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放射線の健康被害防げ 県が2氏をアドバイザーに

 東京電力福島第一原子力発電所の放射能漏れを巡り、県は19日夜の災害対策本部会議で、住民の健康確保を図るため、放射線の専門家2人を「放射線健康リスク管理アドバイザー」に任命した。

 任命されたのは、ともに長崎大大学院医歯薬学総合研究科の山下俊一研究科長と高村昇教授。山下氏は世界保健機関(WHO)緊急被曝(ひばく)医療協力研究センター長を務めている。2人は原発事故の起きたチェルノブイリ地域での医療活動などで豊富な経験を持つ。任命後、山下氏は報道陣に対し、「今後、問題となる放射線の健康リスクについて、ぜひ福島県と対話の場を持ち、安心安全の確保に努力したい」と抱負を語った。

 ◆山下氏「避難区域の判断妥当◆

 報道陣と山下氏の一問一答は以下の通り。

 ――福島市でも1時間あたり約20マイクロ・シーベルトの放射線を観測している。

 「人体に取り込まれる量はその10分の1の2マイクロ・シーベルト程度か、もう少し小さいかもしれない。これから環境省のモニタリングから計算して甲状腺の被曝線量を算出する。50ミリ・シーベルトを超えた場合に、安定ヨウ素剤の配布が始まるが、それだけの被曝線量を浴びるということは考えにくい」

 ――水道水になぜ放射能が含まれているのか。

 「今回の原発事故で多くの放射性物質が放出されている。大気中どこでも放射線が観測されるのは事実。健康被害を及ぼすかどうか、この一点が重要で、幸い1キロ・グラムあたり100~1000?という量は何リットルも飲み続けても、科学的に被曝することは全くない」

 ――川俣町の牛乳から放射性ヨウ素が検出された。

 「福島県を超えて放射性物質の汚染がある。その量が問題。基準値以上が検出されたということは、当然流通に載せてはいけない。県内全域に均一に放射性物質が降るわけではない。かなりまだらに降り注ぐ。高いところがあれば、低いところもある。食品について定期的な検査がなされ、安全についても担保がされると思う」

 ――乳幼児への影響が心配だが。

 「今流通しているものが危険かというと、全くない」

 ――国際放射線防護委員会の勧告で一般人の年間の線量限度とされる1ミリ・シーベルトの意味は何か。

 「1ミリシーベルトは放射線が持つエネルギーで、細胞1個に傷がつくと考えてほしい。100ミリ・シーベルトだと、100個の細胞の遺伝子に傷がつく。数十分、数時間で遺伝子の傷は治る。1個ならすぐ治る。将来のリスクはほとんどゼロ。100個に傷がついた場合、DNAの修復エラーが起きる。新陳代謝で細胞が分裂するたびに起きる。将来的に異常が蓄積され、遺伝的に不安定となる。線量が多いほど起こりやすく、今後の大きな問題だ」

 ――外から放射線を浴びる場合はどうか。

 「世界中には、自然放射線の強い地域があり、10~50ミリ・シーベルトというデータがある。そういうところでもガンになる可能性はない」

 ――今回の事故で国の対応をどう考えるか。

 「迅速なデータがあれば、もっと早く手が打てたかもしれない。原子炉1基の事故でも大変なのに、1~4号機と予期しない状況が連続して起きるなんて誰も予測できない。本来は屋内退避ありきで、その後安全な所に避難する。10キロ・メートル圏内避難が20キロ・メートルになり、20~30キロ・メートルを屋内退避にしたという苦肉の策は、対応の遅れがあったのだろう」

 ――国は避難区域を最大限10キロ・メートルとしているが。

 「こういう事故を想定していなかったのだと思う。チェルノブイリで20年間仕事をしているが、その避難区域が30キロ・メートルで最大だ。どう考えてもチェルノブイリのようにはならない。その意味で今回の判断は妥当だ。しかし、放射線が通常ゼロであるところで少しでも検出されると不安になる。(30キロ・メートルの区域が)決して広いとは思わない」

 ――国の説明に疑問を感じる人は多い。

 「極めて重要なポイント。我々が直面しているのはまさに不安。信頼の絆が非常に危うくなったとき、どういうメッセージを発信するかということだ。外から見ていると、情報が非常に遅い、分かりにくいと感じている。放射線の問題で大事なのはリスクコミニュケーション。うまくコミュニケーションをとりたい」

2011年3月21日  読売新聞)
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