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母、元顧問・町を賠償提訴

2011年03月30日

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提訴後、会見する伯父の村川義弘さん(左)と母親の弘美さん=大津市梅林1丁目

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親族から中学校の入学祝いを受け取り、満面の笑みを浮かべる村川康嗣君=2009年3月、遺族提供

【愛荘の中学柔道部員死亡】

 愛荘町立秦荘中学校で2009年夏、1年の村川康嗣(こう・じ)君(当時12)が柔道部の練習中に意識不明になり、死亡した問題で、母親の弘美さん(42)が29日、当時の男性顧問(27)や町を相手取り、約7600万円の損害賠償を求めて大津地裁に提訴した。

 訴状によると、康嗣君は09年7月29日、実戦形式で技をかけ合う「乱取り」の練習中、顧問に大外刈りを返されて倒された直後に意識不明になり、約1カ月後に急性硬膜下血腫で死亡した。同校は直前の県大会で準優勝する強豪で、初心者の康嗣君はこの日、実力差のある上級生らと練習をしていたという。

 原告側は、まだ上手に受け身の取れない康嗣君の技量を考慮せず、元顧問が過酷で危険な練習を課したと指摘。乱取り中に頭を打つなどし、倒れたまま立ち上がれなくなるなど練習続行が困難な状態だったにもかかわらず、康嗣君が怠けていると決めつけ、練習を続けさせたのは、安全配慮義務に違反すると主張している。

 愛荘町の村西俊雄町長は「訴状を受け取って内容を検討した上で誠意を持って対応したい」とコメントした。

【「なぜ命を、責任は・・・」83年度以降110人が死亡】

 「なぜ息子が命をなくさなければならなかったのか。責任はどこにあるのか。誰も教えてくれません。だから訴訟をすることに決めました」。母親の弘美さんは提訴後、大津市内で開いた会見で涙ながらにそう訴えた。

 康嗣君はぜんそくの持病があり、本格的なスポーツ経験もないため、弘美さんは顧問に「体調が悪かったら休ませてください」とお願いしていたという。ところが、現場に居合わせた部員らからの聞き取り調査の結果、過酷な練習の実態が明らかになった。

 同町では事故後、検証委員会を設置。遺族らから意見聴取するなどし、昨年7月、初心者の康嗣君にとって当時の練習が「限界を超えた内容」だったとする最終報告書をまとめた。一方で、練習と死亡の因果関係や責任の所在については明記せず、「司法の判断に委ねざるを得ない」としていた。

 真相究明を求めて遺族らは昨年3月、柔道の部活動などで死亡したり、重い障害を負ったりした子どもの家族らと「全国柔道事故被害者の会」を発足させた。調査を進める過程で、記録の残る1983年度以降、柔道の授業や部活動で少なくとも110人が死亡していたことが判明した。

 同会では、死因の大半が康嗣君と同じ、急性硬膜下血腫などの脳外傷だったことに着目。各地でシンポジウムを開き、脳外傷の予防措置の必要性などを訴えてきた。

 会の活動を受け、柔道界も重い腰を上げた。全日本柔道連盟が死亡事故の統計を取り始めたのは2003年からで、会から指摘を受けるまで脳外傷への安全対策についてはほとんど検討していなかったという。同連盟では11年度から、指導書に脳外傷への注意を呼びかける内容を盛り込む準備を進めている。

 会見で、原告代理人の渡部吉泰弁護士は「日本ではスポーツの場であれば、虐待とみなされる行為も指導のひとつと公認されてきた。子どもの健康と命を守るためには、きちんとした規則をつくらない限り、同じ事故は繰り返される」と話した。

 被害者の会の副会長で、康嗣君の伯父の義弘さん(48)は「遺族がアクションを起こさないと、学校や行政は何もしないことがよく分かった。同じ思いをしている家族は全国にいる」と厳しい口調で訴えた。(堀川勝元)

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