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ようやく完成いたしました第二十二話。

いや~、学校が始まったので忙しさが倍増したのもそうなんですが、とっていた授業の開始直後にレポート課題を出され、それに追われる羽目になってしまいました。

しかも今回はいつもより長いということもあり、うまくまとめるのにも時間を要してしまい、結果一週間という間が空くことになってしまったこと、ここにお詫びいたします。

今でも上手くまとめられているか自信はないのですが、なんとか形にすることができましたので投稿いたします。

それでは第二十二話、スタート!
第二十二話  喪失の重み ・ 渇望の果て ~ 戦士達の過去
 なのは達は一瞬の光に目を覆う。そして間をおいてから窺うように徐徐に開いていくと、そこには、既に六課の部屋はなかった。

 はじめに見えたのは多くの観客席とそれに座る異形の者達、石で出来た巨大なリングだ。歓声が響くその中央、二人の男が数歩の距離をおいて対峙していた。背丈も年代も違いそうな二人であったが、その周囲は事情を知らないなのは達にもわかるほどの緊張感に包まれている。

 一人はスバルやティアナと同年代ぐらいの少年。黒髪を見事なリーゼントで決め、目の前の男を睨みつけていた。

「あれは・・・」

「アレがホントの俺。この映像は今からだいたい十年ぐれぇ前の、俺が十四だった時のもんだ。何の力もねぇ一般人だった俺が、この世界に足を踏み入れたのは全くの偶然でな。そっから霊界にいろんな指令を受けるようになって半年、俺は裏の世界のバトルトーナメント、この暗黒武術会に招待された」

「「「「は、半年っ!?」」」」

「偶然・・・私と同じ・・・」

 幽助の成長速度にスバル達が声を上げる。なのはは少し複雑そうな表情をしながら幽助を見つめた。

「飛影や和真たちもいる・・・知らない人もいるけど」

 フェイトも傍らに立つ三人と、青い衣を纏った一人に気づいて声を上げる。シグナムが視線の先、真正面を見つめていた目を細めた。

「あの大男は・・・?」

 その先にはサングラスを掛け、上半身を露出した長身の男がいた。その鍛え抜かれた肉体を惜しげもなく晒し、幽助と相対している。

「奴は戸愚呂。当時、暗黒武術会において最強の名をほしいままにした元人間の妖怪だ。この時点での彼の力は凄まじくてね、当時の俺や桑原くん、それに飛影すら凌いでいた」

「ええっ!?ひ、飛影さんより強かったのですか!?」

「お兄ちゃん以上なんて・・・」

 蔵馬の台詞に全員が度肝を抜かれる。十年以上前とはいえ、あの飛影よりも強いという事実は、六課の全員にとって衝撃的なことだったらしい。

『元人間』という言葉にフェイトやエリオが不可解そうに眉を寄せたが、始まった戦いに正面を見る。フェイト達は尚も何かを言おうとしたが、両者の戦いはその目を釘付けにし、彼女達に尋ね返す機会を与えなかった。

 戸愚呂が体に力を入れると、その筋肉がみるみる発達していったのである。そして、その体がおよそ人間の限界を超えたような筋骨隆々の姿へと変わった。放出される戸愚呂の妖気、その凄まじさを感じ取った全員が言葉を失う。

「か、体の筋肉が・・・・!」

「戸愚呂は自分の筋肉の量を操作することができんだよ。それを割合で高めて妖力と戦闘力を調整する。ありゃ80%だな」

「あ、あれで八割やて!?」

「発する気だけでこれとは・・・何という禍々しい力だ・・・」

 桑原の言葉と戸愚呂の様子に、スバルやはやてが目を剥いた。ザフィーラは、戸愚呂の妖気に当てられて消滅していく妖怪を見ながら低く唸る。そして碌に言葉も発せないまま、戦いの火蓋は切って落とされた。

 二人の一足一動に風を切って空気が震える。振り抜かれた、あるいは突き出された拳の風圧が、頑丈な石版や石のフェンスをたやすく粉砕し、時に観客すら巻き込む。幽助はそれを紙一重で避け、隙を見て攻撃を加えていた。

「な、なんて戦いなの・・・!」

 シャマルが二人を凝視して身を震わせる。戦い方は肉弾戦というミッドとは一線を画すほど原始的なものだが、そのレベルは桁で違った。非殺傷などという都合のよいものなどない、食らえば一撃で死に至るであろう攻撃が飛び交う、本当の意味での『戦い』。しかし、幽助によればこれでもまだ様子見に過ぎないと言う。

 そんななか、痺れを切らした戸愚呂が石のリングに拳を突き落とした。凄まじいエネルギーと衝撃に石版が残骸となって吹き飛び、数メートル四方の岩がさながら紙吹雪のごとく宙を舞う。

 だがそれを隠れ蓑にした幽助は、天地が逆転したような体勢のまま戸愚呂に向けて空中で構えを取った。

「あ、あれは!さっきティアがやった・・・!」

 スバルが滞空する幽助を見て叫ぶ。そして、指先に集まった青い光が戸愚呂に向けて撃ち放たれた。

『―――霊丸ッ!』

 声と爆発音が等しく反響した。ティアナが放ったものと名は同じだが、その威力は恐ろしいほど高く、見た目は巨大な砲弾のようである。そして膨れ上がった光はそのまま飛翔し、轟音を轟かせながら無防備の戸愚呂に直撃した。

 爆風が散乱し、砂塵が舞う。戸愚呂の巨体は勢いに為す術なく押しやられ、青い霊光に包まれた。霊丸はそれで減速せず、何層にも渡って組まれた闘技場の壁をも突破する。そのまま周囲に繁茂する木々をなぎ倒し、戸愚呂の身体は遥か彼方へと吹き飛ばされていった。

「こ、これが、浦飯さんの霊丸・・・!」

「なんちゅう威力なんや・・・軽くティアナの十倍以上はあったで・・」

溜め無し(ノータイム)・・・けど、カートリッジを使ったなのはさんのSランクオーバーの砲撃魔法と、同等クラスのパワーです・・・!」

 ティアナのものとは比べ物にならないほどの霊丸に、全員が口々に言葉を零した。広範囲攻撃を得意とするなのはやはやて、それにリィンに至っても、その威力と発動速度に目を剥いている。また霊丸だけでなく、ただの一撃でリングを跡形もなく吹き飛ばした戸愚呂の攻撃力にも恐れを抱いていた。

『幽助の霊丸は、戸愚呂を完全に捉えた』

『ああ。戸愚呂はガードも間に合わなかったはずだ』

 記録の中の飛影と蔵馬が、霊丸によって空いた大穴を見つめながら呟いた。彼からから見ても、どうやら同じ認識だったようだ。それならばもはや心配はない。

 全員がほっと息を吐いた。少しヒヤッとした所もあったが、ともかくこれで決着だろう。あんなすごい霊丸を受けたのだ、勝負は決まったも同然である。六課の全員がそう思って気を抜いた。

 だが、なのは達の常識と安堵は容易く打ち砕かれることとなる。緩んだ彼女らの心中を凍らせるような言葉が、記録の中の飛影から紡がれたのだ。

『―――もしこれで・・・・・戸愚呂が無傷だったら・・・・・』

「「「「え?」」」」 

 蔵馬と桑原、それにティアナに乗り移った幽助を除く全員が、一様にぎょっとして一斉に彼の方を向いた。その台詞を何度も頭で繰り返し、言葉の意味を理解するのに数秒をかける。そうして咀嚼した彼女達が辿り着いた答えは、唯一つの疑問だった。

 無傷? 一体何を言っているのだ、彼は。

「ちょ、ちょっとちょっと、冗談キツイで昔の飛影くん。なのはちゃんが全力で守っても大怪我確定なのを、完璧に生身で受けたんやで? 無傷やなんて、いくらなんでもそれはないわ。ひとたまりもあらへんに決まっとるやろ、なあ?」

「そ、そうですよ! あんなの受けて無事なはずが・・・・・・」

 同意を求めてくるはやてに、ほぼ全員が頷く。あまりにもバカなことを提言されたかのように、半分笑っている。だがその顔は、一目見てわかるほど強張っていた。

 そして現実はまもなくして、彼女らに真の恐怖というものを植え付ける結果となる。すなわち、本当の驚愕はここからであったということを。

 霊丸により数キロに渡って火の海となった中、その遥か向こうに何かの影が現れる。炎によって揺らめく視界の彼方から、相対的に黒い何かが近づいてくる。近づくごとに影はその輪郭を成していく。ジャリ、ジャリ、という砕かれた地面を歩く音が妙に大きく響いているような気さえした。

「な―――・・・・!?」

 はやての口から呻き声が洩れた。それと同時に影が光を浴び、闘技場に空けられた風穴に手をかける。目に映ったその姿になのはやフェイト、新人達が声も出せぬ中、闇より這い出た影は埃を払うような仕草に失望の声色を重ねて言った。

『――――――こんなものかね・・・? お前の力は』

 それは紛れも無く、先ほど吹き飛んだはずの戸愚呂だった。所々ズボンは破れ、トレードマークのサングラスを失っているが、まったく健在なまま彼はそこに立っている。後ろに下がったフェイトがソファに躓き、キャロの横にすとんと腰を落とした。

「か、掠り傷一つ付いてない・・・!」

「そんな・・・間違いなく直撃だったはずよ・・・!?」

 シャマルが呆然として呟く。彼女は幾度となく傷を負ったなのは達を診てきたから、魔法の威力と傷の深浅には詳しい。その関係は比例するのがセオリーだ。

 そのことをふまえ破壊規模から想定してみる。どう考えても、あの霊丸は相当な威力だったはずだ。生半可なバリア魔法などでは、防壁ごと消し飛ばされてしまっただろうし、ましてや直撃では即死、あるいは消滅しても何ら不思議ではないほどの。

 だから、あれだけの攻撃をまとも受けて全くの無傷など、普通の人間では絶対に不可能だ。もしも可能とするのなら、それは頑丈を通り越してもはや異常。実際に見ても信じられないが、戸愚呂の力はなのは達の想像を遥かに超えていたのである。

『お前も100%で戦うには、値しない。このまま決着をつけてやろう。80%のままでな』

 幽助が張った霊気ガードを、気の放出だけで突き破りながら戸愚呂が言う。はやて達は震えた。

 強すぎる。誰が見ても、絶望的な状況なのが明らかだった。ティアナに乗り移った幽助が「まいったぜ」という風に肩を竦める。

「ま、こん時はまだ俺も本気じゃなかったんだけどな。けど、ここまで圧倒的だったのはちっと予想外だった」

「あ、あれで本気じゃなかったんですか!?」

 なのはが驚いて尋ね返す。そして全員が成り行きを見守る中、幽助の操作で場面は次々に入れ替わっていった。

 そして言葉の通り、枷を解いた幽助が戸愚呂に飛び掛っていく。消えたように見えるほどの速度で戸愚呂に肉薄し、素手で戸愚呂を吹き飛ばした。

「は、速いっ!?」

「う、動きが全然見えませんでした・・・」

 スピードに自信のあるフェイトやエリオが目を見開く。全力の幽助はその全てが先ほどの比ではなく、徒手空拳で80%の戸愚呂を圧倒するほどのもの。だが、それで勝負は終わらなかった。

 幽助の猛攻を受け倒れていた戸愚呂が立ち上がる。体の筋肉が縮んだ戸愚呂は力を失ったかのようにも見えるが、それ以上に見て者に不気味さを感じさせる。そして彼は殺気とも怒気とも違う、しかし目が合っただけで殺されそうな視線を愉悦で満たし、一人呟いた。

『初めて・・・敵に会えた・・・』

 声と同時、戸愚呂の体に筋が走り始める。それは瞬く間に彼を覆いつくし、不気味な妖気が辺りを包む。そして寒気をさらに加速させる瞳で彼は幽助に笑いかけた。

『――――いい試合をしよう。100、パーセント・・・・!』

 言葉と共に地鳴りが起きる。そして、目も眩むような光が戸愚呂を包み込んだ。凄まじい妖気が周囲に迸り、触れた妖怪たちはそれだけで蒸発していく。地獄を体現した世界がそこにあった。

 そのあまりのおぞましさに言葉を失いながら、なのは達は元凶である戸愚呂へと視線を戻す。その先には、目を疑うような光景が展開されていた。それこそ、地獄すらも凌駕するような。

「な・・何、あれ・・・」

 なのはの口から、声と共にカチカチと歯がかち合う音が響き渡る。その先には、筋肉が怒涛の勢いで膨れ上がらせる戸愚呂の姿があった。破壊と再生が同調して行われ、まるでぶくぶくと大きくなる泡のように、その身体は変形を続けていく。

 拳が巨大化し、背中が山のように盛り上がり、戸愚呂の体は脈動と収縮を繰り返しながら、先の二倍ほどの巨躯にまで膨れ上がっていった。筋肉は硬質化して鎧のようにせり上がり、もはや人界に留まっていない。

 そんな常識外れの工程を経て、ついに戸愚呂は自らの全力、100%へと変革を遂げた。

「あ、あれが、元は人間だったというのか・・・!?」

 シグナムが呆然として声を震わせる。だが、なのは達が恐怖を感じる暇もなく、戸愚呂が手を動かした瞬間に幽助が突然吹き飛んだ。驚く一同に、桑原が口を開く。

「今のは指弾だ。浦飯に向けて空気圧を飛ばしたんだよ」

「ゆ、指を弾いただけで!?あの一瞬であんだけの威力を持たせるやなんて・・・まるで弾丸やないか・・・!」

 はやての言葉を遮るように、マシンガンのごとく繰り出される指弾を幽助が叩き落す音が響く。それを捌ききった幽助は戸愚呂へと突撃し、渾身の力を込めたパンチを見舞う。

 だが、凄まじい威力を持つはずのその拳が届くことはなかった。なんと鉄をも軽々と砕く一撃は、戸愚呂の親指一本で受け止められてしまっていたのだ。本当に無造作すぎるほどに。

 自失しかかった幽助の隙を戸愚呂が見逃すはずもなく、代わりに一撃で腕がイカレるようなカウンターを左腕に喰らう。硬直によってモロに受けた幽助は、悲鳴すら上げられぬほどの痛みにもんどりうった。

「う・・・そ・・・」

 なのは達は、あまりの光景に言葉を失った。その様相は子供と大人どころではない。先ほどまでの優勢が再び逆転し、パワーでもスピードでも圧倒されている。完全に追い詰められた幽助は、戸愚呂に向けて霊丸の構えを取った。

『全力で撃ってみろ。ラストチャンスかもしれんぞ』

『ッ!・・・舐めんなァッ!!』

 挑発するように見下ろす戸愚呂に向けて、幽助はフルパワーで霊丸を放った。枷をした状態の倍以上はあるだろう凄まじい霊丸。先ほどまでなら、これで勝負はついていた。だが、

『喝―――――――――ッ!!』

 幽助が渾身の力を込めて撃った霊丸は戸愚呂に到達することなく、寸前で露と消されてしまった。それを為したのは、戸愚呂が放った『ただの怒号』である。あまりにも非常識な光景を理解できなかったキャロが、呆然としたまま呟いた。

「な、何が、起こったんですか・・・!?」

「ば、馬鹿な・・・・気合を放っただけであれほどのエネルギーを・・・あの巨大な霊丸を消し飛ばしたとでも言うのか・・・!?」

「ふざけろよ・・・こ、こんな奴、デタラメじゃねぇかっ・・!」

 シグナムとヴィータが強張った表情のまま声を震わせて言う。

 戸愚呂が行ったのは、技も論理も何も無いただ力を真っ直ぐにぶつけただけだ。それも、彼にすれば児戯に等しいレベルで。ミッドチルダに存在するあらゆる魔法理論の観点から考えても、彼の取った行動は愚策としか言いようが無い。

 だが、それですら圧倒的すぎたのだ。自分たちの力は、おそらくこの記憶の幽助にすら遠く及ばないであろう。そして彼が相手取る戸愚呂から感じる、考えたことすら無いほどの力の差。

 闇の書の一部として、永き時を戦い続けた彼女たちは一騎当千の戦士という自負があった。だがシャマルとザフィーラを含め、四人の頭に浮かんだのはひとつだけ。

 勝てない、と。

『元人間の俺から見て・・・・今のお前に、足りないものがある』 

 戸愚呂は悠然と佇みながら幽助を見据えた。恐怖から後ろに下がった幽助へと一瞬で近寄り、その襟首を掴んで持ち上げる。視認できないほどの速度を造作もなく繰りだす様は、少女達にさらなる恐怖を植えつけるには十分すぎた。

『危機感だよ・・・・お前・・・もしかしてまだ自分が死なないとでも、思っているんじゃあないのか?』

 言葉の終わりと同時、戸愚呂の一撃が幽助の腹部に炸裂した。繰り出された拳になす術もなくその身体は宙を舞い、遥か彼方へと吹き飛ばされていく。そのまま三階客席を軽く抉り、彼の身体は闘技場の壁へと打ち付けられた。

「「「「「「「ああっ!?」」」」」」」

 砕かれた壁を背にして、ズルズルと身体が滑り落ちた。倒れた身体を必死に起こそうとした幽助だったが、内臓へのダメージからか、口元に押し寄せた血を吐き出す。

 ボタボタと、雫というにはあまりに大きなそれらが地面に次々と赤い花を作っていった。その光景に、スバル達が顔を真っ青にして言葉を失う。

『勘違いしてないかね、浦飯。お前はまだ、100%の俺と戦う資格を持ったにすぎない。今のお前を殺すには、片手で十分だ。だがそれでは俺が100%になった意味が・・・ない』

 戸愚呂は地上から幽助を見上げる。圧倒的な力を誇示しながらも、その目的は幽助を殺すことではない。彼は無感情で告げた。

『お前の最大の力を見るために、俺は100%になった。だからお前には義務がある。今持てる力を最大限に使い尽くし、俺と戦う義務が!――――正に鉄のロジック!』

 戸愚呂が佇む幽助に向かって己の理論を展開する。彼がわざわざ全力を出したのは、ただ戦いに勝つためではなく、退く事が許されない極限の状況下での幽助との真剣勝負、つまりは命の奪い合いをするためだったのである。

 そして、それが自分の意志だと戸愚呂は告げた。闘争本能などではなく、死を賭して戦うということこそが自分の生きる目的だと。

「狂ってる・・・!」

 常軌を逸した彼の信念に、フェイトが声を震わせる。そして、そこから正に一方的な戦い、いや戦いとも呼べないものが始まった。

 死んだ者たちの魂が戸愚呂の身体に引き寄せられ、吸い込まれていくのだ。不吉な風が辺りを覆い、妖怪たちが次々と蒸発する。

「こ、これは・・・!?」

「あたしらがやった蒐集みたいにエネルギーを取り込んで・・・いや違う・・・喰ってやがるんだ・・・ヤベェぞあれは!」

 それは一方的な捕食だった。恨みと悲鳴が全て戸愚呂に吸い込まれ、その身体の一部となっていく。戸愚呂は不気味に笑った。

『100%の俺はひどく腹が減る。弱いものからどんどん喰うぞ。この会場の餌を食い尽くすのに、二十分とかかるまい・・・ぼんやりしていていいのかね?お友達も応援に来てるんだろう?クククク・・』

 スバルやキャロをはじめ、戦い慣れしているなのは達までが吐き気を堪えるように身体を丸める。シグナムやヴィータはそこまで行きはしないものの、久しく見なかったおぞましい光景に顔を芯まで青くした。

 だが映像は続く。幽助は果敢に挑みかかるものの、全て軽くあしらわれてしまっていた。カウンターで攻撃を受けるたびに傷つき、普通の人間なら余波だけで消し飛んでしまうような拳が、何十発もその体に浴びせられる。

 吹き飛んでフェンスに激突した幽助に、戸愚呂は溜息を吐いた。

『がっかりだぞ浦飯、やっとまともに戦える相手が見つかったと思ったんだよ。俺を失望させた罪は重いぞ・・・!』

 その力の差を憂いながら、戸愚呂が幽助に近寄っていく。だが、青いずんぐりとした鳥のようなもの―――名をプウと言うが―――が両者に割って入った。

『盛り上がってるとこ、邪魔するよ』

 外見に似合わないしわがれた声が響いた。スバル達は救援が入ったのかと、期待に満ちた表情を零す。だが、パタパタと二人の間を飛びながら、プウは恐るべき提案を口にしたのだ。

『戸愚呂、幽助の本当の底力を見たいんだろ。手っ取り早い方法を教えてやるよ。こいつの、幽助の仲間を殺すことだな』

「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」

 紡がれた台詞になのは達は耳を疑った。それは幽助も同じだったらしく、信じられないかのようにプウに問いかける。だが、返ってきたのは冷たい言葉であった。

『今のこいつは自分だけで真の力を引き出すことはできない。誰か一人ぐらい、目の前で死ななきゃ目が覚めないのさ』

『バ、バカ言ってんじゃねぇよ!』

 幽助はいまだ混乱しながら声を荒げる。だが声は淡々と告げた。

 このままじゃどの道誰も助からない。なら一人が犠牲となり実力を引き出すことで、戸愚呂を倒す可能性を見出す方が筋だろう、と。

 その言葉にスバル達は声すら出せなかった。つまり、みんなのために仲間のうち一人を見殺しにしろと言っているのだ。

 幽助は怒りに任せ、プウを怒鳴りつけた。だが切った啖呵も応じられず、逆に殴りつけられて幽助は激昂しかける。

 しかし、ただ真っ直ぐに自分を見つめてくる瞳に射抜かれ、彼は気を取り戻した。プウに乗り移った声は静かに、言い聞かせるように彼に言い放つ。

『幽助・・・これが、お前の首を突っ込んだ世界なんだよ。力の無い者は何されても仕方がないのさ』

 言葉の終わりに結ぶように戸愚呂から指弾が飛び、幽助とプウを吹き飛ばす。彼はそのままニヤリと笑った。

『それは・・・俺も考えていた、最後の手段としてな。お前が自分自身の力すらコントロール出来ぬほど未熟なら、それしか・・・あるまいな・・・』

 倒れた幽助を見下ろし、戸愚呂は背後にいる四人に目をやった。ひとしきりそれぞれを眺めた後、その指先を桑原へと向ける。桑原は顔を引きつらせ、幽助が半ば放心したように見つめる中、戸愚呂は無感情に告げた。

『お前がいいな・・・浦飯の力を引き出すために・・・つまりは、オレのために、死んでもらう』

 感情など微塵も浮かべず、戸愚呂は歩き出す。そこにはもはや慈悲はなく、幽助を自分と対等に戦わせることしか頭にない。

『や、やめろ、戸愚呂ォオッ!』

 焦燥を滲ませた表情と声で、幽助はがむしゃらに戸愚呂へと特攻する。だが何度立ち向かっても、拳やキックを何発打ち込んでも、戸愚呂を怯ませることにすら至っていない。

 何度も戸愚呂の拳を受け、逆流してきた血反吐を吐き出す幽助に向けて、彼は優越感すら滲ませた声色で告げた。

『惨めだなァ・・・浦飯。お前は・・・無力だ』

 言葉とともに、戸愚呂は幽助の身体を押さえつけて地面へと埋め込んだ。動かなくなった幽助を見て、戸愚呂はさらに桑原たちの方へと歩いてくる。

 蔵馬と飛影が迎え撃つことを告げ、構えを取った。だが、桑原はそれを遮るように三人の前に出て、助太刀を拒否した。

「俺一人でいい」と言葉を残した桑原に、彼の意図が掴めない蔵馬と飛影が詰め寄る。だがその目を見た瞬間、二人とその後ろにいた青年が息を呑んだ。

 桑原は静かに三人を見返す。穏やか過ぎる彼の瞳になのは達が言いようの無い寒気を感じた時、不意にはやてが声を震わせた。

「あの目・・・同じや・・・あの時のリィンフォースと・・・」

「「「「「「!!」」」」」」

 はやての言葉に、隊長二人とヴォルケンリッターがびくっと反応し、その目を見開く。雪の降る丘に消えていった銀髪の少女の目が彼と重なったとき、桑原が飛影の後ろにいる青年に声をかけた。

『・・・アンタ、浦飯に命を賭けてくれたよな・・・俺もかけるぜ!湿気た命だがなァ・・・』

『!? よせっ、桑原ぁッ!』

 幽助の声を振り切り、桑原は特攻する。そして叫びも空しく、急接近した戸愚呂によって桑原は胸元を貫かれた。

 映像とはいえあまりにも残酷な光景に、少女たちは口を、そして目を覆う。夥しい量の血を吐き、胸元から流れ出ていくのもかまわず、桑原は必死に告げた。

『う、浦飯・・・ゴフッ・・・テメェは・・こんなもんじゃねぇ、ハズだろォ・・・俺をがっかり、させるな、よ・・・』

 桑原はそこまで言って地に倒れ付す。蔵馬が駆け寄って抱き起こすが、その顔をやるせなさで一杯にし、強く唇を噛み締めた。なのは達の顔が青を通り越し、白く色を失う。

『どうだね、少しはやる気になったかね?一人じゃ足りないか。なんなら、もう一人ぐらい死んでもらうかね?』  

 戸愚呂が震える幽助に向けて言葉を吐く。だが、そこで幽助に変化が起こった。立ち上がった彼が、戸愚呂さえ知覚できないほどの速度でその背後に回ったのだ。そしてその身体から、先ほどとは比べ物にならないほどの霊気の風が噴出した。

『情けねぇ・・・仲間一人、助けられねぇよ・・・』

 解放された霊気の大きさに、はやて達は息を呑む。そして戸愚呂は待ちに待った死闘に喜びを滲ませていた。こうなったのはお前も望んでいたことだと、自分に近づきつつある幽助に向かって言う。
 
 だが、幽助はそれを否定した。

『アンタとは違う』

 不動の幽助を戸愚呂が殴り飛ばした。幽助は錐揉み状に吹き飛び、フェンスに激突する。だが、壁を抉るような衝撃もそれほど効いていないことを悟っているのか、彼は戦うように促した。

『俺の殴る力は同じ。だがお前の受けたダメージは小さくなっているはずだ。それが強さでなくてなにかね!?』

 戸愚呂は声高にして叫ぶ。だが、そう問われても幽助は否定を続けた。一人でここまで来れたわけではない、今の強さは仲間たちの存在ありきだと。

 それを聞いた戸愚呂は声を高くして笑った。心底下らないという風に口角を吊り上げる。まだ足りないようだ、と。

 邪悪な笑みを浮かべ、彼は歩き出そうとする。しかし、一瞬で近寄った幽助がその腕を掴んで止めていた。気を放出しながら、独白するように彼は告げる。

『俺は・・・どこかでアンタに憧れてた。小便ちびりそうにビビリながらも、その強さに憧れてたんだ』

 何度幻海に言われても、心のどこかで全てを投げ打っても戸愚呂のような強さを得たいとだけ思っていた、と。だが薄く笑う戸愚呂に向かって、今はもうそうはならないと断言する。

[―――――人はみな、時間と戦わなきゃならない。だが、奴はその戦いから逃げたのさ・・・誇りも、魂も、仲間も全て捨てて・・・お前は間違えるな、幽助。お前は一人じゃない・・・誰のために強くなるのか・・・それを、忘れるな・・・]

 意識の中だからか、幻海の言葉がなのは達にも届く。心のなかで彼女の言葉が強く反響した。迷いが晴れた彼は高らかに叫ぶ。

『俺は捨てねぇ!しがみ付いてでも守るっ!』

 言葉とともに幽助は戸愚呂を吹き飛ばし、同時に霊丸を放った。今までのパワーを大きく超えたその威力に、全員が目を剥く。そして、もう一度指先を構えながら彼は戸愚呂を見据えた。

『次が最後の一発だ。俺の全ての力を、この一発に込める。テメェが魂を捨てた代わりに得た力を全部、全部使って掛かって来い!テメェの全てを壊して、俺が勝つ!』

 幽助が戸愚呂に向けて最後の勝負を告げる。戸愚呂はそれに呼応するようにして、自身のフルパワーである100%中の100%へと変身を遂げた。

 戸愚呂は全てを否定して得た力を肯定し、全てを肯定する幽助を否定する。だが幽助は、全てを捨てたと言う戸愚呂に向け蔑みを込めて言い放った。

『そいつは違うな。逃げたんだよ・・・テメェは逃げたんだ!』

 指先に全ての力を集めていく。絶対に逃げないと、何があっても捨てないと、その強い思いだけが戸愚呂を貫くために咆哮した。

『喰らいやがれ、霊丸――――――ッ!!!』

 お互いが全ての力と信念を一撃に込め、二人は真っ向からぶつかった。幽助が自らの力を限界以上にまで振り絞った霊丸を放ち、戸愚呂がそれを受け止める。霊丸は戸愚呂に握りつぶされてしまったが、力の限界を超えた歪みにより戸愚呂は力尽き、幽助はこれを打ち破った。

 そこで幽助が映像を止め、全員に向き直る。世界が元に戻っても誰も口を利けない。その中、横にいた蔵馬が静かに言葉を発した。

「こうして幽助は戸愚呂を倒し、他の者たちを救うことができた。幸いなことに、戸愚呂も元々殺すつもりがなかったのか、桑原くんも死んでいなかった。けれど、目の前にいた大切な仲間を救えなかった絶望は、あのとき確かにあったんだ」

 蔵馬はわずかに沈んだ声色で告げ、話を続ける。

「これは後でコエンマから聞いた話だけれど、実はこの戸愚呂も大切な存在を失った者だった。奴が人間から妖怪へと転生する前、戸愚呂は自分の弟子や格闘仲間すべてを、妖怪に殺されているんだ。彼の・・・目の前で」

「そ、そんな・・・」

「酷い・・・!」

 キャロとエリオが涙を流しながら、唇を噛み締める。暗い雰囲気が漂う部屋に、蔵馬と幽助の声が響いた。

「仕方のないことだったとはいえ、自分の力を過信し、弟子達を守れなかった罪の意識は、相手を倒して仇を討っても消えなかった。そして苦難の道ばかりを進んだ拷問のような人生の末、後悔を背負いすぎた彼は、力だけを求める存在と自分を偽ってしまった・・・」

「これで分かったか?飛影はどっちかじゃなくて、お前ら二人に対して怒ってたんだよ。目的は違うが、どちらも同じく『力』に固執してること。高町は言ってることとやってることが違ってて、ティアナのことを理解しようとしなかったこと。ティアナは力を求める姿勢が戸愚呂と同じになりそうだったことだ。悲しいことを背負いながら歩いてくお前らがあんまりにもダブってに見えたから、譲らなかったものをお互いに曝け出して理解して欲しかったんだろ。戸愚呂みてぇに、二人が道を違える前にな」

 幽助はなのはを意味深な視線で眺めながら言う。目尻に涙をたたえた彼女を見て、蔵馬が意を決したように近づいた。腰を落として視線をあわせ、正面から見つめあう。

「なのはちゃん・・・飛影は君を渡した後、俺に『自分がした後始末』を任せると言っていた。そして、『これ以降の君のフォロー』も頼む、ってね。この意味が分かるかい?」

「!?―――――まさか・・・ッ!!」

「えっ、なのはっ!?」

 蔵馬の言葉に、なのはが血相を変えて飛び出していく。自動扉にぶつかりながら、彼女の姿は廊下へと消えた。蔵馬はそれを呆然としながら見つめるはやて達を一瞥し、ティアナに向き直った。

「ありがとう幽助。君のお陰で、なんとかなりそうだ」

「へっ、いいってことよ。俺も飛影には返しきれねぇ借りがあるからな・・・っと、そろそろヤベェか。今回はここまでだ。じゃあなお前ら、飛影にはよろしく言っといてくれ!」

 その言葉とともにティアナを覆っていた薄い光の膜が消え、彼女は一瞬ふらつく。スバル達が慌てて駆け寄ると、いつもの彼女の笑みがあった。

「稀有な体験ね、取り憑かれるなんて・・・」

「ティアナちゃん、平気?」

 シャマルの心配そうな声に、「ええ」と笑うティアナ。軽口が叩けるところを見ると、問題はないようだ。全員がほっと息を吐く。

「あとは、あの二人だな」

 桑原がなのはが去っていった方向を見つめる。思うのは、一途な彼女と素直になれない大切な仲間のことだった。



 -Side change-



 いつもは容易く上れる階段に息を切らしながら、なのはは屋上の扉を押し開いた。水面に反射した陽光が視線を遮り、一瞬視界がぼやけるが、すぐに慣れていく。

「飛影くんっ!!」

「!」

 目一杯の声で正面に向かって叫ぶ。彼女の視線の先には、初めて会った時のように黒コートを風になびかせる飛影がいた。驚いているのだろう、振り向いた顔は僅かに強張っていて、目も少し開き気味だ。だがそれは一瞬にして表情から消え、彼はいつもと変わらぬ口調で問いただしてきた。

「何故・・・・貴様がここにいる」

「蔵馬さんから聞いたの!酷いよ!飛影くん、ここから出て行こうとしたでしょう!?」

「チッ・・・あのお喋り狐め」

 なのはの言葉が的を射ていたためか、憮然として顔を背ける。それに胸を掻き毟られるようなざわつきと、鋭い痛みを感じた。震える身体に鞭を打って飛影に近づく。

「やっと、やっと会えたのに・・・・どうしてなの!?」

「答える必要もないと思うが?オレは貴様を完膚なきまでに痛めつけ、そして撃墜した。それも、お前を殺し尽くして釣りがくるほどの力でな。現に貴様はそうして怪我を負っていて、八神を始めとするここのやつらもオレを危険視し始めているだろう。今更、オレをここに引き止める理由などないはずだ」

「っ!」

 淡々と、感情も交えない声色で飛影は述べる。だがその一言で、なのはの心を保っていた何かが焼き切れた。心が一気に膨張し、弾けるようにして流れ出す。

 我慢などできない。感情が怒涛の流れを以って口元に押し寄せ、気づけば大声で叫んでいた。

「理由なんていくらでもあるよっ!私に大切なことを思い出させてくれたのも!私とティアナが仲直りできるように動いてくれたのも!ティアナの気持ちをちゃんと分かることができるように・・・分かり合えるようにしてくれたのも全部・・・全部飛影くんがやってくれたことばかりじゃない!」

 止まらない。止めるつもりもない。

 強い思いはそれゆえに巨大な怒りとなり、声帯を支配する。そして口を突くのは、また同じくらいに悲しさを帯びた叫びだった。

「ティアナが気負わないように、私の過去のことを黙っていてくれたのもそう。飛影くんの言葉を聞かないで意固地になってた時も、ずっと見放さないでいてくれた!それなのに・・・・それなのに、どうして何も言わずに行こうとするの!?」

 感情が言葉だけでは表しきれず、目尻から溢れたしずくが次々とアスファルトへと落ちた。無機質な屋上に斑点を作るたび聞こえないはずの音が響き、日の光がそれを消し去っていく。

 ぽたぽたと零れながらその頬を伝う涙に、飛影は少し驚いたような視線を向けていた。

「あの時みたいに、助けてくれたのがただの気紛れならそれでもいい。でも、こんな・・・こんなこと私は望んでない!私はもう飛影くんのことを忘れるなんてできない!それなのに、いなくなったほうがいいなんて勝手に決めないで!私の気持ちを一人だけで決めて、自分勝手にいなくなろうとしないでッ!」

 叫びを捨て置き、なのはは飛影に駆け寄ろうとする。痛みによるショックと疲労で、身体がふらつかせながらも懸命に。

 だが身体が心に付いていけていない。涙で景色がぼやけていたせいか、床に足を取られる。支えを失ったなのはは、抗うことも出来ずにアスファルトへとその身を投げ出され、

「――――フン。まだ満足に動けん体で、随分と無茶をする」

 一瞬で近寄った飛影に、再び抱きとめられていた。数時間前にもされたばかりだというのに、彼の身体の感触がとても懐かしく感じる。伝わってくる鼓動がとても温かい。

「無理をするな。防御越しで加減したとはいえ、オレの黒龍波を受けたんだ。ただの人間の貴様ではこれ以上の無理は利くまい。体がどうにかなる前に、さっさと戻ってしばらく寝ていろ」

 ぶっきらぼうな気遣いが体を包む。だが、なのはは応じなかった。その手により強く力を込め、涙と共に共に言葉が流れ出ていく。

「嫌・・・今放したら、飛影くん絶対どこかに行っちゃうもん・・・いなくなっちゃ、やだよ・・・もう、どこにも行かないで・・・」

 言いながらさらにコートを握り締める。いやいやといった風に顔を押し付けたなのはは、すすり泣くようにして飛影に縋り付いていた。

 腕を振っただけで軽く払えるような、弱弱しい力。だが、向けられた精一杯の気持ちは、万力のように飛影の心を捉えていた。

 一度たがが外れ、隠していたものが完全に出てしまったからであろう。感情が抑えられなくなってしまった彼女は、幼子のように泣き続ける。飛影は大仰に肩を竦め、鼻を鳴らした。

「―――フン。ガキが・・・甚だ不本意だが安心しろ。一度はオレ自身で決めたことだ。それに貴様の母親との約束もあるからな、今しばらくはその面倒を見ておいてやる。だが、オレを失望させるなよ?次に間違えば今度は火傷では済まん。精々肝に銘じておけ」

「うん・・・うん・・っ・・・ひっく・・・ふぇぇ・・・」

 涙はいまだ止まらず、頬を流れ、しずくがコートへと染みていく。いつもなら怒鳴り声をあげるところだが、今回ばかりは勘弁してやるつもりらしい。ポケットに手を突っ込みながら、呆れたような、しかしどこか優しい顔をしていた。

「泣き虫め。八年経っても、脆いのは変わらんらしい」

「・・・泣き虫で、ヒック・・・いいよ・・・それでも、いい・・・だから・・・だからもう、絶対・・ヒック・・いなく、なった、りしない、で・・・」

「やれやれ・・・子守が必要なのは、スバルやキャロなどよりお前かもしれんな、なのは」

 嗚咽を零し、子供のように泣き続けるなのは。慟哭を零す少女に目をやり、飛影は上へと視線を流した。

 晴れ渡る空と穏やかな陽の光が二人を包み込む。強い潮風がなのはの髪を攫い、さながら絹糸のように空へ躍らせた。

 涙は日の光で消え、声は風に紛れていく。



 ここに、一つの戦いと過去が終わりを告げた。




過去編、幽助と彼の死闘のお話でした。

戦いというものはどの世界にもあります。特に戦争などはマンガでも多く取り上げられるテーマの一つですね。

以前私が受けていた授業の講師はこんなことを言ってました。



「戦争を終わらせる方法は簡単だよ。争ってる国の両方のトップ陣を最前線に並べればいい。そうすればどんな戦争だって一発で終わる」



もっともです。死んでいくのはいつも立場的に弱い者たちが圧倒的に多いんですから、それを盾にして命令しかしない者たちほど嫌な存在はいません。管理局の最高評議会と似たような感じですね。

と、少し重い話になってしまいました。以前こんなテーマでレポートを書かされたことが多かったものですから。

さて、そんなこんなで今回のお話でしたが、いかがでしたでしょうか。

まだまだ文章的に粗も多く駄文なのは目を瞑って頂き、皆様にとって少しでも面白いお話が書けていれば幸いです。

これからも少し授業とか、ゼミの集中講座なんかもあったりするので、更新が遅れ気味になることがあるやもしれませんが、どうかご了承のほどをお願い致します。

それでは、また次回でお会いできることを願って。

再見ツアイツエン

魔法少女リリカルなのはACE
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