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東日本大震災:福島第1原発事故 建屋外でも1000ミリシーベルト 冷却足踏み

陸上自衛隊が27日午前にヘリで撮影した福島第1原発2号機=2011年3月27日、防衛省提供
陸上自衛隊が27日午前にヘリで撮影した福島第1原発2号機=2011年3月27日、防衛省提供

 ◇冷却足踏み、ジレンマ 注水増やせば汚染水拡大

 東京電力福島第1原発の建物外で、極めて高い放射線量を持った汚染水が確認された。原子炉を冷却する海水の注入を、機器への負担が少ない真水に切り替えるなど一部で前進はみられるが、放射性物質による汚染が次々と広がっている。今なお東電幹部や政府は事故収束の見通しを示せない。放射性物質の監視体制は整備されても、外部への放出を防ぐという抜本的な解決にはほど遠く、関係者の間で焦りといらだちが募っている。

 「現時点で具体的な目標を定めるに至っておりません」。東京電力の武藤栄副社長は28日夜の会見で、事故収束の見通しがたたないとの見解を示した。

 東電は福島第1原発の炉心冷却のために注水量を増やしてきた。また、海水から真水に変更した。海水中の塩素が燃料棒に付着すると腐食するほか、結晶化して弁の働きに悪さをするからだ。だが、ここにきて「注水を増やすと汚染水が拡大し、外部に広がる」というジレンマが表面化した。

 1~3号機のタービン建屋地下では放射性物質を含んだ汚染水が24日以降、相次いで発見。通常運転時の冷却水に比べて、1、3号機で約1000倍、2号機で約10万倍だった。

 28日には、2号機のタービン建屋の外側にある立て坑の水表面で1時間当たり1000ミリシーベルト以上の放射線量が検出。作業員は近づくこともできず、冷却機能回復のための作業は中断している。経済産業省原子力安全・保安院の西山英彦審議官は28日の会見で、「まずはタービン建屋にたまった水を抜くが、注水は核燃料が危険な状態にならないよう続けなければならない」と苦悩した。

 汚染水の漏えいルートについて、東電と保安院は「不明」としているが、放射性物質の特徴から炉内の水と見ている。水蒸気が炉内から外側の格納容器内に広がり、弁やポンプの隙間(すきま)から漏れ出たか、格納容器下部の圧力抑制プールが爆発で破損した2号機では、そこから漏れたとみられている。

 圧力容器の容量は1号機が約200トン、2、3号機が約330トンで、1時間当たり10トンの注水でも1~2日で満水になる。しかし実際には大量の水蒸気が圧力容器外に放出していると見られ、炉内の水位はほとんど変化せず、燃料棒は一部が水面上に露出したままとみられている。

 東電は注水強化のためポンプを順次増強した。当初は消防車のポンプによる1時間当たり2トンの注水だったが、1号機は23日以降同11トンに増やした。2、3号機も28日までに仮設ポンプを設置し、同約39トンに増強。1号機でも29日中に仮設ポンプを設置する予定だ。

 防衛省・自衛隊も、東電の真水注入作業を支援するため、米軍から提供を受けたバージ船(はしけ)2隻を、福島第1原発から約60キロ南の小名浜港に待機させている。真水計約2200トンを積んでおり、原発近くに接岸し、米軍がオーストラリアから購入した給水ポンプで貯水タンク(容量約3500トン)に真水を送る。訓練やポンプの試運転などが必要で、実現するのは早くても31日となる。バージ船の真水がなくなった場合は、沖合にいる海上自衛隊の補給艦が給水する。

 だが、炉内への注水量が増えれば、同時にタービン建屋地下などへの漏水も拡大し、作業がさらに遅れる可能性が高い。冷却機能の回復はさらに不透明になっている。【日野行介、足立旬子、坂口裕彦】

 ◇海藻にヨウ素付着しやすく 土壌吸着、地下水に行かず?

 福島第1原発の建屋外で汚染水が見つかり、海水からも基準の約1850倍のヨウ素131などが検出されている。今後も漏えいが続けば、水産資源や土壌などへの影響が懸念される。

 吉田正・東京都市大教授(原子炉工学)は「元々、タービン建屋にある復水器は、海水を引き込んで蒸気を冷却する仕組みで、海との関連が深い施設と言える。海への漏えいもあり得る」と指摘する。

 海に漏れている場合の影響はどうか。稲葉次郎・元放射線医学総合研究所研究総務官(放射線防護)は「放射性物質量がどのぐらい漏れたかにもよるが、海に入っても海流などによって希釈される。すぐには海産物や人への影響には結びつかないだろう」と話す。

 一方、海や魚と放射性物質の関係に詳しい水口憲哉・東京海洋大名誉教授(資源維持論)は「生物の体内で放射性物質が濃縮されるため、魚介類への影響が懸念される。特に海藻類はヨウ素131が付着しやすい」と危惧する。

 海だけでなく、土壌に汚染水が漏れ出ている可能性も否定できない。村松康行・学習院大教授(放射化学)は「周辺の土壌の状況にもよるが、ヨウ素やセシウムは土壌に吸着しやすいので、一般的には地下水には行きにくい」とみている。

 吉田教授は「原子炉を冷やすため注水をやめるわけにいかない。作業をするには建屋にたまった水を早く抜かなければならないが、抜いた水の処理も問題になる。東電はまた一つ荷物を背負った」と話した。【下桐実雅子、西川拓】

毎日新聞 2011年3月29日 東京朝刊

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