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秋田

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このままでいいのか:医療/中 高齢者に強い危機感 /秋田

 ◇減り続ける勤務医

 馬場目川に沿って県道を東に進んだ山間部にある五城目町の杉沢集落。かつて林業で栄え、住民によると住宅も65軒ほどあった。それが現在は30軒程度。高齢化が進み、慢性疾患を抱えて通院する人も多い。

 80代後半の男性とその妻はいずれもこの集落で生まれ、男性は旧満州(現中国東北部)への徴兵やシベリア抑留を経て帰国し、結婚。林業に従事してきた。

 男性は両膝と胃が悪く整形外科などに、妻は眼科、整形外科、循環器内科に通う。他の住民と同様に、頼りにしているのは車で約20分のJA秋田厚生連が運営する湖東総合病院(八郎潟町・中鉢明彦院長)だ。

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 だが厚生連は09年11月にまとめた経営改善計画で「(同病院は)廃止が最も有効な選択肢」とした。

 常勤医は09年3月の21人から10年6月で7人になり、稼働病床数も約4分の1に激減。その後も医師減少に歯止めがかからず、2人いた内科医の1人が10年11月末に退職したため、入院病床を休止した。12月中に入院患者全員が転院し、現在は外来と訪問診療、平日日中の可能な限りの救急だけに対応。さらに2人が退職し、4月以降は常勤医がわずか3人となる。

 杉沢集落の男性の元には、秋田市などに住む子供たちが頻繁に訪ねてくる。それでも「なるべくここで元気に暮らしたい。秋田市の病院は遠く、湖東病院がなくなると困る」と訴えた。

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 「熱中症で意識障害があれば救急搬送が必要だが、湖東総合病院に運んでもらえるとは限らない」「秋田市まで救急搬送するにしても、患者が同時発生したり高速道路が渋滞すればどうなるのか」--。

 10年7月29日夜、五城目町の五城館に周辺住民ら約100人が集まった住民シンポジウム(湖東病院を守る住民の会主催)で、参加者から悲痛な訴えが相次いだ。

 秋田市や男鹿市などへ救急搬送した場合、所要時間は平均20~30分伸びるという。

 医師離れについて病院関係者は「厚生連の指摘を受け、勤務医が『病院の将来がない』と考えて引き揚げた」との見方を示す。

 一方で同病院に勤務経験のある医師は「患者や地元住民の一部に、病院や勤務医の悪評を言い立てる人がいた。こうした事情も医師退職の原因の一つ」と打ち明ける。

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 県は10年5月、高度医療を担う秋田組合総合病院(秋田市)と役割分担し、湖東総合病院を高齢者対応中心の外来と入院病床を設置する構想を明らかにした。同9月にまとめた再編計画案では、県や周辺自治体も負担して約24億7000万円で病棟などを改築し、医師11人程度・病床100床の規模を目標としている。

 ただ住民たちが強く求めている救急外来の常時再開について、計画案では「将来の目指すべき方向」にとどまる。住民団体「湖東病院を守る住民の会」の斉藤久治郎会長は危機感を募らせている。

 「秋田市内への救急搬送などが当たり前になり、住民の間ではあきらめムードさえ漂う。医師さえ集まれば入院も救急も再開できるのに」

毎日新聞 2011年3月31日 地方版

 
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