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県警保護の青年死亡:無罪判決 無念さにじむ支援者 /佐賀

 ◇被害者側弁護士「民事で責任追及」

 佐賀市で07年、知的障害のある安永健太さん(当時25歳)が警察官に取り押さえられた直後に急死したことを巡り、佐賀地裁は29日、県警の松雪大地巡査長(30)に無罪判決を下した。事件から3年半。関係者はさまざまな思いで判決を受け止めた。

 「不当判決だ」。被害者参加人として審理に参加した父孝行さん(49)の代理人、河西龍太郎弁護士は語気を強めた。「判決は、暴行の有無について判断しただけで、警察を全面的に正しい、と判断したわけではない」とし「(遺族が県を相手に損害賠償を求めて係争中の)民事裁判で死亡の責任を追及する」と意気込んだ。

 遺族の支援や、障害者への理解普及に取り組んできた「安永健太さんの死亡事件を考える会」の代表で、裁判の傍聴を続けた村上三代さん(68)は判決後「やっぱり無罪だった」と無念がった。

 安永さんの死は、地域で生活することを目指す障害者やその親にも衝撃を与えた。村上さんは「警察の言う『妥当な保護』でなぜ、安永さんが死なねばならなかったのか。真実は明らかになっていない」と主張。今後会としても、4月2日に佐賀市内で判決の報告集会を開くなど、活動は続ける方針だ。

【蒔田備憲】

   ◇  ◇

 県警の黒田弘首席監察官は「当方の主張が認められた。亡くなられた安永さんに、改めてご冥福をお祈りいたします」とコメントを出した。

 ◇弁護側の主張採用した判決

 審判で争点になっていたのは、(1)松雪大地・県警巡査長が暴行をしたのかどうか(2)その暴行によって、安永さんがけがをしたのかどうか--の2点だった。(1)が認められなければ(2)も成り立たないため、暴行が認められるかどうかが大きな焦点になっていた。

 殴打を目撃した女性2人の証言を立証の柱とした検察役弁護士に対し、弁護側は「証言はあいまい」などと信用性を否定。結果として地裁は弁護側の主張を採用した形で「暴行を加えたと確信をもって認定できない」として無罪判決となった。

 双方の主張、裁判所の判断をまとめた=左表。【蒔田備憲】

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 ◆審判の争点◆

 【検察官役弁護士の主張】

 「あおむけで手足をばたつかせ、あがいていた安永さんに対し、上に乗ったようにして、左の拳で腕を1、2、3と3回振り下ろした」という現場交差点で信号停車中に車から目撃した女性の証言は強固な信用性がある。

 「倒れていた安永さんに、3回手を振り下ろした。手の形は拳で、二の腕を肩より高く上げた」という現場近くの飲食店内で目撃した女性の証言もそれを裏付けている。

 巡査長らの行動は保護行為とはほど遠い力ずくの行動の抑圧行為だった。

 【被告側の主張】

 信号停車中に車から目撃した女性は、殴打がどちらの手だったか、安永さんのどこに当たったか、どんな反応をしたのか分からず、重要な部分があいまい。

 飲食店内で目撃した女性の証言も、拳がどこに当たったかなどについて供述が変わっている。巡査長は、安永さんと手錠のかかった手を引っ張り合う動作をしており、見間違いの可能性は否定できない。

 殴打を見ていない多数の目撃者が「殴打はなく、できるような状況でもなかった」と証言したことが、信用性を補強し合っている。

 【裁判所の判断】

 2人の目撃女性の証言は、警察官の振り下ろした手が安永さんの体に当たったところを見ていないなど、証言として十分なものと言えるか疑問がある。他の目撃者とも一致していない。

 あおむけ時に巡査長が安永さんの腕などをつかもうとしていたこと、うつぶせ時に手錠のかかった手を引き合っていたことなど、取り押さえ時のやりとりを、殴打と見間違えた可能性を払拭(ふっしょく)できない。

 巡査長が暴行を加えたと確信を持って認定できず、合理的な疑いが残る。

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 ◆安永健太さん取り押さえ急死問題の経過◆

 【07年】

 9月25日 安永健太さんが5人の警察官に取り押さえられた直後に急死

10月19日 県授産施設協議会が真相解明を求める質問書を県警に提出

12月 4日 県警の山崎篤男本部長が県議会で「暴行の事実はない」と答弁

    5日 九州授産施設協議会が厚生労働相に真相究明などを要望

   25日 父孝行さんが警察官の行為は人権侵害だとして、県弁護士会に人権救済を申し立て

 【08年】

 1月17日 孝行さんが取り押さえた警察官数人を特別公務員職権乱用等致死容疑で、佐賀地検に刑事告訴

 3月15日 問題の真相解明などを求める「安永健太さんの死亡事件を考える会」発足

   28日 佐賀地検は取り押さえた5人の警察官を特別公務員暴行陵虐致死罪について不起訴処分(容疑なし)

 4月 3日 取り押さえた5人の警察官の不起訴処分を不服として孝行さんが佐賀地裁に付審判請求

 【09年】

 2月26日 遺族が県を相手に約4240万円の損害賠償を求め佐賀地裁に提訴

 3月 2日 佐賀地裁が警察官5人のうち1人を特別公務員暴行陵虐罪で付審判決定。残り4人は棄却

 9月11日 検察官役弁護士が求めた訴因変更が認められ、罪名が特別公務員暴行陵虐傷害罪に

12月 4日 孝行さんが被害者参加人として審判に参加することを地裁が決定

 【10年】

 7月29日 佐賀地裁で初公判

 【11年】

 3月29日 佐賀地裁は松雪巡査長に無罪判決を下す

毎日新聞 2011年3月30日 地方版

 
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