間違いないと思う。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「茶々丸姉さん、運搬ありがとうございます」

「妹の為ですから」

四葉さん並の優しさを感じる。
しかしマットを用意してくれと言ったのは確かだが、あれからいつの間にか大きめの猫用の丸い寝床に小動物のように寝かせられているのを見た。
茶々丸さんの認識では猫のようなものという事なのだろうか。
エヴァンジェリンお嬢さんはその辺り全く興味ないらしい。

二週間程警備に参加しているが、召喚術師の数がやはり減少傾向にある。
裏は裏で情報が流れるのは早いということだ。
関西呪術協会に接触するのももう少しという所だろうか。
そうこうしている間に神多羅木先生の所に到着である。

「神多羅木先生、茶々円を連れて参りました。よろしくお願いします」

「ああ、いつも悪いな。それでは茶々円行くぞ」

「神多羅木先生今日もよろしくお願いします」

この二週間で君付けは取れた。
戦闘中に念話する際にわざわざという事らしい。
合理的だ。

《噂が広がったのかわかりませんが、最近直接侵入者があたって来る事が少なくなりましたね》

《数自体が減少しているからな。効果が出ているというなら良いことだろう》

《一番近いところで隣の葛葉先生の所ですが行く必要ありませんね。その反対で葛葉先生の剣術の生徒さんが無駄に突出していて囲まれていますから行ったほうが良いかもしれません》

《葛葉を心配する必要はない。ここは生徒に加勢するべきだろう。誘導を頼む》

《了解です》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《本当にうんざりする程数が多いですね。教師が居ないところを一点突破するつもりなのでしょう》

《動くから落ちないようにな》

そう言っていつものように射程圏内に距離を詰め無詠唱の気の衝撃波を死角から打ち出したのだが

「「「「出たな緑のグラヒゲ!!!討ち取れー!!!」」」

と元々こちらを向いていた奴らに叫ばれ

《神多羅木先生、二つ名ですよ嬉しいですか》

《少し黙っててもらえるか。片付ける》

それからはあっという間だった。
納得のいかない呼ばれ方をした神多羅木先生は容赦が無く、孫娘の護衛も体勢を立て直し、龍宮神社のお嬢さんもやってきたとなっては一方的なものだった。

「お三方、術師が逃げ出しました。追跡お願いします」

その後もあっさり術師二人は捕まえたのだが

「おい、緑のグラヒゲとはお前らが伝えてるのか」

神多羅木先生は意外と気になるらしい。

「鬼達が勝手に話題にしているだけだ、我々はそんな事は知らぬ」

との事。
速攻で気絶させられました。
しかしやはり奴らは意外と暇らしい。
そもそもこちらで倒されても還るだけだなんて虫が良すぎる。

「神多羅木先生、封印処理実行します」

「ああ、頼む。桜咲、いくら神鳴流が前衛だからと言って突出して窮地に入ってしまっては意味が無いぞ。葛葉にその辺りも鍛えてもらうんだな」

「はい、ご迷惑をお掛けしました。精進します」

龍宮神社のお嬢さんがこっちを凝視してるな…。

「龍宮神社のお嬢さん、麻帆良の警備ありがとうございます。何か私にご用でしょうか」

「いや、済まない。少し違和感を感じただけだ」

中に入っているのが精霊体の大きさとずれているのがバレているらしい。

「良い目をお持ちですね。神多羅木先生封印処理終りました。行きましょう」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「刹那、あの光景は最近よく見るようになったがどう思う」

「さっき注意されたが笑いそうになって大変だった。真面目に先生が話かけてくるのにあの子が頭にしっかりつかまって一緒にこっちを見てくるんだから」

「だろうな。私も頭に乗せてみたいよ。いや、しかし注意されていたこと自体は心に留めて置いたほうがいい、私もはぐれた時は肝を冷やした」

「分かっている。済まない龍宮」

「次から気をつければ良いだけだ。やれやれ、肩車している親子が少し過激な散歩をしているようにしか見えないな」

という会話があったとかなかったとか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

明けて翌日。
近衛門の所に来ている。
クウネルに話したなら個人的に話す分には同じだろう。

《近衛門殿、二つほどお話があります》

「おおキノ殿、警備に参加してもらえるお陰で大分負担が減ってきて助かっとるよ。して今日は何かの」

《先に口外して欲しくない事から言いますので結界を張らせて頂きます。超鈴音ですが結果から言えば彼女の当初の計画は中止になりました》

「ふむ、超君の計画がなんじゃったのかも良く解らんが違う計画はあるという事かの」

《その通りです。ですが新たな計画は麻帆良で行う物ではありませんので監視の目はもっと違う所に回したほうが効率的です。その計画は私から頼んだものでもあるので、広い目で見れば最善なのですが、やはり魔法使いの立場からすれば異端かもしれません》

「監視の目を他に回せと言うても、もう少し具体的な事を言ってもらえんと動きにくいの」

《…分かりました。魔法世界は後11年程で世界を維持できずに消滅し、火星に地球出身の人間が投げ出されます》

「そ、それは本当なのかキノ殿。本国からはそのような知らせは受けておらんぞ」

《本当です。この事実を知っているのは前大戦を起こした完全なる世界の残党と本国の一部の人間です。この本国というのとこちらの繋がりが問題なのでこうして結界を張っているわけです。超鈴音はその未来の火星からたった一人でやってきたのです》

「確かに本国での極秘情報がこちらに漏れていたら問題になるの。超君はそういう素性じゃから昨年以前の情報が掴めず、あんなにも技術力が高いんじゃな」

《今はこれぐらいしか、と言ってもほぼ核心と言えるのでご理解頂きたい。因みに違う計画には既に図書館島のアルビレオ・イマ殿にも協力頂いていますので確認をとることができます。食料などを提供していた所からすると近衛門殿は彼の事をご存知だったのでしょう》

「何じゃ、アルも協力しておるのか。ふむ、図書館島に超君が行くのにも監視が強いと確かに困るじゃろうな。その辺りはなんとかしておこう」

《ありがとうございます。くれぐれも口外しないように願います。事態が本格的に動き出すのは早くても1年、もしくはそれ以上かかると思います。精霊の予想から言うと、A組という舞台から起きる奇跡の物語と重なるかもしれませんね》

「わかっておるよ。あの学年のあの子達は歴代の中でも恐ろしいほどに濃くての、儂としてはクラスを決める際に反対されたんじゃが、勘が働いての、一つにまとめたんじゃ。キノ殿も何か起こると思うという事は間違いではなかったんじゃな」

《私は人間ではありませんから、近衛門殿が私よりもいたずら好きでたまに問題を起こすのも気にしません。大体何か起きても最後は丸く収まるのですから良いと思いますよ。あのクラス編成は本当に、昔からの事ですが近衛門殿の勘の良さと言いますか人を見る目がどれほどなのか分かりますね。恐らく他人には全く理解できないと思いますが》

「そう言ってくれるのはキノ殿だけじゃよ。最近はしずな君やタカミチ君が厳しくての」

《恐らく見ているだけなのが地味にストレスになっているのでは無いですか。近衛門殿の昔を思えばもっと自分から動くタイプでしたよ。ストレス解消というのは何ですが、警備で暴れてみてはいかがですか》

「それは自覚しとらんかったかもしれんのう。確かに久しぶりに動いてみるのも悪くないかもしれんな。ところで二つ目というのは」

《失礼しました、忘れてしまいそうでした。一つめの口外できない事の問題から前回も言いましたが東と西の争いをさっさとやめて貰い問題を減らしてしまおうというのが目標です。そこで私が警備で行っている封印処理を受けた陰陽術師も増えてきている事ですから、時期を見て、この封印を解くという条件から麻帆良の手出しを控えてもらいたいと思っています。当然あちらはそれを無視して攻撃するという手段がありますから、この際それを切り口にして麻帆良に呪術協会の支部を何らかの条件付きで建てさせてしまえば良いのではないですか。実際この地に対する興味を諦めさせるというのは無理な話なのですから》

「そういう思惑じゃったか…。確かにここ数日あの封印処理は一体なんだと向こうから苦情も入っとるから絶対に無理とはいわんが…。割と精霊殿は気楽に言うがかなり難しいじゃろうな」

《それでも、近衛門殿なら不可能ではないのでしょう。私も詠春殿には近いうちに会いに行きますし。それに超鈴音なら「麻帆良最強頭脳のこの私に任せるネ」と必ず言いますよ》

「…キノ殿は本当に超君を気に入ったのじゃな」

《正しくは待っていたというところなんですがね。近衛門殿にも同じような人物が少ししたらきっと現れますよ》

「…ふむ、分かったわい。この近衛近衛門、一肌脱ぐとしようぞ」

《久しぶりにその生き生きとした姿が見られて嬉しいですよ。ご協力感謝します》



[21907] 7話 体育祭
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/21 16:46
鈴音さんが3日前図書館島からふらりと帰ってきた時様子がおかしかったんです。
何かあったんですかと葉加瀬さんと一緒に聞いたのですが

「気にしなくていいよ。少し思うところがあるだけね」

喋り方にも元気が無く珍しくそのまま直ぐ寝てしまいました。
なんだか儚げな話し方で普段見れない一面を見れた気がしました。
しかも二日続けて同じような状態だったので昨日クラスの皆も

「超りん元気ないけどどうしたの」

と心配していたのですが、何か思いつめたような顔をして塞ぎ込んでいました。
これには古さんも声をかけにくかったらしく2人で話したのですが

「超はすぐに元気になるアルよ。私は信じてるアル」

古さんは何か思うところあるらしいです。

「そうですね、私も信じます!」

そして今朝。

「さよ、ハカセ、私は今此処にいるよ」

以前にも増して明るい魅力的な笑顔でした。
ただ明るくなっただけじゃないみたいですね。
なんというか無理をしていない自然な印象がありました。

それから鈴音さんは学校に着いた途端古さんに宣戦布告したんです。

「クー!ウルティマホラは絶対に私クーには負けないネ!」

教室の入り口で堂々と宣言した顔は凄く嬉しそうでした。

「超、元気になたアルか!その勝負受けて立つアルよ!」

熱い空間が形成されて皆も驚いていましたね。
とにかく鈴音さんが元気になって本当に良かったです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

10月10日から3日間体育祭の始まりです。

実は超包子の稼ぎ時でもあるのです。
なんといっても小腹が空いた時に肉まんを片手に食べられるんですから昼時の人気は凄いものです。
勿論クラスの競技にはしっかり参加していますよ。
因みに私は一応バレーボールに参加しています。
今はクラスの皆と徒競走系の種目の応援に来ています。

はっきり言って1-A強し!です。

短距離走は神楽坂さんと春日さんの独壇場。
軽く計測しても何かの新記録だと思います。
二人三脚は鈴音さんと古さんが本当に足に紐付けているの、という速度で爆走。
息が合いすぎです。
障害物競走は楓さんが、気がついたらゴールにいるという有様でした。
忍んでください!

応援している私達のテンションも異常な盛り上がりで若干他のクラスの人たちが引いていましたが今更気にしません。

バレーボールも正直容赦ありませんよ。
1-Aは龍宮さんを始めとして身長が年齢の割に高いんですが、それを他クラスと行うと一方的でした。
相手のスパイクは全てブロック、しかしこちらのスパイクはザルのようにコートに吸い込まれていくんです。

バトミントンも同じ体育館で行われたのですが桜咲さんがラケットを振るのが早すぎて見えません……。

「このクラスなんなんだよ、ありえねぇ……」

という長谷川さんの呟きも周りからすれば当然かも知れませんが残念ながら同じクラスなんです諦めてください。

あっと言う間に1日目が過ぎ、2日目に突入しましたがエヴァンジェリンさんが大将をする騎馬戦はギャラリーが多すぎでした。
大学の方から本格的な機材で撮影されていたのは流石にやりすぎだと思います。
さながら戦場を駆け抜ける戦女神のようで通り抜けた後には鉢巻は一切残っていませんでした。
そういう意味では良い映像だったかもしれません。

2日目が終わった後、超包子を1-Aで貸切り打ち上げです!

「いや~私たちのクラスは凄いアル」

「皆さん凄い勢いでしたからね」

「まさかこんなにトロフィーが一箇所に集まることになるとは思いませんでしたね」

「1-Aなら十分にありえることネ。皆、今日は超包子からのサービスだからどんどん食べていいヨー」

「ちゃおちゃおありがとー」

「四葉さん料理美味しいよ」

皆幸せそうで良かったです。
高畑先生も呼んだので途中から打ち上げに参加してくれたのですが、トロフィーを皆からプレゼントされて大変そうでした。
はっきり言って多すぎるんです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

そして3日目、ウルティマホラ当日です。

場所はまほら武道会と同じく龍宮神社にある会場で行われます。

「昔のまほら武道会とはやっぱり雰囲気が違いますね」

「さよは幽霊の時に見たのカ」

「幽霊の時は学校付近に縛られていたので見れなかったですけど、翆色関連で見せて貰ったことがあるんです。活気が違いますね。なんというか今がある程度落ち着きがあるとしたらアレはなんでも有りという感じです」

「また翆坊主カ。前に凄い映像があるのとは聞いていたが見せて欲しいネ」

「私も鈴音さんに見せたい映像があるんです。どうやって見せればいいかわからないんですけどね」

「方法は私に任せればいいヨ。なんとかしてみせるネ」

「キノにも言っておきますよ。そろそろ私達の予選始まりますね。古さんはもう始まってるみたいですし」

「枠の数から見ても午後の本選で当たる事になるかもしれないネ。古も待てるヨ」

「はい!」

午前で一気に人数を減らすものの本選の枠は東西の1から32までのトーナメント二つで構成されていて、その総数はなんと64です。
ベスト8までを決定するため総試合数は67に登ります。
実際これでも少ないぐらいかもしれません。
3万人が通っていると言われる麻帆良学園都市ですからそのうち武術を嗜んでいる人口は千人単位になるのは間違い有りません。
ここまで言って本選に残れるのか心配になってきました。
良いことなのか悪いことなのか、どうも私が勝ち抜いていく必要のある地区は古さんとも鈴音さんとも違うので頑張って残らないといけないようです。
予選自体は大きく4地区で年齢は中学生から始まり徐々に混合して行き16ある枠まで残れれば本選出場です。
しかしそのため予選は迅速さの観点から一試合3分のみという超短期決戦で、不当に動かない場合は判定で不利になります。
また、勝敗に関しては使用する格闘技の何らかの技が決まった段階で勝ちとなり、その判断の難しい打撃技に関しては審判の判定で決定されます。

因みに私はいいんちょさんから大会に出るならばどうぞと貰った道着を来ています。
とてもデザインが良く着心地もぴったりでなんだか頑張れそうな気がします。

そうこうしているうちに私の試合の番がやってきました。

「両者共に礼!」

審判の人たちも沢山居ますが麻帆良各地にある道場の人達や学校の武術系の部活の先生が担当しています。

「「よろしくお願いします!」」

「試合始め!」

さて始まりました、相手は男子でどうやら中国武術の使い手のようです。
はっきり言って、いつも二人に相手してもらっている私にとっては何ということもありません。

「せいっ!」

掌底を叩き込んできましたが逆にそのまま勢いを利用し投げ飛ばします。

「やあ!」

ドサッという音とともに間違いなく決まった筈です。

「勝負有り!勝者相坂さよ!」

少し緊張しましたが、次から忘れていた精霊のズルを使って予選を切り抜けることにします。
これで全く焦ることなく落ち着いて対処ができます。


……やはり1-Aは異端です。
気がつかないうちに一般人の枠を殆ど飛び出しているのがよく分かりました。
相手が突っ込んできた場合は冷静に受け流してそのまま技を決めて終了。
相手も様子を見るタイプの場合はいいんちょさんに習った「雪中花」で一発ダウン。
いいんちょさん、一般人相手にはとても使い勝手が良いです。
この技をほいほい避けるのがあの二人ですからここまでうまく決まるとなんだか楽しいんです。
残念ながら予選なのでこの様子をクラスの皆に見せることはできませんが。
途中生理的な壁としてレスリングの使い手の男性等が立ちふさがりましたが16枠の一つを無事獲得することができました。
本戦出場が決定してから、同じ合気柔術の使い手さん達から応援されたり、何処の道場に通っているのかと聞かれたりして少し困りました。

古さんの方も決着が着いていたようですが、聞こえてきた話では一発打ち込むと試合が終わるという本人は全く満足できていなさそうな内容でした。
正直あの威力の打ち込みを喰らった人たちの安否が気になりますが……。
私も思い出すとあの恐怖はなんともいえないです。
鈴音さんの場合は加減するのでもう一つの地区は大丈夫だと思いますけど。

「古さん!私も本選出場まで行きましたよ!」

やっと見つけたので声をかけて報告です。

「おお、さよも本戦出場アルか!あまり手応えのある相手見つからなかたよ」

「さっき話しが聞こえてきたんですけど全部一発で終わったらしいですね」

「その通りよ。少し寂しいアル」

そこへやってきました。

「やはり二人共本選出場したカ。あまり強い相手がいなかたから当然ではあるが」

「超!待てたアルよ。これで三人揃たな」

「本選の組み合わせが決まるまで時間がありますし、近くに四葉さんが超包子を構えてるので行きましょう」

「腹がへては戦はできないネ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超包子でお昼ごはんを食べている途中、鈴音さんによると私たちがいなかった地区にかなり強い大学生がいるという事がわかりました。
要注意です。

食べ終わって時間も丁度という所でいいんちょさん達が応援に来てくれました。
私はいいんちょさんに練習に付き合ってくれたお礼を言って本選も頑張りますと伝えました。

本選は予選と異なりベスト16までは、3分3ラウンドで2本先取した段階で勝利、それ以降は5分3ラウンドとなり少し余裕ができます。
これはあまり長引くことによる疲労を考慮しての事らしいです。

「超、さよ組み合わせが決またみたいアル!」

あ、本当です。
係員の人達が組み合わせを貼り出していますね。

「私は古とは三回勝ち上がればあたるナ。さよは東側のトーナメントだが例の大学生がいるようだから気をつけるネ」

「超、正々堂々決着を付けるアル!」

「全力を尽くすヨ!」

私は二人と当たるとするなら一番上まで上がらないといけませね。
頑張りましょう!
因みに例の大学生の名前は三谷さんというらしいです。

さあ、いよいよ本選の始まりです!

とはいったものの東トーナメントでの初戦もやはり大したことがなく、最初に突っ込んできたので軽く見切ってぽいっとして、次は様子を見ていたようですが隙をついて「雪中花」で見事に勝利です。
なんというか全体的に動きに速さが足りません。

順調に勝ち上がった鈴音さんと古さんですがとうとう約束通り向かい合う事になりました。
クラスの皆も引き続き見に来ています。

「クー、この時を待てたネ!私の全力を受けるヨ!」

「超!いつもより良い顔してるアル!楽しくなて来たアル!」

「試合始めッ!」

お、驚くほど鈴音さんが積極的です。
いつも武術では古さんが一歩上を行くところですが今日の鈴音さんの気迫は観客からも簡単に感じられる程です。

「超りん達の試合見たの始めてやけどすごいな~」

「ここ最近修行で良く見ていたが今の超殿は輝いているでござるな」

「楓さんもそう思いますか」

「これなら拙者も出てみたかったでござるよ」

凄いです、楓さんの目が開いていますよ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

後足の踏み込みから、掌底を繰り出し古の腹部を捉えたかと思たが、一瞬で後退するカ。
しかし、すかさず追い打ちを掛け回し蹴り!

「くぅッ」

避けきれず左腕でガードされたがダメージは通たネ。

ッ!右手が瞬時に足を掴もうとしてくるあたり反応が早いヨ!

「させないネ!」

足を戻しながら左で手刀を腕に向けて放つがこれは体勢が悪いナ。

「甘いアルッ」

動作を中断し咄嗟に身を屈めて足払いとくるカ。
しかしまだだヨ!
敢えて体勢を崩させバク転の要領で初期位置に戻るネ。

「隙有りアル!」

早いヨ!もう突きが来るのカ!
一度場外に出るッ

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

一度鈴音さんが場外に出るまでの一連の流れは一瞬でした。

「瞬きしていたら見逃してしまいますわね」

やっぱりいいんちょさんも非一般人です。
目で追えてる時点で十分凄いですよ。

反対側の方で既に鈴音さん達に負けた人達も見ていますが視線が追いついていません。

「いや~肉眼だとよくわからないけどビデオカメラ持ってきて良かったね。これは良い映像になるよ」

朝倉さんは流石に動体視力が追いついてないみたいですが、報道関係者として嬉しそうですね。

最初の三分間を制したのは判定勝ちで鈴音さんでした。

「私としてはクーには一本決めたかたヨ」

「今日の超はやはりいつもと違う。さきの蹴りは効いたネ。でも次は私の番アル!」

2ラウンド目に入ったら一転、古さんの猛攻が始まりました。
鈴音さんが反撃する隙が無く、あっても牽制程度という所ですがッ!

見事に古さんの掌底が入りこれで一本。
一対一となり次で決着です。
他でも試合が行われていますが、ここの空気だけが一層際立った緊張に包まれています。
気がついたら見ているだけなのに手に汗をかいていました。

「く…クーは本当に強いネ。一体故郷でどんな修行したのか気になるヨ。…しかし、まだ、まだ終わらぬヨ!」

ゆっくりと立ち上がりながら話す鈴音さん。
物凄い気迫に審判の先生も思わず後ずさりしています。
しっかり判定して下さい!
さっきの一撃はかなり効いているようです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

2ラウンド目の古の一撃は直撃だたから立ているのも辛いがまだ終われないネ。

様子見で既に軽く打ち合っているが埒が開かないヨ。

仕掛けるしか無いッ!
下段に右で蹴り、身体を捻って左回し蹴り、そのまま背を向けた体勢から当て身!

ハハ…クーの捌く技術は高いナ、蹴りも威力を殺され当て身も後一歩というところで身体を引かれたヨ。

一旦距離を取り直すカ。
しかし、やはり辛いナ。

「クー、次で決めるネ」

「私の一撃を受けてみるアル!」

恐らくこれで最後ダ。
練り上げた気と共に足を踏み抜き全身の力を

右腕に乗せて突くッ!

…古の奴、わざわざ寸勁を拳にぶつけて来たネ。

ガッ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

拳と拳がぶつかり合うという漫画のような展開が起きましたが、一瞬間を置いて鈴音さんが膝を着いて崩れ落ちました。
古さんの力が全身に伝わったようです。

「超、とても良い試合だたアル。今のは効いたネ」

崩れ落ちた鈴音さんを咄嗟に支えた古さんが言いました。

「……クー。……私は此処に居るヨ」

「超、当たり前アル。私達はずっと友達アル!」

「……そうカ。そうだナ。ありがとう、クー」

試合中の張り詰めた空気は一転し、二人共清々しい表情をしています。

「お疲れ様です!鈴音さん!古さん!とても想いの伝わる良い試合でしたっ!」

応援に来ていた皆も感動して一帯が拍手に包まれました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

今のがベスト8の戦いで行われていたらもっと盛り上がっていたかもしれません。
でもそんなのは二人にはどうでも良い事だったようですけどね。

私はベスト16まで上がって来たところなのですがとうとう例の三谷さんと当たる事になりました。
割と小柄ですがどうやら合気道を使うらしいです。

因みに私の合気柔術は正式には大東流合気柔術と言い、合気道との相違点は合気道の方がより大きな円の動きで技を掛けるという点にあります。
後は武道の思想が異なり、その影響で合気柔術にある危険な技が省かれている傾向にあります。
と言っても私も使えはしてもそういう技は使わないので、ある意味合気道の方が向いているんですけどね。

そうこうしている内に試合が始まります。

「よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしくお願いします」

「試合始めッ!」

三谷さんはとても落ち着いていてそれでいて自然体でありながら全く隙がありません。
困りました。

う~ん、いいんちょさんも見ていますし「雪中花」行きますッ!

「ハッ」

と思ったんですが、あれ!?

「ひゃあっ」

空中が見えます。

ドサッ

「一本!」

いたたた、気がついたら5m程投げ飛ばされてあっさり一本とられてしまいました。
なんですか、物凄く強いですよ、なかなか強いとか大嘘ですよ!

2ラウンド目はさっきの失敗を活かしてじりじり距離を縮めて様子を見ます。
はっきり言って近づいたら気づいた瞬間に投げ飛ばされているんですから近接技は自殺行為です。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「かえでサン、先程のあれは見えたカ」

「拙者も驚いたでござる。合気道は和の武道と申すがあれほどの達人なら下手に手を出せば一瞬で決まってしまうでござるな」

「私もあの方の噂を聞いたことはありましたが、あれ程とは思いませんでしたわ」

「相坂が苦戦しているようだな」

「龍宮サンも来たのカ」

「ここは私の実家だからな。しかしあの分だと三谷さんの方が実力、経験共に上だろうな。古の相手になるとしたら天敵になるだろう」

「確かに古の攻撃力は一般人としては麻帆良一と言ても過言ではないが受け流されてしまえば辛いネ」

「あ!三谷さんが動きましたわ!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「わぁっ!」

早すぎます。
地面を滑るように目の前に現れたかと思ったら少し肩をぶつけられただけで吹き飛んでしまいました。

起き上がろうとしたら続けて投げられます!
本当に一般人ですか!

「一本!勝負有り!」

……ああ、古さんと当たるという夢は儚くも潰えました。

「ありがとうございました」

「こちらこそ楽しい試合でした。ありがとうございます」

あまりにもにこやかな笑顔で挨拶を返されました。
負けたのですが、あまりにあっさりしすぎていて全く根に持てません。

はぁ……。

「さよ、お疲れ様だたネ。あの三谷サンは仙人みたいなものだネ。極地に到達していると言てもいいヨ」

「気にすることはないさ相坂、ここまで上がって来ただけでも凄いことだろう。トーナメントだとこういう事はよくある。恐らく彼が相手では今回は古も勝てないだろう」

「私もあの方を見てまだまだ精進が足りないと思い知らされましたわ」

「拙者もいいものが見れたでござるよ」

「皆さん、ありがとうございます。古さんの試合を応援しに行きましょう」

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結果として古さんは頂上まで上がって行きましたがやはり相手として立ちふさがったのは三谷さんでした。
「さよの代わりに私が倒すアル!」
と物凄い勢いで突撃したのですが
「おろ!?」
と一瞬にして投げられてしまいました。
2ラウンド目も体良く投げられてしまいましたが、今度は空中で体勢を立て直すという離れ業をやってのけ、そのまま一撃を加えることに成功しました。
古さん凄い!

が、その一撃はどうやらわざと受けたらしく、カウンターを放たれあえなく2連取されてしまいました。
相性が悪すぎますね。
所謂麻帆良の夜の警備で必要とされる技能とは正反対を行っています。
魔法、気有りの勝負であれば間違いなく倒せる筈ですが、こういう所が武術大会が武術大会である所以なのでしょう。

それでも古さんはウルティマホラ初出場にして2位という快挙です。

「三谷さんの詳細が分かりましたわ。今年で大学を卒業され麻帆良から出て就職されるそうですわ」

となると来年は古さんの優勝は固いかもしれませんね。

「皆、負けてしまたアルよ」

そういいながらも楽しそうな古さん。

「くーふぇ惜しかったねー!でも2位だよ2位凄いよ!」

鳴滝姉妹が大騒ぎです。

「古さん、2位おめでとうございます!」

「クー、おめでとうネ。来年は私と優勝を争うヨ!」

そのまま古さんの胴上げをして1-Aのテンションが上がりまくりの所、表彰式だから場所を開けて欲しいと係の人達に言われるまで、賑やかな空間が形成されていました。

こうしてこの後表彰式を迎え、1-Aのクラスに昨日に引き続きメダルが更に増えました。
その後古さんの知名度は一気に上がり、色々な武術系の部活やサークルからのスカウトが朝の日常に加わる事になったのです。
また、朝倉さんはインタビュー記事を担当することになり、撮影していた映像も相まってかなり気合の入った記事が掲載される事となりました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

無事にウルティマホラも終わったようだ。
別に狙ったわけではなかったのだが超鈴音の心境の変化には良い舞台となったようで良かった。

因みにサヨが一瞬でやられた、ウルティマホラで一位を取った麻帆良大4年の三谷祐介さんは、武田惣角の弟子でもある植芝盛平が開いた合気道の門下の中では史上2人目と呼ばれる程の達人だそうだ。
因みにウルティマホラ出場は今回が始めてであったそうな。
流石麻帆良、天才がいても仕方ないのはいつもの事らしい。

この後は変わらぬ日常に戻り彼女たちは中間試験に突入することになる。


ところで火星の様子だが、地下にある氷の塊の扱いが難航している。
以前楽観的に出した数ヶ月という期間では到底終わらないだろう。
火星の大きさと第二世代の大きさの関係も地球と神木・蟠桃と同じような釣り合いが取れてはいるが、いかんせん環境が過酷であるため時間がかかる。
超鈴音の重力技術も、身体強化系の側面が強く星全体に張り巡らせる術式となると、軽く新たな試みになりそうだ。
とにかく、まずは出来ることから潰していこう。



[21907] 8話 第一段階完了
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/23 18:37
中間テストも終り既に11月に入った。
相変わらず4位までは独占できているのに下に偏りが多すぎて1-A自体は相変わらず最下位のままである。
まあ、そんな事は当人達の問題である。

《超鈴音、聞こえますか。一ヶ月振りですかね。その後調子はどうですか》

《本当にたまにしか連絡してこないんだナ。翆坊主達が言てた言葉だが、私自身完全にとは言えないが納得できたヨ。以前よりも世界が色付いて見える》

《それは良かった、私としても嬉しいです》

《重力魔法の件だが、機械で発動させる訳ではないからなかなか進まないヨ。私自身も魔法を試して研究してみた方が早いだろうナ》

やはりこういう事になったか。

《そうですか…。まだ火星の方も準備万端という訳には行きませんから急を要するわけでもないので焦る必要はありません。でも呪紋回路の使用は認めませんよ。今度会ったら消したいぐらいなんですから》

《翆坊主、さよは除くとしても私には随分贔屓するネ。精霊にも恋愛感情があるのカ》

どちらかというとエヴァンジェリンお嬢さんに対してやったことの方が余程贔屓のような気がするが。

《どうでしょうかね。以前にも言いましたが私にとって超鈴音は5000年の願いそのものなんですよ。ある意味恋愛という概念の上を行っているかもしれません。贔屓して当然です》

《大胆な発言ネ。しかし悪い気はしないな、違う道を与えてくれた事には感謝しているヨ》

《そう言ってもらえるだけで私は精霊やって良かったですよ。その魔法ですが、直接我々の処置を受ければ使えるようになりますが、これは魔法先生達が突然超鈴音から魔力が感知できるようになったら面倒です。別の手段としてアーティファクト狙いでパクティオーする方法もあります。恐らくそれで解決できると思います》

アーティファクトは確実にチートな物になる。
間違いない。

《なるほど、確かに前者は厄介だネ。後者は契約執行を利用しての魔力供給という事カ。しかし半透明でも可能なのか翆坊主》

《魂があれば大丈夫という事らしいですから、大丈夫ですよ。そうなるとキスによる方法になりますが、身体も用意できるので血による契約も可能ですよ》

《ははは、あの茶々円という小さい奴カ。神多羅木先生の頭の上に乗っているのは本当に面白かたヨ》

面白いのか。
シュールなだけだと思うのだけれど。

《私が唯一真面目に使っている身体なのですがプライバシーが侵害されてますね》

《翆坊主だけには言われたくないヨ!》

《いや、仕事みたいなものですから諦めてください。それでどうしますか》

《そうだナ。恋愛感情などという枠を超えた深い感情だと言うのならばキスで構わないネ。その代わりこの前無視された映像を提供してもらうヨ》

身体用意するとなると契約する場所が恐ろしく面倒になるから良かった。

《承知しました。まあキスと言っても半透明なので一切感触はないのですがね。そうでした、サヨにも言われてた映像ですけどこちらとしては元々渡す気だったんですよ。ただ方法がクウネル殿と同じようにする訳にも行きませんからどうしたものかと》

《なんだかプレゼントする気あると言われると拍子抜けだネ。クウネルサンにはどう渡したんだ》

《彼のアーティファクトは他人の半生を記録するという代物でして見る事が出来るわけです。当然まずい映像に関しては選択除外してありますが》

《そういう事カ。サヨの計算能力で前から思てたがあの木は有機物の割には演算処理に優れ過ぎではないのカ》

《ええ、超鈴音にはこの際なので言いましょう。神木・蟠桃の中身は確かに有機物ですが、同時に恐らく世界最高の有機コンピューターでもあります。情報の保存容量もほぼ無限と言っても過言ではありません》

《やはり木では無かたカ。そんなに高性能の割に互換性が無いとは笑えるネ》

確かにパソコンに繋ぐことができないのは皮肉な話だ。

《なるほど、それは言い得て妙です》

《ふむ、ここはマッドサイエンティストの魂が疼くネ。翆坊主達が用意する身体ではなく、茶々丸のような電子機器にも接続できる身体ならば解決するのではないカ》

《それなら出来るかもしれませんね。ああ、でも葉加瀬さんにはどう説明するんですか。サヨは彼女にはまだ一応幽霊のような物という解釈がなされていて精霊だとは知らないと思うのですが》

《その辺りは幽霊のような物で通せばいいネ》

それでいいのか。

《実際その身体にさよが入てくれれば様々な研究が捗ること間違いないヨ!》

なんかテンション上がってて若干サヨの安否が気になる。

《確かにそうかもしれませんが、精霊を計算器に使うというのはなんとも言えませんね》

《多少の非人道的行為も科学のためなら少し目を瞑るネ》

…そういえばそういう人達だったな。

《正確には人ではないですけどね。でもさよの人権はしっかり確保して下さいよ。慣れたとは言ってもまだ復活してから1年も経ってませんし》

《わかてるヨ。無理強いはしないから安心するネ》

《私は超鈴音を信じていますからね。では都合の良い時にクウネル殿の所で仮契約しましょう》

司書殿にからかわれるとは思うが気にしたら負けだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

11月も半ば、茶々円として魔力封印を始めておよそ二ヶ月強。
そろそろ詠春殿の所に行こう。

《サヨ、少し遠出して来ますので大丈夫だとは思いますが、木に変な事が起きないか少しだけ気にかけて下さい》

《了解です。キノ、どこまで行くんですか》

《京都まで木乃香お嬢さんの父親に会いに行くんです。日帰りで戻って来ますから特に問題ありませんよ》

《え、なんかズルいですよ!お土産買ってきて下さい》

いや、半透明でどうしろと。

《物を持てない身体では無理ですし、お金もないですから諦めてください》

《そうでした!私大分身体がある事に慣れてきて混乱してました。あ、木は任せてください》

《はい、よろしくお願いしますね》

では、いざ出発。

いやー久しぶりにこの速度で飛行するが、ソニックブームが発生しないし本当に安全だ。
霊体とは素晴らしいものだね。
抑えているとは言っても、十数秒で到着するのだから、異常なスペックだ。

関西呪術協会総本山に到着と。
昔はこの辺りも何もなかった、と言っても数百年前の事だから当然か。

詠春殿は何処だろうか。
木乃葉さんの結婚式の時に遠くから見て顔は覚えてるし大丈夫だろう。
しかし、巫女さんが多いな。
いや、予想はできていたが権力の使い方に問題あるだろう。
赤き翼ってナギ少年にしろクウネル殿にしろそういう辺り常識というかなんというか。
不毛すぎる、他人の趣味にとやかく言う事はやめよう。

執務室を発見したが、ああ、いたいた。
仕事しているな。
なんだか処理している書面の内容に心あたりがあるが…ある意味好都合か。

《近衛詠春殿、初めまして木の精霊をやっているキノと申します。以後お見知りおきを》

この方法の自己紹介も久しいな、司書殿振りか。

「ん、空耳が聞こえたような…。おお!坊や誰だい。って幽霊か!?」

あー、仕事に熱中すると声が聞こえないタイプの人か。

《いやいやいや、もう一度名乗りますが、私は木の精霊をやっているキノと申します。半透明なのはそのためで幽霊ではありません。近衛門殿から翆色がどうとか聞いたことありませんか。因みに詠春殿のお嬢さんは元気ですよ》

「…これは失礼しました。麻帆良の神木の精霊でしたか。それに木乃香も元気なのですか、ありがとうございます」

突然改まられたな。

《お仕事中ですが失礼します。それと既に結界を張らせて頂いていますのでここの話はむやみに口外しないということでお願いします》

「分かりました。それでどのようなご要件ですか」

《今処理してらっしゃる書類ですが、根本的な原因は私です》

「そ…それはどういうことですか」

《呪術協会も一枚岩では無く、勝手に過激な行動を取る一派がいます。度々彼等は麻帆良にちょっかいを出すので、私が絶対に解けない魔力封印を施した訳です》

「話では翠色の幼児によくわからないうちに封印をされて一切魔力を用いる術が使えなくなったと聞いていたのですが、ああ、そういう事ですか」

陰陽術は簡単ものなら気で発動する事が可能であるため、完全に術を封じるというのは不可能であり、これが彼らのメリットでもあるが、少なくとも鬼の召喚には必ず魔力が使われる。

《しっかり説明しますと、ある事情から東と西で争うのをやめていただきたいので、おいたをする術師の魔力封印をして麻帆良の負担を減らしつつも、この封印処理を解く事を条件に夜中麻帆良に侵入するのをやめて欲しいと交渉に来たのです》

「……しかしそれは私が長であっても難しいことです」

《もう一つ譲歩する計画がありまして、この際呪術協会の支部を麻帆良内に建ててしまえば良いというものです》

「そんな事が可能なのですか。いくら東の長といえど本国がそれを認めるでしょうか」

《そう言われればそうですが、私は近衛門殿を信じています。本国が認めないとしてもなんとかねじ込んでしまいたいですね。木乃香お嬢さんを中心に一悶着起きるのを防ぐなら早い方がいいですし》

「それは、木乃香が危険な目に会うという事ですか!」

流石娘の為ならという気迫だ。

《麻帆良にいる限りは安全でしょう。夜の侵入者は多いですが。動機としてはやはり関西呪術協会の長の姫でありながら西洋魔術の本拠地に何故送るのかというなんとも視界の狭いものが一番ありえます。だったら麻帆良に支部建てれば文句無いでしょうという事なのです》

「確かに、その件ではかなり揉めましたからね」

《揉めたということは解決していないという事ですから、災の種は生えないようにするべきです。後一つ、これは絶対に口外しないで欲しいのですが、後11年程でこのまま行くと魔法世界は崩壊し消滅します。精霊としてはこれを防ぐ用意を行っているのでその結果として、今のこの程度の低い争いを終わらせる事に尽力して欲しいのです。目下としては近いうちに近衛門殿から来る交渉への下準備をお願いしたいのです》

「魔法世界が消滅する等と全くそのような情報は入っていませんが」

《本国の一部の人間と詠春殿が戦った完全なる世界の残党しか知りませんからね》

「そうですか……。東の長が動くのであれば西の長である私が動かない訳には行きませんね。分かりました、やってみましょう」

《ご協力感謝します。あまり詳細な事は言えませんがいずれわかると思います。大人の役目とは次世代の者達の生きる世界を一時的に預かる事なのですから、自信を持って引き継がせられるような物にしたいですね》

「全く、その通りですね」

《因みにその報告に上がっている翠色の幼児は近衛門殿の作品という事になっていますのでうっかり精霊だなんて言わないでくださいね》

「精霊というのは意外と詐欺みたいな事もするんですね。しかし安心して下さい、漏らしたりはしません」

《詐欺みたいな事をしなくて済むなら、なんて良いのだろうと思います。さて、そろそろ失礼します。では》

まあ大体近衛門に話したことと変わらないが、近衛門が電話等をするよりも安全かつ確実に伝えられるので安心だ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

さて、二週間ほどまた過ぎている訳だがサヨ、超鈴音、葉加瀬の最近の行動といえば例の新しい身体!を目下作成中である。

《超鈴音、例の身体はできましたか》

《翆坊主カ。あと少しという所ネ。茶々丸のケースがあるお陰でかなり楽にできるヨ。ああ、仮契約だが今日学校が終わたらで構わないネ。ついでに重力魔法の研究も進めるとしよう》

《映像が本当に電子データになるのは楽しみですね。是非それで資金調達するといいと思いますよ。麻帆良創設100年の歴史であるとか、大自然の四季なんかは割とごまかしさえすれば売っても問題ないと思います。後は、まほら武道会の全ての内容であるとか、火星へ飛ばした際の宇宙の神秘なんかは個人的に楽しんでください》

《やはり随分隠し持ていたようだネ。しかも売ていいのカ》

《世界征服にはお金がどうしても付き物でしょう。精霊には必要ありませんし、協力して貰っているお礼という事です。ただ、マズイ映像は葉加瀬さんには見せないで下さいよ》

《わかてるヨ。それでは後でまた会おう》

実際の所既に超鈴音の財力は相当な物になっている。
量子力学を始めとする特許は勿論、超包子の営業収入、株式投資等による資産運用も行っているからだ。
その分研究費用等も莫大な金額がかかっていることがしばしばではあるが。
後は裏の関係とも一部繋がりのある雪広グループと手を組めれば地球側の金銭で解決できることはほぼカバーできるようになるだろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「クウネルサン、久しぶりだネ」

《今日は少しこの場所を借りさせてもらいますよ》

「ええ、どうぞ私も重力魔法の件は発想は色々と出てくるのですが、なかなかこれと言ったものが得られませんでしたからね。何をするのか知りませんが気分転換がてら見物させて貰いますよ」

《超鈴音、仮契約の前にその痛々しい呪紋回路を削除してもいいですか。それは確かにあなた達の覚悟の現れでもありますが、私はその全身に刻まれているというのが嫌いなんです。その対象が超鈴音であれば、尚更です》

「翆坊主、これは確かに辛い物だが忘れる訳にもいかぬのだヨ。……少なくとも今はまだ消さないで置きたい」

まあ素直に消して良いと言うとは思っていなかったが。
それでも、いつかは消させて欲しいところだ。

《……分かりました。多分そう言うのではないかと思ってはいましたが、それでは仮契約をしましょう。クウネル殿、そういう訳で仮契約の魔法陣お願いできますか。恐らく知っているのでしょう》

「実にまたはっきり来ましたね。ええ、私は赤き翼やそれ以前にも仮契約をしたことがありますからね。用意しましょう。しかし超さん、精霊と仮契約とは豪華ですね」

「私自身には魔力容量が存在しないからネ。重力魔法の研究に私も実際に実験をしたほうが糸口が見つけられるだろう」

「それで呪紋回路がどうとかという話だったのですね。超さんが魔法を使えれば研究も捗るでしょうね。……さて、書けましたよ」

《それでは超鈴音を従者とする仮契約を行ないます。良いアーティファクトが出ることを祈りましょう》

「できるだけ使い勝手の良いものがいいネ」

精霊体の状態で口付けを行った訳だが、やはり感触は一切ないものの繋がりができたのは確認できた。

《完了しましたね。カード自体はどうで……す……か……?》

「フフ、超さん、カード自体色々面白そうですね」

司書の顔が楽しそうだ。
カードの色調だが翆色を基調とした虹色だ。
自己主張が激しすぎる。
あの宇宙船並だ。

《派手な色ですね全く》

「称号は時をかける征服者……カ。皮肉なものだナ」

《なんだかカードからアーティファクトも随分なものが出るのが予想できるのですが出してみてはどうですか》

予想しなくてもかなりズルいものが出る筈だ。

「わかたネ。アデアット!」

アイテムが出なかった。
しかし身につけている服が変化したりという事も一切無かった。
問題なのは目だろう。
虹彩が明らかに不規則なパターンで輝いている。

「超さん特にアイテムを得た訳ではないようですが、どのようなバグのある効果でしたか。どう見てもおかしな現象が起きていますね」

バグ前提で話を進められたが実際間違いではない。
もう、見てわかる。

「これは……翆坊主、他の人間とは無闇に仮契約しない方がいいヨ」

ああ、相当チートだな。

《ご忠告感謝しますよ》

「アーティファクトの名前は『世界樹の加護』。形のある物ではなく概念そのものというところカ。効果は複数あるネ。時間無制限の契約執行が従者側から任意に発動可能。精神力の強化。演算能力の強化。視野の拡張。思考の加速。とこんな感じだヨ」

魔分出力が異常すぎる。
調節はできるのだろうが粒子状のフィールドが形成されている。

《前半部分聞く限り要するに電池ですね》

「キノ殿、自分で言って悲しくないのですか」

電池をバカにしてはいけない。
非常に重要な役目を果たしているのだから。

《まあ、実際それを狙っていましたからね。人と直接争うのを善しとしない精霊としては丁度いいかもしれません。しかし、殆ど精霊の能力と同じものが、劣化バージョンと言えど付与されるというのも手抜きな感がありますが》

「翆坊主、時間無制限の契約執行と精神力の強化というのはいくらなんでも魔法使いに喧嘩を売りすぎだヨ」

それが電池の仕事です。

「視野拡張も単体で、千里眼として存在してもおかしくない筈だが、特典の一部に含まれているだけの扱いというのはズルいネ。精霊はいつもこういう世界を見ているのカ」

実際視野拡張を行うということは情報量が増えるわけで結果として演算能力の強化も必須、疲れないように精神力も強化もあった方がいい、既に超鈴音が会得している思考の加速は周囲の状態を瞬時に判断するためにというところだろう。
まあこれがデフォルトで備わっている木の精霊も精霊だが。

《それは観測している時です。霊体の時は一般的な視野に視野範囲外の動きが感知できる程度に抑えていますよ。しかしアデアットする前に結界張っておいてよかったですよ。なかったら周りにバレバレですからね》

「これほど純粋な魔力の元のような物を感じたのは初めてですよ。大は小を兼ねると言いますし特典が多くて良かったですね」

「……そう言われるとそうだナ。どういう効果か分かたから戻すネ、アベアット。しかし、魔法を使うのに結界が必要となるとダイオラマ魔法球を用意しないと不便だヨ」

「キティは持っていますがね。まほネットでも相当高いですが売っていたと思いますよ」

《それでも超鈴音の財力なら余裕でしょう》

「ふむ、ここに来る時以外の為に用意する事にするヨ」

《時間設定は現実の時間と同じにして下さいね。タカミチ少年と同じような結果になるのは勧められませんし》

「直接見てはいませんが、タカミチ君はまほネットで写真を見る限り随分老けましたからね」

《その代償に強くなったのも事実ですが。とにかく、超鈴音の性格から言って便利だという理由で葉加瀬さんと一緒に篭もりそうなので先に釘をさしておきます》

「私も年を重ねすぎるのは勘弁だヨ。高畑先生が年齢の割に老けているのを実際に見ているからナ」

《さて、まだまだ今日は時間ありますし重力魔法の研究をお願いします。結界貼りますからアーティファクト使って良いですよ、出力の調整もしないと眩しくて見てられないですし》

「初の実験といこうカ」

こうして準精霊化するアーティファクトを手に入れた超鈴音は人外の域に更に近づいたのだった。
呪紋回路を使わず肉体的痛み無しで発動できる魔法に年相応の少女らしく少し楽しそうだったのは印象的である。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

皆さん、最近私は実験動物に近いです!
葉加瀬さんと鈴音さんの目が何かおかしいです。
特に葉加瀬さんの眼鏡が怪しげに光過ぎです。
しかもとうとう昨日「新しい身体!」というのが完成してしまい、早速パソコンを指先にある端子と接続しています。

「ハカセ、まず円周率の計算からやってみるカ」

「はい!相坂さんがどれぐらいの速度で計算できるのか気になっていたんですよ!茶々丸より早いと期待しています!」

えー、計算器扱いですかー。

「さよ、本気で頼むネ!」

そんなに期待した目で見ないでください。

「わ、分かりました。頑張ります。計算開始です」

まあ私はこれやっても全く疲れないので構わないといえば構わないですけど何か違う気がします。

「す、凄いですよこれは!こちらのパソコンの性能と計算に使用するプログラムから考えても驚異的速度です!」

葉加瀬さん、こっちの世界に戻ってくださーい。

「まさか数秒で桁が兆に届くとは思わなかたヨ。幽霊のような何かというのは凄いネ、さよ」

鈴音さん、幽霊のような何かって全然分かりませんよ。

「超さん、これなら私オカルトも信じられる気がしてきました!」

葉加瀬さんは落ち着いてください。
何気に誤魔化されている事に気づいてください!

「これだけ異常だと記録の更新の申請はやめておいた方がいいナ」

あえて性能が高くはないプログラムで計算したらしいのですがこの様です。
これから計算器としての生活がより増えそうです。

「私はこれから毎日計算することになるんですか」

死活問題です。

「無理強いはしないから安心するネ。しかし、とりあえず今日は記念に色々データを収集してみたいからお願いするヨ」

……どこまで尊重されるかやや怪しいですが信じることにしましょう。
これもキノが何かを鈴音さんに吹き込んだのが原因のようなのですが、どうやら映像を渡す為の方法という事らしく、それなら仕方ないかなという感じです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

仮契約から一週間程して超鈴音から手に入れたカードを通じて連絡があったが、念話は傍受される可能性があるのですぐに粒子通信に切り替えた。

《超鈴音、新しい身体!というのが完成したそうですが、映像のためにわざわざ三次元映像技術まで用意したのはやりすぎではないですか》

《翆坊主、精霊とやらの視野拡張を体感した私からすればこの用意は当然ネ!》

楽しそうなのは何よりだ。

《それで、ああ、今は寮の部屋にその身体を持ち込んであるから葉加瀬さんがいないうちにという事ですか》

《その通り、ハカセはこの数日で得られた計算結果で大学に泊まりこみ中だからネ。今のうちに渡してもらうヨ》

《分かりました。ただ次からはアデアットした状態でなら粒子通信できる筈ですからカードを使った念話は控えてくださいね。契約執行もオフでお願いします》

《アレはそんな事もできるのカ。翆坊主一旦接続を中断して、こちらから実験してみるネ》

あの粒子フィールドからすればできない筈がないと思う。

…………。

《……翆坊主、聞こえているカ》

まあ予想通りだ。

《おめでとうございます。これで晴れて双方向通信ができるようになりましたね。サヨとも離れていてもいつでも話掛けられますよ》

《これは本当に便利だナ》

《直接的な武器アーティファクトよりは日常生活向けですからね。それではしばらくお待ちください。私は龍宮神社のお嬢さんに見つかると面倒ですので》

《ああ、魔眼だたカ》

龍宮神社のお嬢さんの位置を観測。

餡蜜食べてるから大丈夫だろう。
さて、出発。
寮に来るのは二度目だが無駄に大きい建物だ。

《超鈴音、着きましたよ》

「見た目はさよに似ているが早速入るネ」

そう、この新しい身体!というのはサヨの見た目に耳のアンテナがついているという物である。

「なんというかいつもとは少し異なる感じですが、悪くはないですね。では接続しましょう。ところでそちらに大量に用意してあるハードディスクは何ですか」

「念の為ネ。5000年分も保存できるか分からないが沢山用意したヨ。ついでに三次元映像が表示されるように接続するネ」

どんだけ見たかったんだこの火星人は。
確かに加速させてみると面白い映像とか、感動の生命の神秘とかあるから期待は裏切らないだろうが。

「では最初に公開できない映像から行きますよ」

華の誕生と、打ち上げから火星への旅、まほら武道会史、麻帆良地下施設ガイド、リョウメンスクナの生態から順に、容量が割とすぐに限界を向かえるので取り替えながら続けて麻帆良創設史、大自然編と……。
あれ、ちょっと渡しすぎたかもしれない。
まあ大自然編は多すぎて全部入りきらなかったが。

「……翆坊主、まさに生ける化石だナ」

「超鈴音、調子に乗りすぎて渡しすぎました。情報管理はしっかりお願いしますよ」

「…………」

見入っていて全く聞こえていないようだ。
華の誕生は気に入ったらしい。
まあその感動は分かるが。

「超鈴音!聞いていますか!」

「……!翆坊主、何か言たカ」

「調子に乗りすぎて渡し過ぎましたので、情報管理は確実にお願いします」

「安心しろ。この超鈴音に任せるネ」

暗に見ているところ邪魔するなという短い反応をされた。
まあその辺りは天才を信じるとしよう。

そうだサヨに連絡するか。
身体がベットに放置されているから浮ついているのだろうが。

《サヨ、超鈴音に映像を渡しましたが、自分で渡したかったですか》

お礼をしたいという事は言っていたからあり得る。

《えー!渡しちゃったんですか!私が見せたかったのに!》

《ええ、楽しみを取り上げたようですいません。で今何処に、ってまた映画館ですか、相変わらず好きですね。今超鈴音が映像を鑑賞している所ですので、一緒にいかがですか。火星のテラフォーミングについての映像は完成したらサヨが今度渡して構いませんから》

《むー、分かりました。今からすぐ戻ります。って私の新しい身体!使ってるんですか!》

何か言ってるが気にしないことにしよう。

「サヨもなんとなく呼んでおいたのでしばらく鑑賞するとしましょう」

この後サヨは自分のいつもの身体に戻って鑑賞することになり、似たような容姿が二人揃う事になった。
この日は葉加瀬が帰ってくることは無く夜遅くまで、延々と見ていたのだった。
超鈴音が満足そうだったのは良かったと思う。

「翆坊主、是非昔のようなまほら武道会をもう一度開いてみたいネ。当時10歳のご先祖様の映像は圧巻の一言だヨ」

やはりそこに興味を持ったか。
浮遊術、虚空瞬動使えて当たり前の10歳というのは……後に起きることになるだろうが、やはり異常だ。

「私も直に見てみたいです。って誰が鈴音さんのご先祖様なんですか」

「さっきの赤毛の少年、ナギ・スプリングフィールドですよ。因みにこれは絶対に口外しないように。制限かけときますからね。大会を開くだけであれば、財力と技術力で外部に情報を漏らさないようにできるでしょう」

「あの男の子ですか!……でも髪の毛の色が違いますね」

いや、そりゃそういう事もあるだろうよ。

「ふむ、実現に向けて準備してもいいナ。私も航時機を使えばアレぐらいの動きはできると思うネ」

「いや、短時間であってもあれは身体に反動が蓄積されるのでやめて下さい。アーティファクトで慣れれば実現できますよ」

「キノ、アーティファクトというと鈴音さん誰かと仮契約したんですか!」

ああ、まだ一週間だったから言ってなかったか。

「私達、正確には神木と仮契約です。実際に行なったのは私ですが」

「その通りネ。このアーティファクトでさよとも安全に通信できるようになたヨ」

「キノ、また私に内緒でそういう事したんですか……。通信というと粒子のアレですか、それは便利ですね。それにしても……なんだか私も少しそういうアイテム欲しいです」

精霊は精霊の時点でアーティファクトの塊のようなものだが。

「サヨ、私達が積極的に戦うというのはあまり良い事ではありませんし、私達自身アーティファクトのようなものですから隣の芝生のような物ですよ」

「そうですね。こういう時は気にしないのが良いんですよね」

大分思考が伝授されているが精霊としてのおおらかな心という奴だ。

「ダイオラマ魔法球が手元に来たら私も研究の合間に訓練してみるかナ」

「どう他人に『世界樹の加護』の説明をするかが面倒ですが訓練自体は良いことだと思いますよ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

そして季節はいよいよ寒さが本格的になる冬に入った。
学生達は期末テストも無事かどうかは人それぞれだが終り、今は冬休みという状況である。
この間超鈴音はダイオラマ魔法球を入手し寮の部屋から出たり入ったりを繰り返しながらも重力魔法の研究と忍ばない忍者達が好きそうな修行を行っている。
他にも資金面で例の映像の加工なども行ないどうするか画策している。
近衛門は本国と麻帆良内に呪術協会の支部を建てる事の交渉を本格的に行い始め、詠春とも秘密裏に連絡を取り合っているようだ。
茶々円としての立場でも相変わらず順調に面倒な術師を片っ端から封印するという作業を続けているが少しずつ侵入者が物理攻撃重視型の奴らに変わりつつあるため狙い通りといえば狙い通りだが厄介である。
サヨは相変わらずの生活パターンを繰り返しているが、学生のアルバイト収入としてはかなりの額を、寒さも本格化して人気も絶好調の超包子で稼いでいる。
これには超鈴音が色を付けた事が起因しているようだが、計算器としての労働等を考えてみても等価交換ということで納得しておくべきだろう。

一方、最近の精霊の仕事といえば相変わらず観測を行いつつ、火星のテラフォーミングを徐々に進行させている。
大きな成果としては、過酷な環境にありながらも木のフル稼働により大気組成に占める酸素の割合が3%を超えたことだろう。
また、クウネルと超鈴音の考えたこれはと思えるような重力魔法の術式を試しに火星の一部での実験も行っているが、そろそろ確実な成果が出そうではある。
そろそろ第二世代の神木に名前を付けても良いと思うが第二世代という言い方はこれはこれで良いような気もする。
何か良い呼び名を付けたいところだ。

さて、ここで難航している地下の氷の問題を例に見てみよう。
魔分でゴリ押す事で溶かす事はできるのだが、火星の平均表面温度は-63度、平均気温は-43度と極寒である。
平均どころか北極に近い所に定着した第二世代は本当に凄い。
神木付近は以前サヨが驚いていたように、常に魔分保護により地中活性などが行われているが、その影響外になった途端、溶かしてもすぐに凍ってしまうのである。
これを根本的に解決するためにはやはり火星自体の重力を強化することによって、大気圧の大幅な上昇とスケールハイトと呼ばれる大気の厚さ自体を現在の11kmから半分近くに持っていく必要がある。
また、他の大きな問題として火星の磁気圏というものは微弱であるため太陽風を防ぐのが困難である。
そのため、これは先の薄い大気とも関連して、火星地表に到達する電離放射線の増加を引き起こし、生物が健康に生きていくという点で障害となる。
その有害さは地球と火星の軌道上での値を比較しても2.5倍を越える。
解決策としては磁気圏自体の強化があり、星の核に存在する金属物質の量を増やすことが単純な策ではあるが、これはいくら赤い地表の原因である鉄分があるとは言っても地道に地下に送る事は現実的ではない。
違うアプローチの方法として火星地下奥深くの冷えてしまっているマントル層を強制的に活性化させマントル対流が安定するまで持っていくという方法があり、これは可能性があるだろう。

いずれにせよ、まずは重力である程度解決ができる。
また対策はあるにしても、保険として役に立つ物として華が期待できる。
あれは有機結晶型の宇宙船、同時に魔分結晶体でもあるが、実際に人類が乗っても宇宙空間内で健康上問題なく過ごせるという驚きの性能である。
亜空間が内部にあるので必要な機能かどうかはこの際置いておこう。
つまり宇宙放射線対策は万全であるため、改めて魔分有機結晶と呼ぶが、これと同等とは言えなくとも近いものを精製し粒子状にして軌道上にばら撒くという方法が放射線緩和に役立つ筈だ。
これの情報自体は木から創られたものなので既に手元にあり、最初の面倒な取り組みを省略できる点はかなり楽である。
そのため超鈴音には重力問題が終わったら次にこの奇跡の物質の研究を行ってもらいたいと思う。
それにしても新年を迎え14歳になる火星出身の少女は本当に大忙しだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

そんなある日であったが新年を迎えた瞬間超鈴音の叫び声が粒子通信で入って本当に驚いた。
恐らくサヨも驚いていることだろう。

《これで重力の問題は解決したも同然ネ!根本的に重力という所から少し離れて発想の転換が必要だたとは素晴らしいブレイクスルーを達成できたヨ!》

なんと大晦日にも関わらずダイオラマ魔法球の中で過ごしていたらしい。
恐るべし超鈴音の集中力。
年末年始というイベントは一切無視であった。

《鈴音さん!とうとう完成したんですか!今もう年明けてしまったんですけど蕎麦食べていたんですが一度出てきて葉加瀬さんと一緒に食べませんか》

サヨは復活して初めての年越ということもあり蕎麦を食べていたようだ。

《超鈴音、どうやら重力の件解決したようですね。本当にありがとうございます。今日は休んではいかがですか》

《サヨ、翆坊主か、思わず粒子を加速させてしまたネ。そうだナ、積もる話は後にしよう》

しばらく待つとしよう。

「相坂さん突然びっくりしてどうしたんですか。蕎麦が喉に詰まったりしたんですか」

「葉加瀬さん、大丈夫ですよ。もうすぐ鈴音さんが出てきますから一緒に食べましょう」

「超さんやっと出てくるんですね。今日も出てこないかと思いましたよ。それにしても魔法は私にとってはオカルトのようなものではありますが、あの魔法球という技術は一度入ってみましたが凄いですね」

そこへ丁度良く鈴音さんが出てきました。

「いや~いい成果が出たネ。さよ、ハカセ、あけましておめでとう。私も蕎麦を食べさせてもらうとするヨ」

「あけましておめでとうございます超さん」

「あけましておめでとうございます鈴音さん。蕎麦はもうありますからどうぞ」

「これは美味しいネ。日本の伝統とは良いものだナ」

この後私達は蕎麦を食べた後龍宮神社に初詣に行きました。

「二人は何をお願いしましたか」

「私はロボットの進歩で心おどるような成果が出るようにですかね」

いつも通りの葉加瀬さんらしいです。

「野望の成就と世界平和を願たネ」

とても壮大です。

「あ!超さん達も初詣来てたんだねー!」

とクラスの皆さんも後からやってきました。
いつも寮の食堂や大浴場で会いますからさっき会ったばかりという感じではあるんですがね。
今日は寮の門限が午前2時までという事なので皆と少し話をした後一緒に寮に戻りました。

明けて次の朝、寮の食堂ではおせち料理が出て感動して、その後皆で改めておみくじを引いたり、お守りを買ったり絵馬を書いたりとやることはやりました。
なんといっても私には60年ぶりのお正月ですから。
引いたおみくじの結果は小吉というなんとも言えない感じでしたが、体調に気をつけるべし、なんて言われてもこの身体はハイスペックなのでそんな事関係ありませんよ!
お守りは巫女さんをやっている龍宮さんに勧められてなんだか色々買わされた気がします。
早乙女さんの絵馬を書く速度が物凄く早い上に一緒に書いていた絵も上手かったです。
いいんちょさんや近衛さん達の着物姿はとても様になっていました。

そして午後、葉加瀬さんは新年早々大学の研究室に行ってしまい、私達は鈴音さんからの報告を受けることになりました。

《では重力の件の報告を始めよう。以前に翆坊主が考えた星の質量を擬似的に上げるというものだたが、これは維持のために魔分の無駄遣いでしかなかたから却下だたネ》

《そもそも無い質量を増やすというのは人間の一般的な生活規模であればなんとかなりますが惑星規模になると困難でしたね》

《加えてクウネルサンと共に研究した重力魔法を地表に張り巡らさせるというものだたが、術式に範囲指定が必要で大気の層を引き寄せるほどの出力は得られなかたナ。しかしこれは組み合わせには使えるヨ》

《何度も図書館島に篭った甲斐があるならば嬉しいですね》

《今回私が考えた方法はズバリ変身魔法ネ》

《鈴音さん突然違う魔法ですね》

《変身魔法という言い方は語弊があるが別に実際に見た目が変わるわけではないヨ。正しくは惑星そのものにあたかも大きさが変わるかのような術式をかけて、惑星自体に錯覚させるものだ。人間には見てもわからない、星の自己催眠とでも言えばわかるカ。先の質量操作の方は無いものをあるようにするのは魔分の無駄遣いがあたが、逆に星の大きさを擬似的に小さくする方法ならば魔分効率も良く、火星の半径が短くなる偽装の結果、重力加速度を増加させられるヨ》

《その術式もなんとも随分無理がありそうですがよく開発できましたね。進化ができる人間は、時間がある意味止まっている我々精霊に比べて発想力という点で遥かに上を行きますね》

《お褒めに預かり光栄だナ。続けるが計算の結果火星の半径約3397.2kmを約2084kmになるような術式で解決するネ。因みに、この術式は弄られたら終りという危険性があるだろうから強力なプロテクトをつけておいたヨ。アーティファクトの効果で得られた演算速度を参考にして断続的に変化する乱数を鍵にした。これなら神木レベルのスペックが無い限りは誰にも介入不可能だろう。後は組み合わせる重力魔法だがこれはそのまま外側に向けて保険として発動するタイプのものにしたヨ。二つある月の軌道万が一にもズレてこないとも限らないからネ。実際試さないとわからないが、少なくとも公転軌道に大きな変化はないだろうからその点は安心だネ》

《月が落ちてきたら大変ですよね》

《しかし5000年間超鈴音を待って本当に良かったですよ。気になるのは魔分使用量ですが、地球の大きさを蟠桃一本で支えられていますから恐らく大丈夫だと思います》

《これで未来の故郷の悲劇が回避できるならば私としても努力した甲斐があたネ》

しかし、まだ終りではないんだ。

《超鈴音重力の件だけでも感謝していますが、これでまだ一段階目です。二段階目はわかりますか》

《この超鈴音が気づいていないと思うカ。実際に住んでいたのだからネ。宇宙放射線の事だろうが、木のおかしな力で地中活性ができるのではないのカ》

《という事は未来ではその方法が確立していたのですか。私達の得て居る情報では結局耐えきれずに滅びに向かったということしか知らないので》

《故郷ではマントル対流を直接活性化させるための大規模な装置を地下に向けて放ち、強力なエネルギーをぶつけてある程度地磁気を強化する事ができたヨ。ただその装置は生き残りをかけて資源、時間的にもギリギリだたから複数作ることが不可能でネ。徐々に効果が失われていたヨ。勿論この装置もある程度の改善だたから足りない分は専用の服で防護していたネ。そういう事情を含めて私がここにいる訳だナ》

地下マントルを直接活性化させるとは核か何かを使ったのだろうか。
流石人間の発想力と実現する力は凄い。

《なるほど、そうだったのですか。確かに神木で地中活性は可能ですがやはり万全とはいかないと思います。そのため火星の軌道上に、神木で創られた宇宙船の素材である魔分有機結晶を粒子状にして散布できないかと考えているのですが、あの物質ならほぼ完璧な対宇宙放射線性能を誇ると思うので保険としては申し分ないと思います》

《翆坊主、それならこの私に任せるヨ!その物質に興味があるネ》

《そういえば宇宙船に興味をお持ちでしたね。魔力的有機結晶の情報に関しては既にありますからサヨに新しい身体!に入ってもらって受け取って下さい。恐らく超鈴音の技術なら解決できると期待していますよ》

《研究対象が次から次へと飽きることが無くて良いネ。しかしその物質を精製するのは良いがどうやて火星に送るんだ翆坊主》

元々精霊体ならば転送できる事だしゲートの理論を参考にして神木同士を完全に繋げてしまうのがいいだろう。
正直いちいち華の亜空間に保存して運搬なんてやっていられない。
ついでに超鈴音のダイオラマ魔法球との間にもパスを繋いでおけば夜な夜な神木に魔法球を運んで物の受け渡し的な事もしなくて済むだろう。

《そのあたりはゲートを参考にして神木同士を繋ぐことにします。準備ができたら超鈴音のダイオラマ魔法球ともリンクさせて貰いますね》

《そのあたりは本当にズルいとしか言いようがないネ。しかし地球と魔法世界を人間が繋ぐ事ができるのだから当然カ。そうと分かれば確実に仕事は完遂してみせるヨ》

《これだけ積極的に協力してもらえるとまたお礼がしたいですね。以前宇宙船の所有権に関して話半分でしたが、色々終わったら超鈴音に譲渡する事を約束しますよ》

《鈴音さんの私有宇宙船ですか!旅行する時は私も乗せて下さいね》

サヨも賛成のようだ。
まあ精霊の我々は精霊体だったら、やろうと思えばワープできるから所有権を他人に渡すぐらいなら超鈴音に渡したほうが余程良い。

《今の発言はしかと耳に入れたヨ。故郷では安全に宇宙に出られる高速船までは流石になかたから楽しみにしてるネ》

未来でも魔法が残っていれば十分安全に宇宙に出て行く事はできたのではないかと思うが、言っても始まらないか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△


あの後、年末年始は流石に開いていない図書館島に行き司書殿に超鈴音の解決策ができたことを伝え、手伝ってくれたことを感謝した。
超鈴音が次に来たときにネコミミをつけてもらうとか訳の分からない事を言っていたがなんとも言えないので考えるのをやめよう。

完成したとあって早速大規模術式を火星で実行した。
およそ1日で重力、大気圧、スケールハイトは理想の状態に安定した。
月の軌道は観測しながらもし問題があれば微調整を行う予定だ。
これに伴い火星の平均気温、地表温度も徐々に上昇するだろう。
それからなら氷を溶かしてもなんとかなる。
ただ火星は地球に比べると太陽光が半分程度しか届かないので数日で完了などと勢い良く変化が起きるわけではないだろう。
また、地下のマントルの活性も全力で行っているが効果が出始めるのはまだ先だろう。
今後の魔分有機結晶の粒子精製に関しては麻帆良最強頭脳の超鈴音の技術力、財力をフルに結集させた実力が発揮されることだろう。



[21907] 9話 交渉人超鈴音
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/23 18:37
火星の重力の問題が解決したと思えば次は宇宙放射線対策だというのだから忙しいネ。
今日は正月が終わて図書館島に入れるようになてからクウネルサンの所にお礼を言いに来たところだ。
行きがけに五月の作たばかりの超包子の肉まんをお土産に持て来たヨ。

翆坊主の映像資料で図書館島の地下もくまなくわかたが魔法的処理がされていなければ崩落しておかしくない所だ。

この道程も慣れたものだがやはり面倒だナ。

「クウネルサン、翆坊主から聞いてると思うが火星の重力は片が付いたヨ!」

空中庭園のテーブルで紅茶を飲んでいるようだネ。

「おや、超さん待っていましたよ。精霊殿に聞きましたが流石麻帆良最強頭脳というところでしょうかね」

爽やかに挨拶をしてくるのはいいが何故ネコミミを持ているネ。

「クウネルサンの重力魔法も私にとてはいい勉強になたからお礼に来たヨ」

「それはそれは、では是非このネコミミを付けて貰えませんか」

…………。

初めて会た時も同じようなことを言ていた気がするが冗談では無かたのカ。
なんだか赤き翼のイメージが崩れるネ。

「ふむ、ネコミミ付けても構わないヨ。その代わりお礼として持て来た肉まん一つ1000円で買うネ。しめて6000円ネ」

私のネコミミ姿は安くないヨ。
定価の数倍の値段で手を打つネ。

「わざわざ貴重な肉まんをありがとうございます。私はここにいるものですからあまりお金の使い道もないので喜んで買わせて頂きますよ」

…特にダメージはないらしいな。
多分1個1万でもこの人買いそうな気がするネ。
価格設定を間違えたか。
貴重というのも皮肉なのか本心なのか読めない人だナ。

「お買い上げありがとネ。約束通りネコミミ付けるヨ」

「ではこれをどうぞ」

しかし私が髪を下ろした状態で日中いるというのは相当珍しいネ。
こういうのを付けるのはなんだか恥ずかしいネ。

「ご要望通り付けたが感想もらえるのカ」

「ええ、大変お似合いだと思います。良い物を見れましたよ」

普通に誉められたヨ。

「満足頂けたようで良かたネ。五月が作た肉まんも温かいうちに食べるといいヨ」

「イノチノシヘンで殆どがキティのではありますが今年の学園祭の映像を見ていまして、この肉まん食べてみたかったのですよ。ありがたく頂きます」

本心だたのカ。
キティとは誰かの愛称なのだろうナ。

「肉まん食べに外に出たいなら翆坊主に言えば魔力提供してくれるのではないカ。割と礼をする性質のようだから重力魔法の対価として手を打てると思うネ」

「私としても出たいといえば出たいのですが、他人に私がここに居る事が知られるのはまだ困るのですよ。確かに私がここを出るためにはキノ殿による世界樹の発光時のような魔力が必要なのは事実なのですがね。それに今回の協力は私の方が礼を返しているものですから良いのですよ」

「そういう事情があたのカ。まだというのはご先祖様…いや、時が来たらわかるネ」

「ええ、数年間待っていますがそろそろ近いと思いますね」

「クウネルサンは近未来視もできるようだナ」

「その辺りは秘密ですよ」

「ふふ…詮索はやめておくヨ。また今度肉まん届けにくるから期待するネ」

「ええ、好きなときに来てください。お茶ぐらいは出せますので」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

それにしてもサヨから受け取た魔分有機結晶の情報は凄いヨ。
確かにこれなら宇宙放射線に対する抵抗その他があるのは頷けるネ。
人類が宇宙空間に安全に出ていけるようになる点でもやりがいがあるヨ。
しかし宇宙放射線対策を行わなければいけない優先度と期限を考えれば地道に進めても問題ないだろうナ。

本物と同等の精製は無理だろうがこれに近いものならば私の技術と組み合わせれば実現も可能なのは良いことだ。
原料には純粋な魔分を内包した物質が必要だから世界樹の加護のアーティファクトを始めとして用意する必要があるネ。
有機的部分は成分を見る限り色と素材が物入になるだろうし安定したルートを確立したいヨ。

…麻帆良で作業するのだから雪広グループに協力を頼むカ。
まほら武道会も実現してみたいからネ。
クラスの雪広サンを切り口に交渉してみよう。
資金的にもやはり例の映像を活用したい所だたが売りつける先がなかなか難しかたがまとめてやてみるヨ。

《超鈴音、この前映像渡しましたが容量不足で結局無理だったものがあるのです。麻帆良の夜の防衛という壮大な記録なのですが興味ありますか。サヨが自分で何か渡したがっていましたし丁度いいかと。近衛門殿の戦闘はナギ少年とは違った見所があると思いますよ》

突然通信が来たが翆坊主は私に甘々だネ。
まあ何か別の意図があるのかもしれないナ。

《メモリーをまた用意したらサヨに頼むヨ。言われてみれば学園長の魔法にも興味があるヨ》

エヴァンジェリンを除外すれば、学園最強の魔法使いというのだから興味は尽きないネ。

《だそうですよ。サヨ、後でよろしくお願いしますね》

《はい!鈴音さん、私に任せてください》

……この通信方法は便利なのは便利だが用途によては能力の無駄遣いだナ。
最近サヨも雑談をしてくるようになたからただ通信料のかからない電話みたいなものだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

有言実行、今日の授業が終わたから二つ前の席の雪広サンに交渉するヨ。

「雪広サン、雪広グループに幾つか交渉したいことがあるのだが時間を貰ていいカ」

「珍しいですわね。……ええ構いませんわ。超さんがグループに直接問い合わせるのではなく私に話を持ちかけるということは時間をかけたくないという事ですわね」

「話が早くて助かるヨ」

「ここでそういった話というのも場所が悪いですから、今からグループの者に連絡して場所を用意させましょう」

「雪広グループにとても悪い話ではないから期待してくれていいネ」

「超さんの噂はグループでも有名ですから社員たちも興味を持つ筈ですわ」

「それは光栄だネ」

流石雪広グループ、やはり某黒くて長い車だたヨ。
案内されたのは応接室だナ。
雪広サンと縁が深そうな社員の人もいるしここまですぐに進むというのは助かるネ。

この商談成功させるヨ。
例の映像とこれを映す三次元映写機も用意してきたから必ず食いつく筈ネ。

「まずはこれを見て欲しいネ」

さあ、記録が写真でしか残ていない第一回麻帆良学園祭をフルカラーで見るといいヨ。
どう手に入れたか気になるだろうがそこは企業秘密でいくヨ。

「三次元映像!流石超さんですわね。でもこの映像は……麻帆良学園かしら」

「あやかお嬢様!こ、これは第一回の麻帆良学園祭の映像ですよ。何故このような映像があるのですか」

ふむ、印象は悪くないが、やはり入手経路を聞いてくるか。

「落ち着いて欲しいネ。映像技術は私が開発したものだが、残念ながら映像の出所については企業秘密だヨ」

「分かりましたわ。映像の入手方法については詮索致しません。超さんがこれを見せるという事は買い取って欲しいという事ですか」

「その通りネ。なんとか活用する方法を探していたところだたが、やはり麻帆良でも影響力の強い雪広グループに頼むのが一番良いと思てネ。当然三次元映像技術の売り込みも兼ねているヨ」

「あやかお嬢様、ここは社長もお呼びしましょう。今の時間ならこの本社にいらっしゃいます」

これは随分早く大物が釣れたナ。

「ええ、そうですわね。お願いしますわ」

それから社長サンが来るまで映像を見てもらていたが、昔の麻帆良の映像に完全に見入ていたヨ。
私も翆坊主に渡された時は長いこと見たから気持ちはわかるネ。

「あやかお嬢様、社長がいらっしゃいました」

「あやか、そちらのお嬢さんが噂の超鈴音さんかな」

雪広サンもだが社長さんも有名な俳優のような人だネ。

「ええお父様、私の学友の超鈴音さんですわ」

「初めまして、超鈴音です。失礼ながら正規の方法ではなく、あやかサンに直接話を通して頂きました」

私がいつもの口調でしか話せないと思たら大間違いネ。

「私が雪広グループの社長であり、あやかの父です。あやかに話をしたのはその方が早いからだろう。私も今年の学園祭で有名になった超包子の肉まんは社員に買いに行かせて頂いたよ。とても美味しかった。屋台も飛行機能付きだというのを知って驚いたものだ」

超包子の肉まんがここまで浸透しているとは嬉しい誤算だネ。

「お褒めに預かり光栄です。本日は幾つか交渉したい事があり伺いました。まずはこちらを御覧ください」

「ほう、これが先程連絡で聞いた麻帆良の昔の映像か。しかも三次元映像技術とは超さんの引き出しはどれだけあるんだい」

「私の発明は友人と協力して行っておりますのでこれからまだまだ実力をお見せできるでしょう。つきましては今回これらの映像の買取りをお願いしたいのです」

「なるほど、これ程貴重なものはなかなかないだろう。買取りは前向きに検討させて貰うとして、詳細は後で担当に来させよう。幾つかという事だったが他の要件を聞かせてもらおうか」

突然真剣な空気に変わたがビジネスに対する嗅覚が鋭いネ。

「今度はこちらの依頼なのですが、今までの研究とは違う分野にも手を出そうと考えています。そこで必要な物資を安定して得られるルートを確保したいのですが、雪広グループに依頼するだけにその内容は多岐に渡ります。更に、個人的に噂に聞く昔のまほら武道会というものを復活させたいと考えていまして雪広グループの協力を頂きたいのです」

「物資の継続購入とまほら武道会の復活……か。あやか、済まないが席を外してもらえないか」

「……分かりましたわお父様。超さん、私は先に失礼させて貰います、明日学校でお会いしましょう」

この辺りの暗黙の了解が徹底しているのはありがたいネ。
しかしやはり社長ともなると裏の事は知ているカ。
社員も何人か出て行たが残ている人もいるということはそういうことなのだろうナ。

「超さん済まないね。あやかに聞かれる訳にはいかない話になりそうなので席を外してもらったよ」

「いえ、これで私も先程言えない事が言えます。まほら武道会に関しては協力頂けなくても構いません。少なくとも物資の買い入れは確実にお願いしたい」

「こちらとしても、既に対価は頂いたような物だから物資の件は約束しよう。まほら武道会の復活だがその様子だと裏の事を知っているのかな」

「約束感謝します。裏についてはそう考えて頂いて構いません」

「なるほど、しかし復活させるとなると学園長に話を一度通さないと難しいだろう。確かに我々の組織ならば情報操作も可能だろう」

ここで学園長が来るカ。

「情報操作は私の方でも対策方法を考えているのでその点は万全にできる自身があります」

「私も興味がない訳ではないからね。この件は学園長に打診をしてみよう。その時に超さんの名前を出させてもらうが構わないだろうか。ただ色よい返事がもらえない場合は諦めてもらうしか無いよ」

この人も興味あるとは都合がいいネ。
雪広グループから打診して貰えるというならそれだけでも僥倖だナ。

「ご協力ありがとうございます。名前は出して構いません。お願いします」

この後買取をしてもらう映像の査定をして貰い、材料の方のリストを見せてやや驚かれたが仕方ないネ。
地球で手に入る地域が国をまたいでいるからこそ雪広グループに頼んだのだからネ。
売却価格は手付金として買い付けにかかる費用である程度相殺されたが今後続けていけば総額では赤字になるかもしれないナ。
そうなる前に売れない映像もある程度加工する作業をして行くとしようカ。
色々と目処が付いた所で明日も頑張るヨ。
しかし口調を変えるというのはなかなか辛いものだたネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音は上手く行っているようだ。
私達と言えば、サヨが第二弾の映像を渡し前回の無念を晴らす事ができた。
地味に茶々円の映像を入れるのをやめて欲しい。
結局それでまた超鈴音に笑われる事になったのだが。

そう、今晩も茶々円で活動を行うのである。
しかも今日は特筆すべき点がある。
近衛門も警備に参加するというのである。
前から薄々思っていたが、一層今日は某ハンターな協会の会長みたいに見える。
オーラが凄まじい。

「学園長、今日はどうしたんですか。いつもと様子が違いますよ」

タカミチ少年がかなり動揺している。
後ろの方の魔法先生がとうとうボケがここまで来たかなどと呟いている。
寧ろその逆だろう。

「今晩は儂も警備に参加するのじゃよ。そのため今回は明石君に来てもらった。全体の管制を頼むぞい」

口調はいつもと同じだが威圧感が半端ではない。
懐かしいあの近衛門無双の始まりか。

「わ、分かりました学園長。しかしどうして急に自ら出られるんですか」

いつもは警備に参加する事が殆ど無い明石教授。

「何、準備運動じゃよ」

ああ、懐かしい。
魔法生徒達が興味津々のようだ。
エヴァンジェリンお嬢さんを覗けば学園最強の魔法使いが戦いに出るというのだから当然といえば当然か。
あの普段あまりやる気のない謎のシスターこと春日美空までもが目を輝かせている。
シスターシャークティが学園長ではなくそっちに驚いているぞ。

「じじぃ、無理するなよ」

エヴァンジェリンお嬢さん、光の福音?だけあって全く怖気付いていないが、やはり興味があるらしい。
私も今日は近衛門の頭に貼りつきたいが後で観測情報を確認するとしよう。

「今日の儂はいつもとは違うでの。安心せい。では今日の警備を始めるとしよう。先生方、よろしく頼むの」

と言った途端近衛門の姿が消えた。
本気すぎる。
先生達が唖然としているのは面白い。

「神多羅木先生、私達も行きましょう」

「あ、ああ、そうだな」

そういえば思い出してみれば、神多羅木先生のフィンガースナップの技は近衛門が昔使っていたものを速射性に特化させたもののような気がするのだがどうなのだろうか。
近衛門はフィンガースナップを使っていた訳ではないが。

「神多羅木先生の魔法は学園長の魔法を参考にしているのですか」

「茶々円は学園長の魔法も知っているのか」

それは見たことあるからね。

「私は学園長の作品でもありますから」

と言っておこう。

「そうだったな。私は学園長が執筆した本を参考にしたんだ」

ああ、そういう事なのか。
関東魔法協会の理事長でもあるというのは伊達ではない。
というかこっちが本職か。

「そういう事ですか。フィンガースナップ自体を個別の始動キーにするというのは威力と速射性から考えても良いですね」

無詠唱魔法と言われているが実は単体魔法に対応する唯一の発動始動キーを付けたものである。
それができるのも飛ばすのが気だからという理由があるが。
指を弾くこと自体をキーとすることで無詠唱により起きやすい威力低下を防ぎ速射性を実現した訳だ。

「いつから気づいていた」

「薄々以前からという所です。無詠唱魔法と聞いて先入観がありましたが違和感を感じたので解析したのです」

「茶々円は優秀なサポート役だな」

それが私の仕事ですから。



[21907] 10話 茶々円残機-1
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/23 18:38
いつもよりもやたら早い時間で明石教授から警備終了の通信が入り、神多羅木先生と共に戻ってきた。
予想はできていたが原因はやはり近衛門だった。
とにかく、今日の警備は大変楽だったということでいいと思う。

「ふぉっふぉっふぉ、久しぶりに身体を動かしたがいい運動になったわい」

とても元気そうだ。
何やら魔法先生達のヒソヒソ話によると、警備担当の場所で侵入者達が気絶しているのがそこかしこで発見されたらしい。
流石の防衛能力である。
魔法生徒の一部が闇夜に紛れて突然現れた人影を見たとかなんとか言っているがそれも近衛門だから。

「おお、そうじゃ茶々円はこの後話があるから残ってくれんか」

ああ……恐らく何か動きがあったのだろう。

「分かりました学園長、参りましょう」

「明石君、今日は突然呼んで悪かったの。皆も今日は解散して構わんぞ」

「じじぃ、私もその話を聞いてもいいか」

おや、エヴァンジェリンお嬢さんも察したわけか。

「……ふむ、構わんぞい。それでは行こうかの」

タカミチ少年が自分も参加したほうがいいのだろうかとやや判断に困っていたが、さっさと私達は行ってしまうのである。

当然だが場所は近衛門の自宅である。
麻帆良の中心部からはやや離れているが和風の落ち着いた家だ。
まあ和風だからこそ西洋風な街並みから離れていると言うべきか。

「近衛門殿、話を伺いましょう」

「うむ、呪術協会の支部を麻帆良に受け入れる目処が立ったのじゃよ。後は建設をするだけじゃな」

いやいやいや、まだ動き出してから半年も経っていない筈なのだが。

「近衛門殿、いくらなんでも早すぎるでしょう。どんな裏技を使ったのですか」

「じじぃ、ついてきて良いとは言っていたが話が読めん。説明しろ」

「エヴァンジェリンお嬢さん、私が説明します。詳しい事情は省きますが、茶々円として活動していた狙いは呪術協会の支部を麻帆良に建てさせ、東と西の不毛な対立を緩和させる事にあったのです」

「なるほどな。あのふざけた魔力封印処理を呪符使いに対して徹底していたのはそういう事だったか」

ご理解頂けたようで。

「先方としては外面上難色を示していたようじゃったが、封印処理の解除と支部の建設には旨味しかないからの。西の長が根回しをしていたのも効いたようじゃ。体裁として木乃香を呪術協会で護衛するという形を取れるのもあちらの面子を立てる事になるわけじゃ」

「なるほど、その辺りは計画通りと言ったところですか。準備した甲斐がありましたね。……しかし問題の本国の許可はどうされたのですか」

実際こちらが一番問題だろう。

「一部からは強硬に反対されたのじゃが、大勢としては旧世界の呪術等大したことが無いと見下す傾向にあっての、大した脅威でもないと判断されたようじゃ。本国としても旧世界との繋がりを軽視する孤立主義の傾向が強くなってきておってな。身内のいざこざを本国に持ち込まなければ問題なしのようじゃ。実際本国側も麻帆良の守備の状況を報告してもこちらに回す人員を渋るようじゃしの」

流石多数決。
深く考えないでくれて助かる。
まあ危険視すべきはその一部の反対勢力だろう。

「一枚岩でないのが今回は逆に有利に働きましたね。その反対勢力が大勢を占めていなくて助かりました」

「それでも無条件にとは行かなかったがの。何か問題が起きたら儂が責任を取ることになっておるよ。注視すべき対象が本国の反対勢力と呪術協会とは手間が増えたの」

それはきついがなんとかするしかないな。

「それはまたなんとも辛い条件ですね……。ですがそのような事にならないよう私も監視しますので任せてください。近衛門殿、この短期間でこの案件を実現に持ち込めるようにしてくれたこと感謝します」

「キノ殿、これは儂らにとってもいつかは通らなければならない道じゃったのじゃ。これからが大変じゃが、きっかけを与えてくれた事こちらからも感謝しますぞ」

お互い様ということでこれから頑張るとしよう。

「茶々円、前に保険と言っていて大して気にかけなかったが、その内容とは何だ。聞いていれば寧ろ面倒になったように思えるが、お前がじじぃに感謝するということは何かしらメリットがあるという事なのだろう」

……エヴァンジェリンお嬢さんにもそろそろ話して構わないか。
というか立場は精霊の筈だけども既に茶々円で定着している訳ですね。

「エヴァンジェリンお嬢さん、ここからは他言無用でお願いします。一番大きな問題は後11年程度で魔法世界が消滅し、人間が火星に投げ出される事なのです」

「……それは本当なのか」

「それは間違いありません。ただそれ自体は回避する用意がこちらにあるので問題ないのですが、その結果として今までにない大きな問題に発展するのでこの小さな日本で不毛な争いをするのをさっさとやめて欲しかったということなのです」

「裏でコソコソとそんな事をやっていたのか。しかし何故私にも話さなかったんだ」

あら、除け者にされたと怒っていらっしゃる。

「それは申し訳ないとは思っていますが、今回の呪術協会の件はお嬢さんの手を煩わせる必要もありませんでした。近いうちに話すつもりでしたがそれが今ということで許していただきたい。事態が緊急を要する事になったら力を貸して頂けると心強いです」

「……まぁいいだろう。確かに私が手を出すことも無かっただろうからな。最近私も暴れ足りないからな。今日のじじぃの真似でもしてみるか」

それはやめて欲しいかもしれない。
戦闘が行われた場所が大変な事になりそうだから。
そうだ、今日の近衛門殿というとあの発言は気になった。

「近衛門殿、今日急に警備に参加して、準備運動と言っていましたが、もしやこの前私が言ったことと関係あるのですか」

奇跡の少年が卒業するのは今年2002年の7月。
後半年程度と言ったところだ。

「ふぉっふぉ、あの時はいつになる事かと思っておったが、あっという間じゃったの」

情報が既に回っていると見て間違いないな。

「もしや、近衛門殿が直々に手を出すつもりなのですか」

そうなってくるともう全然歴史と違うだろう。
近衛門に直接しごかれたらやたら強くなるのは間違いないが。
それにここはお嬢さんもいる。
また随分豪華な修行環境になるな。

まあ既に実際、周りの被害を度外視すれば、少年の成長を促す出来事が起きる可能性をかなり潰しているから必要なことではあるかもしれない。

「おい、また何を勝手に話しているんだ」

うっ……ナギ・スプリングフィールドの息子が来るなんてばらしたら……。
私は知らない。
近衛門頑張れ。

「ふぉっふぉっふぉ、エヴァや、その時になるまでの秘密じゃよ。キノ殿の言葉がなければ傍観していただけかもしれんが儂も一仕事したくなっての」

これは熱い。
近衛門に見ているだけではなく動けと言ったのがストレス解消に留まらなかった訳か。
いや、寧ろ大いに歓迎だ。

「じじぃじゃ埒があかない。茶々円!説明しろ!」

しまった、お嬢さんこっち来た。

「エヴァンジェリンお嬢さん、楽しみは後に取っておいたほうが良いと思いますよ」

「チャチャゼロにお前をやるか」

ちょっと待ってそれはなかなか酷い。
茶々円×5→茶々円×4になるではないか。
いやでも、別にいいかなとも思わなくもないが。

「……好きにして下さい。でもヒントを言いましょう。それは 赤 毛 です」

「な、何だと!それを早く言え!そうか……こうしてはおれんな、ハハハハ!楽しくなってきたぞ!」

狙ったのは確かだが見事に違う方向に勘違いしたようだ。
間違いではないからいいと思う。
それにしてもテンションが高い。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

麻帆良都市に新たな勢力が加わることが明らかになってから数日。
性懲りも無く映像鑑賞会を開いている訳だ。

《翆坊主、学園長はこんなに強かたのカ》

《昔から凄かったですよ。ナギ少年は10歳であの強さという点でまた異常でしたが》

《初めて見たら確かに驚きますよね》

そう、熱い近衛門談義である。

《今貰た先日の学園長の映像も年を取ている割には衰えていないナ》

《攻撃は無詠唱、魔法の射手闇の矢縛りなんてやっている所からすると本当に準備運動だったようですね。それでもあの強さですが》

《あれで遊んでいるのカ……。虚空瞬動する度に魔法の射手を遅れて発動させる光球を残すだけでなく敵を正確に追い込んで捕縛する技術には驚かされるネ。スローで見なければ何が起きているのかわからない程の早業だナ》

《キノ、学園長先生自身で放つ、この射程と貫通力が他のものに比べて高いのも同じ魔法なんですか》

《ああ、それは近衛門殿がロシアの魔法協会に昔出張した時の事らしいのですが、戦時中にスナイパーをやっていた魔法使いの方にライフルの弾丸を模した魔法の射手を見せてもらったことがあるそうです。所謂螺旋による回転力で通常のものより大幅に威力が高いですね》

《戦時中魔法使いは魔法使わなかったんですか》

《もしこちら側で大っぴらに魔法を使って戦争することになっていたら未だに戦時中だったと思いますよ。まあ本当に危ない時は魔法障壁の一つぐらいは発動させていたのかもしれませんが》

《学園長は質量兵器の戦争の経験もあるという事カ》

《近衛門殿の恐るべき能力としては戦術眼とでも言うのかそれとその戦闘センスの高さですね。相手が気づかない内に戦闘の運びが近衛門殿に常に掌握されているというのはご冥福を祈るしかありません》

《学園最強と言われる理由もわかるナ。高畑先生の攻撃はこれだと当たらないネ。……しかし全ての映像を通して時々空中から真下に移動しているがこれはいくら虚空瞬動でも異常だヨ》

《超鈴音は虚空瞬動だと思いますか。実際にはあれは個人転移呪文の上位、あえて言うなら瞬移とでも言えると思いますよ》

《えっ、これ魔法なんですか》

《翆坊主、それではまるでカシオペアを使った戦いのようだヨ》

実際近衛門ならカシオペア使われても突破しそうだ。

《ええ、信じられないのがその発動速度と移動距離ですけどね。でなければあんなに広範囲に渡ってカバーはできませんから》

《ふむ、流石の私も学園長に興味を持つネ》

《例の人物の来訪に向けて近衛門殿は準備運動するそうです》

《例の人物って近いうちに来るらしいという男の子の事ですか》

《そうですよ。会ってみてのお楽しみという事です》

サヨには一度歴史を見せているが、概要を見せただけであり名前などのピンポイントな情報は伏せてある。

《私も手合わせしてみたいものだナ》

ウルティマホラの一件以来超鈴音はあの忍者ではないが作業の合間に修行をするようになった。
まほら武道会の事もあるということかもしれないが。

《今の近衛門殿なら訓練がてら相手をしてくれそうですが、超鈴音の場合アーティファクトの問題がありますからね》

《そこは諦めるとするヨ。でもこの映像で高速転移魔法を研究するネ》

あの夜近衛門が戦っている所を確認できた人間は殆どいないだろうから、この映像は相当凄い資料だと思う。

《鈴音さん、頑張ってください!》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

しばらくして呪術協会の支部建設も場所が決まり建設も始まった。
麻帆良の建築技術にかかればあり得ない速度で建つだろう。
時期を同じくして夜の警備の負担がかなり軽減されるようになったのは間違いない。
それというのも呪術協会から先遣隊がやってきたからである。
支部が建てられるからと言って東と西の関係がいきなり改善する事もなく、大体の東洋呪術師の皆さんは西洋魔術師がお嫌いである。
要するに、プライドが高いので西洋魔術師が警備をやっている中で自分たちが守られるというのは癪に触るから我々も警備に参加するということだそうだ。
動機はアレだが敵が味方になるとこれほど心強いことはない。
逆に今までの魔法先生達と彼等の間で軋轢が生まれる要因にもなっているが、今のところ直接争うようなことをしないあたりは一安心である。
西洋魔法使いが嫌いである割に呪術師の皆さんはまず相手を知るとでもいうのか、西洋魔法自体には興味がある様子なのは関係改善の切り口になるかもしれない。
因みに先遣隊の人数は非戦闘員を含めおよそ30人程度であり後から後発隊が来るかというとそこまでの余裕もないらしく、増えても数人という所であるらしい。
その中に天ヶ崎千草、犬上 小太郎が居ることが分かったわけだが歴史から見るに今後どう転ぶかは注視する必要があるだろう。
名前が分かったので彼等の情報について詳しく確認すると天ヶ崎千草は先の大戦で両親を失い、そのため西洋魔術師を嫌うどころか恨んでいる。復讐をこの地でするかどうかというのがポイントだろう。
次に犬上小太郎だがまだ10代に手が届くかどうかという年齢で狗族と人間のハーフの少年である。
まだ子供であるため単純に西洋魔術師が従者を前衛にして戦うというのが、かっこ悪いと思っているらしい。
耳と尻尾があからさまだが街中を歩いていても麻帆良の認識阻害にかかれば日常の一部になるのでその辺りは寧ろ関西より生活しやすいだろう。

さて、件の魔力封印の解除であるがとうとう茶々円の仕事も終わりである。
先日の近衛門戦闘の後、呪術協会の件が発表され動揺も起きたが今更反対しても遅いということで無理やり丸く収めた。
続けて茶々円を呪術師の魔力封印を解除する事を最後にして処分する事も発表した。
寧ろこちらの方が問題であった。

「先生方、もう一つ伝えることがあるで聞いてくれんかの。近日中に茶々円を西に送って魔力封印の解除を行った後、その場で言い方は悪いが処分することが決定しておる。誰かその仕事をやってもらいたいのじゃがどうかの」

初めて自己紹介した時よりも空気が重く痛い。
地味にマスコット的に定着しつつあったというのは誤算であったが、茶々円の存在をこのままに残しておく訳にも行かない。
確実に能力的に火種になる事は間違いないのだから仕方がない。

「学園長!茶々円ちゃんはしっかり人格がありますのに殺すとおっしゃるのですか!それは自分勝手すぎます!」

高音さん、正義感半端ないです。
しかもいつの間にちゃん付けになっているし。
まあ処分と聞いて良い気分の人なんていないだろうが。
処分という単語に魔法生徒はかなり動揺しているな。

「私の存在は東と西の関係にとってはこれ以上いる事は新たな火種にしかなりません。高音さん、心配して下さりありがとうございます。確かに私のこの体は消えますがきっと魂は残りますので気にしないでください。皆様、今までありがとうございました」

そう言いながら頭を下げる訳だが、まあある意味お嬢さんと近衛門の作品という自己紹介の時点から騙していたようなものだからまた罪悪感が凄いな。

「皆が思う気持ちも儂もわかるが、これは必要なことなのじゃよ」

「…………」

「……ですが!」

「高音!これは必要なことだ!学園長、茶々円を西に送る任、私にやらせてください」

カットインは神多羅木先生だった、流石。

「学園長、茶々円は私の妹です。私にも是非行かせてください」

って茶々丸姉さん来るの?
前より人間っぽくなったな。
エヴァンジェリンお嬢さんも驚いてるよ。

「人数はこれ以上増やせんからの。それでは神多羅木先生、茶々丸君、茶々円を頼むぞい」

こうしてまだ死んでいないからやるとするなら割と明るい生前葬の筈だが、完全に葬式モードな空気で話がついたのだった。

そして、出発当日。

「神多羅木先生、茶々丸姉さん、私の同伴ありがとうございます」

「いや、これまでサポートしてくれていたんだから当然だ」

「私の初めての妹ですから当たり前です」

茶々丸姉さんは事情を知っているからともかく、お世話になった神多羅木先生には最後に言っておいたほうがいいな。

「神多羅木先生、私がこの前言ったきっと魂が残るというのは本当ですから安心してください。今日最後の仕事が終わったらわかりますから気に病んだりしないで下さいね」

「そう……なのか、俄に信じがたいが……茶々円が言うならそうなのだろうな。少し気が楽になったが見るまでは安心できないな」

終わったら是非安心してください。
因みに茶々丸姉さんには認識阻害の魔法を本気でかけてあるので問題ない。

電車に乗るというのは学園祭の超包子のありえない車両を除けば初めてだ。
しかし新幹線はまだまだ遅いと思う。
午前に出発して総本山に着いたのは昼を大分過ぎた頃である。
地味に奥地だから遠い。
係の人に従い詠春殿の所に向かう。
近衛門と詠春殿の間で既に処分の話は通っているので準備は万端である。

「この度は東からようこそおこし下さいました」

相変わらず巫女さんだらけだった。
通された場所は物凄く広い庭であり、封印処理を喰らった術者の皆さんがゴザに正座という何処の江戸時代かと思うような光景が広がる場所だった。
その総数数十人という所。
やはり本当に自重して欲しいと思う。
神多羅木先生もこんなにいたのかと驚いてるし。

偉そうな人達は封印解除を見る証人なのだろうか、お奉行様的位置にいる。
そこに詠春殿を発見。

「東の長から話は聞いています、ようこそおこし下さいました。神多羅木さんと茶々丸さん、それに茶々円さんですね」

「近衛詠春殿様、長々した挨拶も何ですから早速解除を始めたいと思います」

術師達が実にイライラしているのでさっさと終わらせたい。

「それもそうですね、ではお願いします」

片っ端から封印解除を行う。

「魔力封印の解除を実行します」

突然解除されて襲い掛かられるかとも思ったが神多羅木先生が私の後ろに立っているのでそんな事もない。
大抵解除された術師はすぐさま使えるようになったかどうか確認するために、簡単な火を灯す陰陽術を気ではなく魔力を用いて試し、無事成功して喜んだり安堵したりしている。
まあ職を失う瀬戸際だった訳だから当然といえば当然か。
滞りなく全ての術師の封印解除を終了し、いよいよ私こと茶々円の番である。
魔力封印の恨みがある事もあり、この場で処分を行ったほうが心象的に良い。
どうやら盛大に火葬してくれるらしい。
詠春殿ではなく、例のお偉いさん直々に呪符でやってくれるそうだ。
実際詠春殿にやらせると実は死んでないのではないか等と疑われるからこちらとしては構わない。

「茶々円、私は忘れませんから」

茶々丸姉さん、それは狙っているんですか。

「茶々円、今まで助かった。ありがとう」

神多羅木先生もさっき言ったけど別に大丈夫ですからね。

「麻帆良の方々にはお世話になりました。別れの挨拶も済んだのでよろしくお願いします」

お偉いさんもいざ幼児を処分となるとしんみりした空気になったが、見事な大文字焼きをやってくれました。
当然焼かれる直前に精霊体で抜け出して地中に身を潜めましたが。

見事に初めてインターフェイスが消滅した。
封印処理を受けていた術師達は幼児処分という微妙な感じもありつつも、概ね気が晴れたような表情だった。

神多羅木先生と呪術協会の面々の皆さんの挨拶も済み、随分あっさりだったがこれで今日の仕事は終わりである。
そのまま神多羅木先生と茶々丸姉さんは詠春殿に連れられ執務室に通された。
結界を張りつつ私の登場の出番でもある。

《神多羅木先生、少し姿が大きくなっていますが茶々円です。詠春殿、滞りなく終了して安心しました》

「おおっ、茶々円なのか。伝説になっている噂の翠色の精霊のようだな」

あの例の噂か。
しかも伝説って何。
ともあれこれは本国にも噂程度には知られてるだろうな。

「キノ殿、神多羅木先生には伝えていなかったんですか」

《私が精霊だったという事実を知っているのは魔法先生の中では近衛門殿だけですからね。神多羅木先生、こうしてまた会えましたが私の事は口外しないでください》

「本物なのか。……私にとってはそれでも茶々円なんだがキノ殿と呼んだほうがいいのか。学園長直属の部下であるし精霊の話については口外しないと約束しよう」

どっちでも好きに呼んだらいいと思う。
そういえばキノというのは名前だが苗字がなかったな。
この際 茶々円 キノ と名乗っても良いかもしれない。

……芸名みたいだな、保留。

《神多羅木先生も茶々丸姉さんも茶々円と呼んでくれて構いません。約束感謝します。詠春殿、この度はこの短期間で支部の建設を進めてくださってありがとうございました。派遣されてきた先遣隊の中に過激派と見られる方達も見受けましたが、それはこちらでなんとかします》

「キノ殿、こちらも東と西の関係改善の足がかりができて前進しました。これからが大変ですが引き続き尽力します。先遣隊の人選を全て私が行うということはできませんでした。迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします」

《近衛門殿も言っていましたが、いずれは避けて通れぬ道ですからね》

こうしてこの後事務的な事を行った後、精霊体でうろうろする訳にもいかないので先にパッと帰らせてもらった。
茶々丸姉さんは別れ際にまたお茶と肉まんを食べに遊びに来て良いと言ってくれた。
なんて優しいのだろうか。
というか、茶々円のこれまでの主な栄養源は殆ど茶々丸姉さんが買ってくる超包子の肉まんで構成されていた。
精霊の食事事情は単純である。
でも美味しいから全く問題はない。
神多羅木先生が帰ってきた後、葛葉先生が「あまり気を落とさないでください」等と言っていたが事実を知った神多羅木先生としては微妙だろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

2月も半ばという頃、超鈴音の擬似魔分有機結晶粒子の精製も雪広グループの協力のもと材料の入手と機材等の条件がようやく整って超鈴音魔法球の中の一角は工場と化している。
詳しい生成方法の説明は省くが、精製の光景は例によって淡い桃色に輝く非常に美しいものである。

《キノ、私達また中間テストでトップ3を独占しましたよ!》

と、よく突然報告が入るようになった。

《これで通算5度目ですね、おめでとうございます。相変わらずトップとそれ以外で随分成績に差があるクラスだと思いますが。今回はそれだけではないのでしょう》

《よく分かりましたね!最近麻帆良に今までいなかった人達が入ってきましたけどその中にコスプレしている男の子がいるんですよ!》

それ……コスプレじゃないからね。
本人の前で言うのはやめておいたほうがいい。

《そうだ翆坊主、あの団体は一体何ネ》

常に全体通信が癖になってきているが丁度アデアットしていたらしい。

《超鈴音には言ってなかったかもしれませんがあの人達は関西呪術協会からやってきた先遣隊です。茶々円の件で私が少し手を出して始まった計画でしたが、上手くまとまり支部を麻帆良に現在建築中です》

《茶々円はそういう事だたのカ。ここ二ヶ月茶々丸のメンテナンスやていなかたから知らなかたネ》

《まあ茶々円の身体は先日見事にこの世から消滅したんですけどね》

《それでも予備の身体があるんだろうナ》

《その通りです。サヨ、さっきの男の子ですが名前は犬上小太郎という人間と狗族のハーフの少年です。コスプレではありませんから変なこと言わないように》

《なんだ、コスプレじゃなかったんですね》

いや寧ろ本物だからテンション下げることはないんじゃないか。

《一般人には麻帆良の認識阻害が効いていますから気にならないと思いますよ。確か彼は初等部に入学した筈なので元気にやっているといいですが》

《その小太郎君だがあちこちで割と有名になてるヨ》

何だって。
火星の様子と呪術協会の動きには注目していたが表での少年は見ていなかった。

《え、本当ですか今確認します。……ああ、これはまた元気ですね》

《中国武術研究会に突然やてきて「勝負頼むわ!」だからネ。古と気を纏て戦ていたが及ばなかたからまた来る言てたネ。後はそのまま超包子の肉まん食べて「これはうまいわ!」と満足そうだたヨ》

《私も夜中飛んでる時に森で楓さんと修行しているの見ましたよ》

……典型的なバトル少年だな。

《随分順応性は高いみたいですね。彼は裏でも警備に参加するようになりましたがなかなか強いです。ただ持ち場を離れて単独行動に走る傾向があるあたり落ち着きが足りませんが。にしても1-Aの武道四天王と呼べる四人に既に接触があるのは凄いセンサー持っているような気がしますね》

《桜咲さんと龍宮さんとも何かあったんですか》

《さっきの持ち場を離れたところその二人に遭遇したということです》

《それは良い嗅覚持てるようだネ》

《ところで超鈴音、まだ時間は大分ありますが火星の地下水を地上に出す事が現実的になってきました》

《それはまた大変だナ翆坊主。地上でも普通に倍率150倍、口径100mmを越えていれば観測することができるのだから問題だナ》

《また規模の大きな話になってきましたね》

《神木自体が生えているのはまだ点が増えたぐらいにしか観測できない筈ですからある程度安心ですがね。そういう訳で粒子の精製も引き続きお願いしますが、そろそろ地球側から観測できる範囲に光学迷彩を展開する大規模魔法を新たに開発してもらいたいのです。まあ魔分量の問題でいずれは使わなくなることになりますが、その時はその時で予め超鈴音が関係を持った雪広グループに情報操作面で根回しをしてもらうことにもなるでしょう》

《重力、宇宙放射線の次は光学迷彩と来るカ。重力の件はクウネルサンがいたから早めに解決したが、幻術魔法が得意な魔法使いに協力してもらた方がいいネ。雪広グループとは私も仲良くしていたいヨ》

《既に火星重力の解決で常駐魔法を発動させている上に地下マントルの活性化、氷の融解まで行って居るところに更に光学迷彩の魔法なんて魔分量は大丈夫なんですか》

《それが問題なんですが一応解決方法はあります。地球で蟠桃が精製する魔分を木に用意するゲートで第二世代に送り込めば一時的に出力は足りる筈です。地下マントルは一度安定したら魔分を消費しなくて済みますし、氷の融解も終了すれば光学迷彩だけでよくなりますから。ただ同時に複数の問題にあたる必要があるのはやはりキツイですね》

《パッと計算するだけでも相当厳しいですね……。キノ、私もこれから神木の管理と火星の観測しっかり協力しますよ》

《よろしくお願いします、サヨ。超鈴音、幻術魔法の件ですが今回もクウネル殿かあるいはエヴァンジェリンお嬢さんという手もありますね。まあ面白そうなのはご両人に頼むというのが良さそうですが》

《島から出られないクウネルサンにもまた会いに行かないと悪いからネ。エヴァンジェリンと来るカ。学園長相手は無理だがエヴァンジェリンなら戦闘の相手もしてくれそうだネ》

《いつの間にか戦闘狂になってませんか。楽しんでもらえればそれで構いませんが》

いずれは旧世界に魔法世界の存在、魔法の存在が明らかになる事は間違いないが、その時こそ超鈴音の望む世界征服が必要になるだろう。



[21907] 11話 麻帆良は概ね平和
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/01/21 16:46
火星のテラフォーミングを始めたものの、地球よりも本当に障害が多い上に環境が過酷だネ。
クウネルサンにももう2ヶ月以上は会ていないから行くとしよう。

「クウネルサン、久しぶりにまた来たネ。肉まんも持て来たヨ」

「これはこれは超さん久しぶりですね。もっと頻繁に来てくれても構わないんですよ。肉まんもありがとうございます」

凄く嬉しそうな顔してるネ。
余程暇なのだろうカ。

「今日来たのはまた新魔法の開発だヨ」

「おや、キノ殿がいないので会いに来てくれただけかと思いました。それで今回は何の魔法ですか」

「翆坊主は今、第二世代の神木の管理、蟠桃の新システムの搭載と呪術協会の監視で手が空いてないからネ。本題だが、重力の次は光学迷彩だヨ。火星に海を作るために地球から隠すのに必要だからネ」

「またもや規模の大きい話ですね。私もその辺りの魔法には協力できると思いますが、丁度良くキティがいますし彼女にも手伝ってもらったらどうです」

またキティと言ているが誰の事かナ。

「クウネルサン、そのキティというのは誰の事ネ」

「おや、超さんは精霊殿に聞いていないのですか、キティというのはエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルのKの事ですよ」

ふむ、キティというのはエヴァンジェリンの事カ。
翆坊主は全く話していないナ。
エヴァンジェリンにも茶々丸の件でお互い様という所だが協力してくれるのか気になるネ。

「対価無しに協力してくれるとは思えないナ。クウネルサンが一筆書いてくれるのカ」

愛称で呼ぶぐらいだから頼みぐらい聞いてくれそうだナ。

「キティにラブレターですか。それは面白いかもしれませんね。ただ時期が……いえ、この際だからいいでしょう。超さん、エヴァンジェリンに今から手紙を書きますから渡してください」

ラブレターと言ているが冗談なのか本気なのカ。
……とにかくチケットのようなものが手に入るから良いネ。

「分かたヨ。待てる間に暇だから少し翆坊主と通信するネ。アデアット」

このアーティファクトにも慣れたものだナ。

《翆坊主、図書館島に来ているがクウネルサンもエヴァンジェリンを紹介してきたヨ。それで聞きたいのだが、キティという呼び名は何か問題があるのカ。言い方に何か含みを感じるネ》

《超鈴音、多分その名でエヴァンジェリンお嬢さんを呼んだら命の危険に関わると思いますから忘れたほうがいいですよ》

《やはりそうカ。元々呼ぶ気はないが気になたネ。しかしその危険な名前で呼ぶクウネルサンは大丈夫なのカ》

《司書殿にとってはエヴァンジェリンお嬢さんをからかうのが楽しみの一つですから危険を承知なのでしょう。一つ、こんな事で超鈴音が連絡してくるとなると、今クウネル殿何かやってるんじゃないですか》

《確かに私がこんな事で通信するのも変だナ。ただ暇というのもあるけど、クウネルサンに、エヴァンジェリンにラブレターという招待状を書くから渡してくれと言われたネ》

《……それは重大な事かもしれません。多分超鈴音が感じているのは危機感ですよ。その手紙は茶々丸姉さんに一旦渡したほうがいいです。多分超鈴音も司書度のからかいの対象に含まれつつあると思います》

《勝手に身体が動いたのはそのせいもしれないネ。それにしても翆坊主、茶々丸が完全に姉として定着してるヨ》

《もう茶々丸姉さんでいいんですよ。私に食事とお茶を提供してくれた回数は世界一ですから》

餌付けされたカ。

《翆坊主の言う通り一度茶々丸に手紙を渡す事にするヨ》

「アベアット」

「おや、もういいんですか。まだ書き終わっていませんから少し待って下さい」

粒子通信は速度が早過ぎるな。
暇つぶしの割に時間を潰せないとは。
肉まん食べるネ。
五月の肉まんはいつ食べても美味しいネ。
茶々丸は超包子にいるかナ。

「お待たせしました。これをエヴァンジェリンに渡してください」

封筒の見た目は普通だネ……。

「分かたネ。エヴァンジェリンに渡したらまた近いうちに来るヨ。肉まんは今日は差し入れネ」

さて、茶々丸を探すカ。
この時間だと先生達が多いところに屋台はありそうだナ。

「茶々丸、今日の仕事が終わて帰た時にこの手紙をエヴァンジェリンに渡してくれないカ。私もエヴァンジェリンに用があるから後で行くからよろしくネ」

「超、確かにマスターに渡しておきます。それでこれからどうするのですか」

「部屋に戻て作業の続きをするヨ」

粒子の精製は引き続きやらないといけないからネ。
機材を組み立ててある程度自動化できるようになたが魔法的処理の部分は未だにアーティファクトで一気にやるしかないからナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

さて、丁度いい時間だからエヴァンジェリンの家に向かうネ。
この辺りは林に囲まれていて良い空気だな。
インターホンを押すが、面倒な事が起きないといい。

「どちら様でしょうか」

「茶々丸、さき言たとおり来たヨ」

そのまま茶々丸が出てきて通されたが、エヴァンジェリンはひどく荒れていたようだナ。
翆坊主の言うことは正しかたようだ。

「エヴァンジェリン、茶々丸に持たせた手紙は読んだみたいだネ」

「超鈴音か……この手紙には貴様が来ると書いてあったがどうして茶々丸に渡したんだ」

「翆坊主のアドバイスに従ただけネ」

「ん、何だと。この巫山戯た手紙の八つ当たりをしてやろうかと思ったが、どうして翠色の事を知っているんだ。相坂さよがばらしたのか」

図らずして違う方向に興味を逸らせたようだ。
しかし大分時間が経ているが翆坊主は自分で紹介した割にエヴァンジェリンには私の事は何も伝えていないのカ。

「さよが精霊だと言て来たのは確かだが、大分前に翆坊主自身が直接私に接触してきたネ。今回エヴァンジェリンを訪ねた理由は翆坊主の頼みごとでもあるヨ」

「……奴にしろ茶々円にしろ何のつもりだ。手紙によると超鈴音に図書館島の案内をしてもらえとあるが、アルはあそこにいるのか」

やはりあの手紙、まともな内容が書いてないようだナ。
結局最初からエヴァンジェリンに直接接触したほうがましだたかもしれないネ……。

「今はクウネル・サンダースと名乗ているが、図書館島の奥にある施設に住んでいるヨ。説明すると、ある魔法の開発に協力して欲しいから訪ねに来たんだヨ」

「なんだその名前は……。まあいい、明日連れていけ、奴に一撃いれてやらんと気が済まんからな。だが魔力も無いのに魔法を研究するのは難しいだろう」

「ある裏技で使えるようになたヨ」

「それも奴らが手出ししたのか。……どれぐらい使えるのか知らないが今から私の別荘で実力を見せてみるか。最近茶々円から赤毛が来る情報を得たものの、丁度相手もいなかったからな」

これは早い対戦だネ。
魔法の開発の前にぶつかり会うのも悪くないカ。
真祖の吸血鬼相手にどこまでこのアーティファクトで戦えるのかも実験してみたいからネ。
アーティファクト自体がばれるのは結局明日分かる事だから構わないナ。
しかし赤毛という情報でここまでテンションが上がるのはおかしくないカ。
エヴァンジェリンは一度も会た事がない筈だろう……ああ、翆坊主、わざとだろうが情報が少なすぎるヨ。

「最強と呼べる魔法使いと手合わせできるとは光栄だナ。どこまで通じるかも一度試してみたいからネ。その話受けるヨ」

「ケケケ、御主人ニ挑ムナンテモノ好キダナ」

「超、無理はしないでください」

こうして見るとやはり二人共どこか翆坊主に似ているナ。

「いい度胸だな超鈴音、この光の福音である私にどこまでついてこられるか見せてみるがいい」

闇の福音ではなかたカ。
確かに最初に会た時から魔の気配がなかたが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

エヴァンジェリンの別荘に入ったのは初めてだが私の買たダイオラマ魔法球より豪華だナ。
巨大な城な上に施設も充実している。
今度私の方も内装を変えてみるカ。

「超鈴音、その裏技とやらを見せてみろ」

「きと驚くネ。アデアット」

「な、パクティオーカードだと!」

―契約執行をオンに変更、出力制御―

最初から全開でやると命の危険に関わるからネ。
私は不死身ではないヨ。

「なるほど、契約執行ができるのか。それなら魔法が使えるな。驚くには驚いたが、魔法具が出ないというのは地味だな」

初めてアデアットした時は異常だたが制御すれば地味なアーティファクトに見えるのようだナ。
光の加減で虹彩の輝きはわからないのカ。

「魔法が使えるようになただけましだヨ」

「まあそうだな。……その魔力反応、私と似ている気がするがどういう事だ……」

私と魔力が似ていると言たけど、なるほど似ているどころか殆ど同じだナ。
これが光の福音という事か、しかし……。

「翆坊主に何か直接されたのカ」

「良く分かるな。真祖化の術式を100年前あの精霊に弄られてな、少なくとも吸血鬼ではなくなった。……まてそういう事か……。契約者は翆色か」

また翆坊主カ。
真祖の吸血鬼でもなくなているとはナ。
どうやら同じ力の源同士であるようだけど、こうして戦うというのは魔分の無駄遣いだナ。

「その通りネ。私もなんとなく分かて来たヨ」

《翆坊主、さよ、今からエヴァンジェリンに相手してもらえるんだが直に見に来るカ》

《ええ!?さっきの今日でもうお嬢さんと戦うんですか。……まあ好きにしてくれて結構ですが、そうですね見に行きますよ》

《鈴音さん、エヴァンジェリンさんと戦うんですか!気を付けてくださいね。私も見に行きます》

「今翆坊主達呼んだからそのうち来るヨ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音からお嬢さんと試合すると連絡がきたものの……。
真祖化術式改変一部精霊と精霊化アーティファクトの戦いなんてある意味内輪揉めのようなものだ。
ややこしいことになりそうだ。

さて、別荘にお邪魔するとしよう。
まだ地上でやってるのか。
フィールド展開したら飛ぶのも余裕だろうに。
見たところ超鈴音が放った魔法をお嬢さんが相殺しているな。

     ―ラスト・テイル・マイマジック・スキル・マギステル―                ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック―
 ―炎の精霊 来たりて 67柱 魔法の射手 連弾・炎の67矢!!― ―光の精霊 来たりて 67柱 魔法の射手 連弾・光の67矢!!―

一斉に放たれた67本の炎の矢と光の矢が相殺しあい一瞬閃光が起こる様は、まるで綺麗な花火のようだ。
始動キー詠唱開始は同じだが超鈴音の方が先に発動させているところを見るとお嬢さんは本当に丸くなったというか余裕そうだな。
しかし実際超鈴音が超加速状態に移行したら詠唱速度諸々ではどうなるのだろうか。
あまり熱くなられても困るが、確かに面白いし見ものではある。
茶々丸姉さんもしっかり記録してるようだし。

「来たか翆坊主、エヴァンジェリンに相手をしてもらてるヨ。さてまだまだ実験したい魔法あるネ」

「茶々円、人間と仮契約するとは超鈴音はそんなに興味があったのか」

《そんな所ですよ。実際前回も超鈴音の協力がなければ解決できない問題でしたからね》

「そして今回は私の協力も借りたいと言うわけか。私も色々用事があるから、頻繁には協力できんぞ」

《それで構いません、よろしくお願いします。茶々丸姉さん、隣失礼します》

大学のサークルで学園都市内だがあちこち行っているから当然か。

「次行くネ!心配いらないと思うけど避けるといいヨ!」

     ―ラスト・テイル・マイマジック・スキル・マギステル―
      ―来たれ 火精 土の精!!―
       ―劫火を従え 噴出せよ―       「なっ、その規模の魔法も使えるのか、だがまだまだ甘いぞ!」
                               ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 来れ氷精 大気に満ちよ―
                                  ―白夜の国の 凍土と氷河を―
        ―爆ぜる大地!!!―                     ―凍る大地!!!―
                                            
なんだそれ!?お嬢さんも詠唱早すぎるでしょう!
火柱と氷柱ってなんのアート。
威力自体は溶岩と化している超鈴音の方が上のようだが。

《うわー、何か芸術的ですねー》

遅れてご到着ですね。

《サヨ、来ましたか。今のところ、まだ、落ち着いている方です》

燃える天空まで出し始めたらカオスだ。

「詠唱早いネ、流石光の福音の名は伊達ではないカ。私も本気でやらせてもらうヨ!出力上昇!」

双方浮遊術に入り、超鈴音は準加速状態。

                                   「まだ上がるのか!いいだろう、この際最後まで相手してやる!」
      ―ラスト・テイル・マイマジック・スキル・マギステル―                  ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック―
―来たれ火精 風の精!! 大気を制し 薙ぎ払え 灼熱の嵐―          ―来たれ氷精 光の精!! 光を従え―
           ―炎の豪風!!!―                           ―吹雪け 白夜の氷雪―
                                                   ―輝く息吹!!!―
2種類の竜巻がぶつかり合い強烈な閃光と轟音が辺りに鳴り響く。

炎の竜巻と殺傷性がやばそうなダイヤモンドダストの激しい衝突は戦争でもしてるのかという感じだが……。
お嬢さん……本当に闇の属性使えなくなったんですね。
なんかご迷惑おかけしました。
しかしそれでもちゃんと代替魔法開発してるという努力のあたり、お嬢さんらしいな。

《あわわわ、大丈夫なんですかあんなの出して!》

《大分派手になってきましたが、多分次の方が酷いですよ、急速に互いに距離を空けてますから。って言ってる側から!》

        ―ラスト・テイル・マイマジック・スキル・マギステル―                    ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣!!―  ―契約に従い 我に従え 氷の女王 来れ 終焉の光!―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―              ―永遠の氷河!!―
             ―燃える天空!!!―                    ―全ての 命ある者に 等しき眠りを 其は 安らぎ也―
                                                       ―凍る世界!!!―
先の竜巻の衝突を遙かに超える広範囲で炎と氷が衝突し、その中心では一瞬にして大量の煙が立ち昇った……。
とうとうやってしまった広範囲焚焼殲滅魔法の燃える天空と広範囲完全凍結魔法の凍る世界のガチバトル。
別荘でなければ今の世の中何処で使うにしても戦争でもない限り使えないだろう。
一対一でやるには派手さそのものがばかりが目立つが、この後高速機動戦もやるのだろうか。

《……なんていうか魔法使いの戦いって秘匿と言っている割に派手ですね》

それを言ったらおしまいですよ。

《魔法世界の前大戦では大体こんな感じなわけです。私達としてはこういった方向に魔法の技術を向けられると微妙なんですがね。まあ大規模火災を鎮火するであるとか、木造家屋のある一体を全て取り壊すとかいうなら、役立つかもしれませんが。それでも地球の核兵器よりはましですよ。土地に住めなくなるわけではないですし》

《要は使い方次第ということですね》

その通り。だが、なんともそう上手く行かないというのが実情である。

「いや~、ここまで盛大に魔法使たのは初めてだヨ。調節して相手をしてくれて助かたネ」

「超鈴音、天才だからと言って古代の魔法まで使えるのはどういう事だ。仮契約したのがいつかは知らないが魔法の扱いに慣れ過ぎてはいないか」

《その辺りは少々複雑な事情があるんですよ。……それでこの後接近戦もやるんですか》

「それはまた今度にしたいネ。エヴァンジェリンもいいカ。次を考えるとしても、科学でやろうと思ていた武装があるのだが魔法で実現できそうだからそれまでは遠慮しておきたいヨ」

「合わせて魔法を発動させていただけあって私は物足りない部分があるがまあいいだろう。だがこの別荘にから出るにはあと丸一日経たないと出れないぞ」

《ほら、そういう訳でやはり時間の流れは現実と同じにした方がいい事もあるでしょう、超鈴音》

「エヴァンジェリン感謝するヨ。アベアット。確かに翆坊主の言うとおりだネ。同じ流れに設定してるからいつでも出入りできるのは便利だヨ」

「超鈴音も別荘を持っているのか」

「かなり高かたけどなんとか入手したヨ。今やてる作業はあそこでないとできないからネ。こちらの方が施設は素晴らしいけどネ」

「数百年の歴史でもあるから当然だな。時間もある事だ、茶々円色々説明しろ」

《説明と言っても何からにしますか》

「私が超鈴音に聞いていた計画だと世界に魔法を知らせるという物の筈だったと思うが、魔法世界の消滅を止めようとしている精霊とどう関係があるんだ」

《実際その二つの話は結局同じ結末になるんですよ。ところで超鈴音、話しても構いませんか》

「ふむ、翆坊主の言ている遅かれ早かれという奴だナ。構わないヨ」

《では私から説明します。超鈴音は今から100年先の未来の魔法世界が崩壊した後の火星から時間跳躍をし、昨年の冬に到着しました。当初の目的はお嬢さんが聞いた通りですが、結局魔法世界という名の火星が悲惨な事になるというのを回避するという目的で私達精霊と超鈴音は進む方向が同じです。しかも100年先の技術というのは驚異的なもので、昨年の夏の大停電に始まり火星の重力強化などはそのお陰で実現できた事の典型です。そして今回は火星全体に光学迷彩の魔法をかけて地球からは未だに不毛の赤い大地と思われる必要がまだあり、今に至るという訳です。大体こんな感じですね》

「当たり前のように言うな!前にじじぃの所で魔法世界の消滅を止める為に動いているとは聞いていたが直接火星を改造しているのとは聞いていないぞ!大体火星自体の改造の為のエネルギーは何処から出てるんだ」

《驚かれても困るのであっさり言いますと、神木には二代目の木がありましてそれを火星に打ち上げました。エネルギーはそれで解決です》

「……おい、実はアレは木ではないだろう」

《私もそこは強く否定できませんね》

「疑問が解決したところで翆坊主、何故エヴァンジェリンの魔力反応とこのアーティファクトを使た時と同じなのか詳しく説明して欲しいネ」

あ……やっぱり聞きますかそこ。
やはりややこしいことになったな。

《今までお嬢さんには言っていなかった事があるんで失礼ながら言わせてもらいます。エヴァンジェリンお嬢さんは既に吸血鬼の特徴の殆どを失っていますが、今一体どういう存在なのか説明しますと5%程神木の精霊と同化しています》

《えっキノ、エヴァンジェリンさんも精霊なんですか!》

「茶々円!次から次へと隠し事が多いぞ!その微妙な精霊化は一体何なんだ!」

「翆坊主、キリキリ吐くネ」

《いやぁ、これは機密情報に触れるのであまり言いたくないのですが、お嬢さんは真祖化の術式の改変の結果5%程度精霊化し、不老不死の特性は術式の効果もあり維持されています。どうやら不老の部分に関しては神木の影響範囲外になると効果が薄くなるようです。恐らく術式を弄った時以前より強くなったと思いますが、それは魔力供給が神木から行われているからです。ただし、魔力量自体の限界は増えていませんので一気に使えば供給が追いつかず、空になる事はあると思います》

「……100年前もそうだったが……忌み嫌われる吸血鬼でなくなっただけましとするか……。それで影響範囲外というのは魔法世界の事か」

《そうですね。お嬢さんが成長した理由の原因はそこだと思います》

「一時的に旅をしていた期間の分成長が進んだという事か。つまり魔法世界に行けば成長できる訳だな。それは良いな、ハハハ!……いや待て、そんな術式の変更ができるならば人間に戻る事もできるのではないのか」

そう言うと思っていたから今まで黙っていた訳だが……。

《……大変残念ですが、十中八九再度術式に手を加えてそれを行った場合、言い方に問題がありますが、即座に死に至ると思います……》

《……そんな……》

「マスター……」

「そうか……いや、気にしなくていい。茶々円がいなければ私の今の生活も無い。身体の成長に興味もあるが麻帆良からはまだ離れんよ。それに、話を聞いていれば近いうちに魔法世界でも成長できなくなるのだろう」

《……ええ、それが精霊の目的ですから。今まで黙っていて申し訳ありませんでした》

「私も興味本位で聞いてしまたがあまりいい話ではなかたナ。エヴァンジェリン済まないネ」

「元気を出してください、マスター」

「……ハハハ、私も丸くなったものだな。茶々丸、茶を入れてくれるか。少し落ち着きたい」

そっとしておくべき空気になりました。

《精霊は一度失礼させて貰います。サヨ、行きましょう、観測を続けないといけませんし》

《……そうですね、鈴音さん、エヴァンジェリンさん、茶々丸さんまた明日会いましょう》

精霊はダイオラマ魔法球の制限には縛られない。

超鈴音がここで一日過ごしても出る時にはまた夜という事になる訳だが、やはりその辺り問題あると思う。


あの後観測に戻り、しっかり一時間程した後超鈴音達は別荘から出てきて元の生活に戻った。
こっそり確認したところ、エヴァンジェリンお嬢さんは以前よりも更に雰囲気が丸くなっていた。
何か思うところがあったのだろう。
それに比例してお嬢さんのファンクラブの会員が増えることは間違いないと思うが。

超鈴音は別荘の中で久しぶりにぐっすり寝たらしく、戻ってきた後朝まで起きたまま修行と研究と粒子精製の作業を行っていた。
因みに、気になる超鈴音の科学でやる予定だった装備というのは恐らく00な敵側でよく使っていた「まだあるんだよ!」という飛んでくるアレだと思う。
そういうの好きそうだし。
実際視界拡張の効果で空間認識能力は人外のレベルになるから合っていると言えば合っている。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日から一日なのにほぼ二日という感じになてしまたが、エヴァンジェリンと図書館島に向かている。
途中図書館探険部の4人組が追い越していく時、私達の組み合わせの珍しさに驚いていたが今回は面倒な事にはならなかたヨ。
その原因は後ろにいるエヴァンジェリンなのだが、昨日の別荘から急にしおらしくなたからだナ。
道行く男子共もエヴァンジェリンの様子を見ると思わず動きが停止するあたり破壊力が凄いネ。
これはクウネルサンに合わせるのはいいが、昨日とは状況が違いすぎるのではないカ。

一般人は知らない入り口からエレベーターに乗て少し歩いた所で到着。

「エヴァンジェリン、着いたヨ」

「ああ、案内済まない」

……この反応のエヴァンジェリンは普段から考えると珍しすぎるヨ。

「クウネルサン、エヴァンジェリン連れて来たネ」

「超さん、ありがとうございます。久しぶりですねエヴァンジェリン。私の手紙読んで貰えましたか」

「手紙か……ああ、読んだぞ。……アル、久しぶりに会えて良かった」

クウネルサン、エヴァンジェリンの様子に気づいたようだナ。
驚いてるヨ。
昨日は一撃入れると言ていたのを聞いていた私としてもこれは予想外だからナ。

「どうしたのですかキティ、こんなに可愛らしい様子をするなんて。予想と違いましたが……これはこれで良いですね」

最後ぶつぶつ言ているが幸せそうだナ。
余程会えたのが嬉しいみたいだネ。

「不死について考えていてな。変わらないアルを見て少し安心した」

私はお邪魔な空気になているような気がするヨ……。
しかもキティという危険な名前で呼んだのに無反応だナ。
昨日の流れから行くとやはり不死のあたりの事だたカ。
昔までは不可能だた安らかな死が翆坊主達には可能であり、同時に永い時を生き続ける事も可能という事だからナ……。

「不死……ですか。私は完全な不死という訳ではありませんが、何かあればできる限り協力しますよ」

「なんだかお邪魔の用なら今日は私はこれで失礼するヨ」

「待て超鈴音、例の魔法とやら私にも手伝わせろ」

勢いを取り戻したようだが不安定だナ。

「超さん、幻術魔法の開発も早いほうがいいのでしょう」

「そうだネ。クウネルサン、エヴァンジェリンよろしく頼むヨ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

例の司書殿の手紙だが、失礼ながら拝見した。
ここ数年のお嬢さんの学園祭での様子などに関する感想が書いてあった。
魔法の研究に協力して欲しいとは一言も書いていなかった。
やはり予想は正しかった。
ただ、色々とタイミングが良かったというのもある。
普通に考えてどうやってお嬢さんの様子を知ったのかという事になったらすぐに私の所に容疑がかかるのは間違いない。
実際お嬢さんの学園祭の映像は既にサークル単位で近年麻帆良で販売もされているからおかしなことではないが、あの日の出来事のお陰で炎上しなくて済んだ気がする。

さて、あれから時は流れ期末テストもいつも通り過ぎ短い春休みである。
光学迷彩の幻術魔法の研究も進行中であり、自己顕示欲の強い木をしっかり隠す目処も経ったというものだ。

木自体の改造も図書館島の地下にある怪しげなゲートの情報によりあっさり解決し地球と火星を月一どころか常に繋ぐことができる正直ありえないものができた。
いや、ありえてくれる必要は十分にあるが。
サヨは何をするようになったかというと精霊体で火星を飛んだりしている。
勿論私も行ったが、正直何も無い、どこまでも赤い大地と二酸化炭素の固まったドライアイスしかない。
変な感覚になるだけだが、サヨはそういう何も無いところを高速で飛ぶのが面白いと言っている。
ともかく新しい趣味ができて良かったのだろうと思う。
現在は似たような方法で超鈴音のダイオラマ魔法球との間に粒子転送用のポートの設置作業を行っている。
と、言っても超鈴音が作成中である装置が完成した際に空間を繋ぐところだけが私達の仕事であるが。

数日前に超鈴音が再度雪広グループに出向いて例のまほら武道会の復活の件が近衛門を通して回答を得られたという事だったが、2002年度は無理だが2003年度は開催して構わないということになった。
恐らく赤毛の少年の事を想定しての事だろう。
超鈴音はその回答で今年は先送りだが開催する事ができるようになっただけで収穫はあったとその辺りは気にしていないようだ。
寧ろ、例の映像を今年度の学園祭で雪広グループ特別展示施設で上映が決まり、それに併せて編集された映像の販売がなされるという事が今は熱い話題である。
麻帆良の歴史は超鈴音が奇跡的に保存されていた映像を発見しカラーでおこし三次元にまで昇華させたという事で済ますつもりらしい。
それで通るあたり麻帆良はやはり変である。
例の認識阻害の効かない少女が見たらしっかり「ありえねぇ……」と言ってくれるに違いない。
他の自然編や宇宙編も超鈴音が作成した素敵なCGという事でゴリ押しであるがこちらの方が寧ろ普通に感じるのだから、実に現実感の無い映像に関しては扱いが楽だそうだ。
同時に認識阻害は効いているものの三次元映像技術が発表される舞台にもなるので今年度の麻帆良祭は動員数は更に多くなりそうである。

もう一つ進展があったのは、麻帆良の外れにある呪術協会支部であるが短期間で建設が完了した。
表向きは地上部分が教会である魔法協会と似たようなもので、日本、主に京都の文化振興の施設という扱いになっている。
龍宮神社ともこっそり呪符関係で手を結んだりとしっかりやる所はやっているあたり彼等も麻帆良に慣れてきたようだ。
因みに天ヶ崎千草は謀略をめぐらせる暇が今のところないぐらい忙しいので安全である。
というのも、例の一件でよりしおらしくなったエヴァンジェリンお嬢さんが先日あちこちのサークルの一年のまとめとしての発表に参加した結果、余りにも絵になりすぎていたため男女問わず強烈なインパクトを与え、着物、茶、日本舞踊などがブームになったところ、先の施設ができたからである。
裏の施設の筈なのに表でやたら儲かるというのはなんともタイミングに恵まれている。
しかもその原因が、今は闇という文字のかけらも見えない光の福音殿だというのだから皮肉な話である。

一方小太郎少年の方は、忍ばない忍者と双子の小学生が所属するさんぽ部に頻繁に参加するようになり、小学生が3人になった。
少子高齢化と言われる時代に珍しい風潮もあったものだ。
ただ、神木に何処吹く風という様子で登れる人数が2人になったのは微笑ましいと言えば微笑ましいが微妙である。

「今日もここから見える夕日は綺麗でござるな」

「めっちゃいい眺めやわー。また来るで」

「うむ、またさんぽに来るでござるよ、コタロー」

という会話が日常に頻繁に加わるようになったのだった。

何はともあれ概ね麻帆良は平和ということで良しとしよう。



[21907] 12話 全人類肉饅補完計画
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 19:44
まほら武道会を今年度復活させることは学園長が認めなかたが、翆坊主の話から考えるとご先祖様の到着を待ちたいという事なのだろうナ。
それでも今年は雪広グループとの協同展示の方での資料作成が忙しいからネ。

私の信念には世界に肉まんをという標語があるが、有言実行に限るネ。
五月達で運営している屋台だけではなく、更に2号店、3号店と出店計画をしなければいつまで経ても野望は成就できないからネ。
そこで、この前の会合で雪広グループの社長が超包子の肉まんを好きだというのだから、麻帆良の外への出店計画についての協力を申し込んでみたヨ。
その時出席していた社員の人達は、なんと皆超包子の肉まんを気に入てくれているようで「超包子はブランド化できる!」という事で話はあという間に進んだヨ。
まず最初の足がかりとしてインターネットで超包子の肉まんを味を落とす事なく瞬間冷凍したものを4個を目安にして箱詰めして通信販売という方法を取る事になたネ。
流通経路の確保、販売促進は両方とも雪広グループに協力してもらう事になり、麻帆良祭では超包子の常駐支店を雪広特別展示会場のすぐ近くに建てる事も視野に入れる事になたネ。
いくら麻帆良最強頭脳であても、麻帆良を出てしまえば科学系はともかく食品業界にツテは無いから当然だナ。
まだ気が早いかもしれないけど、ハカセとロボット工学研究会にも五月の調理技術を模倣できる設備を作ることを頼むことにしようと思ているヨ。
五月は自分で作たものを他人に食べてその日を元気に過ごしてもらえれば良いという考えだから店舗拡大という事には興味はないかもしれないが。

しかし私の生活も毎日毎日予定が詰まているものだナ。
魔法球で魔分有機結晶粒子の精製、ポート作成、修行、新型魔法の開発。
図書館島で二人と光学迷彩魔法の研究。
中国武術研究会で古と小太郎君の相手。
ロボット工学研究会でハカセとさよと研究。
お料理研究会で五月と地道に人材の育成。
東洋医学研究会での会長業務。
生物工学研究会で例の魔分有機結晶の有機部分の情報を小出しにした研究。
量子力学研究会で現行技術に基づく新型通信技術と量子コンピューターの研究。
そして雪広グループとの提携。
一週間ではとても回らない生活パターンだヨ。
翆坊主の言う魔法球の時間を変更しない方が良いというのは分かるが、現実の流れを増やさないとこちらは解決しないネ。
高速思考が可能とは言え、まさに時は金なりという事だナ。
疲労感が溜まるかというと、仮契約する前と違って世界樹の加護の効果で精神力が強化されたり、魔分供給で身体機能が向上するものだから寧ろ以前より頑張れるヨ。

因みに何故東洋医学研究会で会長職までやているかと言う事だが、西洋医学で治せない事も私の知識でなら治る事があるからだヨ。
日々一日を健やかに過ごす事を助ける事ができるならささやかでも私は労力を惜しまないネ。
他に外科はともかくとして医学方面にも関係を広げておきたいという事もあるが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

皆さん相坂さよです。
私はこの秋から冬にかけて超包子で五月さん達と働きに働いて中学生にしてはかなりの額を稼ぎました。
なんとなく高畑先生と新田先生と特に弐集院先生の財布の中身が流れて来たという感覚が強いですが、私が幽霊になったばかりの頃に比べると洋服を始めとして色々充実しています。
今までできなかった事をしっかり実現できていて楽しいです。
最近エヴァンジェリンさんが火をつけた日本文化がブームになっていて奮発して着物を買ってしまいました。
衝動買いができるというのもやはり生きている醍醐味の様に思います。
この買った着物を実際に着てみたのですが、身体が覚えている、というのも変ですが意外と普通に着られました。
少し生前の事も覚えていることがあるんだなと嬉しいような少し寂しいような気がします。

一方、鈴音さんと葉加瀬さんはそれどころではないという感じでいつも大忙しですけどね。

ここ数ヶ月キノの暗躍が激しかったですがあえて私のこれは!と言えるような活躍を思い出してみます。
去年の秋のウルティマホラである程度……勝ち進んだ事……。
鈴音さん達に新しい身体!を作ってもらって新開発のための計算、いえ、辛くなんかないですよ!
しっかり対価を貰いましたからね。
龍宮さんへの映画の報告は役だっています!

そしてなんといっても神木からの観測、火星の探査です!
今の火星環境ではまだ生身の人間であればすぐに死んでしまうような状況ですが精霊体である私は範囲内ならばしっかり見て回れます。
夜になると一切地上の光が無い世界ですから星空がとても綺麗なんですよ!
それにたまに強烈な嵐が起きるんですが、なんていうか雨の日や台風が来ている時にあえて走りまわりたくなるような感覚と同じで無性に楽しくて、それでいて地球のものとは比べ物にならない光景なんですから!
今までも映像が送られてきたというのは確かですが直に空を飛んで見渡すというのはまた違います。
環境が改善されて魔法世界と同調してしまえば、なかなかこうして今この時に感じるという事はできませんから得した気分です。
人間が住んでいない原始的惑星から見える世界とはこうもあるというのを身をもって知ることができる私は全人類で初めての経験をしているに違い有りません。
別に哲学的な事がどうとか言うのは綾瀬さんではないのでわかりませんが、ありのままに感じることは私にもできます。
そのうちまたこれも映像化してみたいですね。

そういえば鈴音さんの新型魔法の開発でしたが、まさに機動戦士のアレに近いものがビュンビュン飛んでたんです!
鈴音さんに聞いたところ、指で操った方が反応は早いけれど最終的には演算能力で管理した方が効率がいいらしいです。
自然体でかつ目の虹彩が輝いたまま十数本の光の刃を飛ばしているという姿は漫画や映画だとどちらかというと敵側の強いキャラクターの一人という感じですが、私達精霊にとっては鈴音さんは主人公側なのです。
因みにビームサーベルみたいなのは無いんですかと聞いてみたところ、「さよ、そんなこともあろうかと!」と両腕から魔力剣が出現しました。
しかも今度は足にも形成してみたいんだそうです。
ただ、まだ完璧とは言えず未完成の状態との事です。
寧ろもう鈴音さんで映画が作れそうですね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ここ最近で一気に忙しくなった超鈴音だが、高速思考やアーティファクトの効果があるとは言え、日々を確実にこなすのだから本当に大した少女だと思う。
表でかなり目立ち始めた超鈴音が裏よりも表で命を狙われることがないかと最近心配になってきたのは気にしすぎだろうか。

ここで恒例の火星の様子の確認を行うとしよう。
前回年末の時点では酸素の大気組成は3%だったが更に4月現在の今ではあと少しで6%という所になっている。
酸素の組成は上げすぎる必要もないがあと丁度1年程度は上げていく予定だ。
前回よりも上昇率が下がっているのは他所に出力を回していたからである。
これからは地球側からも魔分供給を行うのでまた上昇率も元にも戻るだろう。
また、火星の平均表面温度及び平均気温も以前より大分上がってきているため、いずれは嵐になっても二酸化炭素がドライアイスになったりという事も減っていく筈だ。
とはいっても0度のラインを抜くのはまだ先なのだが。
今回の大きな成果といえば4ヶ月近く地中活性を行ってきた事もあり、ようやくマントルに第一歩というべき対流が発生した事だ。
一度動きだしたからには徐々に流れを活発にしていく必要がある。
と、このような状況で着実に成果を上げているので問題なしだ。

《翆坊主、さよは既に受けてくれたが、特設展示施設での職員として働いてもらいたいのだが良いカ》

突然何の話ですか。

《え、私も身体に入って麻帆良の説明をするんですか。確かに麻帆良で知らない事はほぼないですから適役ですね。でしかしサヨならいいですけど、いきなり戸籍不明の謎の翆色の人物が学園祭の期間中だけ現れたとなっては怪しすぎませんか》

《そう言うだろうと思たけど、前にさよの新しい身体!や翆の大小の身体を使た事があるのだから、改めて全然違う素体を用意すれば済むのではないのカ。戸籍不明に関しては私と雪広グループの手にかかればどうということはないヨ》

そういえば身体って作れば何でもできたのだった。
こうしてみると明らかに後ろめたい人達からすると便利すぎる機能だな。
頭が硬くなっていたつもりはなかったがやはりそういう事には自分では気づかないものなのだろうか。

《うっかり忘れてましたが言われてみれば可能ですね。ですが、人の出入りが激しくなる時間帯は観測をしっかりしますから一日中という訳には行きませんよ》

《分かたネ。その辺りは配慮するから安心するヨ。終わたら肉まん用意しておくから好きに食べていいヨ》

そういえば一体目の茶々円の身体が関西での最後を迎えて以降、物を食べられる身体に入っていないな。
入るものはいくらでもあるのだけれど……。

《久しぶりに超包子の肉まん食べたいですね。是非手配お願いします》

随分安い対価で労働する事になった気がするが、超鈴音の協力の元ここまでやってこれたのだから何も不満に思うところは無い。

《翠坊主、一足先にその超包子の肉まんが麻帆良を飛び出して世界への道が開ける事になたのは知ているナ》

《はい、知っていますよ》

《一つ確認するけどさよの合気柔術の型が見事なのは精霊の能力の一つなのカ》

そういえばトレースの事は言ってなかったな。

《ええ、そうです。動きを模倣する事をしっかり繰り返せばその行動をプログラムとして保存できます。サヨの合気柔術のデータは昔私が記録したものです》

《そうと分かれば話は早いネ。これで開発が短期間で済むヨ。少しさよに力を貸して貰うネ》

流れから言って話は読めたな。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

春休みもあっという間に終わり私達は中学二年生に上がりました。
今年も担任の先生は高畑先生で副担任の先生は源先生です。
この二人が付き合っているのではないかという噂があるのですが、これをとうとう神楽坂さんが聞いてしまいました。
真っ白に燃え尽きたというのはああいう状態を言うに違いないです。
同時にそのあと近衛さんのフォローを受けてからの立ち直りも早かったですが。

去年に引き続き身体測定もありましたが私の身体は一切変化がありませんでした……。
改めてこの体が作り物であるというのがよく分かります。
でも一応15歳の身体なのでまだそんなに気になりません。
一方鈴音さん達はしっかり身長が伸びていました。
一部去年の時点でおかしな人達もいましたが深く考えてはいけないと思います。

ところで、今日も超包子で働く筈だったのですが、鈴音さんと五月さんに連れられてお料理研究会に行く事になりました。
……どうも鈴音さんの様子が若干マッドサイエンティストモードのようで嫌な予感がします。
五月さんも正直何をするのかよくわかっていないみたいなので不安です。

「さよ、五月の肉まん調理技術を習得するネ!」

あれ、私が料理する側に回るだけですか。
でもそんな筈は……。

《サヨ、何をするのか聞かされずに連れて来られたようですね。簡単に言うと合気柔術が使える要領で肉まんの調理技術をトレースして欲しいと言う事だと思います。後は新しい体!と言えば分かりますよね。では頑張って》

……突然翠のお告げが一方的に聞こえました。

料理の練習という名のロボット開発のためのデータ作成ということですか。

何だか便利家扱いされてますが、それでも、あえてこの任務やり遂げて見せます!

「今お告げもあったので、料理頑張ります!」

「相坂さん、お告げはよく分かりませんがしっかり練習しましょう!」

鈴音さん以外の皆さんはお告げって何という様子でしたが、こうして肉まん調理の特訓が始まりました。

超包子の肉まんは皮も独自の物を使っているため一から生地をこねて作る必要があります。
今まではなんとなく五月さんと時々鈴音さんが作る所を見ていただけでした。
でも、いざやってみると本当に中学生なのかという程なめらかな動きで二人が料理しているというのがよく分かります。
それぞれの材料の分量と比率に始まり、生地のこね方とその時力加減、肉まんの具に適したサイズにするための材料の切り方、しかも特に重要な肉については細かい決まりがあり、更に蒸した時に具と皮の間に空洞ができないようにする工夫、蒸す時の肉まんの配置、時間、水分、温度の調節と極めつけに五月さんの一般人よりも温かい手の温度であるとか、他にもあるんですけど省略します……。
とにかくこれらの動きを全てトレースする訳で目標は学園祭の前には習得ということなのであまり時間がありません。
こういう時は気合いでなんとかすればいいと誰かが言っている気がします!
実地でやっているだけでは時間が足りないので夜も木の中で五月さんの観測映像を見ながらその動きを精霊体の状態でですがなぞって行きます。
キノが言うには動作のトレースは精霊体よりも実際の力加減がわかるインターフェイスの方が早いだろうと言うことで、この状態の時は力があまり関係の無いものを学習することにします。
最初は良かったですけど、なんだかキノの近くで練習するのはシュールになってきてしまい、気分を変えて火星の木で練習したりもしました。
それについて火星の無駄遣いと言われましたが、どちらかというと火星の有効利用だと思います。
日に日に上達して行くので五月さんからは「筋が良いですよ」と褒められましたが、たゆまぬ努力の結晶なんです。

5月下旬の中間テストもなんのその、いつも通り2-Aで4位までを独占し6月頭、ほぼ完璧な肉まん調理技術をトレースしました。
お披露目にクラスの皆に食べてもらった所「いつ食べても美味しいね!」というある意味至上の評価が貰えたのでこの難度の高いミッションを達成できました!

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さよが全人類肉饅補完計画の第一段階を進めている間、私はエヴァンジェリンとの光学迷彩魔法の合間にある興味深い事に気付いたネ。
焦点は神木の精霊の力を借りた魔法は一体何に分類されるかという事だヨ。
結論から言えば、基本魔法は全て神木の精霊の力にあてはまるという事がわかたネ。
精霊の使命とやらが世界に魔法を残す事というのを実現するかのように、万人向けが売りなのだろうナ。
ただ魔法世界ではその辺りはどうなているかは試してみないとわからないネ。
攻撃性のある魔法に転換できるかもやてみたが、基本的に光の精霊との親和性が高いみたいだからあまり意味がなかたヨ。
防御魔法の方ではアーティファクトの異常なフィールドを見るに適正があるだろうと目を付けて、エヴァンジェリンも枚数で数えるタイプの魔法障壁よりも障壁の層のように展開できるのは防御面で優れていると言ていたネ。
その場で受けとめきれない場合突破されてしまうものとは異なり、徐々にめり込んでいくタイプだから咄嗟に強力な攻撃を受けても瞬時に体勢を整えられる筈だナ。
仮に攻撃魔法で使えたとしても、詠唱の時に口が裂けても、機密に関わてしまう為、神木だとか初源の精霊などと言えず、結局無詠唱しか日常では使用不可能という事になるから、丁度いいのかもしれないけどネ。

もちろん魔法球でもきちんと粒子精製も進めて、併せてポートも翆坊主から提供された情報を基に完成させたネ。
また新しく次にやるべき事が増えるんだろうが一つやるべき事が終わただけでも楽になるナ。

回想はここまでにして、今はさよが努力して記録した行動プログラムを新しい身体!に入て貰てダウンロード中だヨ。
ハカセにはさよの幽霊みたいなものの能力で人体の行動パターンをプログラム化できるか実験してみるネ!と少し騙すような真似をしたがいつも通りテンション上がて来たみたいで良かたネ。
実際私も今画面に表示されている複雑なプログラムに感動してるヨ。

「相坂さん、前回の計算能力も驚きでしたが今回も凄いですね!こんなプログラムを持っているなんて幽霊というのはオカルト等ではなく情報生命体なのかもしれません!」

ふむ、情報生命体というのは的を射てるかもしれないナ。

「私もこんな風に表現されるとは思いませんでした」

「このプログラム言語ならば今までできなかた事も実現できるかもしれないヨ」

「次はこれを再度ロボットアーム等にインストールして最適化する作業ですね!いえ、茶々丸タイプのボディにそのままの方がいいでしょうか、しかしそれでは大量生産が達成できませんか。ただプログラムを再現出来るだけのスペックが機械側にあるかどうかの確認をしないといけませんし……」

完全にスイッチが入てしまたようだナ……。

「さよ、これからは超包子で調理と配膳の両方を店の状況を見て切り替えたら良いヨ。データを取る為だけにやた訳では無いからネ」

「そうですね。五月さんに任せきりの料理の手伝いがこれでできます!」

「頼むネ、さよ。ハカセ、どちらも試してみたい所だが、まずプログラムの解析と分割をして理想の動きを再現させられるよう大量生産型の機械を開発するとしよう!」

私も考え出したらワクワクしてきたヨ!

「こんなに研究対象として凄いプログラムはなかなかありません。ええ、きっと解析が完了すれば人間の動作だけではなく動物の動きも忠実に再現できるようになるかもしれません、なんて素晴らしいのでしょうか!!」

その気持わかるネ、ハカセ!!
科学の発展のために完璧な動作を再現してみせるヨ!!

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慌ただしい二ヶ月だった。
夜になるとサヨが木の中でシャドー肉饅料理をするわ、恥ずかしいからと火星でやるも観測してるものだからチラチラ情報に入ってくるわでなんだかんだせわしなかった。

そろそろ麻帆良祭も近いので身体も用意した。
モデルは00な組織の創設者の老人である。
やはり歴史の解説と言ったら学者っぽい方が良いだろう。
サヨも解説するというのだから祖父だとでも通せば意外と自然ではなかろうか。
名乗るとしたら 伊織修平 等と言うのがなんとなく良い気がする。


さて、今何をしているかと言えば、めでたく完成した木と超鈴音の魔法球を繋げるポートの開通式である。

《超鈴音、接続作業を行いますよ》

「いつでもいいヨ。翠坊主の提供してくれたゲートの情報を参考にしてるから性能には問題は無い筈ネ」

「いよいよですね」

-接続開始-

……状況は良好、と。
基本的に一度神木・蟠桃を経由させて続けて二代目に転送させられるようにしてある。

《お見事です、超鈴音。これなら実体のある物質も転送できますよ》

「これで貯めに貯めた粒子もようやく役に立つナ。で、実体があても転送できるという事は、私も木の中に入て実際に見ても良いと言うことになるのカ」

映像で木の中で生まれた華については見せた事があるから興味があって当然か。

《一応華を格納していた頂上の場所にゲートを設置しているので今は何も無いただの亜空間になっていますが……そうだ、第二世代から華を転送させましょうか》

すっかり火星側に放置していた忘れかけていた宇宙船だったがゲートを使えば移動もできたのだった……。
因みに安置所にゲートを移動させる事も可能だがあまり紹介したくないので却下である。
また観測空間だけは精霊体でないと侵入はできない。

「おお、宇宙船見せてくれるのカ!それはすぐ行くネ!」

《分かりました、今手配します。サヨは久しぶりにその身体を安置所に並べてみますか》

「いらない配慮です!」

《冗談です、ゲートの設定を変えるのは可能ですがやっぱり面倒ですからね。それでは準備できたので宇宙船の見学ツアーへようこそ》

「人類初、木の中に入るネ!」

華が誕生した空間に実際に入れた喜びに超鈴音はテンションが上がりまくっている。

「映像では見ていたが宇宙船というものがこんなに美しいというのは生命の神秘だヨ!人間の想像ではもとこう金属の塊だたりする筈なのだが、これはなんと言ても全体のバランスの良さといいこの手触りといい素晴らしいネ!」

あれ……手で触った事……ないな。

《そんなに手触り良いのですか》

「キノ、私も触ったことなかったですけどこれはなんとも言えない良さです!」

そこまで言うなら触ってみないとな……。
後でゲートを二つ繋いで安置所からも移動できるようにするか。

《私もそのうち触ってみる事にしますよ。それで、乗ってみますか》

「是非乗てみたいネ!……と言いたいところだが、これの所有権の譲渡を約束されているし、お手付きのような気がするから今日はまだやめておくヨ」

意外とそういう記念的なものを大事にするんですね。
すぐに内部の研究を始めるのかと思ったのだけど。

《私達としては超鈴音ならいつでも乗ってもらって構いませんからその気になったら言ってください》

「感謝するネ翆坊主、さよ。……ところでこんな所で何だがクウネルサンが図書館島から出れるように学園祭の時だけでも麻帆良全体の魔分出力を上げないのカ。私が知ていたデータだと毎年学園祭の時期になるとある程度神木の反応が上がていた筈だたが、こちらに来てそれが無いのがわかたからナ」

ああ、適当に22年に一度だけ発光させてたんだった。
それ以外は常に、特に変動もなく少しずつ一定の勢いで魔力溜りに魔分を供給しておいていたのだった。

《それは私の手抜きで22年に一度だけ出力を上げていたのが原因ですね……。また歴史云々の問題でややこしいですが、司書殿も22年に一度出力が上昇するというのは理解しているからこそ、あそこにいるのだとは思いますが、光学迷彩の魔法にも協力して貰っていますしなんとかしましょう。今更学園祭の時に出力を上げるのも変なので個人的に魔分供給する方向で解決させますよ》

エヴァンジェリンお嬢さんの映像の件も掘り返されたら堪らないし、今年は直接見学してもらうとしよう。

「歴史の問題については確かに気にしない方がいいカ。では、クウネルサンは頼むヨ」

《了解しました、任せてください》

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という訳でクウネル殿の所へやってきた。

《クウネル殿、光学迷彩の魔法への協力感謝します。そのお礼といっては何ですが、今年の学園祭は外に出てみませんか》

「おや、キノ殿久しぶりですね。私もまた協力させてもらえることで超さんとエヴァンジェリンに会えていますからそれなりに満足していますよ」

《それは良かったです。実はこの頼みは超鈴音からの物なのですよ。失礼ながら私はすっかり考えから抜け落ちていたもので》

「超さんが……ですか。……そういえば重力魔法が完成した時にも似たような事を言われましたね。それでは、お言葉に甘えておきましょうか」

《お嬢さんの晴れ舞台を直に見てくると良いと思いますよ》

「……キノ殿、寧ろ私に今回は実際に見て欲しいと思っているのでは」

あ、墓穴掘ったか。

《ははは、お互い様ということで済ませませんか。わざわざ火種を大きくするのもよくありませんし》

「私としてはそういうエヴァンジェリンも見てみたいですね。この前は予想と違う反応のまま有耶無耶になってしまいましたし」

そういうの期待しているのは勝手にすればいいけど巻き込まないで下さい。

《お嬢さんも最近また以前の状態に戻って来ているようですから一人で頑張ってください》

「木を氷漬けにされては困りますか」

《困ります。勘弁してください》

まあ実際そうなる事はないだろうがあったとしても魔法を妨害すれば済むのだけれど。

いよいよ2002年度の学園祭の幕開けだ。



[21907] 13話 赤毛の少年 1人! 来りて 大志を抱け 魔法の先生 2A・31人!!
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2011/02/08 01:04
話は少し遡るが、麻帆良の歴史説明用インターフェイス伊織さんの件だ。
怪しまれないように周りに気を配りつつ、木から出て超鈴音と雪広グループが手配したホテルに向かったわけだ。
そこで学園祭の前に予め泊まり、主に何を説明するのか等を超鈴音、サヨ、社員さん達と話しあいつつ身体を放置するという寸法だ。
しかし、現実問題この有様である。

「済まないが、お爺さんは誰ネ」

「私もこのお爺さん知りませんよ」

わざとなのか何なのか正直困る。
何サヨはこそこそ超鈴音に話しかけているのか。
こうなったら逆にそのまま押し通る!

「伊織修平と申すものじゃ。今年の学園祭で麻帆良の歴史を語ろうぞ」

……そんなにうんざりしたような目をしないで欲しい。

「……翆坊主、違う素体を用意すれば良いとは言たが何故わざわざ年寄りにしたネ。その名前もどこから来た」

「キノのイメージってなんか変な偏りがありませんか」

「ぬう、不評のようじゃがさよの祖父等と通せば自然かと思うての。名前は珍しく思いついたのじゃ」

「さよ、お祖父さんだそうだヨ」

「この人が私のお祖父さんですか……。全然似てないです……」

こんなわざとらしい遠い目は初めてだよ!

「この老体に立場なしというのも何じゃ。中に入らせてもろうても良いかな」

「その口調はわざとなんだろうナ。社員さんの前ではその方がいいけどネ。着いてくるヨ」

お互い様ということで。

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私達「超一族」は今年のクラスの出し物には殆ど参加する時間がなくて申し訳なかったのですが、そこはいいんちょさんが「数人減ったところでなんとかしてみせますわ」とまとめてくれたので好意に甘える事にしました。
もしかするといいんちょさんは雪広グループのお父さんから何か言われたのかもしれませんね。
今回は超包子の麻帆良外への展開の為の大事な機会であり、飛べる超包子の屋台も特別展示施設の近くに用意されたスペースに常駐することになりました。
恐らくあちこち飛びまわるよりもあそこが一番宣伝になりそうだからです。
6月頭に収集された肉まんの調理データは葉加瀬さんが工学部の人達と共に研究室で徹夜を敢行した結果、およそ2週間で大量生産可能な設備が完成しました。
その完成した瞬間には強烈な雄叫びが外からでも工学部棟から聞こえる程で余程限界だったのかその後は屍累々の地獄絵図でした。
床に倒れたままでぶつぶつと新たなロボットの開発について呟いている人達は不気味なのであまり見たくはないものでした……。
この設備はしっかり屋台の近くに突貫工事で建設された建物で稼働させ、できたものは冷凍のお持ち帰り用と、その場で食べる用として売りに出します。

そして、とうとう私が復活してから二度目の麻帆良祭が始まります!


今年の超包子開店式in麻帆良祭では鈴音さん、五月さん、古さん、茶々丸さん、葉加瀬さん、そして私に、雪広グループから派遣されてきた綺麗なお姉さん達が加わっています。
最強の布陣です。

「去年に引き続き今年も超包子で世界に肉まんを届けるネ!」

「「「「「「世界に肉まんを!」」」」」」

こうして開店式で気合が入ったところでお客さんに売って売って売りまくります!

見て下さいこの料理の鮮やかな動きを!
この3ヶ月近くの間に洗練された料理の腕はかなりのものです。
肉まんの調理技術習得後は他の料理も短い期間でしたが練習したんです。
麻帆良祭開始早々に三次元映像技術の噂で持ちきりの特別展示施設は既に長蛇の列を成し、そこから並ぶのも面倒という事でまだ昼前に関わらず超包子に人々が流れてきます。
どこの席が最初に埋まるかと言えばそれはカウンターです!
五月さん、鈴音さん、私の三人体勢で繰り広げられる厨房はカウンターから見ることができるので人気の席となっています。
予想以上の混雑で今からこの状況では、昼時には一体どういう事になるのかと気が遠くなりそうな所、鈴音さんがお料理研究会の腕利きに電話し始め、直ぐに応援に来てもらえることになりました。
そうでないと私と鈴音さんは特別展示施設での仕事もありますから大変です。
一方ウェイターの仕事をしている古さんの動きは曲芸のようですが、社員のお姉さん達の動きも無駄がありません、必ずお持ち帰り用の肉まんの宣伝をしているようで葉加瀬さんが販売をしている肉まん専用窓口にも列が出来始めました。
従業員は女性一色で構成されている華々しい空間もあって、お客さんの構成人数の多くは男性という有様ですが、実にわかりやすいですね。
今回は去年とは違い材料の補充はグループの協力のお陰でほぼ無尽蔵ですから驚異的売上を記録するはずです。
程なくして高畑先生達も来てくれて、余りの人数の多さに驚いていましたが、頑張ってねと少し声を掛けてくれた後その場で肉まんを買って行ってくれました。
いつもお世話になっている先生達にはゆっくりしていって貰いたかったですが、割り切るしか有りませんね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

私の麻帆良の歴史説明の仕事も打ち合わせ通り始まった。
社員さん達は私の存在については疑問に思うところばかりだろうが、深いところまで聞いてくることもなく助かった。
逆になんでそんなに詳しいんですかとしつこい人達が現われると直ちに彼等は現れては「それ以上は正規の手続を行って下さい」とどこかに連れていってくれる。
人間の組織力というのは大したものだと思う。
因みに今のでわかったかと思うがその犠牲になったのは2-Aの朝倉和美も含まれている。

「失礼ですがお爺さんは何故そんなに麻帆良に詳しいんですか。私も情報に詳しい者ですが伊織修平さんという方の名前を聞いたことがありません、詳しくお話聞かせてください!」

と去年から一年経ってパパラッチな度合いが更に上昇し、目の光り方が怪しくなっている彼女には早々に退場頂いた。
南無。
というかこの施設に入るための長蛇の列に真面目に並ぶだけでもかなりの時間がかかるのにクラスの方はいいのだろうか。

後で分かったことだが、エヴァンジェリンお嬢さんに雪広あやかが是非是非と頼み込んで着物の着付けコーナー的なものをクラスで展開していた為ローテーションで回せば良く、一時に人員を必要としないのが原因だったようだ。
春にブームになったのがまだ続いているのか、普段は高くて手が出ないような着物を着れるとあって、2-Aの少女達自身と客達にも好評と相成った。
しかしまあよくお嬢さんが了承したものだと思う。
その噂を聞きつけた大学生たちが女子中等部に流れこむようになったのは二日目以降であったそうだが。

午後に突入し、また2-Aのお嬢さんがやってきた。
何処かで見たなと思えば図書館探険部の綾瀬夕映である。
超鈴音を図書館島に連れていったあの時は孫娘の仲間たちその1の扱いであったがご登場。
どうやら彼女は神社や仏閣のマニアであらせられるようだが、今回麻帆良の詳しい建設の歴史がわかると聞いてやってきたようだ。

「お爺さん、麻帆良の詳しい歴史を教えて下さいです」

語尾に特徴があって楽だとかそういうメタな事を気にしてはいけない。
なんていうか朝倉和美とはまた違った目の輝き方でこちらは好感が持てて微笑ましい。

「良かろうお嬢さん、儂の知る範囲で答えるぞい。まず何時の頃を知りたいかの。この機械で映像も好きな物を選べるから言うてみるとええぞ」

「……この映像技術は凄いです……。それではまず麻帆良発祥当時の事をお願いするです。当時の資料は殆ど概要程度しか残っていないので興味があります」

そう、麻帆良学園都市発祥当時の資料で公的に知ることができるものは恣意的に削られている事が多い。
何故かといえば、初代学園長は一般人であったが、それ以外の魔法使い達の手によってその後魔法世界のメガロメセンブリア、上部組織との繋がりができ徐々に勢力を伸ばし今に至るという訳だ。
それが良いか悪いかという評価はともかく今は伝統ある近衛家の現最有力者である近衛門の影響力もあり、中身が真っ黒等という訳でもない。
単純に謎の地下施設がやたら大規模に広がってしまったのは事実であるが。

「分かったぞい。まず建築のモデルとなった……」

長々と30分程説明に費やした気がするが、少女の目は真剣そのものだった。
図書館島について聞かれたが、図書館探険部をやっているのだったら自分で究明した方が面白いだろうと言った所「それは一理あるです」と理解頂いた。
何故探険部か分かったのか聞かれたがあからさまな腕章しているからという説明で納得してくれたが、前から知っていたのも事実である。
この後彼女はサヨも歴史に詳しいという事を知ることになり詳しくサヨに追求する事になったのはすぐ後の話。

午後三時に施設の一角で、超鈴音と雪広グループ社長と傘下の電機メーカーの方々が出る説明会と引き続き記者会見が行われ、麻帆良の歴史云々よりも異常な技術力の塊である三次元映像装置の発表が行われた。
任意に座標指定した視点から自由に映像を見ることができる訳で撮影機器の方も超鈴音がアーティファクトで得た視覚拡張の感覚から近いうちにやってのけるそうなので、そういった説明の場となり超満員だった。
席に集まっている殆どがマスコミと国内含め、各国の同業他社、警察機関の方で構成されていた。
一つおかしな物が混ざっているように見えるが、視点の自由度という発生により今まで証拠が曖昧だったりする防犯カメラ等の新たな段階という事で視察に来たらしい。
精霊個人として何に驚いたかと言えば超鈴音の口調が一番であった。
普通に話しているのは違和感しか無い。

次の日、テレビ放送で超鈴音が麻帆良の枠を飛び出し全国に顔が出たかというと、その辺りはしっかり配慮がなされていてとりあえずは名前が小さく出るだけという事になった。
当然それでも直接取材にくる方々もおられたと思うが雪広グループのエージェトはパーフェクトであり、抜かりは無かった。
実際今の生活パターンから更に連日取材という事になったら流石に限界だろう。

普段の麻帆良であれば、この手の事は専門機関の暗躍によってニュースになったりすることはないのだが、今回は超鈴音の超包子の展開や雪広グループにとっての利益等、諸処の事情により珍しく意図的に外部に情報を流す事になったのである。
どう考えても、部活やら研究会やらで飛行機が麻帆良の街並のすぐ上空で普通に飛んでいるのは非常識であり他所で話題になってもおかしく無いし、極めつけには巨大ロボットが闊歩しているのはかなり異常だと思うのだが、麻帆良の為せる奇跡はもはや何でもアリだ。

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三日間の学園祭もあっという間に過ぎ動員人数も数年連続で記録を突破するという全体としても華々しい成果に終わりました。
インターフェイスの身体は疲れが殆ど溜まらないというかなりずるい性能なのですが、この三日は生き抜いたという実感が強いです。
朝から始まり夜まで営業し続け、五月さんも途中何度も休憩を挟みましたが一日が終わるたびに寮で爆睡するという有様でした。
一方古さんの体力が無尽蔵なのは社員のお姉さん共々唖然とするしかありませんでしたが。
安くて美味しい!が売りである超包子の3日間での売上は肉まんだけで300万円を記録、通常の料理200万との売上を併せて約500万円となりました。
低価格設定と販売の規模からすると正直異常としか言いようがありませんが原因は営業時間の長さ、材料が尽きないのと、初稼働であるにも関わらず、一日1万個もの大量生産が可能であった機械の働きが大きいです。
もし手作りでこの数を生産となれば過労で五月さんも元の私のように幽霊になってしまったかもしれません。
それでも単純計算すれば一人4個詰めで一日2500人にしか売り切ることができなかった、と麻帆良祭動員人数から考えればもっと売れた可能性はあるかもしれませんが時間的、人員的制約から見れば仕方なかったかもしれません。
食べてみたかったけど食べれなかったという人達は通信販売でも買えますという宣伝のみになってしまいましたが、口コミでおいしさは浸透しているはずなのでこれからが楽しみです。

そうでした、私の麻帆良の説明の仕事もしっかりこなす事ができた筈なのですが、朝倉さんと綾瀬さんという変わった組み合わせでの追求がクラスの打ち上げで発生し逃げまわるのが大変でした……。
宮崎さんと同じく本好きというイメージの強い綾瀬さんが意外に走るのが早く、図書館探険部という名前だけでは判断不可能なポテンシャルだったのは脅威でした。
というか高畑先生は笑って見てないで助けてください!

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学園祭が無事に終わって7月上旬、図書館島に集まり、光学迷彩魔法も完成を迎えた。

《クウネル殿、今年の学園祭はいかがでしたか。結局分身体という事になってしまいましたが感覚は共有されていたのですよね》

「ええ、今年は楽しめましたよ。実際に見るのは良いものでした。エヴァンジェリンの晴れ舞台も見れましたし満足していますよ。超包子の方は混みすぎていて諦めましたけどね」

「肉まん食べたかたらまた今度持てくるから任せるネ」

「アル、私についての感想を聞こうか」

「それはもう、とても見目麗しくて心が洗われるようでしたね。……ただネコミミをつけたりスクール水着を着たりするのも私は良いと思いますよ」

また何言ってるんだこの司書は。

「クウネルサン、それはいくらなんでも日本の文化には場違いだヨ……」

「……では今この場でつけて貰いましょう」

そこでキュピーンとかいう効果音付きで目を光らせるのは何ですか。

「いい加減にそういうのやめろ!褒めるなら褒めるだけにしておけ!一発殴らせろ!」

「こらこら、暴れてはいけませんよ、キティ」

「その名前で呼ぶなと何度言ったら!」

お嬢さんが殴りかかるも身長差で一撃も当たらないという流れは予想できたが、こういうからかい方をするのが好きらしい。
二人が落ち着くまでしばらくかかったがやっと本題に入れた。

「翆坊主、まずこの魔力を込めてある球体で実演してみせるヨ。アデアット。幻術迷彩魔法起動」

光学という部分は何処へやら。
しっかり半球に偽装がされているのがわかるな。

《半球だけであればコストも少なくて済みますね》

「地球側に面してる公転面に常に発動させる計算もきちんとしてあるから万全だヨ」

抜かりはないようで。

「そんなに急いでいないと聞いていましたから完成までに重力魔法の時よりは大分かかりましたがこれでまた解決ですね」

「茶々円、この魔法を開発したのは良いが今火星がどうなっているのか見せる事はできないのか。開発に携わってどう使われているか確かめたい」

《そんなこともあろうかと!ですよね》

「翆坊主、それは私のセリフだヨ。以前の映像だが持てきたネ」

「荷物が多いと思ったら用意していたのか」

《クウネル殿もご覧あれという所ですが、実際何もありませんから激しい天候変化と星がはっきり見える映像という感じですね》

「用意できたヨ。上映開始ネ」

私は見慣れた映像であるが、お嬢さんは意外と喜んでいるな。
司書殿も興味ありというところか。

《超鈴音、例の映像技術の公表でしたがあれからどうですか》

「特許は取得してあるからナ。まだ映像を映す技術だけだから撮影する方も直ぐに実現したいところだネ」

《普通は両方一緒にできるものだと思いますがその辺り不思議に思われないのが凄いですよね》

「両方の技術をあの場で公表したらもと騒ぎが大きくなてたヨ。開発の予定で済ませたから、協力させて欲しいとか資金提供する等のメールが沢山来たネ」

《余程茶々丸姉さんの方がブラックボックスだとは思いますが》

「この映像技術なら何処かで数年したら開発されただろうから特許が取れて良かたヨ。他にも日の目を浴びるのを待機している技術もまだまだあるからネ」

《当分資金源には困りそうにないですね。しかし、警察機関のお出ましには逮捕されないか心配になりましたよ》

「夏に派手にやらかしたのは翆坊主達だから私は関係ないヨ。まあ警察機関が来たのは良い事もあるが、悪いこともありそうだナ」

《いきなり国家権力のお出ましですからね。国の上部組織にも魔法使いは混ざってますからどう転ぶかという所ですね》

「そうだ、数日前ちうサンからハッキング攻撃を受けたヨ」

何いきなり被害報告をしだすか。

《認識阻害の効いてない彼女ですか。展示施設に来て期待通り「ありえねぇ……」って呟いてましたからね。ストレス発散と腕試しに超鈴音の部屋にサイバーテロですか》

「こちらの普通のパソコンを使ている割にはかなり技術力は高かかたヨ。重要なものはネットに繋いでないから問題はないけどネ」

《敵対意識みたいのを持たれると厄介ですからどうせなら破らせてみた方がいいのでは》

「ふむ、それも有りカ」

《ところでいかがですかお二人は》

完全に魅入ってたな。
って華の飛行映像か!
まあ……この二人ならいいか。

「茶々円、なんだこの巨大な華は」

「私も気になりますね」

《それが打ち上げに使用した宇宙船です。もちろん無人で飛ばしましたが》

「はぁ……木が宇宙船作るなんてどうかしていないか」

「いつか乗ってみたいですね」

《深く考えない方がいいですよ。今日はこんなところで早速幻術迷彩魔法を使わせて頂きます。今回もお三方ご協力ありがとうございました》

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結果は流石トップレベルの三人が開発しただけあって幻術迷彩魔法の効果、効率は非常に良かった。
それでも地球側から超鈴音が精製した粒子と共に魔分供給も行う必要があるが許容範囲内だろう。
今までよりもテラフォーミングの速度が若干遅くなるかもしれないが安全に行うためには必要な対価だと割り切ろう。
去年の6月の接近から一年程経っているため火星は今かなり遠い位置にあるが、海が発生する頃にはまた近づき始める事になる。


その後、超包子の肉まんのインターネット販売はかなり順調に注文数が増えており麻帆良祭の宣伝効果はやはり大きかったようだ。そのうち雪広グループ協力のもと支店がいくつかできる事になるのも近いだろう。
何故か超包子のブランド化計画に動く社員達は皆女性という状況であり、このまま行くと味と安さだけでなくそういう方面でも有名になりそうな気がする。
三次元映像技術の情報は瞬く間に世界に浸透し、人々は新たな映像表現の可能性がどうなるか、と言った事で盛り上がったりしている程度であり、これで撮影技術が完成すれば本格的に動き出すだろう。
一方サヨはしばらくの間パパラッチと哲学少女に追い掛け回される事になっていたが次第にそのなりも影を潜めて平穏な生活に戻って一安心だろう。
まあそのために学校が終わるとすぐに寮に戻って身体を放置したりと色々苦労したようだが。
葉加瀬聡美は解析された動作プログラムから茶々丸姉さんの性能を上げる事に情熱を燃やしているようだ。
これは是非やってくれと言いたい。
でも無駄に物騒な武装の開発をするのは正直やめて欲しい。
そして相変わらずこの三人と雪広あやかで期末テストをまたしても4位までを独占したわけだが絶賛記録更新中である。

そんなこんなで動きがあったのは近衛門の所であった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

もう夏休みかという7月の末、放課後に高畑先生から言われてさよと一緒に学園長先生に呼ばれたネ。色々思い当たる節はあるが新たな動きという事かナ。

「高畑先生、二人を連れてきてくれて済まんの」

「学園長、僕はこれで失礼します」

「超君、相坂君わざわざ呼んで済まんかったの。随分有名になったようじゃが調子はどうかの」

「学園長とこうして直接話すのは初めてだネ。雪広グループとはうまくやれているヨ。まだまだ忙しいけど調子は順調だヨ」

「学園長先生、もう1年半ぐらいになりますがまたこうして生活できて良かったです。色々手配して下さりありがとうございます!」

「ふぉっふぉ、二人共充実しておるようじゃの。して、超君は最近女子寮に侵入者が出るようになったのに気がついておるかの」

まずそこからカ。

「ふむ、あれは困るネ。私の部屋には人には見せられない大事なものが沢山あるからネ。そのためだと思うが監視がまた付き始めたのは諦めるしかないなと思てるがやりにくいヨ」

「あー、やっぱりあれ侵入者だったんですね」

「厄介な事に超君は表で狙われるようになっているものじゃから、気をつけるようにするんじゃぞ。監視の方は付けんと色々大変じゃから勘弁して欲しいの」

表の人達は銃という質量兵器なものだたりナイフでザックリだたりするから危険極まりないネ。
裏の人間なら魔力や気の反応で寧ろ対処が取りやすいのだが。

「木乃香サンの侵入者が裏で私が表という訳カ。せつなサンの機嫌が悪そうなのも無理ないナ。しかし表で狙われると一発で命を落とすから怖いネ。ところで、表裏の話をするという事は精霊を呼んだ方がいいカ」

「察しが早くて助かるの。儂から話かけるのはできんからな」

「えっ、というと学園長先生は私が幽霊でなくなったのはもう知ってるんですか」

「何、なんとなくそうじゃろうと思っていただけじゃよ」

翆坊主の動きを考えればすぐに分かるだろうナ。

「それならもう呼んでもいいだろうナ。結界も張てあるようだから連絡頼むヨ」

「分かりました」

《キノ、学園長先生が呼んでますよ》

《え、これは珍しいですね。今行きますと伝えておいてください》

「すぐ来るそうです」

「念話とは全く違うもののようじゃが便利そうじゃの」

「私が今度機械で似たようなものを実現してみせるヨ」

「うむ、超君は麻帆良最強頭脳と言われるだけはあるの。世間で話題になっとる映像技術も期待しとるよ」

「お褒めに預かり光栄だネ」

《お待たせしました、近衛門殿この組み合わせはなかなか珍しいですが何かあったようですね。私も結界張らせてもらいます》

呼んだらすぐ来るあたり全然待てはいないけどナ。

「キノ殿、今日は二人に呼んで貰ったが済まんの。相坂君が精霊になっとる件は今聞かせてもらったわい。今は女子寮への表の侵入者の件を話していたのじゃが」

《その件ですか……。私達としても裏の人間ならば意外とすぐわかるのですが表の人間はただ確認しただけではわからないのが困りますね。それに結局人間同士のそういった事にあまり介入しないのが精霊としての自然な形です》

心配しなくても十分対処できているから今のところは大した脅威でもないネ。

「うむ……木乃香の事もあるし、何より他の生徒に危険が及ぶ事があるかもしれんのが問題じゃな」

「学園長、それなら私とハカセで警備システムの強化と警備ロボットを作るという事もできるヨ」

《それも有りですね。私としては本当に危なくなったら阻止するつもりですから油断はしないで欲しいですが心配し過ぎなくて結構ですよ。ただ、侵入者が発生するようになったという事実が面倒極まりないですね》

「確かに心配しすぎる事もないが現状維持という事で構わないかの。できれば超君、その作業頼みたいの。キノ殿ももしもの時は頼みますぞ」

「その依頼受けさせてもらうヨ、守れるなら自分の身は自分で守りたいからネ。ところで私からも一つあるが、まほら武道会の来年度の開催を了承してくれて感謝するヨ」

「超君から言われるとはの。実はそれと少なからず関係ある事が本題じゃったのじゃが……。まほら武道会は時間的に余裕が無かったもので今年は許可できず済まんの」

「その分来年全力でやらせてもらうネ」

《近衛門殿、ということは何か動きがあったのですか》

「キノ殿だけに話したいことではあったのじゃが、どうも今更のようじゃな……。機密情報に触れるのじゃが3人ともそれ以上の機密じゃし良いじゃろう。イギリスの9歳の少年あちらの学校を卒業して今年の三学期にこの学園に教師として赴任する事が決まっておる」

その話だろうとは思ていたが生憎全員知てるネ。

《……やはりその件ですか。それでわざわざ私達、いえ私の予定だったようですがそれを話す理由というのは。三学期といえばまだ数ヶ月あると思いますが》

「そうなのじゃが、儂の強い要望で8月には彼に来てもらう事にしたのじゃよ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

いやいやいや、話がもう全然違くなっているなにこれ。

《キノ、例の歴史とスタートから違ってませんか》

《全くその通りです》

《翆坊主、ということは、本当は時期が3学期だと言う事なのカ。そこは私も知らないネ》

サヨ、超鈴音にも通信繋いでたんですか……。

《そういう事になります》

近衛門との話に戻ろう。

《近衛門殿、いきなり日本に呼んでも言葉が通じないのでは》

「ふむ、それもそうじゃが英語を話せる人間は儂を含めても麻帆良におるし、ネイティブスピーカーで通せばよかろう」

……言われてみるとそうかもしれない。
学校の授業でも一人の日本人英語教師と殆ど日本語の通じないネイティブスピーカーの二人で行われる授業というのも無くはないからな……
寧ろ変に日本語が流暢だと英会話の授業としては生徒が緩くなって微妙になるからいい……のか……。

「私も英語話せるヨ!」

流石麻帆良最強頭脳であらせられる。

「キノ殿、ほらすぐ側に良い例がおるじゃろう」

何乗ってるんですか。

《話が進まなさそうなので単刀直入に聞きますが、精霊の私、私達に何をして欲しいのですか》

「言わなくてもキノ殿ならやってくれるとは思うのじゃが儂から改めてお願いしたいんじゃ。彼の少年を見守ってやってくれんか」

そういう事か、それは実に精霊らしい仕事だ。

《ええ、もちろんです。私もそうするつもりでしたし。近衛門殿からの正式な依頼とあればしっかり見守ることにしましょう》

「学園長先生、私にも任せてください!」

「おお、キノ殿、相坂君感謝するぞい。では、よろしく頼みます」

しかし自分でやっといて何だが少年が成長する機会がどれだけ削られたことか。
魔法世界のやばくておっかない人達はどっちにしろなんとかしないといけないから困ったものだ。

「学園長、それでその少年は何処に住むネ。小太郎君が呪術教会支部で生活しているのと同じように魔法協会で生活するのカ」

「その事も知っておるのか。全部筒抜けな訳じゃな……。その件じゃが儂は反対されるのはわかっておるが超君達の女子寮に住ませるべきだと思っておる」

本当に無駄にピンポイントな勘だが近衛門自重。
しかし周りの被害を無視すればそれが良いと言えば良いが。
罪悪感を感じるが人間のそういう件は内輪でなんとかして欲しいと思う。

《またやけにピンポイントな勘ですね。私はそれを人間の一般的常識を度外視すればその選択で良いと思いますよ》

「学園長先生がよく根拠の無い事をするのは全部勘だったんですか」

《まあそう言いますが大体うまく行くんですよ。下手な占いより確実です》

「翆坊主、大体というのは信用できないヨ……。私の寮の部屋は既に三人いるから先に断わておくネ」

「やはりそう言うか……。こうなると住ませられるのが木乃香の部屋になってしまうのじゃが、婿殿に悪いの……。超君、どうしてもダメかの」

こういう訳の分からないが意外と正しい勘が働くものだから結局迷惑をかけるとしたら身内の部屋というオチになるんですね。
こうして魔法に関わらせたくないという意向は完全に没になると。
詠春殿、南無。
しかも魔法世界の超特殊能力者もいると。
カオス極まりない。
世界の歴史はこういう事だったのか。

「諦めるネ。私の部屋はその少年以上の機密だらけだヨ。その少年に興味はあるけど、部屋に入れると大変な事になりそうだから絶対にダメネ」

「私も幽霊なんですか!って怖がられるのは困ります!」

それはどうでもいいかもしれない。

《近衛門殿、周囲から酷い反対受けること請け合いですが勘に従って身体が勝手に動く限り選択肢はもう一つしかないですね》

「……ああ、タカミチ君達がまたうるさくなるのう。木乃香もまたトンカチで殴るんじゃろうな……」

近衛門、頑張れとしか言えない。

《それで、精霊のお告げ的な事を言いますと、その少年を鍛えた方がいいと思うのですがいかがですか》

「翆坊主、それは面白そうだネ」

先に火星人が釣れた。

「それは儂が……襲いかかろう……かと思っておるよ……」

以前本気で警備してたから真っ向から指導するのかと思ったらなんという邪道。
普通に問題発言だが麻帆良なら許されるのだろうか。

「学園長先生最後もごもご何言ってるんですか。私は面白そうなので賛成ですけど」

「学園長、それ私もやていいカ。古と小太郎君のところに連れていけば強くなるヨ!」

駄目だもう……なるように話が進んでいくな……。
しかし中国武術研究会に放りこむのは悪くない。
丁度バトル少年もいることだし。
……そのまま忍術も覚えたら……とこれ以上はやめておこう。

「超君、何故そこだけは楽しそうなのかの。まあ表でやってくれる分には構わんよ」

《下手するとエヴァンジェリンお嬢さんも出てきますからね。この前変に勘違いさせていまいましたが》

「とても教師だけでは済まない生活環境になりそうじゃの……」

遠い目になりますよね、その気持分かります。

《その辺りも含めて見守りますよ。大分話が飛んでしまいましたが近衛門殿がまほら武道会に関係あるというのは図書島の司書殿との事なのでしょう》

「おお、忘れておった。まあ今の話でわかると思うがまほら武道会でその少年と彼に戦う場所をと思っての。超君には儂からもその件で改めて手配を頼みたいのじゃよ」

「それは私としても復活第一回目のまほら武道会が素晴らしい物になりそうだから完璧に仕事してみせるヨ。任せるネ!」

「雪広グループには儂からも頼んでおくからよろしく頼むの。事はついでなのじゃが、学園祭のあの特別展示施設の映像は超君、いや、キノ殿の物ではないのかの」

《ええ、そうですね。ああして取り込めるようになったのは超鈴音が実現させました。既に読めてるんですが、ナギ少年の映像があるのかという事ですが、答えは有ります》

「話が早くて助かるわい……。その映像じゃが近いうちに儂にくれんかの」

「確かにあのまほら武道会は素晴らしいものだたネ。学園長、借りが私に大分できたが返せる時に返してくれればいいヨ」

「ふぉっふぉ、あいわかった。借りは必ず返すとしよう」

こうして赤毛の少年の環境は歴史よりも安全なのかもしれないが、それと同時にもしかしたら初っ端からより過酷なものになるのかもしれない。

少年よ大志を抱け。
私からは頑張れと応援を一言。



[21907] 14話 ネギ少年の4日間in麻帆良
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/17 17:43
アーニャはさっき空港で別れる最後までずっとうるさかった……。
でも、細かい事はネカネお姉ちゃん達が準備してくれたけど日本語も憶えていないのに日本に行って本当に大丈夫かな。
おじいちゃんは向こうの学園長先生がなんとかしてくれるって言ってたけど。
向こうにも英語を話せる人がいるから大丈夫って聞いてるからなんとかなるかな。
時間が無かったから知ってるのは、ネカネお姉ちゃんと一緒に見た学園のお祭の映像を見たぐらいだったけど、日本の伝統芸能という物の映像は綺麗だったなぁ。
エヴァンジェリンさんって言ったと思うけど、僕と同じ外国人なのに凄く馴染んでたし、あんな風になれたらいいな。

……ふぅ、初めての長旅になった。
初めて飛行機に乗ったけど意外と乗り心地が良かったな。
少し身体が痛いけどね。

空港にタカミチが待っててくれるって聞いたけど人が多いから見つかるかな。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

肉まんが大量生産できるようになた訳だが、これを期に麻帆良内での店舗も増やす事にしたネ。
これから夏本番だが、それを過ぎればすぐに寒くなるからネ。
肉まんの製法には色々こだわりがあたが、一定の品質で届けられるようになたからお料理研究会で各々が出している店に置いてもらう事にするネ。
できれば店の名前に超包子と入れて宣伝してもらえると助かるナ。
そうだ、今まで超包子には特にロゴが無かたけど、翆坊主達が見せてくれた華をモチーフに看板に加えるネ!
どこかのチェーン店が桃のマークなら超包子は華のマークだヨ。

良い思いつきができたが今はちうサンの所に行くヨ。
ハッキングするのいい加減やめて欲しいネ。
回数を重ねる度に手際が良くなていくものだから一度本当に破られた時は驚いたネ。
さよにずるをしてもらたが部屋にいるようだから丁度良い。

「長谷川サン、話があるネ」

…………。
居留守を決め込むつもりカ。

「ちうサン!話があ」

「その名前を何故知ってる!もう分かったから入れよ!」

フフ……うまく釣れるものだナ。
ちうサンと呼んだだけでこの反応は分かりやすくていいネ。
思わずいつもの口調が崩れてるヨ。

「ちうサン、まずは肉まんを食べて気分を落ち着けるネ」

「超……その名前で呼ぶのをやめろ」

「分かたネ。その代わりハッキングするのやめて欲しいナ。一度破られたのは驚いたネ」

「やっぱりバレてたか……。学園祭のあの施設やら映像やら極めつけにテレビに名前が出たら一体寮の部屋に何があるのか気になったからな。悪かったよ」

「私の部屋は秘密が一杯ネ。ハッキングやめてくれれば特に通報したりはしないから安心するといいヨ。その代わり腕を見込んで依頼したいことがあるのだが聞くカ」

「体の良い脅迫って所か……。まあ聞いてやるよ」

「ありがとネ。実は最近この女子寮は外部者から狙われていてネ。警備システムの強化を私が主導でやることになたのだヨ」

「はぁ……なんで住人が警備の強化するんだよ……。それでその強化を私にも手伝えってのか」

「そういう事ネ。ネット回線のハッキングに対する強化を手伝てもらいたいヨ。長谷川サンのウハウがあれば大抵のハッキングは退けられる筈ネ。報酬も払うから悪い話ではないと思うヨ」

「超……お前……ありえないだろ……。どこの中学生が中学生を雇うんだよ……」

「ここの中学生ネ。超包子は大体そんな感じだヨ」

「ああもう分かった。詳しい話を頼む」

私がやても良かたけど餅は餅屋に、だナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

8月3日麻帆良に少年が到着である。
前回の話から1週間と少しというところ。
どんだけ急に来させたのだか。

《超鈴音、サヨ、麻帆良に例の少年がタカミチ君と共に入りました。一度学園長室に寄ってから来ると思いますが、まだ英語しか話せないでしょうから接触するならどうぞ。あと雪広あやかに寮の入り口で待つと良いと伝えておくと面白いかもしれませんよ》

《なんとゆうか、見守るどころか情報が筒抜けだナ。分かたネ、面白そうだから言葉を学習する時間を取らせずに古達の所に連れてくネ。明日菜サンと木乃香サンが女子寮に戻て来たら、さも偶然を装うヨ》

面白いというより割といじめになってる気がするが……まあいいか。
言葉の障壁突破!無理の槍!とかどうせそのうちやりそうだし。

《なんとなく分かりますけど、いいんちょさんは私が用意します!》

物扱いでありますか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

タカミチと一緒に学園長室に来たけど心配になってきたよ……。
最初は英語で立派な魔法使いになるための僕の教師をやるという課題について話をしたけど、その後だ……。
二人のお姉さんが何か話してて、まだ日本語はよくわからないから困るな、早く勉強しないと大変だよ。
アスナさんとこのかさんという名前は分かったけどアスナさんの方は凄く怒ってて、このかさんの方はにこにこしてるから大丈夫そう……かな。

「(ネギ君、そういう訳じゃからこの二人と同じ寮の部屋に住んでもらうが悪いの)」

「学園長先生!なんでこんなガキと一緒に住まなきゃいけないんですか!他に部屋があるでしょ!」

「まあまあ、アスナ落ち着き。この子まだ言葉も通じんしかわいいからええやん」

「このかは物分りが良くて助かるの。(言葉は今夏休みじゃし二人と話して覚えたらええからの)」

「(分かりました学園長先生!ありがとうございます)」

「(ネギ君、困ったことがあったら言うんだよ)」

「(タカミチもありがとう!夏休みの間に言葉は覚えるよ!)」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ふむ、肉まんで翆坊主のように餌付けの準備もしたし後は待つだけネ。

《さよ、あやかサンの準備はできたカ》

《はい!場所は特定して部屋にいるので呼べば来るはずです。なんか待ち伏せって楽しいですね》

《楽しそうなところいいですけど目標三名まもなく到着です。言葉が通じずお嬢さん二人と単語で英会話してるようです》

《単語で英会話て何の番組ネ。右手に肉まんの用意があるヨ。いつでも来るネ》

《私は左手にいいんちょさんですね!》

何か究極技法が起きるのかもしれないナ。

《なんで餌付けの用意みたいなことしてるんですか》

《教師ということは給料が入るからネ。学生より財布に余裕ができる筈だヨ》



「(教師、大変、一人?)」

「(はい、一人です)」

「なんでこんな子供が2学期から私達の教師になるのよ……」

さて期は熟した!いざいくネ!

《さよ、ミッションスタートだヨ》

《了解です!》

「やあ明日菜サン、このかサンその坊主は弟かナ」

「あ、超さん!英語しゃべれる?この子供は弟じゃなくて2学期から私達の教師やるんだって!しかも私達の部屋に泊めることになったの!」

明日菜サンは元気一杯だネ。

「ふむ、色々事情がありそうだネ。(初めまして、私は明日菜サンとこのかサンと同じクラスの超鈴音だ。英語が話せるから協力するネ)」

「(うわー!本当に英語話せる人いるんですね。良かったー。あ、僕は2学期から女子中等部で英語の教師をすることになったネギ・スプリングフィールドと言います。超さん!よろしくお願いします)」

ご先祖様との初の会話だがこちらも元気がいいネ。
まだまだ子供という感じだが、鍛えた方がいいというのは確かかもしれないネ。
常に魔力で身体強化しているようでは元の肉体が強くならないヨ。

「(ネギ先生だネ、よろしく。丁度肉まんという食べ物があるが食べるカ)」

「(あ、これお姉ちゃんと見た映像にあった肉まんですね!頂きます!)」

「(一応麻帆良の勉強してきたのカ)」

「(は、はい。あまり時間無かったですけど学園長先生が送ってきてくれた学園祭の映像を見てきたんです。うわーこれ美味しいですよ!)」

「(そう言てもらえるとありがたいネ。その肉まんは私がオーナーをやている超包子の定番だから食べたくなたら買いに来るといいヨ)」

「何のんきに肉まん食べてるのよ……」

「超りん、何話してるん?」

「ネギ坊主は超包子の肉まんを故郷で見た学園祭の映像で見た事があると言う話ネ」

「そうなんかー。この子英語で話せる人に会えてさっきよりも喜んでるなぁ。うちも英語話せるようになりたいわ~」

「鈴音さん、その子誰ですかー」

打ち合わせ通りだが白々しいやりとりだナ……。

「まあ、どなたですかその男の子は。とてもかわいいですわね!」

あやかサン、目がもう既に来てるヨ……。
翆坊主、まあ面白いのは同意するネ。

「(えっネカネお姉ちゃんどうしてここに!)」

「わ、私がお姉さんですって!いえ、悪く有りませんわね……是非お姉さんになりますわ!」

翆坊主の面白いというのはこちらの事カ。

「げっいいんちょ!ショタコンのあんたがなんでこんな丁度良く来るのよ!」

「なんですって、このオジコンのアスナさん!相坂さんが私に買い物に付き合ってほしいというものですから出てきただけですのよ」

買い物に行く事で話を通したのカ。
無難だナ。

《鈴音さん、ミッションコンプリート!》

《さよ、よくやたネ!》

《でもいつもの二人が言い合ってるだけになってますね……》

《いや、ここからだヨ》

「あやかサン、この少年はネギ・スプリングフィールドと言て2学期から私達の英語の教師をやるそうだヨ。来たばかりでまだ日本語が通じないらしいネ」

「まあ!こんなに小さいのに私達の先生になられるんですの!言葉が通じないとは不自由でしょう、私も英語は話せますから協力しますわ!(初めましてネギ先生、私は雪広あやかと言います。是非お姉ちゃんとお呼び下さい!超さん達とは同じクラスですからよろしくお願いします)」

「(す、すいません、ネカネお姉ちゃんに似てるものだから間違えてしまいました。でもまた英語が話せる人に会えるなんて良かったです!僕はネギ・スプリングフィールドと言って2学期から英語の教師をすることになりました。よろしくお願いします!)」

「あ~なんてかわいいんでしょう!」

「超さんと言いいいんちょと言い立て続けに英語が話せるとは……ここは日本じゃなかったの……」

「アスナ、うちらも英語勉強してネギ君と話せるようになろ!」

「明日菜サン、ネギ坊主に英語を教えてもらいながら日本語を教えたらいいネ。そしたら成績も上がるヨ」

「(初めまして、相坂さよと言います。私も皆と同じクラスなのでよろしくお願いします、ネギ先生)」

さよも話せたのカ……。
元からなのか、精霊だからかのどちらかだナ。

「(三人目ですね!相坂さん、よろしくお願いします!)」

「……超さん、言うとおりにするわ……。なんでこんなに英語皆話せるのよ……」

なんだかトドメを刺せたようだナ。

「(ところでネギ坊主、荷物を置いたら少し運動しないカ。長旅で身体が鈍ってるだろう。子供は元気が一番ネ)」

「(超さん、何処に連れて行く気ですの)」

「(中国武術研究会を紹介するネ)」

「(そ、それでは今度私は馬術部を紹介しますわ!)」

「(いいんちょさん合気柔術でもいいんじゃないですか)」

「(まぁ!それもいいですわね!)」

「(なんだかよくわからないですけどよろしくお願いします!)」

「英語もっと勉強しといたら良かったな~、アスナ」

「なんだかこれから苦労しそうだわ……」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

なんというか女三人寄ればかしましいとは言うがまさにその通りだな……。
ネカネ・スプリングフィールドと雪広あやかが似ているというのはネギ少年を確認した段階で情報が更新されたから分かったが見事にお姉ちゃんと発言した事で、言われた本人は嬉しかったらしい。

《キノ、いいんちょさんはネギ先生のお姉さんにそんなに似てるんですか》

《それは私も気になたネ》

《よく見ればすぐ分かる程度ですが物腰は似ていると思いますよ。まあ私もネギ少年のお姉さんを直接見たわけではありませんが》

《あやかサンはいつになく幸せそうだたネ》

《小太郎君と遭遇した時は「なんて野蛮なのかしら!」と言ってた気がしますがタイプがあるんでしょうねきっと》

小太郎君、2-Aに遭遇しすぎだろう。

《まあ人それぞれという事で。まだまだ今日は長そうですね。次はいよいよ何食わぬ顔で中国武術研究会に投下する予定ですか》

《フフ、ネギ坊主が予想通りなら言葉をすぐに覚えてしまうからネ》

学習能力と発明力がチートらしいから、って超鈴音にそっくりだな……。

《やはり超鈴音のご先祖様ですね。天才という部分が似すぎですよ》

《それは褒め言葉と受け取ておくネ》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ坊主に荷物を置かせてそのまま連れだしたヨ。
あやかサンは約束通りさよと買い物に行ったネ。

「(ネギ坊主、ここが私が所属している中国武術研究会だヨ。同じクラスの古菲もいるから挨拶するといいネ)」

「(はい!超さんありがとうございます)」

「古!今日は飛び入り参加の少年を連れてきたヨ!小太郎君と同じぐらいの年ネ!」

「おお、超!その坊主も小太郎と同じぐらい強いアルか」

「それは試してみてのお楽しみネ。あまり本気でやてはだめだヨ」

「なんやそのチビ助、超ねーちゃんの弟か」

小太郎君、自分の姿をよく見て言うネ。

「この坊主はネギ・スプリングフィールドと言うネ。2学期から私達の英語の教師をやることになたらしいヨ」

「俺と同じ子供やのに先生やるやて!冗談ちゃうんか」

「超、それはホントアルか」

「本当らしいネ。生憎まだ日本語通じないから、拳で語り合うといいヨ」

「(二人に自己紹介して手合わせするといいネ)」

「(はい!僕はネギ・スプリングフィールドと言います、よろしくお願いします)」

「ほんまに外国人なんやな!」

「コタロー、私も外国人アル」

「くー姉ちゃんはエセ中国人みたいな話し方やろ」

「小太郎君、それは私にも言てるのカ。相手するヨ。なら古はネギ坊主の相手するといいネ」

「それ怒るような事か。でもええわ!今日こそ勝ったるからな!」

「望むところネ」

普通の中国拳法ならまだ私も負けてないネ。

「ネギ坊主、私が相手するアル。かかてくるといいよ」

「(ネギ坊主古はいつでもかかってきて良いと言てるネ)」

「(分かりました!こういうのは初めてですけど、行きます!)」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ少年を見守る、もとい観察してる訳だが、古菲との初めての手合わせは当然ではあるがネギ少年の完敗に終わったものの、意外としつこく頑張るうちに動きを吸収していくのはスポンジみたいだった。
その後小太郎君とも戦ったが流石にアドバンテージがあちらにあり、こちらでもネギ少年の完敗である。
しかし超鈴音は途中でネギ少年を意図的に放置したようだがロボット工学研究会に途中で移動していった。

《ネギ少年を置いてきて大丈夫なんですか。道もまだ分からないでしょうし寮に戻るのにも一応電車に乗る距離ですよね》

《古もいるから多分大丈夫ネ。もし駄目だたら翆坊主が見つけて私が回収すればいいだけネ。見守るのが仕事だろう》

まあそう言われればそうかもしれない。

《そういう事なら。実際に動きを見てどうでしたか》

《それ私も気になります!》

高度な会話術がただの雑談術に落ちているのはなんとも言えないが、使わないよりはましか。

《うむ、ネギ坊主はあまり運動はしていなかたようだネ。常に魔法で身体強化しているのは身体が強くならないヨ。でもあの短時間での吸収力は目を見張る物があたネ》

《やはり今のところはスタート地点という所ですかね》

《今度私もいいんちょさんと合気柔術に連れていこうかな》

……全く日本語を覚える暇がなさそうだがネギ少年、頑張れ。

《鍛えた方が良いとは言いましたが、もうなんかこの際龍宮神社のお嬢さんのバイアスロン部とか、木乃香お嬢さんの護衛の桜咲刹那の剣道部とか全部連れて行ったらいいんじゃないですか》

《それも面白そうだが、私も毎日暇な訳ではないからネ》

《龍宮さんと桜咲さんの所なら私が連れて行きますよ》

《それは丁度いいネ。中国拳法に合気柔術、射撃に剣道、あとありそうなのは楓サンの修行に加わる事カ。夏休みに来たというのは意外と良かたかもネ》

確かにそうかもしれない。
世界の歴史の方が2月あたりに来るという事だったが三学期も半ばからでは微妙だろうし。

《実際純粋な魔法使いタイプからかなりかけ離れてますけど学習能力が高そうですし色々やっても何かしら効果がありそうですね》

《学園長が襲いかかるのがいつかは知りませんけど、育成ゲームみたいで面白いですね》

……いや、現実だからねこれ。

《……ところで小太郎君は裏の人間でもありますが、気づいてるようでしたか》

《ふむ、最初見た時に一瞬顔が変わてたから気づいてると思うネ。でも、あの二人は言葉は通じてないが仲良くなれそうかもしれないネ》

それは良かった。
身近なライバルがいれば切磋琢磨できるというものだろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

その後ネギ少年は中国武術研究会の終りの時間まで粘り、それをサヨに知らせて古菲、雪広あやかと共に女子寮に戻っていった。
ネギ少年が割とボロボロになっていて雪広あやかが非常に心配したのは言うまでもないが、手当できるとあって嬉しそうだった。

無事に孫娘達の部屋に戻ったネギ少年だが、神楽坂明日菜に見事にくしゃみを当て服がはじけ飛んだ辺り歴史はある程度修正するらしい。
その事で一悶着有ったが英語で必死に謝られ、言葉の壁に苦慮したのか彼女は意外とすぐに怒りを収めたのだった。
夕飯を食べながら英会話と日本語のギブアンドテイクな関係がこの夏3週間程続いたそうだがそれはそれという事でネギ少年の一日は終わったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

はあ、昨日は麻帆良に来てすぐだけど凄く疲れたな。
それに超さんが連れていってくれた中国武術研究会だけど、運動すると言われて行ってみたら身体をほぐすなんていうものじゃなかったよ……。
でも、イギリスにいた時に1ヶ月タカミチに相手してもらったから少しは頑張れたかな。
古菲さんに僕と同い年ぐらいのコタロー君はすっごく強かった。
もしあれが本当の戦いだったら魔法を唱えている前にやられちゃうよ。
それに魔力で身体を強化してるのに二人はそれ以上に強かったしあれはタカミチが使ってる気と同じみたいだったな。
それでも僕はサウザンドマスターの父さんのような立派な魔法使いになるんだからあの二人に簡単に負けていられない。
でもその前に日本語を勉強しないと不便だからこっちも頑張らないと。
結局昨日は夕方帰ってきた後少しぐらいしか日本語勉強できなかった……。
しかもアスナさんの服をくしゃみで吹き飛ばしちゃって謝ったけどちゃんと伝わってるかな……。

あれ!?何故かアスナさんの布団で寝てる!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

何故ソファーで寝ていたのに二段ベッドの上に上がれるのだろうか。
それを思わず抱きしめている神楽坂明日菜もなんなんだか……起きたら面倒な事になるに違いない。

さて、ネギ少年が昨日ご到着した訳だがエヴァンジェリンお嬢さんが気づいていないわけがない。
騙してはいないが、いずれこうなるとは思っていたんだ。

「おい、翠色の幽霊そこにいるのは分かってる。さっさと出てこい、さもないと凍らすぞ」

えー脅迫を行う人物が約一名、この時間帯に無駄にでかい木に話しかけるお嬢さん。
端から見れば……周りに誰もいない!

「ああ、あくまでだんまりを決め込む気か。いいだろう、リク・ラク・ラ」

《いや本当にやめて下さい。冗談じゃないです。話はしますからとりあえず家に戻ってはいかがですか》

発動されたら分解すれば良いだけなんだけど、お嬢さんの魔分は5%的に無限だからキリがないし。

「寝てた等と言い訳するんじゃないだろうな」

《精霊は基本的に寝るとか起きるとかないですよ。少し優柔不断になっただけというかそんなところです。こうして顔だけ木から出して話すのを止めたいと言いますか、木のあたりで話すこと自体がマズイので一度お戻りください》

「そう言われても、こちらから茶々円を呼ぶ方法がないだろう」

まあ家の中で大きな声で叫ぶとかすれば気がつくかもしれないが……。
あれ、5%精霊化してるし粒子通信できるのではないだろうか。
今まで全く試す機会、必要がなかったから忘れていたが。
誰にでも話しかけるのはできるからやるか。
一度木の中に戻って、と。

「おい!なんでまた引きこもるんだ!」

《エヴァンジェリンお嬢さん、聞こえるでしょうか。口で話さず、念じてください。念話とは違いますがそういうようなものです》

《こんな方法があるなら最初からやればいいだろう!》

《すいません、あまりこの方法を他人に広めたくないもので。会話にかかる時間は現実時間の一瞬にしかすぎないので割と長くはなしても大丈夫です》

《はぁ……まず昨日タカミチと入ってきたあのガキは誰だ。赤毛というのはナギの事ではなかったのか、思い過ごして馬鹿みたいだろうに》

《精霊は正直ですので全て話させていただきます。ご意見はその後どうぞ。あの赤毛の少年はネギ・スプリングフィールドと言い、予想がつくと思いますがナギ少年の息子です。2学期から英語の教師として麻帆良の女子中等部に赴任する事が決まっています。当初の予定ではもっと後に来る筈だったのですが近衛門殿の積極的な働きかけによりもう到着したという事です。因みにまだ英語しか通じません》

ショック受けるだろうな……好きな相手ではなくその子供が来るんだもの。
寝取られたとは何か違うだろうがそんな感じだと思う。

《……それは、本当……なのか……》

怒り出さないあたり相当だろう。

《……ええ、ショックを受けると思ったので近衛門殿の所では赤毛とぼかしましたが寧ろ逆効果でした。数ヶ月期待させるような真似をして申し訳ありません》

《……ハハハ、興味を持って無理やり聞きだしてみれば結局自分に返ってくるとはな……。つい最近も似たような目にあったな……》

《これで元気になるかは分かりませんが、クウネル殿のアーティファクトが使用可能なのは知っていますか》

子供がいること自体がショックだろうが生きている事の確証が得られるだけでも……と。

《そうか。そういえばアルの奴その事は一言も言っていなかったな……む、という事はナギが生きていると言いたいのか》

《クウネル殿に聞けば何処に居るかはわからないが生きているのは確かだと言われると思いますよ》

《奴が生きているのは本当だったのか……。分かった、それは早いうちにアルに確認に行くとするよ……。茶々円……また湿っぽくなって悪かったな》

《少しでも元気を出してもらえたようで良かったですよ》

《それで、じじぃは何をするつもりなんだ。直々に指導するつもりなのか》

あー、これも言わないと駄目なんだろうなー。

《えー、近衛門殿は何故か時期を見てネギ少年に襲いかかるそうです。目的は少年を鍛える事なので、その話を聞いた超鈴音含め私達が昨日彼を中国武術研究会に投げ込んだのはその為です。実際動機のほとんどは面白そうだからの一言で解決しますが》

《鍛えるというのはわからなくもないが教師として生活するのに必要なのか》

《これは壮大なネタバレなんですが、一年以内にそうする必要が訪れるので必要かどうかと言われると非常に必要です。ここからは憶測ですがナギ少年がその結果見つかるかもしれません》

《今度は隠さずに話すとは殊勝な心掛けだな。その時が事態が緊急を要するとやらなのか》

《実際にどう動くかまでは分かりませんがそうなる可能性は高いです》

《ほう、そこまでは精霊でも分からないのか。じじぃが襲うと言ったが、私があのぼーやをじじぃに一泡吹かせる為に強くしても構わないんだな》

おお、歴史は繰り返すか。
マスターはあくまでもマスターですか。

《動機は聞かなかった事にしますが、まさかお嬢さんがこれに協力するとは思いませんでしたよ》

《奴の息子なら鍛えがいがありそうだからな。暇つぶしにもなるだろう》

暇つぶし等と言っているが、内心恥ずかしく思っているだけのような気がするが。

《こんな事を言うのは野暮かもしれませんが、魔力量こそ劣るものの、ネギ少年はナギ少年を越える可能性は十分にあると私は思います。今の彼を見てもそうは思わないかもしれませんが》

《どうやら強さだけの事を言ってるのではなさそうだな》

《それはお嬢さん自身の目で見て直接感じるほうが楽しいと思いますよ》

《フッ……それもそうか》

《ところで、この通信方法ですがお嬢さんからも話しかける事は恐らく可能です。因みにこの方法を続けると思考速度が異常に早くなり、魔法の詠唱速度がその影響でやたら早くなるかもしれません》

《それは超鈴音の事か……。燃える天空の発動速度はその為と言うわけだな》

《まあこの会話法に長時間着いてこれる事自体が凄いと言えば凄いのですが、お嬢さんはまだ平気ですか》

《私は全く問題ないな》

《やはり、一部精霊化してる為でしょうね。普通の人間なら頭がとてつもなく痛くなります。それで繋ぎ方は理解されましたか》

《それが原因か……。ああ、通信方法は分かった。これから利用させてもらうとするよ》

《いつでも話しかけてくれて結構ですよ。最近しょうもない雑談ばっかりに利用していますし》

《そんなに暇なら最初からさっさと出てこい!》

墓穴掘った。

会話終了後お嬢さんは時間が殆ど経っていないのを改めて理解しやや驚いていた。
いつ指導し始めるか知らないが、厳しくも優しい先生になりそうだ。
闇の魔法とやらはどうなっているのだろう。
お嬢さんが使いにくくなったというのは100年も前の話だからこの魔法自体を知っている人がいないような気がするが……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

夜が明けて翌朝。
今日はネギ先生に合気柔術をいいんちょさんと教えますよ!
キノはなんでも一度やらせたら何かしら効果はあるだとろうと言っていますし、何より面白そうなのでやります。

と、思っていた所部屋のドアをドンドンと叩く音が。

「超りん、相坂さん、ちょっと来てほしいんやわ」

神楽坂さんが絡んでいるに違いないです。

「さよ、通訳のお出ましネ」

「そうみたいですね」

……状況としてはソファーに寝ていたはずのネギ先生が二段ベッドの上にある神楽坂さんの所に潜り込んでいたところ両者目を覚ましたものの言葉が通じず、ジェスチャーで意思疎通を図るものの断念したとのことです。
神楽坂さんがなんだか朝から疲れてますね……。
確か今日は新聞おやすみの日ですからバイトと関係なくて良かったですね。

「(ネギ先生、どうして神楽坂さんのベッドに入っちゃったんですか)」

「(ネギ坊主、乙女のベッドに勝手に潜り込むのは英国紳士としては失格だヨ)」

ご先祖様を叱る子孫というのはなんとも言えませんね……。

「(はい……反省してます。僕イギリスにいた頃はいつもネカネお姉ちゃんと一緒に寝てもらって気がつかないうちについ癖で潜り込んでました……)」

「(でもどうしてわざわざ二段ベッドの上の神楽坂さんの所なんですか)」

「(そうだナ。木乃香サンの所の方が近い筈だヨ)」

「(……それは多分……アスナさんの匂いがお姉ちゃんと似てるからかもしれません)」

「明日菜サン、ネギ坊主が入り込んだのは故郷で普段お姉さんと一緒に寝ていて、そのお姉さんの匂いが明日菜サンにそっくりだからだそうだヨ」

「ほうかー。まだやっぱり子供なんやな」

「理由は分かったわ。さっき怒り過ぎてもう一度怒る気にはならないし……。気をつけてと言って欲しいんだけど」

「(ネギ先生、神楽坂さんはもう怒るのはやめたそうですけど気をつけてと言ってますよ」

「(はい、アスナさん、ごめんなさい。気をつけます……)」

そう言いながら頭を下げた所でこの話はお開きとなりました。

「(ネギ坊主、そんな事では教師をやては行けないヨ。これを小太郎君に知られたら笑われてしまうネ。身体も鍛えた方がいいが心も鍛えたほうがいいネ)」

す、凄く厳しい事言いますね。
9歳なんですけど……、まあ鈴音さんも火星にいたときはもっと苦労したのかもしれませんね。

「(鈴音さんの言うことは尤もですよネギ先生。でも一度失敗したぐらいでクヨクヨしてはいけません、しっかり前を向いてください。今日は私がネギ先生が身も心も強くなる場所に連れていきますよ!)」

「(そ、そうですね……。こんな事では教師なんて勤まらないしコタロー君に笑われても仕方ないや……。超さん、相坂さんありがとうございます。今日もよろしくお願いします!)」

「(うむ、元気が一番ネ)」

「(では準備ができたら私の部屋の前に来てくださいね)」

「ネギ君落ち込んだり明るくなったりしとるけど大丈夫なん」

「ネギ坊主は強い子だヨ。大丈夫ネ」

こうして正直不自然な流れに誘導している気がしないでもないですが、今日はいいんちょさんと合気柔術の道場に連れていくことになりました。

「(ネギ先生、今日は私と相坂さんで合気柔術をお教えしますわ。怪我をしないように最初は基本から始めましょう)」

「(合気柔術は相手の力を逆に利用するのが基本ですから心を落ち着ちつける事が大事ですよ)」

あれ……全く日本語の勉強にならない空間が広がっていますね……。

「(はい!今日はよろしくお願いします、あやかさん、相坂さん!)」

元気が良くて良いですね。
いいんちょさんがとてつもなく幸せそうな顔をしていますが、合気柔術の腕前は申し分ないですから手取り足取りしっかり教えていきます。

しかしネギ先生の飲み込みの良さには二人で驚きました、確かにこれは凄いです!
いいんちょさんのテンションが更に上がって行きますがそんな時でした。

《相坂さよ、今ぼーやに合気柔術を教えていると茶々円から聞いたが今何処にいる。私もそれに参加させてもらおう》

えっ!どういう事ですかこれ。

《エヴァンジェリンさん一体どうしたんですか、今は雪広の合気柔術の道場なんですがわかりますか》

《……ああ、あの100年近く前から変わっていない所か、すぐに行くよ》

というかこの通信方法エヴァンジェリンさんもできるんですか。
あれ……どうしようこれいいんちょさんに言うの不自然すぎるんですけど!
絶対キノが原因ですね。

《キノ、今エヴァンジェリンさんから合気柔術の練習に参加すると粒子通信入ったんですけど説明を要求します!》

《翆坊主、それは気になるネ》

《相変わらずオープン回線ですか……。今日の明け方お嬢さんが神木の目の前に直接やってきて色々あったんですよ……。結論としてはお嬢さんもネギ少年を鍛えるのに参加するそうです。動機は近衛門殿に一泡吹かせるとのこと。合気柔術の話は私からしましたが、まさかもう行動するとは思いませんでしたね》

《大体分かたが、英語の教師とは何のことだろうナ。私も加担しているとは言え昨日からネギ坊主はまだ運動しかしていないネ》

《私達は今ネギ先生とちゃんと英会話してますよ》

《雪広あやかに説明が難しいかもしれませんがなんとかして下さい、すいません》

なんとかって……。
なんとかするしかありません!

《エヴァンジェリンさん、来る時の理由は鈴音さんに用があって電話したら私達がやってることをついでに聞いたということにして下さい。いいんちょさんがいるので説明しないといけませんし》

《委員長がいるのか。だから雪広の道場という訳か。分かった、説明は任せておけ》

……少なくともこれで私がおかしいと思われることは回避しました。
あれ、正直何もしなくてもなんとかなったかもしれませんね。

しばらくしてエヴァンジェリンさんが来ました。

「委員長、超鈴音に用があって電話してみれば新しく先生になる子供に合気柔術を教えているそうじゃないか」

「まあ、エヴァンジェリンさん珍しいですわね。このネギ先生が2学期から新しい先生になられるんです!」

「(え、エヴァンジェリンさんって本物のエヴァンジェリンさんですか!わー二日目でもう会えるなんて凄いです!握手して下さい!)」

ネギ先生何故エヴァンジェリンさんを知ってるんですか。
エヴァンジェリンさんも一瞬厳しい顔をしましたがすぐに微妙な表情に戻ってされるがままに握手されています。
多分光の福音だと気づかれたのかと思ったのでしょう。
なんだか嬉しそうな顔してますね。

「(ネ、ネギ先生、エヴァンジェリンさんとお知りあいなのですか)」

「(いえ、日本に来る前に学園のお祭の映像で見たことがあるんです。その時映ってたのがエヴァンジェリンさんでお姉ちゃんと一緒に凄く綺麗だなって思ったんです)」

その映像送ったのは学園長先生ですか。
今の発言でエヴァンジェリンさんが顔を俯かせていますが少し恥ずかしそうですがもっと嬉しそうです。
って、いいんちょさんの雰囲気が黒くなっているような……。

「(ネ、ネギ先生!私の事はどう思われますか!)」

「(あやかさんですか、とても親切な良い人だと思います!)」

「ああ!もう幸せですわ!」

子供だと思って油断しているととんでもない男の子かもしれません……。

「(ぼーや、私を前から知っていたとは嬉しいことを言ってくれるじゃないか。今日は私も合気柔術を教えてやろうと思ってな)」

「(ほ、本当ですか!ありがとうございます、エヴァンジェリンさん!)」

「(そ、そんなに嬉しいのか……いいだろう。だが私は甘くはないから覚悟しておけよ)」

「(ちょっとエヴァンジェリンさん!手荒な真似は許しませんわよ!)」

私は幽霊の頃から存在感が薄かったですが、この空間だと思わず成仏してしまいそうです……。

それからの一日でしたが、いいんちょさんの懇切丁寧な優しい指導とエヴァンジェリンさんの実践的指導と、とてもうまく行きました。
ただ……技を掛けられて投げられる所を実際に見せる役は私が必死にやりました。
これが適材適所と言う奴なのでしょうか。

しかしエヴァンジェリンさんの映像を予めネギ先生に渡していたのが学園長先生だとしたらとんだ策士です。
流石キノが信用しているだけはありますね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

とても気になって観測していたが近衛門が映像を渡していたらしい。
多分酷いことにならないようにという保険のつもりだったのだろうが、第一印象がとても良くなるという物凄くプラスな役目を果たしたらしい。
近衛門の勘はこれだから大したものだ。
という訳で実際に会うとしよう。

《近衛門殿、遠見の魔法で見ているのはネギ少年達ですか》

「おお、キノ殿。その通りじゃよ」

《会話を聞きましたが、学園祭の映像を送ったのは近衛門殿ですか》

「ふぉっふぉ、まさかああなるとは思わんかったの」

《ええ、エヴァンジェリンお嬢さんがこんなに楽しそうな顔をするのは久しぶりですね。元の狙いが違ったとは言えこれは良かったと思いますよ》

「まあ送った映像は殆どアルが選別したんじゃがの」

って映像提供元は司書殿か!
だからあんなにべた褒めする反応になるのか……。
イノチノシヘンで記録もされているがどうやってかサークルが出してる映像も全部入手しているらしいからとっておきを選んだんだろう。
いや、これはクウネル殿よくやったと言わざるを得ない。
後であの様子を見せに行こう。

《なるほど、クウネル殿が選別したらそうなるでしょうね。多分彼に並ぶ程お嬢さんに詳しい人は大学サークルの通でもなかなかいなさそうですし》

「あの二人の初対面があんなに穏やかになるとは予想外じゃな」

《全くです。あ、それとお嬢さんが近衛門殿に一泡吹かせる為にネギ少年を鍛えるそうですから、魔法の関係もありますし時期は見てくださいね》

「なんじゃと!エヴァの目的は儂への当てつけか……。こうなればどちらが上手か勝負じゃの……。これは楽しみじゃわい」

《近衛門殿、オーラが漏れてますよ……。でもネギ少年って英語の教師の筈だったと思いますが完全に何処へやら……ですね。まあこの夏だけでも心身共に成長すると良いですが》

「教師は学校が始まったら頑張れば良いじゃろうて」

《そうですね。まあ日本語の勉強する時間が殆ど無いですがネギ少年の学習能力に期待ですね》

「大丈夫じゃよ。あちらの学校の成績を見る限り飛び抜けた天才のようじゃし、特に基本魔法の扱いに関してはここ近年歴代一の才能じゃから言語の習得はなんとかなるじゃろう」

《くしゃみの威力からすると風の魔法かと思いましたがそういえば基本魔法の方が適正あるんですね》

「ふむ、キノ殿は何か思うところあるようじゃな」

《もしかしたらというという憶測程度ですが結局頑張るのは本人ですから》

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昨日も夕方に帰てきたネギ坊主だが一昨日に比べればボロボロにはなていなかたネ。
それどころか嬉しそうな顔をしていたが、さよと翆坊主から聞くにエヴァンジェリンに会えたのが相当良かたらしいナ。
大分前にエヴァンジェリンに手合わせという名の魔法の威力実験をさせてもらたがあの時の様子から考えると友好的な出会いになるのはありえないと思ていたのだが。
しかし今日で三日目だが朝倉サンにまだ見つかていないのは奇跡のようなものだが、小太郎君といれば見つかるのは時間の問題だネ。

私が何をしていたかと言えばハカセと一緒に警備ロボットの作成をしてたヨ。
侵入者が女子寮に出没している話をしたらロボット工学研究会の大学生のお兄さん達は俄然やる気が出てたが、やることは複雑でも思考回路は単純で助かるネ。
モデルはどこかの外国の州知事さんが出ている映画を意識しているヨ。
量産型として作れば人員的、地理的にカバーする事が不可能だた範囲の警備もそのうち可能になるだろうナ。
開発シリーズ名はT-ANK-α、田中サンと呼ぶヨ。
侵入者が思わず後ろを向いて両手を必死に振りながら走り出したくなるようなものを作成してやるネ!
また赤外線センサーを寮の周りに敷き詰める計画、三次元映像監視機器の作成も早々に進めた方が良さそうだネ。
ここで実験してデータを収集すれば警察機関に説明する時にも説得力が増すナ。
全体の監視を翆坊主達に常に行なてもらう訳にも行かないからネ。
後はちうサンにこちらで用意した端末をどのレベルまで渡すかだが、あまり良いのを渡しすぎるとハッキングの技術が危険な段階まで上がる危険があり、大したものでなければシステムの強化の本来の目的からも外れてしまうからバランスが重要だナ。

うむ、この麻帆良最強頭脳の私が暇になるのは遠い先の話になりそうだネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

これでネギ先生が来てから三日目、鈴音さんから指令を受けている肉まんによる餌付け作戦は続行中です。
確実にこのまま行けば肉まん依存症になることは間違いありません。
私が最近超包子で働いていないと思われてしまいそうですが、夏なのでそんなにお客さんは来ませんし、葉加瀬さんの計算の手伝いも部屋でもできるので大丈夫です。

「(ネギ先生、今日はバイアスロン部にいる龍宮さんのところに行って射撃を体験してみましょう!本当はスキーも行うんですが今は夏ですからね)小太郎君も龍宮さんは知っていますよね。今日は射撃訓練ですよ」

昨日いいんちょさんはネギ先生分を補充しすぎて放心状態なので放置です。
ご覧の通りですが小太郎君も途中で拾ってきました。
まあ観測しながら偶然を装って遭遇しただけなんですけど。

「(はい、相坂さん、色々な事を体験させてくれてありがとうございます!)」

「たつみー姉ちゃんの事は知っとるで!俺は格闘が好きなんやけどネギもやるんなら負けられんわ!」

「(小太郎君も射撃は初めてだそうですけど負けないって言ってますから頑張ってくださいね)」

「(はい!コタロー君、一昨日は敵わなかったけど今日は僕も負けないよ!)」

実に良いライバルになってますね。
まだ会うのは二回目なんですが言葉が通じないだけに感情でぶつかり合いやすいみたいですね。

「(ネギ先生、一度バイアスロンの競技の説明をしましょう。バイアスロンとは、クロスカントリースキーと、ライフル射撃を組み合わせた競技で元々はスキーをしながら銃で獲物を狩猟するのが発展したものだそうです。1861年からノルウェーで本格的にスポーツとして広まったようですが、麻帆良学園より歴史は古いですね。スキーについては省きますがライフル射撃は本来スキーで走り込んでから行う為、心拍、呼吸が乱れた中での精密射撃が要求されるのがポイントですから何か得るものがあると良いですね)」

お分かりの通り銃を扱いますが、麻帆良では認可がしっかりされているので使われる銃弾は全てゴム弾と言う事になっています。
恐らく龍宮さんの私物には物騒な物が大量にあるはずですが細かいことは気にしてはいけません。

「(相坂さんは物知りなんですね!)」

まあインターネットに介入して昨日の夜便利なサイトの情報を覚えてきただけなんですけど……。

「何長くネギに説明してるんや、さよ姉ちゃん!不公平だから俺にも教えてーな!」

「はいはい、バイアスロンの説明をしただけですよ。小太郎君に言う必要があるのは、ライフル射撃は本来スキーで走り込んでから行うから、心拍、呼吸が乱れた中でも精密射撃がうまくできるように、という事ですかね」

「俺はちょっとやそっとの運動ぐらいじゃ息が切れたりはせんから大丈夫やな!」

賑やかに会話をしているうちに目的地に到着です。

「龍宮さーん、来ましたよ!今日はよろしくお願いします」

「相坂か、話は聞いていたから準備はできているぞ。コタロー君も一緒か、なるほどライバルという訳だな。で、そっちの少年がそのネギ・スプリングフィールド君かな」

昨日の晩予め龍宮さんの部屋にお邪魔してお願いしておいたんです。
報酬として超包子の肉まんの無料券と餡蜜をご馳走するということになりましたが、相変わらず裏で報酬を貰っている割には金銭にはシビアな人です。

「よっ、たつみー姉ちゃん。今日は俺も参加させてもらうで!」

「言うのを忘れていましたがネギ先生はまだ英語しか話せません。(ネギ先生このお姉さんが私と同じクラスの龍宮真名さんでバイアスロン部でもトップの腕前を持っているんですよ)」

「(初めましてネギ・スプリングフィールドです。2学期からこの麻帆良学園に英語の教師として赴任することになりました。よろしくお願いします龍宮さん!)」

「(おや、年の割には落ち着いてて礼儀正しいな。私が紹介に預かった龍宮真名だ。よろしく)」

「(龍宮さんも英語話せるんですね!日本って凄いなー)」

そうでした、龍宮さんも英語話せるんですね。
まあ確かに実際日本人には見えませんし、四音階の組み鈴に属していたのですから当然ですか。
それに神社の巫女さんをやっていますがはっきり言ってイロモノ過ぎますよね……。
褐色系、凄腕スナイパー、邪気眼、巫女さん……。
あ、なんかマズイ殺気が。

「相坂、今変な事思わなかったか」

「いえ!今日の餡蜜はどこがいいかなーと思っただけですよ!あ、映画のチケットもあるんで良かったら貰って下さい!」

「焦り過ぎだろう。落ち着け。映画のチケットは貰っておこう」

「は、はい。では早速二人にバイアスロン部を体験させて上げてください、お願いします」

「分かった。コタロー君付いて来い。(ネギ先生も付いてきてくれ)」

「負けんでネギ!」

「(コタロー君、頑張ろう!)」

宣戦布告なんですが微妙に咬み合ってませんけどまあいいですよね。
あれ、右手に出した映画のチケット本当に無くなってます!
こ……これはまた完全透明状態で侵入するしかありませんね。

それからの射撃訓練でしたが小太郎君も力はあるので射撃をした時の反動で銃身がブレる事が殆どありませんね。ネギ先生も魔分で身体強化しているので似たようなものですが、端からみると10歳ぐらいの子どもの身長で長いライフルを普通に構えて撃ってるあたり異常ですね……。
周りの部活の人達は大した坊主だな、流石龍宮が見込んだだけはある等と麻帆良らしい反応で済ませてますが……あきらめましょう。
結局二人は完全にハマってしまい、長時間続けることになりましたが随分上達しました。
私も龍宮さんの動きをトレースして結構上達したんですがこれはかなりズルなので生身で実現している二人はどういう事なのでしょうか……。

「相坂、コタロー君がこういったものに強いのは知っているんだが、ネギ先生のこの上達の速さは何だ」

「ネギ先生は何と言うか天才で、古さんが言うには覚えるのに1ヶ月はかかる技を数時間でものにしてしまうらしいです。昨日私も合気柔術を教えたんですが面白いぐらいに吸収が早くて早くて」

「あの古までそう言うのか。少し落ち着きのある子供ぐらいかと思っていたらとんでもないな。確かに鍛え甲斐があるとは思うが」

「昨日いいんちょさんなんてそのせいもあって、ずっと付きっきりでしたよ」

「ゆ、雪広に会わせて大丈夫だったのか」

委員長なのにこの辺りの信用が殆ど無いですね……。

「少し……怪しかったですけど大丈夫でした。エヴァンジェリンさんもいましたし」

「ああ……、少し話についていけんな。それで明日は刹那の剣道部にも連れて行く気なのか」

「その予定ですけど、桜咲さんは最近機嫌悪いからどうかなーって少し心配です」

「それなら一つ良い事を教えておこう。明日もコタロー君を連れて行くと良い。それに私からも刹那に伝えておくよ」

「龍宮さん、ありがとうございます」

「しかし、不自然に連れ回しているようだが誰かの差金なのか」

「それは……秘密です。それに教師にもなりますから予めこの夏生徒と知り合っていた方が9歳の先生にとっては良いでしょう」

「まあ、大体分かるがそういう事にしておこう」

夕方部活が終わるまで続き、その後餡蜜を皆で食べに行ったのですが、龍宮さんと小太郎君は自重して下さい。
ご馳走するとは言いましたが何杯も頼むのはおかしいでしょう!
龍宮さん!一番高いの頼むのもうやめて!
小太郎君も俺の方が沢山食べるとか言って同じの頼むのやめて下さい!
それに引き換えネギ先生の大人しいこと大人しいこと、これは……いいんちょさんが溺愛したくなる気持ちもわかります。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

い、一時的ですが財布の中身が空になりましたよ……。
超包子で働いていなければ大変でした……。
いえ、龍宮さんは私が稼いでいることを知っていてこんな事をしたに違いないです。
今度映画の内容で嘘教えましょうか……。

昨日帰り際に小太郎君に明日は桜咲さんの剣道部に行くから付いてきませんかと言ったらネギが行くなら俺も行くと凄い単純に釣れました。
子供の扱いはこういう時楽です。

また予め桜咲さんには夜にお願いしておいたんですが、相変わらずピリピリしてました……。
多分精霊体で部屋に入ったら斬られてたんじゃないでしょうか。
小太郎君も一緒に行くという話をしたら一瞬目が大きくなりましたがやはり何かあるらしいですね。
その後無事了承を得られたので良かったです。

「(おはようございますネギ先生)」

「相坂さん、おはようございます!今日もよろしくお願いします!」

あれ……日本語の発音完璧……。

「(ネギ先生日本語話せるようになったんですか)」

「(この三日で挨拶はきちんとできるようにこのかさんとアスナさんに教わったんです!)」

確かに、自己紹介ができるようになるのは重要ですね。
だからと言って一切違和感のない日本語が話せる理由にはならないと思いますが……。

「(それは良い事ですね。早速小太郎君を連れて行きましょう。はい、今日も肉まんどうぞ)」

「(今日はコタロー君にもちゃんと挨拶します!肉まんありがとうございます。本当に美味しいです)」

食べ歩きは行儀が悪い気がしますがまあいいでしょう。
小太郎君とは女子校エリアの前で待ち合わせになってます。

「小太郎君おはようございます」

「さよ姉ちゃん、おはよう!今日は刹那姉ちゃんの所やろ!ネギ!昨日は射撃で最後負けたけど今日はそうはいかんで!」

そうです、昨日最後厳密に勝負したらネギ先生の勝ちでした。
スーパー小学生、いえ子供先生ですか。

「こ、コタロー君おはよう!今日も僕負けないよ!」

言いたい事から覚えてきたという訳ですか。
ちゃんと言えて凄く嬉しそうですね。

「おうネギ!日本語もうそんな話せるようになったんか。先生するだけあってほんまに頭良いんやな」

「まだ少ししか話せないけど頑張ってすぐ話せるようになるよ!」

「それでは早速剣道部に行きましょう」

桜咲さんが夜に振るう刀は太刀なので剣道の竹刀とは長さが異なりますが、あまり得物には拘らないらしいですね。

「桜咲さん!おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「相坂さん、おはようございます。小太郎君もおはよう。そちらが話に聞いたネギ先生ですか」

桜咲さんは龍宮さんと一緒に話すときは仕事人モードな口調なんですが、普段話しかけると丁寧な口調になるんですよね。
まあ口数は物凄く少ないですが。
それにしても小太郎君を見る目がなんだか優しいですね。
龍宮さんが言っていたのはこの事だったんでしょう。

「刹那姉ちゃんおはよう!今日はよろしく頼むで!」

「初めまして、ネギ・スプリングフィールドです。2学期から英語の教師として赴任することになりました。今日はよろしくお願いします」

「初めまして、桜咲刹那です。英語しか話せないと聞いていたんですが話せるようになったんですか」

「基本的な挨拶だけはこの三日で覚えました」

「そうなんですか。とても流暢な日本語なので驚きました。それでは早速剣道着の着用から始めましょう」

やはり剣道ならでは、道場は独特の匂いがしますね。
私はやっぱり……合気柔術の方が好きですね。
この剣道のビシッっていう竹刀の音が耳に聞こえる度身体のどこかが痛い気がします。

稽古が始まったんですが、ネギ先生は一日目の中国拳法、二日目の合気柔術、三日目の射撃訓練の相乗効果により呼吸と精神が凄く落ち着いてるみたいで見た目に見える体格よりも大きな存在感を放っているように思えます。
面を着けているので表情はよくわかりませんが、桜咲さんも多分驚いていると思います。
二人足さばきの上達が早すぎる上、面、小手、胴の動きも綺麗な物です……。
既に今年入部した中学一年生を遥かに越える状態で剣道部の先生も驚いてますね。
最初は小学生に少し体験させようぐらいに思ってたんだと思いますが……。
なんでも一度やらせてみればの程度の筈が、どう考えても一度やった程度のレベルアップではありません。
桜咲さんの指導もなんだか熱が入り始めてあっと言う間に時間が過ぎていきました。

「桜咲さん、お疲れ様です。さっき超包子で肉まん買ってきたのでどうぞ。小太郎君とネギ先生もお腹すいたと思うので食べてください」

「ありがとうございます、相坂さん」

「何度食べても美味いなこの肉まん!」

「うん、四日間毎日食べさせてもらってるけど美味しいね」

まあこの暑い夏に肉まんはどうなのっていうのは置いておいてください。

「小太郎君もネギ先生もこんなに上達するとは思いませんでした。相坂さん、二人は昨日もこんな風だったんですか」

「龍宮さんも昨日同じこと聞いてきましたよ。ちょっと信じられない上達速度ですよね」

「帰ったら龍宮に聞いてみますよ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

帰り道でしたが

「小太郎君は携帯電話持ってますか」

「持っとるで」

「私にアドレスと電話番号教えてください。ネギ先生の携帯電話が今日には用意できるらしいので連絡取り合えた方が良いでしょう」

実は鈴音さんが完全自主制作の廃スペックな携帯をロボット開発の合間に作り出したと連絡があったのです。
意外とやさしいですよね。
というかこう言うのは学園側が用意するのではと思いますがどうなんでしょう。
この三日の間に私が知らないところで話が進んだのでしょうか。

「おお、ネギも携帯電話持つのか!なら教えたるわ」

「(相坂さん、一体どうしたんですか)」

「(ネギ先生の携帯電話が今日にはできるので小太郎君の携帯のアドレスと電話番号を教えてもらっているんですよ。ネギ先生もその方が良いでしょう)」

「(本当ですか!お世話になりっぱなしでなんだかすいません。ありがとうございます!)」

この後途中で小太郎君と別れて、桜咲さんとネギ先生と一緒に寮まで帰りました。

「桜咲さんは小太郎君を見るとき優しそうですけど、あ……これは聞かない方が良いですか」

「いえ……ただ少し羨ましいなと思っています」

「細かいことは聞かないでおきますね。元気だしてください、桜咲さん」

「(どうかしたんですか二人共)」

「(何でもありませんよ。大丈夫です)」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ふむ、ロボット開発の合間に学園長に少し連絡してネギ坊主の携帯電話作てやたネ。
契約の処理はあちらに任せたが、午前中に作って午後にはもう手続きは済んだようだナ。
高畑先生に微妙な顔で見られたが、多分怪しんでるんだろう。
翆坊主も茶々円で活動した結果神多羅木先生に先に精霊バレをするとは高畑先生は避けられている気がするネ。
魔法世界での有名人には知られない方が良いというのが本音なのだろうが。
後は私にもあれだけ必死に止めろと言てくるのだから時間の流れが早いダイオラマ魔法球で修行したのを快く思ていないんだろうナ。

《超鈴音、一昨日の朝は厳しかったのになんだかんだネギ少年に優しいですね。サヨ達はもう帰ってきますよ》

《ご先祖様だからネ。敬うのは当然だヨ》

《そういう事にしておきましょうか》

翆坊主の言た通りすぐ帰て来たネ。

「さよ、せつなサン、ネギ坊主お帰りだネ。(それでこれがネギ坊主の携帯だ。既製品の性能を遥かに凌駕した操作性と機能を備えているから存分に使うといいヨ。既に何人かアドレス帳に登録されているから確認するといいネ)」

「(超さん、ありがとうございます。相坂さん、アスナさん、古菲さん、学園長先生、このかさん、タカミチ、龍宮さん、超さん、エヴァンジェリンさん、あやかさん、昨日までにあった人が殆ど入ってますね!)」

「(これで小太郎君を入れれば後は桜咲さんだけですね)桜咲さんもネギ先生の携帯に登録してもらってはいかがですか。この夏時間があればまた剣術をするのも良いと思いますよ」

「え……、はい、そういう事ならお教えします」

「(桜咲さんも教えてくれるんですか。ありがとうございます!)」

「(ネギ坊主、この四日間で私達が紹介できる運動はこれで大体終りネ。後は好きなものに取り組むといいヨ。そこに登録されている人達は皆歓迎するらしいから遠慮せずに連絡するといい。もちろん小太郎君に違う所に連れて行てもらうのも良いだろうナ)」

「(皆さんいつでも都合が合うということはないかもしれませんが気にせず連絡してくださいね。夏が終わったらいよいよ先生になるんですからそれまで麻帆良をじっくり見るのもいいかもしれませんよ)」

「(はい!超さん、相坂さん、桜咲さん、ありがとうございます)」

これで大体一段落だネ。
実はネギ坊主の携帯には特殊な通信技術を試験的に搭載してあるが、使用にはこちらから一度起動させる必要があるからもしもの時用という事だナ。



[21907] 15話 夏の終わり
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 19:58
4日目にして言語の障壁をやはり突破し始めたネギ少年だったが完璧に話せるようになったのは8月の末になった。
予想通りパパラッチ朝倉和美がネギ少年に気づき突撃、その騒ぎで他の寮室の2-A達にも伝染するもまだ言葉があまり通じていなかったため雪広あやかが仕切るという結果に終わった。
その後パパラッチがネタを求める為英会話に熱を入れるようになったが先にネギ少年の日本語マスターの方が早かった。
無駄な努力とは言わないが天才少年には勝てないようだ。
神楽坂明日菜は夏休みの宿題をまさかのネギ少年に「先生になるんだからそれぐらいわかるんでしょ!服吹き飛ばしたんだから手伝いなさいよ!」と言葉が通じるようになったのを良いことに強引に手伝わせるという暴挙に出たが、冷静になって流石に恥ずかしくなったのかその後英語だけは真面目に勉強するようになったそうな。

夏の彼の生活であったが、小太郎君に早速電話してやはり忍ばない忍者とさんぽ部に参加しだし、小学生が四人に増えた。
定期的に人数が増えるとは一体どういう事なのだろうか。
そして夕日に照らされながら木に三人並ぶのは何かの番組でも始めるのだろうか。
また、逆に小太郎君の強引な勧めにより忍者と山で修行する事になり、その結果その日帰ってこなかった為に寮で騒ぎになり、雪広あやかが失神しかけたが、サヨが呪術協会支部、もとい日本文化振興施設に電話し、山に行ったんだろうという情報を得て事なきを得た。
2人が寮に戻ってきたとき小太郎君と雪広あやかの喧嘩のようなものが発生したのは言うまでもない。
忍者の方は流石に忍びらしく一足先に何食わぬ顔で寮に戻りネギ少年を出迎えていた。
正直初めて忍んだのではないだろうか。

呪術協会所属の犬上小太郎君とサウザンドマスターの息子であるネギ少年が仲良くする事自体に裏でどういう動きがあったかと言えば、若い世代同士東と西の垣根を越えるのにもってこいだろうという事で知る人達は微笑ましく静観するという態度を決め込んでいる。
ただ犬上小太郎君が狗族と人間のハーフであり、元々厄介払いのつもりでこちらに連れてきたという意図も呪術協会としては無いでは無いので微妙な部分もあるだろう。

それ以外は今までに回った運動をローテーションしつつ、違う2-Aに遭遇する度にラクロス部やらバスケ部などなど色々体験したようだ。
一つ、それはちょっとというような女子中等部の新体操までやったが佐々木まき絵のリボン技能検定はネギ少年でも取得できなかったのは最大の謎である。

木乃香お嬢さんも言葉が通じる事を良いことに自慢げに図書館探険部に連れて行き、その仲間達と共に地下三階まで潜るという冒険をやってのけた。
ネギ少年は正直あり得ない構造の図書館島に驚きの連続であったが、あまりにも他のメンバーが普通の様なので深く突っ込むことはできなかったようだ。

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一方でエヴァンジェリンお嬢さんの高速思考習得のついでに夏休み中、粒子通信を頻繁に行なっていた。

《エヴァンジェリンお嬢さん、合気柔術を教えるだけでも楽しそうですけど魔法はどうするんですか》

《あのぼーやはまだ身体ができていないからな、今のところは普通に運動するだけでも良いだろう》

《そういう割に日常的に魔法で身体能力を強化してますよね……》

《それは私が魔法を教える時に言うしか無いだろうな》

と、どういう切り口で魔法を教えるタイミングを得るのかよく分からないが教えるつもりらしい。

また別の日に聞いてみた事があるのだが

《闇の魔法ってこの100年の間に誰かに教えた事ってあるんですか》

《ああ、あれは私が忌々しいことに真祖の吸血鬼になってから生きていく為に10年程度の歳月をかけて完成させた技法だからな。はっきり言ってあれは使い勝手が悪い。だから誰にも教えていないがどうかしたのか》

…………。

魔法世界でナギと並ぶチートなラカンという人に教えて貰うという筈だった気がするのだが……。
しかも、10年程度と言うことは大したことない技だったのか……。
確かに500年近く真祖の吸血鬼やっておきながら始めの10年に習得した技なんてそんなものなのかもしれないが。

《いえ、なんでもありません。そうすると闇の魔法を越える何か必殺技のようなものがあるんですか》

《そんな事をしなくても私は強いからな、必殺技など必要ない。大体絶対に勝たなければいけないという場合に出くわした事がないし、あったとしてもさっさとゲートを作って逃げて終わりだ。いちいちリスクを負う必要がないだろう》

非常に合理的だった。
しかし、それだとナギと戦った時はどうだったのだろうか。
丸くなってるお嬢さんが本気を出す前に巫山戯た罠に嵌って呪いをかけられただけのような気がするが……。
えーと、闇の魔法は却下……。

《お嬢さんの考え方には精霊としては私も賛同です。ただネギ少年は男の子ですので負けられない戦いがありそれが強敵だった場合だったらどうするんですか》

《フフ……茶々円、ここ最近既に私はどれぐらい別荘に入っていたと思う》

《えー、あれ、簡単に確認しましたがここ半年で軽く1年を超えていますね……。まあ私はお嬢さんならダイオラマ魔法球をどれだけ使おうと気にしませんが》

流石に観測すると行っても超鈴音の魔法球ならともかく、いちいちお嬢さんの別荘の中まで見ないから入っていた時間を計算したらそうなる。
休日に15回丸々入るだけで1年だから恐ろしい空間だ……。
タカミチ少年もそりゃ長期休業にガンガン入ったりすれば年も喰う訳だよ。

《相変わらずそういうところの確認だけは早いな。ここ最近に限った話ではないがここ100年を含め研究はしていたからな。この前私が一部精霊化していたのが分かる前から、それが何かは分からなかったが、基本魔法についてはある程度把握していた》

《それはつまり魔力ではなく魔分の本質に基づいて、という事ですか》

《超鈴音のアーティファクトのフィールドを見てな、最後の鍵が解けたんだよ。それにじじぃの所に行ってぼーやの成績表を拝借して見てみれば基本魔法の扱いに関しては特に天才だそうじゃないか》

お嬢さんも気づいてたんですか。
超鈴音に言われて私もなんとなく気づいていたけれど……。
流石過ごした年数分の経験がある訳だ。

《それ教えて大丈夫なんですか。なんだか機密に関わりまくりの気がするんですけど》

《まあまずそれが私や超鈴音のような精霊の力を直接借りずにできるかという問題がある。それ以前に魔法を使った戦闘訓練もまだ基本すら確立していないだろう》

まあ生身の人間に魔分の本質が分かるのは今の今まで起きてこなかった訳だから当然か。
実際使えたとして真似ができなければレアスキルの一点張りになるだろうし。
少年の才能に期待するしかない。
ああ、今まで闇の魔法に期待していたのは何だったのだろうか。
しかし気になるのは魔法世界で果たしてうまく使えるかだが、祈るしか無い。

《そうですね。お嬢さんに任せればうまくいきそうですから安心しましたよ》

《確実にじじぃに目にもの見せてやらんとな。まあ断罪の剣ぐらいは一発喰らわせてやりたい》

物騒すぎるんですけど。
当たると強制的に気体に変化させる基本性能に加え、それを回避しても融解熱と気化熱の吸収で強烈な低温状態に相手を晒すという危険な代物だったと思う。
そういう武装が好きな超鈴音が開発中でもある。
まあ使うかどうかともかくただ単に開発したいだけだろうけど。

《そう言えば断罪の剣って属性で言うと何に分類されるんですか》

《属性か、それは別に一つに限らないが私は今まで氷と火でやっていたな》

あれも複合系だったんですか。

《今までというのは今は……まさか基本魔法……ですか》

《そうだ。出力も高い上に一旦別の精霊の力を借りる必要がないから扱いやすい》

今まで神木の精霊というか魔分自体の事をあまり考えていなかったが凄くチートだ……。
まあ魔法自体がチートみたいなものだがこれを言ってしまっては元も子もない。

《そうだ、超鈴音の身体だがあれは普通に生活する分には問題ないがそれでも脆くないか》

その事は呪紋回路と火星という特殊環境で育ったせいだな……。
超鈴音にとって触れられたくない事だろうが。
今はアーティファクトで誤魔化すことも可能になったが、本気で戦うならば専用の強化服を着用する必要がある。

《火星が特殊だった、と言うことです》

《私も大概だが事情を抱えている奴は麻帆良には多いな》

故に麻帆良が麻帆良である訳だ。

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で、こちらは図書館島。

《クウネル殿、近衛門殿にエヴァンジェリンお嬢さんの詰め合わせ映像を送らせたようですね》

「おや、精霊殿もご存知でしたか。そうですよ。効果の程はどうでしたか」

《完璧過ぎてクウネル殿を褒めざるを得ませんね。ネギ少年とお嬢さんのファーストコンタクトがこれ以上無いほどにうまく行きました。その時の映像収集しますか》

「なるほど、ご褒美ですか。頂きましょう」

《それとお嬢さんがナギ少年の生存について聞きに来ませんでしたか》

「来ましたね。強引に見せろと言ってくるものですからからかうのが楽しかったですよ。おや、この顔はとても良いですね。感謝しますよ」

相変わらず天敵だな……。

《それはどうも。来年の麻帆良祭が楽しみですね》

「ええ、機会としても最高の場所でやっと約束を叶えられますからね」

《しかも既に呪術協会の方もいますからなかなか面白くなるかもしれませんね》

「そんなにトーナメント組めるのですか」

《超鈴音次第でしょう。アンダーグラウンドな場所で試合するなら3日間やっても良いかもしれませんし》

「主催者側というのは便利ですね」

《その代わりそれだけやることがあって大変でもありますが》

「でもそんな超さんを見るのが楽しみなのでは」

《クウネル殿にとってのお嬢さんには負けますよ》

「そこは勝ちを宣言しておきましょう」

なんの会話だ。

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「千雨サン調子はどうかナ」

「お前の渡した端末だがなんだよこれ、どうして市販の一番良い製品を軽く超えてんだ」

「お褒めに預かり光栄だネ。それは私が開発したヨ!」

「本当に火星人だったりすんのか……」

「オオ!千雨サン良く分かたネ!」

「冗談はやめろよ……。あぁもう……本題に入るがプログラムは完成した」

「ふむ、確認するヨ。肉まん食べるといいネ」

「この肉まんもだが、なんで一個100円なのにこんなに美味いんだよ……。しかもインターネット販売始めて明らかに他所の営業妨害になるだろ」

「それは私と五月の肉まんに対する愛の結晶が為せる技ネ。営業妨害については他人のサイトをハッキングで攻撃してるちうサンに言われたくないぴょん」

「超!お前!いい加減にしろよ!」

普段学校では人付き合いが悪いイメージだたが話してみるとからかい甲斐があるネ。
気がつけば呼び方も長谷川さんから千雨さんに自然になてたヨ。

「千雨サンの運動不足の身体で私に一発入れるなんて甘いネ。当たらなければどうということはないヨ」

「はぁ……はぁ……無駄に疲れる……。いつも学校で古達と馬鹿な事やってる癖に底の知れない奴だな……」

「私の秘密はこの世界にも匹敵する機密事項ネ。人間の尺度で図ろうなどというのが間違いだヨ」

「調子に乗りすぎだろ……」

「ハハハ、そこは否定しないヨ。おお、流石だナ、こんなプログラム到底普通の中学生の物とは思えない出来だネ!ハカセも驚くヨ!」

「お前にだけは言われたくねぇよ……。大体何なんだよそのハカセが弄ってるあのロボは。どうして授業に出てても誰も不思議に思わないんだよ」

おやおや、随分溜まているネ。

「茶々丸はガイノイドだヨ。不思議に思わない理由は、千雨サンが不思議に思う方が此処ではおかしいだけだから安心するといいネ。イライラが溜まるなら休日に部屋にいないで麻帆良の外に出てみるといいネ」

「説明になってねーよ。で、それは何か、私が不思議に思わないのが不思議だと言いたいのか」

「そういう事だネ。ここはある意味夢の楽園のような場所で生活するには便利だと思わないカ」

「それはそうだろうけど……。っていうかさっきの発言だと超は不思議だと思っても仕方ないと思ってんのか」

「私にとてはまだまだ不思議でも何でもないけどネ。行き過ぎた科学は魔法のような物だという事かナ」

「言ってる事はわかるがわかりたくねぇな……」

「割り切るしかないネ。仕事の方は助かたヨ。報酬は千雨サンの銀行に振りこんでおいたから確認するといいネ」

「もう報酬払ってあんのかって何で私の銀行口座知ってんだ!」

「フフ、麻帆良最強頭脳である私に不可能なことはあまりないネ。ではまた会おう」

私が何を言ても最後に判断するのは自分自身だからナ。

さて、田中サンことT-ANK-αシリーズはα2まで進化が進んだネ。
まだ微調整が必要だがこの分なら9月には完成形がロールアウトできるヨ。
8月の頭にネギ坊主に渡した携帯電話だが使う機会がないナ。
まああれは魔分を使うからどこでも通信できるという大分ありえない代物だからそう簡単には使えないのだがネ。
それにまだネギ坊主に知られるには時期が早いカ。
ネギ坊主と小太郎君がウルティマホラに出ると当面の目標としては面白いから勧めてみるカ。
明らかに年齢制限に引かかてるがなんとかするネ。

超包子の肉まんはお料理研究会の他の店でも置いてもらう事が決定したから麻帆良内で製造設備をフル稼働した生産量を無駄なく届ける事ができるようになたネ。
ロゴの方は社員さん達からの賛成を貰たから商標登録した後袋や箱に印刷を加えて浸透を図るネ。
また新店舗の計画だたが世界に広めるという事を見据えて日本の空港に店を出す方向で話が進んでいて出店は冬前にはできるヨ。
海外に出すにはまずその国の特徴を抑えないと失敗する可能性があるからその市場調査も行う必要があるナ。
宗教的にあまり気にならない国ならすぐにでも出せるとは思うが、技術漏洩の恐れがあるから治安も考えないとだめだネ。

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8月29日僕もあと少しでとうとう英語の教師になる日も近くなった時あのエヴァンジェリンさんから電話が来たんだ。

「ぼーや、今日は暇か」

2学期の為に準備する時間は十分あったし大丈夫だ。

「はい!今日は空いてます」

「そうか。なら私の家に来ると良い。茶々丸が迎えに行くから寮で待っていろ」

「あ、エヴァンジェリンさんは茶々丸さんと住んでいるんですよね。分かりました」

「それではまた後でな」

「はい、また後でよろしくお願いします」

エヴァンジェリンさんの家って何処にあるんだろう。
麻帆良女子中等部の皆さんは全寮制だからここにいないということは家の事情でもあるのかな。
茶々丸さんと一緒に住んでるらしいけど、クラスの名簿でまだ見ただけなんだよな……。

「ネギ、エヴァンジェリンさんから電話?」

「はい、家に招待してくれるらしいです。茶々丸さんが迎えに来てくれるのでそれまでここにいますよ」

「ネギ君エヴァンジェリンさんから気に入られたんやね~」

「エヴァンジェリンさんが招待するなんて珍しい事もあるのね」

「えっそうなんですか」

「エヴァンジェリンさんは大学院を卒業してるんやけど何故かうちらと同じ中等部にいるんよ。そやからあんまりうちらとは仲良うないんよ」

なんで大学院まで出てるのに中学生やってるんだろう……。

「でもこの前の学園祭の時は凄く一生懸命着付けを指導してくれて良い人だったわ」

「あの時は厳しかったけどお陰でしっかり着れるようになったんやわ。あの時着た着物良かったな~」

「私達のお金じゃちょっと買えない物だったよね」

やっぱり二人も同じようなイメージなのか。

「おはようございます」

「あ、相坂さんかな」

「朝から失礼します、ネギ先生、茶々丸さんが寮の前に待ってますよ。それでこの手紙を読んで来て欲しいそうです。また読んだら手紙は返して下さいと言ってましたよ」

「もう迎えに来たんか。アスナみたいに足はやいんやね」

アスナさんの足の速さは新聞配達に一度付き合ったけど魔力で身体強化してるのと同じぐらいだったから麻帆良って凄い人ばかりみたい。
箒で空を飛んだりしたら駄目と学園長先生に言われているからこの一月近くは身体強化以外にほとんど使ってないや。
あ、でも使う暇がないぐらい忙しかったのもあるかな……。
日本語の習得にはアスナさん達に隠れて基本魔法を使ったけど2学期に間に合わないよりはいいよね。

「秘密の手紙なんて怪しいわね」

「駄目ですよ神楽坂さん。女性のプライバジーは守らないといけません。エヴァンジェリンさんは私達よりも年上なんですし。はいこれをどうぞ」

「ちょっと言ってみただけだって」

「ありがとうございます」

ん……何故か魔力の痕跡があるな……。
えっサウザンドマスターの事が知りたければ杖を持って来いってあるけど、どういう事だ。

「あ、相坂さんエヴァンジェリンさんはどんな人だと思いますか」

「ネギ先生、焦らなくても大丈夫です。手紙の通りにすればきっと良い事がありますよ」

相坂さんは嘘を言うような人じゃないし……、よし行ってみよう。

「ちょっとネギ君様子おかしいけど大丈夫なん」

「手紙を貰ったくらいで動揺してはいけませんよ。この夏でネギ先生は身も心も成長したじゃないですか」

「は、はい!このかさん、僕は大丈夫です」

そうだ、この夏コタロー君と一緒に頑張ったんだ。
そのお陰で一人でちゃんと寝れるようになったし前より身体も強くなったんだ。

「それではまた会いましょう、ネギ先生」

そのまま相坂さんは出て行った。

「相坂さんも英語が話せたのもあるけどこんなにネギの面倒を見るとは思わなかったわ……」

「そやなぁ、いつも超包子で肉まん売ったり違う時は学校が終わったらすぐに寮に篭ったりしてたもんなぁ」

「体調が悪いのかと思えば去年はウルティマホラで凄いところまで行ったし少しよく分からないわよね」

「そのウルティマホラって何ですか」

「ウルティマホラ言うんは10月にある格闘大会の事や。去年うちのクラスでは超さん、くーちゃん、相坂さんが出たんよ。くーちゃんは去年2位やったんやけど、今年は1位になるだろうって皆言っとるよ」

「面白そうですね!でもくーふぇさんより強い人なんているんですね。小太郎君もまだ勝てないのに」

「その人は去年で麻帆良から出て就職していったんよ」

やっぱり此処は凄いな。

「そうだったんですか」

「ってネギその長いだけの杖持ってくの?」

「えっ駄目ですか」

「べ、別に駄目じゃないわよ。気をつけてね」

「では行ってきますね、アスナさん、このかさん」

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茶々丸さんに手紙を渡してマスターの家に参りましょうと言われたけどマスターってエヴァンジェリンさんの事かな。

「茶々丸さん、エヴァンジェリンさんって魔法使いなんです