よ、ようやく二十三話の完成です・・・
お待たせしてしまって申し訳ありません・・・今回は少しオリジナルが混じった展開となります。
一週間以上空いてしまいましたが、どうぞご覧あれ!!
第二十三話 嫉妬とデート ~ 嵐の前の静けさ
~ 拝啓 飛影様 ~
この手紙を目にしてくれていることを本当に嬉しく思います。お久しぶりです、地球でお会いした月村すずかです。
一ヶ月ほど前に会ったっきりですが、少し思い立ってこの手紙を書かせていただくことにしました。
最近はだんだんと暑さが増してきて、汗も滲むようになってきました。この時期、飛影さんはいかがお過ごしでしょうか?
私はアリサちゃんと一緒に大学生活を楽しんでいますよ。アリサちゃんたら、今度会ったときは飛影さんをぎゃふんと言わせてやるなんて言いながら、なんだか身体を鍛えたり勉強したりしてます。また来たときはお相手してあげてくださいね。
それはそれとして、今回このお手紙を書かせていただいた理由がもう一つあります。それは私が飛影さんへ贈ったスカーフの件で、少し手違いをしてしまっていたからなんです。
私ったらうっかりしていて、この前は冬用のを渡してしまっていたので、この手紙を書くのにちょうどいいと思い、これからの季節で蒸れて熱くならないよう、同じ規格で夏用の涼しいタイプのを贈らせていただきました。
あ、もちろん飛影さんがお気に召さなければ如何様にしてくださっても構いません。けど、もし少しでも気に入ったのなら着けてくれると嬉しいです。感想とか要望があったら、いつでもご連絡下さい。その通りにしますから。
長々と失礼いたしましたが、最後まで読んでくださって本当にありがとうございます。機会があればまた遊びに来て下さい。いつでも歓迎いたします。
そのときは月村家とアリサちゃんとで盛大に御もてなしさせていただきますから、覚悟しておいてくださいね?
それでは、またお会いできることを願っています。
すずかより
「――――アイツは仕立て屋か? オレにこんなものを渡しても何の得にもならんだろうに、一体どういうつもりだ・・・」
ファンシーな模様柄の手紙をデスクに置くと、飛影はシステムチェアに浅く腰掛けて机に足を放り出す。身体に押されてギシギシと鳴る背もたれを感じながら、飛影は紫がかった髪を持つ彼女を思い浮かべていた。
横にある窓へと目をやり、さらに下へと視線を落とす。その先、机の隅におかれている上品な手触りのシルクの布が視界に舞い込んできた。どことなく自分の『い■■と』に似た雰囲気を持つあの少女、すずかの幻影が頭によぎる。
同時にあの時のことも思い出される。別れ際、不意打ち気味におでこへと押し付けられた、彼女の―――、
「ッ! イライラする・・・」
飛影は額へと伸ばしかけた手を引っ込めて頭を掻き毟る。あんなことをされたのは初めてだった。予想外すぎて、気が付いたときはなのは達に詰め寄られ、その後ゆっくりと考える時間もなかった。
とはいえ、いくら考えても人間の感情の機微など分かりようもない。そこで答えに窮した飛影が後に蔵馬に聞いたところ、
『さぁ・・・正直わかりませんね。親愛の印ともとれますし、地域によっては普通に挨拶表現の一種、他にもいくつか意味はあります。ですがどれにおいても、親しくするつもりのない相手には行わないとは思いますよ?』
などと意味深な笑みを浮かべながら曖昧な答えを返してきたので、飛影は舌打ちしてその場を去ってしまった。あまりにも回りくどい言い方に嫌気が差したためだ。絶対に分かっているだろうに、悪趣味にも程がある。
となれば自分で考えるしかない。飛影は考察の末、家族以外で自分と同じような『存在』に近さを感じているのかもしれないと、当りを付けていた。妖怪の混血ゆえに人間として生きる傍ら、妖怪の仲間も欲しいのだろう、と。
(いい迷惑だ・・・・・)
飛影はすずかの幻影を頭の隅へと追いやりながら内心毒づく。初めて会ったとはいえ近い存在に親しくしたいという気持ちは分からないでもないが、動機が不純だろうと彼は勝手に結論を出していた。
しかし、さすがは乙女心を解さない飛影である。着眼点は『近さ』という点では悪くないが、捉えている本質が全く違うところが彼の性質を存分に物語っていた。そのために、すずかが何故蔵馬でなく自分へと近づこうとしているのか、という疑問には到達していない。
一世一代のアクションを起こした乙女にとっては、かなり可哀相な事態だった。
自分が盛大な勘違いをしているとも知らず、飛影は溜息を吐く。一段と重い雰囲気を自ら放出し始め、ストレスだけが募っていくばかりである。だがそのとき、シュッという機械的な音と共に部屋の自動ドアが開いた。
「飛影、ここにい「部屋に入るなとは言わんが、ノックはしろと言ったはずだ!」ひゃっ!? ご、ごめん飛影・・・」
飛影の怒声に女性はびくっとしながら数歩下がった。部屋に入ってきたのは、流れるような金の長髪に美しい相貌と深紅の瞳、そして最高レベルのブラストバディの持ち主。六課が誇る三大美少女の一角、フェイト・T・ハラオウンである。
思い切り怒鳴られたフェイトは、すごすごと扉の向こうへと消えた。ご丁寧にも一度部屋を出てちゃんとノックをしてから、改めて飛影の部屋へと足を踏み入れる。そのままスススッとそばに寄ると、彼のベッドに腰掛けた。近頃容認されつつあるフェイトの定置である。
飛影は改めて彼女の方を見やった。なにやら雰囲気が違うと思ったら、彼女は珍しく私服だ。薄く化粧もしているようで、少し大人びた表情となっている。だが、その辺りに疎い飛影はまったく気づかず、その容姿に対して何の言及もしない。
はやて辺りが見たら、「ちったぁ空気読まんかい!」とツッコミを入れそうな反応だった。
「え、えっと・・・」
フェイトはベッドに座ったまま、もじもじと身体を揺らした。しばらくそんなふうに落ち着かない様子であったが、何かを決めたように頷くと飛影を正面に見据える。そのまま、僅かな真剣さを含んだ表情で口を開いた。
「あ、あのね飛影。「断る」今日は私もオフだから、もし用事がなかったら一緒に・・・って、まだ何も言ってないよ!?」
用件も言い終わらぬうちにばっさりと切られたフェイトは、出鼻を挫かれ思わずノリツッコミを入れた。ボケが主流の彼女には随分と珍しいシーンだ。ついでに、先ほどまで漂っていた微シリアスな空気が二秒でぶち壊しである。
しかし、フェイトはめげなかった。十秒ほどで気持ちを立て直すと、もう一度飛影を捉え、今度はかなりの距離まで接近する。意外と強情であるようだ。
「飛影、この世界に来てから一度も街に出てないでしょ? それに、今日は教導もティアナの霊気、だっけ? ・・・その訓練もお休みなんだし、一度自分の目で見てみる方がいろいろ発見が「邪眼で視えている。必要ない」あうぅ・・・」
再び撃沈した。取り付く島もない。
確かにフェイトが言うとおり飛影は暇だった。何かにつけて一緒にいたがる六課のメンバーも今日は仕事や遊びで席を外しており、飛影はどうやって時間を潰そうか考えていたぐらいだ。しかし、それは自分の時間を割いていいという理由にはならない。詰まるところ、天邪鬼なのであるからして。
蛇足だが、先のフェイトの言葉にあった通り、ティアナはあの日から霊気の修行を始めていた。第二段階へと進んだ魔法の訓練もあるので進みは芳しくないが、それでも暇を見つけては新しい力を伸ばすために努力している。いつもは蔵馬や桑原、たまに自分などが見ているのだが、今日の午後はそれもお休みだった。閑話休題。
話を戻すことにしよう。飛影はフェイトの誘いも一顧だにせず、つーんとした態度を張り続けている。だが、ツンデレの面目躍如のごとく顔を背ける飛影にフェイトが挫けかけた時、彼女の目に机に置かれた白いスカーフが飛び込んできた。
僅かだが、いつもの飛影のものとは違うように感じる。その横には可愛らしい便箋も見えた。
「ねぇ飛影・・・そのスカーフって・・・」
「ん? ああ、いつか地球で会った月村とかいう女が、手紙付きで送ってきた。夏用などと言って、この前のに加えてわざわざ新しいものをな。おまけにまた会いたいなどと・・・・・わけがわからん、一体なんのつもり―――」
言いながらフェイトを見た飛影の声が、言葉の途中で止まった。いや、止められたと言うべきか。
「飛影・・・すずかから貰ったんだ・・・プレゼント・・・」
いつの間にか至近に来ていたフェイトが、俯き加減で言葉を紡いでいた。まるで地獄の底からやってきたような負のオーラを放出する彼女に、飛影は言いようのない何かを感じてたじろいだ。何故かは知らないが、唐突に幽助の女のことを思い出す。
だが、そうこうしているうちにフェイトはさらに接近してきていた。そして座っていた飛影に無言で近づき、女性的な魅力豊かな自分の胸に彼の右腕をぐわしと抱え込む。
いつもの彼女からは考えられない力強さだった。振りほどこうとした飛影だが、それだと何か良くない結末が待っている予感がして、らしくもないたたらを踏む。長い前髪により表情は計り知れないが、何だか見てはいけないような気がした。
「――――――私達も行くよ、飛影・・・・・・」
「何? 一体どこ「行くったら行くの! 早く!」お、おいフェイト、貴様何を勝手に・・・・・!」
見たこともないほどの気迫を滲ませる金髪少女に、飛影は腕をがっちりとホールドされたままドナドナよろしく連行されていく。その後六課を出るまで数人に見られ、飛影は答えを求めるよう目をやったが、二人(鬼気迫った顔のフェイト)に声を掛ける勇者はいない。
こうして、飛影は凄まじい何かを宿したフェイトに引き摺られ、半強制的に街まで連れ出されてしまうのだった。
-Side change-
ビルが各所に聳え立つクラナガンの街は、この世界でもかなりの規模を誇る大都市である。都市の供給を支えるために様々な人々が行き交い、物が集まってくる。
そしてそれらの一つ、揃わないものはないというキャッチコピーを掲げたショッピングストリートの一角。洒落たカフェテラスにその姿はあった。
「さて、言い分があるなら聞かせてもらおう」
「え、えっと、その・・・ごめんなさい・・・」
パラソルで覆われた丸テーブルで、互いに向かい合うようにして二人の男女が座っている。一人はいつもの黒いコートではなく、白いTシャツに黒い短めのベストと同色のジーンズを着こなし、ついでに服に付いてきた銀色のブレスレットをつけた六課における民間協力者、飛影。服は近くの洋服店でフェイトが見立てて調達し、元の服は足元の袋に入れてある。
そしてもう一人は、白いブラウスに袖が二の腕ぐらいまでの黒ジャケット、さらに装飾用のチェーンのついた黒ミニのプリーツスカートとそれに合わせたローヒールを履いた、若き時空管理局執務官、フェイト・T・ハラオウン。お互い黒を基調とした服を着た二人が、テーブルを挟んで向き合っていた。
その上には二人分のフレッシュジュースとアイスコーヒーが乗っかっている。それぞれフェイトと飛影が頼んだものだが、お互いにまだ一口もつけていない。五分ほど前にこれを持ってきたウェイトレスも、その雰囲気を感じ取ったのか早々に引っ込んでいた。
「お、怒ってる・・・よね・・・?」
「そうでないように見えるのか?」
剣呑さしかない言葉に、さらに小さくなるフェイト。その様子を見た周囲の男性陣から、凄まじい殺気が飛影に向けられた。
だが、その悉くを一睨みで薙ぎ払う。一気に氷点下まで冷え込んだ空気に恐れをなし、店から飛び出ていく者も何人かいた。そのことに、フェイトは遠目にする店員にペコペコ頭を下げる。
彼女はこの世界を牛耳る管理局においても、トップクラスの美貌を持つ少女だ。ファンが巨大な派閥を作る三大美少女(非公式)の一角に数えられ、フリーではあるが、周囲から高嶺の花として認識されている。ちなみにその構成員は彼女となのは、はやての三人だ。規模は小さいが、他にはヴォルケンリッターの女性陣のもある。
ファンクラブの人数は他の二人とほぼ同数だ。そしてフェイトに関して言えば、その信奉者の大半が掲げる彼女のチャームポイントは、ずばりギャップであった。
世間的な方面から見て、フェイトは隙のない美人とされている。少なくともテレビや雑誌など、およそ一般的な情報媒体で紹介される限りではそうだ。
さらには、常軌を逸した彼女のダイナマイトバディも理由の一つであった。爆発したことはないが、爆発すれば大惨事だ。エリオが心配になる。主に嗅覚部の出血的な意味で。
以上の理由から、民衆が想像する方向が偏っているという事実が存在する。つまりは、超完璧なキャリアウーマンを地でいっているような見方をされることが多いのだ。
だが、実際は全くといっていいほど違う。何もないところで唐突にコケたり、ナチュラルに局内で迷子になってオロオロしていたり、クールビューティーだと思っていたら書類の受け渡しなどで真っ直ぐに微笑まれたりと、その差異は大きい。いや、大きすぎる。
とまあ挙げていけばキリが無いが、要は元々の彼女の外面から発生するイメージと本質との間にある、計り知れない溝が原因である。そしてその反転作用が、そのケのある男性陣の精神的急所にクリティカルヒットするというわけだ。
即ち『雲の上にいるような絶世の美女』から、『守ってあげたい女の子』へとクラスチェンジを遂げるわけである。あとは彼女の天然な性格も拍車を掛けているが、今は置いておこう。
そして、その立ち位置もまた極端と言えた。フェイト自身は他の二名より無自覚で、男に対して無防備もいいところであるが、周囲のガードが別格なのだ。
お近づきになりたいと思いつつも、彼女の身内兼提督で彼女を何かと気にかけているクロノ・ハラオウンや管理局の総務統括官で義母のリンディ・ハラオウンなどを恐れて、ほとんどが人知れず涙を呑むしかない。
だが、彼女自らのお誘いとくれば、これ以上ないほどの大義名分が出来上がるのだ。そんなものを目の前にぶら下げられれば、九割九分の男は一も二もなく首を縦に振ること間違いなしといえよう。ただ残念なことに、彼女が誘いたいと思っている相手は残りの一分にあたるのであるが。
足と腕を組んだ状態で、飛影はフェイトを睨んだ。フェイトはその視線にさらに体を縮ませる。男女が一組、だが明らかにデート特有の甘い雰囲気とは懸け離れていた。
例えるなら、取り調べ室で向かい合う刑事と被疑者のような空気に近い。置かれているのがカツ丼かドリンクかの違いだ。
「オレは必要ないと言ったはずだ。何故連れてきた」
飛影は不機嫌を隠すこともせず、ストレートに言った。返答に困ってしまい、フェイトは今朝のことを思い出す。
朝、フェイトは完成させた書類を手に出勤した。この仕事の期限はまだ先だったが、早く済ませたほうがいいと思い、オフの日に前倒しして終わらせたのである。
フェイト自身はよかれと思ってやったことだった。だが、それを聞いたはやては肩を震わせ、
『フェイトちゃん。私な、一つ言いたいことがあんねん・・・・いい加減、働きすぎやぁ!休みを何だと思ってるんかあ――――!』
狸が吠えた。彼女の反応に戸惑うフェイトを無視し、はやては部隊長権限で強制的に休みを取らせたのである。
無論フェイトは納得しなかった。真面目な性格だ、はやての態度が取り付く島もなかったとはいえ、自分だけ休むなんて気が引けたからだろう。少し魅力的に感じながらも、簡単には引かなかった。
だがはじめは渋い顔をしていたフェイトも、しばらくしてこれがチャンスだとはやてに言い含められ、気づけばその提案を呑んでいた。「楽な誘導尋問やった」とははやての弁である。なのはとの協定はこの時点で頭からトんでいるが、今は横へ置いておくとしよう。
そして飛影を街に誘うため、彼の部屋に行ったのである。気合を入れ、それなりのおめかしもして。
ここで一つ知っておいてもらいたいのだが、彼女とて最初からそのつもりだったわけではない。フェイトとしては、飛影の参加は『できれば』であり、断られればもちろん引き下がるつもりだった。彼女の性格的にも妥当な線だ。
だが、飛影のテーブルに乗っていたスカーフを見てすずかの話を聞いた途端、頭がカッと熱くなり、気づけば彼を乗せた車をぶっとばして街に来ていたのである。
そして服屋巡りに始まり、ウインドウショッピングからボウリング、装飾品観賞までフェイトはそれこそ引っ張り回すがごとく、そこら中に飛影を連れまわしていた。
だが、休憩がてら入ったカフェでようやく頭が冷えたのか、突如としてオロオロし出した挙句にこの始末、というわけである。
穴があったら是が非でも入りたいだろう。というか、今にも自分で掘りはじめそうだ。
そんなどんよりオーラを放出していたフェイトだったが、流石にこのままではいけないと思ったらしい。窺うような視線を向けた後、俯き気味のまま口を開いた。
「ごめん・・・自分でもよく分からないんだ。はじめは誘えたらいいなって思ってただけだったのに、飛影の話を聞いてたらなんだか絶対に連れて行くんだって考えちゃって・・・それで飛影の都合も考えないで好き勝手やって・・・本当にごめんなさい。でも、どうしても飛影と一緒に来たかったから・・・」
必死に伝えようとする声がだんだんと小さくなる。フェイト自身も自分の行動に戸惑っているのか、その口調や言い分は曖昧だ。
飛影はしばらくそんな彼女を眺めていたが、何かを諦めたかのように短く息を吐いた。半眼になりながらフェイトを見据える。
「身勝手この上ないな」
「うっ!」
「強制連行とは、執務官とやらは随分と強引な手を使うらしい」
「はうっ!?」
「おまけにガキの理屈か。キャロやエリオの方がよっぽど利口だ」
「うぐぅっ!?・・・ひ、ひどいよ飛影・・・」
飛影の嫌味がトストスとフェイトの胸に刺さる。自分で思っていたとはいえストレート言われるのは堪えたのか、フェイトはテーブルにぐてーっと突っ伏した。飛影はそれを見ると、少し気が晴れたように息を吐き、口を開く。
「だが、退屈はせんで済んだ。人間の街とやらは邪眼で見て知っていたが、やはりオレ達の世界とは違うようだからな。それに、お前の慌てる様はいい暇つぶしだったぜ」
クツクツと飛影が笑う。フェイトは顔を起こし、恨みがましい表情で拗ねたように呟いた。
「・・・うーっ。今日の飛影意地悪だ。満足してるんなら、私に当たらなくてもよかったはずだよ・・・」
「フン、オレは別に容認したわけじゃない。不満を持っていたのは事実なんだ、勝手に連れてきたお前の責任を押し付けるな。これでもかなり譲歩している。オレを振り回した割には幸運だと思え」
そう言い、飛影はようやくコーヒーに口をつけた。フェイトも少し慌てながらそれにならう。ジュースは氷が半分ほど溶けて味が薄まっていた。何の変哲もない、どこにでもありそうな味。だが、フェイトには今までで一番おいしく感じた。
対面の彼は優雅にコーヒーを啜っている。この周囲にいる人たちも、誰も彼が妖怪だなんて思わないだろう。だから、
「ねぇ、飛影・・・人って何なのかな?」
その問いを。自分にとっての根幹を成す重要な問いを彼にかけていた。飛影は飲んでいたコーヒーから口を離し、切れ長の瞳でフェイトを見つめる。
「問答に興味はない。今度は何だ」
いきなり何を言い出すかと思えば、とでも言いたそうな眼差しを飛影はフェイトに向けて放る。フェイトは少し寂しげな笑顔を見せた後、一呼吸を置きながら言った。
「・・・例えばだよ?人によって作られた人間は人間じゃないのかな。他人の複製で、他人の記憶を持つ人は一体誰なのかな・・・――――コピーとかでしかないその人の替わり・・・基として作られたのにその本人じゃない人間は・・・本当に必要なのかな・・・?」
搾り出すように告げるフェイトを、飛影は黙って見据える。フェイトの声はだんだんと小さくなり、最後は呟くようなものに変わっていた。
言葉を紡ぎ終えると、フェイトは何かを堪えるように俯いて黙ってしまう。飛影の反応に意識を集中し、一見すれば怖がっている感じにも見える。そんな彼女に向け、飛影はあからさまな呆れ声で息を吐いた。
「人間の定義なぞオレは知らん。知っていたところで何の興味もない。お前の言いたい事はオレには分かりかねるが、白黒はっきりつけたいなら、そんなものは自分で勝手に決めろ」
「自分、で・・・?」
思いもよらぬ飛影の言葉に、フェイトは思わず鸚鵡返しに聞き返した。ポケットに手を突っ込んだまま、淡々とした声で彼は述べる。
「見ず知らずの奴から好き勝手に言われる筋合いはない。どうあろうが、人として生きるならそいつは人間だ。そもそも、人間を複製すれば人間になるのは当たり前だろうが。少しばかり特殊だろうと、魂を売らん限りは人は人であり続ける。それとも生きるのかどうか、必要かどうかなどを決めるのに、一々他人の指図を受けるのかお前は」
フェイトはそれに対して首を振った。確かにかつては記憶媒体でしかなかったこの身体も、今は自分の意志で全てを決めている。その意を伝えると、飛影は一度フェイトを見据え、何かを考えるように腕を組んで再び目を閉じた。
「ならそんな些事など放っておけ。さっきお前は作られた人間がどうとか言ったが、人だろうがそうでなかろうが、コピーだろうがなんだろうが、オレにとってはどれも同じだ。そいつを認めるか、気に入らんかの違いでしかない。分かったらこれ以上くだらんことに頭を使わせるな。時間の無駄だ」
言葉終わりに、飛影はコーヒーで舌を濡らす。彼は気にも留めていないようだが、フェイトは胸に抱えていた重石がすっと消えていくのを感じていた。
(・・・やっぱり飛影はすごいよ・・・こんなに簡単に、私を救ってくれるんだから・・・)
高鳴るように鼓動する胸にそっと手を置く。トクントクンという音が、フェイトの頬を朱色に染めた。
飛影はいつでも厳しい。自分にも、そして他人にも、一切の妥協や甘えを許さない。故にだろうが、岐路に立たされたとき、彼は常に厳しさに満ちた道ばかりを選ぶのだ。まるで自分を痛めつけるが如きその人生は、常人などからすれば悲鳴を上げそうな生き方である。
だから、飛影は優しい言葉など決して掛けたりはしない。紡がれる声色は冷たく、何も飾ることのない辛辣な台詞ばかりだ。初見でいい印象を持つ者のほうが少ないといえる。
だが彼のことを考え続け、そして見つめ続けてきたフェイトには、ぶっきらぼうながらも相手を気遣う慈愛に溢れているのがわかった。飛影が本当にどうでもいいと思っているのならば、こうやって自分の意見を言ったりなどしない。気の置けない相手であるならば、何も言わず無視するのが彼であるからだ。
すごいと思う。フェイトをはじめ、仲間のみんなのことを真剣に考えているからこそ、彼は怒ったりするし、厳しいこともはっきりと言ってくれる。単に優しいのではなく、苛烈極まる厳しさを以って全員が道を誤らぬように諭してくれる。
それが、彼の『優しさ』なのだ。好かれるために優しくするのではなく、嫌われてもいいから相手のことを思い、言葉と行動を以ってその先を示す。思っていてもなかなか出来ることではない。
だからだろうか。心が芯から温かくなるような、本物の気持ちを彼の言葉から感じるのだ。突き放すような、しかしどこか遠くから見守っていてくれるような、不思議な安らぎを私にくれる。この八年の間も、そんな彼のことをいつも心のどこかで気にしている私がいた。
出会った時の印象がすごく強くて。
言葉と声と、何よりもその瞳が忘れられなくて。
傍にはいなかったのに、いつの間にかだんだん惹かれていって・・・。
(好きに・・・なっちゃったんだろうな)
と、今は絶対に言えない言葉を浮かべ、フェイトは苦笑した。この気持ちを伝えるだけの勇気はまだ自分にはない。ならせめて、今はまだ口にできない言葉の代わりに、自らの精一杯を言葉に託そう。
何も飾り気が無くても。捻くれた彼の言葉の中にあるものと同じ、どこまでも真っ直ぐな気持ちを。
「―――ありがとう、飛影」
「感謝されるようなことを言った覚えはない」
「ふふ、そうだね。でもこれは言うべき・・・ううん、私が言いたかったことなの。だから言わせて・・・・・飛影、本当にありがとう」
「・・・フン。可笑しなヤツだ」
鼻を鳴らすと、再び飛影はそっぽを向いてしまった。だが、フェイトは幸せそうな表情を零す。
彼の声をもっと聞きたい。彼の横顔をもっと眺めていたい。もっと彼の近くにいきたい。フェイトはこのまま時間が止まればいいとさえ思った。
だが、そんな淡い思いを砕くように唐突な電子音が鳴り響いた。慌てて回線を開くと、全体通信がバルディッシュを介して伝えられる。そしてその通信はキャロの声で、
『こちらライトニング4、緊急事態につき現場状況を報告します!』
穏やかな時間が終わったことを告げた。
しょ、小説を書く時間が取れない・・・
いつもの日課である皆さんの小説を拝見するまではいいんですよ。問題はその後なんです。さあ書こうって思うと、その時に限って母や父からちょっと手伝ってーって呼ばれて|(強制連行されて)しまうんですもの!
しかもそのまま二~三時間近く拘束されたりするので明らかにちょっとじゃないし! 終わったときには文章書く気力が削がれてるし!嗚呼、なんだこの悪循環の無限ループは!
さて、今回は題名通り、飛影が初デート(半分拉致)を致しました。しかし、嫉妬とか思いつめた女の子って怖いですよねぇ・・・ヤンデレとかひぐ〇しとか然り。鉈持ってだらりと腕下げられた日にゃ、間違いなく絶叫もんですよ・・・・
ああ、なのはさんが心配だ! 砲撃魔法はパンチングゲームじゃないんですから、嫉妬とかストレス解消目的で撃っちゃいけませんよね。
なのは「撃たせてるのは・・・・誰なのかな・・・?」
うわぁあああ!? なのはさん! しかもデスナノハー形態!? い、いや、沸いて出たのならすみません! ホントのことでも言っていいことと悪いことがありました! ホントにすいません!
なのは「謝る内容まですごく腹立たしいけど・・・・許してあげなくもないの。その代わり一つお願いなの・・・・」
何なりと!
なのは「もっと出番と、飛影くんとの絡みが欲しいの。物理的なのも含めて」
あ、それはムリですね。極めて繊細かつ、大人の事情なので。キャラには超えられない壁があるのです。
なのは「フフフ・・・・なら滅殺、なの・・・!」
うおおお、仕方のないことなのにぃ! そもそも管理局員がそんなことしていいと思って・・・・ぎぃゃああああああああ!!
リィン「と、いうわけで作者さんが気絶してしまったので、今回はこれで終わりということらしいです。それではまた読んでくださいですぅ、再見です!」
魔法少女リリカルなのはACE
コエンマの執筆する小説へのリンクです。よかったらこちらもどうぞ
小説家になろう 勝手にランキング
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