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このお話初となる外伝です!

まずはこの場を借りて謝罪をば。更新が遅れてしまい申し訳在りませんでした!

この所家族がらみのことや、家業の手伝い、その他諸々とリアルのほうでの兼ね合いが大変厳しいものとなっているのであります。

さらにオリジナルのお話を考える辺り、アイディアが思いつかずかなり苦労することとなり、結果、一週間以上も間を空けてしまいました。本当にすみません。

今回は飛影は登場せず、サブキャラクターのお話となります。初めての試みなのですごく不安が残るんですが・・・まあなるようにしかならんばい!

という感じで、外伝の第一作スタートです!
-外伝-  狐と六課とファンクラブ騒動 ~ INミッドチルダ
 


「ふぅ・・・」

 穏やかな陽光が差し込むカフェテラスに、静かに息を吐く響きが漂った。このカフェは機動六課の誇る立派な施設の一つである。高級レストランとはいかないまでも、かなりレベルの高い料理を安く食べられると評判の食堂だ。

 機動六課に派遣されてくる誰もが口をそろえて言うほどのクオリティと、毎日に楽しみが増えるという嬉しい要素。まぁ男にはそれ以外の要素の方が大きいのだが、とりあえずここの評判は上々といったところであった。

 だが、話の焦点はそこではない。昼時ほどではないが、にぎやかな喧騒に満ちたその空間の一角、白い丸テーブルに一人の男の姿があった。そして、彼こそが今この場を支配している人物だ。

 赤い長髪に整った相貌、そして女性に美しいと呼ばせるほど澄んだ深緑の瞳。一目でも見た女性ならば、そのほとんどが目を奪われるであろう男性。ひとたび話せば、彼の雰囲気にやられるであろうこと多数。しかも仕事もでき、おまけに優しいとくれば、イケメン指数も鰻上りになるというものだ。

 これほどハイレベルな要素を持った者は他にはいない。彼こそが六課が誇る民間協力者の一人、南野秀一こと蔵馬であった。

 現在、蔵馬は午前に担当していた仕事を完了させ、遅い昼食とティータイムと洒落こんでいる所だった。いつもなら飛影や桑原と一緒なのだが、少し仕事が多く、今日は一人での昼食だ。ティータイムをする男など、普通は気取っているとも思えるかもしれないが、蔵馬がやると違和感がないどころか一枚の絵になる。

 その中で蔵馬は置かれたティーカップを手に取り、優雅ささえ漂うような動きで口に運んだ。ブレンドでなくストレート、少し柑橘の香りが強めのアールグレイを、存分に楽しんでいる。

 そしてその香りを鼻腔で、渋めの味を舌で味わいながらも、目はテーブルに置いた本に向けられていた。内容は、この世界での知識やその他諸々についてのことのようだ。勤勉な彼らしいチョイスである。

 片手でゆっくりとページを捲り、時折思い出したようにお茶請けのクッキーに手を伸ばす。組んだ足も見事に雰囲気とマッチしており、これ以上ないほど紳士のくつろぎシーンである。

 と、そんな一時を中断させる声が唐突に響いた。

「く、くく蔵馬さん!」

「ん?」

 クッキーに伸ばしかけていた手を戻して、本から顔を上げる。すると蔵馬のテーブルの前に数人の女性、いや彼からすれば少女の一団が立っていた。

 見覚えはないが、時空管理局の制服を着ているから管理局関係なのは間違いない。その誰もが世間一般で言うところの『可愛い』部類に入るような子達だった。

 さらにその表情は一様に赤く染まっているほか、目が泳いでいたり、そわそわと落ち着かない様子だったりする。周りからの視線も妙に気になった。

「俺に何か用かな?」

 相手を驚かせないよう、蔵馬は自然体で問いかけた。穏やかな笑みを浮かべることも忘れていない。これはもう本能的にだ。同時に、カフェの各所で黄色い声が上がったのはスルーする。

 そんな状況のなか少女達は顔をさらに赤くさせ、わたわたと慌て出す。そして怪訝そうな顔をする蔵馬に、彼女達は息を合わせ一斉に口を開いた。

「あのっ!これ受け取ってくださいっ!」

「どうかお願いしますっ!」

「前からファンでした!」

 それ以降も口々に言葉を吐き、蔵馬に向かって何かを差し出してくる。反射的に一人目のを受け取ると、それに便乗するように様々なものを次々と蔵馬に手渡してきた。

「あ、えっと、ありがとう。でも俺は・・・」

 少女たちのパワフルな態度に少し面食らいながらも、断りの台詞を口にしようとする。だが蔵馬が口を開きかけると、少女たちはどもりながらも失礼しますとだけ言い、黄色い声を弾けさせながら走っていってしまった。

 蔵馬は渡されたものに目を落とすと、他人に見えないようにしながら溜息を吐く。手に持っているのは数通の手紙だった。それだけでなく、キーホルダーのようなものやクッキーなどまである。

 この手の贈り物は蔵馬にとって別段珍しいことではない。中学生の頃から女子に言い寄られることが多かった彼にしてみれば、これでもかなり大人しいほうだ。

「まったく、騒がしいことだ」

「苦労しているな、蔵馬」

「ああ、シグナムさんにザフィーラ。休憩ですか?」

 蔵馬の言葉にそのようなものだ、と軽く返すシグナム。ザフィーラが同情するような、その苦労を労うような眼差しで此方を見上げてくる。蔵馬は数少ない自分の理解者の態度に、軽く肩を竦めた。

「局員が失礼をしたな。先ほどのは、他の課から研修のような目的で来た者達だ。それも先ほど終わって解散したのだが・・・どうしても会いたい人がいると、主に頼み込んできたのだ。別段不都合もないとのことで許可は下りたが・・・まぁ、大方こんなことだろうとは思っていたがな」

 周りをさりげなく見渡しながら、呆れた様な、そして少しだけ申し訳なさそうな表情で、シグナムが謝罪を口にする。人当たりがよく、真面目で優しい蔵馬が人気者なのは、常識的に言っても当然だった。その容姿もさることながら、人として生きる彼の魅力がそうさせるのだろう。

 だが、自分の本質を、妖怪だということを知ってなお付き合ってくれる人間は本当に限られてくる。なので、蔵馬は邪険にこそしないが、事情を知らない者とは距離を置く傾向にあった。

 だからこそというか、当然といえば当然だが、この六課の隊長陣や新人たちの存在は蔵馬や飛影には有難い限りなのだ。妖怪と分かっても、普通でないと知っても、普通と変わりなく仲間として接してくれる。それが自分たちにとって最も得難いものであることを蔵馬は知っており、心から感謝していた。飛影は思っていても絶対に口にしないだろうが。

 蔵馬は僅かに笑みを浮かべ、アールグレイのポットへと手を伸ばす。だが、シグナムらに一緒にどうかと誘おうとしたところで、紅茶を傾けた体勢のまま蔵馬の動きが止まった。そして、ティーカップから口を離しながら、恐る恐る二人に尋ねる。

「ええと、シグナムさん?後ろにいる、そのお二方は一体どうしたんですか?」

「何?後ろとは・・・って、うぉわ!?」

「あ、主はやて、それにシャーリー!?ふ、二人とも、いつからそこに!?」

 シグナムとザフィーラが怪訝そうにしたのは一瞬。振り返った二人は、いつの間にかそこに佇んでいたはやてとシャーリーにびくぅっと身体を飛び跳ねさせた。本当に気づいていなかったらしい。

 その声に反応したのか、二人が顔を上げた。何だか纏う雰囲気が尋常ではない。口元には薄笑いも浮かんでいた。

「いつから・・・?シグナムの『大方こんなことだろう』あたりからやで・・・」

「・・・乙女の力を甘くみないで下さいね、シグナム副隊長・・・」

 ふふふ、と抑揚の無い声で笑う二人。何だか場が視覚的に暗くなったかのように感じ、その背後からは一万トンよりも重い空気が漂ってきていた。

 怖い。怖すぎる。そして不気味すぎる。髪に隠れて視線が見えないところなんか特に。自称であるのは何とも言えないが、乙女の力は歴戦の戦士に気配一つ悟らせず近づけるのか。もはや理屈とかそういうのを軽く超えている。

「・・・さっきのは蔵馬さんのファンやったんかそうなんか許可出したのは間違いやったなこれは問題や私に対する挑戦やそうやきっとこれは自分で道を切り開けっちゅうことのあらわれやなうん間違いないこれからはこんなことが起こらんようにしないといかんな今こそ覚悟が試されるその時や場合によってはフレスベルグやラグナロクもありの方向で・・・」

「・・・うぅ、どうせ私は後ろに立っても声を掛けられるまで気づかれないような、地味でデバイスマニアな女ですよ・・・だから蔵馬さんだって・・・」

「あ、あの・・・主はやて?フィニーノ?」

 ぶつぶつと、呪詛とも付かない言葉を吐き続ける夜天の主と、部屋の隅っこでタイルの数を数えているメカニック担当に、シグナムが若干引きながらも近づこうとしたが、それを後ろにいた男二人がおしとどめる。ザフィーラは、動物形態にあるまじき哀愁を漂わせながら、静かに首を振った。

「聞かなかったことしろシグナム。主や仲間の気持ちを察するのも守護者の役目だ・・・」

「ええと、俺もその方がいいと思うな」

 人を超える聴覚で聞こえた台詞を、二人は気のせいだと必死で聞き流していた。流石、民間協力者とヴォルケンリッター中で最も空気が読める男の組み合わせである。紳士オブ紳士と盾の守護獣の名は伊達ではない。どこかの提督にも見習わせたいものだ。

「シグナム~、シャーリ~!」

 そこへ、リィンがふよふよと飛んできた。後ろからはなのはも歩いてきている。どうやらこちらも休憩らしい。

「何の話をしてたの?」

「え、ああいや・・・主はやてとフィニーノが少しストレスが溜まっているようなのでな、どうしたものかと考えていたところだ」

「はやてちゃんがですか?」

「うん。あっち」

 蔵馬が指を差した方向、なのはとリィンの視線が今だに鬱々としているはやて達とらえる。ブツブツと言葉を零していたり、いじいじとのの字を書いたりしている二人に若干引くが、少し考えるような仕草をしてからパチンと手を合わせた。

「なら、ちょうどいいかな。ここのところ根詰めてるし、二人とも今日は午後はお休みにして気分転換でもしてきたら?」

「「・・・へ?」」

 スターズ隊隊長の進言に、はやてとシャーリーは揃ってポカンと口を開けた。何故だかその様子は少し可愛く、さらに幼く見える。なのはは二人に向け、満面の笑みを見せつつ二人を見た。

 横に浮かんでいたリィンも蔵馬の方を向く。浮かんでいたのは邪気のない、煌くような笑顔であった。そして、祝福の風(リィンフォース)の名を持つ少女は頬に人差し指を当てながら、

「蔵馬さんも一緒に、ですね♪」

 ウインクをオマケした魅力的な提案を口にした。



  -Side change in Cranagun-



 天気は快晴。陽の光が少し眩しさを含んで目を刺激する。まだ五月の終わりだというのに、既に汗が浮き出そうな陽気である。夏の気配がもうすぐそこまで来ているようだ。

 ミッドチルダの首都クラナガンは、いくつもの高層ビルが並び立つこの世界でも最大の規模を持つ大都市である。高度に発達した魔法という名の科学の恩恵により、ミッドの環境は温暖化などで悪化することはなく、しかし街には活気が溢れている。魔法の恩恵というものは個人だけではないのだ。

 そしてその人口も、地球とは比べ物にすらならないほどの規模であることは言うまでもない。快適な環境となり、医療も同等にまで発達した世界では、人間の生の数や長さも必然的に増加するというものだ。存在する人間を支えるためには、これだけのものが物理的にも必要なのである。

「へぇ、すごい賑わいだ。仕事でここへ来ることは何度かあったけれど、プライベートでは初めてだな」

 そんな賑やかな街の一角。ミッドチルダのメインストリートを歩く三人分の靴音が響いている。だがそれもすぐに雑踏に混じり、余韻を残すことなく音は消えていく。石敷きのタイルを先頭で踏み鳴らすのは、黒のローファーを履いた蔵馬であった。

 無地のホワイトTシャツに白を基調とした薄い青色のオープンシャツは彼の爽やかさを一層引き立て、上物だろうと思われるグレーのスラックスが長い足に映える。右肩には二つのポケットをつけた皮製の分厚いサスペンダーが真っ直ぐにかけられ、蔵馬の右前と右後ろでそれぞれスラックスの腰部に固定されていた。彼らしいラフなスタイルである。

 蔵馬がさりげなく後ろを振り返り、自分の人一人分ほど後ろから歩いてくる女性二人に目をやった。だが視線が合った瞬間に、その二人はわたわたと慌てたような態度へと変わる。その様子に若干申し訳なさそうな顔をした蔵馬が、気遣わしげに口を開いた。

「二人とも大丈夫かい?それともつまらなかったかな?なのはちゃんに言われたからと言っても、無理して俺に付いて来る必要はないんだよ?疲れているんなら、六課で休んでいた方が――・・・」

「い、いや!そんなことあらへん!私は楽しんでるで!ホ、ホラ、気分転換は大切やしな!なっ?シャーリー!」

「は、はい!はやてさんの言うとおりです!!蔵馬さんの行きたい場所に連れて行ってください!」

 蔵馬の提案を半ば鬼気迫る勢いで却下するのは、機動六課部隊長の八神はやてと同じくメカニック担当のシャリオ・フィニーノである。二人はいつもの六課制服ではなく私服、それも今時の若者といった服装であった。

 はやては蔵馬と同じ淡い青色に英語のロゴが入ったシャツと、前を開いたグレーのパーカー。紺色の短いデニムスカートから覗く足には黒のニーソックスを履き、絶対領域が眩しい。なのはから借りた底が厚めのロングブーツは、少し大きいのか歩き方がぎこちなかった。

 一方のシャーリーは白にペイントで落書きしたようなシャツに青い緑のジャケット。茶色のミニスカートを履き、ショートブーツをカツカツ鳴らしながらはやてに横を並んで歩いていた。その顔に眼鏡はなく、コンタクトで決めた相貌が新しい彼女らしさを醸し出している。

 午前中になのはとリィンフォースから提案されたリフレッシュプラン、又の名を蔵馬との初デート案に二人はのっかっていた。正確には男性一人に対して女性二人なのでデートとは言えないかもしれないが、蔵馬と一緒に出かけられるということで二人は一も二もなく賛成したのだ。

 二人っきりでないことは少し不満だが、本当は諸手を挙げて喜びたい。だが、いざお出かけとなったら気持ちだけが先行してしまい、緊張でガチガチになっている二人であった。

「行きたい場所か・・・初めてだから行き当たりばったりになっちゃうけど、たまにはそういうのもいいかもしれない。三人でいろいろ見ていくとしようか」

「「は、はいっ!」」

 二人の声が弾けてシンクロする。そして、先を行く蔵馬の隣に並ぶと、精一杯の笑顔を浮かべて歩き始めた。

 そこから三人はいろいろな場所を巡った。女性に人気のあるコーディネイトショップに、蔵馬が行きたいと言った本屋。時間的に映画は見れないため、はやての要望でゲームセンターに行きプリクラを取ったり、シャーリーお勧めのスウィーツがある甘味処にも足を伸ばした。

 色々な店や遊び場など時間が経つにつれ、はやて達の硬さも消えていく。三軒目の店を出たときには、なのは達へのお土産を考える余裕もあるほどに普段の彼女達に戻っていた。歳相応と言うヤツだろう。

 午後からという短い時間ではあれど、三人は楽しい時間を思い切り満喫する。そして日が傾いてきた頃、その姿は公園にあった。

 噴水がオレンジ色に染まっている中、遊び疲れたはやてとシャーリーが同じく夕陽に染まった白いベンチに並んで背を預けている。蔵馬は二人から少し間を空けて、同じベンチに座っていた。

「遊んだなぁ~。こんな思い切り遊んだの、いつぶりやろか」

「そうなんだ。ちゃんと休みはとってるのかい?有給休暇はとれるんだろう?」

「はやてさんは六課を設立するまでも大変で、設立したらそれ以上に忙しい日々でしたから、ほとんど休みを取ってないんですよ。私にとっても充実した日々ですけど、やっぱりこういうのは大事ですよね」

 最初の頃のぎこちなさがすっかり抜け落ちたシャーリーが、蔵馬へ同意を求めるようににこっと笑う。蔵馬は苦笑しながらもそれに頷き、ベンチから腰を上げた。

「さっきあった売店で何か買ってくるよ。二人は何がいい?」

 いつもなら慌てて自分が行くという二人だが、今はそこまでの元気がない。気遣いをありがたく受けることにして、二人は蔵馬にお任せした。歩いていく彼の背中が見えなくなると、二人そろって溜息を洩らす。

「もう今日も終わりやなぁ・・・」

「そうですね・・・」

 はやての言葉に、隣のシャーリーがゆっくりと答えた。蔵馬がいなくなったベンチに沈黙が下りる。今すぐこれを破らなくてはならないような、ずっとそのままにしておきたいような、そんな奇妙な葛藤が二人を伝わって一帯に満ちていた。

 しかし、そのとき二人の前に影が落ちる。蔵馬が帰ってきたのだろうか、と二人は顔を上げたが、そこにいたのは三人の女性だった。しかも、こちらに向かって穏やかとは言いがたい視線をぶつけてきている。そんな目を向けられる覚えはないが、どうやら自分たちに用があるらしい。

 と、はやてが漠然とそこまで考えた時、リーダー格らしき女性が二人の前にずいと進み出た。

「あなた達、蔵馬様といた方々ですわよね?」

「そ、そうですけど、何か?」

 女性の態度にシャーリーは少し不安げに隣を見た。何故その名前が今出てくるのかとか、なんで様づけなんだという疑問を押し込め、はやては彼女の視線を真っ向から受け止める。隣の彼女と相手の雰囲気を察し、『部隊長』の顔を浮かべてながら。

「初対面の人相手に自己紹介もなしに詰問するなんて、失礼と違いますか?こちらとしては、名前くらい名乗ってからにして欲しいですね」

 後ろの二人がはやての眼力に僅かに気圧される。さすがは仮にも機動六課をまとめる立場の人間だ。だが、先ほど口火を切った女性は、彼女の態度に眉を吊り上げた。

「まぁ、蔵馬様とご一緒だというのに品がないですこと。何故蔵馬様がこのような女性と一緒にいらっしゃるのかわかりませんわ。そもそも、どのような目的であの方といるのですか?」

「目的なんてありません。今日はお互いに都合がついていたので、三人で少し羽を伸ばしに来ただけです。部外者のあなた方にとやかく言われる筋合いはないと思いますが」

「部外者ですって?私たちはこういう者ですわっ!」

 はやての言葉に、彼女たち三人が一斉に上着を脱ぎ去る。はやてとシャーリーは目の前の光景に硬直した。その意味不明な行動原理もさることながら、二人が目を奪われたのは彼女達が纏っていた服である。そこには、大きな文字ででかでかとこう書かれていた。



[蔵馬様LOVE!]

[蔵馬様は至高なり!]

[蔵馬様の敵は我らの敵!]



 かなりどうかと思うデザインのTシャツで胸を張る三人娘。その根拠もなく偉そうな態度に合点がいった。同時にこう思う。

 馬鹿だ。こいつらとんでもない馬鹿だ。一瞬前まで問答に付き合っていた自分たちがバカらしく思えてきた。

 どうやら、彼女達はファンクラブ(おそらく非公式)の会員か何からしい。街で珍しく蔵馬を見かけたと思ったら、傍にはやて達のような女性がいたのでわざわざしゃしゃり出てきたというところだろう。いい歳して暇にもほどがある。

「分かりましたか?我々は蔵馬様を守る立場にあるのです。分かったのなら今ここで誓ってくださるかしら。今後一切、あの方に付きまとわないと」

 付きまとっているのはアンタらだろう、というツッコミをどうにか飲み込む。そして横にいるシャーリーに目をやったはやては、とても珍しいものを見た。

 普段は温厚であり、こういう状況では比較的気の弱い彼女が、むすっとした顔で相手を睨んでいたのだ。譲る気はないといった雰囲気がありありと出ている。そして、彼女と目があったはやては一瞬笑い、そして強い意思をその目に宿してはっきりと告げた。

「お断りします。私たちと蔵馬さんは仕事場の同僚ですから、どちらにしても顔を合わせて仕事する仲ですしね。そもそも、あなた達の言葉を聞く理由がありませんから」

「それに、そんなことを蔵馬さんが頼むなんて絶対にありえません。あなた達こそ、ありがた迷惑という言葉を覚えた方がいいです。ストーカーになってしまう前に、自分のしてることをよく考えたらどうですか?」

「っ!言わせておけばっ!」
 
 二人の言葉に気分を害されたのか、女性が手を振り上げる。その目標はシャーリーだった。はやてが声を上げる暇もなく、向けられたシャーリーは目を見開くしかできない。

 そして、風を切る音と共に撓った平手が思い切り振り下ろされ、

「やれやれ。女性であっても、無抵抗の相手に暴力を振るうのは関心しないな」

 風よりも早くその間に割り込んだ影によって掴まれ、寸でのところで止められていた。赤く長い髪がさらりと揺れる。

「「蔵馬さん!」」

「く、蔵馬様・・!?」

 腕を掴まれた女性は、目を見開いて目の前の青年を見つめる。自分が追い求めた姿を見れたことに一瞬嬉しそうな表情をするが、すぐにそれは成りを潜めた。いつも優しげな蔵馬の表情が、見たこともないほど険しいものだったからである。

「く、蔵馬様・・・あのええと、これは、その・・・蔵馬様を想っての・・・」

 たどたどしく言葉を零す彼女に、先ほどまでの気勢はない。ばつが悪いような、何かに怯えるようなそんな様子だ。蔵馬は表情を変えないまま一瞬目を閉じて、再び彼女を強い瞳で見据えた。

「俺なんかのことを考えてくれるのは素直に嬉しい。それは本当だ。だけど、もし俺の大切な仲間を傷つけたら・・・俺は、君達を許さない」

「「く、蔵馬さん・・・」」

 はやてとシャーリーの頬が夕焼けより真っ赤に染まる。だが、それは同時にその他の者たちへの拒絶の意思であった。

「う・・・うわああああん!!」

 有無を言わせぬその声色。それも他ならぬ蔵馬からの言葉が利いたのか、リーダー格の女性は涙を浮かべながら走り去ってしまった。後ろの二人も半泣きになってそのあとへと続いていく。

 彼女達が見えなくなると、蔵馬は一つ溜息を吐いた後ではやて達に振り向く。表情はいつもの彼が見せる苦笑に戻っていた。

「俺が少し遅くなったせいでこんなことになってるなんて・・・ごめんね。お詫びにはならないけど、二人とも手を出して」

 蔵馬がポケットから何かを取り出す。二人は反射的に手を出し、そしてその上に乗せられたものに目を丸くした。

「蔵馬さん、これ・・・」

 はやてが手の上に光る『それ』を見ながら呆然と呟く。蔵馬から渡されたのは、銀色の光を放つブレスレットであった。シャーリーはシンプルなストレートリングに数個の小さなリングが通ったデザイン。はやてのは少し幅広いリング面に十字架の彫が入っていた。どちらにも二人のイニシャルが刻まれている。

「近くに露店が出てるのを見つけて、そこで買ってきたんだ。安物だけどね」

「安物って・・・」

 シャーリーはブレスを見つめながら言葉を零した。アクセサリーにそれほど詳しいわけではないが、その輝きと手に伝わる重量感を見ればすぐにわかる。これは道端の露天商から買えるような代物ではない。明らかに、その手の方面からでなければ手に入らないはずだ。

 だが、蔵馬はそんなことを億尾も出さず、微笑みながら言う。

「我ながら安直で申し訳ないんだけど、今日一日付き合ってくれたお礼、俺からのせめてもの感謝の気持ちとして、ね。要らなければ諦めるけれど、よかったら受け取ってくれないかな?」

「も、もちろんや!こんな立派なもの貰って不満なわけあらへん!ホンマにありがとう・・・!」

「す、すごく嬉しいです!大事に、しますね・・・」

 二人の返答に満足げな顔をした蔵馬が、そろそろ帰りましょうかと促してくる。それにすぐさま頷いて、はやて達は蔵馬の左右隣へと並んだ。

 少しだけ冷たくなった風が二人の頬を撫でる。昼はかなりの暑さだったが、夜はまだ冷える日が続くようだ。暗くなり始めた空に一番星が輝き出していた。

(シャーリー、蔵馬さんのこと好きやろ)

「へぇっ!?」

「?どうしたんですか、シャーリーさん?」

 いきなり、本当に唐突に念話で紡がれた言葉に、シャーリーは飛び上がらんばかりに驚いた。手をわたわたと規則性なく振り、視線や顔は宙を泳いでかなり挙動不審っぽい。

「(い、いきなり何を言うんですか!そ、そんなこと私は・・・)」

 不思議そうに見つめてくる蔵馬に、動揺しながらも愛想笑いでごまかしながらはやてに詰問する。そんな初々しい反応の彼女に、はやては蔵馬に隠れてニヤリと笑いながら続けた。

(ごまかしても無駄や。今日一日、デバイス関連のことをやっとる時よりも、ずっと嬉しそうやった。その舞い上がり方を見とればすぐわかる。さっき助けられたときなんか、もうすごかったで?『私とおんなじ』なら尚更にな・・・)

「あ・・・」

 そうだ。はやてが蔵馬に惹かれていることは、もっと前から分かっていた。彼女ほどの敏い人物なら、同じ気持ちを蔵馬に向ける者のことが分からないはずがない。

 シャーリーは見破られていたことに顔を赤く染めながら、黙って彼女の言葉を待った。

(ファンクラブのことは、前からフェイトちゃん達を通して何回か聞いとった。けど、蔵馬さんの人気がここまで広がってるってことはさすがに予想外やったな。そういえば、飛影くんの周りもおんなじようなことになっとるらしいで。性格はアレやけど、姿形はイケメンそのものやからなぁ)

 はやてが悪戯をした子供のような笑みを浮かべる。事実、飛影の秘密は全て伏されているが、その存在は局員の情報網を通して世に流れ出ていた。

 ただ少し蔵馬とは事情が違い、彼の場合はその見た目のみで釣られる傾向が多いらしい。一度会ったり人づてで聞いたりして、彼の実態を知れば引いていく者がほとんどなのが救いだが、中にはあんな感じで冷たくされるのが好きっ、という物好きな女性もおり、ヴィータやフェイトが頭を悩ませているのだとか。閑話休題。

(ファンが付くのは止められへんけど、あんまり過激になっても困るから少し抑えなあかんな。私らのことを抜きにしてもや)

 はやてが意味深な笑みを浮かべて此方を見てくる。シャーリーはその視線を受け止めながら、同じく強気な瞳で相対した。

 こんな気持ちになったのは彼女も初めてだ。けれど、それはウソにできるほど小さくはない。念話はできないので、シャーリーはその表情に全てを乗せた。



『負けませんから』



 宣戦布告と同時に決意ともなる、ただ一つの感情を。






記念すべき初外伝なのに、なんだろうこのグダグダぶりは。

と、はやくも脱力感に襲われているコエンマです。改めて書いてみると、蔵馬って扱いが難しいのなんの!台詞は幽助とか飛影みたいにガツンとやれないし、あまり敬語にしすぎると不自然だし・・・

このにじファンを利用しているとある作者様のご好意で、別サイトにある蔵馬主人公のクロス作品を読ませていただきましたが、改めてすごいと思いました。自分は蔵馬を上手く操縦できないので・・・もっと精進せねば。

さて、次回以降の予定についてですが、なんともう一つの外伝を計画しています。こっちは飛影メインの外伝で、飛影がとんでもない目に遭う予定ですので、もうしばらくお待ちくださいませ。

今回ほどお待たせすることはないと・・・思います。たぶん。色気もそれなりにつけるつもりですよ。あくまで当社比ですが。

ではでは、また次回にてお会いできることを願っております。

再見ツアイツエン

魔法少女リリカルなのはACE
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