今週の相場見通し 混乱は不可避だが、株式市場の底割れは回避、政策を注視

  まずは、今回の東日本大地震で、犠牲になった方々のご冥福をお祈りし、被害に遭われた方々に対しまして、心よりお見舞いを申し上げます。

  さて、今週の株式市場だが、週明けは、リスク回避、換金目的、追証発生などなど、様々な理由からの売りが先行する見通しだ。週末11日のシカゴ日経平均先物(円建て)は9975円であり、週明けの日経平均はこれにサヤ寄せしたスタートが想定される。その後は、震災被害の日本経済への影響度合い、それへの財政・金融当局の対応の可否を見極めながらの売り買いになるとみられる。日経平均の想定レンジは9500円〜10500円程度。

  結論からいえば、短期的な市場の混乱は不可避だが、日本経済及び株式市場の底割れは避けられ、今週以降の下落場面は、押し目買い好機になる可能性が高いとみている。その理由として、(1)国家的な危機を迎え、ようやく日本の政治がまともに機能する期待が抱ける状況になったこと、(2)昨年10月以降、日銀による円高対応等への期待が抱ける状況が継続していること、(3)需給的には逆張りを好む個人投資家の買いに加え、相場が下がれば自動的に買いを入れてくる主体である、信託銀行経由の公的年金の買いが入ることが予想されること、などだ。

  政治に関しては、現時点では、12日行った2回目の与野党の党首会談では、菅首相は11年度予算案早期成立を求めたが、自民、公明両党は早期の補正編成と国会の休会を提案している。今後、与野党幹事長会談などで調整することになっており、折り合いはついていない。しかし、与野党は14日の衆参両院の国会審議をすべて取りやめ、国会はひとまず「政治休戦」している。各党は、政府の災害対策を優先する必要があるとの認識で一致してもいる。

  ちなみに、95年1月17日の阪神・淡路大震災の際も、与野党は「政治休戦」した。しかし、被害状況把握に時間を要し、震災発生後、1ヶ月かかってようやく、2月24日に94年度第2次補正予算案(1兆223億円)を提出(4日後の28日に成立)した。その後、5月15日に95年度第1次補正予算(2兆7638億円)を提出(同19日に成立)した。つまり、2度にわたる補正予算編成で合計3兆円超の震災対策費を計上した。

  このため、今回のケースでも、与野党の政治的な駆け引き、紆余曲折はあるだろうが、来年度予算案を早期に成立させるとともに、緊急災害対策を盛り込んだ補正予算案の編成に野党が協力する可能性が高まったと考える。最悪でも、自民・公明が主張するように、通常国会をいったん休会し、今年度補正予算の早期成立させることは見込めるため、震災への対応は十分期待できるだろう。

  日銀に関しては、11日、東日本大地震を受け、白川総裁を本部長とする災害対策本部を設置、週明け14〜15日に開催を予定していた金融政策決定会合を1日に短縮することを決定している。決定会合は14日午後1時に開始し、終了後に白川総裁が記者会見する。日銀は不測の事態に備え、決定を早め市場の監視に務める方針だ。このような対応は極めてリーズナブルで、市場に安心感を与える見通しだ。記者会見では、総裁は金融市場の安定や景気の下支えに万全を期すため、必要に応じて潤沢な資金供給を実施する方針を表明するとみられる。

  しかし、これだけでは不十分だ。なぜなら、市場では、今回の巨大地震発生を受け、円は今後対ドルで最高値を更新してもおかしくないとの見方が強まっているからだ。1995年1月の阪神・淡路大震災後に円高・ドル安は進んだ。阪神・淡路大震災の時は、日本の投資家が外貨建て海外資産の本国送金(リパトリエーション)を実施した結果、円買い圧力が強まって約3カ月後に過去最高値(79円75銭)を付けたという経験則がある。この経験則に沿って投資家が行動することが予想されるため、日銀は円高を阻止する強いメッセージと具体策を打ち出す必要がある。それが14日出てくるようなら、それだけでも、日本株の急速な切り返しが期待できるだろう。

  なお、日銀は昨年10月4、5日に開いた金融政策決定会合で、包括的な金融緩和の一環として資産購入基金の創設を決めている。この会合で、政策委員は円高などで、「持続的な成長経路へ復する時期が後ずれする可能性が強まっている」との認識で一致している。よって、東日本大地震という未曾有の天変地異を受け、日銀は対ドルでの円高への踏み込んだ対応に踏み込む可能性が高まったとみている。なお、14日の記者会見でそれがなかった場合でも、1ドル70円台突入なら、その時点でも、政府・日銀の具体的な対応もあると考える。

  短期的な需給に関しては、日経平均の1万円大台割れという分かり易い状況では、逆張り投資を好む個人投資家が「バーゲン・ハンティング」に動く可能性が高いとみるのは自然だ。また、国家的な危機に瀕している状況下、国民年金と厚生年金の積立金を運用する世界最大の運用規模を持つ公的年金(年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF))が、日本株下落局面では適正な資産配分を目指し、買いを入れてくることも妥当な投資行動だ。なお、個人の買いも、公的年金の買いも、相場を押し上げるような買い方はしてこないため、あくまでも両主体は相場の下支え要因との認識だ。なお、幸いなことに、今年度内の持合い解消売りが先週のSQでほぼ終了した可能性が高いことは需給的なポジティブ要因ともみている。

  いずれにせよ、今回の天変地異を受け、政府・国会・日銀などの政策当局が救国で一致することを、市場が評価すること以外に、日本株が底入れを果たすことはないだろう。しかし、その素地は前述のように整っており、過度の悲観に傾く必要は一切ないと考える。もちろん、根拠なく楽観するべき投資タイミングでもない。このため、投資家は今まで以上に、政府・国会・日銀などの政策当局が市場の期待する方向に動いているか否かを注視する必要があると考える。(編集担当:佐藤弘)

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