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マキノ雅弘―映画という祭り [著]山根貞男

[掲載]2008年11月23日

  • [評者]唐沢俊一(作家)

■逆転の視点で「早撮り」読み解いた

 「マキノ雅弘は生涯に二百六十本余りの映画を撮った」と、本書の冒頭にある。「余り」というのは共同監督や応援監督作品もあって正確な本数がつかめないからだが、それにしても大変な数であることに変わりはない。そのすごさと共に、マキノ雅弘研究の難しさもこの冒頭にすべて言い尽くされている。

 フィルムの現存する作品を全部見尽くすだけでも、大変な作業なのである。黒澤明の全監督作品数は30本(共同監督作品を入れても31本)、多作と言われた市川崑でも七十数本である。日本映画の父・マキノ省三の長男として幼い頃から映画界入りしていたとはいえ、マキノ雅弘がいかにすさまじい勢いで映画を撮りまくっていたかがわかる。

 当然のことながら早撮りが特色であり、1936年の作品「江戸の花和尚」の撮影はわずか実質28時間だったという。最近のビデオ映画でもそんなまねはできない。これが「しょせんはマキノ作品は拙速の通俗作品であって、きちんと評価するには値しない」という偏見を生んだ原因になったのではないか。

 本書の特徴は、当初は効率から編み出されたその早撮りこそマキノ監督の独自の映画手法であった、という逆転の視点でその作品群を読み解いていることだ。早撮りの必要性から生まれた同一カットの繰り返しや中抜き(シーンのまとめ撮り)が、マキノ演出独特のリズムとテンポを作りあげていった。

 その分析の裏に、膨大な数の現存作品に丁寧に目を通すという根気のいる作業があったことは言うまでもない。マキノ雅弘にほれ込んだ著者だからこそ出来た本であろう。

 作品を見ている人にも見ていない人にも楽しさを感じ取ってもらえる紹介を心がけた、とあとがきにある。その試みが見事に実を結んだ、生誕100年にふさわしい刊行物であるが、もし、マキノ雅弘をよく知らない読者であれば、著者が編集に加わっている自伝『映画渡世』(平凡社)をまず、読んでから手に取ることをお勧めしたい。これがまた、破天荒に面白い本なのである。

    ◇

 やまね・さだお 39年生まれ。映画評論家。著書に『活劇の行方』『増村保造』など。

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映画渡世・地の巻―マキノ雅弘自伝

著者:マキノ 雅弘

出版社:平凡社   価格:¥ 2,100

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活劇の行方

著者:山根 貞男

出版社:草思社   価格:¥ 2,141

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