本書は防衛大の教官と野中郁次郎氏が日本軍の組織としての欠陥を分析した、戦略論の古典である。その特徴を戦争と今回の原発事故を対比して紹介すると、
- 戦力の逐次投入:戦略目的が曖昧なため戦線の優先順位が決まらず、兵力を小出しにして全滅する――最初から海水を注入すれば炉内の圧力上昇を防げたかもしれないのに、1日遅れでベントを始め、水素爆発してから海水注入を始める。
- 短期決戦のスタンドプレーを好む指揮官:太平洋戦争は「敵を一撃でたたけば戦意喪失して降伏する」という主観的な見通しで開戦した――原発事故の起きた翌日に首相が発電所に乗り込んで、ベントが6時間遅れた。
- 補給を無視した人海戦術:太平洋戦争の「戦死者」300万人のほぼ半分が餓死だった――原発の作業員は1日2食の簡易食糧で水もろくに飲めず、夜は雑魚寝。
- 縦割りで属人的な組織:子飼いの部下ばかり集めて意思決定がタコツボ化し、「空気」が支配するため、総指揮官の暴走を止められない――「統合連絡本部」をつくるまで4日もかかり、各省ごとに対策本部が6つも乱立。東電にどなり込む首相を誰も止められない。
- 情報の軽視:第二次大戦で使われた日本軍の暗号は、ほとんど米軍に解読されていた――東電と保安院と官房長官がバラバラに記者会見して一貫性のない情報を流し、首相の演説にはまったく中身がない。
- 「大和魂」偏重でバランスを欠いた作戦:インパールのように客観的に不可能な作戦を「勇敢」な将校が主張すると、上司が引っ張られて戦力を消耗する――使用ずみ核燃料にヘリコプターで放水する無駄な作戦を「何でもいいからやれ」と官邸が命令し、かえって国民を不安にする。
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コメント一覧
太平洋戦争では軍将校以上の無能さに比べ兵隊は勇敢で優秀だったとよく言われる。自衛隊はどうだったのか。福島原発での最初の自衛隊の出番は使用済み燃料プールへのヘリコプターによる放水だった。テレビで放映されている映像を見る限り原子炉建屋の遥か上空を飛び放水された量の一割も目標に届いていないようだった。2機のヘリコプターが2回ずつ計4回の放水でやり方は全て機長一任だったとの事。
大前研一氏によると「セミの小便」程度で世界の笑いものだったという事だ。ヘリコプターは操縦室を放射線を鉛で防ぐ防御がなされていたのに、ただアリバイ作りのパフォーマンスにしか見えなかった。上空より放射線濃度の高い地上での、東京消防庁の消防車による放水作業の方が決死的作業に見えた。
誤解を恐れずに言えば、日本は「命の値段」が高すぎないか。作業員の安全を優先するあまり作業は遅々として進まず作業環境は更に悪くなり事態は悪化するばかりだ。今回の地震で他人を助けようと最後まで努力し自らの命を落とした民間人が多数いたことが報道されている。身を賭して国民を守るべき自衛隊が国土や国民より自分の命の方を大事にしていないのか。
数日前に自衛隊員の死亡補償金が6000万円から9000万円に引き上げられた。米兵はアフガニスタンで死んでも僅か1万ドルである。まさか地獄の沙汰も金次第と思っているのではあるまい。福島は民間人ではもう無理だ。東電の責任とはいえ、これから先は自衛隊にお願いするしかないと大多数の国民が思っている。
実は私は入試カンニング事件を危機管理と見ていました. 当時はその視点で発言するのは意図的に避けましたが.
戦力の一挙投入の欠点をあえて挙げるとこんな感じでしょうか:
・ 結果として問題が小さかったとき, 「やりすぎだった」と批判される.
・ 副作用が重視され, 「禍根を残した」と批判される.
京大は可能な限りの戦力(警察力)を一挙投入したわけで, まさしくこのように批判されました.
私と違い, 危機管理と見ていない人が多かったのでしょう. 危機だと思っていなければ, 拙速より巧遅を選ぶでしょうから. 実際は人が死ぬ危険があったのですが.
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正直言うと, 政府は原発よりも一般の被災地に力を入れてほしいと思っています. 丸1日停電したせいもあって, 菅直人が視察に行ったのは知りませんでした. 人体に影響がない低放射線量(東京とか)で大騒ぎしているのはバカに見えます. 被災地にガソリン・灯油が届かないため, 老人・病人が次々死にました.
内容が正直なところ王道的ですが古典的すぎて、太平洋戦争の敗戦解釈としては今更な内容だと思います。
近年、日本軍の暗号が解読されてはいたが、米軍の暗号も日本は良く解読していたことが判明していて、情報は一方的に抜けていたわけではありません。
短期決戦はスタンドプレーではなく、戦争をするならばそれしかない選択肢です。そして真珠湾が強襲でなく、事後連絡の奇襲(これも諸説ありますが)になった時点で、米国人の心情から短期決戦が無くなり、実は開戦と同時に敗戦は決定しました。
太平洋戦争の敗戦の原因は上記に挙げたものよりも更に上位の原因があり、国際的な外交的綱引きや、工業力の差、石油保持の差がさらに上位に存在します。国土面積の小さい国としか同盟しなかったことも、長期戦では負けを意味しました。
これらが改善しなければ、この本で挙げられた部分を改善しても勝利はあり得ませんでした。より高次の戦略的失敗は低次の戦略で挽回できない、ということです。
総論が見えないのは日本の宿屙とも言えますが、地理的に極東に存在する日本が、世界のパワーゲームの中心で起きる現象の本質を見れずに末節だけ真似するしかない以上、政党に限らず今後も続くでしょう。
司馬遼太郎ではないですが、日露戦争の状況のような限られた歴史的時期においてのみ、バランスがとれて国際的にみてもすぐれたPerformeが出来ることが稀にあるくらいです。
しかしインターネットの普及は、日本の地理的不利を解消するかもしれません。と言っても有利にはなりませんが。
>日本軍の組織としての欠陥
その特徴は、今回の原発事故だけではなく、現代のごく日常的な日本の平均的な企業やもちろん政府や個人の毎日だと思うし、それどころかこれまでの日本の歴史は、同じ失敗の繰り返ししか無かった感がする私は異常なのだろうか・・・。
いや~懐かしい本が出てきましたね~。
もう四半世紀前に何度も読み返したのを思い出します。
これは名著ですね。戦前の日本のシステム問題点が良く焙り出されています。
そして今も同じことを繰り返している・・・・。
最も驚いたのは、ロシアはシベリア出兵時に散々叩きのめした日本陸軍のことを、兵士は勇敢で手ごわい相手だが司令部の指揮官や士官たちは無能な者が多いと喝破しているところでした。
まさに日本の本質を太平洋戦争の遥か前に見抜いていたことです。ですから、昨年北方領土にロシア首相が上陸したときも、日本の政治中枢は何もできないと見抜いていたのを感じましたね・・・。
で、このような失敗を繰り返すのは、明治以降の官僚制度や議会制度が関与しているように思えます。
民主主義みたいなぬるま湯でやっているのがまずいのでしょうね。江戸時代以前にもどれとは言いませんが、あのことのように失敗したら打ち首および担当者の財産没収ぐらいしないと同じことを繰り返し続けますね。責任の所在と罪を負うというものが無くなってからこのような失敗を繰り返しているような気がします。
作家の別宮暖朗氏が書いていたのですが、太平洋戦争の勝つ見込みの無い開戦原因は、官僚主義とのこと。
日本陸軍は軍隊という位置づけではあるけれども、その実は単なる公務員。行政の執行者が立法府に介入したから暴走をしやすい体制になった。
一方、民主党の圧力団体である自治労が平然と立法府に介入している点などを考えると、地方公務員が日本陸軍の正当後継者であることがよくわかる事例ですよね。