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このままでいいのか:医療/上 山奥集落は“難民”状態 /秋田

 ◇「先考えると泣きたくなる」

 「血圧とコレステロールが高く、一度同時に上がって倒れたことがある。でも病院に行くのは、調子が良くなってから」。北秋田市阿仁地区(旧阿仁町)に住む70代の1人暮らしの女性はこう語る。

 近くにあった市立阿仁病院は09年10月、無床の診療所となった。病院時代に勤務していた医師が鷹巣地区に開業した医院がかかりつけで、自ら車を運転して通院する。知り合いに頼むとガソリン代や謝礼がかかるためだ。

 体調が悪くハンドルを握れないと、とりあえず自宅で寝込む。医院に行くのは症状が治まってから。「さまざまな面で不便さが増し、高齢化も進む。先のことを考えると泣きたくなる」

 救急医療にも不安がある。かつては阿仁病院で収容したり、容体によっては同病院で応急措置後に鷹巣地区のJA秋田厚生連北秋中央病院に運んだ。今は約30分かけて北秋田市民病院まで直接搬送する。

 「もっと山奥の集落は、さらに20~30分かかる。その間に患者が亡くなってしまうかもしれない。まさに“医療難民”だ」

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 同地区で1人暮らしをする別の70代の女性はヘルニアで、時折腰からつま先までしびれる。慢性的な肩こりや関節痛もあり、阿仁診療所と市民病院に通う。

 周囲にも高血圧を抱えていたり、腎疾患で人工透析が欠かせない高齢者が多い。子供が県外に出たため、多くは1人暮らし。最近は空き家も目立つ。

 「もう年なので、病気になっても高度な治療はいらない。今倒れても働き盛りの息子たちは帰って来られないので、病院よりも老人ホームに入りたい。寂しくなく安らかに死ねるなら、それでいい」。近くに特別養護老人ホームがあるが、入所まで2、3年かかるという。

 かつて銀山と林業で栄えた同地区だが、人口に占める65歳以上の割合が46・80%(1月末現在)と市内で最も高い。ある町内会長は「町内の18世帯のうち6世帯が1人暮らしの高齢者。仕事もなく、若者がいるのは市阿仁庁舎だけ。まるで旧阿仁町全体が限界集落のようだ」と語った。

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 旧鷹巣町の北秋中央病院、旧阿仁町の阿仁病院に旧森吉町の公立米内沢総合病院。同市では町村合併前から赤字解消のため機能を統合した新病院整備が計画され、阿仁病院を診療所化、北秋中央病院を廃止して10年4月に市民病院が開業した。

 だが通院や救急搬送で患者の負担は増えたうえ、医師数、稼働病床数は計画の半分。南北に広い市で唯一の救急告示病院でもある。工藤研二副院長は「当直を外科医、内科医1人ずつで備えるのが望ましいが、全科の医師1人ずつで回している。北秋中央病院時代から医師不足のまま移った状態」と話す。

 重症者が2人運び込まれると、非番の外科医を呼び出すこともある。日中に入院患者を診るのは、工藤副院長ら2人の内科医。患者の容体が急変すれば夜間でも対応する。勤務環境は厳しい。

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 療養病床60床が存続される計画だった公立米内沢総合病院も結局は無床の診療所になり、入院患者は市民病院に移ることになった。慢性的な赤字がかさみ、民間委託も検討されたが受け入れ先がなかった。

 病院近くに息子夫婦や孫と住む80代の男性は、糖尿病で市民病院までバスで通う。「不便だが、すでに医者が少なくなり、周りの症状が重い人は市民病院に入院している」とあきらめ顔だ。

 職員全員の分限免職方針に反発した労組は、免職の差し止めを求めて病院組合を秋田地裁に提訴。請求は棄却され、仙台高裁秋田支部に控訴した。

 提訴された際、市の担当者はこう語った。「医師がいないと、看護師も各種技師も雇用できない。国は10年後に地方の常勤医を増やすと言っているが、そんなに待てない」

毎日新聞 2011年3月30日 地方版

 
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