第十話完成です!十話は文章が少なかったので早く上げることが出来ました。
この作品も二桁台、そして今回からは地球編に突入いたします。さてさて、一体どんな話になるやら・・・
それでは、第十話テイク・オフであります!
第十話 出張機動六課(導入編) ~ 始動
「出張任務だと?」
「うん、ちょっと唐突だけどね」
朝方。いつものように自主訓練をしてフォワードたちの面倒を見たあと、立ち寄ったブリーフィングルームの中で聞かされた話に、飛影は少し声高に問い返した。その相手、飛影を正面に据えているのは時空管理局の執務官でもあり、ライトニング隊の隊長でもあるフェイトである。
聖王教会からこの意が通達されたのは今朝方であった。遺失物管理部の肩書きを持つ機動六課であるが、ロストロギア関連ではレリック専門で調査を進めている。あまり手を広げすぎても一つに対して薄くなってしまうので、この采配は的確だといえよう。
本来ならこの件も他方に任せるのがセオリーなのだが、時空管理局は万年欠員と呼ばれるほど人員に欠いている。魔法を使えないものでも情報整理やデスクワークで活躍の場が与えられてはいるものの、最終的には魔導師が必要となる場合が多い。
そのバランスがきちんと出来ていない場合、指令が来てもどこも同じような返答をするのだ。六課に仕事が回ってきた理由は一つ。
すなわちここ以外は人手不足である、と。これだけであった。
「任務は正体不明のロストロギアの回収。どれくらいかかるか分からないから、少し現地にとどまる必要があるの。それで、主要メンバーは全員が行くことになったんだ」
「フン、ならお前達だけで行ってくればいいだろう。ロストロギアだのレリックだの、そんなものがどうなろうとオレには何の関わりもないからな。ここにいるとは言ったが、積極的に協力すると言った覚えはない。助力を求めるなら蔵馬か桑原にしろ。やるというのなら勝手に行って、解決なりなんなりしてくればいいことだ」
興味などない、という風に飛影はそっぽを向く。すると、あからさまに落ち込んだ様子のフェイトが顔をずいと寄せてきた。息を感じるほど近くへ来たことを感じ、飛影は一瞬ドキリとなる。だが彼の動揺には気づかない様子で、フェイトはそのまま詰め寄った。
「飛影は来てくれないの?」
「そう言っている」
「私は一緒に行きたいんだ。そのほうが心強いし」
「オレは行かん」
「ホントに、ダメ?私たちとじゃ・・嫌・・・?」
「オイ・・・だから、オレの話をちゃんと・・・」
「・・・・・・・・ぐすっ」
「・・・・・」
椅子に座ったまま彼女は見上げてくる。うるうるうると見つめてくる。その目は水気を帯びており、目尻に抑えきれなくなったものが零れ落ちる寸前であった。ここでもし断ったり突き放したりしようものなら、一気に決壊して飛影を飲み込むだろう。
被害を受けているのはむしろ自分の方だというのに、なんとも理不尽である。いつもながらここは頭痛の種には事欠かない場所であった。無論彼にとっては不都合極まりないが。
「くっ・・・ええいわかった、付いていってやる。ただしオレは手を貸さんし、仕事とやらはそっちで勝手にやれ。何でもかんでもオレ達に頼るようなら、すぐに手を引く。いいな?」
「あ、ありがとう飛影っ!」
「ッ!?フェイト!だから高町共々抱きつくなと、あれほど言っただろうが!さっさと手を離せ!」
いきなり体を引き込まれ、頭ごとがっちり抱きしめられた飛影が怒りの声を上げた。フェイトの肩を押さえてその身体を引き剥がす。
その姿は子供にせがまれるのをいなす父親のようだ。フェイトは寂しそうにしながらもすごすごと引き下がったが、懲りている様子はないことを感じ取った飛影はさらに不機嫌になった。
任務は今から二時間後に集合して行くのだという。それを聞くと飛影はフェイトから離れ、自分の部屋へと歩いていった。
(やれやれ、飛影があんなに慌てているのは久しぶりに見ましたよ)
その部屋の脇、壁の影に潜んでいたもの達が去っていく彼の後姿を見つめていた。メンバーは蔵馬と桑原を始めとして、なのはや新人四人がいた。ヴィータやシャマルにシグナム、それにはやての姿もある。
女性陣の大半が羨ましそうな視線を注ぐ中、桑原が声を潜めて蔵馬の独り言に答えた。
(そうだな。飛影のヤツ、フェイトちゃん相手にどうしていいか分かんねぇみたいだったぜ。意外な弱点発見だな)
にしし、と笑みを零す戦友に蔵馬は同感ですね、と苦笑した。実際、あんな彼を見ることになったのはこっちに来てからだ。今までを思えば信じられないぐらいであるが、二人にとってはいい傾向であった。
シグナムが彼の去っていた方向を見やる。
(行ってしまったぞ)
(お兄ちゃん、怒ってましたね・・・)
キャロが小声で話しながら周りを見渡す。念話をしないのは蔵馬たちがまだ使えないからだ。『飛影を交えて、そのうち使えるようにしておくよ』とは蔵馬の弁である。実際、盗聴とかに気をつければこれほど便利な魔法はない。
少し蛇足的な話になるのだが、キャロのお兄ちゃん発言、あるいはエリオの兄さんという呼び名を初めて聞いたのは数日前だ。そのとき蔵馬達は驚きのあまり硬直してしまった。
そして「犯罪はいけませんよ」と零した蔵馬に、飛影が怒鳴りつけていたのは記憶に新しい。実際には、蔵馬は飛影にとって兄妹関連の話題がどれほど重いのかを知っていたので、彼がそれを許容したことを驚いていたのだが。
話を戻そう。蔵馬はキャロの言葉ににこりと笑って口を開いた。
(本当に嫌なら、どんなに言われても飛影は首を縦には振らない。彼なりに思うところはあったみたいだし、何も心配ないよ)
(ホーント素直じゃねぇからな、あのチビ助は。なんだかんだ言っても、皆がけっこう心配な癖によ)
呆れたような声をしながらも、そこには信頼感がはっきりと浮き出ている。彼の心情がちゃんと分かっていることに六課メンバーは少しの羨ましさを覚えた。
(前になのはさんに抱きつかれた時もあんな感じでしたしね。兄さんは女の人が苦手なんでしょうか?)
(とりあえず鈍感なことは確かだな。アレ見てれば普通にわかんだろ・・・)
(・・・確かに、ねぇ・・・)
飛影が去った方向を見つめているフェイトを指して、ヴィータとシャマルが溜息を吐いた。全員がそれに首肯する。
フェイトははぁ、と息を零しながら、その目にいまだ熱っぽい視線を宿していた。右手は胸の前で握られ、左手は彼が掴んだ右腕の辺りを擦っている。
どこからどう見ても、恋する女の子そのものであった。彼女自身明言はしていないが、これでは分からないというほうがおかしい。まあ、彼女の親友もまた然りであるが。
(飛影くん、モテてる言うとったやん。それとも気づいとって無視しとるだけか?)
(いえ、飛影は本当に気づいていないんだと思いますよ。彼は敵意や殺気といったものには非常に敏感ですが、好意をあんなに真っ直ぐ向けられたことは片手で数えるほどもありませんから。飛影に何か言いたいのなら、率直に述べることをお勧めします)
蔵馬の進言を受け、全員がおおと納得する。確かにそんな節はあったから合点がいったのだろう。少し不満そうに頬を膨らましていたなのはやシャマル、ジト目をしていたヴィータやスバルがぐっと拳を握り締めた。蔵馬はそれを見て再び苦笑いを浮かべる。
(飛影は好かれてるってことか?確かにフェイトちゃんはやけに飛影にかまってんなー、とは思ってたけどよ)
(ここにも結構鈍感な人が・・・でも敵意とかって・・・飛影さんは一体どんな人生を歩んできたんですか?いくら元盗賊だって言っても、ちょっと行き過ぎのような気がするんですけれど・・・・)
ティアナの言葉に全員が蔵馬と桑原の方を向いた。飛影から少しばかり聞いたことはあったが、出生以降の詳しい経緯は、盗賊をやっていたという一点を除き、ほぼ全てがぼかされていたからである。
二人は苦笑するとそこから立ち上がった。蔵馬が全員を見据える。
「こればっかりは俺から話していいことじゃない。彼が話すまで待つしかないよ。といっても、俺が知ってることもそれほど多くはないかな」
「ま、俺もあんま知らねぇしな。コエンマからちっとばかし聞きかじってるだけだからよ」
軽い口調だったが、全員が理解した。これは興味本位で聞いていいことではない、と。それを汲み取ったのを確認したのか、二人は廊下へと踏み出していった。
飛影のことに関しては未知なこと、不確定なことが多い。だが、彼が信用に足る人物であることは理解していた。
知りたいとは思う。だが、それが本当に正しいことなのだろうかと、心が二の足を踏んでしまう。残された面々は、しばらくそのままホールに立ち尽くしていた。
-Side change-
任務は唐突だったが、出発に支障はなかった。ヘリに乗った一行は転送ポートに向けて、一路空の旅と洒落込んでいた。その道すがらヘリの中では少女たちの会話に花が咲く。
「第97管理外世界、通称『地球』・・・ここがなのはさん達の故郷なんですね」
「そうだよ。私やはやてちゃんの生まれたところで、フェイトちゃんもしばらく暮らしてたんだ」
なのはが懐かしさを噛み締めるようにして笑う。数日前故郷のことが話題になったところでこの任務が届いたことに、エリオを始めフォワード陣は感慨深いものを感じていた。スバルが隣に座った蔵馬の方を向く。
「そういえば、蔵馬さんたちの故郷も地球って名前なんですよね?同じ世界の出身だったんですか?」
「いや、俺たちの世界は確かに地球だけどこことは違う、断層がずれた位相世界の地球なんだ。分かりやすく言えば平行世界といったところかな。魔法はないし、データで見る限りは共通点も多いしね」
蔵馬はデータを端末で呼び出しながら言った。彼はこちらの世界の順応が早く、もうはやてやリィンの手伝いでその実力を発揮し始めていた。意外なことに桑原も有能で重宝されている。
「そこに魔界、霊界、人間界という三つの世界が薄い次元の壁を隔てて点在し、一つの世界を形作っている。魔法はないが、此方の世界には人間界が最も近いな。魔界は比べるだけ無駄だ、レベルが違いすぎる」
飛影が蔵馬の台詞の続きを口にする。桑原がそれに同調するように肩を竦め、まったくだというふうに両手を挙げた。
「まーな。毎度毎度思うが、あそこは非常識が服着てスクワットしてるようなトコだ。前回は浦飯がどーしてもって言うから、四年も地獄を見ながらしごかれてトーナメントに出てやったが、俺はもう御免だぜ。軀とか黄泉とか、S級最上位のバケモンだらけだからな。あんなん相手にしてたら、命がいくつあっても足りゃしねぇ」
「「「「S級?」」」」
「「「「トーナメント?」」」」
桑原の言葉に全員が首を傾げる。だがそれを追求するより早くヘリが着陸態勢に入り、お喋りはそこで打ち切りとなった。
シートベルトを止める。リィンもはやての横に座っていた。その姿はいつもの妖精サイズではなく、普通の女の子サイズにまとまっている。容姿はエリオとキャロと同年代に見えた。というか、戦闘力はともかく性格は彼らより幼いのではなかろうか。
蛇足だが、先ほどそれを指摘した飛影と桑原はというと。
『れでぃに対して失礼なのですぅ―――!』
と、先ほどまで涙目をしたリィンに上目遣いで説教を受けるという不思議な体験をしている。そんなことをしているうちに振動は止み、六課のメンバーはヘリを降りた。
「私と副隊長は寄るところがあるから、先に行っといてな」
そう言うとはやてはシグナムたちを連れ、別のドアに消えていく。それを見届けてから、なのはは全員を見渡して笑顔を作った。
「じゃ、私たちは先に現地入りしておこうね。いろいろと準備もあるし、その方が効率的だしね。飛影くん達もいい?」
なのはの言葉に飛影はフンと唸って視線を背けた。蔵馬と桑原がそれに苦笑と呆れを返し、彼女に問題ないことを告げる。フェイト達もそれ確認すると、転送ポートへと歩き出した。
夏は勝負の季節って言いますけど、ホントですねぇ。受験生では夏を制するものは受験を制すとよく説教臭く言われました。
・・・作者は卒論を書かなければならないのでその件なんですけど。はぁ、先は長いですよ。
っと、愚痴はこれぐらいにして小説関係に行きましょう。
って、地球編って言いながらまだ地球にすら到着していない・・・アリサやすずかとの対面を楽しみにしてくださっていた皆様には申し訳ありません!
次回は必ず登場させますので、どうかそこまで今しばらくのご辛抱をお願い致します。
さて、次回にまたお会いできることを願って今回はこのへんで。
では再見!←(この締め、最近気に入ってます:笑)
魔法少女リリカルなのはACE
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