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第36話 『胸の痛み』
 リンディの一時解散宣言で、なつき達は彼女たちの住んでいる世界に帰還する事となった。

 クロノはリンディと何やら話をしている。どうやら、今後の対応に関して簡単な打ち合わせをしているらしい。クロノは、手持ち無沙汰にしている少女達に気がついて、彼は先に転送装置まで行っているように指示した。

 その場所は、この部屋までエレベータを昇ったりはしたものの、ほぼ一本道だったから、べつに迷う事もない。それにユーノがしっかりと此処までの道筋を覚えているし。だからなつき達はクロノの言葉にうなずいてこの部屋から退出しようとした。

 そんな彼女が突然開いたドアに入り込んできた人間と正面からぶつかってしまった。

 「おっと」

 「ひゃう」

 なつきは驚いた。まさか扉の向こうに人がいるとは思わなかったからだ。思わずぶつけた鼻をおさえて、ちょっぴりと涙を浮かべた。

 「いたたたた……」

 「ははは、申し訳ないな。いきなり君が出てくるとは思わなかったものだからな」

 「いえいえ、こちらこそ不注意でした。申し訳ありません」

 ぺこりと頭を下げて、なつきは顔を上げた。そして一瞬不思議そうな顔をした。

 見た事もない顔だった……訳ではなかったが。記憶の奥にある何かを揺さぶられ、胸の奥を焼きごてで焼くような感覚。ほんの瞬間になつきはぎゅっと胸を押さえてしまった。

 「少将閣下。ご気分はもうよろしいので?」

 リンディがその男に声をかけた。

 「少将?」

 なつきが首をかしげる。

 「ああ、すまない。もう大丈夫だが、どうやら心配をかけたようだな。そして、こちらが、ロストロギアの探索を現地にて行なっていた勇敢なお嬢さん達かな?」

 少将と呼ばれた男、ヒューゴ・エクストレイルがなのは達を指差した。

 リンディがこくりと頷くと、ヒューゴがその血色のよくない顔に笑みを浮かべた。そして大げさな身振りで両腕を大きく広げてみせた。どうやら歓迎の意を表しているようである。

 「そうか!私の名前はヒューゴ・エクストレイルだ。時空管理局の技術局の少将を勤めている」

 「しょうしょう?」

 なのはが首をかしげた。どうやら言葉の意味がよくわからなかったらしい。そこになつきが助けを出す。

 「将軍位のひとつですよ。とりあえず大佐の一つ上です」

 「えっと、えっと。ふぇーーーーー!?それってものすごく偉い人なんじゃぁ!?」

 「ええ、勿論とてもとても偉い人ですよ」

 ちなみに、リンディの階級は提督である。提督とは海軍、この場合は時空管理局の次元航行部隊の事をさすが、その将官位を持つ人間の事である。リンディはつまりヒューゴと階級的には同位である。ただ命令系統においてはヒューゴのほうが上位に位置しているが。

 「ふふふ、そんな事は無い。非才の身ではあるが、まぁ、それなりに責任ある立場につかせてもらっている」

 そうは言っても、なつきの言葉に、ヒューゴの顔には誇らしげな表情がありありと浮かんでいる。そんな彼の背後でリンディたちはこっそり苦笑を漏らしているのだが。

 「さて、勇敢なお嬢さんたちの名前をぜひとも聞かせてもらえないかな?」

 ヒューゴのその言葉に、なつきとなのは、それにユーノは顔を見合わせた。そしてリンディのほうを見ると、彼女は首を上下に振って見せた。

 「僕はユーノ・スクライアです」

 「君がユーノ君か!スクライアの一族の高名はかねがね聞いている」

 「彼が、今回のロストロギア、ジュエルシードの発掘者のようです」

 リンディが補足説明を加えると、ヒューゴはわざとらしく顔を左右に振った。

 「そうか!そうか!それはご苦労だった、ご苦労だったな!それでは、先の大破したと言う貨物輸送船は君の一族の人間が乗っていたのだな?」

 「はい」

 「そうか……それはなんとも痛ましい事だったな!しかし君はそのロストロギアを一人で探す為に、管理外世界に渡ったのだったな。なんと勇敢なのだ、なんと強い責任感を持っているんだ。うんうん、一族の方々の事は確かに残念であったが、君のような若者がいて、スクライアの一族は本当に誇らしいであろう!」

 「あ、いや……ありがとうございます」

 「それで、そちらの君は?」

 「あ、はい!高町なのはです!」

 「ふむ、現地人のとても優秀な魔導士とは君の事かね!」

 「えと、優秀だなんてそんな……」

 「いやいや、そんな照れる必要はない!君とあの敵の魔導士の戦いをモニターで見せてもらっていたが、実に君の力はすばらしいものだ!ぜひともこの管理局にスカウトしたいぐらいだ!」

 「そんな……事はありません」

 「なに、謙遜する事はない。君なら管理局に入ってもすぐに頭角を現すに違いない。今すぐにと言うつもりもないが考えておいてはくれないかね」

 「……はい」

 「それから……」

 ヒューゴがなつきを見た。確かににこやかな笑みは浮かべていたが、なのはやユーノを見ているときとは違い、その目はどこか値踏みでもしているかの様な視線だった。

 「君の名前は?」

 「あ、はい。石田なつきと……いいます」

 え?っとなのはが頭の上にはてなマークを浮かべた。

 なつきの様子がどこかおかしい。

 どこかボーっとした様子でヒューゴを見ていた……いや見つめていた。

 返事をする声もどこか調子が上ずっていた。

 「ふむ、君はどうやら、ユーノ君やなのは君とは親しい間柄のようだが、君も魔導士なのかね?」

 「はい。非力ではありますが魔導士の端くれではあります」

 「そうか。なるほど、では、君もなのは君と一緒にこの事件に協力をしてくれるのかね?」

 「はい、それは……」

 「少将、彼女達には、我々に協力をしていただけるかどうか検討してくれるように要請をしました。しかし彼女達にも現地での生活があります。そこで、二日程検討してもらう時間を持ちました。正式な回答はその後もらう事になっています」

 性急に回答を求めたヒューゴの言葉になつきとなのはが困ったような表情を浮かべた。そんな彼女達の表情を見てか、先程、リンディとなつき達が約束した内容をクロノが告げた。

 「ふむん、しかしな、クロノ執務官。相手は管理外世界に流出してしまったロストロギアだ。あまりのんびりしていてはこの世界に甚大な被害を及ぼす事になる。そうなってしまっては元も子もあるまい?」

 「されど、急いては事を仕損じるとも言います。確かに現地の優秀な魔導士の彼女達に協力をもらえれば大いなる助力になります。しかしながら我々アースラのスタッフとて優秀な人材の集まりです。ただのんびりとまっている訳ではありません。もともと民間である彼女達には危険な任務です。一般人を巻き込んでいい事例ではありません。それとも少将殿は我々の実力をお疑いか?」

 「口が過ぎるわよ、クロノ」

 リンディがクロノの言葉を窘める。勿論、リンディからしてもヒューゴの言葉は腹立たしい。確かになのはの魔力はクロノに匹敵するし、ユーノの力も優れている。アースラのスタッフにはいないレベルの水準にあるのは間違いがない。なつきの実力は未知数である事は差し置いても、なのは達の協力は確かにリンディも喉から手が出るほどに欲しいという状態だ。

 確かに、なつき達は回答を保留している。前向きに検討を進めてくれる事は間違いないのだが、二日もあれば考えを変えてしまう可能性もある。かといって、強制もしたくない。クロノの言うとおり、これは非常に危険な任務になるに違いないのだから。

 でもクロノの言葉も無視する訳にはいかない。できるかぎり民間人を巻き込みたくないのでああいった台詞になってしまっているが、実際にはなのはやなつきのことを慮っているのは間違いがないのだ。彼女の息子は素直ではない。

 さて、どうしようかしらと、リンディが思案しようとしていた時、なつきが手を上げた。

 「あの」

 「なあに、なつきさん」

 まだどこか、ぽぅっとした表情のままだったが、彼女の言葉ははっきりと明確なものだった。

 「大丈夫です。二日程お時間をもらったのは周囲の人間を説得する為です。あの、その……ぜひとも前向きに考えさせてください」

 「……ほんとうにいいの?」

 「はい、かまいません」

 「本当にいいのね?」

 だが、リンディの問い掛けになつきが答えるよりも早く、ヒューゴがなつきの手をとった。

 「そうか!引き受けてくれるか!」

 ヒューゴが、なつきよりも一回り大きな大人の男性の手で、ぎゅっと彼女の手を握る。

 なつきは、端から見れば恥ずかしそうに、視線を床に落とした。

 「はい……私に何が出来るのかはわかりませんが……出来る限りのことはしたいと思います」

 「そうか、すばらしい事だな!ありがたい事でもある!君達はどうするのかね?」

 「え、あ、えっと。なつきちゃんがいいって言うなら私達も協力します」

 「あ、はい。僕もかまいません。僕も、元々そのつもりでしたし」

 「そうか!うん、なんとすばらしい、なんと立派な子供たちだ!」

 にこやかに笑みを浮かべるヒューゴとは対照的に、リンディとクロノの表情は浮かなかった。

 「あの、それでも、お約束の二日は頂きたいのですが。保護者や友人への事情説明はしないと心配をかけますので」

 「ああ、勿論、いいとも、いいとも!よくよくご両親や友人と話してくるといい。必要ならば、リンディ提督にも説明に行かせよう」

 「はい、もしもの時には御足労を願うかもしれません」

 「いいとも、承知した。かまわないね、リンディ提督」

 「はい、それはかまいませんが……」

 「はっはっは!おっと、そろそろ時間のようだな。いつまでも引き止めてしまっては申し訳ない。それではクロノ執務官。彼らの見送りをよろしく頼むよ!」

 「はい、承知いたしました」

 上機嫌な様子のヒューゴに対し、目を閉じ、小さなため息を吐くクロノだった。


 そして、転送装置のあるエリアまでクロノが彼女達を案内している間、ずっと彼女たちは無言だった。

 そして転送装置の前になつき達は立ち、クロノと正面から向き合った。

 なつきの目にはむっとした様子のクロノが映っている。

 「……なんか、文句でも言いたげですね」

 「いや、そのつもりはないが……何か釈然としないだけだ」

 「あはは、それだけで十分、クロノ君が私に文句を言いたいという事は十分に理解できますよ」

 「だったら、何故!」

 「まぁ、もともと、貴方達に協力するつもりではいましたからね。二日欲しいというのは、本当に友人や保護者たちに説明する時間が欲しかっただけですよ」

 「本当だな?」

 「少なくとも嘘ではありません」

 「……真実を十分には話していないと捉えていいんだな、その台詞は」

 「さて、どうでしょうか」

 「まったく……君と話していると、ものすごく疲れるよ」
 
 肩をすくめるクロノの横のモニタにOKのランプが点灯した。

 「さて、転送装置の準備も整ったようだ。送り返す場所は元の場所でいいんだね?」

 「ええ、かまいませんね?」

 なつきがなのはとユーノに確認をとる。

 「そうだね、いいよね、なのは」

 「うん」

 「だそうです、それではよろしくお願いします」

 「了解だ。それから、迎えは二日後の現地時間の15時でいいかい?時間の変更が必要ならば、僕か提督に念話か携帯端末で教えてくれ。連絡先は登録したかい?」

 「はい、わかりました」

 「それじゃぁ……」

 と、クロノが艦橋に転送魔法陣を起動させるための合図を送ろうとした時。

 「あ、まってください」

 なつきが彼を止めた。

 「なんだ、まだなにか用があったのか?」

 「いえいえ、大したことはないのですけど」

 そう言いながら、なつきはとことこと、クロノの側に近寄ってきた。

 べつに不穏な気配は感じないものの、何かよからぬことでもたくらんでいるのではなかろうかと、一瞬たじろいだクロノのその手を、なつきはぎゅっと握り締めた。

 「な、なんだ!?」

 「そういえば、謝罪とお礼をまだ言っていなかったと思いまして」

 「謝罪と礼だって?」

 「はい」

 なつきがにこりと笑みを浮かべた。むむっと唸り声を上げたクロノはそんな彼女の顔から自分の視線を背けた。顔がちょっぴり赤い。

 「謝罪は先程してもらったはずだが」

 「いえいえ、私はあなたにちゃんとした謝罪をしていません。『謝罪します』等と言う言葉が何の正式な謝罪となりましょうか?」

 なつきはぺこりとクロノに頭を下げた。

 「ごめんなさい、それとありがとうございます」

 「あ、ああ、ふむ……謝罪は……まぁ、僕にぶつかってきた事なのだろうけど、礼を言われる覚えはないんだが」

 「何を言っていますか。私があなたに衝突する時、あなたは私に衝突の衝撃を緩和する魔法をかけてくれました。お蔭でたいした怪我をすることはありませんでした。と、言うか、ほぼ無傷な訳ですけど。あるいは、大怪我ではすまなかった可能性も十分にあった訳です。その事に対し、命の恩人に対し、礼を言わないのは、人間としてどうでしょうか」

 「正直なところ、あの時、防御魔法を使わなければ大怪我をしていたのは、僕もなんだが」

 「そんなものは関係ありません。結果的に私は五体満足でこの場に立っているのですから。だから、あなたに『ありがとうございます』です」

 クロノはぽりぽりと空いているほうの手で頬をかいた。

 「ま、まぁ……君がそれでいいなら、その謝罪と礼をありがたく受けることにしよう」

 「はい!」

 「まったく、素直なんだかそうじゃないんだか……」

 照れ隠しにそんなことを呟くクロノ。

 そんな彼の様子を、リンディとエイミィは物陰に隠れてニヤニヤとした笑みを浮かべながらこっそりと盗み見をしていた。そして後になって、クロノが盛大に二人にからかわれるのは、また別の話である。


 転送の魔法陣の光が消え去り、なつき達が目を開けると、彼女となのは、そしてユーノは、彼らがアースラへ向かう前にいた、あの海鳴の臨海公園に立っていた。

 すでに日は西に傾いており、空が赤く染まっている。公園の時計の針は17時半をさしていた。

 「戻ってきましたか」

 「そうだね」

 なつきの言葉にユーノは頷いた。

 「はぁ……」

 そしてなのはは大きく息を吐いた。なぜならまず一つはアースラで起こった出来事に緊張しっぱなしだった事があげられる。話し相手はリンディのような大人であったし、クロノとなつきの会話はとても難しかった。ユーノが何度か噛み砕いて話してくれたためにその内容は完全に理解はしている。だからこそ事態の大変さはなのはも理解しているのだ。だからこそ、彼女の精神的な疲労はとても大きい。

 同世代の子供と比較すれば、大人びた精神構造を持つこの少女もやはり、まだまだ子供なのだ。

 だから、ユーノはいたわる様になのはに声をかけた。

 「今日は疲れちゃったし、もう遅いからそろそろかえろっか」

 「うん!」

 「なつきも、色々びっくりする事はあったけど、今日はもう帰った方がいいよ」

 空から落ちてきた事だとか、彼女の事を忘れていた事だとか。色々と聞きたい事は山積みだったけど、それでも、今日は彼女もだいぶ疲れているはずである。

 明日、もう一度彼女と会って、詳しいことを聞けばいいだろうと、ユーノは結論をつけた。なのはもうんうん頷いている。

 だけれども。

 ユーノの言葉になつきは反応をしない。

 その手で胸を押さえたまま、微動だにしなかった。

 「なつき?」

 「……」

 「えと、なつき、だいじょうぶ?」

 「……ねぇ、ユーノ君」

 声が僅かに震えている。なにやらなつきの様子がおかしい。

 「なんだい?」

 「近くにサーチャーは来ていますか?」

 ユーノはなつきの言葉に首を傾けた。サーチャーといえば、魔導士達の使う探査端末の事である。この場合はおそらくアースラの放ったサーチャーの事をさすのだろう。

 ユーノはほんの少しの魔力を開放し、周辺に存在する魔力の存在を探した。少なくとも彼らの周辺にサーチャーは存在しなかった。

 だから、彼は首を左右に振った。

 「ううん、周囲にサーチャーの気配はないよ」

 彼の探索魔法から逃れる事のできるほどの隠密生の高いものが近くに潜んでいれば話は別だが。

 「そうですか」

 小さな声でなつきが答えた。

 突然、なつきが片手で口を押さえた。

 そして公園の茂みの中へと走りこんでいく。

 あまりの当然の出来事に、二人は呆然と立ち尽くしていた。しかし、彼女が走りこんだ茂みの置くから嗚咽のような声が聞こえてくる。それはあまり尋常ではない様子に思えた。

 「ちょ、ちょっと!」

 「なつきちゃん!?」

 二人は慌てて彼女を追いかけた。二人がなつきの姿を発見した時には、なつきは両膝をがっくりと地面につけ、両手を周囲の樹に着いて身体を支えながら、ただただ嘔吐を繰り返す彼女の姿だった。

 「な、なつきちゃん!大丈夫!?」

 慌ててなのはが駆け寄って彼女の背中をさすった。胃液のすっぱい匂いが僅かになのはの鼻腔に入り込んでくる。

 繰り返し、繰り返し、しゃくりあげるように、胃の中のものが空っぽになっても、胃液すら、胃の中から追い出すように、なつきは嘔吐を続けていた。

 嘔吐しては、荒い息を繰り返す。そんなことを何度も繰り返した。

 やがて、何も吐き出すものがなくなったのか、ふぅふぅと息を吐き出しながら、目を閉じた。

 「な、なつきちゃん!そ、そうだ!誰か人を呼んで……」

 「待ちなさい」

 踵を返して、人を呼んでこようと駆け出そうとしたなのはの手を、なつきは嘔吐物で汚れていない方の手で捕まえた。

 「大丈夫です……もう大丈夫」

 「でも、でも!」

 なつきの顔は誰が見ても心配になるほど真っ青であった。そんな彼女を見てなのはの目に涙が浮かぶ。

 「本当に、もう大丈夫ですよ……ほんのちょっと、転送に酔っただけです」

 すなわち、次元空間の間を転送した時に気分が悪くなったと、なつきは言う。

 確かにありえない事ではない。転送の時の無重力にも似た感覚に、気分が悪くなる人間がいない事ないことをユーノは知っている。

 けれど、本当だろうか?

 一度は、この世界からアースラへと、彼女達の体が転送されたはずだ。その時、なつきはけろりとした表情を浮かべていたはずだった。

 「ほんとうに?」

 「大丈夫ですよ、なのは。よっと……ありゃ?」

 立ち上がろうとしたなつきがよろりとよろめいた。そんな彼女をユーノが慌てて支える。

 「ありゃま、ユーノ君。駄目ですよ、汚れちゃいますよ?」

 そう言うなつきの手や服は、確かに彼女自身の吐き出したもので汚れていた。けれども、そんなことを気にして友人を見捨てる事ができるユーノ達ではない。ユーノとは逆をなのはが支えた。

 「なのはまで……本当に私は大丈夫ですってば」

 「にゃはははは……とてもそうは見えないかな」

 「まったく、いつも君は一人で頑張ろうとするんだから。こんな時ぐらい誰かを頼っても、バチは当たらないと思うよ?」

 ユーノの言葉になのはがうんうんと首を振った。

 「まったく、こんな時ばっかりかっこいいんですから……惚れちゃいますよ?」

 なつきの言葉に、一瞬二人が硬直する。そして……。

 「ふ、ふぇーーーーーーー!?」

 「な、ええーーーーーーーー!?」

 「勿論、冗談ですけどね」

 叫び声をあげたなのはが、なーんだとがっくり肩を下げる。

 ユーノも引きつった笑みを浮かべて「あ、あはははは……まったく、君はいつでも君なんだね」と、なんだか気の抜けたようなため息をついてみせた。

 「そうですね。どんな時でも私は、こんな私であるようですね。まったく……反吐が出そうになる時がありますね……」

 最後の方は隣にいるユーノにすら聞こえないほどの小さな声、あるいは心の中の声であったのかもしれない。

 彼女は、ユーノの方につかまりながら、手洗い場のほうへと歩いていく。

 そして、胸の奥にいまだくすぶり続ける、その痛みに、なのはやユーノたちには気がつかれないように、ほんの僅かに顔をしかめるのだった。


 その後、手洗い場で手足や服の汚れを落とした彼女は、なのはやユーノの肩を借りてひとまずの帰宅を果たすのだった。
というわけで、珍しく弱気ななつきちゃんでした。
でも、やっと人間らしいところも見れたのではないのでしょうか。

しかし、皆彼女が空から落ちてきた事をとりあえず、無視しているようです。
まぁ、突っ込んではいけないと思っているのかもしれません。

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