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きょうの社説 2011年3月29日
◎被災地の行政再建 手続き簡略化し職員派遣を
東日本大震災で被災した人たちの生活再建を進めるには、行政機能がまひした基礎自治
体の立て直しが急務である。一部の地域では仮設住宅の建設が始まったが、生活再建の動きが本格化すれば、各種証明書の発行や雇用、就学の環境整備など行政需要も膨大な量に上るだろう。被災地では大津波で役場庁舎の住民データなどが失われ、機能不全に陥っている町があ る。他の自治体でも、避難所運営や県外疎開者の状況把握、救援物資の調整などに忙殺され、このままでは行政機能がパンクしかねない。 政府は「罹災(りさい)証明書」の発行に際して、個々の被害調査を省き、浸水区域は 一括して「全壊」扱いにする方針を固めた。市町村が発行するこの証明書は、税の減免や融資申し込み、支援金受け取りなど幅広い場面で必要になる。過去の災害では住宅の損壊度を厳密に判定してきたが、大津波で住宅地が丸ごと流失した地域では、航空写真での判定も可能だろう。 被災者支援を迅速に行うには、前例に縛られず、行政手続きを実態に即して簡略化、弾 力化するのが望ましい。船舶や車などのがれき撤去にしても、自治体が財産保全との兼ね合いで対応に苦慮している。そうした悩ましい問題については判断を自治体任せにせず、政府はできる限り、具体的な指針を示して現場の負担を軽減してほしい。 被災自治体の機能を回復するうえで急がれるのは、応援職員の派遣である。全国知事会 や市長会、町村会が全国的な調整を進めているが、政府も前面に立って配置計画を整える必要がある。 行政手続きを大胆に簡素化すれば、不正や不公平感が生まれる余地があり、生活再建の 機運に水を差す懸念もある。その点でも職員増強による自治体の機能回復は待ったなしである。 北陸の自治体からも、大震災発生直後から医療、保健、消防関係者らが応急派遣された が、これから本格化する一般行政実務の支援に備え、準備を進める必要がある。被災地の行政職員が本来業務に専念してもらうためにも、多くのボランティアが活躍できる環境を早く整えたい。
◎海外広報の強化 信認維持へ外交も総力戦
福島第1原発事故により、周辺地域で生産された農産物や乳製品などの輸入を規制する
動きが海外で拡大している。外国の在京大使館の一時閉鎖も相次いでいる。同原発からの放射性物質漏出に対する外国の対応には、過剰反応といえる動きもみられ、このままでは日本産の食品全体の信認が失われかねないとして、政府は各国の大使館や在外日本大使館などを通じて広報活動を強化している。折しも政府は、駐ロシア大使ら17人の大使人事を発令したばかりであるが、原発事故 で日本の技術や製品全般の信頼まで揺らぐことがないよう、外交も総力戦で臨むべきときといえる。 原発事故の情報開示に対して国際社会の不信感が強いことから、政府は海外メディア向 けの記者会見に加え、枝野幸男官房長官の会見に同時通訳を導入するなど、外国向けの情報提供に本腰を入れるようになった。それでもなお、政府の対外的な説明力の弱さは否めない。官邸だけでなく、大使も当該国の政府、国民に直接説明し、不信や誤解を取り除いてもらいたい。外国の風評被害を防ぐため、在外大使館から発するメッセージは大変重要である。 今回の大使人事の目玉は、駐ロシア大使の交代である。その原因となったメドベージェ フ大統領の北方領土訪問で、著しく悪化した対ロ外交の立て直しが課題であり、東日本大震災が一つのきっかけになる期待も出ている。 大震災の日本支援策として、ロシアは原油や液化天然ガス供給を大幅に増やす考えを示 しており、一部実施に移している。ありがたい支援策であるが、それによってすぐ日ロ関係の改善が進むと単純に喜ぶわけにもいかない。大震災後、ロシア極東サハリン州が、中国企業に北方領土への投資を呼びかける説明会を北京で開いていることに留意したい。 諸外国の災害支援に深く感謝しながらも、そこには善意だけではなく、政治的な意図も 含まれているとみるのが外交の常識である。現地大使は情報を集め、その意図を読み解く役割も担っている。
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