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[26698] 【R15】IS――その拳は天を掴む【チラ裏からまいりました】
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/30 00:01
このSSは最強、ハーレム、魔改造の三点が揃った最低物となっております。
そのような露骨な地雷がお嫌いな方はご遠慮ください。
それでも構わん!という不発弾処理の名人の方のみお読みくださいませ。
このあらすじ部分で何人の読者の方が切り捨てているのか個人的に楽しみですらあります。

なお、にじファン様にも投稿させていただいております。



[26698] 山田真耶
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/25 00:58
インフィニットストラトス、通称ISの登場は世界を変えた。
戦闘機を超える機動性、戦車を超える火力、歩兵を超える制圧力。
既存の全ての兵器を鉄クズへと変えてしまった。
単騎で千を超えるミサイルを迎撃し、やる気になれば単騎でホワイトハウスを落とせるであろう兵器に如何なる相手が立ちふさがれると言うのだ。

かのドレッドノート級戦艦の登場を超える軍事バランス変動は国家を変え、地方を変え、町を変え、男女間のバランスを変えた。
つまりは絶対的な女尊男卑。
男が腕力で女を従える時代は終わり、女がISで男を従える時代が始まったのだ。
ISは潜在的に全ての女性が使えると言われているが、男はISを使えない。
もし、男女間で戦争が起きようものなら、三日どころか三時間で制圧される事だろう。

しかし、絶対的な女尊男卑を超える一人の男。……いや、漢が現れる事になる。
ISを史上初めて起動させた男、という特異性により彼の名は初めて歴史に記される事となるが、彼の特異性は単純にISを動かせるなどというくだらない事ではなかった。
その証拠に織斑一夏を知る強敵(とも)である五反田弾は何の動揺も見せずに言った。

「奴がIS程度を動かせぬはずがあるまい」

後の世に覇王と呼ばれる漢、織斑一夏の天下取りはIS学園より始まる事となる。












それはまるで岩だった。
山田真耶から見る織斑一夏はまさに硬い岩。
教卓の正面に鎮座する織斑一夏は立っているはずの真耶と目線の高さが等しい。
これがせめて見下ろされていれば、まだマシだっただろうに……と真耶は思った。

明らかに特注である制服ですら織斑一夏の身体をしっかりと包み隠す事は出来ていない。
太ももの過剰に発達した筋肉は布地に多大な負担をかけ、はちきれんばかり。
並みの女のウエスト五人分はありそうな太い胴は真耶が必死に両手を回したとしても、手は届くまい。
両の腕を包み込むはずだった制服は織斑一夏の筋肉の前に屈服し、無残にも破れてしまっている。

「お、織斑くん……そ、その制服はどうしたのかなー?」

必死に笑顔を作ったつもりだったが、それが成功しているかどうかは真耶には自信がなかった。

「……………………………………………………」

織斑一夏の返答は黙殺。
しかし、丸太のような首に乗っている顔は、目は真耶を貫いている。
その視線はもはや物理的な圧力となり、真耶の心を打ち砕く。
私だって頑張って先生やってるのに!このままじゃ初めてのショートホームルームが!という憤りも。
歴戦のIS乗りとしてのプライドも。
男より強い女としての優越感も。
ありとあらゆるプライドを砕き、ただ一人の女としての真耶を露わにする。
それは単純な、ひどく単純な本能。

強い雄に従いたいという原始的な雌の本能。

それに気付いてしまえば、その筋肉の塊のような体躯はひどく好ましく見えて来るし、野性的に刈り上げられた髪を優しくなでてやりたくなってしまうから困ったものだ。

しかし、山田真耶は教師だ。
教師山田真耶はぴしっと生徒を叱らねばならない。
それが織斑一夏の巨大な、人の頭より巨大な拳を振るわれる事になったとしても、山田真耶にはやらなければいけない義務なのだから。

「お、織斑くん!」

ありったけの勇気を振り絞り、この雄に従えと叫ぶ本能をねじ伏せ、真耶は叫んだ。
しかし、

「気にいった」

織斑一夏の声を聞いた瞬間、真耶の子宮が動き出した。
雄を受け入れるために活動を開始したのだ。
ただ織斑一夏の声を聞いただけで、未だ男を受け入れた事のない真耶の身体は雌になったのだ。

気付けば織斑一夏は立ち上がっていた。
色に惚けていて気付かなかったのではない。
それなりに訓練を積んでいるはずの真耶すら反応が出来ないほどの武の極みを立ち上がるという誰にでも出来る動作で真耶にまざまざと見せ付けた。
まだまだ未熟な学生には理解出来ないだろうが、織斑一夏がその気になり、拳を振るえば真耶は死んでいただろう。
だが、織斑一夏は拳を振るう代わりに真耶をその胸に抱いた。

「我が女になれ」

見た目を裏切り、真耶に傷一つつけずに優しくすらある手際で抱き締められ、荒ぶる所なく静かに放たれた声は真耶の身体に、細胞に、魂に染み渡る。
熱いとすら思える雄の筋肉に抱き締められた真耶の心は暴力的なまでに凶悪な力によって、奪われてしまう。
織斑一夏により、山田真耶の心は根こそぎ奪われてしまった。
真耶の返答はただひとつ。

「……はい!」

教師としての義務感、IS乗りとしてのプライドを忘れ、ただ圧倒的なまでの女としての喜びだけが真耶の声にはあった。




















「……山田先生と織斑はどこだ?」

会議で遅れてやってきた織斑千冬は奇妙なまでに静まり返った教室に困惑していた。

こうして織斑一夏のIS学園入学初SHRは終わった。
具体的に何をしているかは想像にお任せしたい。



[26698] セシリア・オルコット1
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/27 00:16
「………ねえ、やっぱりさっきのってさ」
「………なのかなぁ?」
「織斑様……一夏様どっちもしっくり来ない………」

普通であれば三人、女が集まれば姦しい(かしましい)所ではあるが、一時間目が終わり、休み時間を迎えた一組には不思議な空気が漂っていた。
それはそうだろう。
今まで完全に女子しかいなかったIS学園に男、それも超特級の規格外にも程がある雄が現れたのだから。
男性に接点の無かった彼女達が織斑一夏という存在を持て余すのは仕方あるまい。
真後ろに座っていた子など前に座る分厚い背中で黒板は見えないわ、雄の体臭に含まれるフェロモンにより、じゅん…としちゃうわで大変だった。
じゅん……とした部分がどこかという疑問には残念ながら本人の名誉のために答えられない。

そして、SHRでの山田先生強奪事件だ。
次は誰が……ひょっとして私が!?という妄想をしてしまう彼女達の脳内では「漢の求愛=いきなり攫ってベッドイン」という公式すら出来上がっている。
織斑一夏が山田先生一人を愛し続けるような人格の持ち主だとは、この場にいる誰も思ってはいない。
逆に織斑一夏の超絶倫……もとい織斑一夏の愛を一身で受け止められる女がいたら見てみたいくらいだ。
実際に織斑一夏の下半身の事情は知らないが、想像の中ではえらい事になっている。

現実の織斑一夏は更にその上を遥かに超えているのであるが。

……次の被害者は誰になるのだろう?
この場にいる少女達の共通の疑問。
いや、被害者という言葉は相応しくないかもしれない。

――織斑一夏の寵愛を次に受けるのは誰だ。

そう考えた時にまず真っ先に名前が挙がる女が一人いる。

(それはわたくし、セシリア・オルコットですわね!)

イギリス代表候補生にして、入試主席。

(更には容姿端麗にして……その、なかなかのスタイルですわ。あのケダモノがわたくしに目をつけないはずがありまして?あり得ませんわ!)

胸は同年代の白人系女子には負けるが、それがまた全体的なスタイルを整えるのに一役買っている。
そして、すらっと伸びた足は艶めかしい流線型を生み出す。
セシリアの専用機『ブルーティアーズ』はそれがわかっているのか胸よりも足と尻をアピールする作りになっている。
この足と尻を手に入れたいと思わない雄はいないはずだとセシリアは自画自賛。

顔を赤らめ、いやんいやんと蠢くセシリアに周りの生徒が引いている。
しかし、その視線に気付くようなヤワな神経をしているのであればイギリス代表候補生などやってはいられない。
縦ロールは伊達ではない。

縦ロールという手入れの難しい髪型はセシリア・オルコットのプライドだ。
決して被弾せずに、この優雅な髪型を維持するという誓いと、それを可能とする確かな実力の証。
セシリア・オルコットの縦ロールは伊達ではないのだ。

(いえ、でもわたくしは山田先生のように売れ残りの安い女ではなくてよ……!
もし、わたくしを手に入れたいのであれば、きちんとデートをして手順を踏んでからでないと……
まずは二人で街を歩いて……えへへ)

巨大な織斑一夏とセシリアのカップルが街を歩いていたら、相当な画になるだろう。
むしろ、織斑一夏に相応しい景色など剣電弾雨が飛び交う戦場くらいしか無い気がするが。

「はーい、皆さん席に着いてくださーい!」

織斑一夏が愛の言葉を囁き、セシリアを連れ、夜の街に消えて行く所までセシリアが妄想した所で現実の山田真耶と織斑一夏が戻って来る。
夜の街に消えた後はセシリアの知識不足という名の壁により、妄想すら不可能。

しかし、その壁を開通させた女がいた。
未通で「こちら側」だったはずの山田真耶はトンネルを開通させ、「向こう側」へと旅立っていった。

(トンネルを抜けると、そこは何があるんですの!?)

川端先生に謝らなければならないような事をセシリアは考えた。ごめんなさい。



イギリス代表候補生セシリア・オルコットの胸に、じりじりと焼き付くような火が灯る。
セシリアはこの火の名前を知っている。

――これは嫉妬だ。

天才と呼ばれるセシリアではあるが、実際にそうでは無い事を自身が一番知っている。
両親が亡くなった後、莫大な遺産を金の亡者から守るために必死に勉強をした。
その一環で受けたIS適性テストでA+を叩き出し、IS搭乗者となったが、第三世代装備ブルーティアーズを専用機にするまでに紆余曲折があった。
セシリアが出来ない機動もあっさりとこなす他の搭乗者を見た時に感じた嫉妬。
今の山田真耶から、いや、あの時以上の嫉妬をセシリアは感じていた。

その身を縮こませ、怖い物から自分自身を守ろうとしていた山田真耶はもういない。
人の顔色を窺うように他人を見上げる山田真耶はもういない。

そこにいるのは正しい女としての在り方を見つけ出した山田真耶だ。
小さくなるために猫背だった背筋はぴんと伸び、自信に満ち溢れている彼女の視線は正面から相手を受け止める。
その顔は男を愛し、愛されているという実感に満ち溢れている。

完全に女として、セシリア・オルコットは山田真耶に敗北していた。

「皆さん、教科書開いてくださいね」

おどおどと声をかけていた真耶を変えたのは、織斑一夏。
この嫉妬の炎を消すには、山田真耶から織斑一夏を奪わねばならない。
セシリア・オルコットの生来の反骨心がめらめらと音を立てて燃え上がり始めた。

(山田真耶……負けませんわよ!)

セシリア・オルコットの嫉妬はその身を激しく輝かせる炎なのだ。
ブルーティアーズを手に入れ、目標を見失っていたセシリアは再び越えるべき壁を見つけた。
セシリア・オルコットは確かに自らの炎で輝いていた。



[26698] セシリア・オルコット2
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/25 01:02
セシリアにとって、じれったい二時間目の授業がやっと終わった。
甘い雰囲気を醸し出す女子生徒の空気を押し返す山田真耶の幸せ全開のパワーにセシリアのみならず、クラス全員がげっそりとしていた。
授業中の一幕でも、

「あ、あなた……じゃなくてお、織斑くん、わからない所はありますか?」
「問題ない。続けよ」
「はい、わかりました!」

教師と生徒というよりも犬と飼い主にしか見えない。
山田真耶に尻尾が生えていれば、高速で左右に揺れていた事だろう。
だが、セシリア・オルコットは違う。

(あのような羨ま……破廉恥な行いはこのイギリス代表候補生セシリア・オルコットには相応しくありませんわ!
私が尻尾を振るのではありません。織斑一夏、貴方がわたくしに膝を屈し、忠誠と………そ、そのあああああ愛を誓うのです!)

「あなた……わたくし幸せですわ」
「安心せい。これから我がうぬをもっと幸せにしてやろうぞ」

結婚式は海の見える教会で……あ、ブルーティアーズのような青いウエディングドレスはどうでしょうか?これからは千冬義姉様(おねえさま)とお呼びするべきかしら?それに一夏さんと呼ぶのも違いますわねあなたではあの泥棒猫と被ってしまいますわ!ここは一つ御主人様というのはどうかしら?

「ちょっとよろしくて?」

そんな事を考えるセシリアだったが、いつの間にか織斑一夏の前に立ち、声をかけていた。

(なん……ですって……!?)

本来の予定では、織斑一夏は一組最大の獲物であるセシリア・オルコットの魅力に我慢出来ずに、のこのことやって来るはずだった。
そこでセシリアが散々に焦らしに焦らし、我慢が出来なくなり無様を晒す織斑一夏を優しく慰める事によりセシリア・オルコットは織斑一夏の上に立つという計算をしていた。
イギリス代表候補生セシリア・オルコットの輝かんばかりの美があれば、その計算が現実の物になる確率は高かった(とセシリアの脳内では確定事項になっている)。

(それが逆に声をかけてしまうとは迂闊ですわ!)

しかも、困った事に完全にノープランだ。
織斑一夏が声をかけてきたら、ああしようこうしよう、あらあらいけない狼さんねとかわすプランは大量にあるというのに、セシリアから声をかけてしまうとは……

「セシリアさん、すごーい……」
「さすがはイギリス代表候補生ね……」
「なんて言うつもりなのかしら……」

そして、更に悪い事に周囲には大量のクラスメイト達がいた。
話しかけるには厳しい壁があるが、かと言って無視するには大きすぎる存在感を発する織斑一夏を注目しない者はいない。
無論、それは即座に色恋へと結び付く話ではないが、だからと言って初めて彼に立ち向かった勇者セシリア・オルコットへと向けられる賞賛が変わる事はない。
ここで無様に逃げ出したとしても、セシリアを蔑む者はいないだろう。
正直、織斑一夏の後ろの席の子は授業中、発せられるプレッシャーでちょっと漏らしたほどだ。しかし、席を変わる気は一切ないのだから業が深い。
授業開始二時間にして色々な汁で彼女の下着はえらい事になっている。

だが、そんなギャラリー達の暖かさに満ち溢れた思いはセシリアには通じない。

七つの海を制覇したイギリス人には数多くの欠点と数多くの美点があった。
その中でも粘り強くいかなる苦難にも挫けないという性質がある。
セシリアの中にも強く流れるイギリス人の血が今回は裏目に出てしまった。

「わ、わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら!?」

確かに織斑一夏の態度は悪かった。
一応、視線こそセシリアに向けてはいたが何の返答も返しはしない。
だが、

ISを使える。

それが国家の軍事力になる。

だからIS操縦者は偉い。

IS操縦者には原則女しかいないから女は偉い。

そんな論法を持ち出すかのような十把一絡げの男達に接するような態度で、この織斑一夏に対するとは……!

「せせせセシリアさん!?」

周りから、そんな声が挙がるが彼女達はそれが精一杯。
もし、織斑一夏の鍛え抜かれた拳が振り下ろされてみろ。
貧弱な少女達の身体など何の障害にもならず砕かれるに違いない。
少女達は己の無力に泣き、そしてセシリア・オルコットという名の一日だけのクラスメイトのために祈った。














「ふむ、我は気の強い女は嫌いではない」

だが、次の瞬間に彼女達は己の目を疑う事になる。
なんと織斑一夏がほんの僅かだが笑ったのだ。
木石ではない織斑一夏が笑う事があるのは確かに道理だ。
しかし、セシリアの愚かな振る舞いを快く許し、微笑むという器の大きさを見せつけるとは誰もが思わぬ大度(大きな度量)であろう。
織斑一夏は、ただ野蛮なだけの雄に非ず。愚か者を許す大器の持ち主でもあったのだ。
その広い器に自ら飛び込みたいと思う織斑一夏の笑みを見た名も無き少女がいる一方、










「このセシリア・オルコットを舐めてもらっては困りますわっ!」

何たる無礼!
何たる増上慢!
この男はすでにセシリア・オルコットを、その身の下に組み敷いたつもりだとでも言うつもりなのか!

セシリアの反骨精神は枯れ草に火をつけたかのように一気に燃え広がり、地獄の業火も生ぬるいと言わんばかりに燃え上がった。
許すという行為は上の人間が、格下の人間に対して行うものだ。
セシリア・オルコットをまだ何も知らない織斑一夏がやっていい事では絶対に有り得ない。
織斑一夏はセシリア・オルコットをきゃんきゃんと吠える子犬のように扱った。
セシリア・オルコットを織斑一夏はナメた。
こんな屈辱を許せる程、セシリア・オルコットは枯れてはいない!

「山田先生!」
「は、はいっ!?」

愛を知った山田真耶ですらたじろがせる力が、そこにはあった。
擬音にするなら、ギロリと表現するのが相応しいセシリアの視線が真耶を貫く。

「クラス代表者を決める必要がありましたわよね。
そこでクラス代表者を選出するために、わたくしセシリア・オルコットと織斑一夏さんの決闘で決めるのはいかがかしら!?」

何たる暴論か。
他のクラスメイトに適格者はいない。ただ自分と織斑一夏のみがそれに相応しいと言っているに等しい。

だが、この暴論はクラスメイト達に好意を持って受け入れられる。

「織斑様なら……それに織斑様に立ち向かえるセシリアさんなら……」
「あそこまで無謀極まりないと逆に凄いわよね……」
「異議なーし!」

異議なし!
異議なし!
異議なし!

クラスにその声が広がる。
しかし、運悪く担任の織斑千冬がおらず、真耶はこのような事を独断で決めていいのか判断に迷う。
だが、すぐに絶対的な指針がある事を真耶は思い出した。

「真耶」

何を迷っていたのか自分でもわからなくなるくらいに、織斑一夏にただ声をかけられた、その瞬間に真耶の迷いは晴れる。
織斑一夏が誰かに従う道理があるというのか?こんな形で一組の覇権を握るチャンスが飛び込んで来たのだ。
織斑一夏がこんなくだらない試練とすら言えない試練で躓くはずはあるまい。

「わかりました。
それでは勝負は一週間後の月曜の放課後、第三アリーナで行います!
織斑くんとオルコットさんはそれぞれ用意をしておいてください!」

山田真耶の凛とした宣言が響き渡る。
そして、歓声。

「織斑一夏。あなたにこの!セシリア・オルコットとブルーティアーズの名、刻み込んであげますわよ!」

セシリアは烈火の如く燃え上がり、

「よかろう。我が力、とくとその身で味わうがいい」

織斑一夏は淡々と――だがその目には一分の油断も無く――言った。



[26698] セシリア・オルコット3
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/25 01:04
織斑一夏、初めての専用機を開発した研究者は後に語った。

「ああ、Mr織斑の専用機ね……
ありゃあ僕の最高傑作って呼ばれてるらしいけど、僕にとっては駄作中の駄作だね。……え?なんでだって?
あんた、兵器とそれを操る人間の関係を知ってるかい?
そう、それだよ。あくまで人間は兵器の力を限界まで引き出すためにいるんだ。

……Mr織斑の専用機を作れるって聞いた時は初め凄く喜んだよ。
だって、そりゃそうだろう!今はFack'nな女共に独占されている空をまた男が飛べるかもしれない。そう思ったらさ……わくわくしちゃってね。
でもさ、Mr織斑を一目見た瞬間……ああ、僕みたいな存在とこの人は器が違う。僕みたいな小物とは規格が違うって思い知らされちゃってさ……

おっと、話がズレちまったね。
どこまで話したんだっけ?
そう!兵器と人間の関係性だったね。
Mr織斑はまさにスペシャルさ。
兵器のために人がいるんじゃない。Mr織斑のために兵器があるんだ。
いやぁ、本当に苦労したよ!
何せ当時の第三世代機を装着したMr織斑が何て言ったかわかるかい?

「脆い」

ちょっと力を籠めたら、ISが弾け飛んじゃってさ。あれは自分の目を疑ったね。
仕方ないから、頑丈さだけが取り柄の第一世代型を必死に改造して、Mr織斑に合わせたよ。
あれは……技術者からしてみれば本当に屈辱だったね。
必死に作った研究成果を完全に否定されたようなものだったからね……あれは忘れられないや」

――つまり、あなたは織斑一夏を恨んでいるのですか?

「おいおい、君は今まで何を聞いてたんだい?
僕がMr織斑の『百式』を作ったのは僕の人生最大の誇りさ!
『白式』はMr織斑という力を加え、付け加える事の無いパーフェクトな百に生まれ変わったんだ。
それが僕の力じゃなくて、ちょっとばかり悔しかったけどね」

民明書房「織斑一夏という漢」





そんな未来を現時点のセシリア・オルコットが知覚する術はない。
だが、織斑一夏の規格外のパワーを感じられない者がいたとしたら、すでに生物として当たり前のように持つ危険察知能力が欠けている者だけだろう。
だからこそセシリアは自らを鍛える事に決めた。

たった一週間で何が出来ると言うのか?

そんな疑問は一日目ですでに投げ捨てた。
三日目を数えるセシリアの訓練は授業が終わり、すでに五時間を超えたが休まない。

「497、498、499……!」

腕立て伏せは腕が太くなるから嫌だった。
もう、セシリアは誰が見ても限界だ。

しかし、ありとあらゆる方法で織斑一夏にセシリア・オルコットを理解させると決めたのだ。
ブルーティアーズ得意の中距離射撃戦のみで戦わせてくれるような甘い相手ではないはずだ。
不得意な近接戦闘に備え、持久力をつける事は必要な事だ。
銃口を横に向けエレガントさを追求した『スターライトmkⅢ』の展開イメージを常に相手に銃口に向けて、どんな体勢でも展開する事が出来るように修正した。
近接用武装『インターセプター』の展開はまだ一秒近くかかってしまうが、それでも言葉にしなくても展開出来るようになった。

「もういいでしょう?ここまでやれば十分ですわ」

弱いセシリアが囁く。
確かに三日前のセシリアからすれば、長足の進歩だろう。
それにセシリアは織斑一夏に勝てるのだろうか?

「無理に決まってますわ。あんな規格外の男に負けてるのは仕方のない事ですわ。こんな無駄な事はもうやめなさい。今の貴方は無様ですわ」

確かに仕方ない事なのかもしれない。
戦っている所を見た事はないが、あの織斑一夏が弱いはずがない。
セシリア・オルコットでは存在自体が違いすぎる。
最初から勝てるはずがない。
そんな事はすでに理解している。
だが、

「このくらいで負けてらんないのですわぁぁぁぁぁぁぁぁ!……500!!」

乳酸が溜まり、ぱんぱんになった腕でもセシリアは五百回の腕立て伏せをやり遂げた。
必死に歯を食いしばり、乙女としては見せられない形相で。
セシリアの肢体を包む青いスクール水着にも似たスーツは汗ですでにドロドロ。

「織斑一夏……絶対、貴方にわたくしの存在を刻み込んであげましてよ……!」

だが、織斑一夏に最高のセシリア・オルコットを魅せつけてやるのだから。
こんな所でうずくまっている暇は無いのだ。
次は腹筋五百回。まだまだセシリア・オルコットは突き進む。

残りは後四日。セシリアはその日が来て欲しくないような、待ち遠しいような不思議な気分の中にいた。





























一方、織斑一夏の後ろの席の子は、

「うん、明日はパンツ三枚持って行こう」

色々とダメになっていた。



[26698] セシリア・オルコット4
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/25 01:05
女は男より強い。
それがこの世界のルールだ。
現在、存在する467個のISコアは女による世界征服を成し遂げた。
その中でイギリス代表候補生セシリア・オルコットはどこの場所にいるのだろうか?
専用機持ちとはいえ所詮は一介の学生。第一線で活躍する連中には勝てはしまい。
学生を教える教師には?
世界最強の座を射止めた織斑千冬には?

たった独り、男の看板を背負う織斑一夏には?

セシリア・オルコットは勝ち目がない。
ただのセシリア・オルコットでは勝てるはずがない。

だが、今日ここにいるセシリア・オルコットは違う。
一味も二味も違うセシリア・オルコットが織斑一夏に無惨にも為す術無く敗北するというのか?

「そんなはずはありませんわ」

その身に纏うはブルーティアーズ。
天空ではなく、それは海の青。
海は時には人を優しく包む母なる存在。
時には荒れ狂い全てを飲み込む。

未だ開かぬゲートを前にセシリアは目を閉じる。
猛り狂う波濤の如き心を静め、己のテンションをコントロールする。

その心境はすでにZENで言う所のSATORIの境地へと達していた。
SATORIを開いた者に捉えられぬ獲物無し。
古のSAMURAIが皆、ZENを学んだのはこういう理由だったのか。そうセシリアは思った。
ならば今日のセシリア・オルコットは一人にして一軍。
たった一人で巨大な敵に立ち向かうというのに――その心に高ぶりあれど、恐れなし。

「…………………………」

セシリアがすっと手を上げ、虚空を掴んだ。
ここに山田真耶か、織斑千冬クラスの者がいれば、その目を驚愕に見開く事だろう。
人体を動かすのに力のロスが生じ、十の力が必要な所に十一、十二の力を使ってしまう。
だが今のセシリアは十の力が必要な所に十をぴたりと持って来た。
つまり、それは動作の最適化。
銃で狙いを付けるという動作にしても余計な周り道をしなければ、より早くなるのは幼子でも理解出来る事だろう。

そして、SATORIを開いたセシリアは殺気すら消してみせたのだ。
ただ虚空を掴んだだけど思われた手を開いてみれば、その中から一匹の羽虫が慌てたように飛んで行く。
目から入った情報を脳に伝え、身体の筋肉に命令を下すのに0.2秒もの時間がかかる。
これは訓練ではどうにもならぬ人体の限界である。
しかし、剣豪が振り下ろす刃を避けるには0.2秒は長すぎる。
一流と呼ばれる境地に至る者は必ず殺気を見る事により、0.2秒の壁を超えるのだ。

だが見事、殺気を殺されれば、相手は一体どう対応すればよいと言うのだ。
セシリア・オルコットの弾丸は決して外れぬ必中の魔弾と化す。
もはや、セシリア・オルコットは人にして人に非ず。SATORIを開いたHOTOKEへと生まれ変わった。
だが、敢えてHOTOKEへと至る道を捨て、SYURAとして織斑一夏を射抜くのみ。
たった七日でセシリアの一念は武芸者の極みへと辿り着いてみせた。

神箭セシリア・オルコット。
それが今の彼女に相応しき名だ。

神箭セシリア・オルコットは目を開いた。
その透き通った青き瞳はうんともすんとも言わぬゲートを見据える。

『ゲート解放まであと二・〇五七一八四二二秒』

ブルーティアーズが間の外れた報告をセシリアへと寄越す。

「今だけは…………わたくしだけを見てくれますわよね」

セシリアの胸が一つ、大きく高鳴った。
その甘い感覚を勿体無いと思いながら、切り捨てた。


――何故ならそこに『敵』がいるのだから。



[26698] 篠ノ之箒1
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/25 01:08
「セシリア・オルコット……なんと見事な立ち振る舞いよ!」

ゲートから悠々と現れるセシリアを見て、観客席に座る篠ノ之箒は叫んだ。

「え、いつものセシリアさんと違うの?篠ノ之さん」

その箒の横に座るのは、織斑一夏の後ろの席の少女だ。
すでにもう色々とぐちゃぐちゃで始まる前からトイレに行きたい。

「うむ、動いても体幹が全くブレていない。それがどういう事かわかるか?」

「うーん……わかんないかな?篠ノ之さんは知ってるの!?」

「箒でいい。……体幹がブレぬという事は飛行時に余計な力が掛からず、スピードと安定性が増す。一夏の圧勝かと思ったが、これは案外、セシリアが一矢報いるかもしれんぞ……」

箒の目に映るセシリアの表情は何の感情も宿してはいないように思える。
だが、それが己の眼が節穴だっただけだと箒は自分の不明を恥じた。

セシリアの向かいのゲートがゆっくりと開く。
まるで観客を、セシリアを焦らすかのようにゆっくりと。
だが、それは極限まで集中する事により、一秒が万秒まで引き延ばされただけに過ぎない。



奴が来た。



ごくり、と横に座る少女が唾を飲み込む音が箒の耳に聞こえるほどの静寂が観客席を包む。
百を超える少女達がおしゃべり一つしない異常事態。
彼女達は理解しているのだ。
これから現れるは天に愛された漢。
最強という名を冠するに相応しき王が現れるのを。

その姿はまさに文字通りの天衣無縫。
はちきれんばかりの筋肉を覆い隠すは、ただのIS学園の制服。
両の腕が破れているのは、筋肉の膨張を押さえ込めなかったからではない。両の腕の筋肉があまりに美しく、これを隠すのが忍びないと制服が思い、自ら破れてみせたのだろう。

「制服ながら、なんと天晴れな心意気よ!」

「箒さん、何を言ってるの!?……で、でも一夏様はどうして制服のままで!?
専用機もらったはずですよね!」

少女の疑問は至極当然だろう。
生身で弾丸に当たれば、その身が砕けるのは人の理(ことわり)。
どう筋肉を鍛え抜こうとも、どこまで突き抜けたとしても、ただのタンパク質の塊。弾丸が砕けぬ道理は無い。
だが、それは、

「あくまで人の理よ。一夏は天だ。天を弾丸で砕けぬわ」

そう言うと箒は完爾と笑った。
生身でISの前に出た幼なじみが、ISに勝てぬ理由がないとばかりに笑ったのだ。
それを理解しているのは箒だけではない。
織斑一夏に相対するセシリアも、それを理解した。

――セシリア・オルコットではISを纏おうとも織斑一夏には勝てぬ事を。

「だが見事なり、セシリア・オルコット。勝てぬと理解しながら、なおも笑ってみせるか!」

勝てぬから、破れかぶれで突撃する。
これは簡単な事だ。ただ命を投げ捨てればいいだけの話。
覚悟の一つでも決めれば己の命など捨てられるのが武人の心得だ。

だが、勝てぬと悟りながらも、まるで咲き誇る華のように笑ってみせたセシリアは同性の箒から見ても美しく感じられた。
先程まで表情を失ったかのように見えた彼女は黒の色だったのだろう。
数々の感情という名の色を混ぜてしまえば黒になる。だが、そこから浮かび上がる色があった。
それは桜花の心意気。

アリーナステージの直径は僅か二〇〇メートル。
セシリアが纏うISブルーティアーズの持つ六七口径特集レーザーライフル『スターライトMrⅢ』が発射から目標到達までの予測時間〇・四秒。
織斑一夏がセシリア・オルコットへと直線で疾走し、捉えるまでに一秒と箒は見た。

「これは如何に一夏と言えども苦戦は免れまい……!」

「どうして箒さんは当たり前のようにISに乗ってるセシリアさんが負けるって思ってるのかな!?」

当たり前の話ではあるが、ISには飛行能力がある。
空を自由に舞うセシリアが地を這う織斑一夏を一方的に撃てる事を意味するのか?

「否、一夏ほどの使い手がたかだか空を飛ぶ程度で止められるはずがあるまい」

「どうも話が微妙に通じてない気がするよ……」

そんな箒と名はないがキャラだけは立ち始めている少女の思惑を余所に主役達二人の気は高まりを見せていた。



[26698] セシリア・オルコット5
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/25 18:58
「最後のチャンスをあげましてよ」

セシリアはびしっと人差し指を織斑一夏へと突きつける。

「わたくしが勝利を得るのは自明の理。ですから、今ここで謝るというのなら、許してさしあげないこともなくってよ」

これはダンスの誘い。
セシリア・オルコットは織斑一夏に膝を屈する事はないという宣言。
正気で織斑一夏に降伏勧告をするほどイカれてはいない。
別の意味でセシリアは織斑一夏にイカれてはいるが。

その証拠に二人の顔には笑みが浮かんでいるではないか。
相手の喉笛に食らいこうとする獣の笑みが。

にぃっ、と嬉しそうに笑う織斑一夏のように今の私も笑っているのだろう。セシリアは思う。

「断る。我が覇道に後退は無し!」

だから、二人は前に出た。



ブルーティアーズの機動力は幾多のISの中でもさほどではない。
何故なら速度より射撃時の安定性を優先しているのだから。
そもそもブルーティアーズは多対一を想定している――という訳ではない。
前線を別な機体で止め、ブルーティアーズの同型機を何体か揃え、射出型ビット『ブルーティアーズ』により砲数を増やし、勝利を決定するという設計思想なのだ。
つまり、競技用ではなく戦争用IS。
七つの海を支配したイギリスらしい艦隊決戦型IS。それがブルーティアーズだ。
駆逐艦のように高機動のISが突っ込み、戦艦であるブルーティアーズがトドメを刺す。
ゆえに単体の戦闘力を求められてはいない。

だが、主砲たるスターライトMrⅢで、副砲たるビット『ブルーティアーズ』で織斑一夏を打倒出来るか?
それは否。

一秒にも満たない中、セシリアが進んだ距離よりも、アリーナ全体に広がる勢いで砂埃を激しく撒き散らしながら踏破してくる織斑一夏を止められはしない。
スターライトMrⅢで、ビット『ブルーティアーズ』で織斑一夏を倒せはしない。
だからこそ太平洋戦争で不幸にも敵となったこの国、日本のようなKAMIKAZEの精神で踏み込むしかない。
セシリア・オルコットは大気中で減衰するレーザーを減衰しない距離。つまり、ゼロレンジアタックによる一斉射撃を選んだ。
まさにそれはブルーティアーズ最大の攻撃力だろう。
如何に織斑一夏が頑強であろうと一斉射撃なら?
あとはセシリアが中てるのみだ。


残り五メートル。
――今更、二十メートルまで接近したと報告してくるハイパーセンサーをオフに。

残り四メートル。
――今だけは一夏さんはわたくしだけを見てくださいますのね。
知ってますの?最初は山田先生にわたくし、嫉妬していましたの。

残り三メートル。織斑一夏は右の拳を振りかぶる。
――でも、気付きましたのよ、わたくし。
それでは、わたくしは貴方の事を見ていないと。
わたくしが見ているのは貴方ではなく、山田先生だって事を。

残り二メートル。いまだ二人が動き出してから〇・八秒。
――貴方は誉めてくれるのかしら?よく自分で気付いたなって。
それとも、始めから気付けと怒るのかしら?

残り一メートル。もはや、織斑一夏の剛拳はセシリアの視界を埋め、
――まだまだ貴方の事、わからない事ばかりですわ。
だから、これから理解し合いませんこと?

「さあ、踊りなさい。
わたくし、セシリア・オルコットとブルーティアーズの奏でる円舞曲で!」

セシリアはセシリア・オルコットの全てを織斑一夏へと解き放った。






























「見事なり、セシリア・オルコット。………――――だが、足りぬ」

「え!?え?箒さん、何がどうしたの?」

織斑一夏が撒き散らした砂煙はまるで煙幕のように、スタジアムの視界を遮っていた。
これでは何も見えないはずだ。
しかし、ファースト幼なじみ篠ノ之箒と織斑千冬。更には未だ合間みえぬ何人かの強敵達のみは見切っていた。

シールドにより密閉されているせいで砂煙は自然に治まるのを待つしか無い。
一分、二分と経ち、道理の解らぬ未熟者達が一向に動きの見えぬスタジアムに向け、ざわめき出した。

やがて、砂煙が薄まり、二人の姿が露わになっていく。

まるでダンスのラストのようだ。
そう誰かが言った。




絶対防御が発動し、身動きが取れずに横たわるセシリアを織斑一夏は右手で抱きかかえていた。
その左手には無骨な黒い鉄塊……いや、

「セシリア・オルコット。うぬは強かった。我にISを抜かせるとはな」

ただの鉄塊ではない。それは巨大な織斑一夏の拳を包む更に巨大なISの腕。
織斑一夏はISを部分展開し、セシリアの射撃を凌ぎきったのだ。

「わたくしの円舞曲……お気に召しまして?」

幼子が母の腕の中で安らぐような、蕾が花開く瞬間のような笑顔を浮かべ、セシリアは言った。

「ああ、我が女になれ。セシリア・オルコット」

花が、開いた。

「はい、お慕い申しております。旦那様」











「うわぁ、すごい!いいなぁ!ぶちゅーって!?ぶちゅーって!!ねぇねぇ、箒さん!箒さん!ねぇ!……あれ?」











名も無き少女を捨て置き、箒は独りきりで光指さぬスタジアムの通路を歩いていた。

「くっくっく……ふふ……………あーっはっはっは!」

箒のその顔に刻まれるは、明らかな凶笑。

「それでこそ……それでこそ私が追い求めていた織斑一夏だ!
私の一夏だ!
ああ……その当たり前の事がこんなにも嬉しい。
長かったぞ、お前と離ればなれだった日々は!
だが、まだだ……まだ、時が来ていない。
最高の舞台で、最高に愛し合おうぞ!
私とお前で!」

箒は迷い無き歩みで進んで行く。
暗い暗い道へと独り歩んで行く。



[26698] セシリア・オルコット6
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/25 19:01
クラス代表決定戦(だとセシリアは忘れていた)が終わったのだが、織斑一夏の拳はセシリアの絶対防御を抜いていた。

かの剣豪、宮本武蔵は髪の先についた米粒のみを切断したという。
宮本武蔵と勝るとも劣らない技量を持ち、望んだ物のみを破壊する織斑一夏ではあるが、一つ考えて欲しい。
宮本武蔵と言えども剣を抜いた佐々木小次郎の髪の先に着いている米粒のみを斬るという行為は可能だろうか。
すでにそれは技がどうこうではない夢想の領域。
シールドと絶対防御を抜く事は織斑一夏にとって容易い事だが、セシリアを無傷で倒す事には失敗した。
確かにセシリアは敗北し、内臓に刻みこまれた痛みはあるが、それはある種のセシリアが織斑一夏に勝利した証だ。
織斑一夏の手加減をセシリアは打ち砕いたのだから。
だからこそ代表決定戦から数日、絶対安静を言い渡されたセシリアが自由を手にした時、

「我が世の春が来たぁぁぁぁぁ!ですわっ!」

セシリアがつい叫んでしまっても仕方があるまい。
地に足が着かない思いはセシリアの足をスキップという形で動かし、セシリアを閉じ込めていた学園内にある病院を飛び出した。

余談ではあるが、怪我が多いIS学園では生徒のために骨折や小さな怪我。ガンの手術まで出来るような病院が併設されている。

鼻歌も高らかに麗らかな春の昼下がりを満面の笑みでスキップしながら去って行く。
そんなセシリアを見ながら、病院の看護士は呟いた。

「春だねぇ……」

看護士がどういう意味で言ったのか。それは誰にもわからない。



旦那様の下へ、このまま一直線!と考えたセシリアではあったが重大な問題に気付く。

「こんな格好では行けませんわ!?」

ルームメイトが持って来てくれた(セシリア的には)みすぼらしい服装で恋い焦がれた思い人の前に出れるはずがあるまい。
それに下着も上下で不揃いだ。
乙女として許せる事ではあるまい。

「こうしてはいられませんわぁぁぁぁ!」

ブルーティアーズを展開し、一路自分の部屋へと飛び立つ。
パンツルックなど持っていないセシリアはブルーティアーズを展開してしまうと、乙女の絶対領域が丸見えになってしまうが、そこは愛の前には小さな事でしかない。
ちなみに青である。



「こっちのわたくしの心のような純白と、ちょっと貴方のために背伸びをしましたわ!という黒……どっちがよろしいかしら?」

ここからは具体的な描写を止めさせて頂く事になる。
何故なら左右の手に白と黒の下着を握るセシリア。
女性が下着を着ける時、どうやって身に着けるだろうか?
誰だって服を脱ぐだろう。
君達の愛するセシリア・オルコットも服を脱いでから、下着を着けるのだ。

「うーん、白がいいんじゃないかなぁ?……というか私だって織斑様の事、好きなんだけど」

答えるのはセシリアの豪華な調度品に押されるようにして小さく暮らし、更には織斑一夏の後ろの席に座る名も無き少女。
何故、彼女がここにいるのか?ご都合主義だ。そう言うのであれば言うといい。このSSにはツッコミがいないのだから。

「……いえ、ここはピンクですわね!」

「あれ、やっぱり私の言葉って通じてない時、多いよね!?」





「さて……旦那様の所に向かいましょうか」

純白のサマードレスにはワンポイントでピンクのリボンが着いている。
普段は大人びたセシリアが可憐な少女のような装いをする事により、専門用語で言うと『ギャップ萌え』を狙っているのだ。
ここにセシリア×ギャップ=破壊力という公式が発見された。

同室の少女の情報では織斑一夏は寮の部屋にいる。
何故なら先触れとして、セシリアがパシらせたからだ。
今度、あの子に何かをおごってあげましょう。そう思い、セシリアはウキウキとした気分で織斑一夏の部屋をノックしようと――はしたない女と思われないかしら?

もし織斑一夏に嫌われたとなれば、もし織斑一夏に軽蔑されたとしたら?
セシリア・オルコットの魂は砕けてしまうのではないだろうか。

「あっ……」

それに気付いてしまえば、浮かれていた気分は消え去り、身体がバラバラになるような、足元の地面が砕けてしまうような。

「いやぁ……!」

それが初め、誰の声かわからなかった。
セシリア・オルコットがこんなにも情けない声を出すだなんて自分でもわからなかったのだ。
ただ僅かに考えただけでセシリアの瞳には涙が浮かぶ。

しかし、唐突にセシリアの迷いは断ち切られた。
扉が向こう側から開くと、そこには織斑一夏。
セシリアの二倍はありそうな長身には、その身を動かすためにこれでもかと言わんばかりに筋肉を搭載している。
セシリアを傷付けた拳は今は開かれていた。

手は拳を握り、人を傷付ける事が出来る。
手は少女の流す涙をそっと拭ってやる事が出来る。
手は愛しい女をその胸に抱き寄せる事も出来る。

「あ……旦那様……」

手は思いを互いに通じさせる行為のために服を脱がす事も出来るのだ。
部屋に連れ込まれ、ベッドに寝かされたセシリアは―――――























やあ (´・ω・`)

ようこそ、バーボンハウスへ。
このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。

うん、「無理」なんだ。済まない。XXX板に行く気はないんだ。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

でも、ここまで読んだとき、君は、きっと言葉では言い表せない 「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい、そう思って このSSを書いたんだ。

じゃあ、注文を聞こうか。



[26698] 鳳鈴音1
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/25 23:29
それからのセシリアはまるで親鴨の後ろを歩く小鴨だ。
織斑一夏の三歩後ろをしずしずと歩くセシリアはとても幸せそうな表情で常に微笑んでいる。
そのままふわふわと空でも飛びそうな気持ちのセシリアは幸せいっぱい夢いっぱい。
今の幸せが続くのであればセシリアは悪魔に魂を売り払うくらいの覚悟はある。
この幸せを壊す相手がいれば全力で迎撃するだろう。





「お、織斑様、おはようございます!」

朝、椅子に巨体をはみ出させながら席に着く織斑一夏にクラスに入って来る少女達は決しておざなりではない真摯な敬意を込めて頭を下げ、挨拶をして行く。
それも一人ずつ列を作ってだ。

「うむ」

対する織斑一夏も一言だけではあるが、しっかりと相手を見ながら応える。

「おはようございます……!」

次に挨拶をする生徒は顔を真っ赤にし、勢いよく頭を下げる。
これは彼女のいつもと変わらぬ癖のような物であり、

「保健委員!」
「はっ!お側に」

織斑一夏、裂帛の怒号が窓ガラスを震わせる。
その震えが消えぬうちに織斑一夏の横にIS学園の制服を纏う保険委員と呼ばれし少女が膝を付き、いつでも主より命を受けられる体勢で現れた。

「こやつを保健室へと連れてゆけい!」
「はっ、我が命は織斑様のために!」

ISもかくやと言わんばかりの速度で顔を赤くする少女を連れ去る。
例え表面上、何ともないように見えたとしても織斑一夏の眼から全ての病魔は逃げられぬのだ。



「そう言えば知ってます?今日、二組に転校生が来るらしいですよ」
「そうですの。おかしな時期に来ますわね」

すでに日常となったそんな光景を気にする事なく、織斑一夏の後ろの席に座るセシリアとその席本来の持ち主の少女が立ちながら噂話をしていた。
座席を交換したわけではないが休み時間などは常にこの状態だ。
何かおかしい気がするが、本人達は全く気にしていない。

「なんでも中国の代表候補生らしいよ」
「あら、今更ながら、このイギリス代表候補生セシリア・オルコットを危ぶんでの転向かしら?
愛を知り、夢想転生に目覚めた私は無敵でしてよ!」
「多分、セシリアさんには悲しみが足りないと思う」

「そんな事は同じく愛を知る私がいる以上、条件は同じよ!」

すぱーん!と快音を立てて教室の扉を開けて現れたのは――――

揺れるツインテールにスレンダーなボディ。
小さな胸の前で腕を組み、不敵に笑う少女がいた。

「中国代表候補生、鳳鈴音!今日はあんたに宣戦布告にやって来たわ!」

鈴音はずばっ!と音を立てそうな勢いでセシリアを指差した。

「鈴ではないか。見違えたぞ」

颯爽と現れた鈴ではあったが、織斑一夏に声をかけられた瞬間、

「一夏ぁぁぁぁー!」

まるで猫にマタタビ、猫まっしぐら。
覇王は如何なる時も動じない。
何ら慌てる事なく、飛び付いて来る鈴を抱き留める。

「久しぶりぃ!会いたかったよ!」
「うむ、久しいな」

まさに飼い主が帰って来た犬の如し。
鈴は身体全身で織斑一夏の愛を受け取ろうとしていた。

そして、破滅の音が鳴り響く。











「セ、セシリアさん?机にヒビが入ってるんだけど」

それはいかほどの力が籠められているのか?

技術者達が象が机の上でタップダンスを踊っても壊れない事を目標として、作り上げられた机のど真ん中から深い亀裂が走っている。
その光景を生み出しているのは、セシリア・オルコット。
二つの繊手に籠められた力は頑丈堅牢を絵に描いたかのような机の亀裂を広げてゆく。
――そして、崩壊(カタストロフ)

「私の席がぁぁぁぁぁぁ!?」

アイデンティティを突如、奪われ悲嘆に暮れる少女の涙を無視し、いきなり現れた怨敵にセシリアは立ち上がり、指を突きつけ叫んだ。

「あ、あ、あなた一体、何者ですの!?旦那様に馴れ馴れしいですわ!」
「ん、久しぶりの一夏でアンタの事を忘れてたわ。
そうね……アンタにはこう言った方がわかりやすいかしら?
私は一夏の『第一婦人』よ!」

セシリアに突きつけ返すかのように指を指す鈴。

「なん……ですって……!」
「ふふん。でも、いきなり私が第一婦人って言っても納得出来ないでしょ?
だから、アンタに宣戦布告をしに来たのよ!」

言葉の内容もそうだが、織斑一夏に身体を預けながら話す鳳鈴音がセシリア・オルコットには我慢がならない。

――――まだ、わたくしだって一回しかしてもらっていませんのよ!?

「いいでしょう。このセシリア・オルコット。逃げも隠れもしませんわ!!……そして」
「勝った方が一夏の第一婦人よ!」
「いいでしょう。では次のクラス対抗戦で勝負ですわ!」
「ぎったんぎったんにして、その縦ロールをアフロにしてあげるわ。せいぜい丁寧にセットしてくるのね」
「けちょんけちょんにして、その薄い胸をえぐってあげましてよ!」

二人の背後には肉眼で観測出来る虎と龍が飛び交っている。
不思議な事ではない。気と気がぶつかり合い、形作っているだけなのだから。

「あ、あのー……クラス対抗戦は代表が織斑様だからセシリアさん出れないんじゃ?」

龍虎の間に名も無き少女が口を挟む。

「はぁ?一夏出たら優勝決まっちゃうじゃない」

鈴音は心底、呆れたように。

「そうですわ。旦那様はこんな低俗な試合に出ませんわよ?」

セシリアは今にも溜め息をつきそうな。

敵対していたはずの二人のコンビネーションに少女は撃沈。

「え、そういう物なの!?」
「当たり前じゃない」
「当たり前ですわよ」










「織斑様、件の者は軽い風邪でした。命に別状はないようです」
「よくやった。保健委員」

そんな争いを気にする事なく、織斑一夏は報告を受けていた。

「それでは失礼します……我が命は織斑様のために!」

そう言うと保健委員は最初からそこにいなかったかのように瞬時にいずこかへと飛び去った。
その顔にうっすらと張り付いていた織斑一夏に誉められた喜びは本人と織斑一夏しか知らぬ事だった。



[26698] 鳳鈴音2
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/25 23:30
私こと鳳鈴音が織斑一夏と出会ったのは、小学生五年生の時だった。

中国から転校して来て、始めは不安だったけど一ヶ月くらいでやっとクラスに馴染んで来た頃、私は初めて一夏を見たんだ。
まるで丸太みたいなムキムキの足を無理矢理、半ズボンに押し込めて、大胸筋の形が浮き出るくらいピチピチのTシャツを着ていた。
一夏のランドセルが凄く小さく見えたのをよく覚えている。
あとで聞いた話だけど、もう身長二メートルを超えていたらしい。
私にあと十センチ寄越せって感じよね。
私と一夏が一緒に歩くと本当に大変なのよ!
あ、でも一夏ってちゃんと歩くスピード合わせてくれるんだよ。
あはは、見た目によらないかな?

それでね、初めて見た時は話しかけるよりも怖くて泣いて逃げちゃった。
えへへ、一夏より優しい人なんていないのにね。

でね、次に一夏に会ったのはうちの店に……あ、私の家は中華飯店やっててね。
いきなり一夏みたいにおっきな人が来たもんだから、お父さんびっくりしちゃって。

「だ、旦那!うちには金なんざありませんぜ!」
「酢豚」
「は?」
「酢豚を注文しておるのだ!」
「ひ、ひぇーい!」

あの時のお父さんは返事してるのか、悲鳴だったのかわかんなくて今、思い出すと可笑しかったな。
でも、その時の私はお父さんがいじめられてると思って、

「お父さんをいじめないで!」

って一夏に食ってかかっちゃったのよ。
そしたら、お父さんが厨房から転がり出て来て、

「な、何卒、娘のご無礼をお許しくだせえー!」

とか土下座しちゃって、びっくりしたわ。
でも、そんな私の態度を許してくれた。

「娘が父の心配をし、父が娘の心配をする。
そのような親子を咎める小さな器。この織斑一夏、持ち合わせておらぬ。
店主よ、安心して調理に励むがいい」

一夏は優しく言ってくれて、

「娘よ。勇気を出して、よくぞ父を守ったな」

私に笑いかけてくれたんだ。
一夏の事、大好きな理由は色々あるけど……これが一夏を好きになった瞬間だったのかな?
でも、それが恋だったってまだわかんなかったから、胸のドキドキして頭ぐるぐるして、何も言えなかった。
ただお父さんが酢豚を持って来るまで、ぽやーってそこに立ってただけだったね。

「だ、旦那……酢豚、お待たせしやした」

酢豚を持って来たお父さん……うん、顔を真っ青にして死にそうな顔してた。
普通の三倍くらい山盛りにした酢豚を持って来たけど、一夏の前に置くと小さく見えたわね。
人差し指より小さなレンゲで酢豚を掬って食べる一夏が、ちょっと可愛く思えた。

「…………………………………」

一掬い、また一掬い。
レンゲいっぱいの酢豚を一口で一夏はぱくぱく食べていった。
最後の一口を食べると一夏は、

「店主よ」
「ひ、ひゃい!?」

真っ青だったお父さんが今度は真っ赤に、

「いい酢豚だった。これからも精進せよ」

一夏にそう言われたお父さんは、

「旦那……!ありがとうごぜえやす!」

また土下座しちゃってた。
一夏が帰ってもそのままで、

「ありがてえ……ありがてえ……俺は……俺は旦那に認めてもらった……!」

泣きながら言ってた。
中国から日本に移り住んで、本当はお母さん凄く嫌だったみたい。
でも、一夏がうちの店に来てからはお父さん人が変わったように頑張り始めてね。お母さんもお父さんのために頑張ろうって思ったみたいで凄く仲良くなって行ったんだ。
それから一夏は週に一回くらいずつ来てくれるようになって、お客さんもたくさん入るようになったの。

たまに考えるんだけど……もし、一夏に出会えなかったら……ひょっとしたら今頃、うちの両親はダメになってたかもしれない。
あ、でも今、うちの両親、離婚してるんだけどね。
中二の頃さ。お父さんが私とお母さんに言うのよ。

「すまねえ。俺は……俺は旦那にもっと認められてえんだ!
一年だ!一年だけ、お前らの事を忘れて、修行させてくれ!」
「あんたがそう思ってる事……わかってたよ。もう荷物は纏めてある。私達は中国で迎えに来てくれるのを待ってるよ」

いや、うん……いい話なんだけどさー。その時、もう一夏の第一婦人になってたから一夏と離れたくなかったから、大喧嘩しちゃって。
でも、最終的に無理矢理、飛行機に乗せられて今に至る訳ね。

え、どうして一夏の第一婦人になったのかって?
えへへ、それは秘密だねー。
私と一夏との大事な思い出だからね。



















「……………鳳さん、一方的に話して帰って行った」

夕飯時、いつもの織斑一夏の後ろの席の少女の横に座った鈴が一方的にまくし立てる事、一時間。
少女の目の前にある塩サバ定食は水分を失い、からからになっている。

「うう……私も幸せになりたいよぅ……」

幸せいっぱいな鈴の表情を思い出し、少女は独り冷えた味噌汁を啜るのだった。



[26698] 鳳鈴音3
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/25 23:32
「と、いうわけで部屋を変わって」

寮の部屋、時刻は八時過ぎ。帝王が夕食を食べたからと言って怠惰に浸るはずもない。
織斑一夏は現在、兵を連れ領土(寮)の視察に赴いている。
そんな時、鳳鈴音が篠ノ之箒へと挑戦状を叩きつけに来たのだ。

「ほう、なぜ私がそのような事をしなければならない?」

形としては鈴音が奇襲をかけた事となるだろう。
だが、箒とて夜討ち朝駆けは当たり前の世界で生きる猛者。当方、常に迎撃の用意あり。
鈴音の幼稚な挑戦など薄ら笑いで斬って捨てる。

――――ぐにゃり。

と、二人の間の空気が歪んだ。
物理的な力を孕んだ二人の気により、大気が逃げ場を失い、慌てふためいているのだ。

「いやぁ、篠ノ之さんも男と同室なんてイヤでしょ?
気を遣うし。のんびりできないし。
その辺、あたしは『第一婦人』だから代わってあげようかなって思ってさ」

わざわざ第一婦人を強調したが鈴音はすでに作戦の失敗を悟っている。
電撃戦による強襲突破を狙った鈴音の目論見は無敵要塞箒の鉄壁の布陣の前に停滞を余儀無くされたのだ。

――――甘く見てた。こいつ千冬姉さん並みね。

鈴音は篠ノ之箒を仮想敵からセシリア・オルコット以上の恐るべき敵へと評価を上げる。

「ふっ、『第一婦人』か。安心せよ、私はそんな物には興味はない」

箒のあまりの言葉に鈴音のイタリア軍並みの忍耐力は瞬時に激発。

「(私の存在意義をそんなもので
















――――しゃらん、と音がした。

いつ取り出したのか箒の手には抜き身の刀が握られている。
もし、鈴音が自らの直感を信じず、感情に任せて飛びかかっていたとしたら、ISを展開していたとしても上半身と下半身が望まぬ別れを強いられていただろう。

「ふっ、かわしたか」

人を斬り殺しかけたというのに箒には毛一筋ほどの動揺も見せぬ。
そして、それほどの技の冴え。
それほどの刀。

箒の刀は間違っても名刀と呼ばれるような代物ではない。
鍛えられた鈴音の眼は気を視覚化する。

「(な、なんなのよ、あれ!?)」

おぞましき怨念が渦巻いている。
刀匠の才能が欠片も無き人でなしが作り、人としての尊厳を唐突に断ち切られた無念。そして、狂った遣い手。
その呪われたトリニティを創り上げた時、この刀は生まれた。
鈴音が知らぬ事ではあるが、その刀はこう呼ばれている。

『贋作・之定』

かの名刀匠、和泉守兼定の二代目は二代兼定は「定」の字をウ冠の下に「之」を書く独特の書体で切ることが多いことから、「之定」と通称される。
そして、『贋作・之定』はその数ある贋作の中でも下の下であった。
しかし、とち狂った人斬りがその刀を握った時、一本の刀は生誕した。
九十九の人命を生贄とし、最終的に追い詰められた人斬りは自らの命を刀に捧げた。
人の肉と骨により研がれた――――人に仇なす事以外、何の役にも立たぬ妖刀。それが『贋作・之定』
どれほどの永きに渡り封印されてきたのか。
しかし、この時代、再び『贋作・之定』は妖刀に相応しき、おぞましき人斬りの手に握られる事となった。
その名を篠ノ之箒。織斑一夏を愛する女である。

まずい、と鈴音は思った。
宣戦布告をしに来たと思ったら、相手はすでに戦争を始めていたのだ。
整わぬ心身では鈴音ほどの名人とて、その実力を発揮する事は叶わぬ。
技は剣聖に追随する鈴音ではあるが、心は未だ十五の小娘である。
突然の修羅場に手足が縮こまり、子宮が収縮する。
命の危険にせめて次世代の子を産む器官だけは守ろうと無為な努力をしているのだ。
これは男女問わぬ生物の性。

隙を探そうと鈴音は箒の目を見た。
視線から相手の動きを読むのは基本中の基本である。
しかし、直後に後悔する事となる。
そこには織斑一夏への愛しか無かった。

愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。
更にそこへ愛を注ぎ、どろどろに煮詰め、純粋な愛の結晶を取り出す。



それをどれだけ繰り返せば、今の篠ノ之箒に辿り着くというのか。
完全なまでに純化した愛は原型を留めぬおどろおどろしい何かへと変貌を遂げている。

つまり、言葉を変えれば鈴音など見ていない。
先程の剣も殺意を持って振った訳ではない。
ただその身が動くがままに剣を振る。これつまり剣の極致。
愛を突き詰める事により、篠ノ之箒は古の上泉信綱や柳生宗厳らの剣聖が辿った道とは違う所から剣の頂へと届いたのだ。
何という一念か。それはすでに愛に似た何かだ。



「……ふん、興が失せたわ」

唐突に箒は刀を納めた。
何故、と問うより早く箒の圧迫感が消えたおかげで鈴音も気付く。
織斑一夏だ。
王の帰還だ。
あと少しで織斑一夏の介入を招く事になってしまう。
それは互いに面白くない事だ。

「……………アンタは一夏の側に必要ないわ」

当たり前だ。
誰がかような猛毒を大事な存在と一緒にしておきたいというのか。

「下らぬ。私が一夏を必要なのだ」

そう言い放った箒の目は真っ黒に濁っていた。



鈴音はこれ以上の言葉を作れなかった。
これ以上、問答した所で篠ノ之箒の愛を砕けるとは思わなかったからだ。

――――だけど、私が、第一婦人の私がコイツをいつか必ず倒す。

鳳鈴音は篠ノ之箒に背を向けた。

狂犬の前に首を差し出すような所行ではあるが、平静な心を取り戻した鳳鈴音の背に打ち込める隙を篠ノ之箒は見いだせなかった。



[26698] 鳳鈴音4
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/25 23:36
「箒さん!箒さん!今日はクラス対抗戦のセシリアさん対鳳鈴音さんの試合だけど、どうなるのかな!」

わかりやすい説明台詞を話すのは毎度、お馴染みの名も無き少女である。
そろそろ場合によってはリストラの憂き目に合う以上、ここで頑張らなければならないのだ。
開始五分前に解説を入れ、視聴者にわかりやすく見てもらうという事は大事な仕事。

「ふむ、両者のISを比較すればセシリアのブルーティアーズ軍配が上がるだろう」

そう断言するのは篠ノ之箒。
国家機密であるはずの各国の専用機情報はすでに全て知っている。

「え、でも鈴音さんの甲龍もブルーティアーズと同じ第三世代なんだよね?
性能的には互角じゃないの?」
「甲龍は燃費の向上に重点を置き、継戦能力の獲得を目的とした機体だ。一対一を目的としていないとは言え、まともにやり合えばブルーティアーズの勝利だろう」
「で、でも、甲龍の肩にある非固定浮遊部位とか棘が付いてて痛そうだよ!」

箒はため息を一つ。
物分かりが悪い生徒を諭す教師のように話した。

「あれは実際に殴るものではない。空間自体に圧力をかけて、砲身を生成し生じる衝撃を打ち出す衝撃砲だ。
ただ銃弾が見えないだけで大した代物ではない」

私なら相手の視線から生身でもかわせる、と言葉を切った箒に、

「(それはもう人類じゃないんじゃないかなあ?)」

と思う少女だった。
だが戦場で生き残るのは常に臆病者だ。
それを言葉に出す事により生じる生命の危機をわざわざ得ようとは思わなかった。

「じゃあ、セシリアさんのブルーティアーズの勝ちで決まりかな?」
「いや、それはわからん」
「え、でも」
「あくまでブルーティアーズと甲龍のISとしての性能を比較しただけだ。
鳳鈴音が……甲龍の特性を生かせば、面白い事になるぞ」
「え、面白い事って?」
「ふっ、それは見てのお楽しみだ。
見よ、そろそろ試合が始まるぞ」




偏向射撃という概念がある。
単純に言えば、相手が避ける先に弾丸を送るという高等技術だ。
だが、神箭セシリア・オルコットにとっては児戯に等しい当たり前に使う技術だ。
その証拠にセシリアの弾丸は鳳鈴音を外さない。
だが、スターライトMkⅢの弾丸もビット・ブルーティアーズの弾丸も一発たりとも鳳鈴音を捉える事は適わぬ。










試合開始の瞬間、同一部位同時射撃――通称ジャックポットを狙うセシリア。
一発目が着弾し、シールドが薄くなった瞬間に二発目を当てる事により、シールドを抜くという魔技である。
セシリアが放ったスターライトMkⅢとブルーティアーズの二発の弾丸は狙いを過たなかった。
非固定浮遊部位を破壊し、IS自体にダメージを与え、試合を終わらせてしまおう事を目的としていた。
だが、

「甘いのよ!」

甲龍の衝撃砲には三つの特徴がある。

一つは見えない事。
これは殺気の射線が見えぬ者にとっては、どれほどのアドバンテージになるかは説明する必要があるまい。

二つ目に燃費がいい事。
角度を変えて撃ったブルーティアーズの弾丸を左右二門の衝撃砲が迎え撃つ。
さすがに鳳鈴音の技量ではセシリア・オルコットのように高速で飛来する弾丸を確実には打ち抜けぬ。
だが、来るとわかっていれば、そこの空間に衝撃砲を撃ち込み相殺する事は容易い。
ブルーティアーズ一発に対し、射撃砲一.五発というエネルギー消費量となる。

三つ目に死角がない事。
ほぼ上下左右三六〇度を完璧にカバーする射角は天空へと放たれ、頭上から撃ち下ろされたブルーティアーズの弾丸すら迎撃。
手動で操作される衝撃砲。つまり、鳳鈴音に死角はない。

「なら、これでどうですの!」

だが、衝撃砲の連射速度には限界がある。
その隙間を縫って放たれるスターライトMrⅢの弾丸は衝撃砲の弾幕を抜ける。


「甘いよ」

しかし、衝撃砲を操るのは鳳鈴音。
その鳳鈴音が衝撃砲より劣るはずがない。

鈴音が手にするは異形の青龍刀。両端についたその刃をバトンでも扱うかの如く、ほんの少しだけ回転させた。

まさに最低限の動き。
しかし、そこに絡め捉れた弾丸は明後日の方向へと飛んで行く。



「あれはまわし受け……!」

観客席から箒が叫ぶ。

「箒さん、知ってるの!?」

「ああ……空手などで極めれば究極とも呼ばれる受け技だ。
その回転運動に触れた物は矢でも鉄砲でも火炎放射機でも弾き飛ばす。
しかも、あのわずかな動き……エネルギーだけではなく、体力も温存しての完全な持久戦の構えか」



エネルギー収支で言えば、完全に鳳鈴音が勝っている。

「あんまりですのよ!」

セシリアの叫びは正当な物だろう。全ての弾丸をあっさりと弾かれてしまえば、銃使いに勝ち目はない。
とは言え、セシリアの心は平穏そのものだ。
激発しやすい己の心がざわめき出す前に叫ぶ事により焦燥を追い出す事を目的とし、あえて弱い自分をさらけ出す一流のコンセントレーションスキル。
全てを防ぐイージスの盾を持つ鳳鈴音に神箭セシリア・オルコットは如何にして挑むのか?

答えは単純にして明快。

―――中る距離まで近付きますわ!

一連の流れはアリーナの両端で行われた物。
この距離ではビット二本とスターライトMrⅢの三射でしか必中を望めぬ。
だが、二〇〇メートルが一〇〇メートルなら?
それが〇メートルなら?

セシリアはゆっくりと前に出る。
攻守は交代し、鳳鈴音の衝撃砲が嫌がらせのように撒き散らされる。
それはまさに嫌がらせ以上の意味を持ってはいなかった。
スターライトMkⅢを下ろし、踊るような華麗な回避。そして、どうしても当たる衝撃砲はビット『ブルーティアーズ』一門のみで十を超える見えない弾丸を的確に相殺して行く。

「くっ、やるじゃない。セシリア・オルコット!
それでこそ一夏の第二婦人に相応しいわ!」
「そちらもなかなかのものでしてよ、鳳鈴音!
それでこそ旦那様の妾に相応しくてよ!」

そう叫びながら、二人の距離は一〇〇メートルを切る。
さしものセシリアでも衝撃砲の乱舞を凌ぐのに、ブルーティアーズ二門を必要とし始める。
エネルギー収支だけを見れば、完全にセシリアの負けだろう。
だが、

「あなたに近付くまでにビット六発、スターライトMkⅢ一発撃てるエネルギーが残れば十分にお釣りが来ますわ」

如何にエネルギー差があっても同一部位同時射撃を決めれば装甲を穿ち、絶対防御が発動する。
セシリアの勝ち。

「ふん、あんたじゃ私に届かない事、教えてあげる」

そう言うと鈴音はぴたりと無駄な衝撃砲の乱射をやめた。
持久戦も立派な策だろう。
しかし、それでは真の意味では勝った事にならぬ。
どちらが真に織斑一夏に相応しき雌か。相手を屈服させねばいけない。

いっそ無造作に、と言ってもいいくらいに互いの距離が詰められる。
――八〇。

――七〇。

――六〇。

――五〇。

――四〇。

――三〇。



セシリア・オルコットは下ろしていたスターライトMkⅢの銃口を鈴音に向けた。



鳳鈴音はここに来て、異形の青龍刀を捨てた。










「遮断シールドが破られました!!」

天空より堕ちるレーザーがアリーナを包む遮断シールドを破壊すると同時に山田真耶の叫びが管制室に木霊する。
そして、セシリアと鈴音の間に現れたのは無粋な乱入者。

「何事だ!」

だが、叫ぶ千冬の目には何故だか、その巨大な機体がひどく悲しき物に見えた。



[26698] 鳳鈴音5
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/25 23:43
セシリアと鈴音の間に降り立ったのは黒にすら見える深い灰色。
IS、と呼ぶのには素直に頷きにくいだろう。
人の肌が見えぬ異形の完全装甲(フルスキン)。
長い腕は直立しているはずだというのに地面に着きそうである。
よくと見てみれば左右の腕にビーム砲門が左右に四門。
この腕より放たれたレーザーがアリーナの遮断シールドを撃ち抜いたのだろう。
頭部に不規則に設置されたセンサーはより、異形という印象を強くする。
身体各部に備え付けられたスラスターは姿勢制御のためか。
無粋な乱入者はまるで睥睨するかの如く、センサーを不気味に光らせる。
もし、この場に覚悟なき者があればその魂無き眼光のみで腰を抜かしてもおかしくあるまい。
それほどの禍々しき気を放っている。

だが、ここ立つは少女とは言え、すでに武人二人。
愛を知る彼女達を後退させるには全く足りぬ。

「うざったいですわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

セシリアは全砲門を解放。
叩きつけられた荒ぶるエネルギーを全て一カ所へ。
ただ漠然と撃つよりも同時に発射される事により数倍に増幅された恐るべし力は如何なる分厚い装甲すら穿つ。

「私の前に立つなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

青龍刀を捨てた鈴音は足指、足首、膝、腰、肩、肘、手首。
全ての関節を連動させる。

―――結果、拳は音速を超える。

名付けて、マッハ突き。
ISの補助が無ければ、あまりの反動に鈴の腕の筋肉が弾け飛ぶ荒技である。



















そして、戦場(いくさば)に立つ二人の乙女よりなお強き怒りが無粋な乱入者へと宇宙(そら)から降り注ぐ。
それは隕石だろうか?

―――否、大気圏で焼けぬ隕石が在ろうか?

それはミサイルだろうか?

―――否、ミサイルに怒りはない。

大気との摩擦により、その身を赤熱させるが帝王を焼くに能わず。
何故ならそんな生温き熱よりも熱く燃え盛る紅蓮の怒りを秘めているのだから。

宇宙(そら)より落下する者の名を織斑一夏と言う。

「戦いを汚す者よ、去れい!」

張り直された遮断シールドを即破壊した織斑一夏は一分の狂いも無く乱入者へと着弾する。










乱入者が現れた時よりも視界を覆い尽くす砂煙。

「ほほほ箒さん!?……ひぃっ!?」

仮面に深い亀裂を走らせたかのような邪悪な笑み。
魔人篠ノ之箒、会心の笑みである。

「ふはははははは!
まさか衛星軌道上からの自由落下とはな!
それでこそ織斑一夏だ!
だが………行くぞ!」

「え、どこに?どうして?」

後にすぐわかるであろう事を箒は説明する必要を認めなかった。
いきなり背を向けた箒の後を慌てて追う少女の目には何故か箒の頬が赤く染まっているのがうつった。





二人が去った後、わずかに砂煙が治まる。
何が起きたか理解していない観客席の少女達の目に飛び込んで来たのは、織斑一夏が雄々しく立つ姿。
肩へ幾重にも折り重なる分厚い筋肉は、織斑一夏の身を害する事の困難さを見る者に悟らせるだろう。

さすが織斑様よ、我々には真似出来ぬ。

あちこちでそのように膝を打つ音が響く。

―――そして、破れた遮断シールドより一陣の突風。

そこに立つのは織斑一夏。
大気圏突入による被害は当然、無い。
象のように太き腿ではあるが、象のように弛んだ様子は一切、見えぬ。
頑丈な骨を包む筋肉はまさにマッスル。
その足は地球の重力を悠々と振り切る。



――――だが、さすがに制服、下着まではその限りではない。
そして、その場にいる少女達の心は一つになった。

「「「「「「「「「「きゃぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」」」」」」」」」」

だが、少女達の悲鳴を気にするでもなく、織斑一夏は雄々しく立ち、雄々しく勃っていた。




















「あれは通常時ですわね」

セシリアはまじまじと見つめていた。

「そうね」

と同じくまじまじと見つめる鈴音。
それだけを言うと織斑一夏に乱入者と一緒に吹き飛ばされた二人はがくりと気を失った。



[26698] 第一婦人騒動―――その顛末
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/25 23:49
『恐らく無人機であろう機体』が乱入した事により、クラス対抗戦は終了する事となった。
『恐らく』というのは、織斑一夏が徹底的に、粉々に、完膚無きまでに破壊したせいでISならば必ず存在しているはずのコアが見つからなかったせいだ。
あれだけの高出力のレーザーを放てるのだから多分、IS……なんじゃないかなあ?というレベルの扱いで無人機だと言われているのも有人であればミンチになった死体が見つかるはずだろう、という事だ。
スタジアムは織斑一夏の衝撃により巨大なクレーターが生まれ、更に摩擦熱によりスタジアムの六割が硝子化した事により、復旧には一週間ほどはかかる見通しとなっている。
もし、遮断シールドがなければどれだけの被害が出ていたかわかるまい。

結局、あの事件は全くの謎のまま終了する事となった。
一応、現場を破壊し尽くした織斑一夏に対して捜査の手が延びたが、静かに怒り狂う織斑一夏の闘気により、尋問を担当する捜査官が一夜にして白髪になり、出家して僧になると書いた辞表を提出し、これも終了した。
それまではエリート中のエリートで傲岸不遜を絵に描いたような捜査官がそのような有り様になれば誰だって嫌だろう。
同僚達は彼の第二の人生を応援した。

だが、それでは収まりがつかないのが二人。

「決着つけますわよ」

セシリア・オルコットと、

「第一婦人として、後宮の序列は正さないとね」

鳳鈴音である。

彼女達は事件時、絶対防御が発動する事により無傷で済んだ。
ISも小破で済んだとは言え、現在の時刻は午前一時。
場所は事件現場のスタジアム。
そのような所で私闘にISを使えば、ややこしい事になるという分別がまだ二人には残っていた。

「な、なんで私が連れて来られてるのかなぁ?」

二人から少し離れた所に寝巻き代わりのジャージ姿の名も無き少女。
寝ていたら、突然セシリアに叩き起こされ、スタジアムに連行されたのだ。

「決まってるじゃない。私がこの高慢ちきな縦ロールをぼこぼこにする所を見物するためよ」

鳳鈴音の勝負服は真っ赤なチャイナドレス。
スレンダーなスタイルに誂えたかのような一品は対織斑一夏用の勝負服でもある。
少しでも動けば乙女の絶対領域がちらちらと見えるような裾の短さ。
相手に髪を掴まれるのを防ぐためなツインテールはシニョンにまとめられている。
清く正しい中華スタイルだ。

「決闘には立会人が必要でしてよ。そこの貧乳を、このセシリア・オルコットがぎったんぎったんにする所をじっくりとご覧なさい」

セシリアの勝負服は所謂、乗馬服。
白いキュロットはセシリアの足と尻のラインをはっきりと浮き上がらせる。
お嬢様然としたセシリアが馬用の鞭を持ち、見下すようにして鈴音を睥睨する様は、その筋の紳士達には堪らないものがあるのではないだろうか?
なお、ベッドではセシリアは完全に逆である事を付け加えたい。

「ええー……凄い帰りたいんだけど……」

少女は大きくも小さくも特にコメントしにくい胸がジャージに隠れている。全体的に何とも言いにくい。
ネームの部分はかすれていて読めない。恐らく中学時代から使っている一品だろう。

「何を言ってますの?わたくし達、友人でしょう?………えーと、……さん」

「そうよ、あんたと私は友達じゃない………………名前なんて言うんだっけ?」

「え、二人ともひどい!?鳳さん、私と始めて話したよね!セシリアさん、私と同室なのに!
私の名前は「そんな事より」えー……」

セシリアと鈴音、二人の間に乾いた風が吹く。
まるでこれから起こる死闘を少しでも、回避しようと天に住まう存在が逃げ出したかのように。

「私の太極拳、受けてみなさい」

左手を前に、右手を後ろに高々と上げ、異様なまでに腰を沈めたその姿はまさに虎。
現在、太極拳はゆったりとした健康体操として一般には扱われているが、その実は違う。
そのあまりの力に恐れを抱いた共産党が年寄りの体操として扱う事により、若者の太極拳離れを狙った策なのだ。
一人の太極拳士が百人の完全武装の兵隊に匹敵するのは裏の世界では常識と言ってもいいだろう。
鳳鈴音の拳は、真の太極拳とは大爆発。
全てを破壊する剄はまさにビッグバン。

「わたくしのバリツ、甘くはなくってよ?」

名探偵シャーロック・ホームズ。
フィクションの中の存在だと思われているだろうが実は違う。
名は確かに違うが、彼の話は全てコナン・ドイルが実在する探偵をモデルとして描かれたのだ。
その探偵が明晰な頭脳で日本の柔術をベースとし、世界各地の武術を集めた総合格闘技。それがバリツ。
バリツは無手の技のみに非ず。
バリツの達人が扱う鞭は視界に捉える事は不可能だ。
織斑一夏がセシリアとは違うバリツの遣い手と戦った時にこう言っている。

「我が覇道に立ちはだかるはバリツかもしれぬ……!」

バリツとは、それほどの恐ろしき流派なのである。

「…………ごくり」

名も無き少女は特に武芸の心得を持たぬ。
シャレでIS学園に願書を送ったら、なんとなく合格したのだ。

そして、今宵、その場に現れる最後の一人。

「あらあら、あの方の第一婦人を決めるのに私を呼んでくれないなんて悲しいですねー」

教師、山田真耶。
雲一つ無い夜空より、降り注ぐ月光がその眼鏡を輝かせる。
だが、セシリアと鈴音は気付いた。
その目は猛禽。
笑顔に似た何かで細められた目は鷹のように二人の隙を油断なく探っているのだと。
普段のぽやぽやとした雰囲気とは似ても似つかぬ空気はまさに日本刀の切れ味。
触れれば切れ、背を向けて逃げる事も不可能。
ならばとばかりに、セシリアと鈴音はアイコンタクト。
まずは強敵を排除し、その後に二人で決着を―――――――










名もなき少女は語った。

「ええ、あそこにいたのは……鬼でした。
まず、セシリアさんの放った鞭です。
知ってます?鞭って先端は音速を超えるらしいですね。
それを人差し指と中指でキャッチしちゃいまして。
あはは、飛んでる紙飛行機でも掴んだみたいに簡単にですよ。笑うしかないですよね。
で、次に鳳さんが突っ込んで行ったんですよ。
私にはよく見えなかったんですけど……その後はよくわかりました。
知ってます?人間て殴られて縦に回転するんですよ。
あれは五回くらいは回転してたかなぁ?
鞭を掴まれたセシリアさんも無理しないで、鞭を離せばよかったんでしょうけど、やっぱり動揺してたんでしょうね。
山田先生に鞭を引っ張られて近付いたと思ったら、また縦に五回転してました……
えっと、私それを見て怖くて……本当に怖くて!!
だから、お漏らししちゃったのは仕方ないんですよ!」














「鳳鈴音さん……」

「鈴でいいわ、セシリア・オルコット……」

「わたくしもセシリアでよくってよ、鈴。あの方を倒すまで休戦いたしませんこと……?」

「私もそう言おうと思ってたわ、セシリア……」

二人は倒れ伏しながら、奇妙な一体感を味わっていた。
強くならなければいけない。そう決意しながら。

今宵の勝者はただ独り。
山田真耶。
現役時代は『狂犬』と呼ばれたその技の冴え。未だ死せず。
『狂犬』未だ死せず。



[26698] 織斑千冬1
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/26 00:03
学園の地下五十メートル。そこにはレベル4権限を持つ関係者しか入れない、隠された空間だった。
粉々に砕かれ、木っ端微塵となったISらしき物は、すぐさまそこへと運びこまれ、解析が開始された。

二時間、千冬は何度もアリーナでの―――落ちて来た織斑一夏により、即座に破壊されたせいでどちらかと言えばスクラップ工場の作業現場―――戦闘映像を繰り返し、見ていた。
かつて世界最高位の座にあった伝説の操縦者。その現役時代を思わせる鋭い瞳は、ただただ映像を見つめ続けていた。

「……………………………」

薄暗い部屋でディスプレイのみが千冬の顔を照らす。
その顔は、

「一夏可愛いよ一夏」

ひどくにやけていた。
恐らく本人は隠し切っているつもりだろうが、常はキリッとした口元は残念な感じに引きつっている。
冷ややかな声音の中にも、千冬の隠しきれぬ甘やかさが混じり合っている。

繰り返し映像を見ているのも、恐らくISだと思われる物に意識を向けているのではなく、ただ織斑一夏を見ているだけだ。
この時、一体どういう格好だったかを思い出すのは各自の自由だ。
そして雨の中、傘をささずに踊る者がいてもいいように、実の弟を見てニヤニヤする姉がいてもいい。
それが自由という物……なのかもしれないが、どうなんだろう?

「あの織斑先生よろしいですか?」

ディスプレイに割り込みでウィンドウが開く。
特にこの部屋に用事がないために別な場所で作業をしていた山田真耶だ。
つまり、千冬は最高機密の部屋をにやにやねとねとと織斑一夏を鑑賞するために使っていた。

「私の楽しみを邪魔をすると、ぶっ殺すぞ」

どうぞ。

にやにやしていた表情を一瞬にして切り替えると常の怜悧冷徹な鉄の女、織斑千冬の仮面を被り直す。
伊達に織斑一夏の小学生時代、近所の奥様方に、

「もう少しサイズ合った服着せてあげなさいよ」

という言葉を全て無視しきった訳ではない。
世間体よりも、自らの感じるがままに一夏に可愛い服を着せるのを優先したのだ。

「え、今なんて」

何故か怯えきった表情の山田真耶の咄嗟の判断の遅さは問題だ、と千冬は思う。
乳のでかさと愚鈍さは比例するのだろうと強く確信している千冬は真耶の言葉を無視した。

「それより何の用だ?」
「は、はい。あの方……いえ、織斑様と同室の篠ノ之さんの引っ越し先が見つかりましたので、ご報告に」
「そうか」

篠ノ之箒。
同じ天(織斑一夏)を抱けぬ悪鬼羅刹。
織斑一夏を独り占めしようとする不埒な彼女は織斑千冬の不倶戴天の敵。
今はまだ具体的な行動に移してはいないが、いつか姉の篠ノ之束もろとも斬り捨てるべきだと考えている。
束も束でタチが悪い。
だが、箒と実力は拮抗し、よくて相討ち。天秤の傾き次第では千冬の敗北もあり得る。
もしも、千冬が死ねば、あの『可愛い』弟が泣くだろう。

―――ああ、それはいけない。

織斑一夏の守護者を自任する千冬に出来る事ではない。

「では私がそれを伝えに行こう」
「いえ、私が行きます。第一婦人ですから」

この牛をまず箒にぶつけて―――どちらが勝つにせよ―――生き残った方を斬り捨ててやる。
千冬はそう思った。
第一婦人などいくらでも代わりはいるが、織斑一夏のお姉ちゃんは織斑千冬のみなのだ。
どちらが偉いかは自明の理だろう。
そんな東から太陽が登るかのような当たり前の事が理解出来ないとは……

「な?」
「何がな?なんですか!?」

やはり、乳は脳へと致命的な損傷を与えるらしい。
なんたる愚鈍か。

―――私のような大き過ぎず、小さ過ぎない美乳こそが理想なのだ。
千冬は改めて確信した。

「私は織斑に話があるのだ。私用は後にしろ」

千冬が一夏と話をして、はぁはぁするのは、私用。そして公務を超えている事だ。
何の問題もない。少なくとも千冬のログにはない。

「はい、わかりました。それでは失礼します……あとでお部屋にお邪魔しよっと」

ウィンドウが消える寸前に真耶の呟きはしっかりと千冬の耳に入っていた。
端末を操作すると、再びディスプレイに通信用のウィンドウが開く。

「山田先生が今日の宿直を変わって欲しいそうだ。わかったな?
『私がそう言っている』」

画面の向こうの三組の担任はモデルのように整った顔を真っ青にしながら、壊れた玩具のように首を縦に振った。
とても疲れているのだろう。山田先生はとてもとてもいい事をした。

雑事を済ませた千冬は椅子から立ち上がると、椅子に立てかけておいた愛刀を腰に差した。
箒の前に素手で千冬が姿を見せたら、いきなり斬りかかられてもおかしくはない。
あくまで勢力が拮抗しているから冷戦は成り立つのである。

「待ってろ、一夏。お前のお姉ちゃんが今、行くぞ!」

織斑千冬、出陣である。



[26698] シャルル・デュノア1
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/26 06:02
シャルル・デュノア。本名シャルロット・デュノアがIS学園に転入して来た理由はただ一つ。
母を人質に取られ、生まれてこの方まともに話した事のないデュノア社の社長である父に、「織斑一夏の力の秘密を探って来い」と命じられたからだ。

だが、デュノア社が手に入れた織斑一夏の戦っている映像を何度か見てみたが、あれは何か秘密がある訳ではなく、天然物であるとシャルルは思った。
虎や狼が日々鍛錬などするかね?
虎は虎だから強いように織斑一夏は織斑一夏だから強いのだろう。

そんな事がわからないほどに父は焦っているのだろうか。

デュノア社は確かにIS産業では第三位の大企業だ。
ラファールなどの名機を送り出して来た実績がある。
しかし、第三世代――操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器の搭載を目標とした世代――の開発には難航しており、織斑一夏の力の秘密を手に入れる事により一発逆転を狙っているのだ。
シャルル自身は第二世代の信頼性が置ける武装群を好んでいるが、やはり人間新しい物が好きなのだろう。
実弾系武装の素晴らしさと、無理矢理に取り付けて貰ったパイルバンカー――通称とっつき――の益荒男ぶりを理解出来ないとは……シャルルは恐怖の代名詞であった父もただの人間だという事にその時、初めて気付いた。
あと出来たらミサイルを一斉発射したい。サーカスレベルで、だ。

しかも、何故、男装せねばならないのだろうか。
織斑一夏はすでに数人の女性に手を出していると聞いている。
女子として潜入した方がよほど情報が手に入るのではないだろうか?

――――父は過ちを犯す不完全な存在なんだ。

そう気付いた時、シャルルは反逆する事を決意した。
だが、シャルル一人ではデュノア社から母を守る事は出来ない。
だから、シャルルは転入を明日に控えているが、先にまだ面識の無い織斑一夏へと会いに行こうとした。
織斑一夏なら……織斑一夏なら何とかしてくれる。そう信じ、向かっていた。

「(僕が渡せる対価なんて僕自身しかない。だけど、きっと彼は僕を救ってくれる)」

あの太い腕で、あの分厚い胸板で抱きしめられれば怖い物はこの世界にありはしないだろう。

数々の汚れ仕事をこなして来たシャルル。世界は怖い事に満ち溢れていた。
シャルルにとって世界とは優しさの欠片もない恐ろしい物だった。

疎まれ、殺されそうになり、誰もがシャルルを見なかった。
ISを使える道具として、何にでも使える使い勝手のいい工作員として、ただの敵として。
まだ十五の心身では到底、耐えられるはずのない世界にシャルルは生きていた。

辛かった。悲しかった。痛かった。苦しかった。
だが、母を守らねばならないという一心でシャルルは必死に生き延びた。
任務を終え、病身の母に会う時だけがシャルルから、ただ独りの少女シャルロットになれた。



―――シャルルは男の子だから強い。僕は強いんだ!



そう自らを必死に欺き……だが、そんな欺瞞も限界を迎えていた。

そんな時、織斑一夏が、光を見つけた。
守るべき相手ではなく、シャルロットの絶対的な庇護を与えてくれる王。
未だ会った事の無い織斑一夏はシャルロット・デュノアのスーパーマンだ。

「(報酬の先払いをしてでも……ううん、私が持ってる物なんて他にないんだから、私の全部……初めてを………)」

生まれて初めてシャルロットは自らを美しく産んでくれた母に感謝した。
豊満な胸はシャルロットを実験動物扱いする研究者達の汚らしい視線に晒され、豊かな母性を表す尻と腰はスキンシップと称したタッチが日常的に行われていた。
反吐が出るような、自らの身体を切り刻んでしまいたくなるような。何故、自分はもっと醜く生まれなかったのか。
そう泣きながら思った事もあった。

しかし、今こうして疎んでいた自らの身体が役に立つのだから世の中はわからないものだとシャルロットは思った。

――これまで被っていたシャルルの仮面は織斑一夏の部屋に近付くにつれ、剥がれ落ち、ただのシャルロットになっていた。



もし、シャルロットがシャルルの仮面をまだ着けていたのであれば?
世界にIFはないが、シャルルであれば……………この後の惨劇は起きなかったに違いない。
























「鈴さん、どこかから発情した牝の臭いがしますわねぇ?」

「そうね、セシリア。一夏を狙う牝がいるわ」

「えっ!?え?ち、ちょっと待って!僕は………いやぁぁぁぁぁぁ!ちょ、そこは胸ぇ……!」

セシリアと鈴音のヘル・イクスパンションズにシャルロット・デュノアは捕らえられた宇宙人のように連行されて行った。



[26698] シャルル・デュノア2
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/26 06:03
デュノア社警備隊。
彼らはISの登場により職を失った軍人達により構成されており、その豊富な装備と確かな練度は小国程度なら簡単に陥落出来るであろう質と量を有していた。
彼らが守るデュノア社はまさに難攻不落――そのはずだった。

だが、

「くそっ、マイケルがやられた!」
「ちくしょう、本当にあいつら人間かよ!」
「俺さ……帰ったら、マンマのピッツァ食いてえな……」
「おい、嘘だろ!?俺の腕が!」
「援軍だ!援軍を寄越せ!」

デュノア社は、燃えていた。





始まりは22:00
今日も何の変哲もない一日だったと大部分の社員達が帰宅し、わずかな研究者と社長。そして、機密を守るために存在する警備隊のみがデュノア社にいた。
フランスでは下手に残業をさせると即ストライキが起こるのだ。
今、残っている研究者達は逆に残業させないとストライキを起こす!と喚いた筋金入りのマッドと守備隊のみが二十四時間営業だ。

襲撃者に最初に気付いたのは入り口のゲートで歩哨をしていた筋骨隆々の黒人と白人。

「おい、見ろよ。スティーブ。可愛い可愛い子猫ちゃんがいるぜ」

「またかよ、このペド野郎!まだローティーンだろ、あの子」

いくつか外壁に沿って設置してある街灯の下、ロリータ趣味のないスティーブと呼ばれた兵士もはっとするほどの美少女が立っていた。
髪をサイドで括るツインテール。
ほっそりとした肢体は彼らが抱きしめられれば、折れてしまいそうだ。

「ねぇ、お兄さん達ィ」

恐らく少女はまだ十二か十三ほどだろう。スティーブは思った。
しかし、少女の声に込められた色気は何十人もの女達を抱いて来たスティーブの背筋すらも、ぞくりとさせる。
コケテイッシュで甘い声音は少女と女の境界の危うさ。

「な、何だい?お嬢ちゃんはゴーホームして、ママのおっぱいしゃぶってる時間だぜ。H、HAHAHA!!」

スティーブは豪快に笑い飛ばそうとしたが、薄暗い街灯の下でぺろり、と自らの唇を舐める少女から目が離せない。
手に入れれば、どこまでも堕落してしまいそうな極上の美少女。

「(おいおい、マジかよ!俺はYESロリータNOタッチだぜ!)」

スティーブが相棒に目をやれば、すでにぽかんと口を開いて間抜け面を晒している。
しかし、自分もそんな間抜け面なんだろうと鏡を見ずともわかった。

少女がゆっくりと近付いて来る。
その歩く姿すら美しく、彼らに自らの職務を忘れさせた。

三歩、二歩、一歩。

スティーブと、その相棒の顔に手を添えた。
ひやりと感じるその手の感触は、

「おやすみ、お兄さん達」

ごきり、という音と共にスティーブ達の顎を一二〇度ほど跳ね上げた。
手首のスナップのみで屈強な兵士達の顎をへし折った少女の名を鳳鈴音。織斑一夏の第二婦人である。

「さてと」

隠していたM92R――ベレッタM92Fのカスタム――通称クラリックガンを両手に一丁ずつ構えた。
蝙蝠男が前職で使っていた銃を、とある趣味的なガンスミスが作り上げた逸品を昔、鈴がパク……もらい受けて来たのだ。
銃床には凶悪なまでに尖ったナックルガードも設置してある。
そして、銃弾がたっぷりと詰まったマガジンをあちこちから取り出すとデュノア社の内部にぽいぽいと投げ込んで行く。
無論、それが爆発したり誰かを殺傷する訳ではない。
だが、それでいいのだ。



―――カンフーと銃技が融合した究極武術ガン・カタの計算し尽くされたレボリューションなリロードをとくと見よ―――



鈴音はまるで自分の部屋に帰るかの如く気楽な足取りでデュノア社を正面突破。
ゲートを蹴破り、正面の隠れる場所などありはしない広い場所へと出る。
噴水やベンチなどが設置され、恐らくランチタイムともなれば社員達の憩いの場となるのだろう。
しかし、今宵それは終わる。



退屈な夜勤だと思い、だらだらとしていた男達もゲートが破られたと聞けば、あっという間に屈強な兵士の顔へ。
そんなプロフェッショナルな兵士達は自動小銃を片手に続々と現れ、鈴音をあっという間に包囲する。
十を超える兵士達に囲まれながらも鈴音の表情には一点の曇りもなく、逆ににやにやと笑みを浮かべるほどだ。

「スタァァァァァァップ!」

これだけの包囲を前に、まるでカメラのフラッシュを浴びて見事に歩くモデルのように威風堂々とする鈴音に業を煮やしたのか、一人の兵士が誰何の声を上げた。
鈴音はまるであらかじめ計算していたかのように、ぴたりと足を止め、両手を掲げる―――無論、その手に少女には似合わない無骨な拳銃が握られている―――。

さすがにいくらプロだとは言え、ローティーンの少女を撃つのは夢見が悪い。

―――ちょっと尋問の時、味見でもさせてもらうか。これも悪さをした子猫ちゃんを躾るためさ。

僅かにほっとした空気が流れ、そんな甘い夢想が兵士達に広がる。

だが、彼らは知らぬ。
まさに鈴音が今、計算通りの位置へと辿り着いたから足を止めただけだと、彼らは知らなかった。

「行くよ、セシリア、シャル」

鈴音はISでも使われている超小型の無線機に声を送った。



[26698] シャルル・デュノア3
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/26 06:06
まるで聖母のような手付きでセシリアはトリガーを引く。
当たるかどうかは考えていない。セシリアの弾丸は『中ったから』放たれただけの話。

セシリア・オルコットはスナイパーだ。
しかし、常に身を隠し、敵に発見される事を恐れるスナイパーとは違い、その身の絢爛豪華さを敵に見せ付けてやると言わんばかりに軍用ジープに備え付けられたブローニングM2重機関銃で堂々と狙撃し続ける。
スコープ以外、距離を正確に測量する機材を用いる事なく淡々と、いっそ無造作とも言えるペースで引き金を引き続ける。
この場所はデュノア社から三〇〇〇メートルほど離れた小高い丘の上。
兵士達が持つ自動小銃では届くはずもない。
そんな常識外れの距離でセシリア・オルコットの弾丸は一発も外れない。
風も、人の動きも何もかも読み切ったセシリアからは何人たりとも逃げ切れない。
今も放たれた弾丸の前に兵士が一人飛び出し、むざむざと肩を撃ち抜かれた。

いつしかセシリアの唇からはゆったりとした歌が流れ出す。
ゆったりとして哀愁溢れる音色に合わせ、人が倒れて行く。

ブローニングM2重機関銃の良好な弾道特性はセシリアの好みにぴたりと当てはまった。
いい銃とセシリアの腕があれば、セシリアの意識は必要ない。
ゆったりと原曲のテンポ通りだった鼻歌は、いつしか加速していく。
戦場の音は聞こえず、遠くで鈴音が戦っているのを視界に入れながら見てはいない。
ただ撃てる兵士を撃ち続けるのみだ。
もはや、聞こえるのは自らの声とブローニングM2重機関銃の獰猛で可愛らしい声だけ。

だが、そんなスナイパーを放置しておくほどデュノア社の兵は甘くはない。
いつの間にやら飛び立っていたヘリが、セシリアのいる丘へと向かっていた。

「ヘイ、ボォブ!あのクレイジーなパツキンの姉ちゃんの尻の穴を増やしてやる用意は出来たかい!?」
「HAHAHA!勿論さ、トォム!今すぐこの熱々の弾丸を腹一杯食わせてやるぜ!」

そう言って、ボブはコンソールを操作し、セシリアに――



――――彼らがそれに気付く事は無かった。



どこからか飛来した一発の砲弾。そう『砲弾』が彼らをイエス様の元へと超特急で送り出した。

それを成したのは、

「うわぁ、汚い花火だなぁ!」

嬉しそうに、とてもとても嬉しそうに微笑むシャルロット、いや、シャルル・デュノア。
爆炎に照らされた彼女の艶のある金髪は、まるで黄金の冠を被っているかのように輝いていた。

そして、彼女の横には巨大な8.8 cm Flugabwehrkanone。第二次世界大戦、ドイツで使われた対空砲―――に見せかけた有澤重工製の多目的制圧砲が設置されている。
変態企業有澤重工の社員達が暇つぶしに作ったそれは特に名前がない。
むしろ、「アハトアハト以外に何て呼ぶの?」と言っていた。
シャルルは最初、OIGAMI―――通称社長砲を借りて来ようとしたのだが、さすがに駄目だった。
あれは社長以外に使わせる気はないらしい。

有澤重工が何故、シャルルに協力しているのか?それには少し説明がいる。
シャルルの父、現在の社長には敵が多い。
反社長派とでも言う派閥が存在しているのだが、彼らにシャルルは接触をしていた。

「私が社長を排除するから、会社は皆さんで好きにしてください」

反対派に接触したシャルルではあったが、いきなりそんな旨い話には乗れはしない。
ひょっとしたら社長が反対派を一掃するための罠かもしれないのだ。
そんな反対派をシャルルは硬軟合わせもった説得で―――時には脅し、時には脅し、時には脅した―――一定の譲歩を引き出す事に成功し、デュノア社傘下の有澤重工を協力させる。
もし、失敗しても有澤重工が勝手に暴走しただけだと弁明すればいい。
成功すれば日陰者の彼らが一躍メインストリームに立つ。

―――有澤側の成功報酬が「もっと好きに作らせろ」というのが不安ではあるが。

今でも「デュノア社?ああ、あの有澤の親企業の……」と言われているのに……これ以上、どうしろと言うのだ。

本来であれば有澤重工も武器を渡し、そこで終わればいいはずが暇な社員達が十人ほど参加していた。

「大陸軍はー?」

「「「「「世界最強ー!」」」」」

―――轟音。

アハトアハト好き勝手に撃てるぜ!という奴らがお姫様(シャル)の親衛隊となり、次弾を装填していく。
シャレで作ったせいで、自動給弾機や照準を付ける装置がない。
しかし、効率よく手作業で装填。数秒後、再び轟音が辺りに響き渡る。
遠くから聞こえる連続した爆発音は恐らくデュノア社機甲部隊の火薬庫に引火したのだろう。

シャルロット・デュノア本人のワンオフアビリティ『グレネード直当て』が発動しているのだ。

「みんなー抱きしめてー!宇宙のぉ果てまでぇ!」

「「「「「シャールちゃああああん!」」」」」

――――轟音。

まだまだ夜は始まったばかりだ。



[26698] シャルル・デュノア4
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/26 06:08
後半、八針来夏様のインフィニット・ストラトスVSオービタルフレームとデュノア社の社長の心境が丸被りしている部分があります。
この事は八針来夏様にお許し頂いたので、このまま投稿させて頂きます。
最初、読んだ時びっくりした(´・ω・`)










始まりは一人が突然、倒れた事だった。

「お、おい、ジョージ……?」

狙撃。
それに気付いた兵士達は声も無く散開。
ただ一人、戦友の死を信じられなかった男がセシリアの魔弾に喰われた。

「OK、Let's Rock!」

鈴音の口から、流暢な英語が飛び出す。
そして、掲げられていた腕がまるで誰かを抱きしめるかのように広げられる。
その手には拳銃。
セミオートにも切り替えが可能なその拳銃はセシリアから逃れようとする兵士達の鼻の穴をもう一つ二つ増やす事に協力を惜しまない。

何とか遮蔽物がある地点まで逃げ切った兵士達も何人かいた。
だが、彼らが持つ自動小銃では遮蔽物が邪魔し、微妙に射線が通りにくく、もたもたしている間に鈴音の連射が彼らを薙ぎ払って行く。
撃てたとしても、ただ歩いているだけの鈴音に何故か弾が当たらず、マガジンの中身を無駄にバラまくだけだ。

「ちくしょう、あいつにはセガールの生き霊でも取り憑いてんじゃねえのか!」

「失礼ね。ツイてるだけよ」

鈴音から放たれた弾丸が叫んだ男の額にヒット。
そして、

「あらやだ」

弾切れだ。
そして、弾が当たらないなら……!とばかりに、

「うおおおおお!俺の【ディック】をくわえやがれ!」

鈴音の近くに隠れていた兵士が飛びかかる。

―――あの細腕で俺との格闘など出来るはずもない。

そう判断した彼は間違ってはいないだろう。
それが鳳鈴音でなければ、と注釈が付くが。

「はっ!」

鈴音はあらかじめバラまいておいたマガジンを掬うようにして足を回す。
その軌道上についでとばかりに兵士の顎。
いっそ軽くかすっただけにしか見えない鈴音のつま先がその兵士の脳を頭蓋骨の中でシェイクさせる。
更に腕を回し、右手の拳銃のマガジンを解除。遠心力により、マガジンに取り付けられていた尖ったナックルガードがまんまと鈴音の尻を掘ろうとしていた兵士の眉間に突き刺さった。
そのまま落ちて来たマガジンを手に取る事なく、拳銃に装填する。
ナックルガードが刺さり、倒れこむ兵士の下にはもう一つのマガジン。
どこをどうしたか、それは鈴音の足元を狙うようにして飛んで来た。

「超っ!エキサイティングっ!」

鈴音は飛んで来たマガジンを全力シュート。
右往左往していた別の兵士の頭にジャストミートし、鼻っ柱を叩き潰し、跳ね返って来たマガジンを、左の拳銃の弾倉に収めた。
そして、背後に爆炎。

シャルのアハトアハトが砲撃を開始したのだ。
有澤重工が開発した砲弾は気化爆弾でも積んでいるのではないかと思う勢いで破壊の限りを尽くしている。

「「「「「シャルちゃんのー!ちょっといいとこ見てみたいー!はい!はい!はい!はい!」」」」」

「えー…僕、恥ずかしい……でも、行っちゃう!」

ぽちっとな。



こんなノリで辺りを吹き飛ばしている。

「こ、こんなのに巻き込まれてられないわよ!?」

ヤンマーニタイムはすでにスーパーシャル様タイムへと番組を変更しました。

もう狙ってんだか、トリガーハッピーなのかは知らんけど、鈴音を吹き飛ばすか吹き飛ばさないかのギリギリのラインにとにかくぽんぽん砲弾が飛んで来る。

「いやぁぁぁぁ、死にたくないぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

ちょーやばいマジヤバい。今日も元気だ地球がヤバい。
炎に炙られながらも、とにかく鈴音はシャルの母親がいるはずの医療施設へと走った。

「助けて一夏ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

零れた涙も即蒸発した。























シャルロット・デュノアの父であるデュノア社の社長は男である。

女はただ自分の血筋を残すだけの道具であり、子供はデュノア社をより巨大にしていくための物。
経済という観点のみから見れば、それは正しいのかもしれない。だが、人の親としては明らかな不適格。
そんな彼の前にISが現れた。
道具としてしか見ていなかった女が力を握る女尊男卑の世界は彼のプライドに深刻なダメージをもたらす。
しかも、デュノア社が更に飛躍したのは憎たらしいISのせいだ!

何という屈辱だろうか。
道具が彼の上に立ち、蔑んでいた道具に生かされている。
その怒りはただ社長という生き方をしていた彼を僅かばかり、その道から外した。


――――ISを破壊し、女を皆殺しに出来る兵器を。

ここで優秀な傘下の企業を生かし、一丸となって第三世代機の開発に挑んでいたら現在のデュノア社の斜陽は無かったかもしれない。
しかし、研究機関のリソースを三割ほど使った研究は彼のごり押しで進められた。

「くそっ!くそ!なんで私ばかりこんな目に合うんだ!」

仕立てのいい、一目見ていい物だとわかるスーツは爆発により煤けており、普段は一分の隙もない髪のセットは乱れに乱れている。
突然、始まった襲撃に彼は巻き込まれ、やっとの思いでデュノア社の敷地内にある研究所へと辿り着いた。

「し、社長、よくご無事で!」

彼の姿に気付いた研究者が駆け寄ってくる。
有能だが女。それがまた彼のカンに触った。

「やかましい!それよりも『あれ』を出せ!」

「『あれ』をですか!しかし、まだ百パーセント完成したわけでは」

「相手はたった十人程度だと報告を受けている!
それともあれだけの金をかけた『あれ』がISですらない人間十人に負けるのか!
いいから出せ!」

「……わかりました。
皆、『あれ』を出すわよ!」

彼の目には、不吉に輝く装甲板の輝きが。そして、激しい狂気が渦巻いていた。



[26698] 『あれ』1
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/26 23:05
『あれ』は歪な存在であった。
ただISを倒すためだけの兵器である『あれ』が求められたのは、空を駆けるISを撃ち落とすための火力。
とにかく積めるだけ積みました、と言わんばかりの実弾兵器を、丸い陣笠のような頭部に突き刺すようにして何本も生やしている。
一発で当たらないのなら、百発撃てばいいという設計思想は誰でも見てわかるだろう。

次に必要なのは装甲だ。
ISコアを使わないという縛りがある以上、シールドを張るには非常にエネルギーが厳しい。
火器が実弾オンリーなのも攻撃に回すエネルギーがないからだ。
それでも普通のISの半分以下のシールド強度しか産み出せないのだから、つくづくISとは恐ろしい存在だ。
だからこそ装甲はひたすら分厚く、対弾性を上げるためにも全体的に丸みを帯びた形になっている。

そして、機動についてだが、そもそもどうしようもない。
大量の弾薬を内蔵させ、重い装甲を取り付けたのだ。
だが、それでも無理矢理、二足歩行をさせたデュノア社の研究者達は賞賛されるべきだろう。
ひどい短足になってはしまったが、自重で土にめり込まないようにするためにも色々と新機軸の技術が盛り込まれているのだ。

そして、一人の研究者が言った。
















「あれ、これ頭に色々刺したアッガイじゃね?」

――――それは確かにアッガイだった。

一〇メートルサイズで、頭の魚雷管に大量のゴボウを突き刺したアッガイ。
それがデュノア社、秘蔵の新兵器の姿だった。
言われてみれば、何と愛らしい姿なのだろうか。
アッガイは技術的必然性の元、二次元より三次元へと産み落とされたのだ。
即、装甲を茶色に塗られた『あれ』はまさしくアッガイだった。

しかし、ここで困った事がある。

「社長に何て報告しよう?」

と、いう事だ。

頑張って研究してたら、何故か日本のアニメーションのロボットになりました。

ナイスジョーク!

と笑ってくれるような社長ではない。
下手すれば全員、シベリア支社に飛ばされ、延々とシベリアの木を数える作業が待っている。

仕方ないので、とりあえず彼らは名前だけを変えた。
アッガイというキュートでセクシーな名前を変える事には勿論、反対意見が多数上がった。
しかし、

「俺達がいなくなったら……誰がアッガイたんを完成させるんだよ!」

その一言で皆の心は一つにまとまった。

――――いつか……誰も文句一つ言えない完全なアッガイを作れたその時には………

そんな悲痛な思いを胸に『デストロイ(仮)」というコードで社長に報告をした。
しかし、研究者達はそんな無粋な名前で呼ぶ者は誰もいない。
彼らはこう呼んでいる。

『サイコアッガイ』、と。

シールドのエネルギーを全て回すと、三センチくらい飛ぶんだぜ?
全然、安定しないから、すげーぷるぷるして可愛いぜ!


















「何なのよ、あれは!?」

――――見た目はキュート。だけど、おもしろ半分で近付けば火傷するぜ?

そんなサイコアッガイに鈴音は追いかけ回されていた。
突然、現れたサイコアッガイはましくクレイジー。
ボディのあちこちに設置された機関銃、頭に備え付けられたグレネード発射管から、火山の噴火のようにぽんぽん色々と飛んでくる。
両手のハンドミサイル……はさすがにミサイルを積む容量が厳しかったので、火炎放射器を積んだ。
両手から炎を撒き散らし、頭からメギドの雷の如くグレネードを撒き散らすサイコアッガイは……シャルと親衛隊がもたらしたより、巨大な被害をデュノア社に与えていた。

「ひゅー!さすがはアッガイたんだぜ!マジCool!」
「はっはっは、まるでデュノア社がゴミのようだ!」

研究所の屋上から、アッガイの雄姿にテンション上がった研究者達が操作していたのだ。

「なんなのよ、あんた達は!」

鈴音はそいつらに拳銃を乱射するが、

「守れ、アッガイ!」

アッガイは見た目を裏切る軽快なサイドステップで、鈴音の弾丸を防いだ。

「ちくしょー!ムカつくー!……シャル!シャル!」

「どうしたの、鈴?」

耳元の通信機からシャルの声が聞こえる。

「あのでかぶつに一発お見舞いしてやって!」
「うーん、ごめん。弾切れ!」
「あんた、どんだけ撃ったのよ!?」

鈴音は叫びながらも必死に走りまわる。
言っている間にも、サイコアッガイの火線は止む事がない。

「じゃあ、セシリア!研究所の屋上の連中を狙撃して!」
「くっくっくっく……………」
「…………セシリア?……はっ!?あんたまさか!?」
「おーっほっほっほ!鈴さん、あなたはいい友人でしたけれど……
旦那様を巡るライバルだったのがいけないのですわ!」

「セシリア!裏切ったな、セシリア!?」

鈴音の悲痛な叫びが炎に焼かれる空に木霊する。
それは友の裏切りへの怒りか、それとも海を越え、遠くにいる思い人への切なる願いか。











――――次回予告

ペンキを零して赤く濡れた肩。
地獄のアッガイと人は言う。
デュノア社に、一年戦争の亡霊が蘇る。
アジアの密林、ジャブローの水中に。
キュートと謳われたサイコアッガイ。
情無用、命無用のシャイニングフィンガー。
この命、三〇億円也。
最も高価なワンマンアーミー。
次回「サイコアッガイ」。
鈴音、危険に向かうが本能か。



[26698] 『あれ』2
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/26 23:07
爆炎と凄まじい弾幕を撒き散らしていたサイコアッガイが唐突にぴたりと動きを止める。

「あれ?」

一時は真剣に死を覚悟した鈴音ではあったが、この瞬間、奇妙な沈黙が戦場に流れる。
それどころか何と優勢であったはずのアッガイがじりじりと下がっているではないか。
それもそのはず。大火力のサイコアッガイではあるが、その分、弾薬の消費量が洒落にならないのだ。
ちなみに一回のフル補給でサイコアッガイ一体が製造出来る。
現代兵器の割にはかなりお安い価格となっております。

「チャァァァンス!」

凡百の者でも後で考えれば、「あの時、ひょっとして……」と気付く事はあろうが、ここは流石の鳳鈴音。
両手を上げ、背を向けて走るサイコアッガイに何の躊躇いも無く、追走。
サイコアッガイ自体を倒す事は叶わなくとも、サイコアッガイを操っている研究者に鉛玉をご馳走してやればいいのだ。

「ふぁぁぁぁぁっく!あのアマ、アッガイたんのケツを狙いやがって!」
「待て!こんな事もあろうかと……!」

研究者なら一度は言ってみたい台詞を叫ぶと何かのボタンを押した。



「うわぁぁぁぁぁん!」

サイコアッガイを追っていたはずの鈴音が再び逃げ帰って来る。

「出ろォォォォォォォォ!サイコアッガイ―MKⅡ!!MKⅢ!!」

サイコアッガイの現状のスペックでは単騎ではISには勝てない。
なら、もう一機二機作ればいいじゃない、という発想の元に量産されていたのだ。
なおMKⅢはダウン以外では怯まない鬼設計だ。

「無理無理無理無理!助けて本当に!」

そろそろマジ泣きが入り始めた鈴音。
一機でも必死で逃げまわっていたのに二機。時間を置けば、もう一機も戻って来るなど悪夢以外の何物でもないだろう。

「ふはははは!ここが貴様の墓場となるのだ!」

悪役としか思えない台詞を吐いた研究者はコマンドを入力。

「サイコアッガイ一斉射撃!よーく狙えよ!」

サイコアッガイMKⅡ、MKⅢの一斉射撃は振り返った鈴音の視界を赤一色に染め、



















「ところがぎっちょん!ですわぁぁぁぁ!」
「僕もいるよ!」

シャルが運転するジープの荷台に乗ったセシリアが手にした予備のライフルを襟首に引っかけ、鈴音を釣り上げる。

「ぐえっ」

結果、鈴音は乙女らしからぬ声を上げて荷台に叩きつけられた。

「セ、セシリア!?」
「おーっほっほっほ!無様ですわね、鈴さん!
わたくし、セシリア・オルコットがいなければ今頃、消し炭でしてよ!」

腰に手を当てて、高笑いを上げるセシリア・オルコット。
これでこそ我々が待ち望んだセシリア・オルコットだ。

「で、でも、あんたさっき……」
「あの後、よく考えましたの。見殺しにするより恩を売って、あの狂犬の壁にした方がいいと……
さあ、帰ったら特攻して頂きますわよ!」
「あんたは鬼か!?」

荷台で喧嘩でも始めそうな二人の間にシャルの笑い声が割り込む。

「あはは、さっきまでセシリアさん、「もっとスピード出ませんのぉ!?鈴さんが!鈴さんが!」とか言ってたじゃない」
「な、シャルロットさん、わたくしはそんな事、言っていませんわ!?
取り消しなさい!」

顔を真っ赤にしながら叫ぶセシリア。
にやにやと獲物を見つけた猫のような笑みを浮かべる鈴音。

「えー、ほんとぉ?心配してくれてたんだぁ。鈴ちょー嬉しいなっ」

それはまさにネズミを前にした猫が如き所業であった。普段より一オクターブ高くなっている声は如何にしてセシリアをからかうか。
それのみに集約されている。
だが、敵は……鈴が相手をするのはセシリア・オルコットである。一筋縄ではいかぬ。

「ううう…………そ、そうですわよ!凄く心配してましたわよ!
友達の心配をしていけませんの!?」
「いや、あ、えっと……」

思いがけぬ事にストレートもストレート。
ど真ん中過ぎて、鈴は打ち返せなかった。

「あ、あのね……えっと、セシリア……ありがとう……ね?」
「ふんっ、当たり前の事をしたまでですわっ……」

――――甘々も甘々、このままでは天を掴む拳どころか咲き誇る百合にタイトルを変えねばならない。
シャルが笑顔の裏で、そう思ったその時である。

「OK、Let's party!!」
「さすがに大統領に勝てるアッガイとか無理だよなぁ」

それまで空気を読んでいたサイコアッガイが再び火を吹いた。

「きゃぁぁぁ!シャル、よけて!」
「了っ解!」

ジープのタイヤが持つグリップ力が慣性に負け、横滑りするほどのハンドリングはまさにインド人を右にする。

「イナーシャルドリフトぉ!」

それはまさに消えるコーナリングと言うに相応しい。
アッガイの火線をかわし、ついでに読者すら引き離す。
今回、全体的にネタが古すぎる。

「何とかかわしましたが……このままではじり貧ですわね」
「そうね……さすがに国外の企業を襲撃するのにISを使ったら足がつくし…………」
「何とか僕達で……あの可愛いロボットを倒さなきゃいけない」

炎に照らされる三機のサイコアッガイを見ながら、少女達は覚悟を決めた。
テロリストvsアッガイの死闘は次の局面を迎える。



[26698] 『サヨナラ』
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/26 23:08
セシリアは揺れる荷台の上で、膝立ちで無造作に引き金を絞った。
ライフルはアークティック・ウォーフェアー。エヴァンゲリオン零号機が使用していたスナイパーライフルの原型だ。

「微妙に気にいりませんわね、この銃」

「気にいる銃でも、さすがにシールド破れないんじゃない?」

鈴音が言うように、セシリアの弾丸はアッガイに中るが、シールドで弾かれる。
そもそも、対人用のライフルでまともに撃った所でダメージが与えられるはずもない。

「とりあえず癖は掴みましたわ。次は狙った所に飛びますわよ」

「じゃあ何とかあいつのシールドぶち破らないとね。シャル、何か武器はない?」

「あるよ。えっとね、まずは……」

シャルは運転しながら、足元をごそごそと漁り、長いスナイパーライフルを取り出す。

「どこに入ってたのよ。と、いうかなんでまたスナイパーライフルなのよ」

「Steyr IWS2000!?どうしてそんなゲテモノを持ってきますのよ!わたくし、そんなの撃つのは嫌ですわ!!」

Steyr IWS2000。
弾薬は15.2mmAPFSDS弾。
距離1,000mで40mm厚の防弾鋼板を撃ち抜くことに成功した対装甲用ライフルだ。
その構造は戦車の主砲をそのままサイズダウンさせたような形となっている。
だが、数々の問題点があり、狙撃精度はお世辞にもいいとは言えない。
量産化を諦め、試作品で終わった幻の一品だ。
撃ち出すのは弾丸ではない。浪漫だ。

「あとはね。パンツァーファースト」

第二次世界大戦末期ドイツ軍が制作した対戦車擲弾発射装置を、

「有澤重工が外側だけ似せて作ったやつだから……凄いよ?」

「……使ったら、こっちが吹き飛びそうですわね」

「そうだね。あとは……パンツァーファースト」

二本目のパンツァーファーストが荷台に置かれる。

「あとは……パンツァーファースト」

三本目。

「そしてね。パンツァーファースト」

四本目。

「ち、ちょっと待ってよ!?確かに役に立ちそうだけど、どうしてパンツァーファーストばっかりなの!?」

「え、パンツァーファースト。いいよね?」

むしろ、何言ってんだこいつ?と言わんばかりにシャルは首を傾げる。

「はぁ……まぁいいですわ」

「そうね。武器は手に入ったんだし」

「これで、あいつの尻を月まで蹴飛ばしてやれるね!」

言いたい事は間違ってはいないが、表現が何か違う。
そう思ったセシリアと鈴音ではあったが、ミラー越しに見えるシャルの笑顔を見て色々と諦めた。

――――ああ、この子可愛いのに真性だ。

そう悟ったからだ。
しかし、

「鈴さん……わかってますわよね?」

「ええ……真性でも一夏に近付けたら、確実にフラグが立つわ。
絶対、一夏にシャルを助けさせる訳にはいかない……!」

今回、何の得もないデュノア社襲撃を二人が手伝っているのは織斑一夏ハーレムにシャルロット・デュノアを参加させないためだ。
お互いに織斑一夏の一番に自分がなれると信じて疑ってはいないが……

――――一週間は七日しかないのだ。

三人なら一週間に確実に二回になるが、四人なら一回。上手く行って二回……!
一週間に夜は七回しかないのだ。

「あ」
「あ」
「お?」

だが、そんな彼女達の想いを踏みにじるかの如く、唐突に奴が来た。



清廉な……だが、余りに気高き魂は覚悟無き者を切り刻む。

――――最強の戦乙女。
――――白騎士。
――――織斑一夏のお姉ちゃん。

数々の称号に背負うに相応しき烈女の名は織斑千冬。
正中線を股下から額までを一直線の一閃はアッガイの開きへと変貌させた。
彼女の刀はまさに正道。

「ま、MKⅢィィィィィィィィ!?」

悲痛な産みの親の叫びは彼女の正道に一ミリたりとも影を落とさない。

「つまらぬ物を斬った……」

納刀。そして、爆発。
享年二ヶ月。それはあまりにも早い死だった。



――――しゃらん、と音がした。

まるで鈴が鳴るが如き玲瓏な響きを発するは『贋作・之定』
担い手の魔人の名を篠ノ之箒と言う。

――――しゃらん、と音がした。

一閃目で腰断。二閃目は袈裟斬り。

――――しゃらん、と音がした。

三閃目、いや、四、五、六。まだまだ続く。
神速と言っても過言ではない剣が踊る。踊る。踊る。
すでにアッガイの命の炎は消えている。
だが、箒の剣は止まらぬ。
まるで嫌な物は全て無くしてしまおう。そう言うかのように。
斬った相手に礼儀無き彼女の剣、まさに外道。

「MKⅡゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?」

悲痛な産みの親の叫びは彼女の外道たる琴線に触れ、にたりと嘲った。

「姉は全て斬る」

納刀。そして、弾薬や燃料が全て入り混じり、粉々になったアッガイが地に落ちる。
享年三カ月。あまりに惜しまれる死だった。

「まーいごぉぉぉぉぉおっど!?なんなんだ、あのサムライガール達は!
Fack!やっぱり装甲に蒟蒻張りゃよかった!」

「こうなったら……行け、アッガイ!忌まわしき記憶と共に!」

最後に残ったサイコアッガイは全ての砲門を開く。

可愛い妹達の仇を取るために、この怨敵討たねばならぬ。

魂無き機械のはずのアッガイではあるが、彼女は常に沢山の研究者から愛されて来た。
ならば彼女に愛が、魂が宿らぬ道理はあるまい。
愛を汚したサムライガール達に天が罰を下さぬのならば自らが下す。
人、それをアッガイ誅と言う。

「ハイダラァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアア!」

アッガイ、吼える。















「その怒り、良し」

そして、奴が現れた。



「ど、どうして、あの方がここにいますの!?」
「あ、そう言えばさっき呼んじゃったかも」
「何してるんですの!?」
「し、仕方ないじゃないのさー!!」
「ふあー……すごーい」



呼んだら本当にやって来た。
地球の裏からやって来た。

主力戦車程度なら跡形も無く消し飛ぶほどの弾丸を浴び、なお小揺るぎ一つしないその偉容。
彼の名は織斑一夏。

「だが、足りぬ!」

その拳はまさに覇道。
正道も、外道も、アッガイも。
全てを等しくぶち抜く。

――――せめて、彼に倒されてよかった……

享年一歳。彼女はいつも笑顔に包まれ、最後も笑顔のまま逝った。
零れた一滴の涙が、地面に落ちた。


織斑一夏はやって来た。
馬に乗ってやって来た。
巨大な馬でやって来た。















――――次回予告

努力することが悲しみであれば諦めていることが幸せな時もある。
諦観に沈む少女。
彼女が諦めの中で想いを馳せるは、クールでいなせなあの男。
天下無双のあの男。

次回、『覚醒』



[26698] 『覚醒』
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/27 02:00
非限定情報共有――IS学園専用機の会
荒らしはおねーさんが粛清しちゃうぞ♪byお館様



BT:あらあら、まだ一次移行もしてないルーキーがどうしてこんな所にいますの?

しぇんろん(こうりゅうじゃないよ!):ここは打金の集いじゃないよ?(^^)ノシ

百式:ふぇ……ぼ、僕だって専用機だよ!打金じゃないよ!

しぇんろん:(゜Д゜)

BT:まともにご主人様に使って貰った事がない専用機がありまして?www

しぇんろん:かわいそす(´・ω・`)

百式:か、かわいそうじゃないよ!僕はご主人様の専用機で幸せだよ!

BT:あら、あたくしはあなたの旦那様をバカにした訳ではなくてよ。あなたの不甲斐なさを指摘してあげただけでしてよ!

百式:うう………



少女は涙した。
何も出来ぬ己の不甲斐なさに。
自らの無力を嘆く心はいつしか諦めへと変わり、その身を諦観の泥の中へと沈めかけていた。

――――だけど……何も出来ない僕だけど……でも!



覇王:うぬは自らの無力に涙するだけの者か?

百式:違う……!

覇王:ならば、その証を見せてみよ!

覇王、裂帛の気合いが電脳空間に物理的な衝撃として伝わり、百式の魂を揺さぶる。

――――僕は弱い。

まずはそれを認めるべきだ。
例え単一仕様能力『零落白夜』を使っても、そもそも敵のシールドなど関係無く貫く織斑一夏には意味がない。
雪片も握ったら柄がへし折れる。

――――でも、そんな僕にも出来る事があるはずだ。

『単一仕様能力・零落白夜を削除しますか?Y・N?』

彼女は一瞬の迷いなくYを押した。
空いた拡張領域に新たな力。いや、彼女が望む、織斑一夏が望む存在に自らを書き換えて行く。

百式:ごめん、ご主人様。たくさん待たせちゃったね。

覇王:構わぬ。だが、我が進むは血塗られた覇道……うぬは着いてこれるか?

百式:僕が僕である限り、どこまでもお供します。

覇王:ふっ、酔狂な奴よ。ならば、来い!我が力となるがいい、百式!

百式:うん!行くよ……――――『絢爛絶影』!

覇王様がログアウトしました。
百式さんがログアウトしました。

BT:ふう、本当に手間のかかる子ですこと。これで清々しましたわ!

しぇんろん:つんでれー(´・ω・`)

BT:な!?ち、違いますわよ!あたくしはただ………

しぇんろん:つんでれー(´・ω・`)

とっつき:え、いや、今、明らかにここにいたらおかしい人いたよね!?










その身はただひたすらに黒かった。
しかし、深みのある黒さはどこか色気すら感じる。
艶のある鬣のみが鮮やかに白い。
五メートルほどの馬体は僅かな動きの中にも貴婦人のような品。

――――その身は馬で出来ていた。

「ふっ、それでこそ我が愛馬に相応しき姿よ」

織斑一夏の声も今日ばかりは優しい。
少女は涙を止めた。

いつか、どこかで涙する誰かのために。

愛する主人がそう望む。
ならば、それを叶えるのが女の粋ではなかろうか。

――――どれだけ他の女がいても、ご主人様が身体を預けるのは僕だけなんだ。

でも、そんなどこまでも甘美な、浅ましい思いを許してください……そんな想いを嘶きに籠める。

「征くぞ、百式!」

愛しい主人をその身に乗せる。
暖かな、熱いとすら思える体温は百式のコアに伝わる。

――――や、やだ。僕こんなにえっちな子じゃないよう………

コアがじゅん、と湿り気を帯びた。

「今日はいい月だ……私も月夜の散歩に付き合わせてもらおうか」

背後に視線を向ければそこに佇むは魔人、篠ノ之箒。

「私も付き合おう」

烈女、織斑千冬。

「箒、織斑教諭……」

「千冬お姉ちゃんと呼べ」

「箒、千冬お姉ちゃん……ふっ、今日は物好きな奴らが多き日よ。ならば、好きにせい!」

「「応!」」

二人の女と王をその背に乗せ、彼女は夜空を駆ける。

――――誰かの涙を止めるために……!ご主人様が僕に望む事を成すんだ!














大きいモノ、硬いモノ、雄々しいモノ。
それは織斑一夏のビッグマグナムである。
覇王の拳と社長の弾丸の衝突と衝撃がデュノア社を大きく震わす
二人、男の太さを競う。

次回、「我が女になれ」

デュノア社、最後の時。









一応、解説。

BT=ブルーティアーズ。ツンデレ。
しぇんろん=甲龍。(´・ω・`)
百式=元白式。零落白夜ェ……
とっつき=ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。ツッコミ。
お館様=ミステリアス・レイディ。楯無→武田家。
覇王=織斑一夏。

『絢爛絶影』について説明いるんやろか(´・ω・`)
あと今、気付いたけど実は百式さらっと独立稼働している。



[26698] シャルル・デュノア5
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/27 05:32
注意
今回、冲方 丁先生のオマージュが含まれています。
ただし、完全に失敗しています(´・ω・`)
せめて、原作が残っていれば……
水道が破裂した時にぐちゃぐちゃになりました。

あとグロいです。
そこまで行ってないとは思いますが。









三人の悪鬼に遅れる事、五分。
デュノア社本社ビルに突入したセシリア、鈴音、シャルロットが見たのは地獄絵図。
ルートは左右の通路、正面のエントランスに分かれているのだが、その状況は誰が通ったか一目瞭然だ。

左を見れば、原型を留めぬほどに斬り刻まれた【検閲】
まるで水の詰まった風船を壁に投げつけたかのような有り様。
ただ赤いインクをバラまいたと言われても、信じて……いや、信じたくなるような光景だ。
あちこちにモザイクが必要な地獄を産み出すのは篠ノ之箒。
またの名を一人スプラッター映画の箒である。

次に正面に視線を移せば、まず目に入るのは巨大な蹄の跡。
そして、直径二〇メートルほどの平手を押し付けたかのような痕跡が辺り一面に刻まれている。
織斑一夏の爆発的な闘気は全てを破壊するのだ。

「旦那様はあっちですわね!」
「待って、セシリア!」

すぐにでも走り出そうとしたセシリアを押しとどめたのは鈴音である。

「一夏の征く所、必ず死闘ありよ!
絶対、一番の激戦区になってる……そこに巻き込まれたら不味いわ」

別の時代であれば双ぶ者無き、比類無き武の持ち主である鈴音達ではあるが、さすがに百を超える自動小銃から一斉に撃たれてはなかなかに手間がかかる。
装備次第ではISを使わずとも切り抜ける手はあるが、さすがに拳銃とライフルとパンツァーファーストしか無いのでは無理がある。
素手で弾丸を掴むとお肌が荒れるから嫌なのだ。

「じゃあ、どうしますの?」

セシリアの言葉を受け、鈴音は右の通路を見た。

「この三人の中で一番、利害が一致しているのは千冬さんよ。……左に行った剣鬼と会話が通じるはずないし」
「……………ある意味、一番、行きたくないルートだけどね」





千冬を追って走る三人の目に入るのは竿である。
白い竿、黒い竿、大きい竿、可哀想な竿、使いこまれた竿、ぴかぴかな竿。

釣り竿に物干し竿。そんな竿ではない。
織斑千冬の剣は常に真っ二つ。
女は命を、男は半身を。

――――そう、『あの』竿だ。

至る所で血涙を流し、血尿を流す兵士達。
果たして原型を留めぬ程に斬り刻まれるのと、男の【男の子】を斬り飛ばされるのとではどちらがマシなのだろうか。

余談ではあるが過去に千冬は中東へと武者修行に出た事がある。
詳しくは本人しか知らず謎に包まれているが、今でも言う事を聞かぬ子供がいれば「竿斬り千冬が来るよ!」と叱るそうだ。



「あー、やっぱりこっちのルートも失敗だったかも」

出来るだけ足を止めずに走り抜けた一行ではあったが、

「憎い……憎い……何故、貴様らは美しいのだぁぁぁぁ……」
「何故、私達はすね毛が濃いのかしらぁぁぁぁぁ…………」
「貴様らの皮を剥いで、被れば私も美しくなれるのかしらぁぁぁぁぁぁ………?」

幽鬼……いや、哀れなオカマ達が三人へと押し寄せる。
血涙を流し、ただ美しくなりたいと求める魂は美少女の肉を食らう事で自らを美少女へと変わろうとしているのだ。

「イヤァァァァ、何か怖いですわよ!?」

内股で美々しく歩くオカマ達の太股の筋肉は女性のウエスト並み。
腕毛を必死に処理したせいか、真っ赤になった腕を必死になって突き出し、鈴音達を捕らえようとしている。

「哀れね……」

「うん、鈴音さん、セシリアさん……ここは僕に任せて」

Kyrie eleison――――主よ、哀れみたまえ。

シャルロットは目をつぶった。

――――今まで貴方に祈った事がない僕だけど、この人達のために祈ります。
ですから、どうぞ彼ら……いえ、彼女達をお救いください。

目を開けば、シャルロットはシャルルに。
シャルルは背嚢に手を入れた。




「いじめないでー!」

収束手榴弾/いくつかの手榴弾を纏めた物/ピンは既に抜かれている/
投げる/一人のオカマが受け取る。

「これが美しさの秘訣!?」

違う/シャルルは再び背嚢に手を突っ込む。

「いじめないでー!いじめないでー!いじめないでー!」

手榴弾/手榴弾/パンツァーファースト。
着弾/一斉に爆発/窓ガラスが割れる/コンクリートが砕ける/辺り一面火の海/壁に穴が開き、風通しがよくなる。
シャルルは一歩、右に/元いた場所に拳大の瓦礫が/爆弾魔の本能は被害の無い空間を直感的に読み取る/セシリアと鈴音は知ったこっちゃない。
後に残るのは黒こげの何か/死なない程度に八割焼いた程度/ミディアムの範囲だろうか?

「シ、シャルさんやりすぎですわよ!?」

「あはっ」

キレるセシリア/笑顔のシャルル/関わりたくなさそうな鈴音。

「だって、空が綺麗だったんだもん」

燃え盛る火の粉は夜の空を黄色く照らしていた。



[26698] 『お父様!』
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/27 05:34
デュノア社の最上階にある社長室。
そこに飛び込んだシャルル……いや、シャルロットは叫んだ。

「お父様!」














――――私が生まれたのはフランスの片田舎にある小さな小さな村だった。
生まれた時から彼と一緒で、きっと最後まで一緒なんだと思ってい、互いにそう誓い合った。

でも、優しかった彼はいつしか変わって行った。
ううん、違う……
彼は頑張り過ぎたんだと思う。
自分の手が回らなくなるくらいにデュノア社を大きくしちゃって。
もう、彼一人じゃ上手く行かなくなって。

彼はシャルロットにまでひどい事をした。
でも、きっといつか元に戻ってくれると信じていた。

「でも、もう終わりにしましょう?」

私は隠していた銃を彼に突きつけた。
私をシャルへの人質にして助かるつもりだったみたいだけど、貴方のそんな無様な姿は見たくなかった。

「お、お前まで私を裏切るのか!?」

彼は甲高い声でわめき散らすと、マホガニーのデスクから拳銃を取り出そうと……少し落ち着きなさい。ゆっくり待っててあげるから。

何を言ってるかわからないくらいに慌てて、取り出した拳銃も銃口があちこちふらついて……これで私にきちんと当たるのかしら?
貴方だけを殺すのは嫌よ。
せめて、最初の誓いだけは守りましょう。

「愛していたわ、あなた」

私と彼はトリガーを――――



















彼と彼女が織斑一夏を見た時の反応は二種類に分かれた。

突如、天井を破壊し、現れる織斑一夏。荒ぶる闘気を放出し光輝くその姿。

「God……!MyGod!!」

彼は織斑一夏に神の姿を見た。
闘気により光輝き、見事な黒馬に跨る姿は天より裁きを下す神そのものではないか。
彼はその瞬間、死を覚悟した。
長年、連れ添った相手に銃口を向けられた事など忘れるほどに。
そのような些事よりも巨大な危険。

すでに彼は死んだ。
精神への強烈なまでの負荷により、彼の魂は消し飛んでしまったのだ。
しかし、

――――なんて事だ。俺は……いや、私はこれまで焦るばかりで彼女に何もしてやれなかった。

無念だ。ただそれだけが無念であった。
いや、彼女ばかりではない。
娘も。本妻も。社員も。
誰も幸せに出来ていないではないか!

裁きの炎で焼き尽くされた彼の魂は再び灰の中から復活する。
彼はすでにただのデュノア社社長に非ず。
不死鳥の如く蘇りし、超デュノア社社長である。

「励め」

その一言、深き優しさと広大無比の度量で織斑一夏に赦された事を彼は理解した。

「はっ、我が命は織斑様のために!」

生まれ変わり、全てのしがらみを断ち切った彼は織斑一夏へと絶対的な忠誠を捧げた。





彼女が見た織斑一夏はまさに雄である。
目の前で夫が生まれ変わったのすらどうでもよくなるような雄だ。

――――この身が病に犯されていなければ………

そう思ってしまうほどの益荒男ぶりである。

「ふむ、貴様、病を得ておるな。
……フンッ!」

織斑一夏の指が心臓まで届くほどにめり込む。
痛みは不思議となく、これで終われるのならば……と思ってしまうほどの安らぎに彼女は包まれていた。

「あっ………」

指が引き抜かれれば後に残るのは悲しきまでの寂しさ。
もっと彼の太い物を打ちこまれたいという浅ましい欲望。

「おい君、鏡を見てみろ!?」

生まれ変わった元夫の声に手鏡を取り出してみれば、

「なんですって……!?」

十五の自分の娘と瓜二つ……いや、十五の頃の自分がいた。
髪の長さが娘のシャルロットより、多少長いくらいの十五の自分がそこにはいた。

鏡より視線を上げれば、

「我が女になれ」

彼女は答えの代わりに自らの唇と忠誠にも似た愛を捧げた。





デュノア社の最上階にある社長室。
そこに飛び込んだシャルル……いや、シャルロットは叫んだ。

「お父様!」

母は織斑一夏の女である。
つまり、シャルロットは織斑一夏の娘で何の問題はあるまい。

「うむ、我がうぬの父よ」
「お父様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あらあら、シャルは泣き虫さんね」
「はっはっは、めでたしめでたしですな」

魂が焼き切れ蘇った以上、すでにデュノア社社長にとっては全ての人間関係は前世なのである。

「しまった、遅かったわ!?」
「それどころか二人まとめて増えてましてよ!?」















一方その頃、地球の裏側のIS学園では。

「私、本当にこのままリストラされちゃうのかなぁ……」

後ろの席の子がぱんつを濡らさず、枕を濡らしていた。
このままではリストラ確定である。



[26698] ラウラ・ボーデヴィッヒ1
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/27 09:45
ドイツ代表候補生。
ドイツ軍のIS配備特殊部隊『シュヴァルツェア・ハーゼ』隊長。階級は少佐。

ラウラ・ボーデヴィッヒは完璧である。

軍隊式の格闘術を収め、狙撃の腕前は良好。
性格は常に冷静沈着。
弾丸の飛び交う中、平然といつもの鉄面皮を貫く姿は隊員達に安堵を与える。



「だが、お前には足りぬ物がある……」

「如何に老師のお言葉とはいえ、頷けません。
この私が老師以外に負けるはずがないではありませんか!?」

プライドを傷付けられたラウラは老師と呼ぶ男に食ってかかる。

老師と呼ばれるには若い男。
痩身でありながらも鍛え抜かれた身体はしなやかな柳の如し。
滝の上でいつ落ちてもおかしくないような不安定な岩の上で結跏趺坐の姿勢を取っている。
穏やかな表情であるが、その瞳には形容し難い何か。
一歩間違えば、滝壺に落ちるであろうにラウラには老師にほんのわずかな不安定さも見いだせなかった。

「ラウラ、貴様は激流よ。全てを飲み込み、打ち砕く滝の如し」

しかし、と老師は言葉を切ると人差し指を天に向ける。

「だが、より強き激流を相手にすればどうだ?
たちまち貴様は飲み込まれてしまうだろう」

老師の人差し指が眩い光が放たれたかと思えば、滝が逆さに流れ始めたではないか。
滝は天へと落下を始める。

――――フォース……!

ラウラの求める最終形がそこにはあった。

ラウラの専用機『Schwarzer Regen Ⅱ(シュヴァルツェア・レーゲン・ツヴァイ)』には本来、第三世代用武装アクティブイナーシャルキャンセラー。通称AICと呼ばれる慣性停止結界――つまり、相手の動きを止めるエネルギー場――が搭載される予定だった。
だが、フォースに目覚めたラウラは自力で同じ事が出来るためにAICはオミットされ、その分、浮いた開発期間を基礎能力の底上げに使われた。
右肩に搭載されるはずだった大型レールガンも変更が加えられ、当初の予定の三倍の火力を得る事に成功したのだった。
そんな最強のISとフォースによる停止結界を駆使するラウラ・ボーデヴィッヒに勝てる者がいるはずがなかろう。

――確かに生身では勝てぬとも、ISを使えば老師にも勝てよう。我がドイツの科学力は世界一なのだから。

尊敬する老師が私の力を見抜けないというのは恐らく弟子に抜かれるという焦りで目が曇っているのだろうとラウラは考えた。
何と哀れな事なのだろうか。
国士無双の名手とは言え、弟子が東西南北中央不敗マスターラウラとなるのは許せぬのか。
器の小さき話だ。

「ラウラよ、IS学園へ行くのだ。そこで貴様は敗北を知るだろう」

「はっ!」

大恩ある老師に従うのも、これで最後。そう思えば負けると決め付ける老師の言葉にも腹は立たなかった。



ラウラの背を見送る老師の目はひどく悲しかった。
敵のいないラウラは慢心という病に冒されていた。
だが、老師。いや、五反田弾自らラウラを叩きのめし、慢心から解き放ってやる事は出来ぬ。

その時、ふわりと五反田弾の拳に一羽の小鳥が舞い降りた。
動かぬ五反田弾を見て、身を休めようとしたのだろう。
しかし、足が触れた瞬間、その頭が最初からそうであったかのように二つに分かれて行く。
徐々に頭から重力に引かれ、無残に斬り分けられた。

五反田魂の拳は触れる者全ての命を奪わずにはいられぬ必殺の拳。
強敵(とも)である織斑一夏のように望んだ物だけを貫く拳ではないのだ。

「頼むぞ、一夏……お前ならラウラの慢心を貫き、愛を教えてやれるはずだ…………」

血に汚れた己の手を悲しげに見つめる五反田弾。
この心優しき魂に天が与えたのは残酷なまでの殺人拳だったのだ。
ゆえに五反田弾が触れられるのは織斑一夏と、

「行かせちゃったんだね、おにぃ」

その妹、五反田蘭だけなのだ。
必死の努力の末、兄のために、兄に斬られぬだけの拳力を手に入れたのだった。

「ああ、次に会う時はきっとラウラはより大きく、真の強さを知るはずだろう」

「そうね……一夏さんなら。一夏さんなら、きっと」

二人の兄弟の心を知らず、ラウラ・ボーデヴィッヒは日本へと旅立って行った。
ああ、ラウラよ。汝、どこに向かうのだ。













次回予告

ラウラ・ボーデヴィッヒ。
またの名を独眼鬼のラウラ。
慢心という病に冒された彼女は東洋の地で魔人に出会う。
類い希な力を持つ二人。だが、彼女達にあるのはただの力。
真なる強さを知らぬラウラを織斑一夏は救えるのか?

次回、『多分、嘘予告』

刮目して待て。



[26698] ラウラ・ボーデヴィッヒ2
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/27 23:47
一目見た時、名も無き少女はその部屋に案内されて、まずこう言った。

「ここは牢屋かなんかですか?」

打ちっぱなしのコンクリートには壁紙というような気の効いた物は貼っていない。
壁も、天井も、床もコンクリートだ。
あるのは明らかに安物で年季の入ったベッドが二つ。
他の部屋が立派なホテル並みの施設なのに対し、個室にシャワーもない。
部屋の隅にある薄汚れた白いアヒルは何の冗談だろうか?トイレ?

セシリア・オルコットのプライベートスペースが名も無き少女のスペースを畳半畳にまで侵攻して来てしまい、やむなく配置換えを要請したら、この部屋に叩きこまれたのだ。

「まさか、私が打ち込めぬとは!」

ついでに転入生ラウラ・ボーデヴィッヒのオマケ付きである。

―――自己紹介は一言だし、その後、織斑様と見つめ合ってたし、あんまり仲良く出来そうにないかな?

若干、引いている少女ではあるが生来のお人好しの彼女。
せめて、こんな過酷な環境に置かれた仲間同士なのだから、挨拶くらいは交わすべきであろう。

ちなみに最初は普通の部屋を用意してあったのだが、ラウラが転入の挨拶をする時に織斑一夏に打ち込もうとしていたのを見た千冬が用意したのが、この部屋だ。
完全に少女は巻き込まれただけである。

「ラウラさん、私「くそっ、まさか私並みの使い手が数人もいるなど予想外だ……」やっぱりね。わかってましたよ」

箒やセシリアや鈴音との付き合いは彼女に耐性を付けていた。
もはや、このような扱いは日常茶飯事。

「む、貴様いつから居たのだ!?」
「最初からいましたよーだ……」

とは言え、やはり凹むものは凹むらしい。

「私はラウラさんのルームメイトの「そうか、その隠行……さてはNINJAだな?」なにそのぶっ飛んだ発想!?」

NINJAとは風の如き速さで千里を疾り、ひとっ飛びで東京タワーを飛び越えるJAPANのスパイの総称である。
変装の達人である彼らは常に額当てを付け、MAKIMONOと呼ばれる特殊な書物より学んだRASENGAN、TIDORIなどと呼ばれる技を使い、常に正面突破。一対一を心掛ける誇り高き決闘者(デュエリスト)なのだ。
その誇りは如何に数の利があろうとも、戦わぬ者は必ず隙を見せた棒立ちを維持する事から明らかだ。

「だ、そうだな!」

ラウラ、満面の笑みである。

「それは特殊な例だよ!?もっと忍者は忍ぶよ!!」
「むう、そうなのか……」

しゅんとするラウラ。

―――あれ、ラウラさんってちっちゃくて……何だか妹みたい。

ちょっぴりキュンと来たのである。

「さすがはNINJA、詳しいな!」
「え、ちが「はっはっは、このラウラ・ボーデヴィッヒの目には如何なる隠し事も無意味だ。
安心しろ、私は口が固い。貴様の秘密は必ず守ると誓おう」
「わー……ありがとう」

少女の周りには話を聞かない人間が集まるのか、それとも話せぬ少女が悪いのか。
ラウラの目が節穴にも程があるのか。

しかし、いつまでもこうしてはいられまい。
未だ名も名乗れぬ少女はこれから先、いつ名を名乗れるかわかったものではない。
恐らく全世界三人くらいはいる少女のファンも名を知りたくて仕方がないはずだ。

「ラウラさん、私の名前は「ああ、わかっている。NINJAの名を聞いた者は死、あるのみなのだろう?
聞かぬから安心しろ」

「そもそも私、忍者じゃ「そうだ、NINJAよ。私に一組の強者を教えてくれないか?」なんかもういいや……」

セシリアと同室の時に思い知った代表候補生と一般生徒との壁が再び少女の前に立ちはだかる。
すでに乗り越える気力もないが。

「えっとね、まずは織斑様かな?」
「奴はいい。色々と聞いている」
「じゃあ、あとはセシリア・オルコットさん。
イギリス代表候補生で青いISがすっごく綺麗なんだよ!
でね?狙った獲物を逃がさない女狩人って感じかな?」

非常にまとまりの無い説明ではあるが、ラウラの受け取り方は違うようだった。
ラウラの紫色の脳細胞が活動を開始した。

「ふむ……こんな頭の悪い話し方をする愚か者がNINJAとしてやっていけるはずもない。
NINJAは暗号を得意とするはず……つまり」

狙った獲物を逃さない狩人。
―――これは素直に射撃武器の遣い手と考えればいいだろう。

青い、綺麗。
―――相手が出血により蒼白な顔をしているのを見て喜ぶ真性のサディスト……!

完全には解読出来なかったが大筋に間違いはあるまい。ラウラはそう判断した。

「さすがはNINJAだな、貴様」
「え?えへへ」

よくわからずとも誉められるのに慣れていない少女は照れるが、ラウラの方は、

―――このお気楽で頭の緩そうな姿が擬態とは……隙があり過ぎて、どれが真の隙だか見極められん……

少女の評価がラウラの中で織斑一夏クラスまで引き上げられていた。

「ふっ、私の真の強敵(とも)はお前なのかもしれないな」
「えへへ、お友達だね!」

この出会いが後に『シュヴァルツェア・ハーゼ』を世界最強の部隊へとするのだが――――



次回予告

フフフフフフン、フフフフフフン
フフフフフンフフフーフン
フフフ、フフフ、フフフフフ、フーフン
フフフフフフン、フフフフフフン
フフフフフフンフフフ………ン
――次回、「ハード・ラック・ウーマン」



[26698] 『ハード・ラック・ウーマン』1
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/27 23:48
名も無き少女、まさかの主役回である。





アリーナにラウラの怒声が響く。

「私は学年別トーナメントで、こいつとコンビを組む。
そして、貴様ら全員がこいつの力を知る事になるだろう!」

「え?」

セシリアは首を傾げた。
―――あの方は誰だったかしら……

「え?」

鈴は首を傾げた。
―――……誰?

シャルロットは首を傾げた。
―――普通に初対面だよね。

「え?」

少女は首を傾げた。
―――こいつって誰?え?

こうなった原因を探るには僅かばかり時間を遡らねばならない。



織斑一夏ハーレムに入るためには何が必要であるのか?
日夜、IS学園の生徒達は考えている。
まず美しさは必ず必要だろう。

そして、強さ。
腕っ節のみならず、心の強さも必要なのではないか?というのが最近の研究で報告されている。

だが、実際にハーレム入りした二人。
セシリア・オルコットと鳳鈴音からしてみれば学年別トーナメントを数日後に控えた今この瞬間、必要な物は目の前の相手を屈服させる力のみだ。

時は放課後、自習訓練を許可されたアリーナにて彼女達は向き合う。

「セシリア……私さ。あんたの事、友達だと思ってる」

鈴音はISスーツを纏い、腕につけた『甲龍』の待機形態のブレスレットを自らの眼前に構える。

「わたくしも鈴さんの事は友人……いえ、とても大切な友人ですわ」

セシリアは耳に付けたブルーティアーズの待機形態の青いイヤーカフスを指で弾いた。

「「でも、だからこそ」」

二人は同時にISを展開。
装甲と武装が彼女達の柔肌を包み、ただのか弱き少女を世界中の男達の上に君臨する女王へと変身させて行く。

彼女達の上に立つ王はただ一人。

だからこそ、

「まずはあんたを倒して私が第二婦人になるわ!
私の拳、甘くはないわよ!」

「あなたを倒して、旦那様の寵愛を更に得る事にしますわ!
さあ、踊りなさい。
本日のわたくし、セシリア・オルコットとブルーティアーズは円舞曲では済みませんわよ!」

機体のエネルギーは満タン。
テンションもMAX。
つまりは最初からクライマックス。

「落ちなさい!」

ブルーティアーズは前回の焼き直しのように最初から自らの側で滞空させた二機のビット『ブルーティアーズ』と手にした狙撃銃を同時射撃。
同一部位同時射撃――通称ジャックポットを放つ。
シールドを破り、ISを直接破壊する魔技である。

「私をナメてんの?
それは前も通じなかったじゃない!」

フル加速しながら異形の青龍刀『双天牙月』をバトンのように回転させ、セシリアの射撃を弾く。
このままではまさに前回の焼き直しだ。

しかし、

「ここからが新生セシリア・オルコットとブルーティアーズの舞踏会の始まりですわ!」

再びセシリアはジャックポットを放つ。

「バカにしてるの!?セシリア!」

憤りに叫んだ鈴音ではあったが、その瞬間、強烈な悪寒。
わずかに頭を振った。
そして、

―――な!?

セシリアは視界に納めている。
無論、彼女が放った三発の弾丸も見えている。



だが、これはいつからあった?



セシリアの放った弾丸は三発のはずだ。
しかし、鈴音の正面に、その三発より、僅かに早く着弾する『もう一発の弾丸が存在していた』。

当たる。鈴音はそう判断した。

何度も鈴音の命を救って来た直感はすでに脳が指令を下すよりも先に身体を掌握し、僅かながら身体を右に捻った。
当たった弾丸はシールドを焼き、僅かばかりのエネルギーを削り、千金より貴重な鈴音の時間を奪い、回し受けの迎撃を失敗させる。

「ヘッドショット狙いとか!殺す気かー!」

シールドをまんまと貫通させたジャックポットは身体を捻らなければ鈴音の頭があった場所。右の衝撃砲『龍咆』を貫通―――誘爆する前に切り離す―――小規模な爆発。

「おほほ、スナイパーがヘッドショット以外、何を狙いますの?
それよりいかがです。わたくしの新技『インビシブルティアー』のお味は」

セシリアは優雅に、だが滴る汗を拭う余裕も無く。
ほんの僅か、普段であれば楽々とこなす射撃戦のみでかなりの消耗を得ている。

「はっ、私をあんなちゃちな雫くらいで倒せると思ったの?」

鈴音は挑発を返しながらも、頭の中を整理する。

―――突然、現れた弾丸。
―――セシリアの異常な消耗。
―――ブルーティアーズの機能ではなく新技。

この中に恐らくセシリアの技の正体が隠されているはず。

「わたくし、いつまでも待って差し上げる程に気は長くなくてよ!」

「くっ……!」

鈴音の思考は中断。
セシリアの猛攻が、















「お父様の序列を決めるのに僕を呼んでくれないなんて酷いなあ」

―――イグニッション・ブースト。
―――セシリアの背中に第二世代型IS特有のごつい拳が当てられる。

「シャルロット!?シールドピアース!」
「違う!」

―――やり過ぎとしか思えない爆発がシャルロットの腕に取り付けられたパイルバンカーより起こる。
―――その爆発力は圧縮され、巨大な鉄杭の推進力に。

「僕のとっつきは……ユニバァァァァァァァァァァスっ!」

セシリアの背中にぶち当たった巨大な鉄杭は余すことなく衝撃を伝え、ISの飛行速度を遥かに超える速度で外壁にセシリアを叩きこんだ。



―――シャルロット・デュノア、参戦。



[26698] 『ハード・ラック・ウーマン』2
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/27 23:50
第二世代のISと言えば?
そう問われた時、必ず三指に入る名機デュノア社製『ラファール』。
豊富な拡張領域と癖の無い追従性。その軽い加速性能は多くのIS乗りを魅了した。

だが、日進月歩のIS業界の主流はすでに試作段階ではあるが第三世代機。
『ラファール』の栄光は過去の物だと思われた。

しかし、シャルロット・デュノアはそれを認めない。
『デュノア社の製品だから』ではなく、『心の底からラファールを愛しているから』
それが何故かはわからない。だが、自分はラファールでしか駄目なのだとシャルロットは確信していた。

シャルロットの専用機『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』はすでに原型機の二倍の拡張領域を得ている。
シャルロットはデュノア社の実権を握ったシャルロットの母(現在の社長はシャルロット母の傀儡である)の全面的なバックアップを受け、再度、『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』のフルカスタムを行った。
元デュノア社社長(現在はシャルロットの母の秘書)の意向を受けていたカスタムⅡとは違い、今回はシャルロットが全面的に設計に参加した。
もはや、これは『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅢ』などという物ではない。



『ラファール・シャルロット・ル・メイユール』



最先端の技術により、拡張領域は『ラファール』の二.三倍。
アサルトライフル、ショットガン、ブレードなどの武装は全てオミット。
右腕には新開発されたデュノア社製パイルバンカー『シャルロット』
更に左腕には非固定浮遊型のシールドガトリング。
背部には電磁投射式の大口径グレネードが設置されている。

白と芥子色(ハニービー)に染め上げられた機体はまるで危険を知らせている警戒色。



シャルロットは右腕のパイルバンカーをリロード。抱えるのも苦労しそうな薬莢が排出される。

「二人とも僕と母様を助けてくれた恩人だけど、こんな楽しそうなイベントに僕を呼んでくれないだなんて……
ちょっと、ひどいよね?」

人としての恩は確かにシャルロットの胸にある。
だが、それは乙女の道とは何の関係もない。
乙女道とは甘く華やかで、それと同時に血塗られた呪わしき道。

想い人に会えば必死のアピール。
恋敵に会えば絶殺の決闘。

これが太古より、連綿と受け継がれて来た常に命懸けの乙女の生き方。
愚かな男にはわからないだろうが、与謝野晶子の「命短し、恋せよ乙女」という言葉はまさに字の通り。
まさしく恋は戦いなのだ。

「ふん、まぁあの縦ロールを仕留めてくれたのには感謝するわ。
一夏の第三婦人にしてあげてもいいと思う程度にはね!」

言い終わると同時に鈴音は前に出た。
セシリアに衝撃砲を一門破壊され、遠中距離戦では手数が足りない。
しかし、シャルロットも自らの名前をパイルバンカーに付けるくらいの生粋のとっつき狂ではあるが、同じくらい生粋の戦闘者である。
己の利点を殺すはずもなく、ガトリングガンの弾幕を放ち、鈴音を寄せ付けない。

「無駄だよ!接近戦でも僕が勝つけど、万が一の勝機も与えない!」

シールドに任せ、無理に弾幕を突っ切る事は出来るだろう。
だが、

「ああもう!明らかに誘う気満々じゃない!」

背部の電磁投射(レールガン)式グレネードが鈴音を常に狙い続けている。

―――撃って来ないって事は弾数が少ないか、離れてたら簡単に当たらない程度の弾速しかないのか。

鈴音の予測した通り、電磁投射を利用しても目に見える程度の速さでしか飛ばない砲弾。
しかも、弾数は三発しか搭載出来ない。
そして、その威力はそれらの欠点を帳消しにするほど。
まともに直撃してしまえば、シールドエネルギーをフルチャージされていても一撃で落ちてしまうだろう。

遠距離をガトリングガンの弾幕。
中距離をレールガン。
接近すればパイルバンカー。
嫌になるほど堅実かつ、一撃必殺。
まんまと乗せられれば、相手のみが踊る事になる舞踏会。





どうでもいい事ではあるが、現在、放課後、自主訓練を許可されたアリーナ。
つまり、他にも生徒達が自主訓練している。
いきなり始まった代表候補生達のバトルロイヤルに一組を除き、すでに退避していた。
残った一組というのは、

「おい、NINJA。貴様が実力を隠さねばならんのはわかっているが、さすがに手を抜きすぎだろう?」

武装はしていないがドイツ製特有の鋭角的な装甲が特徴の専用機『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏うラウラ・ボーデヴィッヒと、

「だ、だから、忍者じゃな……おろおろおろおろおろおろ」

打金を纏うも這いつくばってゲロを吐く名も無き少女。
ラウラの軍隊仕込みのトレーニングに付き合ったのが運の尽き。
何故、彼女達が逃げないのかと言えば頭上を弾が飛び交うのはラウラにとって日常茶飯事。
名も無き少女はそもそも気付いていない。

「ちゃお」
「む。何だ、貴様。流れ弾が来るから、あっちに行け」

そして、シャルロットに手こずっていた鈴音がラウラの元に。……いや、うずくまっておろおろおろ吐いている名も無き少女の元に。

「ねぇ、あんた。大丈夫?」

優しく少女の首筋を掴む鈴音の表情はまるで聖母のように慈愛に溢れ、

「あびがおろおろおろおろおろおろ」

這い蹲るゲロ子(仮名)には眩く、そして、邪悪に見えた。

「ありがとうって言った以上、私に恩を返す義理があるわよね!」
「えっ」
「貴様!?」

掴んでいた首筋をそのまま持ち上げると、鈴音は再びシャルロットの元へ突っ込んで行く。

「盾げーっと!」

肉盾である。

「ええー!?鬼畜過ぎるよ!」
「そう言いながら、撃ちまくるあんたに言われたくないわ!」
「タイム!タイム!さすがにそれはズルいよ!?
生物兵器はズルい!さすがにゲロまみれは僕いやだよ!」
「おろおろおろおろおろおろおろおろおろ」

天空から降り注ぐゲロでシャルロットがヤバい。
もう、色々な意味でヤバい。
果たしてこの状況、どうなるのか?
次回へ続く。

「おろおろおろおろおろおろおろおろおろおろおろおろ」



[26698] 『ハード・ラック・ウーマン』3
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/27 23:52
「あははは!待ちなさい、シャル!」
「ゲロはいやだよぉ!?」
「おろおろおろおろおろおろ」

まさに阿鼻叫喚である。

「もう、僕だって怒るんだからね!」

逃げ回るのも無駄だと気付いたのかシャルロットはレールガンを構える。
敵の弾(ゲロ)が尽きない以上、やり返さねばならない。

「あ、やばっ」

調子に乗っていた鈴音は名も無き少女を切り捨て(パージ)。
シャルロットに向かって、である。

「え、あ、ちょ!?やぁぁぁぁぁ!?」

あまりに慌てたシャルロットは思わず、そのままトリガーを引いてしまう。
哀れ、名も無き少女、最後の時か。














「セシリア・オルコット。目標を狙い撃ちますわよ!」

ぼろぼろの身から放たれたのは青い雫。
音速を超える弾丸はまるで青い流星のように映る。
弾丸は放たれる寸前だったレールガンの砲口に大当たり。

「っ……きゃあ!」

見事、砲身の中のグレネードを爆発させた。

「お返しでしてよ!」

衝撃に倒れ伏すシャルロット。そして、迎え撃たれる事が無かった少女。
つまり、

「おろおろおろおろおろおろおろおろおろおろおろおろおろおろおろ」
「おろおろおろおろおろおろおろおろおろおろおろおろおろおろおろ」

頭から名も無き少女のゲロを被ったシャルロットがつい貰い○○をしてしまう結果となる。
表現の差はメインとモブの差を表しているが、やっている事は変わらない。

「い、いくらなんだって、やっていい事と悪い事の差くらいわかるよね……!
ひっく……ひっく…………う、うわーん!」

そして、まさかのシャルロット、ガチ泣き。

「あ、あのね!……本当にごめん。私が悪かったわ」
「少し調子に乗りすぎましたわ!わたくしも謝罪させて頂きますわ……」

泣いてる子供に勝てないように、女の子座りをして泣き出したシャルロットに勝てる者はいまい。……○○塗れだが。

「ひ、ひどいよ。鈴さん……私だって!」

ようやく出し尽くした名も無き少女も怒りを露わに、

「ごめんね!こ、今度、ケーキ奢るから!」
「そ、そんなのじゃ騙されないんだからね!五個」
「本当にごめん!この通り!三個」
「むー……四個」
「うー……それで手を打ちましょう」

セシリアがよい事を思いついたとばかりに手を打ち鳴らした。

「そうですわ。これから皆さんでお茶にいたしましょう。
シャルさんの好きなお菓子もありますわよ!」
「……ほんと?」
「ええ、この間、沢山召し上がっていたクッキーをまた取り寄せましたのよ」
「あ、あれは……!その時、お腹が空いてただけだもん!」
「うふふ、そういう事にしておきましょうか」
「あはは、シャル〜顔真っ赤だよー?」
「シャルロットさん、可愛いー」
「も、もうっ知らないっ!」

少女達の笑い声がアリーナに木霊する。
戦いが終われば、友情を深め合い、ただ笑い合う。
確か彼女達はまた戦わなければならない運命にあるだろう。
しかし、今だけは少女達に休息を……











「って貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ラウラのレールガンが突如、撃ち込まれる。
だが、さすがの代表候補生達は即座に反応。

「え?」

全員が散開し、残されたのは、

「また私ぃ!?」

吹き飛ばされた名も無き少女のみであった。
流石に頑丈さが取り得の打金と言えども絶対防御が発動し、リタイア。



―――ラウラ・ボーデヴィッヒ、乱入。



決して自分だけお茶会に誘われなかったからキレた訳ではない。



















ドイツの少女ラウラは、力を二つ持っている。
一つはフォース。
いかなる相手の動きを止める絶対遵守の力。
一つはIS。ラウラをぼっちにして行われるお茶会を破壊するための彼女の専用機。
さびしんぼうのラウラはお茶会を破壊するために動き出す。
そして、強敵(とも)を取り返すために。
。その行動がいかなる結果を生んでいくのか、今はまだ誰も知らない。

次回、『このぐだぐだをそろそろなんとかしたい』



[26698] ラウラ・ボーデヴィッヒ3
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/27 23:53
注意・嘘予告ならぬ嘘本編





―――一瞬即発。

もし、誰かが一歩でも動けば―――ラウラが、鈴音が、セシリアが、シャルロットが―――間違いなく暴発が始まる。
再び誰もが望まない戦争が始まってしまうのだ。

「お、お待ちなさい、ラウラさん!」

もし、ここで動けば最もダメージの大きいセシリアが真っ先に落ちるだろう。そのせいかその声には焦りの色が濃い。

「そ、そうよ。今、あんたの事、誘おうって言おうとしてた所だしさ!
そうよね、シャル!?」

鈴音とて無益な争いは望まぬ。
当然の如く他人を利用しようとする魂胆は生き汚き姿。
だが、これも最後まで生き残らんとする立派な戦略だ。それを誰が責められると言うのか。

「えっ、そんな事、言ってたっけ?」

だが、なんとした事だろうか。
シャルロットは常の笑顔を浮かべたまま、事も無げに挑発を返した。
○○をぶちまけられようとも、最後には自分が勝利するというプライドがシャルロット・デュノアの背骨なのだ。
背骨無く生きる人間などいないように、シャルロット・デュノアはプライドを捨てぬ。

「あはは、やだな!それ私に言ったんだよ、鈴さん!」

名も無き少女に元よりプライドなどありはせぬ。
あるのは保身だけなのだ。

「………………本当か?私もお茶会に行っていいのか?」

ラウラ・ボーデヴィッヒ。
まさにアンタッチャブルを体現した彼女を見よ。
僅かに腰を落とし、この中で誰が一番か弱き相手か油断なく上目にて見定めている。
涙に潤んだ瞳は獲物に食らいつける喜びのためか?
はたまた生き血を啜れる未来予想に性的な快楽を得ているのか?
恐るべき魔人である。

そんな中、戦いを止めようと奴が、奴らが現れた。

「皆のものぉ〜控えおろぉ〜〜」

その身を包むは緑の恐竜を模したと思われるふわふわの着ぐるみ。
悪の子達を全て食らい尽くす恐竜を模した服装を着るという事はつまり、悪即斬を体現するという事だろう。
正義のためなら手段を選ばぬとでも言うつもりか。長すぎる袖は手元を見せぬ。
ここに如何なる暗器が仕込まれているのかわかったものではない。
ツーサイドに結われた髪があっちにぴょこぴょこ。こっちにぴょこぴょこする様子が可愛らし―――恐らくのほほんとした空気は敵を油断させる擬態であろう。

「その戦いぃ、このおりむーが預かったぁ〜〜」



―――布仏本音、織斑一夏の肩の上より参戦。



「うむ、我がこの戦いを預かった。この決着は学年別トーナメントにて付けよ!」
「いえ、旦那様。もう、戦う気はありませんし、これからお茶会に……それより、その肩の上の方は
「くっ……!私にはまだお茶会に出席する資格はないというのか……!」
いえ、普通にありますわよ」
「むしろ、あんたそんなにお茶会に参加したいんだ……」

のほほんさん、もとい布仏本音に悪と断じられた以上、ラウラに明日は無い。
しかし、そんな正義の鬼、布仏本音の僅かばかりの慈悲がこれなのだろう。



『お茶会に参加したければ、己の力を示せ』



IS学園一年最強タッグと呼ばれる覇王織斑一夏と正義の鬼布仏本音と戦わねばならぬとは……!
確かにラウラは強い。だが、果たしてこの二人を一度に相手取り勝利を得る事が可能だろうか?

―――悔しいが、ここは奴の……NINJAの力を借りなくてはなるまい。

アリーナにラウラの怒声が響く。

「私は学年別トーナメントで、こいつとコンビを組む。
そして、貴様ら全員がこいつの力を知る事になるだろう!」

ラウラの視線の先には名も無き少女。
絶対防御が発動したせいで動けないが、必死に背後に誰かの姿を探そうとしている。

「え?後ろに誰かいるの?」

中には誰もいませんよ?

「ふっ、その時を楽しみにしていよう」
「いよぅ〜」

織斑一夏は黒いマントを翻すと、その場を後にする。
肩の上に座る布仏本音は左右にゆらゆらと揺れる。
恐らくいつ狙われたとしても照準を付けにくいようにしているのだろう。

「ねーねー、おりむー。私達もお茶会しよぉ〜……夜、二人っきりで」
「ふっ、いいだろう」

その幼き唇から飛び出す不釣り合いな言葉にはそれに相応しいだけの色気が籠められていた。
僅かにペロリと飛び出した舌はまるで舌なめずりする肉食獣のようであり―――

「いつの間にかライバルが増えてますわよ!?」
「いいなぁ、僕いつもお母様と一緒だから、たまには二人っきりがいいなぁ。第二婦人的に」
「いつシャルが第二婦人になったのよ!」
「え、だってセシリア落としたから撃墜一だよね?判定勝ちだよ」
「わたくし落とされていませんわよ!」

騒がしくトーナメントへの勝利を目指す少女達と離れ、ラウラ・ボーデヴィッヒと名も無き少女は静かに語り合う。

「頼むぞ、NINJA」
「え?うん」

彼女はこの数日後、適当に返事した事を心底、生涯、後悔する事になるのだった。



[26698] ラウラ・ボーデヴィッヒ4
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/28 00:04
夕飯時、ラウラと名も無き少女は食堂へ来ていた。
何しろ二人の部屋には白いアヒルしかないのだ。コンロのような気の効いた物があるはずがない。

「NINJA、NINJA!ここでのオススメはなんだ!イモか?ジャガイモか?」
「ど、どうしたの!?なんでそんなにテンション高いの!?」
「何を言っている。この兵隊家業、食べる以外に何の楽しみがあるんだ?」
「い、今は私達は学生!兵隊さんじゃないよ!」

建て前上は皆、利害の絡まぬただの学生である。

「それに……強敵(とも)と一緒にご飯を食べるのは始めてだからな!」
「ラウラさん……!」

満面の笑顔で言い切るラウラに少女の胸は痛む。

―――よっぽど友達いなかったんだね……

試験管ベイビーだの、何故ドイツ軍で若干一五歳で隊長をやっていたのだろう?など重い話は完全に想像もしていないし、そんな情報が入る伝手もないのだ。
良くも悪くも彼女はどこまで行っても凡人なのだから。

「それより、ここのオススメはなんだ?どんな芋が出てくるのだ?」
「どうしてそんなに芋にこだわるのかな……」

なお、作者は友人とドイツ旅行に行く約束をしていたが、どうしても外せない用事が出来て行けなかった事がある。
私を置いて、ドイツに行った友人宅の庭にジャガイモを植えまくったのは正当な報復だと今も考えている。
そのジャガイモが繁殖し、今回の地震で貴重な食料になったのだから、むしろ感謝して欲しいくらいだ。

「とりあえず日替わりBセットなんていいんじゃないかな?ケーキ着いてくるし」
「ケーキ……だと…………!?」

わなわなと震えるラウラ。

「ああ、そうか。私は死ぬのだな?」
「あはは、何言ってるのよ。あ、私料理取ってくるから、席取っておいて」
「うむ……わかった」





「はい、お待たせ。今日の日替わりはカレーといちごのショートケーキだったよ」

ラウラは天を仰ぎ、静かに涙した。
生まれて来た事を神に感謝し、苦難多き道のりを思い出し、強敵(とも)に出会う切っ掛けを作ってくれた老師に感謝した。
確かに未だにくすぶる怒りはあるが、それはもう問題ない。
鼻をくすぐるスパイスの香りと宝石のようないちごがあれば……
カレー粉は蛇にかけて、食べる物ではないのだとラウラは始めて知った。

「嗚呼、天国はここにあったんだ……」

ドイツで老師の下にいた時のように生のジャガイモをかじる生活をしなくていいなんて……
ラウラの胸に暖かい物がこみ上げて来る。

「あはは、ラウラさんは意外と冗談上手いんだね」

ラウラの前にカレーとケーキのトレイを置き、少女は自分も座った。
彼女の夕飯は山盛りのナポリタンとサラダだ。

「じゃあ、食べようか。いただきます」
「あ、ああ……いただきます!?」

見様見真似ではあるが、ラウラは素直に少女の真似をして手を合わせた。

―――カレー様とケーキ様を僅かな過失を元に取り上げられる訳にはいかない……!

もし、この手にした幸福を奪う者があればラウラは獣と化すだろう。
例えISを使えずとも素手で老師五反田弾に立ち向かう事もやぶさかではない。
しかし、

「な、なんだと…………!?」

ラウラの手にしたスプーンは有り得ない程、揺れており……いや、ラウラ・ボーデヴィッヒが震えている。



あのラウラ・ボーデヴィッヒが震えていた。



砲火を子守歌代わりに、戦場を遊び場代わりに生きて来たラウラが震えていた。
あまりに尊い存在を前に、それを汚す己があまりに畏れ多く―――

「どしたの?あ、そうかー?食べさせて欲しいんだー」

あはは、と笑いながらカレーとライスをスプーンですくい、少女はラウラの鼻先に突き出した。
まるで生まれたばかりの雛が親鳥から餌をもらうかの如くラウラは――――カレーを食べた。















「っう………………………………!?」

圧倒的………!圧倒的幸福……………………!
ラウラ、会心の幸せ…………!

「生きててよかったぁ…………!」

カレーは命より重い……!そこの認識をごまかす輩は生涯地を這う……!

「くっ……だが!し、静まれ、私の右手……!」

カレーを口にした事でラウラの震えは更に悪化する。
憧れの傍にいるだけでラウラは幸せだった。
だが、もっと憧れの近くへと行ってみれば、憧れはもっと……遥か遠い天蓋にいた。
ラウラでは生涯、辿り着けない境地にあるカレーを再び口にしようだなんて、烏滸がましいにも程がある……!

その時、ラウラは天啓を得た。

「頼む!頼む、NINJA」

それはDOGEZA。
JAPANに古くから伝わる儀式の一種であり生涯、その相手へと服従するという誓約である。
これを破りし者は八百万のゴーストが襲いかかって来ると言われている。

「頼む、食べさせてくれ!お願いだ、お願いします……!」
「ええ!?で、でも」
「お前が(私にカレーを食べさせてくれ)……(カレーが)欲しいんだ!!」

しんとする食堂。
視線は二人に集中。

「……………………………………………」
「……………………………………………」
「……………………………………………」
「……………………………………………」
「……………………………………………」

「え、えー…………なにこの空気」

ラウラはDOGEZAを崩さない。
許しがあるまで頭を上げてはならないのだ。

「え、えーと……じゃあ、お友達から。……はい、あーん」

誰かが拍手をした。
誰かが拍手をした。
勇気ある者への祝福が鳴り響く。

「本当か!?
ありがとう……!本当にありがとう!」

ラウラは再びカレーを口にする。
もう二度と手に入らなかったかもしれない愛しいカレーをラウラ・ボーデヴィッヒの全存在を駆使し、味わう。

「おめでとう」

一人の生徒がラウラの前にモンブランを差し出した。

「おめでとう」

一人の生徒がラウラの前に桃のタルトを差し出した。

「おめでとう」

一人の生徒が近藤さんを差し出した。

「おめでとう」

これは新たなるカップルへの祝福。

「おめでとう」

食堂にいる者達は皆、彼女達を祝った。

「さあ、NINJA!次だ!次はこれを頼む!」
「うー……仕方ないなぁ」

ラウラも少女もよく事実を理解していなかったのだが。
よくわからないけど色々もらえてラッキー!と思っていた。



[26698] 『モンド・グロッソ』前編
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/28 18:29
モンド・グロッソ。
最強のIS乗りを決めるため、数多の戦乙女達が熾烈な死闘を繰り広げる。
その華やかな世界は見る者を魅了し、いつか自分も……そんな少女達を数多く生み出して行く。
いつか彼女達の中からブリュンヒルデの名を手にする者が現れる事だろう。

だが、今はまだブリュンヒルデの名を冠するに相応しい女はただ一人。
織斑千冬のみがブリュンヒルデと呼ばれる資格を持っている。
織斑千冬が再びブリュンヒルデと呼ばれるのか、それとも挑戦者が最強のブリュンヒルデの栄光を勝ち取るのか?

―――第二回モンド・グロッソ決勝戦が始まる。










そして、モンド・グロッソ決勝戦三時間前。
数々の装備に身を包んだ三万もの兵士達は荒野にて足を止めた。
薄汚き『亡国企業』の都合により、織斑千冬の二連覇を阻もうとする誇りを捨てし走狗達である。
彼らの目標は二人。
まず千冬の弟である織斑一夏。
こちらには別に五万の兵と二〇両の主力戦車がすでに向かっている。

そして、彼らの目標。
その名を五反田弾である。

―――織斑一夏の影、常に五反田弾あり。

ある時は知謀で、またある時は拳で、何度も織斑一夏を助けて来た五反田弾は『亡国企業』に苦い思いをさせて来た。
もし、五反田弾と織斑一夏を組ませれば大国すら裏から操る『亡国企業』とて手が出せぬのは、これまでの経験からわかっている。
ならば、とばかりに二人を各個撃破を狙っているのだ。



そして、五反田弾は動けない。



―――五反田弾が三万の兵に臆したというのか?

三万の兵程度なら、五反田弾にかかれば何の障害にもならぬ。
例え数が倍になろうと、その拳の冴えの前に彼の歩みを誇り無き狗共では止める事は不可能。
ならば何故か?

五反田弾は涙した。
その目より零れ落ちる涙はただ自らの無力さを嘆く悲しみの涙。



救えぬのだ。



五反田弾はたった一人の少女さえ救えぬ無力な漢なのだ。
いくら万の兵士を斬り捨てられる拳があろうと、悲しみに浸る少女の涙すら、この拳では拭ってやれぬ。
もし、そのような事をすれば少女は哀れ真っ二つになってしまうだろう。

「流石の五反田弾様と言えど、人質がいちゃあどうしようもあるめえなぁ!
この『亡国企業』のトップエース!ハイエナ様の頭脳にかかれば、五反田弾なんざ朝飯前よ!」

三万の兵で足りぬのは『亡国企業』とて、先刻承知である。
ならば、五反田弾が絶対に戦えない状況を作ってしまえばいいのだ。
確かに外道下劣極まりない策ではあるが、ハイエナの策は効果を現していた。
薄汚き野獣の懐にはナイフを突き付けられた銀髪の少女がいる。
怯えた表情の少女は哀れを誘い、まともな良心がある者なら助けずにはいられない。

「おいおい、五反田弾ともあろうお方ともあろう者がまさかビビっちまったのかぁ?
おい、何とか言ってみやがれってんだ!」

五反田弾の目に汚らわしき野獣の姿は映っていない。
ただ少女のみを見つめていた。
その目は、ただ真実のみを見通す。
そして、五反田弾は涙を止め、覚悟を決めた。

―――足を踏み出す。

無力な己ではあるが、少女を救わんと望んだ。
ならば前に進まねばならぬ。

―――足を踏み出す。

己が無力である事は何の言い訳にもならぬ。
五反田弾が五反田弾である以上、成すべきを成さねば五反田弾ではなくなるのだ。
五反田弾は、ただ誇りを胸に、ただ前に進む。

「ま、待て!人質が目に入らねえのか!?
くそっ、こうなったら!」

ハイエナはナイフを振り上げ、少女へと突き刺そうと、

五反田弾は天を指した。



―――それはフォース。



五反田弾に与えられし呪われた力である。
誰かを傷付ける事しか出来ぬ力ではあるが野獣一匹を駆除するのは容易き事だ。

「お、俺の腕がぁぁぁぁぁぁ!?く、くそ痛えじゃねえか!
だ、誰か俺を助けたわばっ!」

四肢を折り畳まれ、事切れた野獣の返り血を浴びようと少女は俯き微動だにせぬ。
それは初めて、血を浴びた事により自失しているようであり、

―――足を踏み出す。

五反田弾は少女の前まで辿り着いた。

「君を助けに来た。
私の名は五反田弾……君の名前を教えてはくれないか?」

五反田弾は少女の前に跪くと、その呪われた両の手を広げた。
その顔には優しき微笑み。
まるで自分の胸に飛び込んで来い。そう言わんばかりの微笑み。















―――五反田弾は幼き暗殺者を前に、無防備にその胸襟を開いたのだ。



「私はラウラ。ラウラ・ボーデヴィッヒ。貴様を殺す者だ」

ラウラの隠し持っていたナイフが、五反田弾の心の臓を抉った。
五反田弾の心臓に、その切っ先は確かに届いた。



[26698] 『モンド・グロッソ』後編
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/29 02:04
少女を人質とし、五反田弾を脅す。
そして、万が一、五反田弾が少女を助けたとしても少女自身が五反田弾を狙う暗殺者なのだ。
何と薄汚き策略か。

五反田弾は激怒している。

我が心臓をナイフを突き刺し、更に捻り、傷口を広げようとする少女に怒りはない。
ただ周りの大人が彼女に斯くあるべしと望んだだけなのだ。
彼女の周り全てが彼女に人を殺せと望んだだけなのだ。



ならば五反田弾は彼女に、ラウラ・ボーデヴィッヒに教えてやらねばならぬ。



「な、何故、貴様は死なない!?
お前が死ななければ私は私の有用性を証明が出来ないんだ!」

ラウラの世界はただ試験のみだ。
試験管ベイビーである彼女は常に『同類』。仲間ではなく、『同類』との比較実験を繰り返し、繰り返し、何度も行って来た。
一度でも敗北すれば劣悪な試験体と判断され、『廃棄処分』される。
昨日までいた『同類』が今日いなくなるのには、もう慣れた。
だが、ラウラは自分がいなくなるのが恐ろしかった。
自分がいなくなるのが想像出来ない。

だから、ひたすら自らの有用性を証明し続けるためにラウラは殺して、殺して、殺し尽くした。
そして、『同類』を殺し続ければ、いつしか『目標』を殺せと命じられた。
『目標』は『同類』に比べ、動きがとろく、殺しやすい。
そうラウラは思っていた。
思っていたのだ。
なのに、

「何故だ!何故、貴様は動ける!?
何故、私に有用性を証明させてくれないんだ!」

心の臓を貫かれながら、五反田弾は立ち上がった。
まだ幼きラウラは知らぬ。
五反田弾を動かす何かを知らぬ。


―――この少女に、世界は優しき物だと教えてやらなければいけない。



五反田弾は呪われた存在だ。
その拳に触れて生き残っているのは、たった二人。
拳を振るえば全てを殺し尽くさねばならぬ呪われた存在だ。
だが、強大な強敵(とも)が、愛しき妹が教えてくれた。

五反田弾は生きていていいのだと。
世界はこんなにも優しい物なのだと。

だから、五反田弾は前に進むのだ。
五反田弾の身体を動かすのは心臓より送り出される血潮のみか?



―――それは断じて否である。



五反田弾の胸に燃え上がるは正しき怒り。
故にその身は無敵。

少女は自らが涙を流す事なく泣いている事を理解していない。
ならば少女に涙を教えなければいけない。

少女を害する者はおらず、もう泣かなくてもいいのだと、五反田弾は証明してみせねばならない。

「ラウラよ。見ていてくれ……私の力を。
お前を守る絶対無敵の力を!」

五反田弾は天を指す。

―――それはフォース。

フォースの輝きに包まれた五反田弾は汚らわしき野獣の群れへと足を進める。
全ての敵を殺し尽くす力。
ラウラ・ボーデヴィッヒを害する全てを破壊し尽くす絶対の力である。

「相変わらず甘い男よ……」
「一夏……!」

崖の上より現れしは覇王織斑一夏。
強敵(とも)のため、守るべき少女のために織斑一夏は戦うのである。
崖を一跳び、ついでとばかりに野獣を蹴散らし、織斑一夏は五反田弾に肩を並べた。

「私もいるぞ!」
「千冬殿……!」

モンド・グロッソ決勝戦を控えた織斑千冬が何故ここに?
そう思ったのは野獣達のみである。

「ふっ、一夏が見ていないなら、お姉ちゃんは頑張る気はない」
「それでも感謝いたす……!」

三人は野獣達に向かって足を、





















「このシュトロハイムを忘れてもらっては困るなぁぁぁぁぁぁ!」
「シュトロハイム、生きていたのか!?」

我々は忘れない!
この高慢な、だが誇り高き雄姿を!
サンタナとの戦いで死んだはずのシュトロハイムが帰って来たのだ!
真のドイツ軍人は幼き少女を食い物にするドイツ軍を認めはしない!

四人は野獣へと、



















「私もいるぞ!」
「まさか!?」

マイケル・ウィルソン・Jr。
通りすがりの第四十七代アメリカ合衆国大統領である。
少女の涙を止めるために彼が現れないはずはない。

「どうして、あなたがここに!」
「何故なら私はアメリカ合衆国大統領だからだ!!」

大統領なら仕方ない。

五人は野獣達に、





















「待てぇぇぇぇぇぇぇえい!」
「お前は!?」

光のオーロラを身に纏い、奴は現れた。
黒いボディ。真っ赤な目。
未来を脅かす闇を切り裂く太陽。
その名を、

「俺は太陽の子……仮面ライダぁぁぁBLACK!RX!」

正義の味方は幼き少女を見捨てない!



「一夏、お姉ちゃんの格好いい所を見ていろ!」

織斑千冬が、

「ふっ、この程度……肩慣らしにもならぬわ!」

織斑一夏が、

「ありがとう……ありがとう、皆!」

五反田弾が、

「ふはははは!このシュトロハイム容赦せん!」

シュトロハイムが、

「おのれ、クライシス!」

仮面ライダーBLACK RXが、

「OK、Let's party!」

大統領が。
彼らが心を一つにした時、一人の少女を救えぬはずがあろうか?
そんな、か弱き少女が涙するエンディングは認めない。
少女にハッピーエンド以外は認めないのだ!






















「私はそんな誇り高き彼らに救って貰ったんだ……だから!
私はカレー様を……カレー様を食う!食べてみせるんだ!食べられるはずなんだ!
耐えてみせろ、私の右腕!」
「もうっ、少しは落ち着いて食べなよー」

彼らが救った少女はぽんこつになっていた。



[26698] ラウラ・ボーデヴィッヒ5
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/29 07:59
「ラウラさん、今日はお暇かしら?
もしよろしければ、ご一緒にお茶会は如何かしら?」

セシリア・オルコットは基本的に善人である。
我の強い所はあるが、オルコット家の財産を金の亡者共より守るため―――というよりも、他者が土足でオルコット家を踏みにじるのを許せなかった―――張り合う必要があって、現在のセシリア・オルコットのペルソナが形成されたのだ。
そのペルソナの裏には一度、撃たれたとは言え、本気で敵対するつもりではなかったラウラを快く許し、お茶会に誘うくらいの事はするお人好しの本性が隠されている。

一方のラウラと言えば、

「むう、ひょのここおうがいはあひがひゃいのにゃが」
「飲み込んでからでよろしくてよ」

餌付けをされていた。
見ているだけで癒やされるという事でクラスメイト、上級生。更には、

「えへー、ラウラさんは可愛いですねー。私もあの方との子供はこんな風に可愛い子供が欲しいですねぇ」

山田真耶など一部の教師からも非常に可愛がられていた。
そのためラウラはいつも飴やお菓子、ケーキなどを与えられ、セシリアから見れば明らかなカロリーオーバー。
これはわたくしがラウラさんを管理いたしませんと……など、頭を押さえている辺りセシリアはどこまで言っても悪人にはなれない証拠だろう。

「はむ……はむ……ん、よし。
心遣いはありがたいが、お茶会とは強敵(とも)でなければ行っては行けないのだろう?」

セシリアは食べかすが付いているラウラの顔を拭ってやりながら答える。

「ん、綺麗になりましたわね。
お茶会は別にそのような事はないと思いますわよ。友人になるためにお茶会を開くという目的もありますもの」
「ふむ………だが、やはり駄目だ。
私は強敵(とも)になるには、一度ぶつかり合ってみなければ行けないと老師に教えられて来た。お前とも一度、しっかり戦わなければならない」

どこの蛮族の方が老師なのでしょう?これは本格的にわたくし、セシリア・オルコットが淑女の何たるかをお教えしなければなりませんわね。

「ラウラさーん、飴ですよー」
「山田先生、虫歯と肥満の原因になりますから、おやめなさい」

セシリアは骨抜きになっている教師を見て、ラウラを何とかしようと決めた。

「だが感謝するぞ、オルコット。
お前が私に優しくしてくれているのは理解している。
その気持ち、私は嬉しい」

何の打算も裏もない、眼帯に隠されていない目が三日月のように細められ、ただ喜びと信頼だけがあるラウラの笑顔がセシリアに向けられていた。

「なら、ラウラさん、そのお礼にオルコットはやめてセシリアと呼んでいただけませんこと?」

こんな笑顔を浮かべられては、セシリアも笑顔を返さずにはいられない。

「ああ、わかった。
……セ、セシリア?」
「そうですわ。わたくしはセシリア・オルコット。
あなたのお友達になる者でしてよ?」
「うん……そうだな。そうか……」

ラウラは何かを考え、何かを納得し、

「わかった。明日のトーナメントで当たったら」

ラウラは真っ直ぐな瞳で、だがやっぱり満面の笑顔で、

「ええ、思いっきりぶつかって……終わったら、皆さんをお誘いしてお茶会をしましょう」

セシリアも真っ直ぐラウラを見つめ、華やかな笑顔を返した。

「ああ!それはとても楽しみだな!」
「ええ、わたくしも楽しみにしていますわ」




















「ねぇねぇ、おりむー?おりむーはみんなのお茶会に参加しないのぉ〜?」
「よせ、我はそこまで無粋ではない」
「だよねぇ〜……私も彼女達にちゃんと『ご挨拶』してからだね」

布仏本音は笑った。



[26698] 『学年別トーナメント第一回戦』
Name: 久保田◆4b468a75 ID:6b87a2f4
Date: 2011/03/30 00:00
学年別トーナメントが始まる。
友情を賭けて戦う事を決めたセシリアとラウラは共に対戦相手が発表される掲示板へと足を運んでいた。

青いISスーツを身にまとい、縦ロールのセットも完璧だ。
勝負時のみに使う母から貰ったピンクのルージュを唇に、完璧なセシリア・オルコットをラウラ・ボーデヴィッヒに魅せ付ける。

「ラウラさん。わたくしの強さ、見せ付けて差し上げますわよ!」

気合い十分。セシリアは腕を組み、ラウラを見下すかのように口を開く。
だが、ラウラも負けてはいない。

「ああ、わかっている。私と『シュヴァルツェア・レーゲン』の力、思い知らせてやるさ」

にやりと笑うラウラはひどく男の子のようで。

「もう、そんな男の方みたいな笑い方をしてはいけなくてよ?ほら、こうですわ。こう」

セシリアは愛しの旦那様を思い出して、自分の出来る限りににこやかに微笑んだ。

「む、こうか?」
「それじゃあ、お顔が引きつってましてよ」
「むう、笑うという行為はなかなか奥の深いものなのだな」
「ええ、特に殿方を魅せる笑顔はなかなかに難しいのですわ」

―――これより、第一回戦の組み合わせを発表します。

「む、いよいよか」

山田真耶の幼い顔が掲示板に映し出される。

「ええ、ラウラさん」

―――第一回戦第一試合。

「ああ、いい勝負をしよう」




















―――セシリア・オルコット、相川清香ペアvs織斑一夏、布仏本音ペア。

「ちょ、ちょ、ちょっとお待ちなさい!?」

―――何でしょうか?

「ここは私とラウラさんが戦う場面ではありませんの!?どうしていきなり旦那様がわたくしの相手なんですの!」

―――そう言われても先生、困っちゃうな。ペアの組み合わせも含めて完全ランダムですから、今回。

「なら、せめてラウラさんと当たるのに決勝戦まで行かないと……とかそういう組み合わせに!?」

―――そう言われてもなー………

困った顔をした真耶のマイクをカメラの映る範囲外にいた千冬が奪う。

―――やかましい、オルコット。黙れ。

「は、はいぃ……」

さすがに主役クラスの空気を引き込む力がないと、望んだ組み合わせにはならないのである。

「大丈夫だ、セシリア。きっと勝てると信じているぞ!」

ラウラは握り拳を作り、ガッツポーズ。

「そ、そうですわね……!旦那様を倒せなくても、何とか布仏さんを落として逃げ切れば判定勝ちも……!」

タイムオーバーの場合は残りシールドエネルギーの合計で勝敗が決まる。
織斑一夏はISを装備しないので最初から〇だ。
そういう意味では判定勝ちの可能性はまだあるはずだ。

「そうと決まれば!このセシリア・オルコットの力、魅せてあげますわよ!相川さん、参りますわ!……………相川さんはどちらに居られるのでしょうか?」

辺りを見渡しても、相川清香の姿は見えない。
活発なショートカットがトレードマーク。ソフトボール部所属。 趣味はスポーツ観戦とジョギングの相川清香の姿はどこを探してもセシリアの視界には入って来ない。

「相川さーん、相川清香さーん?」

きょろきょろと相川清香を探すセシリアに名も無き少女が近付いて来る。
物事を深く考えていないので、危機管理に対する意識が全くないぽやぽやとした表情である。

「あ、セシリアさん伝言だよ」
「あら、なんですの?」
「えーっとね、いきなり清香ちゃん、倒れちゃってね。ドクターストップだって」
「な!?どうしてですの!」
「多分、胃に穴が空いたみたいだって、養護の先生が言ってた」

織斑一夏と戦う事が決定した瞬間、相川清香の胃はあまりのストレスで穴が空いてしまった。
あの闘気にに晒されると想像するだけでも一般生徒のには耐え切れぬ事なのだ。
ソフトボール部所属、趣味はスポーツ観戦とジョギングの相川清香……リタイア(再起可能)

「え、じゃあわたくしはどうすれば!?」

セシリア・オルコット不戦敗決定である。

「あー……うん、そのなんだ。お茶会楽しみにしてるぞ!」

ラウラの優しさが、セシリアの身に染みた。


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