東京電力福島第一原子力発電所は、建屋を破壊され、外界に放射性物質を放出する異常な事態に陥っている。3月26日、東京電力は事態にどう対処したのか。東京都千代田区内幸町の東京電力本店から報告する。
■海水から高濃度の放射能
26日午前11時6分、福島第一原発の藤森昭彦・環境担当らの記者会見が始まる。
福島第一原発の近辺で取った海水から検出した放射性物質について、資料が配られる。南放水口から南に330メートル離れた地点で採取した海水を福島第二原発で分析した結果の、今回は第6報である。今回の試料は25日午前8時半に採取した。
ヨウ素131 50ベクレル/cm3(炉規則告示濃度限度の1250.8倍)
セシウム134 7.0ベクレル/cm3(同 117.3倍)
セシウム137 7.2ベクレル/cm3(同 79.6倍)
福島第一原発南放水口付近の海水放射能濃度の推移(ベクレル/立方センチメートル)=東京電力の資料から
これまでに海水から検出されたものに比べると、桁違いに放射能の濃度が高い。どこからこれはやってきたのか。
「昨日から雨が降っておりません。周りのガス濃度、線量を計測しておりますが、変化がございません」
つまり、塵やガスと一緒に大気中に出た放射性物質が雨とともに海に落ちて放射能濃度を押し上げたという可能性は低そうだ。
「従いまして、水として出てきている可能性があると思っています」
通常の運転中の原子炉の中の水の1万倍もの高濃度の放射能で汚染された「たまり水」が24日、タービン建屋の地下で見つかっている。それと海水の汚染との関連はあるのだろうか。
「たまり水との関連は調査中という段階で、可能性は否定できないと思っています」
■放射能汚水の来し方と行く末
26日午後5時38分、武藤栄副社長らの記者会見が始まる。
この日の午前中、タービン建屋地下1階の線量率について東電福島事務所による「誤ったご説明」があり、それがそのまま報じられるという出来事があった。これについて、まず武藤副社長が「報道各社の皆様方にたいへんご迷惑をおかけしましたことをおわび申し上げたいと思います」と述べ、広報部の吉田薫部長が、資料に基づいて説明する。「正しくない、間違った情報の提供を行いまして、ご迷惑をおかけしましたこと、改めておわび申し上げる次第です」と吉田部長は締めくくる。
明かりのついた福島第一原子力発電所2号機中央制御室=3月26日午後6時半ごろ撮影(東京電力提供)
続けて武藤副社長が各プラントの状況を説明する。それによれば、この日の午前10時10分、2号機の原子炉への注水をこれまでの海水から淡水に切り替えた。午後4時46分には、2号機の中央操作室に電気が通り、明かりがともった。
質疑に入る。
□地下の汚水と海水の汚染
――タービン建屋の地下にある汚染された水、原子炉水の1万倍くらいの放射能濃度があるという水なんですが、海に流れ出すという恐れがどの程度あるのかないのか?
タービン建屋そのものはコンクリートの堅牢な作りになっておりますので、地下にたまっているものがそのまま出てくるということは考えにくいと思っております。
――タービン建屋から海に抜けていく配管はいくつかあって、そのうちフィルターとかそういうものがないものもあるんじゃないかと思うんですが、そこから抜けていくという恐れはないんでしょうか?
タービン建屋そのものも放射線管理区域ですので、そこから直接、外に出ていく経路というのは設計上は作っておりません。
――海の海水の放射能濃度が上がっているというデータがありますけど、それと、タービン建屋地下の汚水との関連はあるのかないのか、どう見ておられますでしょうか?
海で観測されているものがどこから来ているのかということでございますけども、いろんな可能性が考えられますが、タービン建屋そのものの地下階から直接、海に出ていくということは確認されておりません。
――海水からも半減期が短いヨウ素が出ているが、原子炉から出た水である可能性の高さは?
どこから出てきたのかというのはいろいろな経路が考えられるわけですが、その源は原子炉だと思います。たまり水と同じで、残念ながら、途中の経路を把握しておりません。
――ルートなんですが、廃液ラインの状況は? そこから漏れた可能性は?
福島第一は集中的に廃液を処理する施設がございます。放射性廃棄物の処理施設から直接、海に出る設計にはなっておりません。そこから漏洩したということにつきましては確認しておりませんし、その可能性がそれほど大きくはないのかなと考えております。
――そこの配管が壊れ、漏れているという可能性は?
どこかから出てきているということでございますけども、放射性廃棄物処理施設の配管が破損しているという状況は確認しておりません。
――タービン建屋の地下から海のほうへの流出は確認されていないとおっしゃったんですが、その可能性は否定されるんでしょうか?
現場の状況を全体的に見ますと、いろいろな可能性があるわけでして、そういうものをすべて考え合わせる必要があると思いますが、現時点で、タービン建屋からまっすぐ海に放出があるということは我々は確認していない、ということを申し上げたわけです。
――海水汚染は止める手立てはあるんでしょうか? どこが壊れているか分からないと、ひたすら汚れ続けるだけだと思うが……
海につながる経路というのはいくつかあります。こうすればいい、というところまで検討ができておりません。海水も濃度が高いものが出ておりますが、継続的に見ていくことが大事だと思っており、計測の頻度を上げて注意深く見ていきたいと思っています。
□タービン建屋地下の汚水の出所
――タービン建屋地下の水がどこから来たかというのは引き続き「分からない」という状況なんでしょうか?
これにつきましてもいろいろ検討を進めておりますが、現時点で、「ここから」ということにつきましては定めるに至っていません。
――タービン建屋の地下の水は、半減期の短いヨウ素が含まれていることから、原子力安全・保安院では、原子炉から出てきた可能性が高いとみているが……
ヨウ素は半減期が短いので、(時間がたつと少)なくなってしまいますので、原子炉から出てきた可能性もあると考えております。ただ、具体的にどういうとこからというのは決めるに至っておりません。核種の分析をして、その性状から推定するとすれば、原子炉の可能性があるというご指摘をいただいているということだと思います。
――1号機について、格納容器そのものが堅牢にできていても、ケーブルなどを引き込む樹脂などは300度で溶けると言われている。これ、溶けているわけですよね? ここから漏れて海に漏れているというふうには考えられませんでしょうか?
格納容器の圧力は現在、0.3メガパスカル(3気圧)程度ですので、気密性も保たれていると思いますので、大きな漏洩があるということではないと思いますが、ご指摘のような、さまざまな貫通部であるとか、パッキンで締めているようなところもあるわけでして、そういうようなとこがどのような状況になっているのか、我々はひとつひとつを確かめているわけではないので、ご指摘のようなことも考えなければならないと思っています。
――すでに圧力容器は大きく破損して圧力容器内の水が燃料ごと格納容器に落ちているという可能性は?
プラントのパラメーターをずっと通して見てみますと、徐々に圧力が下がってきているわけですが、途中で大きな変化はなかったと認識しています。水位計も読みが出ているということでございまして、ご指摘のような可能性というのは、我々としては小さいのではないかと思っています。
――地震が起きてから数日の間は状況の把握すらできない状況で、水位がダウンスケール(メーターが下に振り切れて計測不能)になっていた。水を介して、いまその状況が映し出されているのではないでしょうか?
数日後も、原子炉圧力を保っておりました。そういうことを考えますと、そういう可能性は小さいのではないかと私は思います。
□タービン建屋の汚水の処理
――その水の処理の見通しは?
1号機につきましては排水を開始しておりまして、タービンの復水器の中に移送を始めております。2号機、3号機につきましては処理の方策を検討しているところです。
――「水たまり」という言葉を使っているが、事態は深刻では?
放射線量が非常に高いということで作業をする上で障害になっています。これ(水たまりの水)を外に出して改善することが重要だと思います。1号機については、すでに排水を開始しております。2号機、3号機についても、できるだけ早くそうしたい。
――24日より前の段階で、各号機の地下に水たまりはあったのか?
3号機につきましては、その前に現場のサーベイをやっておりまして、その段階では線量率も低く、水もなかったということであります。非常に短い時間のなかで、水、線量率の上昇が起きております。
――たまり水は除去できるのか、除去できたとして、そこで作業を再開することは可能なのか?
水の放射能濃度が高いということが線量率を上げているということだと思っています。水が全体の環境を悪くしているということなので、水を排水すれば、線量は下がると考えております。問題は、水を出す場所をどこに設定するか、どうやって出すか、ということです。1号機につきましては、復水器の中に出すということで作業を始めておりますけども、2号、3号につきましては、そのやり方を含めて、今、考えているところです。
□事態収束の見通し
――事故から2週間がたって、原発を収束させることが長引いている。その原因と今後の見通しは?
原子炉をしっかり冷却するためには炉の中に水をしっかり入れていくことが必要なわけですけど、現時点で、海水から淡水に切り替えて注水している状況です。これをさらに安定な状況に近づけるようにさまざまな努力をしていかなければならないと思っております。まだ安定していると言えませんので、具体的にいつまでかという状況は言えない。
――これまで海水を注入してきて、おそらく炉の下のほうに塩をたまっていると思うんですが、それぞれどのくらいの塩がたまっていると計算されているのか教えてください。
原子炉の中の状況がどういうことになっているのか、その中で注水した海水の成分の塩がどこにどうあるのかという質問ですが、残念ながら、原子炉の中の塩の分布について具体的な評価をできるに至っていません。
――だいたいの量は計算で出るものなんじゃないんでしょうか?
中でどういう分布で塩ができるかということになると思いますが、残念ながら具体的な評価はできてません。
――原子炉にたまった塩分が稼働にどのような影響を与えるのか?
これも定性的になりますけど、そうしたようなものが水の中でどういう影響を与えるか、原子炉を冷やしていく上で、材料に対して腐食などの影響をどう与えるかは、懸念事項として考えなければいけない事項ですが、まずは原子炉を冷やすということを優先しなければならない。
――海水を入れ続けると不具合が起きるかもしれないから淡水に切り替えたわけですよね? 現時点でその影響をどのように評価できるのか?
これから淡水を入れていくことで濃度は下がってくると思うので、そのパラメーターをしっかり見ていくことが大事だと思ってます。
――真水に切り替えることによって、冷温停止までにどういうメリットがあるのか具体的に教えていただきたい。
本来、原子炉の中は真水で冷やす。海水を入れるということは、設計で考えていなかったような状態を引き起こす恐れがあると思います。水(淡水)に切り替えていくということで、より原子炉を当初考えていた条件に近い形で冷やすことができるということだと思います。
――材料への(海水の塩分の)影響は短い期間の中でも起こり得る?
詳細に評価をしたわけではございませんが、当然、腐食の速さは海水の中のほうが速いわけで、早い段階で淡水に切り替えるのが望ましいです。
――きょう、2号機の中央制御室の電気がついたということですが、世界中の人が待っているのは、いつ冷却ポンプが動くのか、ということ。
残念ながら、具体的に「いつまで」と申し上げられるような状況になっていません。ポンプを動かすようにするには、電源をつなぎ込む必要があるわけですが、多くの設備が、水たまりが見つかっておりますタービン建屋の地下にございます。したがいまして、ここの地下の水(の処理)が、まず先に進める上で必要な状況ですので、できるだけ早くと思っておりますが、具体的にいつまでと申し上げられる状況にはありません。
□営業運転開始40周年
――今日で第一原発1号機が40年を迎えるが、それをどう受け止めているか?
ご指摘の通りなわけでありますけど、40年目がこういう形になっているということについては大変残念でありますし、また、申し訳なく思っております。
――40年というと、かなり長い期間ですが、それも含め、どのように思っているか?
この間、安全にプラントを動かすということに力を注いできたわけですが、40年目にこういう状況になっていることにつきましてはたいへん残念ですし、また、申し訳なく思っております。
福島第一原発1号機は、東電としては初めての原子力発電所として1971年3月26日に営業運転を開始した。
■最後に荒れた記者会見
最後に、しんぶん赤旗の女性記者が質問する。質問は二つに分かれている。
「津波に関しては想定外であったと繰り返し述べておられますが、電源がすべて失われた場合にどうするのかというのが国会で質問されています。それを想定しなかったのはなぜなのか?ということが一つ」
「現状、最悪の場合をどのように想定されて、どのような対策を講じていらっしゃるのか、そのあたりのことをお聞きしたいんですが」
これに対して、武藤副社長は、津波に関するこれまでの答弁を繰り返す。
「津波につきましては当然、設計のときに考慮しております。福島第一原子力発電所は昭和40年代の設計なわけですが、その時点で、それまで経験した災害の潮位を考慮して設計しております。さらにその後、津波の解析技術の進展がいろいろあったわけでして、そういうものが学会で知見としてとりまとめられて、その評価のやり方が公表されておりますので、それに基づいて、我々は最新の知見を踏まえて安全性について評価してきたと思っております」
記者会見する東京電力の武藤栄・副社長(中央)ら=3月26日午後5時38分、東京都千代田区内幸町の東電本店3階で
広報部の吉田部長がここで「最後の質問」と別の記者を指名しようとすると、赤旗の記者が口を差しはさむ。
「私が聞いたのは『津波が想定外だったかどうか』ではなくて、電源が失われる可能性について想定しなかったのはなぜなのか?ということをお聞きしたんですが」
武藤副社長がそれに応えてマイクを握る。
「今回の津波で、所内の電源は地震でもってなくなったわけですが、そのときに、ディーゼル発電機はしっかり起動しているわけです。したがいまして、地震によっては電源はなくなっていないわけです。が、そのあとの津波が発電所を襲ったところで発電所の電源を喪失しているということで、津波が今回の電源をなくした原因だというふうに言えようかと思います」
広報部の吉田部長が「あと、おひとかた」と言うと、別の男性記者が声を上げる。
「二つ目の質問に答えてない。こういうやり方で議事を進めるのなら、ちゃんと質問に答えてください。二つ目の質問に答えてない。最悪の事態にどう対処するのかという2つ目の質問に答えていない」
武藤副社長が再びマイクを握る。
「電源につきましては、地震の後、確保できていたというふうに思っております。津波によって電源を失ったということだと思います」
しんぶん赤旗の女性記者が「電源を失った場合を想定しなかったのはなぜなのかと聞いているんです」と食い下がる。
ひと呼吸を置いて、武藤副社長が話し始める。
「電源をなくなった場合でも原子炉を冷やすことができるように設計はされています。ただ、これは一定の時間、バッテリーを使いながら、原子炉の中の蒸気をもって原子炉を冷やすというのが基本的な考え方でありまして、その時間を超えて電源が復旧できないような状況になるというのは、今回の津波がすべての電源設備を利用できないような状況にしたということがあるわけでありまして。ですから津波によって電源が喪失した、というふうに申し上げました」
広報部の吉田部長が「申し訳ありませんが、あと、おひとかたのみ、というようなことでお願いします」と会場に呼びかけると、しんぶん赤旗の記者が「まだ答えてないでしょう、最悪の場合」と声を上げる。吉田部長がそれを無視して「申し訳ありませんが、あと、おひとかた」と言いかけると、別の男性記者が声を上げる。「答えてないじゃないですか、ちゃんと答えてください。私も聞きたいです。その回答を」。さらに別の男性記者が声を上げる。「最悪の場合というのはどういうことを想定されているのか」
8秒の間を置いて、武藤副社長が「外部の電源がなくなった場合に」と話し始めると、記者たちが「電源の話じゃない」と声を上げる。間があって、武藤副社長が再び話し始める。「電源が確保されているということを前提にして、その電源が一時的にまったくなくなった状態で原子炉を冷やすということを想定して、原子炉は設計されているということです」
しんぶん赤旗の記者が「いま今、最悪の場合をどういうふうに想定されているのかというのが私の2番目の質問です」と繰り返す。
武藤副社長は「ですから、電源がない状態で原子炉の中に注水をするためにどういった手立てを考えておくのかということをアクシデントマネジメントとして手順を定めて準備をしてきたということでありまして、今回も電源がない中で、まずは自分のとこで持っている蒸気でもって原子炉を冷やし、それが利用できなくなったところで外部からポンプをつないで原子炉の中に注水するということをやったということでございまして、これもアクシデントマネジメントの手順に従って、我々、手順を実施したということだと思っています」と言う。
男性記者から「日本語を分かってない」という声が上がる。しんぶん赤旗の記者の一つ目の質問は確かに、電源の喪失を事前に想定しなかったことの是非を尋ねるものだったが、二つ目の質問は、電源の話ではなく、現時点における「最悪の場合」の想定を尋ねるものだった。会場の記者たちはそれを理解しているが、武藤副社長はそれを理解していないように見える。
しんぶん赤旗の記者が「最悪の状況をどのように想定いらっしゃるのか」と重ねて質問する。
武藤副社長が答える。
「これはともかく現在の状況をできるだけ安定の状況にしなければいけないわけでして、原子炉をともかく冷やすということに尽きると思います。そのためには、原子炉の中に水を入れ続けるということが大事なわけでして、今は、原子炉への注入を引き続き続けていくことに尽きると思います」
男性の記者が「ちゃんと答えてください」と食い下がる。別の記者が「逃げないできちんと答えたほうが東電さんのためですから」と声をかぶせる。
武藤副社長は「原子炉の状態をともかく安定させるということだと思います」と言う。
吉田部長が「予定の時間が参りましたので、本日はこれにて終了させていただきたいと思います。どうもありがとうございました」と言って、午後6時40分、記者会見を打ち切る。
東電でひっきりなしに開かれてきている記者会見がこのような荒れた状態で終わるのはおそらく初めてと思われる。
この日午前6時半の時点で福島第一原発で働くのは447人。うち東電社員は386人。「協力企業」の従業員は61人。
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