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[26793] 【チラシの裏から】フォン兄は魔族<メレヴェレント> 【リリカルなのは×ストレイト・ジャケット、オリ主】
Name: noname◆9c67bf19 ID:d22e0972
Date: 2011/03/30 18:41

前書き

2011/03/30
チラ裏からとらハ版に移動。
問題があるようならチラ裏に戻します。

2011/03/29
こんにちは。nonameです。
XXX板でひとつ作品を投稿していますが、納得できる内容が思いつかないので気分転換にこの作品を書きます。
私の2作目の作品になります。
下記の点に受け入れられない内容があるのなら引き返して下さい。
誹謗中傷は心が折れるのでお断りですが、矛盾点の指摘やアドバイス、感想は大歓迎です。
それと矛盾点の修正ができないほど大きいようなら連載は止めます。
よろしくお願いします。

・榊 一郎先生の作品「ストレイト・ジャケット」と「リリカルなのは」のクロス
・男オリ主ほぼ最強
・開始の仕方がテンプレート
・オリ設定多数
・ヒロイン「はやて」
・残虐表現(予定)


オリ設定
・リリカルとストレイトの魔法の設定
・男オリ主の出生関係
・はやての足の障害メカニズム
・闇の書関係



更新履歴
2011/03/29 プロローグ、第1話投稿
2011/03/30 第2話(前編)投稿



[26793] プロローグ
Name: noname◆9c67bf19 ID:d22e0972
Date: 2011/03/30 18:39
   プロローグ


 光も、音も、物も、地面も、上下左右も無い。
 そこは闇以外は存在しないような空間だった。
 そんな空間に一つだけ存在するモノ――それは人の形をしていた。

 胎児のように身体を丸めて微動だにせず、瞳を閉じている20代半ばの男性。
 身長は180cmに届き、体格は平凡だ。
 だが顔立ちが端麗なのは両親の血をしっかりと受け継いだからか。
 父親譲りの濃い碧眼。母親譲りの長い黒髪。
 リボンを使って頭の後ろで髪を纏め、ポニーテイル――彼はこの髪型を気に入っている――にしている。
 男性がするには不似合いに思うが不思議と様になっていた。

 周囲の闇から切り出したかのような、漆黒の服と外套を着込み、彼は空間を漂っている。
 正常な人間なら数日以内に精神が異常をきたす空間にいながら彼は平然と寝ているのだ。
 そしてきっかけがなければ何年、何十年経とうとそのままの状態でいることが予想できた。

 だか不意に瞳を開いて目覚め、周囲を見渡している。
 彼に慌てる様子はない。
 ある目的の為に望んでこの空間にいるのだ。
 まだ到達しないことに落胆はあっても、孤独に対しての絶望はなかった。
 彼が絶望しないのは、既に人間をやめている――魔族メレヴェレントだということも関係している。

 魔法中毒患者ソーサリィー・アディクト。通称、魔族メレヴェレント
 『自存する災厄』、『闊歩する狂気』、そんな風にも呼ばる存在。
 魔法――虚数界面アストラル・サイドから事象世界面マテリアル・サイドに干渉して、使用者の意思を具現化する――を自在に行使するモノ。
 そして――魔法に汚染された人間のなれの果て。

 魔族は人から見れば恐怖の対象だ。
 人間を襲い、犯し、弄び、殺し、それを楽しむ存在など受け入れられるはずがない。
 彼は例外なのだが、ほとんどの魔族が異形であり、人の狂気を極限まで高めたような行動は恐怖に拍車を掛ける。

 人間のなれの果てでありながら、なぜこれほど人と乖離しているのか。
 それを説明するには人間の魔族化について語る必要がある。

 魔族化の前提条件に呪素と呼ばれるものの蓄積が必要だ。
 呪素自体は魔法を行使すれば自然と蓄積されるが、それが何なのかは分かっていない。
 一定以上に達すると、魔法の行使をトリガーにして肉体は勝手に魔族へ変化する。
 魔族への変態は、魔法を行使するのに効率的で最適な肉体に作り替えるということだ。
 その際、脳が肉体から受ける刺激は膨大な快楽と苦痛。
 これにはほとんどの人間がまともな精神を保ち続けることはできない。
 故に――変態は精神の影響を受けて異形となり、魔族は狂気に染まった行動をとるのだ。

 彼は今、何も変化がないことに溜め息をついている。

(はぁ……もうどんだけ経ったんだか。別の世界に移動する為とはいえ、寝るか瞑想ぐらいしかやることがないからなぁ)

 彼は少しの気分転換に魔法を使って遊ぶことにする。
 魔力圏ドメイン――随意領域とも呼ばれるものを広げ、虚数界面から事象世界面を侵食していく。
 その広さは彼を中心に半径20mに達し、領域内なら全てを知覚でき、神の如く振舞うことができる。
 
 生み出したの1mほどの炎。
 暗赤色から橙色、黄色と単純に温度を上げていく。
 白色まで温度を上げたら炎色反応で遊び始める。
 様々な物質を混ぜて七色に変えてみるが、すぐに飽きてしまった。
 それも仕方がないことだ。
 この遊びも数え切れないほど繰り返している。

 結局彼はもう一度寝ることにする。
 退屈を感じるよりは、心を無にしていたほうが楽だった。

(早くどこかの世界に着きますように)

 そう願いながら彼は身体を丸め、再び眠り続ける。



[26793] 第1話 出会い
Name: noname◆9c67bf19 ID:d22e0972
Date: 2011/03/30 18:39
   第1話 出会い


 彼の眠る永遠に停滞しているような空間に変化が起こる。
 夜空を飾る星のようなものが現れ、漂っていた彼をそこに引き寄せはじめた。
 近づくほど光は強くなり、針で開けた穴程度たっだものが少しづつ拡張していく。
 闇に隠れていた彼を、光の世界へと導く。

(ん……眩しい。……やっとどこかの世界に着くのか。……今度はどんな人と出会うのかな?)

 瞼を通り抜ける光で彼は覚醒する。
 丸めていた身体を伸ばし、閉じていた碧眼をゆっくり開いて近づく光の穴を肉眼で捉える。
 だが光の眩しさに耐えられず、すぐに手で瞳を庇い視線を逸らす。
 暗闇に慣れてしまった瞳にはその光は強すぎた。
 光を見ることを諦め、穴を抜けた後に起きる出来事に備えて身体と気持ちを引き締めていく。
 今、彼が思うのはひとつ――

(平穏な着地でありますように)

 光の穴を通り抜ける身体。

――ごっざばっ。

 一番初めに感じたのは数瞬の浮遊感、次いで後頭部に走る痛みとお湯に着水する感覚だった。

「っ~~~。……バスタブの上に出たのかな?」

 頭を数回振って痛みを飛ばし、彼は現状を確認する。
 彼の記憶にあるものとは若干違うが、人の使うバスルームに酷似している。
 浴室には湯気が充満しており、裸でいても肌寒さを感じる気温ではない。
 クリーム色のタイルが浴室の全面を覆い、曇りガラスの向こうが暗いのは夜だからだろう。
 湯が入り照明が点くこの建物は、入居者が居ることを示している。
 不法侵入で治安維持組織に通報される可能性に行き着き、さっさと出て行こうと思って彼は浴槽の縁に手を突く。
 だが事態は急変する。

「……兄ちゃん、誰や?」

 声が掛かった瞬間、彼の表情と身体は固まってしまう。
 痛みで気持ちが緩んでしまったことに加え、視界を上ばかりに向けていたことが災いした。
 声を掛けられるまで人の気配に気がつかなかったのだ。
 さらに随意領域をほとんど広げておらず、感知出来なかったことも影響している。
 横に向けた彼の視線の先に居るのは5歳前後の少女。
 短めの明るい茶色の髪をしており、彼の瞳を暗く染まる空と表現するなら、少女の瞳は透き通るような明るい海だ。

 少女も髪を洗う姿勢のままで固まり、驚愕の表情で彼を凝視していた。

「……あーー……俺は突然バスタブに落ちてきた怪しい人物だけど、さっさと出て行くから、親を呼ぶのはやめてほしいな」

 叫ばれるのを警戒して特に考えずに言葉を口にしたが、この一言が浴室の空気を変えてしまう。
 少女が手を膝において俯き、悲しみの気配を漂わせ始めたからだ。
 彼は事態を理解出来ずに怯む。
 自身が不用意な発言をしたとは想像できない。
 だが少女の言葉を聞いて、いかに思惟のないことを口にしたのかと思い知らされる。

「……お父さんも……お母さんも……おらへんよ」
「……そう……なんだ。……この家に君以外の人は?」
「……私しかおらん」

 少女の言葉に心を揺さぶられながらも、少女一人という言葉に不審を抱いた。
 だが随意領域を広げても少女以外の人を捉えることは出来ない。
 慰めようにも、先程の二の舞になることを危惧して言葉が出てこなかった。
 他にも思考に働きかける妙な感覚に気づく。
 立ち入るべきではないと判断を付け、早々に立ち去ることにする。

「入浴の邪魔して悪かったね。すぐに出ていくから」

 立ち上がった彼から湯が流れ落ち、バスタブから扉へと向かう。
 魔法を使って別の場所に転移すること可能だが、人前で堂々と使う訳にはいかない。
 この世界のことを良く知らないのだ。
 転移した先でも騒ぎになる可能性を考慮する。
 しかし彼の黒い外套を掴む小さな手がそれを阻んだ。

「まだ誰か聞いてへんよ」

 上目遣いで彼を問い質す少女。
 涙を流していなかったことに彼は安心する。
 だが裸の少女に阻まれる衣服を着た男性という構図に、彼は頭を悩ませた。
 両親がいないことに関係しているのか、突然現われた不審人物にとる対応ではない。
 少女が彼の素性を気にしているのではなく、人恋しさから留めていることには雰囲気で既に気づいていた。
 突然現れた見知らぬ他人に人の温もりを求めるほど、孤独に涙しているのかと考えてしまう。
 立ち去ると決めていたのに少女への情に絆され、動くことのできない自身に彼は溜め息をつく。
 こんな部分が彼を人の世に留め、未熟者と言われるようなところだったが、彼はそれを望んで受け入れ停滞していた。
 立ち去ることを撤回し、彼は少女の傍で過ごすか検討することにした。

「ふぅ……俺はゼフォン。ゼフォン=ローランド。君の名前は?」
「はやて。八神はやてや」

 彼がすぐにここから立ち去らないと感じ取ったのだろう。
 悲しみを覗かせているが少女の表情は笑顔に変わる。
 そんな少女に笑顔を向けるゼフォン。

「俺のことは好きなように呼んでくれて良いよ。君のことははやてちゃんって呼んで良いかな?」
「えぇよ。ゼフォンさんて呼んでもええか?」
「もちろん良いよ。詳しいことははやてちゃんの入浴を終えてからにしよう。外で待ってるから」

 リビングかどこかで待とうと、ゼフォンは話を切り上げて浴室と脱衣所を区切っている扉を開く。
 だがゼフォンの掴んだ外套に引きずられて体勢を崩しても手を離さなかったはやて。
 少女から返ってくる答えは想像できたが、それでも願いを彼は口にする。

「……手を離してくれないかな?」
「嫌や。それにな、ゼフォンさん。私、足が動かへんのよ。せやからお風呂って大変なんや。手伝ってくれへん?」

 断ろうと思ったが、瞳を見て、てこでも手を離さないと理解できた。
 諦めてその考えを放棄する。
 それにはやての発言を聞いてゼフォンは気になることができた。
 彼女の体内にある見知らぬ器官が影響し、下半身の神経伝達を阻害しているのが確認できたからだ。
 身体全体で空気中から酸素以外の何かを取り込み、その器官に向かって流れている。
 下半身から器官へと向かう流れは激しく、神経伝達を乱すほどだった。
 これが原因で足が動かないのだと推測できる。
 さらに器官から少し変質したものが、浴室外のどこかに向かって流れている。
 何を取り込み、何に変質させ、何に流れているのか。
 彼の知識欲が疼くのを感じていた。

「分かった。手伝うよ」

 ゼフォンは疼きに従い、はやての身体を随意領域で徹底的に調べることにする。
 同時に濡れた衣服を脱いではやての入浴を手伝うことにするのだった。










 入浴を終えた二人はリビングに場所を移していた。
 ゼフォンは窓から見える景色――同じ時代様式の一軒家が幾つも建つことから、ここもその一つだと考えつく。
 さらに庭の樹木には葉が生い茂り、今が温暖な気候だということも分かった。
 濡れた服と外套は外に干し、はやての父親の物と思われるパジャマを彼は借りている。
 テーブルの椅子に座ったゼフォンの対面には、車椅子に乗ったパジャマ姿のはやて。
 二人の前に置いてあるのは彼女の入れた湯気のたつホットミルクだった。

 はやてが口にしたのは先ほどの続きだ。

「何でお風呂にゼフォンさんは落ちてきたんや?」

 相手が勘違いするように誘導することや誤魔化すことはあっても、嘘を吐くことはしないと心に決めているゼフォン。
 どこまで話すか迷ったが――バスタブの上に現れたのを嘘を吐がずに上手く誤魔化す説明が思いつかなかった。
 故に魔法が使えることだけは伝えることにする。
 魔族メレヴェレントだということは、気をつけて生活していればほとんど露呈することはないと経験上分かっている。
 それに――
(カペルさんのような人は普通ここにいないよね)
 ――と思っていた。
 万が一、周囲に知れたら姿を消せばいい。
 さらにはやてから話が洩れても、話を本気で信じる人はいないであろうという打算もあった。
 特に緊張した様子もなくゼフォンは言葉をはやてに返す。

「信じるかどうかは分かんないけど、俺は魔法使いなんだ。それで別の世界からこの世界に来たんだけど、実は出る先がいつも分かんなくてね。あそこにでたのは偶然と言えばいいのかな。びっくりさせたことをお詫びするよ。ごめん」

 そう言ってきちんと頭を下げるゼフォン。
 魔法と聞いてもはやての表情に彼の言葉を疑っているような雰囲気はない。
 この世界に魔法に関連するもの――神話、御伽噺、魔法の存在自体や言葉など――が存在するのか、それとも彼女が無知なのか。
 この世界を理解していないゼフォンには判断がつかない。
 首を傾げて疑問を口にするはやて。

「お風呂に突然現れたのは見とったから、魔法使いなのは信じとる。けど別の世界って人の姿してるで?」
「俺もそこには驚いたんだけどね。どの世界にもだいたい人間っているんだよ。居なかったとしても人に近い姿――はやての想像と一致するかは知らないけどエルフとかいたし」
「はぁー、そうなんや」
「それにね――」

 椅子から立ち上がってマガジンラックに向かうゼフォン。
 そこに置いてある新聞を取り出し、椅子に戻って開く。

「何語って言うかは分からないけど、『○日新聞』って読み方であってる?」
「そやで。それがどないした?」

 普通に会話している為にゼフォンの言う意味が分からないはやて。
 ゼフォンを異世界の住人だとまったく信じていないのかも知れない。

「俺の世界だとこの文字はアルマデウス標準語って言われてるんだよ。不思議なことに世界が違っても言葉や文字が同じ場合があるんだ。もちろん違うときもあるし、意味が食い違うこともあったけどね」
「……ゼフォンさん。私をからかって遊んでるんやないか?」

 はやての言葉に苦笑するゼフォン。

「そうかもね。とりあえず俺にとっては言葉と文字が通じるって事実があれば十分だから」
「ふ~ん。……そういえば今までどんな世界を旅したんか聞いてもええ?」

 話そうとしたゼフォンだったが、時計を見て子供はそろそろ寝る時間だと気づく。
 彼女に寝るよう言うついでに、当分の間滞在できないか頼むことにした。

「話しても良いけど、そろそろ子供は寝る時間かな」
「ぶーぶー。ゼフォンさん、いけずや」
「はいはい。俺はいけずです。それと当分の間ここに泊めてもらえないかな。ここのお金は持ってないから、代わりに肉体労働で返すからさ」

 その言葉に瞳を輝かせて身を寄せてくるはやて。
 ここ数ヶ月、両親の居ない寂しさに毎晩泣いていた。
 それが今日は違うのだ。
 身分不詳の怪しい人物だが、人格は優しそうで穏やかである。
 強盗などの犯罪者なら既に酷い目にあっているはずだった。
 はやてなど、赤子の手をねじるのと変わらないのだから。
 それが二人で呑気にミルクを飲んでいるからその可能性は低い。
 はやてはずっとここに滞在できないか聞いてみる。

「当分じゃなくて、ずっとここにいてくれてもええよ?」
「うーん。どうしようか――」

 ゼフォンは腕を組んで考え込む。
 彼の目的は色々な文化に触れ、人の世で生きるというだけだ。
 何かをしようとは思っていない。
 はやての家族になるというのも一興だ。
 ただし彼女の周りの環境が少し気掛かりになっていた。
 すぐに答えを出す必要もないと判断して保留にする。

「――とりあえず一ヶ月。当分にしては大分長いけど一ヶ月、泊めてもらっていいかな。それ以降は状況次第ということでお願いしたいんだけど」
「全然問題あらへんよ」

 嬉しそうに微笑んでいるはやて。
 ゼフォンは感謝の言葉を告げながら、頭の中で予定を組み立てていく。

「ありがと。さて寝室に運ぶよ。つかまって」

 はやてを車椅子から抱き上げ、はやての案内に従って寝室に向かう。
 入浴のときも抱き上げて思ったことだが、同年代と比較したら軽いが痩せすぎというほどでもなかった。
 はやては人に甘えるのが嬉しいのか、ゼフォンの胸元をしっかりと掴んでいる。
 寝室に入るとゼフォンは一瞬、はやての胸から本棚に視線を走らせるが、浮かれているはやてが気づくことはなかった。
 布団をどかし横たわらせるが、ゼフォンが事前に想像したとおり、はやては胸元から手を離さない。

「……はやてちゃんは添い寝をご所望かな?」
「ようわかってるやないか」

 悪びれる様子のない満面の笑みのはやてに溜め息をつく。

「はぁ……わかったよ。他の部屋の明かりを消してくるから、一度離してくれないかな?」
「はよ戻ってきてや」

 素直に離してくれたはやてに従い、明かりを消して戻ってきたゼフォンは、はやての横に身を横たわらせる。
 するとはやてはゼフォンの腕を枕にして抱きついてきた。
 父親に甘える娘と題名が付きそうな様相だ。

「……ん、あったかい」

 ゼフォンは何も言わずに布団を直し、はやての柔らかな髪を撫でている。
 胸のあたりが湿り、はやての嗚咽と震えに気づいていたが一言も口にせず撫で続けた。
 しばらくすると穏やかな寝息が静寂の満ちた寝室に響く。

 ゼフォンは天井を見据えたまま、撫でるのを止めない。
 これからのことを考え続けて思索にふけていたが、切りの良いところで中断し、瞳を閉じて眠りにつくのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
≪あとがき≫
はやての京都風関西弁の参考になるサイトがあったら教えて下さい。
違和感が拭えません。
後、5歳児がこんなしゃべり方をするんだろうか?
疑問だ。



[26793] 第2話 二人の生活の始まり(前編)
Name: noname◆9c67bf19 ID:d22e0972
Date: 2011/03/30 18:50

   第2話 二人の生活の始まり(前編)


 閉じたカーテンの隙間からオレンジ色の朝日が差し込んでくる。
 雀はさえずり始め、眠っていた街に賑やかさを彩っていく。

 鳥の鳴き声でゼフォンは眼を覚ましていたが、ベッドに寝たままでいた。
 幼子の穏やかな眠りを妨げるのをよしとしなかったからだ。
 眠りに着く前の思索に再びふけこむが、それも少しの刻で中断される。
 彼に抱きついて寝ていたはやてが、もぞもぞと動きはじめていた。

「ん……朝なんか」
「おはよう。はやてちゃん」

 はやては顔を勢いよくあげ、驚いた表情でゼフォンを見てくる。
 寝ぼけて一緒に寝ていた存在――ゼフォンのことを忘れていたのであろう。
 両親を失ってからはやてに朝の挨拶をする人がいなかったことも影響している。
 毎夜はやては布団の中で身体を丸め、泣き疲れるようにして眠りについていた。
 心の寒さを誤魔化すように、布団の温もりにすがっていたのだ。
 だが昨夜はゼフォンの温もりによって深い眠りにつくことができた。
 寝ぼけるのも仕方がない。

 いつまでもはやてからの返事がこないので彼は首を傾げる。

「朝の挨拶におはようは間違いだったっけ? それとも朝の挨拶の習慣自体がない?」
「……んなことあらへん。おはよう。ゼフォンさん」

 首を勢い良く横に振り、笑顔を浮かべて挨拶するはやてに対して微笑むゼフォン。
 彼は身支度を整え、昨日と同じようにはやての父親の衣服を借りて台所に立つ。
 そしてはやての補助を受け、手際よく朝食を作っていく。

「異世界の人なのに、料理上手いんやね」
「まあね。異世界と言っても人の文化はどこか似ているから。俺の生まれた世界もここと似てるしさ」
「ゼフォンさんの生まれた世界はどんな感じなん?」
「そうだね。……俺が居たときはここよりも技術が20年以上は古いかな。けれども今はここよりも進んでいる可能性はあるよ」

 会話をしながらも調理を続け、出来上がりを確認してから盛り付けていく。
 その盛り付け方も堂に入っていて、主夫だったのかと思ってしまうはやて。

「今はって……どんくらい前なん?」
「ざっと……500から600年は前かな」

 想像外の年数にはやては固まってしまう。
 500年と考えても戦国時代の人物と同年代ということになる。
 落ちついているが、彼からは老成さはほとんど感じないのだ。
 かなり若作りだとしても、精々40代前半だと思っていた。

「……ゼフォンさん……おじいちゃんなんやね」
「おじいちゃんて……まぁ普通の人間から見ればそうなんだけどね。さて朝食にしよう」

 盛り付けた皿をテーブルの上に並べて、テーブルにつく二人。
 出来上がった料理には湯気がたっており、はやては眼を嬉しそうに細める。
 失敗続きの朝食から、まともなものを食べれるからだ。
 料理の経験が浅く、身体の制約から、簡単な調理でさえできなかった。
 はやてが合掌するのを見て、真似るゼフォン。

「「いただきます」」

 打ち合わせをしていたかのように、二人同時に挨拶を交わす。
 双方にとって久しぶりの、穏やかな朝食はこうして始まった。
 はやては料理に舌鼓を打ち、ゼフォンは箸で食事するのを諦め、素直にフォークとナイフを持ち出す。
 長く生きていても箸の文化に触れたことは一度もなかった。
 二人の会話は始終穏やかに過ぎ、話す内容は料理に関係することに尽きた。










 二人で食器の片づけを行った後、はやてはテレビの前に車椅子を移動させ、子供向け番組を見始めた。
 ゼフォンはソファーでくつろいでいたが、国語辞書を手に持っている。
 文字や言葉を理解できたが、世界によって定義が違うことはよくあるからだ。
 言葉の勘違いからくる失敗がないように一つ一つ確認していく。
 その姿に言葉を掛けてくるはやて。

「ゼフォンさん。辞書はそんな風に遊ぶもんやないよ」
「ん……なんで? 遊んでないよ。真面目に読んでるじゃないか」

 はやての言葉に読むのを止め、顔をあげるゼフォン。
 真面目に読んでいたのに少女がそう声をかけるのも仕方がない。
 ページが風でゆっくりめくられる速さで読み進める姿は、傍目には遊んでいるようにしか見えなかった。
 はやては怪訝そうにする。

「うそや。そんな速さで読めるはずないで」
「なら最初のページからしおりを挟んだところまでで、好きなページ数を言ってよ。最初に出てくる単語をいうから」

 読んだところにしおりを挟んで辞書をはやてに渡してくる。
 大人しく受けとったはやては適当にページを開く。
 低年齢向けの本とは違い、細かい文字でページが隙間なく埋め尽くされている。
 単語にはふりがながついているので単語を読むことが出来た。
 絶対に読んでなくて、暇つぶしにめくっていただけだろうと思うはやて。

「ほなら、56ページ」
「『暗中模索』。意味は~~」
「あたっとる。……94ページ」
「『色』。意味は~~」

 次々とページ番号を言っていくが、全て正解するゼフォンにはやては舌を巻く。
 単語だけでなく、意味も全てそらで言えるのはどんな記憶力をしているのか。
 魔法以外にこんな特技があるのかと関心する。
 だが魔法で騙している可能性を思いつくはやて。

「……全部当たっとるけど……魔法を使ってへんか」
「そうかもね。はやてちゃんはどっちだと思う?」
「…………いけずや」

 頬を膨らませて辞書を返してくるはやてに、ゼフォンは笑顔を浮かべている。
 人は自分の信じたいものを信じる生物だと考えているゼフォン。
 相手の考えを否定することもないが、自身の考えを押し付けようとも思っていない。
 故に説得するというのは彼の苦手な行為の一つだ。
 どちらに転んでも問題ないような問いは、適当に誤魔化して終わらせることが多い。
 それが相手に不誠実と捉えられ、上辺だけの付き合いになってしまう原因でもある。

 ふと彼がカレンダーに視線を移すと『しんさつ』と書いてあるのに気づいた。

「今日の日付に『しんさつ』って書いてあるけど、どういう意味?」

 その事を指摘されて驚くはやて。
 テレビを消し、焦りの表情を浮かべる。

「あっ! 今日病院行く日やった。もう家を出ないと間に合わへん」
「なら急がないとね。俺も診察に付き添うよ」

 二人は急いで支度をして病院に向かうのだった。










「不躾で申し訳ありませんが、はやてちゃんとのご関係は?」

 はやてと一緒に診察室に入った途端に担当医――石田幸恵から尋ねられるゼフォン。
 石田医師も、その後ろに控えている看護婦も彼を睨んでいる。
 ぎすぎすした雰囲気に、はやては彼女達と彼の顔を交互に見ておろおろすることしかできない。
 いつも笑顔で優しく話しかけてくれる彼女達が怒っているのだ。
 幼い少女には狼狽するしかなかった。
 後に親しくなったゼフォンが彼女達に聞いた話だと、両親を亡くした少女が一人で通院するのを心配していたらしい。
 少女は引き取られることもなく、居ると聞いている後見人も、数ヶ月間一度も診察に付き添わない。
 彼女達はまだ見ぬ後見人に怒りを募らせ、突如現れた男性――ゼフォンを後見人と勘違いして怒りをぶつけたのだ。
 そんなことは露知らず、彼――ゼフォンはにこりと笑って答えを返す。

「俺は赤の他人だよ」
「「「……………………」」」
「それでも言葉を付け加えるなら、はやてちゃんの紐かな」
「「「…………………………………………………………………」」」

 想定外の言葉に彼女達は絶句し、診察室は何とも言葉に表現し辛い空気に包まれる。
 石田医師は軽く俯いて目頭を手で押さえ、看護婦は机に手をついて俯いていた。
 はやてにいたっては、ぽかんとした表情で彼を見る。
 診察室の空気についていけなくて頬をかくゼフォン。
 自身の発言がどのような影響を周りに与えたのか彼は理解していない。

「……はやてちゃん。俺、事実を言っただけだよね?」
「………………事実やけど……大人なんだからもうちょっとましな言い方は無かったんかいな……」
「例えばどんな?」
「どんなって……5歳の私に聞かんといて」
「うーん。……駄目だ。考えても分かんない。先生――どんな返事なら良かったですか?」

 この時、診察室の女性達の考えは一致した。

(((この人(ゼフォンさん)、絶対に天然だ(や))))

 秒針が何周かしてやっと立ち直った彼女達は、彼の存在を無視して診察を始める。
 彼に関わると時間を無駄にすると考えたからだ。
 彼自身も黙っているので、診察は滞りもなく進む。
 はやての足の麻痺具合を確認する幸恵。
 その手つきは慣れたもので、何回も診察したことを感じさせる。
 症状の問診もするが、こちらは予定調和にしか聞こえなかった。
 まるで二人で台本を読んでいるかのようだ。
 それもまもなく終了する。

「はい。診察は終わりよ。はやてちゃん」
「石田先生。ありがとうございます」

 きちんとお礼をするはやて。
 少女を診察台から車椅子へ看護婦が運ぼうとするが、そこはゼフォンが気を利かせて替わりに行う。
 天然で言葉が足りない事が多いゼフォンだが、行動に関してはその限りではない。
 看護婦――水野亜紀は感謝を口にし、幸恵も少し見直す。

「診察結果を伝えるわ。麻痺具合は良くもなってないけど、悪くもなってないわ。前回と一緒よ」
「そうですか」

 毎回同じ診察結果にはやては特に反応を示さない。
 物心つくころから同じこと聞かされていれば無理からぬことだ。
 足に関しては既に諦めているはやて。
 だが自分の手の平からこれ以上、幸せが逃げなければいいとは思っていた。

「はやてちゃんの診察が午前の最後だから、昼食を一緒にどうかしら? 彼のことも詳しく聞きたいし」

 ゼフォンに一瞥を投げる幸恵。
 はやては問題がないので了承し、ゼフォンに確認をとってくる。
 ゼフォンも都合が良いと思い了承した。

「私はええよ。ゼフォンさんはどうや?」
「俺も問題ないよ。個人的に聞きたいことがあるから、先生には食事の前に時間をもらえると嬉しいんだけど、大丈夫かな?」

 個人的なことと聞いて幸恵は妙な勘ぐりをするが了承する。
 亜紀とはやては先に行ってもらい、診察室に残るのはゼフォンと幸恵のみ。

「……それで個人的な話って何かしら?」

 まるで人が近づいてきて威嚇する野良猫のような雰囲気の幸恵。
 そのことで笑みを深くしたら余計に威嚇されてしまった。
 取繕うように目的をゼフォンは告げる。

「はやてちゃんの事なんだけどさ」
「……はやてちゃんのこと?」

 幸恵は彼の質問に怪訝そうにする。
 わざわざはやてに席をはずさせてまで聞く必要があることなのかと疑問に思う。
 少女に関わることなら同席しても問題ないはずだ。
 幸恵には彼の質問する内容がまったく想像できなかった。

「そう。下半身麻痺の原因は、不明だよね」
「……医師には患者の機微情報を守る義務があります。まして赤の他人には答えられません」

 ますます怪訝そうにする幸恵。
 はやての症状の原因を訊いてきたこともそうだが、原因不明と断定していることに疑問が湧く。
 この男は本当に何なのかと考える。
 黙秘しても彼は平然としていることが余計にそうさせた。

「なら勝手に喋るから聞いててよ。――はやてちゃんの身体に問題はない。遺伝的にも。外因的にも。だがはやてちゃんは確かに半身不随だ。皮膚に刺激を与えても反応は鈍く、彼女はぼんやりとしか刺激を感じてないだろうね。それに脳から下半身の筋肉に向けて正常に信号は出ているのに、届いていない。下半身の神経伝達を阻害、または減衰させてる何かがある。けれどもその何かが医学では分からない」
「……………………」

 幸恵は何も答えない。
 だが内心では彼の言葉を肯定していた。
 遺伝病もなく、レントゲンには病巣の影もない。
 全身隅々まで調べても少女は健康体――不随による筋肉の衰退はある――だった。
 最新医療を調べても、少女の症状と重なるものはない。

「話は変わるけど、はやてちゃんの心臓付近に直径1から2cmほど球形の器官があるのは知ってるかな?」
「……そんなもの、はやてちゃんの身体の中にはないわ」
「それは直接見て確認して言ってる?」
「……いいえ。レントゲンに写らなかったからよ」
「心臓手術などでそれらしいものが発見されたって話は聞いたことない?」

 彼女はすぐに返答せずに考え込む。
 彼の話は荒唐無稽だったが、心臓外科医の知り合いがそんな器官を発見したとは聞いたことがあった。
 さらにそれを摘出した患者は手術は成功したのに、原因不明の痛みを訴えて衰弱死したとも。
 部外者に言うことではないが彼から振ってきた話だ。
 彼女は答えることにする。

「知り合いは見たことがあるらしいわ。心臓手術の時に発見して摘出したと。摘出した患者は手術自体は成功したのに痛みを訴えて衰弱死して、病理解剖に回した器官は何時の間にか消失したそうよ。それがはやてちゃんとどんな関係があるの?」

「さぁ? はやてちゃんの担当医である先生が、彼女にそんな器官はないと信じているんだから、存在しないものと足の麻痺の関係性を話しても信じないでしょ。器官の存在を信じている俺にとっては先生の話は良い情報だったけどね」

 幸恵はゼフォンを睨み付けるが、彼は痛痒に感じてないのか表情を崩さない。
 この男は他人の心を推し量ることも出来ないのかと心の中で罵る幸恵。
 幸恵の揚げ足をとる彼に、車椅子に移すときに上げた評価は地面に大きく沈み込む。
 なぜこんな人が心優しいはやてちゃんと一緒にいるのか幸恵は理解できない。

「……あなたは人の心を理解しない最低な人ね。……あなたが言う器官は直接見たわけではないから存在する可能性はあるわ。ないと言った言葉は撤回します。だから教えてちょうだい」

 幸恵の言葉に驚くゼフォン。
 次いでまたやってしまったのかという顔をして後頭部を掻き、深く頭を下げたままで謝罪を述べてきた。

「……あーー……先生の内心を推し量れず、不快にさせたことを深くお詫びします。ごめんなさい。……言い訳になるけど、俺は無痛症で生まれてきたんだ。痛みを感じない人間は、心の痛みも感じない。心の痛みって要は心臓の異常収縮の痛みだろ。人格形成の時にそんな感じだから、今でも相手の心の機微を読むのは上手く出来なくて、人を傷つけたり悲しませたりするんだ。両親もよく悲しそうな顔で俺を見てたけど、偶然無痛症が治る機会がなければ、今でも理解できなかったと思う。本当にごめんなさい。許して下さい」

 幸恵は目を大きく開いて驚く。
 世界でも稀な無痛症の人間が目の前にいるのだ。
 さらに真摯に謝罪してきて、今でも頭を上げようとしない。
 これには幸恵も溜飲を下げざるえない。

「……こちらも事情を理解せずに言い過ぎたわ。ごめんなさい。……はやてちゃんのこと教えてもらえないかしら」

 顔をあげて嬉しそうに笑うゼフォン。
 あまりに嬉しそうに笑うので見入ってしまい、思わず頬を染める。

「ありがとう。――それでさっきの続きだけど、下半身からその器官に流れこむ何かがあって、それが神経電流を乱して今の症状になってると俺は考えてるんだ。器官や流れ込むものはオカルト的なもの――東洋武術の気とかそんな話になるから証明できないけどね」
「そう……信じられない話だけど、あなたはどうするつもりなの?」
「もちろん治療するよ。治療方法は考え中だけど」
「………………期待しないけど朗報を楽しみにしてるわ。そろそろ食堂に向かいましょ」

 二人は診察室から出て食堂に向かう。
 他愛もない会話をしていたが、思い出したかのように聞いてくるゼフォン。

「はやてちゃんの後見人って知ってる?」
「ギル=グレアムっていうイギリスの方と聞いているわ。それがどうしたの?」
「昨日からはやてちゃんの家にお世話になってるから、連絡するのが礼儀でしょ」
「数日なら問題ないんじゃないないかしら?」
「いや、最低一ヶ月は滞在するつもりなんで。それに金策はするつもりなんだけど今は無一文なんだよね。はやてちゃんに甘えてるって伝えとかないと訴えられたら困るから」

 幸恵は呆れて何も言えない。
 そして彼がはやての紐といった意味を、理解できた。

「………………当たり前だけど食堂は有料よ」
「必ず返すからお金貸してくれる?」

 厚顔無恥に頼んでくるゼフォン。

「はぁ………………10倍にして返して頂戴」

 幸恵は溜め息をつき、容赦なく告げてからはやての負担を考えて一万円札を渡すのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――≪あとがき≫
主人公の過去を少し披露。
そして相手の心の機微をうまく捉えられないと明言。
心の機微を読めない主人公って勘違い系になりやすいと思うのは私の思い違い?


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