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FC 第一節「父、旅立つ」
第十三話 可憐な少女ジョゼット登場!! シンジの一目惚れにアスカはジェラシー!?
<ロレント地方 マルガ鉱山>

エステル達が鉱夫達を救出するために坑道内を走っていると、坑道内にツルハシやシャベルが固い物に当たる音と人が騒ぐ音が響き渡っているのが聞こえた。
鉱夫達も魔獣達と戦っているのだ。
しかし、相手は固い殻を持つ蟹のような姿をした魔獣、物理攻撃は効きにくい。
屈強な体力自慢の鉱夫達も体力が尽きた時にやられてしまうのは時間の問題だった。
エステル達は鉱夫達の声の聞こえる方に急いで駆け付けた。

「おいお前ら、大丈夫か!」
「鉱山長!」

エステル達と同行していた鉱山長が声を掛けると、魔獣と戦っていた鉱夫達は歓声を上げた。

「その魔獣はあたし達に任せて!」

エステルが激しく棒で叩き、シンジが銃を乱射して魔獣達の注意を引きつけている間に、アスカとヨシュアがアーツを詠唱して魔獣達を倒して行く見事なコンビネーションだった。

「お嬢ちゃん達、若いのにやるなあ」
「ふふん、アタシ達は遊撃士だもの、魔獣退治なんてちょろいもんよ」

鉱夫達に賞賛されたアスカは余裕の表情だった。

「アスカ、まだ終わっては居ないよ、鉱夫さん達全員を無事に助け出して脱出しないと!」
「分かってるわよ!」

アスカはシンジにそう言い返して新手の魔獣と戦っているエステルとヨシュアにシンジと共に加勢した。

「鉱山長さん、鉱夫さん達はこれで全員ですか?」
「いや、まだ奥に数人残っていたはずだ」

ヨシュアの質問に鉱山長がそう答えた。
しばらく考えたヨシュアはエステル達に2手に別れる提案をする。

「僕とエステルと鉱山長さんとで奥の鉱夫さん達を探して来るから、シンジとアスカは助け出した鉱夫さん達を入口のエレベーターの部屋に誘導して欲しい」
「分かったわ」

ヨシュアの作戦にアスカ達は賛成し、シンジとアスカはエレベーターの方へと進んで行った。
しかし、狭い鉄橋の所でシンジとアスカは前方に魔獣の群れが固まっているのを目撃した。

「仕方無いわね、アタシが鞭で魔獣達の動きを抑えているからシンジがアーツで詠唱して攻撃して」

するとシンジはアスカの言葉に異議を唱える。

「そんな、僕が導力銃で魔獣達の動きを抑えるよ!」
「銃で全ての魔獣を防げると思っているの? アンタは接近戦はまるでダメじゃないの」
「でも、アスカの鞭だって固い甲羅を持った魔獣相手じゃ効きにくいじゃないか」

シンジとアスカが言い争っていると、鉱夫達がアスカ達の前に歩み出て魔獣達の前に立ちはだかる。

「魔獣達を食い止める時間を稼ぐだけなら俺達でも出来らあ。お嬢ちゃん達はアーツで魔獣達を攻撃する事に集中してくれれば良い」
「そんな、僕達の役目はあなた達を守る事です!」
「シンジ、ここは鉱夫さん達の力を借りましょう」
「そうだそうだ、生き残るためなら遊撃士も鉱夫も全力を尽くすのは同じさ」

アスカの言葉に鉱夫達は笑ってうなずき、ツルハシやシャベルを構えるのだった。
そして、鉱山の奥からエステル達が戻って来る頃には、何とか鉄橋周辺の魔獣達を掃討する事に成功していた。
しかし、坑道が魔獣の巣と繋がってしまったのであれば油断はできない。
エステル達がエレベーターの所までたどり着くと、エレベーターが血で汚れている事に気が付いた。

「もしかして、これって……」
「さっきの泥棒が、魔獣に襲われて怪我をしたんだろうね」

シンジの言葉にヨシュアがそう答えた。
魔獣達が一緒に地上階へと運ばれてしまったとしたらさらに事態は悪くなる。

「おーい鉱山長、みんな、無事かーっ?」

上の階から鉱夫達が呼ぶ声が聞こえる。
どうやら上の階で魔獣が暴れていると言う事はなさそうだ。

「俺達は、遊撃士達のおかげで全員無事だーっ」

鉱山長がそう返事を返すと、上の階の鉱夫達は嬉しそうに歓声を上げた。
そして数人がエレベーターに乗って地上へと上がって行く。
エステル達は殿しんがりとして最後まで残り、魔獣達を食い止める役目を果たした。

「おーい、遊撃士のお嬢ちゃん達、エレベーターに乗り込め!」

鉱山長に声を掛けられ、エステル達はエレベーターに乗って地上へと脱出すると、鉱夫達の熱い拍手に包まれた。

「お前さん達のおかげで、俺達は無事に帰って来れた」
「そんな、僕達の方こそ守って頂いて……」

シンジが自信無さ気にそう言うと、鉱山長は首を横に振る。

「あんな固い殻を持った魔獣相手だと、俺達だけだったらどうなっていた事やら。もっと胸を張っていいぞ」

そして鉱山長は胸の奥深くしまっていたセプチウムの結晶を取り出すと、シンジの手に固く握らせる。

「お前さんになら安心してこれを任せる事が出来る。市長さんにきっちりと届けてくれよ」
「はい」

シンジは嬉しそうに顔を上げて鉱山長に向かって微笑み、手の中で緑色に光輝く宝石を見つめていた。
先程の偽物の石と違い、暗い坑道の中でも結晶自体が光を放っている感じだった。

「そうだ、ここからこの前入った見習いのやつが逃げて来なかったか?」
「はい、腕にケガをしていたようなんですが、あっという間に鉱山の外へと逃げて行きやした。よっぽど怖かったんでしょうなあ」

事情を知らない鉱夫は鉱山長の質問にそう答えた。

「急いで追いかければ犯人に追い付くかもしれません、僕達はこれで失礼します」
「ああ、頑張ってな」

ヨシュアは鉱山長にそう言って駆け足で鉱山を出て行こうとした。
エステル達も慌てて後を追いかける。
シンジもセプチウムの結晶を落としたりしないように袋に入れて大事にしまった。



<ロレントの街 市長邸>

ロレントの街に着くまでエステル達は一生懸命に走ったが、結局泥棒に追い付く事は出来なかった。
仕方無くエステル達は追跡を諦め、市長邸にセプチウムの結晶を届ける依頼を優先させてこなす事にした。
市長邸のメイドの話によると、市長は書斎で客人と会っていると言う事だった。
しかし、早く市長に宝石を送り届けたいと思ったエステル達は来客中を承知で市長の書斎の中へと入った。
市長の書斎の中では、市長と学校の制服を着た女子学生が話をしていた様子だった。
その制服は洗練されたデザインで、女子学生も可憐と言う言葉が似合いそうな落ち着いた立ち振る舞いをしていた。
エステル達と目が合うと、穏やかに優しく微笑む。

「頼まれていた品物をお届けにあがりました」
「おお、そうか」

ヨシュアが用件を告げると、市長は安心したような笑みを浮かべた。

「あの、わたくしがお邪魔なら失礼させて頂きますわ」
「いや、居てくれても大丈夫じゃよ」

椅子から腰を浮かせた女子学生に市長はそう声をかけて引き止めた。
そして、市長は女子学生の素性をエステル達に紹介し始めた。
女子学生の名前はジョゼット・ハール、ジェニス王立学園の生徒だと言う。
ジェニス王立学園とはルーアン市にある全寮制の学園で入学試験はとても厳しく、勉強時間に余裕のある貴族のような裕福な家庭の子供しか入学できないと評判になっていた。
洗練された制服や服装も、王立学園の風格を表していた。
まさに、本物のお嬢様と言った印象を見る者に与えている。
次に市長はエステル達を遊撃士としてジョゼットに紹介した。

「遊撃士とおっしゃいますと、正義のために戦う自由騎士とお聞きしていますわ」

ジョゼットは感激した様子で目を輝かせてエステル達の事を見つめた。

「なんか、そんなに憧れの目で見られると照れちゃうな」
「そうそう、アタシ達はまだ見習いだし……」

エステルとアスカは少し顔を赤らめながらそう答えた。

「そうだ、ジョゼット君にも例の品物を見せてあげたいのじゃが」
「あ、はい、分かりました」

シンジがセプチウムの結晶を袋から取り出してテーブルに置いた。

「まあ、見事な翠耀石エスメラスですわね」
「うむ、これは女王様に献上する素晴らしい細工物が作れそうじゃ」

セプチウムの結晶を見てジョゼットと市長は感激した様子だった。

「なるほど、生誕祭の贈り物でしたか」

ヨシュアは納得したようにそうつぶやいた。
生誕祭とはこのリベール王国の現在の国王であるアリシア女王の誕生日を祝うイベントである。
今年はアリシア王女が60歳の誕生日を迎える節目と言う事で、数ヵ月後の生誕祭は例年より大規模なものになる。
ロレントでも生誕祭のイベントは行われるが、王都グランセルのイベントはさらに大規模なものだった。

「街の工房に依頼して、女王様が身に付けられる宝飾品にしたいと思っておる」
「出来たらアタシも見てみたいわね」
わたくしは見れないのが残念でなりませんわ」

市長はテーブルの上に置かれたセプチウムの結晶をつかみ上げると、部屋にあった金庫を開け、その中に結晶を入れる。

「ふーっ、これで一安心じゃな」

そう言って市長は大きく息を吐き出して椅子に腰を下ろした。

「では、そろそろわたくしは失礼いたしますわ。本日はお話を聞かせて頂いただけでは無くて、素晴らしい物を見せて頂きまして本当に感謝しております」
「いやあ、たいした事はしておらんよ」
「まって、あたし達も一緒に失礼させてもらうわ」
「エステル君達もご苦労さんじゃったな」

エステル達はジョゼットと共に市長邸を出た。
そして、エステル達は市長邸を出た所でジョゼットに宿泊しているホテルの部屋に遊びに来ないかと誘われた。
依頼の達成を遊撃士協会でするのが先だとヨシュアは渋ったが、おいしいお菓子と紅茶を淹れると言うジョゼットの言葉にエステルとアスカが陥落した。
アスカが賛成すればシンジも賛成し、賛成3と反対1となり多数決でジョゼットの部屋に寄り道する事になった。
ジョゼットは部屋で手作りのお菓子と紅茶をエステル達に振る舞った。
その味は口うるさいアスカがおいしいと認めるほどに素晴らしかった。
おいしいお菓子とお茶でエステル達の話は弾みに弾んだ。
面白い話になると、ジョゼットは口で手を押さえてクスクスと可愛らしく笑う。
そうしているうちに時間は過ぎて行った。

「ほら、もうそろそろ報告しに行かないと」
「あっ、もうそんな時間なんだ」

ヨシュアに指摘されて、エステル達は長く話し込んでいた事に気が付いた。

「ジョゼットはいつまでロレントに居るの?」
「明日の飛行船で帰るつもりですわ、学校の授業が始まってしまいますし……」
「そう、せっかく友達になれそうだったのに残念ね」
「でも、離れてもあたし達ずっと友達よね!」
「ふふ、そうですわね」

エステルが元気一杯の笑顔でそう言うと、ジョゼットも穏やかに微笑んで答えた。

「それでは、エステルさん、アスカさん、ヨシュアさん、シンジさん、御機嫌よう」

エステル達は後ろ髪を引かれるような思いでジョゼットの部屋を後にした。
そして、ホテルを出てもシンジだけは思い詰めた暗い表情をしていた。
そんなシンジの様子に気が付いたエステルはシンジに声を掛ける。

「ねえ、もしかしてシンジってば、ジョゼットの事が好きになっちゃったの?」
「何ですって!?」

エステルの言葉を聞いたアスカが、鬼のような形相になってシンジをにらみつけた。

「そ、そんな事無いよ」

シンジはアスカの怒った顔に怯えながらそう否定した。

「隠さなくてもいいのよ、だってシンジはずっとジョゼットの事を見ていたし、今だって寂しそうな顔をしているじゃない」
「それは誤解だよ」
「ふん、どうせアタシはワガママで口より先に手が出るし、笑う時だってお腹を抱えて笑うし、上品でお淑やかとは程遠い存在よ!」

アスカはさらに不機嫌になってそうわめきちらした。

「自分の欠点に気が付いているのなら、直す努力をした方が良いと思うけどな」

ヨシュアはあきれ顔でアスカに聞こえないような小さな声でそうつぶやくのだった。
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